過去に戻った立花響   作:高町廻ル

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虚しい前哨戦

「あっ…うぇ…あぁぁっ……」

 

 レイラインが遮断され、光の柱が消失。ティキの体への力の注入が止められて力なく地面に落下する。サンジェルマンも儀式の強制終了によって地面に倒れ伏していた。

 

「ティキっ」

 

 彼女が自らに起きた現象やティキが倒れている理由を周りの情報から得ようとするが、それよりも確実に分かる事実が現れる。

 彼女が自然ではない人工的な風がすると感じて上を見るとヘリコプターがあり、そこから今にも降下しようとする響がいた。

 響は体を宙に躍らせると、

 

『Balwisyall nescell gungnir tron』

 

 サンジェルマンの前に二人は着地をする。その片割れである切歌はアームドギアを構える。

 

「そこまでデス!」

「シンフォギアっ…!…どこまでも…!」

 

 サンジェルマンは小銃を構えてファウストローブをまとい響へと突撃する。響もまたイグナイトを起動させて力を底上げさせる。拳と銃口から飛び出した結晶がぶつかり合い鍔ぜりあう。

 サンジェルマンは一瞬賢者の石が無効化されている事に驚いたがすぐさま気を取り直す。

 

「投降してください!こんなやり方ではサンジェルマンさんも未来に生きる人も絶対に幸せにはなれません!!」

「私とお前…互いの信じた正義を握りしめている以上……ほかに道などありはしないっ!」

 

 二人の譲れない願いがぶつかり合う。

 サンジェルマン結晶を伸ばしてブレード状にして斬りかかるが、それを響は避ける装甲で受ける事で全て捌き切る。ブレードを腕を強く振って弾いて隙を作って殴りかかろうとするが、肘に内蔵されている銃口で攻撃されて後ろに飛んで避ける。

 下がったところに切歌が鎌で斬りかかりに行く。それを相手は下がってギリギリのところで刃をかわしていく。下がったところでまたしても銃弾を放つが切歌はそれをかわさずに柄や装甲で受けて飛び込んでいく。

 

「なっ……」

 

 サンジェルマンは驚いていた。イグナイトで防御が底上げされているとはいえダメージ覚悟で飛び込んできている事に。

 ガキィ!と切歌はアームドギアの柄を思いっきり相手の銃にぶつけて封じる。

 

「響さん今デス!…えっ」

「……」

 

 切歌は事前に言われた指示をこなして、響の追撃を待ったがそこで目にしたのは、響が向かっているのは自分と敵の方ではなく地面に倒れこんでいるオートスコアラーだったからだ。

 サンジェルマンは自分ではなくティキを明らかに狙う行為に少しだけ驚いていた。

 

(あのオートスコアラーさえ壊せばーっ!!)

 

 響は迷いなくティキに向かって腕の装甲を肥大化させながら突っ込んで、当たれば確実に破壊できる一撃で、標的の倒れている石畳ごと粉々にした。

 切歌はそれを見てつばぜり合いを止めて後ろに大きく下がる、目の前で起きた現象を脳に落とし込もうとしている。一方のサンジェルマンはそんな光景をじっと見ていた。

 響は拳に届いた違和感があった。

 

「ッ!?…まさか……」

「ティキは作戦の要、仮に神の力の顕現に失敗した際は安全な場所に転送するように事前に仕込んでいる」

 

 サンジェルマンが冷酷に言い放つ。彼女は仲間の命を上に立っている、だから失敗できない。彼女の敗北はティキの完全破壊だ。

 響の拳には石畳のみでティキを破壊した手ごたえが無かった。呆然としている響をみて切歌は声をかける。

 

「響さんとにかく今は目の前の相手デス!」

 

 響は気を取り直してサンジェルマンへと向かっていく。二人の拳と鎌の連携は相手に反撃の隙を与えない。二人は挟み込んで攻撃を直撃させようとするが相手は相手は飛び上がってかわす。

 そして銃弾を下に向けてばら撒いていく。それをイグナイトの防御任せに無理矢理飛び上がって行く。響の拳と切歌の鎌で攻撃を加えようとするがすんでの所で防御壁を張り直撃を防ぐ。

 サンジェルマンは宙に浮く二人を見て小銃に別の弾を補充して放つ。

 

「受けるんじゃない!避けて!」

「ッ!」

 

