過去に戻った立花響   作:高町廻ル

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頑張っている君が好き

 エルフナインはパヴァリア光明結社の戦いとの決着から今日にいたるまで気になった事を整理していた。響の事が主だが。

 すると左横からコーヒーの入ったカップがスッと手渡される。相手は藤尭だった。その反対側には友里がいた。

 

「はい……事件収束からもう三日…相変わらず頑張りすぎじゃないかな?」

「響ちゃんも輸血が間に合って無事だったし、ギアの反動汚染の除去も問題なかったわ。少しは休まないと、未来ちゃんなんてずっと休みっぱなしなのよ?」

 

 エルフナインは二人にそう言われる。未来はあの日以降ずっと響につきっきりだ。

 アダムが響らしき誰かに討ち取られてから既に三日が経過していた。

 

「ありがとうございます。ですが一連の経緯をおさらいしないと。気になっているので」

『?』

 

 エルフナインは無理をして言っているわけではない、声にも疲労や焦燥が乗っていないため大丈夫なのだ。そんな彼女を見てオペレーター二人は目を見合わせて怪訝そうな顔をする。

 

『宿せないはず……穢れなき魂でなければ、神の力を…!』

『生まれながらに…原罪を背負った人類に宿ることなど……』

 

 響が神の力に取り込まれた際に言ったこの二つの発言にエルフナインに引っかかっていた。

 

 

 あの後エルフナインは力もテレポートジェムも使い果たして抵抗もかなわず、拘束及び逮捕されて、かつ重症ではないサンジェルマンに話を聞くために拘置所に向かった。

 そこで分かったのは、原罪と呼ばれているバラルの呪詛を魂にかけられている人間は神の力の依り代足り得ないと結社の長年の研究で明らかになっている。

 だからこそティキ、つまり人形を使って神の力の支配下計画を進めたそうだった。

 

『ありえないのだ……立花響が人間であるなら神の力の依り代になるなど……本当に彼女は人から生まれた子なのか……?』

『はい、正真正銘の人間です、それだけは間違い無いです。響さんの身体データは定期的に取ってますし、ご両親は今も健在で出生届もしっかりとしたものが存在しています』

 

 サンジェルマンの問いかけに拘置所内で答えるエルフナイン。

 次は彼女が質問をする。

 

『響さんが取り込まれて繭から出てきた後、人が変わったようになったのは何故でしょうか?』

『それは私にも分からない……ただ局長がいたら何かが分かったかもしれないな……』

 

 サンジェルマンはそう答える。

 アダムは響と相対してからというもの明らかに敵対心や敵愾心をむき出しにしていた。

 それが何故なのかは今は消失したアダム以外知りようがない。

 

 

 そんな会話を思い出しながら考える。

 

(響さんは間違いなく人です…ではどこでバラルの呪詛が解けたのでしょう…?)

 

 彼女が思考する間にもブリッジ内は報告が飛び交う。

 

「司令!ロンドンの緒川さんからです」

「繋いでくれ」

 

 友里の報告に弦十郎が応える。前方のモニターに緒川の顔が映る。

 

「そっちはどうなっている?」

『各国の諜報機関と連携し、パヴァリア光明結社の末端…その残党の摘発は、順調に行われています』

 

 弦十郎の問いかけに緒川が現状報告を行う。

 

「だが、頭を失いこちらで幹部を拘束したとはいえ結社と言う枷が無くなった分…地下に潜伏し…これまで以上に実態がつかめなくなる恐れがある……」

『引き続き、捜査を続けます』

 

 それに対して腕を組む弦十郎、大局を見れば良好だが小さな火種が野に放たれる可能性があるのだ。手放しに喜んでいいわけではない。緒川も気を引き締めて答えた。

 通信が切れた後、ブリッジ内には気味の悪い沈黙が生まれる。これまでのハッキリとした脅威ではなく漠然とした不安がうっすらと靄のように…

 

「カストディアン…アヌンナキ…か……」

 

 弦十郎はポツリと言った。それはアダムが響に向かって言った言葉だ。

 

「それも大事だが藤尭、例の計画はどうなっている?」

「はい準備は万端ですよ!」

 

 

 夕暮れ時の風鳴宗家で風鳴八紘が風鳴訃堂の前で今回の報告を行っていた。

 内容はパヴァリア光明結社との決着と今回米国が反応兵器を放ったことについてだ。

 

