「神力顕現……持ち帰るつもりだったんだけどね、今日の所は」
アダムはそうぼやく。
するとバケモノの胸部分の結晶の中にはめ込まれているティキが口を開く。
『ゴメンナサイ…アダジ…アダムガヒドイコトサレテタカラ…ツイ…』
「仕方ないよ…済んだことは……だけどせっかくだからぁ……」
先ほどまでの取り乱しようが嘘だったかのように落ち着きを取り戻すアダム。しかしその直後その目が見開かれる。
「知らしめようか!完成した神の力を……!ディバインウエポンの恐怖をッ!!」
アダムのその掛け声に呼応してティキは肩口の結晶を光らせたかと思うと光線を発射する。響とサンジェルマンはほぼ反射でそれをかわす。二人のいた場所は既に火の海になる。仮に直撃していたら塵になっていた。
その間にもティキは目に入る生物や建物を手当たり次第に光線で破壊していく。辺り一帯は既に死の香りがしていた。黒い煙に煤の匂い、人が先ほどまで生活していたとは思えない有様だ。
少しだけこの力を見て響の中にある感情が揺さぶられないと言えば嘘になる。このパワーならもしかしたらアヌンナキを倒せるかもしれないからだ。勿論認めるわけではないが、アダムのやり方は兎も角としてアヌンナキへの対抗策ならこの力に少し、ほんの少しだけ揺さぶられた。
だけどやはり今の風景を見て認められないなと響は気合を入れなおす。きっとこの力で倒せたとしてもその先に生きる人に笑顔はきっとない。それにまだ自分には切り札が残っている。神殺しであればティキは倒せる。
上空から見下ろしているアダム。
「人でなし……サンジェルマンはそう呼び続けていたね…何度も僕を…」
響は立ち上がり、サンジェルマンはスペルキャスターを隙なく構える。しかしそれを見てもアダムに焦りはない。
「そうとも…人でなしさぁ…僕は……何しろ人ですらないんだから……」
「アダム・ヴァイスハウプト…貴様はいったい……?」
サンジェルマンはやはり混乱から抜け出ることが出来ないようだった。人でなしと思ってはいたが本当に人でないとは思わないからだ。
「僕は創られた、彼らの代行者として……」
「…………」
響には彼らと聞いてピンと来ていた。アヌンナキ達だ。
「だけど…廃棄されたのさ…試作体のまま…完全すぎると言う理不尽極まる理由をつけられて……」
アダムには目の前の響達ではなく自分を作った相手が見えている。
「あり得ない……完全が不完全に劣るなど……そんな歪みは正してやる……完全が不完全を統べる事でねぇっ!!」
その咆哮に呼応してティキの口にエネルギーが収束されていく。
「撃たせない!」
響は飛び出してティキの殴り飛ばす、ただし前のように頬ではなくアッパーで口を下あごを上げて強制的に閉じさせて。
「ティキ!?」
アダムは流石に焦る。
するとエネルギーが口の中で暴発して頭部が丸々吹っ飛んだ。すると響も巻き込まれて吹き飛ぶが、すぐさまサンジェルマンが受け止める。しかし、辺りにあった廃墟が次々と爆風で吹き飛ばされていく。もし十全に収束されて放たれたら辺り一帯が焦土になっていた。
そんな爆風の中、防御壁を展開して防ぐサンジェルマンは、
「こんな力の為に…カリオストロは…プレラーティは……」
今になって自分が何をしたのかを痛いほど思い知っていた。これはみなを幸せにする力ではない、いわれなき暴力で力なき人を押さえつけるものだと。
◎
「響君たちの状況は…!」
「周辺のカメラはダウンしたままです……急ぎ別視点からの映像を…」
弦十郎の焦燥に駆られたその声に藤尭は慌てて作業に移る。
映像が途切れた事でブリッジにいた全員が焦る。
「各省庁からの問い合わせが……」
「全て後回しだ!!」
友里の報告にも弦十郎は苛立ちを抑えきれないと強い口調で返してしまう。
『どうなっている?』
「ッ!」
突如として前方モニターに現れてたのは風鳴訃堂だった。その顔を見た途端、弦十郎は血の気が引いて落ち着きを取り戻した。その顔に装者達はいぶかしげな表情をする。
『どうなっていると聞いておる』
「はっ…目下確認中であり……」
彼は慌てて報告するが、
『儚き者が……此度の争乱は既に各国政府の知る所。ならば次の動きは自明であろう…共同作戦や治安維持などと題目を掲げ国連の旗を振りながら武力介入が行われることが何故わからん!』
一顧だにされない。
「ですがきっと打つ手はまだあります!そのための我々であり……」
そこで通信は強制的に切られた。
少しの間ブリッジ内は静まり返るが最初に沈黙を破ったのはマリアだった。
「今の通信って……」
「この戦いに風鳴宗家が動くという事だ…!」
翼は険しい顔で言う。風鳴訃堂が動けば碌な結末にならないと分かっているからだ。
「モニター出ます」
そこで残っていたカメラを見つけてモニターに映す。
◎
(どうだ!?)
