過去に戻った立花響   作:高町廻ル

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心臓の鼓動

 吹雪く中S.O.N.G.の本部となっている潜水艇は南極の傍を航行していた。ティキから取れたデータからアダムの目的がある場所へ装者達を先行して派遣している。

 

「到達不能極の持続密度、フラクタル二千位!脅威レベル三から四に引き上げ」

「算出予測よりも大幅にアドバンス。装者たちの現着とほぼ同タイミングと思われます!」

 

 オペレーター陣は刻一刻と変化する現場に緊張感を持った声で報告を続けていく。

 

「情報と観測データを照合する限り棺とはやはり先史文明期の遺跡と推察されますが……」

「うむ……」

 

 先史文明期の遺産と聞いて弦十郎の顔が一層険しくなる。

 世界に満ち満ちている騒乱には聖遺物やそれに関連する技術が深く根付いたものが多いからだ。何より現代の発展した科学でも証明出来ないブラックボックスが多い。

 するとモニターみたエルフナインがソナーのようなリアルタイム映像を見て弦十郎に報告を行う。

 

「ボストーク氷底湖内のエネルギー反応飛躍っ!数値の上昇止まりません!」

「来るか……棺の浮上に備えるんだ!」

 

 想定通りの展開に装者達により一層の警戒をするように促す弦十郎。

 

 

 ここは南極、厚い雲がこれから起きる騒乱を暗示するかのようだった。

 

「やっぱり寒い……」

 

 響は当たり前の事だが地球の自然が織りなす人の侵入を拒む世界をしっかりと味わっていた。響としては2度目の南極体験だが慣れることは無い。

 現在装者達は二台のヘリコプターに乗っていた。片方には響、翼、クリス。もう片方にはマリア、切歌、調が乗り込んでいた。ちなみにマリアは運転をしていない。

 クリスは手で肩を抱いて寒そうにしている響と反対側で同じように震えている切歌を見て嘆息する。

 

「まぁ…ギアをまとえば断熱フィールドでこれくらい大丈夫だろ」

 

 クリスがそう言った瞬間下のボストーク湖から厚い氷をぶち破って赤黒いレーザーが放出される。そして厚い曇天を突き破って空に風穴を開ける。

 その光景に胆が冷えてみなが南極の寒さを忘れた。

 

「なかなかどうして……心胆寒からしめてくれる……」

 

 翼が独特なワードセンスで驚いている事伝える。皆が大なり小なり同じ気持ちを共有している。

 すると下から氷をぶち破って胴部分だけがずんぐりとした四足歩行の巨大ロボットのようなものが現れる。これがアダムが狙っていたターゲットで、現在S.O.N.G.が標的にしている対象だ。

 

(あれは……)

(ああ…感じる……我の力を僅かにだが……)

 

 響の脳内の問いかけに肯定を示す同居人。

 

「あれが…あんなのが…浮上する棺……?切ちゃん棺って何だっけ…?」

「常識人に酷なことを聞かないで欲しいのデース!」

 

 調が棺を見て目を丸くしたのち切歌に顔を向けて聞くが相手は手に頭を当てて唸るしか出来ない。

 そんな二人を見てマリアは吠える。

 

「いつだって想定外など想定内!行くわよ!」

 

 その掛け声と共に装者達六名はヘリコプターから落下する。そして空中に身を躍らせながら聖詠を口にする。

 

『Balwisyall nescell gungnir tron』

 

 響は挨拶代わりに腰のブースターを噴かせて拳を叩きつけに行くが、相手も腕の部分を振り回して迎撃を図る。つばぜり合うが質量の差で響の方が劣っており後ろに飛ばされてしまう。上手く空中で受け身を取って仲間たちの元へと着地する響。

 マリアは装者随一のパワーを持っている響の一撃を受け止めたのを見て驚いた声を出す。

 

