過去に戻った立花響   作:高町廻ル

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これが真実

 前方モニターに映る光景は沈黙に包まれていた。繭の中から出てきたのはバケモノではなくただの響だったからだ。

 

「いったいどうなって……」

 

 エルフナインはブリッジ内でそれを見て困惑していた。

 彼女の予想に反して、目の前にはディバインウエポンのような巨大兵器ではなくただの人間のシルエットだからだ。

 初っ端から立てていた計画がこけていた。

 未来は一瞬フリーズしたが慌ててその場に待機していた装者に言う。

 

「気をつけてください、神の力の反応自体は消えてません」

「何だと…?」

 

 弦十郎は訝し気な反応をしてしまう。勿論無事とは思っていないがあの姿で神の力とは到底信じられなかったのだ。

 

「はい…確かに響ちゃんですけど…ヨナルデパズトーリとディバインウエポンと酷似したエネルギー波が……」

「しかし見た目は……」

 

 友里と藤尭の報告が困惑するブリッジ内に響いた。

 

 

「……………………」

 

 響の姿をしたモノは空をぼんやりと見つめている。装者達とサンジェルマンはそんな相手を遠目から見ている。

 既に国軍は攻撃を止めている。繭のバケモノなら躊躇なく行けたのだろうが、砲弾をぱっとみの見た目は生身の女の子に向けられるほど覚悟は決まってはいなかったのだろう。

 クリスは取りあえず思ったことを話す。

 

「あ、あいつ何してんだ…?」

「いや、そもそも無事なのか…外傷はなさそうだが……」

「立花響よね…?」

 

 翼とマリアもそんなクリスに呼応して口を開く。何となくだが響が外見通りに無事だとはあの繭を見て思えなかった。

 

「と、取りあえず近づいた方が良いデスか?」

「ど、どうなんだろうね……」

 

 切歌も調も作戦の予定にはない状況に困惑するしかない。

 するとそこで沈黙を保ち続けていた響が口を開く。それにこの場にいた皆が注目する。

 

「奇怪な感覚だ」

 

 その呟きに翼が反応する。

 

「どういう事だ…?」

「我が手ずから討った存在を前にする事がだ」

 

 その言葉は恐らく響以外には理解できないものだった。

 この辺りで皆が気付き始めた、目の前にいるのは見た目こそ響だが中身がどうしようもなく別人であることに。

 

「どうなっている…神の力はあくまでもただのエネルギーでしかない…そこに意思など存在しないはずだ…いやそもそも力が体の外部に固着しないのは何故だ……」

 

 サンジェルマンは必死に目の前の現象を解明しようとするがどう考えても納得のいく回答には至らない。

 

「ど、どうすれば……」

 

 マリアは取りあえず会話が成立するため話し合いでどうにかするべきなのか、事前の計画通りに拘束するべきか迷う。

 するとその瞬間、響が爆撃に包まれた。

 

「な、何してんだよ!」

『日本政府はあれを神の力の兵器と断定!砲撃の命が出た!!』

 

 クリスの咎める声にこの場にいる部隊の上司らしき声が反応する。恐らく命令を出したのは風鳴訃堂だろう。

 煙が晴れるとそこには何もなかった、あったのは先ほどの攻撃で砕けたであろう瓦礫だけ。

 

「どこ行ったデスか!?」

 

 切歌は慌てて辺りを見回す。同じく他の装者たちも必死に響を探す。だが見つからない。

 すると本部の通信から未来の焦った声が響く。

 

『戦車の上!!』

「な…」

 

 その声に翼は反射的に首を向けると一つの戦車の砲身の上に立っている響が。ここにいる面子はいくつもの修羅場を潜り抜けてきた歴戦の戦士だ。その全員の目を盗んで移動したのだ。

 それを見て戦車に乗っている人間が恐々とした声を出す。

 

『いいっ!ヒイッツ!?』

「静々しろ…煩わしい……しかし窮したな…このような者達でも…我は守護せねばならぬか…?」

 

 ブツブツと喋っている響らしい誰か。

 現状殺意はないのだろうが何が切っ掛けで爆発するか分からない。相手が何なのか分からない以上は下手に刺激する行為は危険。

 すると足場にしていた砲身を思いっきり踏みつけてグニャリと曲げて一台の戦車を戦闘不能にする。

 

「これでいいだろう…撤退しろ……」

 

