翼は他の面々が寝ている中、タブレット端末を片手に外で本部と連絡を取っていた。勿論話題は調神社で得られた情報。
『門より出ずる神の力か……』
「みんなの協力もあって神社所蔵の古文書よりいくつかの情報が得られましたが敵の本命がレイラインを使った計画だとしたら、対抗手段として考えられるのはやはりレイライン上にある要石かと」
弦十郎の言葉に翼は今日、厳密には昨日得られた情報を簡潔まとめて伝える。
要石と聞いて過去にキャロルにいいように振り回された記憶が思い出される。
『要石ですかキャロルとの戦いでいくつかが失われてしまいましたが』
『それでもレイラインの安全弁として機能するはずです』
緒川とエルフナインは敵の目的がレイラインであれば要石がやはり重要になると言った。
「あと気になる事は…………」
『どうした翼?』
「気になる事はですね……」
翼が詰まった事に不審そうな声でその先を訪ねる弦十郎。彼女の言うべきか悩んでいるようだ。しかし意を決して声にする。
「古文書を解読する中、立花だけが常に落ち着きがなかったような気がするのですが」
『響君がか?』
「ええ……常に眉間にしわを寄せていたような…落ち着きがないような……これは他の皆も同じ印象を得たようです……」
『ふむ……』
弦十郎は翼の報告に熟考した。
響がおかしい時は決まって良くない事が起きるのだ。翼もそれは分かっており、
『響君のことは気になる、しかしだ。俺たちのやる事は変わらない』
弦十郎は改めて自分たちの目的を力強く口にする。
『神の力をパヴァリア光明結社の手に渡すわけにはいかない、何としてでも阻止するぞ!それは響君だって同じはずだ!』
「無論そのつもりです」
翼は静かに闘志の籠った声を出す。そう言ってタブレットの電源を切る。
すると月明かりのせいで黒い端末に自分の顔が映る、それはとても不安そうだった。
◎
「…………」
調は池のほとりで水面を見つめていた。
そこに映るのは自分、誰にも合わせることが出来ずに足手まといになりつつある自分。
「おやおや……」
「んっ…」
突如声をかけられて不意を打たれたのだが、それでも調には不思議と警戒心は湧かなかった。
彼女に声をかけてきたのはこの神社の宮司だった。
「こんな夜更けに散歩とは…皆さん夜だと言うのに落ち着きがありませんね」
調は立ち上がって声の主を見るのだがふいっと顔をそむけてしまう。気を取られて周辺の警戒を怠ったのが少しだけ恥ずかしいのだ。
しかし相手はそんな失礼な態度も咎める事も無くにこにことそれは穏やかに笑っている。
「何か悩み事ですかな?」
「一人で何とか出来ます」
「それでも口に出すと楽になりますぞ?」
素っ気ない態度の連続にも相手の優し気な相貌はまるで巌のようだった。調の強がりなど彼の前では効きはしない。
「誰も一人では生きられませんからな」
「そんなの分かってるッ!!」
彼女はつい大声で荒げて返してしまう。しかしすぐさま優しさから声をかけてくれた相手にこの態度は申し訳ないと思い弱々しい声になる。
「でもっ…!私はっ……」
「何を隠そうここは神社……困った時の何とやらには事欠かないとは思いませんか?」
調は手をギュッと握りしめて何かを堪えている。それを見て相手は切り込んでいく。
宮司は拝殿まで調を連れていく。その道中、深夜の神社は結構な怖いスポットのはずだが不思議と守られているような安心感があった。
そして到着し目の前で二礼二拍手一礼を行う。
調はそれを無言で見ている。
「…………」
「若い方には馴染みのない作法ですかな?」
調のリアクションに目ざとく気が付き問いかける。特に怒っているというわけではない。
月読調はどちらかと言えば素直にものを言ってしまう方で、それは人の社会の中では裏目に出る事が多い。
だからふとした事で傷つけないように相手を気遣って言葉足らずになったり無言になりがちなのだが、不思議とそんな自分を目の前の年配の男性は受け入れてくれるような気がした。
「うん…………なんか……めんどくさい……」
「これはこれは……」
彼女の思った通り相手は怒るわけでも、格式や伝統を押し付けたり説いたりしてくることはなかった。
彼女は少しだけ視線を下に向けて言う。
「しきたりや決まり事…誰かや何かに合わせなきゃいけないって…よく分からない……」