 響からの指示にとっさに響を抱えて肩のアーマーを噴かせ地面へと逃げていく。避けた弾丸が遠くに飛んで行くと水流が現れて爆水が発生する。

 

「あ、あぶねーデス……」

「信念の重さ無き者に!神の力を持ってして月遺跡を掌握しバラルの呪詛から人類の開放をし支配の歴史に終止符を打つ!」

 

 サンジェルマンはそう言って銃口から炎の龍を生み出して切歌に受けて撃ち込んだ。切歌は信念と言われて少しだけ怯んでしまう。

 響は装甲を回転ドリルのように変形して割り込みそれを受ける。

 

「だとしても!他人を犠牲にするやり方は!!」

 

 響は受け切って攻撃が消滅する。サンジェルマンはそれを見て吠える。

 

「そう!32831の生贄と…40977の犠牲!背負った罪とその重さ…心変わりなどもはや許されないわッ!!!!」

「そんな…そんな揺らぎまくりの瞳で言われても説得力なんてないッ!!」

 

 響はそう言い放って突貫する。

 相手は銃弾を放つそれを響は装甲で受けようと手をクロスするが、銃弾はテレポートして響の側面から攻めてくる。直撃して響は小さな悲鳴を上げてしまう。

 

「うわあっ!」

 

 響は吹っ飛ばされて倒れこむ。そこにサンジェルマンは飛び込んでブレードで突き殺そうとする。それを響は見て。

 

(来た…!)

 

 すべては織り込み済み。サンジェルマンは超至近距離なら関節に内蔵している銃弾は使えないし、結晶を生み出す攻撃も自分を巻き込むため使用不可だ。

 

「響さん!!」

 

 そんなことなど知らない切歌は当然大声をあげるが。

 突き下ろすブレードをギリギリでかわして右脇で挟んで武器を使用不可にする。

錬金術師のファウストローブはシンフォギアのアームドギアのようにメインウエポンを複製できない。だからこの硬直状態から抜け出せない。

 響の背中のブースターを噴かせながらサンジェルマンに左拳の一撃を加える。

 

「があっ!?」

 

 勢いのまま響はサンジェルマンを拳に巻き込みながら飛んで行く。切歌もそれに向かって飛んで行き脚装を響の脚装と連結をさせる。切歌はアーマーを噴かせて加速と螺旋の回転を加える。その一撃は辺り一帯を吹き飛ばしてサンジェルマンを地面に叩きつける。

 

 

 地に倒れ伏すサンジェルマン。先ほどの一撃が効いていた。

 響と切歌は節約の為にイグナイトモジュールを解除している。

 

「ぐ…くぅっ……!」

 

 すると倒れていた相手が僅かに顔を上げて装者二人を睨みつける。

 

「この星の明日の為に……誰の胸にももう二度と……!」

 

 彼女の脳裏に浮かぶのは自分拒絶した遺伝上は父親である男に暴力を振るわれた想い出と冷たくなった母親にすり寄り泣いている自分。

 あんな思いなどもう誰にも味合わせないと誓ってバラルの呪詛を克服すると決めたのだ。

 

「あのような辱めを刻まない為に…私は支配を…革命する……!」

「…………」

「……!」

 

 そう言ってサンジェルマンは僅かにだが力が体に入ってその二つ脚で立ち上がる。

 それを響は静かに見ていた。切歌はあの連携を受けてなお立ちあがったたことに驚愕する。

 だがそれは強がりでしかなくすぐに倒れ伏してしまう。

 響はゆっくりと相手に向かって歩いていく。

 

「全てじゃなくてもサンジェルマンさんの今揺らぎそうになる気持ちは分かる気がするんです……私は今も昔もどうしようもなく頑固で…自分の信念を貫いて多くの人を犠牲にしてしまいましたから……」

 

 響の脳裏に浮かぶのは自分の周りに転がっているシェム・ハに殺された仲間たちの遺体。

 過去に戻った直後は手を取り合う事を捨てようとも考えた。それでもアームドギアを生成出来ないと気が付いてから、苦しみ悩んでも、揺らぎそうになっても取り合う事だけは捨てたくないと言う自分の本心に向き合う事にしたのだ。

 一度悩んで揺らいだからこそ見つめなおして自分の願いと信念を強くする事が出来た。

 