「米国は……安全保障の観点からミサイル発射の正当性を主張して来たか……」

 

 それはどう見ても無理のある主張なのだが、八紘は答える。

 

「国連決議を蔑ろにする独断に対し、各国は非難を表明しつつ、それでも、強く対応できないのは……」

「うぅむ……」

 

 唸りながら外の夕焼けを見ていた。

 もし仮に別の国で起きた事ならば自分たちも同じような対応をせざるを得ない。

 

「神を冠する、あまりにも強大すぎる力を、目の当たりにしてしまったが故……」

 

 ヨナルデパズトーリにディバインウエポン、そして局長アダムを赤子の手をひねるように倒してシンフォギア装者達を手加減して圧倒した響のあの姿。

 脅威だろう。今回は世界の端の一諸国で行われた対岸の炎でしかなかったが、もしあの力が掌握された形で自分たちの国に牙を向いたら次に燃えるのは自分たちの懐なのだから。

 そしてそれを行える一歩手前まで行ったのがパヴァリア光明結社だ。

 

「八紘……あの力が我らにあれば、異敵による国土蹂躙も、特異災害による被害も防げるとは思わぬか?」

「!?」

 

 訃堂のその言葉に八紘はなんて神をも恐れない歪んだ思想を持ったのだと恐れた。あの力を見てなお護国のために使おうなど正気の沙汰ではない。

 

 

「未来…どうしたの……」

「いいからついてきて」

 

 響はメディカルルームから手を引かれながら杖を突いて廊下を歩いていた。大きな外傷こそなかったが出血多量で結構危なかったのだ。

 そして手を引かれて着いたのは食堂室の前。食堂と聞いて連想した単語を口にする響。

 

「ごはん?」

「うん、そんな感じ」

 

 未来がそう言って扉を開けるといきなりクラッカーがとトランペットが鳴った。

 

「ようこそ!立花響誕生日会会場へ!!!!」

『ハッピーバースデー!!!!』

 

 弦十郎がウェルカムと言った感じで両手を開いていた。装者達や手の空いていたスタッフがおめでとうと言う。背後には誕生日用の飾り類や「誕生日おめでとう」や「HAPPY BIRTHDAY」と言ったプレートが掲げられている。

 響は頭にクラッカーから出たリボンや紙吹雪を頭にのせてポカンとしてしまう。この光景にはとーっても既視感があったのだ。

 未来がとっていた手を強く握って笑顔で言った。

 

「少し遅れちゃったけど誕生日おめでとう響」

「あ、ありがとう……そっか私十七歳なんだっけ……」

 

 響はいまだに驚きから復活出来ずに間の抜けた答えを返してしまう。二度目の十七歳と言うのもなかなか乙なのかなとちょっとズレた事を考える。

 

「ポカンとしてないで主役は前に出るデスよ!!」

 

 切歌は響の肩を叩いて料理の前まで誘導する。

 つれられたテーブルには色とりどりの野菜を使った料理が所狭しと並べられていた。

 

「うおぉ…凄い美味しそう!!」

「はい、調が頑張ってくれました」

 

 興奮する響にマリアが調の肩に手を置いて答える。バラされて調は恥ずかしそうに頬を赤らめる。

 

「調ちゃん凄いよ!」

「ち、違う違う!みんなで一緒に…!」

「調」

 

 響の驚嘆に、慌てて手を振ってつい否定を述べようとする。そんな姿を見てマリアが軽くだがたしなめる。

 

「…だ、だって…松代で出会ったおばあちゃんから…夏野菜をたくさんいただいたから…」

 

 恥ずかしそうに目を逸らしながらも言う。響はそんな姿を見てにこにこと笑む。

 前は寮で誕生日会だったが今回は潜水艇の食堂で楽しんだ。この後にゲーム大会のようなレクリエーションを行ううちに十時を過ぎてお開きになった。

 

 

 エルフナインは響の誕生会が終わった直後もブリッジ内で調べものをしていた。内容は響が何故神の依り代になり得たのかだ。

 その中で目に入ったのは未来が響の体を侵食していたガングニールを神獣鏡の輝きで祓ったという一面。

 

「これは……そうか…だから響さんは!」

「何かわかったのか?」

「頑張り屋さんだね」

 

 誕生日会の後片付けを手伝って帰ってきた弦十郎と未来がそんなエルフナインの姿を見て尋ねる。

 