「互角…?でも気持ちでは負けてない!」

「イグナイトモジュールを使えば通るかもしれませんけど……」

「相手の耐久力が分からない以上時間制限付きの一振りは使うべきではないか」

 

 響は通常形態での一撃の手ごたえから演算してパワーを底上げした際の攻撃のおおよその目算を立てるが、翼は賭けに出るのは現状悪手だと述べる。

 棺の頭部に当たる部分が赤く輝いた方思うと一瞬のうちに装者達の視界を染める。

 反射的に飛んでかわすと自分たちがいたところが閃光で埋め尽くされて爆風が吹き荒れる。

 するとその場所から緑の光が発生するとその場に氷の柱が生まれる。

 

「何なんだよあのデタラメは!どうするっ!」

「どうもこうも…止めるしかないじゃない…!」

 

 クリスの驚きと焦燥を含んだ言葉に焦りを滲ませながらも返答するマリア。

彼女達のその視線の先にはロシアの観測基地とそこで逃げ惑いパニックになっている人たちの姿が。

 

「散開しつつ距離を詰めろ!観測基地には近づけさせるな!!」

 

 翼の一言に皆が動き出す。響は走り、調は脚装からローラーを切歌は足の裏にブレードを生み出してスケートの要領で滑るように移動していく。

 二人は小型の回転ノコと鎌の刃を飛ばして一撃加えようとする。棺はそれを手足を地面に着けて体を振るようにして勢いをつけ上空に飛んでかわす。響はそれを見て跳躍し胴に存在する取っ掛かりに手をかけて思いっきり地面に叩きつける。

 響の一撃でバランスを崩した相手は成す術なく地面に叩きつけられる。そこに追い打ちをかける様にクリスが小型のミサイルを撃ちっぱなす。ミサイルが当たり炸裂して辺り一帯に爆風が吹き荒れる。しかし爆風が晴れるとそこには傷1つついていない棺が。

 無傷なうえに反撃の光線を放とうとしてくる相手にクリスは毒ずく。

 

「効かないのかよっ!」

 

 後ろに飛んでかわすと、それまで彼女がいた場所が閃光に包まれる。その跡地にはやはり氷の柱が屹立していた。

 

 

 ブリッジではその光景を見て緒川が、

 

『接近する対象を苛烈に排撃…こんなものを……はたして棺と呼ぶべきでしょうか…?』

『攻撃ではなく防衛…不埒な盗掘者を寄せ付けないための機能だとしたら…どうしようもなく棺というより他あるまい……』

 

 緒川の指摘に弦十郎は唸るほかない。敵の力はノーマル形態のシンフォギアに負けていないのだ。イグナイトモジュールでも単発の一撃では殆どダメージが見込めない。その上敵の攻撃に当たれば予想の範囲でしかないがギアのバリアフィールドでも耐えられるかどうか。

 そしてこれだけの防衛機能を兼ね備えているのならあの巨体の中に眠っているのはよほど人目に触れられたくない何かが眠っている。

 それに気が付いて弦十郎の顔に険が刻まれる。

 

(だとすれば……棺に眠るのは本当に……)

 

 そしてその答えは響しか知らない。

 そこで友里が映像を見て報告を行う。

 

『司令!棺に新たな動きが!』

 

 緒川も弦十郎も思考を打ち切って映像に意識を向ける。

 

 

 棺の滑らかな表面から棘のような突起状のイボイボが現れる。それらがミサイルの様に発射されたかと思うと、弾丸一つ一つが小型の飛行ユニットへと変化する。その一体一体が光線を放ってくる。

 響は腕の装甲で光線を受け止め弾きながら突貫していく。そして宙に飛び出すと、マフラーに力を入れ、パワージャッキーで空を蹴って回転して振り回して飛行ユニットたちを破壊していく。

 切歌はフィギュアスケートの要領で調を持ち上げる、調はヘッドギアを伸ばしてその先に大型の回転ノコ振り回して敵を蹂躙していく。

 

