次の日、S.O.N.G.はある程度深淵の竜宮の泥吸い上げ作業が終わったため装者もそうでになって、賢者の石への対抗策「愚者の石」の探索をしていた。
作業スタッフたちもタブレットや探索用の端末を持って中腰で泥と睨めっこしている。
「ん~…」
タブレットを睨みながら唸る切歌。
すると端末からピピピ…とアラームが鳴る。お目当てのものが見つかったという合図だ。
「およっ!?」
それを聞いて彼女は肩をわなわなとさせる。ついに来たのだ、この歓喜の瞬間が。
調は爆発寸前な切歌を見て何とか落ち着かせようと声をかける。
「よし切ちゃん…まずは落ち着こう……?」
「お…お…おっ……およーっ!!!!」
調の努力の甲斐もなく切歌が思いっきり泥に向かって手を突っ込む。すると泥が跳ねて思いっきり調の顔に直撃する。
「デースッ!!」
切歌はそんな掛け声と共に指につまんだ愚者の石を天高く掲げた。
エルフナインはそんな切歌に目ざとく気が付き声をかける。
「はっ…見せてくださーい!」
しかし石に集中しすぎて足元に注意を払っておらず泥に足を取られてしまう。
「うひゃああああっ…!」
彼女は情けない叫び声をあげてすっころんで泥へとダイブ―
「大丈夫?嬉しいのは分かるけど気を付けてね」
しなかった。直前で響がエルフナインの服の首根っこを掴んで倒れさせなかったのだ。杖を突いているのでこうなるのは仕方ない。
「……あ、ありがとうございます…」
エルフナインは響に触れられると何故か脳の片隅がどうもうずくのだ。忘れてはいけない何かが思い出せと叫ぶような。
気を取り直して切歌のもとに着いたエルフナインは相手の持つ石を預かりそれを見て言う。
「そうです!これが賢者の石に抗うボクたちの切り札…愚者の石です!」
◎
愚者の石の石が発見された事で後片付けは大人たちに任せて、装者たちは一足早く休憩に入った。海風で体や髪がべた付いたためシャワーで体を浄化だ。
「かぁ~っ……五臓六腑に染み渡るデースっ……!」
「さすが石の発見者は言う事が違う」
切歌はシャワーを堪能するが、調は泥をぶつけられたからなのか声に棘がある。
響がふと思い出したといった感じで声を出す。
「そういやエルフナインちゃんの烏の行水っぷりは凄かったね」
「泥にまみれた奇跡を輝かせるために」
マリアは今頃急ピッチで作業をするエルフナインを応援する。
すると全員がシャワー浴び終わり脱水場に移動をして体を拭いたり髪を乾かし始める。
「うーっ気持ちいいデス…」
「あまり頭を動かさないで」
切歌は調にドライヤーをかけてもらって気持ちよさそうに身をよじらせる。
響もその隣に座って自分の髪にドライヤーをかけようとする。するとクリスが響に声をかける。
「あたしがやってやるよ」
「クリスちゃん?」
突然の提案に驚く響。
クリスは気質の面でも、また年上としてそうであろうとしているのもあるが、面倒見がいい性格なのは知っているが、ここまでしてもらった事は前の世界を含めてなかったからだ。
クリスは驚いている響を見ると提案の理由を話す。
「まだ体だるいんだろ?遠慮すんなって」
「え、あ、うん…お願いします……」
響は別段おかしい会話でも展開でもないのに何かが彼女のセンサーに触れたと感じた。
ちなみにいつもなら未来がいるので手伝ってくれるのだが、あいにく愚者の石の組み込み作業を手伝っているのでいないのだ。
「対抗手段、対消滅バリア…愚者の石の特性で賢者の石を無効化すれば……」
「この手に勝機を握られる」
翼とマリアはこれからの算段を口にする。
S.O.N.G.のスタッフの一人が桶とシャンプーを持って脱水場に入ってくる。そろそろ装者達が出るだろうと思って入ってきたのだろうか。
彼女はクリスを見つけると声をかける。
「あっ…雪音さん」
「ん?」
呼ばれてクリスは首だけを相手の方へ向ける。
彼女は要件を話す。
「雪音さんあてに外務省経由で連絡が来ていたわ」
「連絡…?…あたしにか?」