 そう言ってふわりと飛び上がって元いた位置に移動する。

 翼は目の前の相手が敵なのか、味方なのか、中立なのか計りかねたが、ただ分かるのは現代兵器では相手の出来ない超越した存在である事に気が付いた。

 

「戦場はこちらで預かる!撤退を!!」

『我らは日本政府の指揮下にある!国連の撤退指示は受け入れられない!』

 

 翼の忠告も受け取ろうとはしないが、その瞬間戦車の砲身がサンジェルマンのスペルキャスターから飛び出した剣で切り落とされる。豆腐のように軽々と切り飛ばして見せる。

 

「理由が必要ならばくれてあげる」

「助けてくれるのか?」

「今彼らにここに居られても邪魔なだけだ」

 

 翼の問いに素直じゃない返しをしてしまう。すると弦十郎から通信が入る。

 

『翼…取りあえず響君に話しかけてみるんだ…警戒は緩めないように』

「了解…」

 

 翼は緊張をにじませた顔で頷く。まずは相手を知らなくては次善の行動の取りようがない。一歩だけ前に出て切り出す。

 

「先ほどはすまなかった…彼らの代わりに詫びる……」

「…………」

 

 翼はそう言ったが相手は沈黙を保つ。一応視線は向けているので無視はしていない。

 

「聞きたい、あなたはいったい誰だ…?」

「…我の名は…っ……」

 

 翼の質問に答えようとするが響らしき誰かは少しだけ辛そうな顔をして喉元をさする。その行動に皆が怪訝な表情になる。

 

「なるほど…これが我の嵌め込んだ楔、呪い…これは……」

 

 一人で相手は納得していた。すると何かに気が付いたようで手を水平に構えてスッと振った。するとそのモーションだけで辺りに強風が吹き荒れる。その衝撃はみなにも伝わっていた。

 

「なんてことをしてくれたのよ翼ァ!」

「私が悪いのか!?」

 

 マリアは翼を叱責する。やや理不尽な責めではあるが、この状況では翼が何か失礼をやらかしたと考えるのが普通だった。

 よく見ると手を振った先の空間にひびが入っていた、空気には硬度など存在しないはずなのだがそれでも何かが砕けた。

 砕けた穴からアダムが見えた。その顔には驚愕が張り付いてた。

 

「どうやってこの場所を…?」

「そのような児戯…我の目を欺けるものか……」

 

 誰かは呆れた風にそう言う。響の記憶を読み取っているためアダムが潜んでいた事は知ってはいたが正確な場所に必要な分だけの攻撃を撃ち込んだのは彼女の実力だ。

 そこで初めて表情を大きく動かした。どこか醜悪さのある笑みだった。

 

「愉悦であったか?」

「何が言いたい、神殺し……」

 

 アダムはいつもの調子を何とか取り戻して問い返す。

 そこで彼女は決定的な一言を発する。

 

「我のいない間、支配者を気取れて愉快だったか?」

 

 アダムは顔が恐怖で震える。目の前にいるのが誰なのかその一言で気が付いたようだ。

 サンジェルマンは焦りや怒りこそ何度もこの戦場で見たが、恐怖で竦むのは初めて見たのだ。

 

「あり得ない…人に宿るなど…バラルの呪詛がある限り……」

「だが我はここにいる」

 

 誰かはそう言うとグッと足に力を入れたと思うとその場から消えた。すると、

 

「ガあぁアっツ!?」

 

 アダムの叫び声が聞こえた。よく見ると右腕が喪失していた。

 調はアダムをモニター越しではあったものの、その超越した強さは見て知っていたため、彼が何も出来ずにやられているのが信じられない。

 

「何が起こっているの!?」

「また見えなかったデスよ!」

 

 調に呼応するように切歌も埒外な現象に叫ぶしかない。それは他の面々も同様だった。

 響らしき誰かは引きちぎったであろう腕をじっと見て、それから手放して地面に置いたと思ったら思いっきり踏みつぶして再生不能にした。

 すると腕を失って呻いているアダムを挑発するように口を開く。

 

「どうした?手を抜いていては勝てないぞ?いや貴様の手を抜いたのは我だったな」

 

 そのふざけたセリフ言葉にアダムは先ほどまで感じていた恐怖を忘れて顔に憤怒を刻む。その光景に装者達はうすら寒さを感じる。

 

「舐めるな」

 

 響をアダムはその視線だけで射殺せそうなほどに睨みつける。

 彼は覚悟を決めたようだ。すると彼の内部からエネルギーが漏れ始める。その咆哮と共に装いが剥がれていく。

 