「揺らぎそうになってもいいじゃないですか心変わりしそうでもいいじゃないですか……人はたわむことの無い合金じゃないですから。揺らぐのはサンジェルマンさんがちゃんと命の尊さと向き合えている証拠だと思うんです…だから一緒に考えませんか?…犠牲のないやり方で作れる未来を」

 

 そして響は言う。決めたのだ、自分の頑固さで多くの者を殺めて周りを見れなくなった相手を曲げさせてみると。

 手は五本に開いている。そんな姿をサンジェルマンは顔を上げてじっと見ていた。

 

「手は怒りで握りしめるだけじゃなくて、力を抜いて開くことが出来る事を忘れないで」

「……………………」

 

 サンジェルマンはそんな言葉を発する相手を輝かしいものを見るかのような目で見ている。

 切歌はその話を聞いて鼻の下を指でかいていた。

 

「頑固で傲慢で我儘だお前は…こんな私に手を伸ばそうとするなど…」

 

 サンジェルマンは体を上げて響をそう言った。

 

「だが…世界を変えるのはそんな揺ぎなき…不撓不屈の思いなのかもしれない……」

「そこまでにしてもらうよ…茶番は……」

 

 その声に三人が声のする方向を振り向く。そこにはティキを抱えたアダムが宙に君臨していた。

 さきほど彼女が行っていた安全な場所とはそう言う事だったのだ。

 アダムと笑みが濃くなったと思ったら空にあったオリオン座が赤く輝き力が流れて混んでいく。

 

「……………………」

「何が起きてるデスか!?」

 

 この状況にサンジェルマンも呆然としている。錬金術師として彼がしている事に気が付いてはいるが、それは人の身で出来るスケールを遥かに超えているからだ。

 

 

「これは…天をめぐるレイライン……」

「そんなことが出来るの?」

 

 エルフナインの言葉に未来は尋ねる。

 地球上に流れているレイラインに干渉をするためにどれだけの人命と時間と施設を必要とするのか、チフォ―ジュシャトーに触れたからこそ分かる。

 

「アダムはこの星からではなく天の星々から力を集めるためオリオン座そのものを神出ず門に見立てて……」

 

 青ざめた顔で説明をする。

 未来はここでやっと今起きている現象をわずかだが理解した。

 

「それって……止めようがないんじゃ……天の門やレイラインなんてどうやって干渉をすればいいの……?」

 

 オリオン座の中で地球に一番近い星でも約五百光年離れている。そんな遠くの星など人類がどうこう出来るレベル超えてしまっている。

 だがアダムは詳しい理屈は分からないが、自身の錬金術師としての技術と、自身の中にある生命エネルギーや膨大な魔力を使ってその問題を解決してしまっている。

 

「マクロコスモスとミクロコスモスの照応は…錬金思想の基礎中の基礎だと言うのに…ボクはっ…!」

 

 苦しそうなエルフナインの言葉だけが響いた。

 

 

 アダムの抱えていたティキは赤い光の柱に包まれていく。

 

「遮断できまいよ彼方にあっては……」

 

 アダムは勝ち誇った笑みを浮かべる。

 響はダメ元ではあるが今出せる全力を出そうとする。

 

『Gatrandis babel ziggurat edenal Emustolronzen fine el baral zizzl-』

 

 絶唱を口にしながらティキに向かって飛び込んでいく。

 しかしアダムは持っていた帽子をブーメランのように投げつけて響を吹き飛ばす。理屈は不明だが帽子には高い硬度が付与されていた。

 

「があっ!!」

「抜け目がないねぇ、君は」

 

 響は衝撃とバランスが崩された事で崩れて地面に叩きつけられる。響らしくなく急いた行動を取ってしまう。

 

「いっずぅ…!」

「おいお前!」

「どうして絶唱を……」

 

 サンジェルマンと切歌は吹き飛ばされた響の元へと向かう。先ほどまで敵対をしていたとは思えない行動だった。

 そして宙に鎮座する上司をギッっと睨みつける。

 

「教えてください統制局長!この力で本当に…人類は支配の軛より解き放たれるのですか!?」

 

 アダムは投げた帽子を受け止めて被る。そして悪びれるつもりもなく言い切る。

 

「出来る…んじゃないかなぁ…ただ…ボクにはそうする気持ちが無いのさ…最初からね……」

 