「こちらの動きを封じるために!」

「しゃらくさいのデス!」

 

 数で押そうとしてくる相手に苛立ちを見せる調と切歌。

 

「濡れ雀なんぞに構いすぎるな!」

「ならば行く道をッ!」

 

 クリスはガトリングガンを乱射して、翼は短剣を大量に召喚して棺の周りにいる敵を討滅する。棺と装者達のいる場所まで一本道が開ける。響とマリアはその足跡のステージを真っ直ぐに走っている。

 

「最速で!最短で!」

「真っ直ぐに!一直線に!」

 

 響とマリアは腕の装甲をドリル状に変形させて棺の胸元部分に向かって拳を突き出して飛び出す。そして歌を重ねて強烈な貫通力を込めた一撃を加える。

 胸元に埋め込まれていた結晶が先ほどの一撃で砕ける。翼はそれを見て二人に注意喚起をする。

 

「効いている!それだけだ!」

 

 今の一撃から敵はすぐさま立て直すと腕で思いっきり地面に二人をはたき落とす。敵の質量と体重が乗った一撃は2人には重く一瞬だけ意識が飛んでしまう。

 

「二人とも!」

「しっかりするデスよ!」

 

 調と切歌はすぐさ地面に叩きつけられた二人の元へと向かって寄り添い体をゆする。

 当然相手はそんな怯んで動けない敵を見逃すような良心的な存在ではなく、光線を照射してトドメを刺そうとする。

 

「来るぞ!?」

「ま、にあえええっ!!」

 

 翼は剣を構えてその一撃を受けようとする。それを見てリフレクターを生み出したクリスが攻撃の範囲内に体を滑り込ませた。装者達を赤い光線が包み込んで痛烈な炸裂音が発生する。するとその場にやはり氷の柱が発生する。

 

 

 ブリッジ内では装者達の現状確認と先ほど放たれた攻撃のギアを通じての詳細なデータ解析が行われていた。

 

『リフレクターによるダメージの軽減を確認!』

『棺からの砲撃…解析完了!マイナス5100度の指向性エネルギー波…って…何よこれっ!』

 

 藤尭と友里の報告の声が響く。マイナス5100度とは物理法則上では決して出せない未知の数値。だが門前の敵はそれを容易く引き出す。

 エルフナインもまた驚愕していた。シンフォギアの構造に詳しいからこそいま装者たちが置かれている危機的状況に気が付いた。

 

『埒外物理学による…世界法則への…干渉…こんなのっ……現在のギア搭載フィールドではっ…何度も防げません!』

『絶対零度って嘘でしょ……』

 

 未来は実際にまとった事があるからこそ物理を大きく逸脱した一撃の危険性を分かっていた。

 

 

 奏者たちは絶対零度を上回る一撃を受けて氷漬けになり、気絶または意識が朦朧としている中、それを遠くから観察している2人の少女がいた。

 その装いは雪景色の中に白いローブを被っており、よほど周りを注視していなくてはその姿を見つけることは叶わない。

 

「あっけなく…やられちゃったで…ありますか……?」

 

 片方の少女が手で円を作りそこに目を入れて望遠鏡の様にして観察をする。ただしその手の形に具体的に遠距離の物体にピントを合わせる機能があるわけではなく、あくまで観察をしているというポーズだ。

 そんな呑気なことを言う相手の相方と思われる赤いメッシュを入れている少女は寒さからか鼻を啜ってぼやく。

 

「う~っ……うちらじゃまるで敵いっこないデカブツが相手とはいえ……もーっちょっと踏ん張ってもらいたいものだぜ」

 

 すると―

 

『ぴんぽんぱんぽーん!』

「!」

 

 そこで彼女の耳元に声が聞こえる。厳密にはテレパシーが送られてくる。

 

『どう?そっちは順調かしら?』

「棺の浮上を確認した所だぜ」

 