クリスは身に覚えのない事なので懐疑的な表情をしてしまう。
相手は具体的な内容を話す。
「……えっと……バルベルデの兄弟が帰国前に面会を求めているんだけど……」
「っ…」
その気まずげな言葉に響に向けていたドライヤーが揺らいでしまう。
「わりぃ…それなしで頼む……」
クリスは目を俯かせて拒否の意を伝える。そして響の髪を乾かす作業に戻る。
「バルベルデ…?」
調はバルベルデという単語に反応したが具体的な内容がよく分からず、クリスが肩を震わせた理由が分からなかった。
響はそれに黙り込み、翼はじっとクリスを見ている。
◎
装者達六人は割り当てられてたシャワー室の時間が過ぎたため部屋の外に出て廊下を歩いていた。
先頭には翼とクリスがいて、その後ろに響が杖を突きながら歩く形だ。気を使ってくれているのか全員が響の歩く速度に合わせている。
「雪音……」
「過去は過去…選択の結果は覆らない……」
翼の伝えたいことに気が付いたのかクリスは強硬な態度を取った。
「だからとて目を背け続けたら今なすべき事すらおざなりになるぞ」
翼は心配をしてそう声をかけるのだが、それを聞いた途端クリスが若干だが早歩きになり翼に背を向ける形となる。よく見ると拳を強く握って肩が強張っている。強そうなのに弱々しそうな後姿だった。
「ご忠節が痛み入るね」
そんな心配を振り切ろうとニヒルに言い切る。
このままではいけないと翼も食い下がろうとする。
「雪音お前には……」
「うむ……全員揃っているようだな……」
そんなやり取りをしていると施設の廊下の傍に備え付けれられている休憩用のスペースにある男性が座っていた。
弦十郎はソファーのひとつに座って装者達に声をかける。
「あ、師匠じゃないですか」
響は相手の言葉に応える。そろそろ来るだろうなとは思っていたが。
彼は声をかけたその要件について立ち上がって言う。
「全員トレーニングルームに集合だ」
『はぁ…?』
響以外の五人はその言葉の真意を図りかねる。トレーニングとは自分たちの未熟な部分を埋めるために行うもの、ここに来て自分たちに何が足りないのかそれが分からない。
クリスは苛立ったようにわなわなとさせて噛みつく。
「トレーニングって…おっさん!…愚者の石が見つかった今、今更が過ぎんぞっ!」
「これが映画だったら…高々石ころ一つでハッピーエンドになるはずが無かろう!」
「なんだよそれっ!」
弦十郎は愚者の石で賢者の石の力を対消滅してなお今のままでは勝てないと遠まわしに言った。
当然クリスはその言葉に抜剣さえ出来れば勝てると算段を立てているため、納得できるはずもなく言い返す。力が無いと言われた事に苛立っただけでなく、先ほどまでバルベルデでの出来事を蒸し返されて余裕がなくなった事もある。
弦十郎はガシッと右拳を左手に当てて言い放つ。
「御託はひと暴れしてからだっ!!」
◎
パヴァリア光明結社の潜伏に使っている部屋の一室でカリオストロは包帯でぐるぐる巻きになっているプレラーティを心配そうに見ていた。
プレラーティはシンフォギア装者との戦いで深手を負っていま意識不明でベッドに横になっている。錬金術で傷を塞いでいるがまだ完治には遠く体力は戻らない。
カリオストロそんな盟友をみて心を痛めるとともに、己への怒りを感じていた。
この失態はプレラーティだけのものだけではなく、己のファウストローブの力を過大に評価した事、敵装者の力量を軽んじた事、イグナイトモジュールを封じれば相手に絶対の有意を取れると勝手な算段をした事。
そしてなによりサンジェルマンがいなくても十分だと判断した事だ。
今まで彼女が戦線での撤退の引き際を判断していたが、二人は何故この優位な状態で?と疑問を感じた事は幾度もあった。
もし彼女があの戦場にいたらプレラーティが深手を負う前に撤退指示を出したはずだ。カリオストロの判断は甘くそして遅すぎた。
『順調に行ってるようだね祭壇設置の儀式は』