「?」
相手は少しだけいぶかしげな顔をした。
彼女はそう言った直後に二礼二拍手一礼を行った。きっと分かっている、このままではいけないと、変わりたいと。
「合わせたくっても上手くいかない。狭い世界での関係性でしか私には分からない。引け目が築いた心の壁が大切な人たちを遠ざけている」
そして彼女の脳裏に浮かぶのは切歌の姿。
「いつかきっと親友までも……」
そんな自分を隣で聞いている男性は何を言うのかと待った。
最低な人間だ。冷たい人間だ。そうだと言ってもらった方が楽だったのだが。
「あなたは良い人だ」
「いい人!?だったらそうして私の中に壁があるの!!」
予想外の返答に強い口調で噛みついてしまう。自分がいい人だと思われる要素が先ほどまでの懺悔の中にあるとは思えないからだ。
「壁を崩して打ち解けることは大切なことかもしれません。ですが壁とは拒絶のためだけにあるものではない、私はそう思いますよ?」
この話し合いは少し欠けた月だけが見ていた。
◎
「…………」
響は眠れなかった。理由は単純で夜中にプレラーティが現れるからだ。
彼女が聞いた話では高速道路で、機動力勝負になったため速いスピードを継続して出せないガングニールではその戦いに対処できない。翼のバイクに乗せてもらう案も考えたが遠距離技が無いので結局は足手まとい。
結果はその戦いで相手を調と翼がユニゾンを成功させて撃退をするのだ。
とはいえ呑気に眠る気にはなれない。
「…………はぁ」
上半身をあげる。知っていたが調と翼に宛がわれていた布団は無人だった。
ふと視線を巡らせる。ぐっすり寝ている未来を視界に収めてホッとする。
彼女の神獣鏡とダイレクトフィードバックシステムの後遺症には、軽度ではあるだろうが睡眠障害も含まれているだろうと響は予想しているからだ。
すると隣から声がかけられる。
「んだよ…眠れないのか?」
「ッ!」
クリスが寝ころびながら響の方を向いて声をかけたのだ。当然突然声をかけられて流石に驚く。
「……クリスちゃん起きてたんだ……」
「……おう」
前の世界では未来はいなかったがこの部屋にいた全員が本部の通信アラームで飛び起きたはずだ。
「起こしちゃった?」
「いんや、色々と考え事をしてたら頭が冴えてな」
響は自分のせいでないと知って少しだけホッとする。
クリスに声をかけられて心臓がバクバクしたせいかもう眠れそうになかった。彼女の記憶通りならもうすぐアラームが鳴るため夢の世界に飛び込めなさそうだった。
「あたしも眠れないからちょっと付き合えよ」
そう言ってクリスはその場から立ち上がる。
二人は裏口から神社を出てその付近を歩いていた。
響は何となくだがこれから戦いがあるのにのんびりしていいのかと考える。
しかし今のクリスの表情にはこの場が戦場であるかのような緊張感があったのだ。だから黙ってついて行ってしまう。
「皆には感謝してるんだ……」
クリスが少しだけ早歩きで響の前に出て表情を隠しながら言った。
「うん?」
「あんだけ暴れまわったあたしをさ…笑顔で受け入れてくれた事だよ」
「そんなこと…クリスちゃんの頑張りがあるからだよ、きっと」
クリスのその言葉にあっけからんと言った感じで返す響。
この世界でも前の世界でも雪音クリスの苦しみながらも、そして不器用でも人と頑張って向き合おうとするその姿勢があるからこそ人は自然と集まってくれるのだ。
彼女相手からのはその言葉を受けて、少し考えた後自分の考えを伝える。
「だからさ…あたしも同じようになりたいって思って色々とやってんだよ…上手くいかないことだらけだけどな……」
「上手くいかない…でもそれは仕方ないよ。誰だって最初は初心者なんだから失敗や遠回りをして当たり前だよ」
響は精一杯のフォローを伝える。
クリスが先輩として、そして先人として切歌や調の前で頑張って背伸びをしているのは知っている。
クリスはそこで振り返って意外そうな顔を作る。
「お前もそうなのか?」
「えっ、あ、まあそうだね。分かっていても失敗だらけだよ私なんて……」
響はどもってしまう。自分は未来の記憶を持ちながらことごとく失敗をしているからだ。自分以外の誰かが同じ立場に置かれたもっと上手く立ち回るだろう。そう考えると響はどんどん俯いてしまう。