 テレパシーを送ってくる相手に現状報告をするメッシュの女。

 先ほどまで望遠鏡のポーズで観察していた少女は胡乱気な感じで暴れまわる棺を瞳に映していた。

 

「本当に局長はあんなものの…棺の復活を阻止して、この星の支配者になろうとしたのでありますか?」

『今となっては分からないわねぇ……少なくとも私達の目的は局長とは違う……こちらの狙いは、棺の破壊ではなくその活用だもの……そう…これは未来を奪還する戦い…だから絶対に果たさなければならないわ』

 

 

「装者六人いまだ昏睡状態!このままではっ…!」

 

 友里が液晶パネルを操作しながら口を開く。

 シンフォギアのバリアフィールドを持ってしても埒外物理を使った絶対零度を超える一撃は相当堪えており装者達はいまだに起き上がれない状態なのだ。

 弦十郎はそれを見て唸ったのちにブリッジの外に出ようとする。それを見て緒川は慌てて声をかける。

 

「司令!」

「案ずるな。ステテコ重ねた二枚履き…凍える前には片を付ける」

「そ、うではなく…」

 

 弦十郎は呼びかけられて足を止めると相手に対して何とも無いと言った感じで返す。緒川はそれに唸るしかない。そもそも絶対零度は重ね着でどうこうなるレベルではないのだが。

 そんなやり取りをしていると部屋の前方パッと明るくなる。二人は何事かと思ったら前方モニターの映像に光の球が映ったのだ。

 友里はすぐに起きた現象を説明する。

 

「照明弾です、棺の進行停止」

 

 モニターに照明弾を放った人物がズームされる。そしてそこにいた人物たちの音声も拾う。

 

「何やってるんだ!」

「女の子がこんな寒い所で!お腹を冷やしたら大変だろ!」

 

 照明弾を放った男性に咎める別の職員だが、知った事かと相手は強気に言い返す。

 この場でシンフォギア装者の戦闘の余波に巻き込まれる事を考えたら、ここで気を引くことよりも素直に避難をした方が賢明なのだが、今ここで彼が恐怖を押さえつけて抗いようのない強敵を前に牙を剥こうとする姿を誰も咎められなかった。

 その会話は奏者全員にも通信越しで聞こえていた。

 照明弾を目障りだと思ったのか装者達よりも先に光線を基地に向かって照射する。先ほどの男性たちも余波に巻き込まれるが運よく誰も亡くなってはいない。

 

(なんどきまで微睡むつもりだ?)

(分かってる…みんなが諦めないなら…私がここで止まる理由にならない……)

 

 シェム・ハは呆れた口調で響に語りかける。響もその声に頷く。

 すると響の指がピクリと動いて、グッと拳を握るとギアが仄かにだが光り輝いてエネルギーが爆発する。

 その様子は本部でも観測されており、

 

『響ちゃんのフォニックゲイン値が急上昇!』

『このエネルギー…絶唱並だぞ…!』

 

 オペレーター二人の驚きの声が響く。攻撃を受けて沈黙していた響が突如として高レベルのフォニックゲインをまとい始めたのだ。

 響は氷を砕いて飛び出すと、二射目を放とうとする棺をそうはさせまいと勢いそのままに殴り飛ばす。

 彼女が勢いよく飛び出した余波で他の装者達を戒めていた氷が砕けて自由になる。

 

「相変わらずかっこよすぎかよお前は」

「戦場に立つのは立花一人ではない!」

 

 クリスと翼は響の背後で武器を構えて棺に相対する。マリア達も同じく武器を構える。

 すると通信でエルフナインの声が届く。

 

『みなさん!僕は…僕の戦いを頑張ります!だからっ…!』

 

 響はその言葉に僅かに笑みを浮かべたのち拳を強く握って言い放つ。

 

「負けられない、胸に歌があるから!」

 

 吹き飛ばされた棺は響達が立ち上がったのを見ると再び体から突起を生み出して小型ユニットを射出する。それらは連結して槍のような形を取って串刺しにしようと装者たちに突貫してくる。

