過去に戻った立花響   作:高町廻ル

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困った時の神頼み

「これでパヴァリア光明結社は終わり……なんですよね……」

「ああ…圧倒的な頭は失われた…組織の瓦解は免れない……」

 

 藤尭の確かめるような言葉に弦十郎は肯定を示す。それにサンジェルマンたちパヴァリア光明結社の幹部たちもこれ以上は神の力を求めて人命を損なう行動は控えるだろう、短い間の邂逅だったが彼女の在り方を知った彼はそう考える。

 結果を見ればS.O.N.G.の大金星なのだが。

 

「だが……」

 

 だが彼の顔色は良くならない。まだ大きな問題が残っているからだ。

 そう響がアダムを終始圧倒して殲滅せしめた。これに対して何かしらの解決策や妥協点を提示しなくては国連や他国の納得が得られない。

 そもそもシンフォギアが日本で独占されている事自体、各国から風当たりが悪いと言うのにだ。

 侵略のための兵器であると因縁をつけられでもしたら反応兵器の使用が議決されかねない。

 

「響……」

 

 未来はらしくない不安そうな顔をする。

 このままでは核兵器によって親友が殺されかねないのだ、前に強気に言い放ったがその身はまだ十代の少女だ、気が気でないだろう。

 そもそも最初のアンチリンカーを大量注入する作戦が行えない以上この場で出来る作戦をするしかない。

 すると八紘から連絡が入る。

 

『弦…今会議は混乱している…立花響は人間であり核など以ての外だという意見と…アダムを倒したその力を危険視する主張…日本が新たな聖遺物兵器を開発したと強引に主張する勢力もある。斯波田事務次官が何とか粘りの交渉で時間を稼いでいるがそう時間はないぞ』

「っ……そうか…分かった…」

 

 とにかく今すぐ核兵器が使われない状況に安堵するがすぐさま気を取り直す。

 

「とにかくまずは対話を図るしかない……」

 

 本部は装者に再び指示を出す。

 

 

「これで終わりなのか……?」

 

 クリスは目の前の決着に対して唖然呆然とした。

 当然である、今までフロンティア事変、魔法少女事変、そしてバルベルデでの紛争など数多の悪事を働いた組織の首魁の真っ二つの死体、厳密には生き物ではないがとにかく目の前に転がっているのだから。

 響が神の力に丸二日間取り込まれて生死不明と思われたら、その繭が割れて出てきた。そう思ったら何一つ姿が変わることなく出てきて喋り方が別人となり、アダムと戦闘を始めたと思ったら圧倒的な蹂躙劇を見せたのだ。

 ここで何をどうすればいいのか彼女に限らず皆が苦慮していた。

 そしてその前には響が立ち止まっていた。じっと自分が手討った相手を見つめていた。

 

「カリオストロ!プレラーティ!」

 

 サンジェルマンはアダムに倒されたであろう仲間に向かって行く。そもそも死んだと思っていた仲間がこうして生きているのが信じられないのもあるだろう。

 二人とも手ひどくやられていたが死ぬまでではない、どちらかと言えばアダムの一撃が装者にやられたダメージが癒えておらず響いた形だろう。

 

「あなたは何者なの?立花響を何処にやったの?」

 

 マリアは錬金術師たちを尻目に聞きたかったことを尋ねる。

 ここにいる全員が響は無事なのか?目の前にいる人物が誰なのか?アダムがいない今次は何をするつもりなのか?知りたいことは山ほどある。

 ぼんやりと相手を見るがふとそこで何かに気が付いたようだ。

 

「……そうか…そうだったな…本来の言語を簒奪され胸中を告げる事が…それもあの忌まわしきバラルの呪詛がか……」

 

 そこで彼女はふと空を見て悲しそうな顔で唇を噛みしめた。

 それは何か昔にした行いを悔いているような。もう戻らない何かを必死にこらえているような、先ほどまで超越した力を見せつけた相手とは同一した人物には見えなかった。

 