「この幾千年、ただ寝てたわけじゃないのさ僕だってぇっ!!」

 

 エネルギーの放出が終わるとそこには先ほどまでの美青年の面影など消えていた。

 肉体が盛り上がり失った両手が再生する。ミノタウロスの意匠を感じさせる赤黒さのある肌に二本の大きな角、極太の尾を持つバケモノの姿に戻ったアダムがそこにいた。

 

「あれが錬金術師の長だと言うの…?」

 

 サンジェルマンはあまりにもかけ離れた真の姿に呆然とするほかない。

 その姿を見ても響は別段驚いた風を見せない。

 

「ほう?終に呈したか真の態を」

「潰してやる…より完全な存在となるために超えるために補い磨いてきた錬金術で……神の力など無くても完全なる僕が」

 

 アダムは複数存在する目をぎょろりと向ける。全力を持ってして響を、その中にいる誰かを討ち取ろうと臨戦態勢に入る。

 本部にいる弦十郎から通信が入る。

 

『翼!とにかく今は目の前にいる統制局長アダムが先だ!!』

「了解!」

 

 全員が目下最大の敵であるアダムにアームドギアを向ける、いつでも飛び掛かれる準備をする。するとその瞬間にアダムが消えたかと思うと響の体が上空高く跳ね上げられる。響のいた地点には拳を振り上げたポーズをとるアダムがいた、一瞬で詰め寄って拳をぶつけたのだ。

 自由落下で地面に近づく体をアダムはその巨大な手で掴んでロックして地面に叩きつけながら引きずっていく。叩きつけられた跡は地面が惨たらしいほどに深くえぐられている。そして地面に擦り付けるのを止めて思いっきり遠くに投げつける。その先に破損が少ないアリーナがありそこに叩きつけられた。

 

「立花ァッ!?」

 

 ここに来て翼は硬直から脱して今目の前で起きた蹂躙劇に気が付いた。もし仮にあの力が自分に向けられていたら間違いなく無事では済まない。

 

「よくもぉっ!!」

 

 クリスはガトリングガンを撃ち込んでいくが当たっても相手の肌に傷つけることが出来ない。

 アダムはいまだに怒り冷めやらない狂気の混じった声で言う。

 

「小賢しい……そこで見ていろ…僕が神を超える瞬間を…」

「ぐうっ!」

 

 すると瞬時に距離を詰めると最初にサンジェルマンを殴り飛ばす。

 そしてそのまま翼にその大木のような腕で殴りかかりにいくがそれを的確にステップと武器で捌いていくが足元崩す攻撃を躱そうととっさにジャンプするがその瞬間に敵は頭を振って頭部の角を思いっきり突き立てる。

 

「あ、ガアッ!?」

 

シンフォギアの防御力でなければ今頃腹部が風通り抜群になっていた。

それを見ていた調と切歌の背後から電話の鳴る音が聞こえる。二人はつい振り向くとそこには黒電話があった。

 

「えっ」

「何でここに電話が!?」

 

 二人がそれぞれ反応をしているとアダムか瞬く間に詰め寄りまとめて殴り飛ばしたのだ。

 

「おまけに悪辣さはそのままデス…!」

 

 殴られた衝撃で倒れたままの切歌は悔しそうに呟く。こんな簡単なフェイントに引っかかった事に自身への怒りを感じながら。

 

「よくも!!」

 

 やられた二人を見てクリスは再度ガトリングガンで銃弾をばら撒くがそれを相手は効いた風がないがそれでよかった。本命はマリアの背後からの強襲なのだから、アダムはそれ気が付いたようだが既に防御できるタイミングは逸している。

 当たると思われたがマリアの体を尾が掴んで巻き付いたのだ。そしてそのままクリスに向かって投げつけた。何とか受け止めるがその瞬間に二人とも殴り飛ばされてしまう。受け止めて動きが止まった一瞬のうちにアダムが殴り飛ばしてしまう。

 

「邪魔をするな歴史的瞬間を…見ていろ神を超える……」

「ま、待て…!」

 

 アダムは既に興味が失せたのか響の体を投げ飛ばした方を向いて飛び出していった。翼は必死で留めようとするが体があまりの痛みで今すぐには動けなかった。

 飛びながらアリーナを見て嘴の形の口をパカッと開くとそこから光線を放つ。アリーナが爆風に包まれて炎上していく。

 彼は自身の攻撃で穴の開けたところからアリーナに侵入すると火の海の中地面に這いつくばるようにして倒れている響を認める。今のアダムは楽しくて仕方ないだろう、自分を否定した神の一柱が自分の力の前に成す術がないのだから。

