過去に戻った立花響   作:高町廻ル

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気が付かなくてごめんなさい

「昨日の入電から丸一日…目立った動きはなさそうだが…兄貴はどう見てる?」

 

 弦十郎はブリッジで兄である風鳴八紘と連絡を取っていた。

 

 現状は最悪の一途をたどっていた。アメリカの研究所が襲撃をされた事でパヴァリア光明結社に与している組織が掴めなくなった事。

 そしていまだに逃走している響と調の行方が不明だという点だ。フィーネが宿っている事が明るみになると体の持ち主が今以上に危険視されるためS.O.N.G.と一部の人間だけで情報を封鎖している。しかしそれでも響に与して叛逆を行っていることは隠せないが。

 今のブリッジには未来を除いていつものオペレーター陣と今残っている装者達が全員集結している。

 切歌だけは俯いて元気がなさそうにしていたが。

 八紘は相手の質問に簡潔に答える。

 

『ロスアラモス研究所は米国の先端技術の発信地点。同時に異端技術の研究拠点でもある。米国を一連の事件の黒幕と想像するにはいささか無理がありそうだ……』

「米国の異端技術とはまさか……」

「ああ……断言はできないが…ロスアラモス研究所は…かつてF.I.S.が所在したと目されている所だ」

 

 翼の予測に弦十郎は首を縦に振る。

 マリアはそれを聞いて顔を険し気に、切歌は一瞬びくりと肩を震わせた。

 F.I.S.は異端技術の研究開発だけでなくフィーネの次の器足り得る子供、レセプターチルドレンを収集教育していた施設でもあるからだ。

 そのやり方は非人道的で、拉致監禁に近いやり方で強制的に武術・戦闘技術や人体実験を仕込んでいたともっぱらの噂だ。

 

『かつての新エネルギー、原子力の他エシュロンといった先端技術もロスアラモスでの研究で実現したと聞いている』

「そこを襲ったという事はやはり何か大事なものを狙ったという事……」

『伝えられてる情報ではさしたる力もないいくつかの聖遺物……そして……』

 

 マリアは聖遺物がやはり絡んでいるとほぼ確信に近いトーンで話す。

 相手もまたそれを肯定してあるデータをS.O.N.G.へと送る。それはすぐさま正面の大型モニターに表示される。

 クリスはそれを見て唸った。

 

「これって……やっぱそう来るのかっ…!」

 

 前の前に提示された画像はかつて南極のボストーク湖で戦った棺内部から出てきた腕輪だった。

 八紘は腕輪の具体的な説明を加える。

 

『極冠にて回収された先史文明期の遺産。腕輪に刻まれた紋様を楔形文字に照らし合わせると「シェム・ハ」と解読できる箇所があるそうだ』

『……………………』

 

 そこにいた皆がシェム・ハという情報にどう対応したらいいのか苦慮した。

 腕輪の名前なのかその持ち主の名前なのか、それとも違う意図を持ったシンボルなのか。

 

『事件解決に向け米国政府には引き続き協力を要請していく。これが私の戦いだ』

「恩に着る八紘兄貴」

『聖遺物はこちらで動くが……問題はそちらも山積みだぞ』

「分かっている……」

 

 八紘からの指摘に弦十郎だけでなくブリッジにいた全員の表情は暗くなる。

 相手が指摘しているのはシンフォギア装者二人の離反を許してしまっている事だ。

 切歌はそれを聞いてますます顔を俯かせてしまう。マリアはそんな相手の姿を見て肩に手を置く。

 

『現状…月読調がフィーネの器である事は隠蔽しているが…立花響に与した事は隠せなかった…すまないな』

「いや…兄貴のせいじゃない…キチンと手綱を握っていなかった俺の指導能力の不足だ……」

 