「立花響はお前たちを庇保しようとしているが…なら一つ証明してみせよ…お前たち人間がこれから先この星で歴史を紡ぐにふさわしいか…救われるだけの存在では、立花響一人救えないのであれば手元を離れてもこの先の未来など創れまい」

「何を言っている……」

 

 相手の言葉に翼は何を言いたいのか理解できなかった。

 そこで響は自分の左手の手首に右手を添えると一気に切った。その行動に皆が息を呑んでしまう。

 

「何してるデスか!?」

「響さん血が…!」

「久方ぶりの外界である……少しは翫味してもよかろう……」

 

 切歌と調はその行動に驚いた。ここで自傷する理由が思い浮かばなかった。

 響の手首からは継続して出血している。楽しそうな薄笑いをしながら言う。

 

「このままいけば数刻もせずにこの身は逝く……立花響を助けるには我を打倒拘束し治療する他ないぞ?証明してみよ、人の力が我を超過すると。見定めてやろう人は我の手元から独立するに相当か」

「おい……」

 

 クリスは青ざめる、このままいけば響の体は死ぬ。だがアダムを殺して見せた相手をどうやって止めればいいのか分からない。剣は通じるのか、銃弾は、爆薬は、刃は全てが通用するとは思えないのだ。

 マリアはここである事に気が付いた。

 

「アンチリンカーよ……未来が渡した小型の注射器なら止められるんじゃないかしら?」

「そうか何かしらの聖遺物関連の力ならアンチリンカーは有効なはずだな」

「なんつー誕生日だよあのバカは……」

 

 翼も受け取った事を思い出したようだ。勿論この展開を完全に予期していたわけではないだろうが。

 

「叔父様!」

『ああ分かっている!救護班と施設は用意する!』

 

 皆がそれを聞いて臨戦態勢に入る。倒せなくてもリンカーを打ち込むだけなら出来るかもしれないからだ。

 装者たちの会話を妨害するわけでも無くじっと見つめていた響が口を開く。

 

「腹の内は決まったようだ」

 

 特段構えるわけでも無く立ちっぱなしている響。そんな相手に装者全員が飛び掛かった。

 翼が小太刀を生み出して投げつけるが相手は簡単に右腕で弾き飛ばすが、その一つが地面に刺さる。

 しかしその時には響は消えていた。

 

「どこだっ!?」

「影縫いだろう?既知である」

 

 装者達の真後ろに陣取ってそう言った。全員が隙なく見ていたのにそれでなお目を盗んで移動して見せた。

 初見のはずなのに警戒されていたことに驚いた翼だがそこで気が付いた。

 

「何故それを……まさか立花の記憶を……」

 

 切歌はアーマーからアンカーを出して拘束を狙う。

 響はアンカーが体に巻き付けられて拘束されるのだが、巻き付けられる瞬間に腕の装甲を厚くする。そしてすぐさま装甲を解除して、厚手の装甲を含んだ状態できつく締められていたそれが緩んで簡単に抜け出られるようになる。

 

「その隙さえあればぁっ!!」

 

 マリアは気合を入れて叫んだ。

 それでも拘束した一瞬は決して無駄にはならない。響の左右をマリアとクリスが挟むようにして注射を構えて打ち込もうとする。しかし相手は素早く二人の腕を掴んで止める。

 

「あ、がっ…くっそぉッ!!」

 

 クリスは手首を掴まれてなお力ずくで首に打ち込もうとするが、相手の腕力はまるで万力のようでちっとも動きはしない。

 そんなクリスを見て響は軽薄そうな顔で言った。

 

「確か…貴様はこの娘に聞きたい念願があるようだ?」

「んな…てめぇ…!」

 