 響は矛先が当たる前に側面を叩いていなしながら親玉に向かって行く。

 

 響に逸らされて一部のユニットたちは氷を貫いて下の湖落ちていき、湖の上に張っていた氷を破壊して水が顔を出す。

 翼は剣をサーフボードの様にして水面を滑るように移動していく。するとユニットたちは水面下から串刺しにせんと氷を生み出す埒外物理攻撃で巨大な氷柱を水面いっぱいに生み出す。しかし翼は素早く水面から離れて脚装のブースターで空を飛ぶ。そしてコマのように回転しながら剣で空中の敵を蹂躙していく。

 

 クリスは四方八方から放たれる光線を腰のアーマーから発される防御壁で防ぎつつ、両手にボウガンを生み出して大型の矢を4本放つ。上空まで飛んだらその矢が分裂して雨のように放たれ殲滅していく。

 マリアは剣を蛇腹に伸ばして敵ユニットたちを殲滅していく。

 

 逃げ遅れた女性職員が敵の攻撃の餌食になりそうになるが調がそうはさせないとヨーヨーを投げつけて撃ち落とす。そしてヘッドギアに搭載されている大型の回転ノコを投げ飛ばして敵たちを打ち倒す。

 ユニットたちは集結してそれぞれの光線の力を収束させて強力な光線を調に向かって放っていく。それをノコを盾にして防いでいくのだが流れ弾の1つが今まさに逃げていた女性を掠めて背後で爆発する。響は爆風で飛ばされた女性を受け止め抱える。

 切歌は刃を投げ飛ばし、そして鎌を二本生み出し敵を切り刻んでいく。

 

「大丈夫ですかっ!」

 

 響が相手の安否確認をしている間にも背後では小型ユニットたちが響を貫こうと突進、そして前方では棺が光線を放とうとエネルギーを溜めて構えている。

 するとそこでエルフナインから通信が入る。

 

「攻撃きます!ぶん殴ってください!」

 

 響は言われるまま光線に合わせてパワージャッキーで飛ばされないように体を固定して思いっきり拳を光線に向けて突き出すと、攻撃がぶつかり後方にそれていき背後のユニットたちに当たり殲滅していく。

 

『拳の防御フィールドアジャスト!』

『即席ですがエルフナインちゃんが間に合わせてくれました!』

 

 ブリッジでは響が起こした現象の説明に入る。

 エルフナインはグッと拳を握る。

 

『解析からの再構築は錬金術の原理原則!これが僕の戦いです!』

 

 響の拳が敵の最大攻撃である光線を受け止めている間に、他の装者たちは今自分たちの出せる最大級の遠距離技を放って吹き飛ばす。

 しかしそれで倒せたらここまで苦労はしない。敵はすぐさま立ち直り、体に棘を生み出し取っ掛かりにし体を丸めてタイヤの様に回転して突撃してくる。響はそれを見て背後を確認する、いまだに遠くまで逃げきれていない職員を見て正面から受け止める事に。

 右腕の装甲を肉厚にして腰のブースターで勢いをつけて殴りつける。お互いに互角のつばぜり合いになるが、そこで響が左手ででっぱりを掴んで回転エネルギーを強制的に止めてしまう。そして―

 

「うわあああっ!!!!」

 

 響は叫びながら右足でパワージャッキーの力を乗せて思いっきり蹴り上げて上空高く巨体を跳ね上げさせる。その巨体は勢いよく高く飛ばされて雲をつらぬいていく。

 彼女はそこで辛そうに膝を着く。

 

「…げほっ…!」

「大丈夫か立花!」

「私の事は後で!まだ倒してません!」

 

 翼の心配に響は今それどころではないと言う。上空には蹴り上げた棺が自由落下する姿が見える。中に飛ばされている今は身動きの取れないいい標的であり絶好のチャンスなのだが。

 