 弦十郎は組織の長としてやるせない気持ちになった。いまだに響が何を胸に刻んで戦っているのかまったく見当がつかないのだ。

 調に関しては切歌がフィーネについて何か心当たりがありそうなのだが、今の投げやりな精神状態の相手に対して癒えてもいない傷口を開くような真似をしてしまってはどうなるか分からなかったため、現状は口を開くまで静観している。

 

 

 会議が終わるとすっかり夕方になっていた。

 マリアと切歌は外出してある公園に来ていた。

 弦十郎に特別な許可を得て外出をしている。

 このまま潜水艇の中に居続けたら切歌が参ってしまうため外に出したいと言ったら監視付きではあったものの許可が下りたのだ。

 彼もまたこのままでは切歌が押しつぶされてしまうと考えたのだろう。

 

「…………」

「…………」

 

 二人はブランコに乗って黙り込んでいる。

 いつもであれば切歌が奇声なりを出して話題やトラブルを振りまくのだが、今の彼女にそのような精神的な余裕は存在しない。

 今の彼女の精神を蝕んでいる要因は間違いなく調の一件だった。

 彼女がフィーネの器であったことが明らかになりしかも体が乗っ取られたのを見たらそれはショックでまともに動けないはずだ。

 マリアはこのまま黙っていては何も進展しないと考えて切り出そうとする。

 

「切歌だいじょう―」

「…………」

「―ぶじゃないわよね……ごめんなさいぃ……」

 

 彼女は切歌のこれまで見たことの無いあまりにもな沈みっぷりについ謝ってしまう。ちょいちょい顔を見せる弱気なマリアが飛び出してきていた。

 いやこれではダメでしょう…と何とか気持ちに気付けを入れていると切歌はポツリと呟く。

 

「あたしが……」

 

 マリアは相手が何かをひねり出そうとしているのを見て慌てて耳を傾ける。

 

「え……」

「あたしがフィーネの器だと思っていたデス……」

 

 切歌はそこから日本に来てからフロンティア事変が起こっている裏で二人の起きていた事件の数々を話していく。

 風鳴翼とマリアのステージ以降、調が響に言われた言葉が胸に刺さってしまい自分の理想と現実に行っている事のギャップに苦しんでいた事を。

 リンカーの過剰摂取によるオーバードーズによって体にガタが来ていしまい、工事現場で休んでいると鉄パイプが落ちてきてとっさに調を守ろうとすると、手先から防御壁が出てきて自分がフィーネの器ではないのかと思ったこと。

 マリアがフィーネの器ではないと知って、ならやはり自分がそうなのでは…と怖くなった。ならばとフィーネに体が乗っ取られて消える前にフロンティアを掌握してせめて調だけでもと考えて行動を起こした事。

 調との一騎打ちの末敗北して、相手に説得されてフィーネに抗うために頑張ろうと言われた事などを話した。

 

「なるほど……つまりあの時戦っていたのはそう言う事だったのね……」

 

 マリアは全ての話を聞いてなるほどとうなずいた。

 彼女はフロンティア内で切歌と調が刃を向け合ったのを映像で見ていた際に仲良しな二人が何故…と愕然としてしまったのだが、その時は二人の思想が決定的な仲たがいをしてしまったと思っていたのだ。

 しかしその実は逆、お互いにお互いを思い過ぎたが故に譲れない思いを拳に握っていたのだ。

 そして同時に恥じた。あの時自分でいっぱいいっぱいだった事や組織の目的ばかりで傍にいたはずの家族がそんなに苦しんでいた事に今の今まで全く気が付かなかった自分に。

 そして今のままでいつフィーネに乗っ取られるのか分からない恐怖と戦っていた事やそれを無暗に話せずにいた事。

 仮に自分にフィーネが宿っていると言われたら日本政府もさすがに庇いきれなかったはずだ。それを分かっていたからこそ二人は黙っていたのだ。

 フィーネはレセプターチルドレンたちには宿っていませんでしたという事にして。

 マリアは彼女がお気楽だとよく周りから言われている事を知っている。しかしあれは元々兼ね備えている性分だけでなく、不安を殺して無理して明るく振舞っていた事に気が付いた。