 ここでサンジェルマンは全てを理解して肩を怒らせる。

ここで彼女の視界が真っ赤になる。今まで人類の救済になると信じたからこそ多くの罪のないものを手にかけることが出来たのだ。それをそんな気は最初から無かったなど言われたらそれは。

 

「ッ……!…束かったのか…!?カリオストロ…プレラーティを…革命の礎となった全ての命を……!」

「用済みだな…君も……」

 

 アダムが指を鳴らすとティキの体がギギギ…とぎこちなく動くと首を響達の方へと向ける。口を開いたと思ったらその時には閃光が三人の視界を埋めた。

 アダムは響達のいた場所を埋め尽くす破壊のエネルギーを見てあふれ出る狂気を抑えきれないと言った顔をする。

 

「この威力っ…!」

『Gatrandis babel ziggurat edenal Emustolronzen fine el zizzlッ…!』

 

 しかし直後に爆発の中で聞こえる命を燃やした歌にいぶかしげな顔をする。ティキの発したレーザーを絶唱によって強化をした切歌が巨大化させたアームドギアの刃を高速回転させて受け止めているのだ。

 切歌は叫ぶ。

 

「確かにあたしはお気楽と思われているデス!だけど!!譲りたくないモノや怖いモノだってちゃんとあるデス!この場だけは神の力が相手でも譲りはしないデス!?」

 

 切歌はそこで限界が来てアームドギアごと吹き飛ばされてしまう。

 響は慌てて切歌の元へ駆け寄り体を抱える。

 

「切歌ちゃん…!…ご、ごめん…私が何も考えなかったからこんな…」

 

 響はアダムを見て反射的に頭に血が上って飛び込んだ自分を恥じた。

 サンジェルマンは先ほど「信念の重さ無き者」と切って捨てた相手の中にある、自分とはベクトルこそ違うが誰かを守るための確固たる意志と信念を垣間見て絶句してしまう。

 切歌は意識が朦朧として瞳から血涙を流しながらも掠れた声を出す。

 

「響さんはもうすぐお誕生日デス……誕生日はっ、重ねていくことがっ…大事なのデス……」

「…………」

 

 知っている、だけど響は忘れていた。

 何とか自分が世界を変えなければという事ばかりでいつからか自分の誕生日の事は頭から消えていた。先日、切歌と調に言われて思い出したくらいなのだ。

 

「あたしは……本当の誕生日を知らないから……誰かの誕生日だけは……大切にしたいのデス……」

 

 切歌が体を少し動かすと空のリンカーの入っていたシリンダーが三本出てくる。これで絶唱のバックファイアを和らげることは出来るが、体への深刻な薬害を残しかねないのだ。

 

『直ちに切歌君を回収するんだ!救護班を急げ!体内洗浄の準備もだ』

『はい!』

 

 響はインカム越しに本部の慌ただしい声を聴いていた。会話の背後では調の叫び声が聞こえていた。

 そこでサンジェルマンは二人を庇うように立ちふさがる。

 簡単に敵に寝返るつもりも、自分が築いてきた価値観をそんなあっさりと捨てる気もない。だがここで逃げたら、アダムの勝手を許したら、自分勝手ではあるのだが今までに奪った命に対して顔向けが出来ない。

 

「二人には手を出させない」

「ほう……それが答えかな…君が選択した…」

 

 高みから嫌味ったらしく言う。そんな態度にも臆することなく言う。

 

「神の力……その占有を求めるのであれば、貴様こそが私の前に立ちはだかる支配者だ」

「実にかたくなだねぇ君は……忌々しいのはだからこそ……」

 

 アダムはそう言って光に包まれていくティキを見やる。彼は自分の力に絶対の自信を持っている。だからこそ余裕の相貌を崩さない。

 

「しかし間もなく完成する、神の力は……そうなると叶わないよ?君に止めることなど……」

 

 響は切歌をその場に寝かせると立ち上がりサンジェルマンの横に立つ。

 

「私達は互いに正義を握り合い、終生分かり合えぬ敵同士だ」

「今はそれでいいです。今だけはサンジェルマンさんと同じあの澄まし顔を悔しさでいっぱいにしたいですから」

 