クリスは陰る響を心配そうに見る。その瞳には響の苦しそうな姿が映っている。
「悪かったなあの日ファミレスで地雷を踏んじまって……そんなつもりなかったんだ」
バツの悪そうに視線を外しながらではあるがクリスは言った。
「あんな事を二度としちゃいけないってのは分かってる…でもそれでもどうしても聞きたいことがあるんだ…嫌なら無視でいい…無かったことにしていい…だから言わせてくれ……」
「何を……」
響は想定していたよりも重そうな話につい尻込みをしてしまう。
予想される聞きたい事とはフィーネを何故前から知っていたのかだろうかと響は想定する。
だがもしその質問をされたら、それは三年前にツヴァイウイングの事件を不審に思って色々と調べたら知ったと説明しようと前から考えているのだ。
しかしクリスの雰囲気はそれとも違う気がした。
クリスが口を開こうとしたところでビーッ!!っと本部からの緊急通信を知らせるアラーム音が鳴ってクリスの言葉を遮断した。
相手も驚いていたがすぐさま携帯端末を開いて本部からの錬金術師の情報を聞いた。
◎
プレラーティは明かりを消した暗がりの一室、一人で夜景を見ていた。
机にはグラスに入れていたワインと自分のグラスには牛乳を入れている。
「あのおたんちん……元詐欺師が一人でカッコつけるからこうなったワケだ……」
彼女はグラスを持ってそう僅かに沈痛そうな表情で言った。
その顔は夜景を写していた窓ガラスに彼女の表情をくっきりと写っていた。無表情にも滲む焦燥があった。
あれだけ他者の命を食い物にしたのにいざ仲間がやられたら苦しむなど度し難い。
そして今は亡き仲間の為に用意したグラスに向き合い自分のそれとチンと当てて乾杯をする。
治療を受けている最中に既に意識が戻っておりカリオストロの言葉を聞いていた。
『祭壇設置の生命エネルギーはあーしたちから錬成する……仲間に犠牲を強いるアダムのやり方は受け入れられない…きっとあいつは他にも隠してる…ま、女の勘だけどね』
「女の勘ね……」
プレラーティはその言葉にふっ…と笑ってしまう。
ただそれは楽しい笑いではなく悲しさをごまかすために出たものだが。
「生物学的に完全な肉体を得るため後から女となった癖に……いっちょ前なことを吠えるワケだ……」
グイッとグラスの中身を飲み干す。そして不敵な笑みを浮かべて。
「だけど……確かめる価値はあるワケだ」
パヴァリア光明結社が潜伏場所に選んだホテルの屋上プール。そこにアダムとティキはいた。
「ねえ!あたしにんげんになりたい!」
「藪から棒だね…いつにも増して……」
「かみのちからがてにはいったらアダムとおなじにんげんになりたいっていってるのっ!!にんぎょうのままだとアダムのおよめさんになれないでしょ?だーかーらっ!さっさとさんきゅうれんきんじゅつしをせいめいえねるぎーにかえてさあっ」
ティキは駄々をこね始めた。
アダムからすればティキの要求もその態度も腹立たしいものだがそれは見事に制御された表情で表に出さない。
その話を聞いていたのは他にもいた。いや知っていながら黙ってティキに口を滑らせていたのだ。
プレラーティがいた。怒りで目尻がきつく上がって、瞳は困惑なのか揺れている。
「その話……詳しく聞きたいワケだ」
「繰り返してきたはずだよ君たちだって……言わせないよ知らないなんて……」
アダムは悠然とプールから立ち上がった。
素っ裸なのだが特に羞恥心は無いらしい。
「計画遂行の勘定に入っていたのさ、最初から…君の命もサンジェルマンの命もね……」
「そんなの聞いてないワケだ!!」
プレラーティはそう言って氷の槍を生成して投げつけるが、相手は指パッチンで防ぐどころか風の刃を繰り出して反撃して来た。
彼女はこれまで相手の事を部下任せのダメ上司だと思っていた。
しかし相手がパヴァリア光明結社という裏社会に根付く巨大組織の長であること、そしてそこにいるアウトローな連中を力で従える男である事に気が付いた。
「他には何を隠している!何を目的としているワケだ!!」
「人形の見た夢にこそ神の力は……」
アダムは問いに対する答えにならない回答をする。
それは真実言っているようだが何か重大なことが隠されているような気がした。
(人形…?)