響はこのシチュエーションになった際に試したかったのは、神の力に神の力をぶつけたら修繕不能になって自滅してくれるのではという事だ。
煙が晴れた先には首より上がゴッソリ削れて地面に倒れ伏す神の力だった。口は無いがどこからかうめき声が聞こえる。
『オオオォォォ……』
「しっかりしろティキ!!覚ますんだ!目を!」
アダムも埒外物理は無敵という前提だったのかあからさまに焦る。
しかし次の瞬間、体がブレたように思ったら既に頭部が再生していた。しかし顎に裂傷が残っており完治はしていない。
復活と共に神の力の影響なのか重力波に影響が出て瓦礫が宙に浮き始めていた。
「だめか……」
「あの負傷でも戻るというのか……」
響とサンジェルマンの顔色は悪い。
ティキが特別に修復力が高いのか、まだ十全に力が扱えないのか、十分なエネルギーを溜め込めてないが故の威力不足なのか。とにかく自滅狙いは難しい、やはり神殺しでなくては有効打は与えられない。
するとティキは立ち上がり宙に浮く。先ほどまでの重傷など無かったかのように。アダムもそれを見てホッとしたのか余裕ぶり始める。
「いいこだねぇ…ティキは……」
『ダッタラ…剥ぐシテヨ…ダキシメテクレナイト…ツダワラナイヨ………』
「山々だよ…そうしたいのは…手に余るそのサイズでは……」
『イケズゥ…ソコモマタ…テュキナンダケドネ……』
二体がそんな会話をしているとサンジェルマンの銃弾がティキを包み込む神の力で構成された巨体に撃ち込まれる。当たるたびに体に埋まりこみひびが入る。
「全力の銃弾で!」
しかし体が光り出すと姿がブレて元通りになってしまう。
「それでもか……」
サンジェルマンは苦々しく相手を見やるしかない。
錬金術をもってしてもダメージを与えることが出来ない。自分がかつて求めた通りのスペックなだけにより虚無感とも言えるものが支配しそうになる。
アダムはそれを見て楽しそうだ。
「不完全な人類は…支配されてこそ完全な群体へと完成する……人を超越した僕によって!!」
「世迷うなよ人形…ッ!」
悪態をつくがそれでも現状を打破する方法が存在しないので怒りに顔を歪める以外の選択肢はない。
「いいえサンジェルマンさん…悲観するのは早いですよ」
「何だと?」
響は勿論気が付いている。先ほどから回復していない部分を。響の策がありそうな言い方に彼女は顔を向ける。
指を差してそれを言う。
「あの顎の部分です。あそこだけは直ってません。さっき頭部全体を直したのに」
それを聞いたアダムの顔が不愉快そうに歪む。
それは勿論響が先ほど殴った場所だ。
◎
本部の映像には頭が再生する姿が映し出される。
「さっきのはヨナルデパズトーリと同じ…!」
「無かったことにされるダメージ!」
調とマリアは映像に映し出される絶望的映像に顔をしかめるしかない。
映像にはサンジェルマンの弾丸を食らい体にひびが入るのだが、それも体が発光したらそくダメージが無かったことになる。
「圧倒的な攻撃と絶対的な防御!」
「あぁ…!…反動汚染の除去が間に合ったとして、どう立ち回ればいいんだよ……!」
しかし響だけは顔が絶望に染まっていない。
『あの顎の部分です。あそこだけは直ってません。さっき頭部全体を直したのに』
よく見るとティキの顎だけ裂傷が残っていたのだ。先ほど頭部を丸々複製したのにあの小さな傷だけは直っていない。
弦十郎はその言葉を聞いて慌てて顎を見やるとそこには確かに傷が残っていた。
「どういう事だ…?」
アガートラームの一撃を食らっても、自身の攻撃で自滅して頭を吹き飛ばしても、サンジェルマンの本気の一撃を加えても平然と復活したのにあの小さな傷だけは直せない。
「司令!解析されたバルベルデドキュメントが!」
「何だと?」
藤尭は突如送られたデータに戸惑いの声を出す。当然それに驚く弦十郎。
『我々が持ちいる限りの資料です』
「は、発信源不明…暗号化されて身元特定できません……」
突如回線に割り込まれて友里は戸惑う。
S.O.N.G.の回線に割り込めるという事はいたずらレベルの相手ではない事は間違いなかった。現にその相手はバルベルデドキュメントのデータを送っている。間違いなく友好的な感情で接触を今試みている。
『ここにある神殺しの記述こそが切り札となり得ます』
「神殺し!?何でまた……」