「イグナイトモジュールなら倒せるんじゃ……」

「かもしれないが一撃で倒せなければ巨体に踏みつぶされるぞ」

 

 クリスの発言に翼はすぐさま否定を重ねる。イグナイトのパワーなら倒せるかもしれないが一撃で倒すとなると話は変わる。攻撃と同時に落ちてくる巨体にぺしゃんこにされる。

 マリアはならばと今出せる6人技を提案する。

 

「狙うべきは喉元の破損個所、ギアの全エネルギーを一点収束!」

「決戦機能を動く標的にっ!?もし外したら…!」

「あとがないデス!できっこないデスよ!」

 

 調と切歌は否定的な意見を述べる。

 響とマリアが破壊した個所はごく小さなポイントで相手はきりもみに回転しているのだ。そこを精密機械の様に直撃させるなど不利すぎる賭けだった。

 そこでクリスが口を開く。

 

「狙いをつけるのはスナイパーの仕事だ。タイミングはあたしが取る」

「よし…行くぞみんな!」

 

 翼はマリアの提案とクリスの後押しに乗せられて宙にいる敵を打ち落とす作戦を決める。

 

『ギアブラスト!』

 

 最低限の防御スーツだけを残してアームドギアと装甲に割り振っていた全エネルギーを手元に収束させる。

 ブリッジでも装者の覚悟に答えるかのようにオペレーティングと軌道計算を行っていく。

 

『軌道計算ならこっちでも!』

『待ってください!棺の周辺に!』

 

 装者達の攻撃を察してか棺の周りに小型ユニットが散開していく、それは直撃から守るかのように。

 クリスはそれを見て憎々し気に唸る。

 

「リフレクター気取りかよっ…!」

 

 彼女の目元にスコープが1つ展開される。そうしながらも棺の巨体が刻一刻と迫っていく。それにクリス以外にも焦りを生んでいく。

 

『距離1500!1200!』

 

「クリスちゃん!もうすぐ誕生日!この戦いが終わったら…」

「そーいうフラグはお前一人で間に合ってんだよ!」

 

 響の縁起でもない言葉に苛立ちを見せるクリス。

 誕生日にアダムにぼこぼこにひき肉になるんじゃないかと思うほど滅多打ちにされて、そして手首を切られて出血多量で死にかけた響が言うとフラグ以上の効果がありそうだった。

 

「まだデスか…まだデスか!」

「このままだと私達までペシャンコに…!」

 

 切歌と調は少しずつ全体のシルエットが大きくなってくるのに焦りを感じて口にする。

 

(焦るな……焦らせるなっ…!)

 

 そこで棺の喉元の負傷部分と装者達の攻撃地点の一線にちょうど敵ユニットがいないタイミングを見つけてクリスは叫んだ。

 

「今だ!」

『G3FA!ヘキサリボルバーッ!!!!』

 

 ギアの全エネルギーを収束させたエネルギー波が放たれて敵の負傷部分に吸い込まれて内部で逃げようのないエネルギーが爆発した。

 

 装者たちは皆が勝利の余韻に浸っていた、ただし響を除いて。

 そう、彼女の戦いはこれからが本番なのだから。

 

 

 S.O.N.G.ではなく国連主導で大破した棺の調査が行われている。

 メンバーはその光景をモニター越しで見ていた。響は現地で見たかったが弦十郎に調査は今回の取り決めでは管轄外と言われて止められた。

 すると棺から白い煙が出て中身が開陳される。そこには布でぐるぐる巻きにされたミイラとその右腕に装着された腕輪があった。

 

「あれがカストディアン…神と呼ばれたアヌンナキの遺体…」

「つまりは聖骸…というわけですね」

 

 弦十郎と緒川は息を呑んで言う。

 それはかつて神と呼ばれ、アダムが打倒しようとした存在。いまだ現人類にとって多くの謎を残すブラックボックス。

 

 そして響の中に宿っている。

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