プレラーティの視線はティキに向かう。
そこでアダムはまたも指パッチンで攻撃を仕掛ける、彼女は慌てて外に逃げる。計画がまだ最終段階に至っていないため、一度ホテルの外に逃げればアダムは大きな行動は起こせないと考えたのだ。
素早くファウストローブをまとってけん玉を生み出してそれに乗っかった。球の部分が回転してタイヤのような機能をして夜の道路を走っていく。
「にげたっ!きっとサンジェルマンにちくるきだよ!」
「狩り立てるのは任せるとしよう、シンフォギアに」
アダムはこの状況でも余裕の構えだ。
そもそもサンジェルマンさえいればもうプレラーティの生命エネルギーなど不要だからだ。むしろ自分への反乱因子になりかねないため、目の上のたんこぶなのだが自分が手を下せばサンジェルマンにも反乱されるため困っていたのだ。
シンフォギアに倒されるならちょうどいいと言うだけの話。
一方、高速道路を疾走するプレラーティは念話でこの事を伝えようとするのだが、
『サンジェルマン!サンジェルマン!』
(くっ!妨害されているワケだ!)
もう既に彼女の盤面は詰んでいる。
◎
「錬金術師が…」
翼は切っていた端末に再び通信が入って驚いた。錬金術師が街中を走り回っているという情報だからだ。
『新川越バイパスを猛スピードで北上中!』
『付近への被害甚大!このまま住宅地に差し掛かる事があれば……』
藤尭と友里が現状報告をする。
それを受け取っていたのは当然翼だけでなく。マリアも同様の報告を受ける。
「分かりました対応します」
「そう言えばマリアと未来さん以外の人はどこ行ったデスか?」
切歌の疑問は当然で起きたら四つの布団が空だったのだ。
するとそこへ宮司のおじさんが声をかける。
「どうされましたか?」
「ん?調……?」
切歌の視線の先には走って鳥居の方面へと向かっていくツインテールが。
◎
(シュルシャガナでなら追いつける)
調は本部から高速道路を使って敵錬金術師が疾走しているのを聞いたため、全力で足のローラーを回して入り口に侵入した。
すると後ろからライトに照らされて自分を追いかけている誰かを振り返る。
「…ッ」
「高機動を誇るのはお前だけではないぞ」
翼もまたバイクにまたがって錬金術師を追いかけてきていた。
調はその声に視線を前に戻した。
それを見て翼は妙なデジャブを感じた。昔響が力を合わせようと言ったら突っぱねた自分だ。
二人が本線に入るとそこでちょうどプレラーティと遭遇する。すぐさまその背後に陣取る。
「何を企んでいる……どこに向かうッ!」
「お呼びでないワケだぁっ!!」
翼の問いかけにプレラーティは話す事など無いと炎を掌から生み出して放ってくる。
調は加速して前方に、翼は減速して後方に移動して避ける。
そのまま調は先回り、翼は後ろから退路を断とうとする。
連携でひと悶着あったがこれくらいは出来る。
プレラーティはそれを見るや、カーブに差し掛かった所でけん玉を無理矢理壁にぶつけて破壊して逆側の車線に移動して逆走を始める。
「お構いなしと来たか……」
翼はこれ以上暴れられると被害が広がるとみて短期決戦を想定する。翼は前を走っている調に声をかける。
「ユニゾンだ月読!イグナイトとのダブルブーストマニューバでまくり上げるぞ!」
その指示に調の顔は雲ってしまう。そして申し訳なさそうな顔をする。
「ユニゾンは……出来ません……」
「月読…?」
これまで出来なかったから、それが不安だから拒否をしているのではない。そもそも出来ないと決めつけている。
「切ちゃんはやれてる…誰と組んでも……でも私は切ちゃんとでなきゃっ…!人との接し方を知らない私は一人で強くなるしかないんです……一人でっ!」
「…………」
その言葉を聞いて翼は考える。