 

「……でも」

 

 切歌は涙声でポツリと呟いた。

 瞳に溜め込んでいた涙が止まらなくなっていく。

 

「…………もう調はいないデス……もういなくなっちゃったデスよぉっ……」

「切歌……」

 

 調の顔と声を使った誰かがその体を使って話すあの絶望の姿が彼女の脳裏にこびり付いている。あの日以降、全くイガリマが反応をしなくなっていた。

 マリアはそんな姿を見てふと思った事があった。

 

「……きっと……」

 

 マリアはその一言が決して切歌を癒す一言なり得ないと分かってはいたのだが、それでも口にすることにした。

 

「……調もそんな不安をずっと抱えていたでしょうね……」

「え……」

 

 その一言に泣くことも忘れて呆然とその言葉の主に顔を向けてしまう。そんな一言が相手から飛んでくるとは思っていなかったのだ。それこそ辛いのはみんな同じとかそのようなありきたりなセリフが来るだろうと身構えていたのだ。

 

「調も同じで……きっといつ切歌がいなくなるのか分からない恐怖の中で…毎日を過ごしていたんじゃないかしら……」

「それは……」

 

 マリアのその一言で切歌はここで初めて調がフィーネの魂についてどう思っているのか、もし切歌が乗っ取られたら相手はどう思うかという事を考えていなかったことに気が付いた。

 

 

『切ちゃんがもし乗っ取られるのが怖いなら……そうなる瞬間に私がその体、切り刻んであげる』

 

『じゃあ乗っ取られないように頑張らないとね』

 

『一緒に諦めずに探そう?出来ないなんて決めつけちゃダメだよ』

 

 

 あの時は切歌を励ます言葉をかけたが内心ではどう思っていたのかはそれこそ、考えた事も無ければ聞いた事も無いのだ。

 その時の切歌は自分の感情を処理する事でいっぱいいっぱいだった。

 

「あたし…調の事…全然知らなかったデス……考えてこなかったデス…………」

 

 彼女は先ほどとは違う意味で俯いていしまう。

 気が付いたのだ、どれだけ己が自分勝手で狭まった視野しか持っていなかったのかという事に。

 

「うん……そうかもしれない…けどそれは私だって同じ…ちゃんと見てこなかったのはね」

 

 それにとマリアはセリフを繋いでいく。調が残した言葉を。

 

「調も言ってたみたいだけど……一度体を乗っ取られたからといって絶対に取り返せないとは限らないじゃない!エルフナインや未来に相談すればもしかしたらフィーネを追い出す方法が思いつくかもしれない!今は拘置所にいるけどパヴァリアの錬金術師に話を聞けばフィーネの弱点とか教えてくれるかも!頑張りましょうよ!諦めるには早いわ!!」

「それは……そうデス…ね…」

「今までは二人で悩んでたけど、これからはS.O.N.G.のみんなも知恵を出してくれるっ!!」

 

 マリアとて不安ではあったのだがそれでも励ますため、鼓舞するために拳を力強く握りながらスッと立ち上がって大きな声を出し続ける。

 そしてそれはしっかりと切歌にも伝わっている。

 

「そうデス…調のあの言葉に勇気づけられたなら…それを嘘にしちゃだめ…デスよね……」

 

 切歌は少しだけ元気を取り戻していた。

 それは何の根拠のないカラ元気かもしれないがそれでも絶望から立ち上がろうとしていた。

 イガリマのギアペンダントも僅かにだが輝きを取り戻しているように見えた。

 

「……ところで…………」

 

 切歌はやる気を出したは良いがある疑問にぶち当たる。

 マリアはどうしたのだと耳を傾ける。

 

「何から手を付ければいいデスかね……」

「そうね……」

 

 マリアはそこで気落ちしてブランコに再び座り込んでしまう。

 響と一緒にいる調を見つけるにしてもどこにいるのか、そもそも響が逃げ回る理由を解決しなくてはいけないのだが何をすればいいのか…

 