「あくまでも仮説ですが…響さんが何故神の力の依り代になり得たのか…その理由が分かりました」

 

 彼女のその報告に驚く弦十郎と興味深そうな未来。

 

「サンジェルマンさん曰く原罪、つまりバラルの呪詛を背負った人類には神の力を手にすることが出来ないとのことですが。あのフロンティア事変の日、神獣鏡の光に飲み込まれた事で響さんの呪いは解かれた…」

「私の一撃で……」

「つまり浄罪されたという事か……」

 

 未来と弦十郎はそれぞれ意見を落とし込んでいた。エルフナインは仮説を重ねていく。

 

「もしかすると響さんが融合者から適合者へと急速に至った謎も説明できるかもしれません」

「でも神の力に飲まれた響のあの変貌はまだ説明できないよね?」

 

 未来の言葉にエルフナインと弦十郎は無言になる。

 敵なのか味方なのか何をしたいのか分からない謎の存在。その正体は響にしか分からないのだから。

 

 

 響は寮を出て真夜中の街を歩いていた。

 

『ちょっくら公園まで顔出せ』

 

 クリスからメールで呼び出しがかかったのだ。何か大事な話があるのだろうと考える。プレラーティが街中に出た事でうやむやになったあれを。

 プレラーティで響が連想するのはサンジェルマン、カリオストロも治療または拘置所で捕まった事。つまり生きているという事だ。

 まさかこんな結末になるとは考えていなかったのだから。

 

 そう考えてふと足を止める。そして内側に問いかける。

 

(どうしてあそこで助けてくれたの…?シェム・ハさん……)

(不服か?)

 

 自分の中に宿っていた神に問いかける。

 目を覚ましてからというもの彼女といつでも喋れるようになっていたのだ。どうやら神の力を使って強くシェム・ハの意識が表面上に出て、強いパスのようなものが出来上がったと説明を受けた。

 あの時力が外部に固着しなかったのも内にいた神が内部で力を消費したからこそ。

 

(そんなわけない!でも助けてくれるなんて…正直思わない…そもそもなんで私の中にいるの……?)

(ふむ…解説すると長々とするが……かの日、お前があの錬金術師の力で過去に戻る際に術式に干渉をし我の意識の断片と呪いをかけた)

 

 響が未来に起きることを話そうとすると喋れなくなるあれは、シェム・ハがキャロルの逆行術式に仕込んだものだったという事だ。

 そう言われて響は、ああそう言えば攻撃されると同時に過去に戻ったなと思い出していた。

 

(あれ……それだと神殺しが……)

(今の我は厳密には術式に意識をのせた存在。またシンフォギアは装着する肉体を守護する機能を帯びている。お前もその足の障害でも力をまとい歌えたであろう?つまり神殺しの影響を受けつつも同時に肉体に宿る我の意識も守っていたわけだ。力の殆どを封じられるがな)

 

 実際にシェム・ハは攻撃を並行世界に押し付ける埒外物理や物質の強制的な組み換え能力は使っていなかった、厳密には神殺しによって封じられていた。

 そして少しだけ声に陰りを見せる。

 

(今ならば些かだがエンキの奴へ共感できる…人が…譲れぬ意思を持ち傷つきながらも進んでいくその尊き姿を守護しようとした意味が……そして一人の巫女を愛した理由が……)

 

 シェム・ハはそう言った。

 響の中にいるうちに人の営みや生き様を見て心が少し揺り動かされて絆されたと。だからあの時パヴァリア光明結社の幹部が死なない方法を残したのだと。

 

(立花響…証明してみせよ…お前たち人間がこれから、この星の未来を司り…そして創って行けると)

 

 きっとシェム・ハどこまで行っても神なのだろう。

 

 

「来たか…」

「うんクリスちゃん早いね、約束の時間よりも三十分前だけど」

「そりゃお前もだろ」

 

 夜の公園にクリスは待ち構えていた。思い出されるのはプレラーティが出てきた夜。

 

『悪かったなあの日ファミレスで地雷を踏んじまって……そんなつもりなかったんだ』

 

 あの言葉、クリスは傷つけたまたは困らせた事に謝罪をしていた。あの前置きがあってなおどうしても聞きたい事があると言った。

 正直聞きたくないと響は思うのだが、クリスの表情は真剣そのもの…向き合わないわけにはいかないだろう。

 言い出しにくそうな雰囲気を出すクリスの為に響から切り出す。

 

