過去に戻った立花響   作:高町廻ル

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約束された失敗

「73800…73801……」

 

 サンジェルマンの手から二つの白百合の花が離れて下へと落ちていく。その花が風に吹きつけられて散っていく。

 今彼女がいる場所は高層ビルの屋上の一つ。強いビル風が吹きつけている。

 

「……………………」

 

 目をつむり黙祷をする。生きている者にはこれくらいしか出来ることが無い。

 そして瞼を上げて悲し気な相貌をにじませる。

 

「母を亡くしたあの日から…置いて行かれるのは慣れている……それでもすぐにまた会える……私の命もそのためにあるのだから……」

 

 すると背後からパチパチ…と拍手が鳴る。

 

「ありゃまー…しぬのがこわくないのかなぁ……」

「理想に殉じる覚悟など…とうに出来ている」

 

 使者を弔うこの場には相応しくない能天気なキンキン声が響く。ティキだ。

 サンジェルマンは視線だけを背後に向けて、相手に理解できないと分かってはいるが自身の覚悟を伝える。

 伝えると言うよりもそれは自身に言い聞かせると言った方が強い。

 そして視線を前方に戻して語る。

 

「それに…誰かを犠牲にするより…ずっと……」

 

 押しつぶされそうな罪悪感をつい吐露するのだが、それは背後にいる人でなしどもには伝わる事は無い。

 

「きひひひっ!なに?それがほんしん?」

「だから君は数えてきたのか?自分が背負うべき罪の数を…おためごかしだな……」

 

 相手は案の定、そう言って切り捨てた。おためごかし…それは真実だったため否定はしない。

 

「人でなしには分かるまいっ…!」

 

 微か滲ませた怒りがあった。

 

 

 温かさが残る九月中旬。

 夕日が装者たちを迎え入れる。

 S.O.N.G.本部となっている潜水艇に向かう道を学生組の響、クリス、切歌、調は歩いていた。未来は汚染除去の為にずっと本部に籠りっきりだった。

 切歌が元気一発口火を切る。それに調が乗っかる。

 

「もうすぐ近いらしいのデス!!」

「あと二日!」

「パヴァリア光明結社との最終決戦が?」

「そっちじゃないデスよ!?」

 

 響は自身の誕生日の事だと言われて気がついたが何となくはぐらかす。実際にサンジェルマンと戦う日が響の誕生日なのだが。

 切歌は出鼻を挫かれて大声でツッコんでしまう。

 悪い事をしたなと思いつつ話を相手の望む形に持っていく響。

 

「ごめんって、二日後って九月十三日だよね?私の誕生日だよね?私ってば言ったかな…?」

「クリスさんから聞いたのデス!」

 

 クリスからのタレコミである事を切歌はあっけなく暴露する。

 すると彼女の表情に少しだけ紅がさす。

 響はにこにこしながら話す。

 

「そうなんだ、覚えててくれてありがとう…あ、ちなみにクリスちゃんの誕生日は十二月二十八日なんだよ~」

「おいっ!」

 

 思わぬ飛び火にクリスは焦る。響の事だけでの恥ずかしいと言うのに自分がその対象になるなど耐えられない。

 当然切歌と調はそれを見逃すはずもなく。

 

「そうなんデスか!」

「それは祝わないと…!」

「はしゃぐな二人ともぉっ!!まだ三ヶ月後の話だあっ!!!!」

 

 クリスは恥ずかしさが爆発した。

 

 

 響達は本部のブリッジに到着した。

 それ気が付いた弦十郎が合図を出す。

 

「来たな?では放課後ブリーフィングを始める。映像を出してくれ」

「はい」

 

 友里はその言葉に返して手元を動かして前方モニターに調神社で受け取った氷川神社群を繋いだ地図、つまり映し鏡のオリオンの図を出す。

 

「調神社所蔵の古文書と伝承…錬金術師との交戦から…敵の次なる作戦は大地に描かれた鏡写しのオリオン座…神出ずる門より神の力を創造することで間違いないだろう…」

「現在神社本庁と連携して拠点警備を強化するとともに周辺地域の疎開を急がせています」

 

 弦十郎が諜報部や装者が獲得した情報からおおよその敵の行動予想を報告する。それに対して緒川は現状している対抗策を口にする。

 

「レイラインを利用したさらに大規模な儀式……」

 

 マリアはあの時バルベルデにて襲ってきた神の力のプロトタイプやレイラインを利用したキャロルの事を思い出していた。

 神の力を顕現されたら次は逃げ切れる確証はない。その事がマリアの顔を険しくする。

 

