過去に戻った立花響   作:高町廻ル

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立花響容疑者は昨日未明


容疑者立花響

 アメリカのとある研究所で棺から出てきた遺骸と聖遺物のスキャニングが行われていた。スキャンの際に発生する光が聖遺物の結晶部分にそれは輝き始めて聖骸は脆くも砕けてしまう。

 スタッフの一人がそれを見て大慌てで指示を出す。

 

「記録!そして報告だ!急げ!」

 

 研究室内部は慌てて聖遺物の保管と、先ほどの発光現象の分析解明にかかる。

 残った聖遺物を専用の解析装置にセットする。

 リーダ格と思われるオールバックに眼鏡をかけた男性は持論を述べる。

 

「必要なのは先史文明期の遺産であるこの腕輪」

「起動実験の準備完了しました!」

 

 部下と思わしき男性が報告する。

 

「我が国の成り立ちは人が神秘に満ちた時代からの独立に端を発している。終わらせるぞ神代!叡智の輝きで人の未来を照らすのは…アメリカの使命なのだ!」

 

 リーダー格の男性はそう言い切った。

 神の支配した時代からの完全なる脱却、それは今の人類にとって大切なのかもしれないがあくまで脱却は過程であり最終目的ではない。

 彼らは支配から抜け出た後にある、人が責任を持って紡ぐ指針も何もない中で求められる、誰も線引きをしてくれない自由とは何かが見えていないのかもしれない。

 

 

 ある日の夜、クリスは響を呼び出して問いかけていた。

 

『それにパブリックビューイングを見ている間、あたしに対して普通にステファンの事を話題にしたよな?誰から事件のあらましを聞いたんだ?どうやって知ったんだ…?』

『…………』

 

 クリスの質問に響は俯いてしまう。

 自分の油断によって致命的なミスをしてしまい、今目の前にいるクリスを不安にさせている事に苦しんでいる。

 それを見て彼女は分かっていたのにまた地雷を踏んでしまったと苦しい気持ちになる。お互いに重たい雰囲気になるそして、

 

『ああ!いや良いんだ!話したくないことなら言わなくていいと最初に前置いたのはあたしだからな!秘密なんかをあたしなんかに言いたくないだろうし!…じゃあ話はこの辺で―』

『ごめん……今はやっぱり話せない……』

 

 響はクリスが言い切る前に話せないと確実な意思表示をする。そのはっきりとした拒否にクリスの顔は固まってしまう。自分はやはり信頼されていないのかと思ってしまった。

 今までは二課にS.O.N.G.そして学校のクラスメイトはよく出来た人物だったため、クリスの生き方や価値観は許されてきた部分が多分にあった。確かにクリスの素直でない言動と行動は嫌われる人にはとことん嫌われるものだ、それが響にも適応されただけという話。

 彼女はそこまで考えたところで。

 

『今は話せないけど…いつか話せる時が来るまで…信じて待ってもらうことは出来ないかな…時が来れば全部話せるから…それまで無条件で信じてもらう事は…わがままで勝手な言い分だって分かってる……だとしても……』

『…………』

 

 クリスは響が自分に話したくないのではなく、訳があって現状は話せないと言った。そしてそのふざけているとしか思えない意見を大真面目に言った。

 クリスは相手の目を見て問いかける。

 

『…………なぁ…あたしはお前のその言葉を信じていいのか…?』

 

 響は少しだけ泣きそうな表情をしたのちに言った。

 

『信じてもらえたら嬉しいかな…』

 

 

 現在S.O.N.G.のブリッジはてんてこ舞いになっていた。それもそのはずで、シンフォギアとは形式上ではあるものの国連直下で管理されている、あくまで中立で平和利用の為に使われる世界の共同財産といった立場の兵力なのだ。

 しかし響が行ったギアを使ってのライブ会場の破壊は明らかなテロ行為なのだ。

 現在各国から説明要求や響の拘束などの指示と苦情がひっきりなしに送られている。

 

「…………緊急ブリーフィングを始める」

 

 弦十郎は重苦しい空気の中口を開く。

 既に時刻は朝の10時を過ぎた時間になっている。本来であれば学生の装者は通学の時間だが、この緊急時では装者を管理するという組織としての面子もあり外に出すのは危ないとしてブリッジに集めている。

