過去に戻った立花響   作:高町廻ル

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こんなつもりじゃ

「ネフシュタンの鎧……?」

 

 翼は最初は一瞬の動揺、そしてそれはすぐに歓喜と不敵さに変わる。

 

「へぇ……って事はあんたこの鎧の出自を知ってんだ?」

「2年前…私の不始末で奪われたものを忘れるものか…何より私の不手際で失われた命を忘れるものか……ッ!」

 

 超然としている相手に苛立つ翼。

そんなやり取りをしているとヘッドフォンから弦十郎の焦った声が聞こえる。

 

『響君!気を付けろ!それはネフシュタンの鎧という完全聖遺物だ!性能だけならシンフォギアより数段上だ!』

 

 するとその直後けたたましいアラームがヘッドフォンから鳴り響く。それは翼の方にも聞こえているのか驚いていた。

 

「ど、どうしたんですか?」

『な……っ!ノイズが数体リディアン周辺に現れた!』

「え……?」

 

 それはあり得ないと危うく口にしそうになる響。翼も目を見開いていた。

(ありえない……だって目の前のクリスちゃんがソロモンの杖を持っているじゃない……)

 いや可能性としてはあり得なくない、小型のノイズをあらかじめ複数体召喚待機させておいて、了子がレーダーに細工をしておけば突如現れたように錯覚させることも出来るだろう。

 

 前に響がノイズ発生の意図されたアルゴリズムを伝えたが、あれは言い当てる事で行動を制限させようとする狙いがあったのだ。しかし今回は逆に前よりも強硬的な手段を取らせるに至ってしまった。

 

 しかしリディアンには了子がいる。つまり死者が出る確率は限りなく低い。仮に彼女以外がノイズに殺されたら一番に怪しまれるのは彼女だ。響を確保してない現状彼女が今の環境を捨てて行動するのはあり得ない。そうなるように布石は最初に打っている。響が敗北しない限りは2課に危害が加えられることは無い。

つまり今回の行動の真意は装者と2課指令室の完全な分断だろう。

 

『翼!響君!幸いノイズの数も大きさも十分こちらで対処可能だ!こっちはいいからネフシュタンの鎧に対応してくれ、逃げまわっても構わない!』

 

 彼は装者安全第一の指示を送る。

 翼は2課の心配をしているのは間違いなのだが、今脳内の大半を埋め尽くしているのはネフシュタンの鎧だ。それしか見えていない。

 刀を構える翼。杖と鎧から伸びる茨のような形態の鞭を構えるクリス。一触即発といった様相。響は慌てて、

 

「翼さん!相手は人ですよ!それに鎧を着てるあなたも落ち着いてください!話し合えば分かり合えます!」

『戦場で何をバカなことを!!』

 

 響の意見は当たり前だがピシャリと敵味方両者に一喝される。しかし、話し合えば分かり合える、これに嘘は無いのだ。

 今のクリスは兵器を手にすること以外で自分の思いも存在を示す方法も知らないだけ。それに実際に分かり合えていた。

 だがそんなことは二人には関係のない話だった。

 

「むしろあなたと気が合いそうね」

「だったら仲良くじゃれあうかい?」

 

 2人のその会話が開戦の合図。

牽制がてらに鞭を縦に振り一閃。二人は左右に飛んで躱す。地面がえぐれる、直撃すれば大けがでは済まない。あの鞭は最低でも約38万キロまで伸びるためあまり距離を取るのは好ましくない、そんなものを至近距離で受けようものなら……

 

 翼が刀を振りぬき斬撃波を放つが、相手は鞭を横薙ぎにして真横に逸らす。鎧を切り裂かんと大きな剣を生み出し切りかかるが、当てようにも簡単に鞭で受け止められてしまう。

攻撃力がガングニールより低いアメノハバキリではネフシュタンの鎧を傷つけるにはそうするしかないのだが、それではスピードが落ちて対処されやすくなってしまう。

ここでの理想形は翼が足を止めて響が全力の一撃を放つことなのだがそれを良しとするとは到底思えない。

 すると剣が大きく弾かれがら空きになる。そこに横薙ぎの一撃が加えられるが反射的にかがんで躱す。しかし敵がそんな防御、回避手段を使い切った隙を待ってくれるはずもなく追撃の蹴りがまともに腹に入る。

 ドッ!っと鈍い暴力の音が炸裂する。

 

「があっ!!」

(これが完全聖遺物のポテンシャルッ!?)