 響の視線はアダムとその背後にあるティキに注がれている。

 ここに来るまでアダムが強いとかティキの脅威ばかり考えていたが今はそんな事など頭から吹っ飛んでいた。

 目の前にあるのは倒すべき人でなしだけだ。

 

「敵は強大、圧倒的……ならばどうする立花響!」

「相手が強大?圧倒的?そんなものは関係ありません何時だって、貫き抗う言葉は一つ…」

『だとしても!』

 

 即席の共同戦線が始まる。

 

 

 ティキに力が注がれていく光景を本部ブリッジでは皆は見ている事しか出来なかった。もどかしい悔しさのようなものが支配する。

 友里がそんなか入ってきた情報を口にする。

 

「救護班切歌ちゃんの回収を完了!」

「良かった……」

 

 調はそれに安堵をする。クリスはそんな彼女の肩に手をやる。

 

「付近住民の避難は?」

「間もなくです!急がせています!」

 

 弦十郎の確認に藤尭は答える。

 翼は拳を握りしめて怒りをあらわにする。神という存在が仲間を傷つけた事に耐えがたい怒りを感じる。

 

「あんなものが神を冠する力だと言うのかッ…!」

 

 マリアは現在進行形で行われている神の力の降臨に焦りを感じている。このままいけばバルベルデの時のヨナルデパズトーリよりも大規模な何かが顕現してしまう。そうなれば次はもう無い。

 

「間に合わないの…!?」

「そうだ神殺し!こっちにだって対抗策があったはずだろっ!?」

 

 クリスの脳裏に浮かぶのは神殺し、かつて優生学の出した結果として神すらも上回れば結果として強い力を得ることが出来ると言う思想。仮に召喚されてもそれがあればいくらでも巻き返すことが出来る。

 

「緒川の指示で調査部が動いている!だがっ…新たな情報については……」

 

 弦十郎は歯噛みする事しか出来ない。

 

 

 サンジェルマンは小銃の銃口をアダムに向けて吠える。

 

「神の力は人類の未来のためにあるべきだ!ただの一人が占有していいものではない!」

「未来?人類?くだらない!」

 

 アダムは帽子を脱いでそれを投げつける。回転しながらも鍔から炎が生まれていく。

 彼女はそれを銃弾で跳ね返そうとするが、跳ね返されるどころか弾いて直進してくる。当たる寸前に目の前に出た響のアッパーが炸裂して弾き返す、帽子はアダムの方へと飛んで行き掴む。

 響の行動に驚くしか出来ない、いくら同じ目標を持っているとはいえあっさりと庇うなど考えられなかったのだ。

 

「何故私を…」

「私のやり方を好きだと言ってくれる親友がいるんです」

 

 響は返しながらも前の世界と今の世界で言われた言葉を思い出していた。

 

『私響の我儘好きだよ』

『でもね、その我儘で傲慢さ私は響らしくて結構好きだよ』

 

「私はどんなに惨めとみられても、どんなにバカだと罵られても、皆が助かるハッピーエンドを目指すんです。そしてその中にはサンジェルマンさんも入ってます」

「な、にを……」

 

 アダムは話し出す響に苛立ったのか両手に炎をまとわせて攻撃をしてくる。2人はそれを素早く避ける。

 サンジェルマンは銃弾を相手に乱射するが全てを踊るようなステップで紙一重のタイミングでかわす。そこで弾を再装填して強烈な一撃を放つが、その錬金術を使って銃弾の軌道がぐにゃりと曲がって外れてしまう。

 

「チィ……」

「やっぱり思えないんです」

 

 響はサンジェルマンに声をかける。彼女はアダムから視線を外し響の方へ首だけ向ける。何故か目の前の超越者よりも優先してしまった。

 

「世間的に見たらサンジェルマンさんがこれまでにやって来た事は悪い事なんだと思います、私も当然そう思います。でもその一面だけを見て一方的に悪党なんだと…罰するべきだと断じることがやっぱり出来ないんです、それをしようとすると何かが気持ち悪いんです。だからちゃんと手を取って話がしたいんです」

「……………………ッ」

 

 響の脳裏にはかつて自分を一方的な情報だけで水を得たかのように、市民権を得たかのように迫害した人たちが脳裏に浮かぶ。

 そしてそれはバラルの呪詛によって生じる不理解だが、それでもなお相手を理解しようとする人間の偉大なる一歩だった。

 そしてその響の意思を甘ったれていると言う事がサンジェルマンには出来なかった。それは神の力にも頼らず、身の上に降りかかる不幸をバラルの呪詛のせいにもしない、簡単なのに難しい気高い一歩なのだから。