 翼はおずおずと尋ねる。既に知っている事ではあるのだがやはり信じられないと質問をする。

 

「立花が……ギアを使ってライブ会場を破壊したと言うのは本当なのですか……?」

「本当です…破壊された時刻に観測されたアウフヴァッヘン波形は間違いなく響ちゃんのガングニールで…監視カメラにもそれは映っています……」

「幸いなのは会場の出口や照明の一部の破壊で死者は出なかった事でしょうか……」

 

 友里と藤尭がハッキリと響が起こした事だと断言する。

 前方モニターに映っているのはガングニールを使って破壊の限りを尽くしている響の姿が。

 それを聞いて皆は信じられないと言った顔をする。響がガングニールを故意に破壊の為に利用するなど。

 

「信じられないデスよ……」

「うん……響さんがそんな事を……」

 

 切歌と調はいまだに半信半疑と言った感じ。

 もう既にありとあらゆる証拠が響が犯人だと告げている現状でもやはり信じきれない。

 

「例えば…錬金術師がいたとかは無いのかしら……?」

「いえ……会場で残って作業をしていた目撃者の方によると錬金術師やアルカノイズは目撃されなかったようです……」

 

 マリアの藁にも縋る意見にエルフナインは申し訳なさそうな口調で完全否定する。

 クリスは響への風当たりが悪くなっている現状に苛立ちを抑えきれなくなり爆発していしまう。

 

「…そんなはず絶対ねぇ!!あいつは……あいつが意味なく人を傷つけるはずがッ…!あいつは信じて欲しいって…!だからッ!」

「落ち着け雪音…ここにいる皆は立花が意味もなく破壊行為をしたなど思っていない…きっと何か理由があるはずだ……それにはまず見つけないとな……」

 

 翼はクリスの肩に手を置いて優しく諭す。

 クリスは声をかけられて落ち着きを取り戻し周りを見ると皆が笑顔で翼の言葉に同意していた。

 現在テロの容疑者となってしまっている響は夜中からずっと行方知れずになっている。

 既に未来と響が暮らしている寮は取り押さえられ、そこに調査員が派遣されていて入れなくなっている。

 そこで見つかったのはS.O.N.G.で支給されている端末、そのため行方を特定する方法が限られている。

 

「司令……鎌倉から通信が……」

「来たか……」

 

 藤尭のおずおずとした報告に弦十郎はやはりと言った感じでそれを受け止めた。国防として使える外交のカードシンフォギアの一人の離反を許している現状を風鳴訃堂が黙って見過ごすはずもなかった。

 弦十郎は何があっても響を殺させるという決定だけはさせまいと覚悟を決める。まだ彼女が何を思ってこのような騒乱を起こしたのか分からないのだ。

 何よりここにいる誰もが信じたいと願っているなら、それを何が何でも押し通すまでだった。

 

『…この愚息めがあっ!!…部下の手綱を握れずに足元を掬われるなど言語道断…!恥を知れいっ!このバカ者めが!!』

「申し開きも出来ません…!」

 

 モニターに映った訃堂は開口一番激怒と叱責の嵐だった。

 弦十郎は相手のその言い分は当然の事なので素直に謝罪した。

 

「今回の一件は私の教育と管理の不足にあります…責任はこの首を持ってして…」

 

 彼は命を奪われるに次ぐ重い罰を受ける覚悟を示した。しかし、

 

『貴様の首一つで足りるものか…!…先の一件で国連や異国どもが我が物顔で介入してくるぞ…!…素早く反逆者を生け捕りにせよ!』

「は?」

 

 弦十郎は相手の生け捕りという要求に一瞬間抜けな顔をしてしまう。

 それはここにいる全員が大なり小なり同じ表情をしていた。彼らの予想では響を殺せと過激な言動をしてくると身構えてたのにだ。

 前に響が神の力の繭に囚われた際は護国災害派遣法を発令して殺処分しろとまで言った人物が、ふたを開ければ生け捕りを要求するなど違和感の塊だった。

 