「呼び出したのはあの日神社で聞きそびれた事だよね?私で答えられる範囲でなら」

「あぁ…そうだ……どうしてもだ、納得出来ない事があるんだ…もしかしたら気のせいかもしれねぇ……でも小さな棘がチクチクと刺さりやがんだよ……」

 

 クリスは言われて少しだけ悩んだが顔に覚悟が出る。

 

「納得できない事……前に私の事を秘密主義って言ってたね……」

「ッ…………」

 

 響に言った事を思い出してつい顔をしかめてしまう。

 あの時は響の命が融合によって危ぶまれていたためについ強い言葉で言ってしまったのだが、それが響を傷つける言葉になったのかもしれないと考えたのだ。

 

「気にしないであれは私を心配して言った事だって分かってるから、あれは私に非がある事だから」

「そうか……悪いな……」

 

 クリスはこれではどっちが年上か分からないなと思う。

 彼女自身まともな青春時代を送っておらず素直に褒めたり謝罪をした事が殆ど無いのだ。結果として相手に不要な気づかいをさせてしまっているのは分かっている。

 二人の間にこの話は取りあえずこれで終わり!という雰囲気が流れる。

 あらためてクリスが話を切り出す。

 

「言いたくないならこの話の事は黙って無かったことにしてくれていいんだ」

「うん……」

 

 クリスの何度目かの前置きに頷く響。そして切り出す。

 

「マリアとエルフナインがダイレクトフィードバックシステムを使ってリンカーのレシピを探ろうとした日、その間あたしらが何をしたのか覚えてるか?」

「…………へっ?ああ…うん、確か私とクリスちゃん、それに切歌ちゃんに調ちゃんと四人で広場で買い食いした日だよね?切歌ちゃんが不味そうなクレープ食べてた」

 

 その日は後で錬金術師たちが大規模なテロ行為を行った日でもある。そしてリンカーが完成して助力に入り事なきを得た事件だ。

 そして未来が装者として長期間の装着をした事で後遺症を患ったと告白した日でもある。それは響に今でも一定以上の痛みをもたらす。

 響がある程度詳細を覚えていると知って、切歌以外のイベントについて話始めるクリス。

 

「そうだそれだ、そんであの日パブリックビューイングに出たニュースをの内容覚えてるか?」

「うん、ステファン君が義足の装着の為に来日したニュースだよね」

「あぁ…そうだ…」

 

 響の回答にここでクリスが顔を陰らせる。

 ここだとここで踏みとどまれば今の関係性を壊さずに済むと分かっている。俯いて黙るが意を決して口を開く。

 

「何で分かったんだ?」

「……へ…………?」

 

 クリスの質問に響はその意図を図りかねた。

そもそも響はクリスがここに呼んだのはフィーネの正体を何処で知ったのかというそれを聞きたいのだと思っていたのだから。

 

(あぁ……なるほどな……)

 

 シェム・ハはクリスが何を不審に思ったのか理解したようだ。響はまだ理解できていないが。

 

「何であのニュースでステファンがバルベルデから…いやあたしと関りがあると分かった……?」

「え、いや、ステファン君はクリスちゃんの」

 

 響はクリスが何を言っているのかいまだに図りかねている。

 

「そうだ、ステファンはあたしの油断で足を失った。だけどな…その事は現場にいた先輩と…連絡を受けたブリッジのメンバーしか知らないはずなんだよ…内容もせいぜい民間人が一人被害に遭ったくらいだ……お前はその時メディカルルームにいたって聞いたし、ブリッジの連中もあたしに気を遣ってその一件は黙って必要以上に言いふらさなかったんだ」

「……………………」

 

 響はそこで自分の失態に気が付いたようだ。

 前の世界ではステファンが足を失う瞬間を見ていたがこの世界では現場に立ち会っていない。

 ニュースでもバルベルデの一言が出る前に響はうかつにもステファンがバルベルデの少年だと特定していた。その後にクリスに普通に義足の話題を振ってしまった。

 普通であればクリスがニュースを見てステファンの事に驚いてから彼女に聞くべきだったのだ。

 

「それにパブリックビューイングを見ている間、あたしに対して普通にステファンの事を話題にしたよな?誰から事件のあらましを聞いたんだ?どうやって知ったんだ…?」

 

 クリスの不安そうな問いかけだけが公園に響いた。

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