『でも私は「奏」とでなきゃっ…!人との接し方を知らない私は一人で強くなるしかないんです……一人でっ!』
それはかつての自分と似ている思考回路だと思った。翼は口を開く。
「…………心に壁を持っているのだな、月読は」
「…………」
ここが戦場である事も忘れて調の瞳は潤んですこし視線を下げてしまう。
自分から言ってないのに見破られた。つまり客観的に見て自分はそういう人間に見えているという事。
「壁…」
宮司の人との会話を思い出す。
すると再び壁を破ってプレラーティが前方に現れる。翼は自分の考えを語る。
「私もかつて亡き友を想いこれ以上失うものかと誓った心が壁となり、目をふさいだことがある…」
「天羽奏さんとの……?」
調は聞いた話を口にする。具体的な人物像は知らなかったが自分たちが使うリンカーには彼女の臨床データが使われている。
そこで高速道路がトンネルに差し掛かる。
翼はそれを肯定する。
「…そうだな……怖かったのだ人と向かい合う事が…だから心壁がいつの間にか他者を拒絶するだけの壁になってしまった」
「拒絶……」
調はその言葉に反応してしまう。
他者を拒絶してしまうのは彼女の言う心の壁が他人の心を跳ね返してしまう。だからユニゾンを成功させることが出来ない。
「だが月読の壁はあの頃の私と違い、ただ相手を隔てる壁ではない…相手を思ってこその距離感だ」
「思ってこその距離感……」
調がふと思い出すのは切歌が心配しても反射的につい何でもないと答えた一幕。
あれは相手に心を開いてないと言えばそうだが、見方を変えれば相手に自身の不安を背負わせたくないと気遣っているとも言える。
「月読は大丈夫だ。本当に他者を拒絶するような人間は他人に合わせられない事に悩みなどしない。出来なくて心苦しくなるのはちゃんと月読が優しさを備え、考えられている証だ」
翼のその言葉に悩みが吹っ切れたのか顔に刻まれていた険と陰りが消える。
悩んでいるから優しいし相手のことを考えられているのだ。
プレラーティは振り向きざまに氷の槍を投げつけてくるがそれを簡単に調は躱す。そこで初めて二人は並走する。
「優しいのは私じゃなく周りのみんなです!だからこうして気遣ってくれて……私はみんなの優しさに答えたい!」
翼は調がここに来て初めて顔を向けて目を合わせ話をしたのを見て笑む。
「いい加減付け回すのを止めるワケだッ!!」
プレラーティはそう言うと手に炎をまとわせて打ち放ちトンネル内を火の海にする。その際にトンネル内の施設や備品にも引火したのか大爆発が起こり相手を吹き飛ばした。
「ぐうの音も…!」
しかしそこで火の海から飛び出してくる二つの人影が見える。
それに驚愕する。
「わ…けだ……?」
イグナイトモジュールを起動させて攻守に速度と全てを底上げしてプレラーティに迫ってきていた。
相手は賢者の石の輝きを受けても倒れない。そこで彼女は気が付いた、カリオストロが負けた理由を。
翼は標識を見る。
「このまま行くと住宅地にッ!」
このまま住宅地に突っ込めば多くの犠牲者が出る。
これ以上2人に時間は残されておらず、このままイグナイトとユニゾンで一気に片をつけるしかない。
「いざ尋常にっ!」
そう言って素早くプレラーティの左側を並走し陣取ってバイクからブレードを生み出して攻撃を加える。
「邪魔だてをっ…」
そう言ってプレラーティは氷槍で引きはがそうとするが、そこに調が左に陣取ってノコで攻撃を加えてバランスを崩して反撃の隙を与えない。
「動きに合わせてきたワケだっ…!」
相手が歌を重ねて攻撃の隙を無くして出力を上げる、つまりユニゾンに取り掛かろうとしているのを察する。
調はここで啖呵を切る。
「神の力!そんなものは作らせない!」
「それはこっちも同じワケだぁっ!!」
(何だと…?)