『なんだ……不服であるか?』

「いえ寛大な処遇に感謝いたします…」

 

 弦十郎はすぐさま訃堂に頭を下げる。

 相手はフンと鼻を鳴らして通信を切った。そして緊迫感に包まれていた空気がふと緩んだ。

 そのやり取りをじっと静観していた未来は思った事を口にする。それは風鳴訃堂を知っている全員が等しく感じた感想だった。

 

「翼さん……あの人本当にあの日、響を殺処分しろと言った人と同一人物なんですか…?」

「ああ……私も驚いているんだ…殺せと指示をする気だと身構えていたからな…無論断固拒否したが」

 

 翼は何が何でも響を殺させはしないと意気込んで通信を傍観していたがその意気込みは全て空振りに終わった。

 

「取りあえず立花響を取り押さえてなぜあんな事をしたのか問い詰めないといけないわね」

「ああ……そうだな……」

 

 マリアとまとめたセリフに肯定を示すクリス。

 

 

 装者たちはブリーフィング後船内での待機を指示されていた。理由は響がテロ行為を働いたため常に目の届くところに集めるように各国から注文が付けられたからだ。そのため開いていた一室で皆が思い思いの暇つぶしをしている。

 響を信じたいという意見は一致しているもののこの場にいる皆の空気は重く暗い。

 皆は情報収集の為にテレビに映っている映像に釘付けになっている。しかしそれを見ても皆の心の雲が晴れる事など無いが。

 

『ステージ仕掛けられた爆発物によって施設が破壊された一件はテロ組織の犯行かという見解もあり…』

 

 昼のワイドショーは響が行った破壊行為でもちきりになっていた。

 シンフォギアは表向きには公表されておらず、爆発物を使ったテロ行為という情報操作が行われている。

 翼のライブは当然のことながら中止になった。現在は警察によって会場は封鎖されている。

 

「暇が出来てしまったな……」

「そうね……」

 

 会話をする翼とマリアが思い出すのは3日前の出来事。

 

 

『そんなの無理よ、出来ないわ!』

『いつか…私と歌い明かしたいと…言ってくれたな?』

 

 それを聞いてマリアは顔を赤くして「でも……」と呻く。

 彼女は翼に三日後のライブに一緒に出るように言われたのだ。

 

『私は歌が好きだ……マリアはどうだ?』

 

 翼に微笑みながら真っ直ぐそう言われてもう何も言い返せなくなった。

 

 

 翼は前にマリアにステージに出て一緒に歌うように手を回していたのだ。

 キャロルとの決戦前に遺言のテンションでマリアが一緒に歌いたいと言っていたのでそれを大舞台で叶えようとしたのだがその努力は水の泡になった。

 

「ん~でも響さんは何であんな事をしでかしたんデスかね……」

「うん……何か理由があるはずだよ……」

 

 切歌と調はとにかくこの空気を打開するために話題を提供しようと頑張る。

 その言葉に皆がふむ…と考え込む。今はとにかく暗い情報を隅に追いやって前向きな方向性に考えを持って行かなければやっていられない。

 

「人質を取られてるとか…か…?」

 

 クリスは二人の気づかいに乗っかる事にする。

 かつての雪音クリスはソロモンの杖を取り戻すためにウェル博士の悪辣な要求を呑んで翼と戦わされた事がある。あの時は短い時であったが一緒に二課の活動の中で積み重ねた時間のおかげで上手く騙して相手を出し抜いた。

 マリアは人質と聞いてありそうな予想を立てる。

 

「そうね…彼女が人質に取られて痛い人物は…未来かしら…もしくは親…?」

「もしくはリディアンにいる生徒かもしれないな……」

 

 翼もマリアに乗っかって言う。

 人質と言っても一人の人間が生きている中で関わる他者はあまりにも膨大すぎる。響のお人よしぶりではそれこそ把握しきれないほどに横のつながりがあると予測される。

 そもそも彼女の正義心というより一般的な感性を持つ人間であれば目の前で見知らぬ他人でも「言う事を聞かないとコイツを殺すぞ」と言われたら怯んでしまうものなのだ。

 マリアはふと気が付いた事を口にする。

 