 

「立花響……お前が狙うはティキ…神の力へと至ろうとしている人形だ…!器を砕けば神の力は完成しない!」

 

 こうしている間にもティキに力が注入されており刻一刻と時間はなくなっていく。

 

「この共闘は馴れ合いではない……私の我儘だっ……!」

「……我儘だったら仕方ありませんね……」

 

 これは彼女にとっての精一杯の譲歩なのだろう、心を殺してきた長い時間と手にかけた人数、それを簡単に無かった事には出来ない。響は子供の成長を見守る母のような顔を少しだけした。

 アダムは二ヤつきながら地面に降りる。だが響は知っている、余裕ぶっているのではなくガングニールの神殺しを恐れて自分に注意を引こうとしているのだと。それに前の世界でサンジェルマンが言っていた事を思い出す。

 

「余裕ぶっても無駄…本当はあまり余力は残ってないはず」

「…………」

 

 響の一言にアダムは顔をしかめる。機械仕掛けなのに苛立ちが顔によく出る、もしかしたらアヌンナキに失敗作として捨てられたのはそれが原因の一つなのかもしれない。

 

「そうか…先ほどから妙に手心を加えているのは…あのバカ火力を開帳しないのは天の門の開放に力を使い黄金錬成出来ないという事か…分かっているな立花響?」

「はい!」

 

 それは自分がフォローをするから真っ直ぐに迷わず進めと言う合図。

 響は右腕の装甲を肥大化そして推進力を生み出す撃鉄を生成する。サンジェルマンも小銃、スペルキャスターを構える。

 アダムは相手に今の自分の限界を計られて少し苛立つ。

 

「嫌われるぞ……さかしすぎると…!」

 

 サンジェルマンはスペルキャスターから青い龍型のエネルギー弾を放つ。それに対してアダムは帽子を投げつけて相殺するがこれで彼を守る武装が一つ減る。

 響は爆風を突っ切って飛び込んでいく。拳をアダムは正面から受け切るがその際の衝撃で一瞬体が硬直してしまう。

 アダムは気が付いた。

 

「ッ!」

 

 スペルキャスターを剣モードに変えてサンジェルマンが斬りかかってきたのを、素早く手を引こうとするが間に合わない。左腕を切り裂かれてしまう。

 

「うぐあっ!?」

 

 短い悲鳴をアダムはあげてしまう。そして右手で傷口をとっさに抑える。

 

「いまだ立花響!ティキが神の力に至る前に!」

「……………………」

 

 サンジェルマンは隙を逃すなと声を出すが、響は無言で相手を見ていた。アダムは軽く俯いている、一見すれば隙だらけだが怒りの気配が二人に絡みついて逃していない。

 アダムの斬られた左腕の傷口からは血が流れておらず、小さいスパークが継続して発生していた。それは人間ではないと言う証左。

 響は知っていたが、一方でサンジェルマンは予想を超える事実に呆然とする。

 

「錬金術師を統べるパヴァリア光明結社の局長が……まさか……」

「人形」

 

 響の言葉に静かに激高するアダム。

 

「人形だと……」

「…………」

 

 黙る響。

 アダムの抑えていたものが解放される。

 

「人形だとおおおおっ!?」

 

 完全である己を一番優れた存在だと思っているアダムにとって、先ほどのサンジェルマンや響が醸し出した哀れみや憐憫を含んだ視線と声音は到底許容出来るものではないのだろう。だからこそ長い間本来の姿を隠して美青年の姿を無理に取り続けているのだから。

 アダムの激高を聞いてティキが動き出す。

 

「ゆるさない…アダムをよくも…!いたくさせるなんてええええっ!!!!」

 

 その叫びと共にティキに光がまとわりついていく。

 辺り一帯を埋め尽くす光量に響とサンジェルマンは顔をしかめる。

 

「光が……生まれるっ…!」

 

 光が抑えられていくと上空にいるそれを見て二人はつい顔を引きつらせてしまう。

 そこには女性のシルエットこそあるが下半身が魚の人魚のようなバケモノが降臨したのだ。

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