「ネフシュタンの力だなんて思わないでくれよなぁ?」

 

 蹴られた痛みでえずいてしまう。敵は余裕を感じる口調で話す。

翼は空中で何とか体勢を立て直して着地をする。しかし明らかに大きなダメージだった。

響はここに来てやっと覚悟を決めた。戦闘不能にしてでもここでクリスを2課に連れて行くと。たとえそれで嫌われる事になったとしても。

響の意識の変化を敏感に感じ取ったのか翼から意識を外し、響の方へ向く。

 

「お前もちったあやるって聞いたぞ?少なくともあそこにいるのぼせあがったアイドル崩れよりはなぁ?」

「へぇ……誰に聞いたんだろうねぇ?」

 

 力で翼を圧倒した余裕からかおちょくるようなセリフを言う。響はそれを軽口で返す。

すると敵は口元を歪ませる。余裕や愉悦では無く怒り、そう余計な情報を与えてしまったと。

 当然響はその答えを知っているのだが。

 

「ッチ!余計な詮索してんじゃねぇ!!」

 

 苛立った声を出す。

鞭を一直線に飛ばしてくる、突き技だ。攻撃軌道が横薙ぎ、つまり線ではなく一直線の点なので最小限のステップだけで躱すことが出来る。

 鞭は一度勢いよく伸ばすと戻すのに多少のタイムラグがある。それは響に見せるには致命的な隙、そこを狙えば―

 ガアン!と響のダッシュのスピードと右手宿したフォニックゲインを乗せた一撃はクリスの小さな体を吹き飛ばした。いくらネフシュタンが強固でも小柄なクリスの質量が極端に増える事はあり得ない。とっさにもう片方の鞭を胴にグルグル巻きにして致命傷は避けたが、どんなに硬くても殴られた時の衝撃波を消しきるのは不可能だ。

 

「ぐ…く、あぁ…ぁっ………!」

 

 地面に倒れ左手でお腹を押さえ悶絶するクリス。鎧本体に傷は付かなかったが鞭にはひびが入る。この状況下でも右手のソロモンの杖を手放さないのは見事な胆力としか言いようがない。

 

「グ、くぅ…っテメエよくもやりやがったな!」

 

 口調こそ大荒れだが、瞳は理知的な光を取り戻しつつある。

挑発する事で単調な攻撃を引き出しカウンター気味に一発入れる事に成功した響だが、さすがに二度も同じことは出来ないだろう。

 視界の端ではとらえると既に翼が立ち上がり体勢を立て直している。状況は響優位に進みつつある。このままいけばだが。

 クリスもそれに気が付いたのか、右手を掲げると杖の先端が光る。するとノイズたちが現れ翼と響が囲まれる。

 

「な…ノイズだと…」

「あの杖厄介です……」

 

 2人は目の前で起きたノイズ召喚という現象に驚き分析をしている。

 ノイズは一般的に理不尽な自然災害として認識されている。だからこんなワンアクションで出せるなど翼は想定してなかったのだ。

 大小さまざまなノイズたちが攻撃を加えてくる。一体一体は大して強くないのだが、それが軍団で攻めてくるなら立派な脅威になる。これを想定して遮蔽物の少ない空き地を決戦の場に選んだのだろう。

 

 翼はノイズたちに対して小刀を大量に生み出し討伐していくが、いかんせん数が多い上、失ったその場からすぐに召喚されるのだ。生み出す張本人を叩かなくては解決しない。

完全聖遺物であるソロモンの杖は既に起動済みであるためフォニックゲインを消費しないが、シンフォギアをまとう2人は戦うたびにフォニックゲインを消費していくため長期戦なら分があるのは相手だ。

 