「せめて調と立花響しかりパヴァリアしかり……目的が分かって先回りさえできれば……」

「……未来さんに聞いた話デスけど……敵は血を欲しがっているんデスよね?まるで吸血鬼みたい……」

 

 切歌はここで少しだけ本来の調子を取り戻して「あっ!」と何やら閃いたといった感じでビックリマークを頭の上に浮かべる。

 マリアは少し驚きながらも応対する。

 

「ど、どうしたの?」

「わかってしまったデスよっ!マリア!常識的に考えて、次に狙われるのは血がいっぱいある所デス!」

「え、ええ…そうかもしれないわね」

 

 切歌の意見に対してマリアはそうだねと同意を示す。

 色々と言いたいことはあったのだが元気を出そうと頑張っている相手の水は差したくなかったのだ。

 

「例えばそう―」

 

 切歌は公園の隣にある大き目の大学病院を指さしながら、

 

「献血センターとか!」

「そうね……でもね切歌……」

 

 マリアは相手の主張を否定したくはなかったが、キチンと自分も意見を述べなくてはいけないと口を開く。

 

「相手は極力血を欲しがっているのを隠すためにわざわざ人のいない場所で取引していたのよ?あんな大きな病院みたいな人の目につきやすい場所に訪れるはずが無いわ」

 

 ごく当然の所見だった。

 欲しいものが希少な稀血というのもあった。それに敵はアメリカ軍の空母の襲撃や基地を破壊して聖遺物を強奪。しかも監視カメラに堂々と映ってきたようにこちらに姿を晒したり目立つ行動を取る事に一切の躊躇を見せなかったのだ。

 だがその一方で血の入手に関しては慎重に人気を忍んで獲得を狙っていたのだ。

 何故そこまで行動の方向性が異なるのかその理由は分からなかったが、病院を襲うような目立つ真似はしないだろうとマリアは考えている。

 

「ごめんなさいね。明るく努めようとしている切歌の」

「いたーっ!!」

「意見を無下にえ…?」

 

 話していると突如として相手が驚いた顔で叫んだので何事だと同じ方を見ると、暗くなっているがほのかに赤紫色な空に浮かぶ一人のシルエットが。

 それは昨日街中で遭遇した青髪にメッシュの少女に似ているような…

 

「嘘でしょう!?」

 

 もうギャグみたいな展開に叫ぶしかなかった。

 

 

 街中でパヴァリアの残党を見つけた報告をしたのち、マリアと切歌は敵がいるであろう病院に慌てて向かった。

 病院内部のロビーに入ると看護婦に制止を促されるが無視して屋上に繋がっているであろうエレベーターに向かう。

 インカム越しに二人に友里の声が聞こえてくる。

 

『こちらでも確認できたわ。でも危険よ……二人とも先走らないでください!』

「そうも言ってられないでしょう!相手が病院内の例の稀血を求めているのかもしくは別の目的があるのか分からない以上はそう相手に時間を与えられないわ!」

「それにあたしたちは現場に近いデス!」

 

 相手の制止を無視して二人は屋上にいる敵に向かって突っ走っていく。その手にはリンカーが入った注射器が握られていた。

 

 

「っ…はっ……!」

 

 ミラアルクは眩暈や吐き気がするのか苦しそうな息を吐いた後に口元を手で押さえてふらつく。

 顔をしかめて冷や汗を流している。

 

(こっちもそろそろ限界かもだぜ……)

 

 エルザと同じく彼女もまた例の稀血を必要とする体の体質であり、早く仲間の回復をと考えて病院に降り立ったのだ。だが、彼女もまた仲間と同じく血が濁って体にガタが来ており、それでも体に鞭打ってここまで来ている。

 そして何よりも致命的、彼女の体を蝕むのは昨日の一件で響に魅了の邪眼をかけようとしたら、相手の中にいる何者かによって洗脳どころか逆に精神が引っ張られて汚染されそうになったのだ。