プレラーティは怒りよりも焦りをにじませて話す。
その言葉に翼は違和感を。相手は神の力を顕現して従える事に力を注いでいたはずなのに。
プレラーティは立ち上がりけん玉の胴部分の中皿の前に立って両手を構える。するとそこから大量の水が発生する。
「歌女どもには、激流がお似合いなワケダぁッ!」
二人の目の前が視界一面に水で覆われる。このままいけば巻き込まれて追跡を振り切られる。
「行く道を閉ざすか…!」
「そんなのは、切り開けばいいぃっ!!」
翼は相手の意図に気が付いて驚愕するが、調は小型ノコを水流に向かって撃ちこんでいく。
それは水を崩す意図があるのではなく。先にある道路の仕切りを破壊して目の前に置いてジャンプ台を作る。
それに乗って水たちを飛び越えていく。そのままプレラーティの踏みつぶそうとするが。
「なんとぉっ!!」
相手は慌てて術を解除してけん玉の柄を握り、球に乗って装者たちを弾き返す。そのままの勢いで二人はプレラーティの全方に着地する。
「駆け抜けるぞ!」
翼と調はアームドギアを変形させる。
バイクの側面に調のヨーヨーが合体して巨大なタイヤになり、巨大な剣が全方に突き出して古代の戦車のような形になる。
「サンジェルマンに伝えなければいけないワケだ!!こんなところでぇっ!!」
プレラーティもまた相手の攻撃を受ける覚悟だ。けん玉の剣部分を球に突き刺して同じく戦車の形をとる。
「アダムは危険だとサンジェルマンに伝えなければいけないワケだぁっ!!」
お互いの出せる最大攻撃がぶつかり合って、そして吹き飛ばされたのはプレラーティだった。
大爆発の後、二人は何とかその場から飛び出して道路の上に転がり込んで火の手を呆然と見ていたが。
「勝てたの…?」
「あぁ…二人でつかんだ勝利だ…!」
◎
サンジェルマンは祭壇設置の為に駆けずり回っていたのだが、ふと黒電話が鳴る。
神出鬼没だがそれはアダムからの連絡の証。それを取ると声の主はティキだった。
『プレラーティはかえるのようにひきころされたよぉ?おにあいだよ』
「え…?」
『いけにえにもならないなんてむだじにだよね?ざまあないよねぇ』
その軽薄な言葉にサンジェルマンは硬直してしまう。
すると声の主が男の声に代わる。
『報告に間違いはない、残念ながら』
「一人で飛び出したの……?」
呆然とするしかなかった。
シンフォギアに仕留められたそれだけが事実だった。
『急ぎ帰投したまえ…シンフォギアに…儀式を気取られる前に……』
そう言って通話は打ち切られた。その後もサンジェルマンはただ呆然としか出来なかった。少したってから受話器をもとの位置に戻す。その顔は苦々しそうで。
「カリオストロに続き…プレラーティまでもが……」
◎
「お世話になりました」
「いやいやお役に立ちましたかな?」
「とても参考になったのデース!」
響の感謝の弁に宮司の男性は朗らかに答える。
そんな光景の傍で翼とマリアが本部と情報を交換していた。
「では…あの錬金術師の向かう先には……」
『鏡写しのオリオン座を形成する神社…レイポイントの一角が存在している…』
翼の情報から錬金術師が潜伏しているであろう場所のおおよその特定に成功する。
「ますます絵空事とは言えない訳ね……」
『対策の打ちどころかもしれないな…』
弦十郎の脳内ではいまいくつかの対抗策が張りめぐらされている。
一方で別れの挨拶組はこの場を離れようとしていた。
「良かったら、調神社にまたいらっしゃい。この老いぼれが生きている間に」
「神社ジョーク…笑えない……」
調はうへぇ…と言った表情をする。
「これを」
そう言って宮司が手を取って調に渡したのは一つのお守り。何の変哲もないそれ。受け取ったそれを手でつまんで嬉しそうに微笑む。
『ありがとうございました』
皆が挨拶をしてその場から離れていく。
そんな中、切歌は神社の名前に疑問を抱く。
「ん~やっぱり不思議デス…こんなの『つき』なんて絶対読めないデスよ……」
じっと神社の名前にうんうんと唸る。
「切ちゃん、置いてっちゃうよ?」
「わ、分かってるデスよっ!」
調の催促に切歌は慌てて車へと向かう。
『調』と書いて『つき』と読む。ここはそういう場所だ。