 響はそれを察して、クリスに特攻する。相手はそれを察してノイズに指示を出し響の左右を包囲して避けるスペースを奪う、そして鞭で迎撃をしようと足を踏み込む。

響は咄嗟に地面を全力で蹴りつけひびを入れる。風鳴弦十郎直伝の足の踏み込みを活かした体術だ。まだコツを教えてもらっただけで本物には遠く及ばないが。

 ノイズは基本的に物理的な影響を受けないが足で地面に立っている場合のみ、足の裏に地面を通して振動を与えることが出来る。響の起こした地面の揺れによってノイズたちの統制が崩れる。クリスも鞭を放つため踏み込んで体重移動をするため足に力を入れていたため揺れの影響を大きく受けてバランスを崩して前につんのめる。

 

響の右ストレートがバイザーに直撃する。壊れるには至らないが大きくひびが入る。だが相手もただではやられるつもりはない、咄嗟に鞭を射出して響の右わき腹をザシュッ!っと掠める。痛みはあるし血も流れるが致命傷では無い。

クリスは鞭で守れなかった分さっきよりも大きなダメージが入る。吹っ飛ばされたクリスの額から血が流れる。疲労が足に来ているのか膝を着き、ソロモンの杖をその場に落としてしまう。

 

「くっそぉ……ッ!」

 

 ここに来てクリスに明確な焦りが見えた、何かに見捨てられることに怯えているような。

 ネフシュタンの鎧がいくら無限に近い再生能力を兼ね備えてるとしても、使い手までが無限ではない。強力な一撃を加えれば意識を奪う事は十分出来る。

 

 クリスは片膝を着いた状態で攻撃を放ってくるがろくに狙いを定めていないため簡単に躱される。そしてカウンターの一撃を放とうとした瞬間、クリスの口元がニヤリと笑って―響の足元から鞭が飛び出してくる。響の体を腰から胸にかけて切り裂く。響は慌てて大きく後ろに飛んで相手と距離を取る。

 

クリスが片膝を着いた状態から体勢を戻さなかった理由は体で地面に潜らせた鞭を隠すためだった。

 

(こんなに精密な動作が出来たのか…よくよく考えたら体に上手い事巻き付けてたし、了子さんはもっと細かい操作してたな。スピードを殺せばこんなに細かい芸が出来るってわけか……)

 

 己の失策に歯噛みする。もっと冷静に観察していれば避けられる一撃のはずだった。

 

(しかも一見適当そうに放った鞭も私を誘導する意図があったのか……別に舐めてたわけじゃないけど……不慣れな装備でもやっぱり強いや)

 

 先ほどの攻撃が重症に至らなかったのは、クリスの口がにやけたのをみて攻撃を躊躇したからだ。あのまま踏み込んでいたら響はやられていた。

しかしだからといって怯えてもいられない、ここで勝たなければいけないのだから。

 流石に同じ手は食わない。それは相手も同じだが。

 

 クリスは杖を右手で拾い立ち上がる。

再度、距離を詰めに行く、これが最後の攻撃なのは双方が理解していた。お互い既に体力は限界に近い。クリスは落ち着いて響の体力を削るためノイズを召喚する。しかし、翼が召喚した先から投剣でそれを打ち倒していく。

 

「な……」

 

 クリスはいつの間にか周り召喚していたノイズが翼によって全滅させられている事に気が付いた。響に集中するあまり気が回らなかったのだ。この戦いはそもそも2対1だ。

 翼は連戦でピークを越えている体に鞭を打って追撃にと投擲用の小刀を投げつける。

 

「ちょろくせえ!」

 

 敵は鎧を突破できない攻撃に苛立った声を出す。

 左手で持っていた鞭で軽々と弾く。

 攻撃を防いだその隙を響は逃さない。残ってる力のありったけを右手に込めて突進する。クリスは咄嗟に右手に持っている杖で殴り飛ばそうとする。

 杖と拳どちらのリーチが長いか、先に当たるかなど論じるまでもなかった。クリスの口元から勝利を確信した笑みが出るが、咄嗟に体の動きが鈍くなる。

 よく見ると陰に刺さる一本の刃。翼は弾かれる事を計算したうえで攻撃を放っていたのだ。いつもはフォローされる側の彼女が今回はフォローする側に回った。

 そして響の拳が敵を吹き飛ばした。

 