突如転がり込んできたぼた餅に戸惑うのはクリス。
確かに今目の前で暴れている神の力を打倒しなくてはいけないのは分かっていた。しかし装者達はRPGの勇者ではないのだ、困ったり強敵が現れたら都合よく助言していくれるNPCなど出現するわけが…
『調査部で神殺しに関する情報を追いかけていたところ彼らと接触、協力を取り付ける事が出来ました』
緒川がクリス達の疑問に答える。
すると正面モニターに一振りの槍のデータが表示される。
『神の子の死を確かめるために振るわれたとされる槍…遥か昔より伝わるこの槍には凄まじき力こそ秘められていたものの、本来神殺しの力は備わっていなかったと資料には記されています』
「それなのに…どうして……?」
調の当然の疑問。
目の前の資料の槍は神を殺す神話が存在しないのにそれでも神殺しの力を得てしまったのだと言う。
『二千年以上に渡り神の死に関わる逸話が本質を歪め変質させた結果であると』
「まさか…哲学兵装……」
翼は合点がいったようだ。
哲学、人の気持ちや思い込みによって本来あるべき姿や力を歪める事は稀に起きる。
キリスト教信者は世界におよそ二十億人いると言われているが、その人々が槍は神を貫く物と思い込んだらどうなるだろうか?可能性の一つとして力のある槍に神を殺す力が備わってしまう事があり得るのではないだろうか?
『ドイツが探し求めたこの槍こそ……』
モニターにでかでかとその名前が表示される。その名は。
『GUNGNIR』
「ガングニール…だとぉっ!?」
◎
「ガングニールには神殺しが付与されている」
響はやっとその事実を口にすることが出来た。
アダムは表面上では冷静さを保っているが少しだけ瞳から自信が消えて揺らぐ。
「気取られたのか…ティキ!」
アダムの声と共に肩の結晶が光、力を充填し光線を放つ。響はそれをかわしながらティキに向かって飛び出していく。
「行かせるものか…神殺しィ!」
アダムはそう言って帽子を投げつけるが響はそれを一切避けようとしない。すると当たる直前で横から銃弾がぶつかり攻撃を相殺する。
それを見てアダムが苛立ちに歯を食いしばって眉を怒らせる。
「ぐっ…!」
「なるほど?得心がいったわ。あの無理筋な黄金錬成はシンフォギアに向けた一撃ではなく。局長にとって不都合な真実を葬り去るためだったのね?」
先ほどまで手立てがなく俯くしかなかったサンジェルマンだが自信満々でアダムを暴いていく。
彼女が思い出すのは風鳴機関本部で部下がシンフォギアを倒す寸前だと言うのに無理矢理介入して戦場を高出力エネルギーでかき回したあの件。
「言ったはずなんだけどねぇ……さかしすぎるとオッ!!!!」
激高したアダムはサンジェルマンに向かって一直線に向かっていく。
サンジェルマンは撃ち落とそうと銃弾を放つが全てを紙一重のタイミングでかわしながら距離を縮めてくる。
接近は時間の問題だと察してスペルキャスターを剣状に変形させる。アダムはそれを認めるや千切れかけている左腕を強引に引きちぎって武器代わりにする。
彼女の剣を腕の手のひらで受け止めて見せる。
「馬鹿な!?」
「潰えて消えろ!理想を夢想したままで!!」
二人は切り合うがやはりアダムは錬金術だけでなく体術も桁外れだった。彼女は食い下がるだけで精一杯だったがそれでいい。
「いけ!立花響!!」
「ッ!?乗りすぎだ…調子に…!!」
アダムは響の方へ一瞬だけ意識を向けてしまいサンジェルマンに懐に入るのを許してしまう。気合の入った連撃にアダムは反射的に後方に下がるが。
「私は進む!前に前に!ここで怯めば取り戻せないものに後ずさる!屈するわけにはぁー!!」
これまでにたくさんの命を大義名分があろうとも自分の事情で奪った彼女にそんな資格はないのかもしれない、だがこれまでが間違っていたとしてもこれからも、少なくとも今ここで間違っていい理由には決してならない。
彼女のスペルキャスターから収束させたエネルギー弾がアダムの千切った肩口に直撃する。そうしている間にも響はまっすぐ進んでいく。
アダムはそれを見てこれまでの悠然とした紳士面を投げ捨てて叫ぶ。
「寄せ付けるな!カトンボ!!」
響はティキが殴り飛ばそうと構えたのを見て、右腕の装甲を厚手にして追加された噴出口を思いっきり吹かして迎え撃とうとする。
「うわあああっ!!!!」