「いったいどれだけの怪物を作り上げる気なのっ…!」

「門から出ずるは怪物を超えた神…………」

「どうにかなる相手なのか…?」

 

 翼もクリスも同じく険しい表情になる。二人は実物を見たわけではないが映像で見る限りあの無敵性を自分たちが突破出来るとは思えなかった。

 

「理想は相手が神の力を生み出す前に倒す事だけど……」

 

 響はそう言うが仮にアダムを前にしても自分が頑張ったとしても倒せるとは思えなかった。

 不安そうな装者達を見て弦十郎は何の確証も無い情報を開示する。

 

「もし…神の力をどうにか出来るとすれば…それは神殺しの力だろうな……」

「神殺し……」

「デスか…?」

 

 調と切歌はその言葉にピンとこなかったようだ。

 ブリッジでその情報が共有される。

 

「神と謳われた存在の死にまつわる伝承は世界中の各地に残されている」

 

 弦十郎は明確なものではないため少しだけ声に張りが無かった。

 クリスは響の肩を軽くたたく。

 

「おいお前なんか知ってることは無いのか?」

「そうだね……例えば今のキリスト教の始祖と言われている…イエス・キリストは神様の力を生まれながらに得た埒外な存在だったって言われているけど。その最後は人の手によって磔にされて、神の子ではなく人の子だと証明するために槍で体を貫かれている、人の身で神様を傷つける事なんて出来ないはずなのに。それは後に有名な神を貫く槍…ロンギヌスって呼ばれてる……」

『……………………』

 

 響は反射的に自身がこれまでに調べた知識の一つをつい開陳してしまう。過去に戻ってからというものリディアンに入学するまでに自分が出来る範囲で神殺しや神話を調べていたのだ。

 余りにもペラペラと話したものだから皆が驚いた顔で見てしまう。響は自分が浮いているのを察して慌ててブンブンと手を振って自己弁護に入る。

 

「あ、いや神の力って聞いて自分なりに調べたんです!」

 

 神の力と聞いて神殺しをストレートに調べる事に行きつくのはやや不信感があったがこの場では追及されない。

 友里は気を取り直して情報を加える。

 

「前大戦期のドイツでは優生学の最果てに…神の死にまつわる力を収集したと記録にあります……」

「…ッ…だったら……」

 

 調の言いたいことを素早く理解をした友里が表情を暗くして言う。

 

「残念ながら…それは…手掛かりになるかもしれないバルベルデドキュメントおよび戦時中の資料を保管していた…旧風鳴機関本部は統制局長アダムの手によって消失しました…」

 

 その報告に皆が肩を落とす。しかしそれは見方を変えれば。

 

「だが…あまりに周到な一連の動きは…考えようによっては誰にも悟られぬよう神殺しの力を隠蔽してきたと……」

 

 弦十郎この考えにたどり着いた。響はそうですと言いたかったが残念ながらそうはいかない。

 

「つまり切り札の存在を証明しているのかもしれない!」

「うむ…」

 

 マリアは力強くいったがここでそれを証明する術はなく。諜報部の報告待ちとなったため、ここでブリーフィングは一旦お開きになった。

 

 

 響は食堂で配給係の人に皿に料理を盛ってもらっていた。そのそばには杖で片手しか使えない響の補助に切歌と調が。

 

「どう思うよ…?」

 

 クリスはひそひそ声で先に机に着いていた翼とマリアに話しかける。その内容は神殺しについてと、響が何やら知ってそうな事についてだ。

 

「神の力に対抗する力…あの時……」

 

 マリアの脳裏にはヨナルデパズトーリを貫いて見せた響の姿が思い浮かぶ。

 結果誰しもが考える、ガングニールには?と。

 

「もしやガングニールに…?」

「その可能性は私も考えた……がドイツ由来とはいえガングニールに神殺しの逸話は聞いたことが無い……」

 

 二人は響の後姿を見て言う。ガングニールにはそんな特殊な背景は存在しない。

 クリスはスープを口にしながら言う。前よりは行儀が良くなっておりこぼしたり、口の周りにベッタリと付ける事はしない。

 

「もしくは……あいつ自身が何か神の力を無効化する特別な力を持っているかだな」

 

 その一言に全員が何とも言えない気持ちになる。強いて言うなら悲しさに少しだけ振られているだろうか。

 もし仮に響が何か神の埒外物理を突破するなにか裏技を持っているのならそれを口にしない理由が思い浮かばない。無理やりにでもひねり出すならS.O.N.G.の面々を一切合切信じていないという事だ。