 

「ふははは…見たかッ…僕こそが完全、所詮は人の身に寄生するカストディアン、アヌンナキなど相手にならない」

 

 勝者の高笑いが二人しかいないアリーナに響き渡る。

 

「さて…トドメは刺そうか…勿体ぶらずにね…これが真の支配者としての第一歩さ……」

 

 そう言ってゆっくりとした歩みで響に近づこうとする。するとアダムの左右から挟み撃つようにして攻撃が加えられる。

 

「ぐっ…なんだ……?」

 

 アダムが周りを見るとファウストローブをまとうカリオストロとプレラーティがいた。

 

「何故ここにいる…始末されたはずだよシンフォギアに……」

「借りは返しに来たワケだ」

「利子付きでね」

 

 驚く相手を尻目に二人はそう言った。

 カリオストロはアダムの計画の裏まで探るためにクリスとマリアとの戦いの際に死んだふりをして一旦身を潜めた。プレラーティはカリオストロに秘密裏に助けられた後アダムに一矢報いるために錬成をしてエネルギーを溜め込んでいた。

 アダムの体に炎がまとわりついていく。それをみて訝し気な反応をする。

 

「これは……」

「先ほどの一撃はラピスの不浄…燃やす力を最高純度まで極めたものなワケだ。それは相手のやましい心に反応してそのものの肉体を焼き尽くすワケだ……消え失せろ統制局長!!!!」

 

 プレラーティの勝利を確信した声に、アダムはその手で脇腹の炎を軽く祓おうとするが消えない。それに焦ったような反応を示す。

 

「ば、ばかな…あるはずが…こんな事など……!」

「あーしらの勝利ってわけねっ!そのブサイク面のまま死んじゃって頂戴!」

 

 カリオストロもその反応に目前の勝利喜ぶ。時間をかけて練って、待ち続けた隙を逃さなかった。

 

「完全なる僕がアアアアッ!あり得ない!こんな事などっ……!…………と反応して欲しかったのかな?まるでやられるラスボスのように」

『な……』

 

 二人が突然余裕そうにしたアダムに驚愕する。すると彼にまとわりついていた炎が一瞬にして消えたのだ。これにはプレラーティにも驚愕を張り付ける、これまで悪辣で非道な行いをしてきたアダムが浄化の炎を消せるとは思えなかったのだ。

 

「どういうワケだ…?」

「燃やし尽くすのだろう?やましい心に呼応して相手を。無いからねぇ……僕に疚しさなどは。僕にあるのは純粋に支配者としての高潔な理想と意思だけだよぉ?全てはカストディアンどもを超えるため人類を正しく一つにするためにねぇ…そもそも通じるとでも君たちの攻撃が?」

 

 アダムは自身の行いを一切合切悪という認識を持たない悪だった。心の中に疚しさも罪悪感も無いからこそ賢者の石の浄化が反応しない。

 

「また邪魔が入った…どいつもこいつも…言ったはずだよそこで見ていろと!」

 

 アダムは両手に炎をまとわせると2人に向かって左右それぞれの手から炎弾を放つ。二人はとっさに飛び上がって逃げるが、相手にはそれを読まれて宙に先回りされてしまう。

 

「いい加減にしろ死にぞこないどもが」

「はやっ!」

 

 カリオストロはとっさに腕をクロスして凌ごうとするがそんな防御行動などバカらしくなる重い一撃で殴られ地面に叩きつけられる。

 

「カリオストロ!?何をするワケだぁッ!!」

 

 プレラーティはやられた仲間を見て激高してけん玉の球を投げつけるのだが、アダムの巨大な手に掴まれて引っ張られる。アダムの元へ引っ張られるとそのまま拳を叩きつけられて仲間と同じ運命をたどる。

 幹部二人を一蹴したアダムは地面に着地したのち倒れている響の体を掴んだ。

 

「掴んだ…まったく…どいつもこいつも……」

 

 そう言って響の体思いっきり握りつぶす。それは普通の人間であれば全身のありとあらゆる骨が折られて即死しかねない一撃。

 

「立花響!カリオストロにプレラーティも!どうなっている!?」

 