『はい。ですが中枢制御に必要な大祭壇設置に必要な生命エネルギーが不足しています』
『じゃあ生贄を使えばいいんじゃないかなぁ…あの二人のどちらかを……』
『十分に足りるはずさ、祭壇設置の不足分だってねぇ……完全な肉体より錬成される生命エネルギーならば』
『局長…!…あなたはっ…どこまで人でなしなのかっ……!』
カリオストロは先日の二人のやり取りを聞いていた。
するとこの部屋にサンジェルマンが入ってくる。
「プレラーティの修復は?」
「っ順調よ?時間は少しかかるけど…」
カリオストロは考えていた人物が入ってきても動揺をおくびにも出さずに答える。
サンジェルマンはボロボロのプレラーティが眠っているベッドに向かって歩く。傍に着いたらその体に毛布をかける。
「同じ夢見た仲間を…」
彼女はそんな相手を見て痛みを感じた顔をする。
しかし怒りをその端正な相貌に滲ませない。今まで散々他人の命を一方的に食い物にしてきた自分が仲間を傷つけれたからと言って、相手にその憎しみをぶつけるのは道理に合わないと痛いほど分かっているからだ。
それに仲間の負傷はリーダー格である己の責任。
カリオストロはそんなサンジェルマンの悲壮な姿を見て言う。
「仲間を傷つける奴は許さない。あーしも腹をくくったわ……」
◎
今トレーニング室には装者全員がギアをまとってホログラムのアルカノイズ達に向かい合っている。
切歌と調は得意の斬撃武器を使って敵を薙ぎ払っていく。クリスは両手にボウガンを持って矢を撃ち込んでいく。響の拳が敵の体に撃ち込まれて粉々に砕いていく。翼の剣は簡単に敵を切り裂き貫く。
「私と切ちゃん…ふたつの歌を重ねればっ…」
「ザババの刃は相手を選ばないのデス!」
二人は見事な連携で隙なく敵を切り刻む。
マリアも逆手に持った短剣を振り回し切り刻んでいく中で、視界にある人物を見つけていた。
「だからって大人げないっ!」
その言葉に他の装者達はつられてマリアの視界の向く方に顔を向ける。
そこにはジャージを着こんでストレッチをしながら好戦的な笑みを浮かべる風鳴弦十郎その人が。
「今回は特別に俺が訓練をつけてやる…遠慮は要らんぞ…」
「はぁ…」
クリスはうへぇ…と言った感じの表情をする。
「こちらも遠慮なしでいくッ!」
構えを取って猛烈なダッシュでマリアに詰め寄る。一瞬でマリアの視界が弦十郎の姿で埋め尽くされてしまう。
マリアはそれに驚いて反撃できずにとっさに防御へと回ってしまう。
「なっ…!」
相手の乱打が炸裂してマリアは後方に吹き飛ばされてしまう。何とか空中で体勢を立て直して尻を突かずに済むが。
「どうすればいいのっ!?」
シンフォギアでも錬金術でもない単純な身体能力で圧倒される非常識な光景に呻くことしか出ない。その間にも距離を詰められて遠くまで蹴り飛ばされる。
「きゃあああっ!!」
「マリアっ!」
悲鳴を上げて飛ばされていくマリアを呆然と見る事しか出来ない翼。
響は取りあえず目の前の人間が不意打ちで死ぬことは考えられないので攻撃をしようと考える。
ガン!とアスファルト道路を踏みつぶして瓦礫たちが飛ぶ。それを響は思いっきり蹴り飛ばして散弾のようにして放つ。
弦十郎は受ける気は無いのか横に躱すのだが響は躱すのは読んでいると最短距離で突っ込む。
「うおおっ!」
右拳を相手の胴に叩きつけようとするが右腕の装甲を横から掴まれて動きを止められてしまう。
これには響も唸らざるを得ない。
「ぐ…くうっ…!」
「一度や二度の不意打ちや体勢を崩した程度で勝利を当たったと確信するな!相手の僅かな重心と体重移動を見逃すな!!」
弦十郎は響にもっと高いレベルでの読み合いをするように命じる。
それを見た翼は言う。
「司令は手を合わせ心を合わせる事で何かを伝えようとしている…!」
響は空いていた左手で弦十郎の右腕の装甲を握っている左腕を掴んでガッチリと固定する。そしてそれを起点に足をふっと浮かせてそのまま相手の顔面に左足で蹴りを入れようとする。しかしそれも相手の空いていた右腕で受け止められる。