 

「まぁ……ここでいくら話し合っても今んとこあたしらに出来るのは待つことだけ……ギアの反動汚染が除去されるまでは……」

 

 クリスは口惜しそうに顔をしかめて言った。

 今も技術者の二人は寝る間を惜しんで作業をしているが、愚者の石を急ピッチで組み込んだ反動はいまだに戻せていない。

 そんな空気を読まない切歌が装者達の使っているテーブルに飛び込んでくる。

 

「デース!」

「う、うおっ!」

 

 クリスは体をのけぞらせて驚いてしまう。突如自分の視界に他人が割り込めば誰だって驚く。

 いつの間にか切歌だけでなく、響と調もテーブルの傍に食事を乗せたトレーを持ってついている。

 

「皆さんに提案デース!二日後の十三日は響さんのお誕生日会を開きませんか?」

「き、気持ちはありがたいけど……今は皆忙しいから気持ちだけ受け取らせてもらうよ……」

 

 切歌の提案に響は及び腰な対応をしてしまう。

 前の世界では未来や友人たちが会場をセットアップしてくれたが、今の未来は仕事が立て込んで忙しいので辞退しようと考えていたのだ。

 それを聞いて調が不安そうな顔に。

 

「もしかして迷惑だった…?」

「いや嬉しいよ…けど今はこんなご時世ですし……?戦えるのも私と切歌ちゃんだけだからさ……」

「せっかくのお誕生日デスよ!?」

「んまぁ…そうだけどね……」

 

 響の否定的な言動に信じられんと言った感じで言い返す切歌。

 彼女の精神年齢は大体二十一歳ほどなので誕生日に対するこだわりが薄いのだ。

 

「ちゃんとした誕生日はお祝いしないとデスよ!」

「……………………」

 

 切歌のその言葉に、前の世界で聞いた話だが、響は相手が白い孤児院という施設に入所した日を誕生日にしていたという身の上を思い出した。

 勿論相手はそれを不幸であると言ってはいないし、不幸だと思って接する事は失礼と分かってはいる。

 クリスは響の沈黙を困っていると思ったのか助け舟を出す。

 

「困らせるな…お気楽が過ぎるぞ……」

「お気楽……」

 

 彼女の脳裏にはかつてカリオストロに言われた言葉がよみがえるが、自分がお気楽とは決して思っていない。むしろ誰よりも自分の存在意義に悩み恐れているのだ。

 持って生まれた気性もあるが心配させたくなくて敢えてそう振舞っている自覚もある。彼女はそんな自分の態度が他者を傷つけてしまったと思った。

 

「あたしのお気楽で…困らせちゃった…デスか……?」

 

 ポツリとそんなこと言う。

 

 

「73808」

 

 黒服の男性の一人の命が散っていく。

 

「73809」

 

 サンジェルマンが右手を相手にかざして青い光弾で相手を貫いて絶命させる。

 

「73810……73811……」

 

 二人の男性の体を貫いて光の粒子へと変えていく。

 彼女の装いは一張羅一つで神社の石畳みの下をはだしで歩いている。

 

「うぞうむぞうがいもあらいってことはぁこっちのけいかくがもろばれってことじゃない?…どうするのよサンジェルマン!?」

 

 サンジェルマンの後ろには鳥居に体を預けるティキがいた。

 その言葉にサンジェルマンは手を一張羅にかける。

 

「どうもこうも無い、今日までに収集した生命エネルギーで中枢制御の大祭壇を設置する」

 

 そう言って服を脱いで全裸で儀式に向かっていく。

 ティキはそんな姿を見て溜息をつく。どうやら死ぬ前に慌てふためく姿を見たかったようだ。

 サンジェルマンは呪文を唱えると、彼女の周りに光の柱が生まれて包まれる。アダムに刻まれた背中の七つの紋章が繋がってオリオン座の形になる。光の柱が六つに分かれてそれが氷川神社に降り注いでいく。

 

「それでも……門の開闢に足りないエネルギーは……第七光の達人たる私の命を燃やして……」

 

 自分の命を燃やして彼女は神の力を召喚しようとする。

 背中に追加にト音記号の模様が刻まれる。それが刻まれた途端少し意識が遠のいた。痛みなのか力に飲み込まれているのか体がのけぞってしまう。

 

「うっ!あ、があああ…あっ…ああああ……」

 