 サンジェルマンの声が響く。アダムがアリーナに侵入した際にあけた穴から姿を見せた。死んだと思っていた仲間がこの場にいるのだから叫びもするだろう。

 するとそれに続いて装者たちもぞろぞろと開いた穴から顔を出す。

 

「おいバカしっかりしろ!!」

「響さん…!」

 

 クリスと調は明らかにボロボロで意識を失っている響を見て悲鳴を上げる。

 アダムは響を握りしめていた方の手を宙に掲げる、そして思いっきり地面に自身の手ごと叩きつけた。その衝撃で地面に大穴と地割れが起きたかと思ったらその余力が施設全体にひびいて屋根が砕けて抜け落ちていく。

 そして思いっきり踏みつぶす。入念にすり潰すように。響の体のある場所を踏みつぶしたまま勝どきを上げる。

 

「フハハハハ……これで証明された、この星の正しい支配者はこの僕だと」

「そんな……」

 

 響が絶命したとしか思えない状態にマリアは顔を青ざめさせて膝を着く。

 周りの面々も似たり寄ったりの反応を見せる。この状況で生き延びていると期待をするのには無理があった。

 

「なるほど…貴様の口上を模倣するならば…『そんなバカな…神である我がこんな所で…!』…か?」

「なぁ……?」

 

 響の声色がアダムの足元から響いた。よく見ると足が僅かにだが浮いていた。それは確かに足と地面にスペースが生まれる。

 響の腕はアダムの巨体を持ち上げていた。その光景に唖然と言った反応を示すアダム。バランスを崩して後ろにたたら足を踏んでしまう。

 そんな光景を見た響は、

 

「なるほど…貴様の吐露した通りただ惰眠をむさぼっていた訳ではなさそうだが…なれど我に勝てる道理にはならぬ」

 

 アダムはその余裕そうな言葉に肩を怒らせた。

 

「いい気になるんじゃないぞ!過去に死んだ分際でえええっ!!」

 

 そう叫ぶと体の筋肉が肥大して体長も倍ほどの大きさに膨れ上がっていく。自身に残されたすべての力を振り絞っている。

 お互いに殴り合いを始める。圧倒的な体躯の差があるのに響は一切後ろに下がらない、互角に撃ち合いをしている。アダムが横薙ぎに振り払おうとすれば下から潜り込ませて弾いて直撃を避ける。拳を振り落とそうとしてくれば腕をクロスして腰を落としてガッチリと受け止める。

 

「ならばァッ!!」

 

 アダムは自分の打撃攻撃が通用しないと見るや上空高くまで飛び上がり右手に巨大な火炎、黄金錬成を行う。

 翼はその攻撃を見るや、

 

「不味いぞ退避だ!」

「おいよく分かんねえけどお前もついて来い!!」

 

 クリスはミサイルを使って攻撃範囲からの離脱をしようとする。響もこっちに来て避難しろと声をかける。

 声をかけられて視線を向けた響はとても意外そうな顔をしたが、すぐさま宙にいる相手に向きなおすと、アダムに向かって飛び出していった。火球と拳が突撃して空中で大爆発が発生してアリーナや周りの建物を吹き飛ばしていった。

 翼達はその場で爆風から耐えきるのが精一杯だった。

 更地にした地表を見て噛みしめるようにアダムは言った。

 

「補ってきた錬金術で…僕は届くそして超える……否定した者達を……」

「そうか、それは頼りが外れたようだ」

 

 アダムの更に上空に現れた響は自由落下に任せて頭を蹴り飛ばしてアダムを地面に叩き落とした。

 アダムの肉体という大質量が地面に叩きつけられて事でそれを中心に巨大なクレーターが出来る。その中心に突き落とされたアダムは地面に倒れて僅かな時間茫然自失としていたが、体に力を入れてなんとか立ち上がる。

 

「バカな…あり得ない…幾千年の時を使い研磨して来たんだ錬金術を……」

「さて……」

 

 もはや先ほどまでの強気が消えて言い聞かせる口調になったアダムに対して、地面に着地した響はつまらなそうに言った。

 

「所詮は人形の児戯…欠陥品とはいえ噛みつかれるのは削がれる……いくら神に近づこうがその卑しき思想と躯体は神の威光によって焼かれ爛れ落ちそして……」

 

 響は手を手刀の形にしてスッと振る。すると世界が真っ二つになった。アダムの体が肩口から脇腹にかけて斜に切断された。

 

「堕ちろ」

 

 響は静かに言い放った。

 アダムの体は完全に沈黙した。

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