「いえ…そもそも人質がとられていたとして……ほとんど人がいないライブ会場を破壊させる意図が分からないわ…まさか翼の人気に嫉妬した人物が指示したわけではないでしょうし……」

「そうか…仮に黒幕がいるなら相手はシンフォギアを知ってるわけだよな…なら米国辺りが日本やS.O.N.G.の立ち位置を失墜させるため…とかか…?」

 

 クリスは響を操っている人間が仮にいるならそれは大きな組織だと言うところに着地した。

 

 

「未来さん…根を詰め過ぎですよ……」

 

 未来は響の失踪を知ってからというもの研究室で寝ずの作業を行っている。そんな姿を見て危ういものを感じたエルフナインは声をかけた。

 

「分かってるよ…でも何かに打ち込んでないと気が気でないんだよ…」

 

 未来は疲れ切った顔でそう言った。そして「それに」と付け加えて。

 

「これまでの経験上……響の失踪が解決するだけで全ての問題がすんなり済むわけがないんだ…響の余罪とかじゃなくて……きっとこれから予想も出来ない大きな戦いが始まる……そこで後悔はしたくないんだよ……」

 

 現在のS.O.N.G.は待機を命じられている。

 疑われているのだ、響の暴走は暴走ではなく組織ぐるみのテロ行為ではないのかと。

 

「ボクは…響さんが人を意味なく傷つける人だとは…思ってません……」

「……私だってそうだよ」

 

 エルフナインのその言葉に未来は肯定を示す。

 立花響は自分か傷つけられても耐えて傷だらけになっても必死で手を伸ばすそんな人だ。

 そして今未来の脳裏に浮かぶのはあの会話。

 

 

『もし…もしもだけど…私が誰かに危害を加えたり…暴れまわったら…未来ならどうする……?』

『…………その時は私も一緒に暴れてあげるよ』

『……そっか…そうだね…………なら私が本当にどうしようもなくなった時は未来に任せちゃおうかな』

『お任せあれ』

 

 

 あの約束は絶対に嘘にはしないと決めている。

 たとえ今はまだギアをまとえない体でもそんなものは関係なかった。何も知らず何も選ぶことが出来ない自分が嫌で未来はあの日、日本から飛び出したのだから。

 ここで踏ん張らなければ親友を失う事しか出ない過去の自分に逆戻りだった。

 

 

 ブリッジはブリーフィングが終わっても現状の説明とその対策の説明と資料作成でてんてこ舞いになっている。

 いつもなら友里辺りが「あったかいものどうぞ」なんて言って労うのだが、その彼女も忙しさに押しつぶされてその余裕がなかった。

 それにその場にいる面々は気が付いて鬱々とした空気になってしまう。

 

(こんな時どうしたらいいだろうか……)

 

 弦十郎は無力な自分に嘆いていた。

 響は裏切っておらず何かしらの致し方ない理由で破壊行動を行ったと思いたくても、本当に裏切ったのではという毒が皆の中に垂れているのだ。

 

「司令、ただいま帰りました」

「そうか……で、どうだったんだ?」

 

 緒川は調査部の報告書を受け取って帰ってきていた。弦十郎はそれをねぎらい成果を聞く。

 緒川は申し訳なさそうに眉をひそめて言う。

 

「ええ…やはり破壊は響さんが行ったもので間違い無いですね…あと響さんと未来さんの寮部屋からはこれといった証拠やアリバイのような物も見つかりませんでした……」

 

 その報告にブリッジの気温は僅かにだが下がる。

 調査では明確な無実を証明する事実は見つからず、一層響の悪行が色濃くなるだけの結果に終わった。

 

「司令……国連からの通達です……」

「何だ?」

「アンチリンカーを使用して拘束するようにとのことです」

「そうか……まぁ妥当な所だな……」

 

 友里からの御通達に納得と言った感じの反応を返す弦十郎。

 いくらテロ行為を働いたとはいえ世界でも数少ない適合者である響をそう簡単には失えないのだ。

 

 するとそこでアラームが鳴り響く。

 藤尭が出てきたデータを見て驚いた声を出す。

 

「アウフヴァッヘン波形確認!これは……ガングニールです!」

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