 

 響は翼を見て優し気な笑みを浮かべる。

 

「別に……あれがあの場では一番の選択肢だっただけだ」

 

一方で笑顔を向けられてくすぐったそうにしながら視線を逸らして答える。それはいつものような拒絶ではない。

 しかしすぐさま頭を切り替える。まだクリスを完全に無力化したわけではない。

 ここで2課から連絡が入る。

 

『翼、響君、聞こえるか?』

「…はい叔父様こちらは二名とも無事です」

『そうか良かった!今、了子君と共に車でそっちに向かっている』

「分かりました」

 

 響は翼と弦十郎のそのやり取りを聞いて最後の仕上げに入る。クリスの完全な無力化だ。まだ彼女の意識を完全に奪えていないし、鎧を脱がせる事と恐らく身に着けているであろうイチイバルの回収を行う。

 仰向けで倒れこむクリスを認めると、傍に膝を着きそして変幻自在の五本の指を丸める、そう人を殴る形に変える。これで意識を奪うのだ。

 これで終わりと思った瞬間、響の体が不自然に硬直する。

 

(クリスちゃんは…そうだ……話し合えば分かり合えるんだ、私はそれを知ってるんだ。翼さんだってあれだけ私を嫌ってても最後は助けてくれた……人は分かりあえるって…信じたい……)

 

「わ、わたしは……」

 

 響の拳から力が抜ける、丸められた指がだらりと解けて5本に分かれる。

 

「呆けるな!!」

 

 翼の叫び声が聞こえる。しかし遅かった。

湿ったものを貫く音がする。

 

「あ…れ……?」

 

 響は背中から何かが生えているような何か気持ち悪いような変な感覚を感じる。

 お腹が真っ赤に染まっている。どうやらネフシュタンの鞭が突き刺さっているようで。

 上半身だけ起こしたクリスの体を返り血が真っ赤に染めている。血を浴びている彼女は呆然と何が起こったのか分からないといった表情をする。そして自分が何をしたのか気がついてどんどん顔が青ざめる。

 

―あ、れ……おかしいな…痛いはずなのに何もかんじな

 

 

「あ……な、んで……?」

 

 銀髪の少女の気の抜けたような呟きがあった。

 

―そもそも何で自分の親がボランティアやりたいからって紛争地帯に連れてかれて、親を殺されなければいけないんだ。音楽家のくせに何やってんだ。

 

 翼は響が刺されたのを認めるとすぐさまクリスを攻撃しようとする。クリスもすぐにそれを認め立ち直る。とっさに響を貫く鞭を引き抜く。体がどさりと倒れる。

 

―なんで私が捕虜になって迫害されなきゃいけないんだ。

 

 疲労困憊の翼の攻撃ではネフシュタンに大きなダメージ事など出来ない。基本性能は完全聖遺物の方が上だ。

 

―フィーネの期待に応えたかった。彼女は自分を見てくれるから。

 

 全力で翼を殴り飛ばす。今の翼は明らかに精彩を欠いていた。あんな事をしたのにクリスの思考は変に冷静で。

 

-彼女が口にする世界を一つにする方法を実行すれば争いも自分のような不幸な身の上の子など生まれないと。

 

「あぁ……そうだあいつを回収しねえと……」

 

 呆然とした気の抜けた声で呟く。憂鬱だ。もう死んでるかもしれない。フィーネの期待には応えられないかもしれない。

 クリスは振り返って血だまりをみつめる。

 

「え……?」

 

 思考が停止する。血だまりはあった。でも響の体は無い。

 それに気が付いたときには遅かった。背後から血まみれの響に押し倒される。

 

「おっ!お前何をしてる!?」

 

 相手の行動に焦った声を出す。もがくが逃げ出すことが出来ない。背後から組み付かれて上手く力を加える事が出来ない。

 

「……Gatrandis babel ziggurat edenal-」

「な…何考えてんだよ……そ、その傷で絶唱なんか唱えたら……」

 

 その傷という自分が発した言葉に自分で苦しむ。お前がそれを言うのかと。

 