 クリスはあの事を言い当てられて、そして自分の胸の内の一端を踏み込まれて分かりやすく苛立ちを見せる。

 それはクリスにとってはもしかしたら全てを崩してしまうかもしれない爆弾なのだ。それを何にも知りもしない相手に面白おかしく言われるのは決して気分の良いものではない。

 翼達他の装者陣もその硬直を見て素早くアンチリンカーを打ち込もうと距離を詰めるが、その瞬間相手は体を回転させて勢いをつけてマリアとクリスを投げ飛ばす。マリアの体は調と切歌、クリスの体を翼の方に投げて叩きつける。

 

『ぐうっ!!』

 

 全員が瓦礫の上に体を投げ出される。

 皆の心の中に少しだが心に絶望という毒が流れそうになる。分かってはいたが目の前の誰かは響とは比べ物にならないほどに強いのだ。

 翼はすぐさま立ち上がって両手に刀を生み出す。刃の部分は潰している切らずに済む形を取っている。

ふと辺りを見るとサンジェルマンも立ち上がっていた。

 

「とにかく止めるぞ」

 

 そう言って響に向かって一直線に飛び込んでいく。

 翼とサンジェルマンは剣で切り込んでいくが、全てを紙一重のタイミングでかわしてしまう。何度目かの後方へ回避の中で突如として背中が壁についた。

 

「なに…?」

 

 響は驚いて後ろを見るとそこには結晶の塊が鎮座していた、それが後ろへと躱すスペースを殺しているのだ。それは錬金術師たちが使ってきた技の一つ。サンジェルマンのスペルキャスターがいつの間にか銃モードに換装されている。

 その相手の一瞬の硬直を見逃さずに翼は剣を捨てて両腕を掴んで拘束にかかる。自分の体と結晶で挟むようにして動きを封じようとする。

 マリアが短剣と調のヨーヨーが仕掛ける。

 

「これは…」

 

 一瞬この体を殺す気なのかと思ったが、よく見ると武器には注射器が備え付けられていた。それで仕留める気なのだ。

 それを見るや足を思いっきり踏みつけて地面を陥没させる。それによって拘束を振り払って短剣とヨーヨーをかわして見せる。それをみるや調が思いっきり手をぐいっと引き寄せて攻撃を引き戻して当てようとするが。

 

「その技能など予て……」

 

 そんな分かりやすいモーションに気が付かないわけも無く、調の視線と腕の動きに、ヨーヨーの糸を見て予測立てて簡単に首を振るだけでかわすが。

 しかしそこでプシュッと背中に注射器が打ち込まれた。

 

「な、にが……」

 

 かわしたのに何かが背中に当たったのを見て驚く、そこにはマリアの短剣に備えられた注射器があったからだ。

 

「何故……?」

「調がヨーヨーを引き戻す際にアガートラームの短剣も叩いて戻していたのよ?」

 

 マリアはしてやったりと言った感じで言った。一度ヨーヨーで背後を攻められたら二撃目への意識が散漫になったというわけだ。

 マリアにやられた事で何かを感じたのか相手は口を開く。

 

「事解…あの男の末裔に…敗するか……」

「おいしっかりろよ!」

 

 クリスはぐったりとしている相手を支える。翼はとにかく左腕を強くつかんでこれ以上の失血を避けようとするが。

 

「傷が無い…だと?」

 

 翼は手首を見て驚いていた。そこには血で少なくない量濡れており確かにあの傷があった証明なのだが、肝心の傷口が消えているのだ。

 

 

「響ちゃんは無事です。何とか生きてます!」

 

 友里の声にブリッジから安堵の雰囲気が出る。とにかくこれ以上の被害は出ない。

 そこで翼から連絡が入る。

 

『叔父様……立花なのですが……』

「ああ分かっている今すぐに傷口の手当てを……」

 

 弦十郎はすぐさま救護班を送ると返すのだが、翼はその言葉にすぐさま否定を入れる。

 

『いえ傷がふさがっています…輸血は必要やもしれませんが、これ以上の失血は確認できません…』

「なんだと…?」

 

 響の負傷は致命的なものだったはずなのに傷が既に治癒しているというのは違和感のある話だった。その情報に何をどうするべきなのか計りかねていると八紘がモニター越しに連絡を寄越す。