『アダムヲコマラセルナアアアアッ!!!!』
二つの拳がぶつかったが砕けたのはティキの方だった。腕にひびが入り砕ける元には戻らない。修繕されない。
『ヒ、ウギャアアアッ!!』
◎
「ディバインウエポン復元されず!」
その戦闘を見ていた本部では高揚というよりも困惑の方が近い、あれだけの無敵性を誇ったバケモノが響の拳に成す術が無いのだから。
「効いているわ……まさか本当に……」
「神殺しの哲学兵装……」
マリアとクリスも呆然と響がティキを圧倒する姿を見る事しか出来ない。
するとブリッジの自動ドアが開く。そこには切歌がいた。調は目ざとく気が付き。
「切ちゃん!」
『バルベルデから最後に飛び立った輸送機…その積み荷の中に大戦時の記録が入っていたんです』
通信相手が言う。
「あの時の無茶は…無駄ではなかったのデスね…」
切歌がホッとしたように言う。
バルベルデドキュメントの情報は決して都合よく転がり込んできたものではない。彼女たちが必死に命と向き合ったからこそ、この場所に来た必然だった。
「教えて欲しい…君の国が手に入れた機密情報を…なぜ我々に……」
弦十郎は当然の疑問をする。
情報は時に命よりも価値がある事もある。たった一つの情報に万単位の死体が転がる事だって平然と。
『歌が…聞こえたので……』
「歌…?」
『先輩が教えてくれたんです……あの時燃え尽きそうな空に歌が聞こえたって…そんなの……私も聞いてみたくなるじゃないですか!!』
◎
響はパワージャッキーで瓦礫を蹴ってティキに向かって行く。腕の装甲をドリル状にして腰のブースターを噴かせて一直線にゆるぎなく。それは自分の迷いを消し去るようで。
「神殺し止まれーッ!!!!」
アダムは慌てて叫ぶが彼の言う言葉に耳を傾けるほど響はお人好しではない。彼は響の揺らぎのない瞳を見る。
アダムは両手を上げて迎え入れるポーズをする。
「ッ!ハグだよティキ!さぁ飛び込んでおいで!神の力を手放して!」
『アダムダイスキイイッ!!』
ティキはそう言って神の力を手放して離脱する。それと同時にそれまでの巨大な肉体は光の粒になって霧散する。響はそれを見てティキに狙いを変えて貫き破壊する。
だが響は知っている、本当の問題はここからなのだと。
下半身がサヨナラしたティキはアダムにねだりだす。
「アダムすき…だいすき……だからだきしめて…はなさないで……」
「恋愛脳め…いちいち癇に障る…だが間に合ったよ…間一髪…」
ティキに嫌悪感をぶちまけたのち視線を上に向ける。そこには神の力の粒子が飛んでいる。
「人形を…神の力を付与させるための……」
きょろきょろと当たりを見渡しながら話す。視界に入ったティキを蹴り飛ばす。既にティキの優先順位は最低まで落ちている。そして目当てのものを見つける。
「断然役に立つ…こっちの方がっ!付与させる!この腕に!」
自身の引きちぎった腕を掲げて叫ぶ。
「その時こそ僕は至るッ!アダム・ヴァイスハウプトを経た……アダム・カドモンッ!新世界の雛型へと!」
だが神の力はアダムをすり抜けて後方へと飛んで行く。
「どういう事だ……」
背後を見るアダム。
サンジェルマンも呆然としている、彼女の知識では響に起きようとしている現象はあり得ないのだから。
そう響の元へと神の力がまとわりつく。
「だから…だって…そんな事が……」
響は呆然とした表情で自分に何が起きたのかに気が付いた。
彼女の体は発光して、そこから光の筋が飛び出してビルにへばりつき大きな肉塊がまたは卵のようなものが宙に鎮座した。それは生き物のように胎動をしていた。
「宿せないはず……穢れなき魂でなければ、神の力を…!」
アダムは今日一番の驚愕を。
「生まれながらに…原罪を背負った人類に宿ることなど……」
サンジェルマンは木から離れたリンゴが地面ではなく空に向かって飛んでいたのを見たかのような顔を。
「台無しだぁっ……!僕の千年計画が……それでも…神の力をこの手にッ…!」
アダムはそう言ってその場から転移した。サンジェルマンはそれを止めなかった、いやもうアダムの事は優先順位が低くなっている。今注目すべきなのは響の事だ。
サンジェルマンの脳裏に浮かぶのは響が泣き笑いで神の力を驚きもせずに受け入れた姿。あれは自分の身に起きる事に気が付いていた者の顔だった。
(立花響…お前はいったい…!)