「Emustolronzen fine el baral zizzl-」

「やめろ!それだけはダメだーっ!」

 

 倒れて動けない翼は声を張り上げて響に静止を促す。かつての天羽奏と今の響は重なって見えた。

 

「Gatrandis babel ziggurat edenal Emustolronzen fine el zizzl」

 

 絶唱を唱え終わる響。

辺り一帯を巻き込む大爆発が起こる。倒れた状況で放った絶唱は地面にエネルギーの大多数がぶつけられたため巨大な砂ぼこりとクレーターが発生する。

 

 翼はその衝撃で吹き飛ばされた。クリスは上から直接叩きつけられたエネルギーと地面に叩きつけられ続けてる分の2倍の威力を味わった。

 そして立花響は―

 

 

「間に合ってくれ…!」

「弦十郎君急いで!」

 

 2人は焦っていた。

装者達の状況は音声として2人にもインカム越しに流れてきている。現在道路交通法を無視した運転で目的地に向かって走っている。

 すると目的地の広場で大きな爆発が起きる。あまりにも激しすぎる爆発に車が横転しかける。

 広場の中に車で侵入し、車をクレーターの傍に付ける。中心には血まみれで体に血がついてない所の面積の方が少なくなっている立花響がいる。

 

「響君!」

 

 弦十郎は慌てて彼女のもとに走る。一方で了子は遠目に翼を見つけたので急いで拾いに行く。そしてネフシュタンの少女はどこかに逃げた。

 

 

 リディアンの傍に建てられた2課の息がかかった病院内。

 響が担ぎ込まれて既に丸一日が経っていた。

 

「出来うる処置はしましたがいまだに状態が安定しません……出血多量による内臓や脳機能に不全が発生しています。それに内臓の一部がえぐれていて麻酔と電気ショックで体への反応を鈍らせて対処しています。正直いつ亡くなってもおかしくない状況です……」

「ありがとうございます。響君を宜しくお願い致します」

 

 医師の現状報告を聞いて弦十郎は頭を下げながらも自分の無力さに苦しむ。医者は言い終わるとくるりとひるがえしその場から立ち去る。

 部下に指示を出す。

 

「俺たちは引き続き鎧の捜索だ。どんな手掛かりも見逃すな!」

 

 彼とその部下はその場を後にする。

 

 一方で翼は待合室の一角で俯いていた。翼自身は打撲や打ち身だけで命に別状は無い。包帯や湿布がまかれて外見は痛々しい。丸一日気を失っていたのだが先ほど目覚めて響の状態を聞いて以降ずっとこの調子だ。

まるで天羽奏が亡くなった直後のようだった。唯一違うのは涙を流していない事だ。悲しみは感じているのに。

 飲み物を片手に緒川がやってきて翼の傍に座る。

 

「何も口にしないと翼さんが倒れてしまいますよ」

「……緒川さん……」

「今の翼さんを見たら響さんも悲しみます」

 

 緒川のその言葉に翼の表情が陰る。脳裏に浮かぶのは血まみれの体で絶唱を唱える響。

 

「……響さんの名誉のため本当は伝えない方が良いのかもしれませんが……」

 

 緒川の言葉に翼は反応する。

 

「響さんは2課の面々に翼さんが欲しいものや好きなものをリサーチしていました。好きなものを餌に何とか気を引こうって言ってました」

「……何で、私なんかのためにそんな……?」

 

 緒川はその問いに首を振る。

 

「それは分かりません。ただ翼さんと戦った後もずっと後悔してました。どう謝ったらいいのかずっと悩んでいるようでした。そのことで一度相談を受けました」

「…………」

「ただ一つだけわかるのは、響さんは翼さんの事が大好きなんだと思いますよ」

 

 緒川の口から出てくる自身にとって予想外過ぎる響の行動に、翼の思考はぐるぐるしている。自分の態度を鑑みるに相手から嫌われているだろうと思っていたのだが、緒川の言葉を信じるならそんな事は全然なかったのだ。

 結局自分はどうしたいのか、何が出来るのか、それに明確な答え出せないまま冷酷に時間のみが過ぎて行った。

 

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