 

『こちらでも状況を確認している、国連による武力介入は先程否決された……』

「八紘兄貴……」

 

 その報告に弦十郎も感無量と言った感じだ。人は暴力を最後で取らなかったその答えが証明されたのだとこの結末で分かって胸がいっぱいなのだ。

 

『これまでお前達が築いてきた…S.O.N.G.の功績の大きさに加え……斯波田事務次官が蕎麦にならったコシの強さで交渉を続けてくれたおかげだ…』

「人は繋がる…一つになれる」

 

 ここで弦十郎にも笑みが生まれる。まだすべての謎が明らかになったわけではないがそれでも多くの問題を乗り越えて武力ではない世界の意思に彼らは行きついたのだ。

 

『そうだ…反応兵器は使われない』

 

 八紘はそう締めくくった。噛みしめるように。

 するとそこで太平洋沖でミサイルが発射された。

 

「太平洋沖より発射された高速の飛翔体を確認!!これはッ…!」

 

 藤尭の報告に皆の顔に緊張が走る。この状況での飛翔体と言ったらもう一つしか思い浮かばなかったからだ。

 当然八紘はその答えに行きつく。

 

『撃ったのか!?』

 

 普段の冷静沈着さなど投げ捨てた驚愕を張り付けた八紘の顔が深刻な状況を物語っていた。

 米国の成り立ちは神秘に満ちた時代からの独立に端を発している。ここで聖遺物の存在を抹消して人類の人類による人類のための新世界秩序構築の為と反応兵器を放ったのだ。

 それ以外にも、この場に乗じて不利益な情報を持っている日本が保護しているマリア達シンフォギア装者の抹殺という後ろめたい理由も含まれている。

 そしてパヴァリア光明結社の局長アダムを倒した聖遺物兵器の抹消と言った大義名分という事だろうか。

 

「迎撃準備!」

「この距離では間に合いません!着弾まで推定330秒!」

 

 素早く指示を出すが間に合わない。間に合わせないように撃たれたのだから。

 

 

 反応兵器が発射された、その情報は素早く現場の装者達にも連絡が入る。すると遠目にミサイルが飛んできたのが見えた。

 

「だったらこっちで斬り飛ばすデス!」

「だめっ!下手に爆発させたら辺り一面が焦土に!向こう永遠に汚されてしまうッ!」

 

 切歌の勇ましい宣言に調はすぐさま否定を被せる。翼も対処しようがない状況に歯噛みするしかない。

 

「これを使用せよ……」

 

 クリスに支えられてぐったりとしている響が言う。その右手にはテレポートジェムが握られていた。

 サンジェルマンはそれを見て驚いて自分の懐を探る。どうやら切り込んだ一瞬の内に手癖の悪い相手によって取られていたようだった。

 

「それは私の……どこで…いやあの斬りあいの時か…」

「それで逃げろと……」

 

 翼はそれを見て今すぐに撤退しろと言われているのだと受け取ったのだが、相手は首を横に軽く振って否定した。

 

「これに余剰の力を込め、地点をアステロイドベルトに設定、そこであれば汚染は問題無し……」

 

 それを伝えたところで意識を失ってギアが解除される。

 サンジェルマンは倒れている響に近づいて手に持っているテレポートジェムを受け取る。

 

「これの使い方は私が心得ている」

 

 そう言ってミサイルに向かって飛び込んでいく。このままいけばこの地一帯は汚染される。

 それを阻止するための拳に握りしめるのは改造されたテレポートジェムだ。

 

『明日を拓く手はいつだって怒りに握った拳だけだ!』

 

 かつて彼女が言った言葉、だがいま明日を切り開こうとしている拳には怒りも、憎しみも、諦念も何も握られていない。ただ純粋に明日へと繋ごうと切り開こうとする願いだけだ。

 彼女の口元に笑みが浮かぶ、これが怒りのない拳なのかと。

 

 そして本部レーダーから反応兵器が消えた。

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