 そんな相手の姿をティキは二ヤツいてみていた。先ほど見れなかった苦しみを見ることが出来て。

 すると傍にあった電話がジリリ…と鳴る。ティキはそれに気が付いて素早く手に取る。

 

「アダム?」

『順調のようだねすべては』

 

 受話器越しから聞こえるのはアダムの声。ティキはそれを聞いて後ろで悶え苦しんでいるサンジェルマンを尻目に。

 

「ほんとサンジェルマンのおかげだよねっ!」

 

 ふと空を見て瞳に映すのは空に浮かぶオリオン座。

 

「てんちのおりおんざがぎしきにさだめられたあすぺくとでむかいあうときほろすこーぷのもんがえがかれる……そのときといちをわりだすのがあたしのやくめ、そして…………」

 

 

「はい……分かりました…今すぐいきます…」

 

 響は端末に出撃命令が入ってきたためそれを取って寮から出た。コツコツと杖を突く音が寮の廊下に響く。外に出ると遠目に雷が発生していた。

 

「いよいよだ……」

 

 正直に言うと今響は明確にサンジェルマンたちを助ける手段がない。

 可能性があるならアダムが出てきた瞬間に全力で攻撃を叩きこんで倒す事だが、相手との実力が乖離しているためほぼ不可能な選択肢だ。

 ただの希望的な観測でしかないが、キャロルの時のようにチフォ―ジュシャトーとハッキングをしたり、デュランダルを用意してくれたり、未来なら何とかしてくれるのではという微かな希望しか正直ない。

 

(それでも最後まで諦めるわけにはいかない……)

 

 響の中にある何かがドクンッ…と呼応した。

 

 

 今本部のモニターには、レイラインに沿って流れているエネルギーがある一手に向かって流れているのが分かるデータが出ていた。

 

「これは…」

 

 マリアが呟くと同時に通信が入る。その相手は風鳴八紘だった。それを見て翼は驚いた。

 

「お父様!」

『こちらの準備は出来ている、いつでも行けるぞ……』

 

 八紘は既にレイライン対策を講じていた。

 

 

 サンジェルマンは激痛で薄れゆく意識の中で自分の中にある大切な人たちを思い返していた。

 

(カリオストロ…プレラーティ…二人の犠牲は無駄にはしない……)

 

 自分についてきてくれてその命を散らせた盟友の顔を思い返す。

 

(そしてお母さん……全ての支配を革命する…為に私は………)

 

 その母親は薄汚い姿ではなく優しく微笑んでいた。

 すると力が流れてる場所に何かの鼓動が発生する。それに気が付いたティキは嬉しそうにする。

 

「ひらいた!かみいずるもん!」

 

(レイラインより抽出された星の命に……従順にして盲目なる恋乙女の概念を付与させる……)

 

 サンジェルマンは両手を宙に掲げてティキを光の柱の中に入れて宙へと上げていく。釣り上げられたティキの口と目に神の力がが突っ込まれ注入されていく。

 

 

 その神の力がオートスコアラーに注入されていく風景を遠目からヘリコプターで見ている響と切歌。

 それを指を差している切歌。

 

「見るデスよ!凄い事になってるデス!」

「うん…あれがレイライン…神の力だろうね……」

 

 響もそれに反応する。

 二人の視界には氷川神社のある七点から光の柱が発生しており、その形はオリオン座の形を逆だった。そこに黄緑色の発行体、レイラインが流れていた。

 響はふと思いついたことを話す。

 

「切歌ちゃん、現場に着いたらサンジェルマンさんに何とか取りついて欲しいんだけど」

「デース…?」

 

 

「レイラインを通じて観測地点にエネルギーが収束中!」

「このままでは門を超えて神の力が顕現します!!」

 

 藤尭と友里の報告に本部は慌ただしくなるが、弦十郎に焦りはない。

 

『合わせろ弦!』

「おうとも兄貴!」

 

 兄弟二人は手に持っていた鍵を備え付けられた鍵穴に差し込んで。

 

『決議執行!』

 

 鍵穴を回す。すると各地にある要石が起動して氷川神社群に流れていたレイラインが遮断される。

 

「各地のレイポイント上に配置された要石の一斉軌道を確認!」

「レイライン遮断作戦成功です!」

 

 藤尭と友里の勝利を告げる報告。

 そして八紘のしてやったりと言った一言。

 

『手の内を見せすぎたな錬金術師…お役所仕事もバカに出来まい……』

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