「まだだっ!」
掴まれていた右腕の装甲を無理矢理引きちぎって拘束から脱して空いた右拳を弦十郎の腹に叩きこむ。威力の全く乗っていないジャブにもならないパンチだったが当てて見せた。
「見事だ響君…だが防御ががら空きだっ!!」
「まずっ!?」
響の足を掴んで遠くに投げ飛ばす弦十郎。
そんな響を見て翼は剣を構える。
「だがその前に…私の中の羽馬が踊り高ぶるっ…!」
弦十郎はその剣撃の全てを紙一重でかわして見せる。そして思いっきり踏み込んだ一撃を片手で真剣白刃取りをする。
「お見事っ…!」
翼は相手の卓越した技能に感嘆をする。
相手は剣をグイッと引き寄せてその勢いのままタックルを加えて翼の体を吹き飛ばす。
クリスは翼が遠くに飛ばされたのを見てミサイルを撃ち込もうとする。
「こたえなオッサンッ!!」
その攻撃に対して相手は爆弾をすべて素手で掴み取ってしまう。一見豪快に見えるが、爆発しないのという事は信管を起動させない繊細な動きで掴み取っているという事。人体では普通出来ない作業だがやってみせる。そしてそれをクリスへと投げ飛ばす。
「嘘だろぉっ!?」
そのバカらしい光景を見て驚愕しか出来ないクリス。
その爆弾がクリスに接触して彼女の体を吹き飛ばす。
「ぐわあっ!!」
彼女の体は後方の建物に叩きつけられてその場に崩れ落ちてしまう。
ぐったりするクリスに彼女の欠点を語る。
「数をばら撒いても重ねなければ詰みあがらない!心と意を合わせろぉっ!!」
そして最後の標的はこの無双状態に何も出来ていない切歌と調。
「驀進ッ!」
そう言って地面を思いっきり踏み込んで衝撃波がアスファルトの道路をめくりながら迫ってくる。
『うわああっ!?』
二人は何も出来ずに吹き飛ばされた。
トレーニング室にはしごかれてぐったりとしている装者達が。
弦十郎は語る。
「忘れるな…愚者の石はあくまでも賢者の石を無効化する手段にすぎん…さぁっ!準備運動は終わりだっ!!」
「…本番はここからですか?」
響はのろのろと立ち上がりながら聞く。
「当然だ、本番は…ここからだっ!」
弦十郎は何処からともなくラジカセを取り出して曲を流す。
特訓の本番はこれからのようだ。
◎
夜の神社にパヴァリア光明結社は集まって何やら怪しい儀式を始めていた。
ティキは目を光らせて辺り一帯に天体を投影する。
「ななつのわくせいとななつのおんかい…ほしぞらはまるでおんがくをかなでるふめんのようねっ!」
「始めようか…開闢の儀式を」
アダムはそう言って服をはだけさせて背中の肌を見せているサンジェルマンに手をかざす。すると彼の手が光ったかと思うと、彼女の背中に円状の赤い傷が生まれていく、そこから血が滲んでいく。
それを刻まれた途端に苦悶の表情を浮かべる。
「ぐっ…!ううっ…」
アダムは刻み終わると手を放す。
カリオストロは苦しむ仲間を見て痛ましそうな顔をする。
「そろそろ選ばなくてはね…捧げる命はどちらなのかを…」
「ッ!?」
アダムはわざわざ耳元で小さく呟くように言う。その顔は二ヤついており醜悪極まりなかった。
カリオストロに聞こえないようにするためという配慮だろうが、対象がいるこの場で言う事ではない。
普段のすまし顔に戻したアダムは言う。
「さぁて…シンフォギアだよ気になるのは…」
「あーしが出るわ」
カリオストロが名乗り出た。彼女は最初から自分がシンフォギアと対峙するつもりだった。
「儀式で動けない人と負傷者には任せられないじゃない?」
「あるのかなぁ…?何か考えでも?」
アダムは品定めをするようないやらしい目で問いかける。
カリオストロはそれに対して特に相手もせずに流して答える。
「相手はお肌に悪いくらいの強敵…もう嘘はつきたくなかったけど…搦め手で行かせてもらうわ」
彼女の手にはかつて結界を作ったアルカノイズの召喚結晶の入れ物が握られていた。