 それ以降、血の不足に追い打ちをかけるように妙に落ち着かなかったり、休息がまともに取れなくなっている。

 屋上にいた彼女のもとに出入り口からマリアと切歌が飛び出してくる。

 

「パヴァリア光明結社!所属と目的を述べたのちに投降を勧告するわ!」

「事と次第によっては荒事上等デス!」

 

 二人が追い詰めたぞと口上を述べる。

 ミラアルクは思った以上に到着が早い事と不調からくる苛立ちが顔に出ている。そしてアルカノイズの召喚結晶を投げて小さく吠える。

 

「そんな悠長…これっぽっちもないんだぜっ!」

 

 アルカノイズが召喚されて相手から投降の意思なしと判断した二人はすぐさまギアをまとって臨戦態勢に入る。

 マリアは短剣を蛇腹のように伸ばしてノイズ達を切り刻んでいく。

 そして切歌はまだ本来の姿、全快というわけではないモノの動きはある程度キレがある。

 敵の中に飛び込みながらすり抜けるとその後には両断されて上半身と下半身がサヨナラバイバイしているアルカノイズ達がいた。

 

 

 その現場をモニターしているブリッジでは。

 

『切歌さんの脳波と適合係数に異常なし、十分戦える水準です!』

『っそうか、マリア君が上手くやってくれたようだ…』

 

 エルフナインと弦十郎は今残っている装者陣で一番精神的な面で不安要素のあった切歌が戦えているのを見て少しだけホッとする。

 やはりマリアのお願いを聞いて外に出したのは二重の意味で間違いではなかったようだ。

 

『敵の狙いはやはりRHソイル式の全血清剤』

『だとしたら好機…行動予測が立てやすい今…一気に切り崩せれば…!』

 

 友里と藤尭の冷静なオペレーティング。

 そんな中、司令だけは唯一浮足立っていなかった。これまで散々自分たちを苦しめてきたパヴァリア光明結社の残党がただ暴れまわっているとは思えなかったからだ。

 

 

 ここで切歌は鎌のブースターを噴かせてその勢いを利用して体をコマのように回転させて敵たちへと飛び込んで切り刻んでいく。その勢いのままミラアルクを吹き飛ばそうとするが後方に飛んで簡単にかわしてくる。

 すると入れ替わるようにバナナのようなフォルムのアルカノイズが切歌を囲むように回転しながら包囲をしてくる。先端の頭部に当たるである部分は尖っており切り刻もうとしてくるのだがそれを避けるか、鎌で受け流して直撃だけは避けていく。

そこへマリアが伸ばした短剣で包囲する敵をグルグル巻きにする。

 

「切歌今よっ!」

 

 マリアのその言葉に頷いてすぐさま鎌を構えなおして拘束している敵に向かって行く。

 

「あなたの行動はっ護国ナントカ法に抵触する違法行為デス!これ以上の抵抗はやめるのデェス!」

 

 その口上と共に飛び上がって自由落下の勢いを乗せて敵を真っ二つにする。

 アルカノイズを倒したため赤い霧が周囲に撒き散らされる。

 

「なれない御託が耳に障るぜっ!あの時捕まえられなかったくせに!!」

「ッ!?」

 

 ミラアルクは赤い霧を吹き荒らしながら切歌に手の爪で切り刻まんと飛び込んでいく。

 切歌はあの時と言われてとっさに調が離れていったあの瞬間がフラッシュバックして硬直してしまう。

 今は取り戻すため頑張ろうと言ってもそれでも胸の内に垂れる毒がすぐさま消える事も、そして克服する事も出来ない。

 そこでマリアが短剣を伸ばして切歌の体に巻き付けてとっさに自分の元へと引き戻して回避させる。

 

「切歌…今は目の前の敵に集中しなさい」

「わ、分かってるデス…もう惑わされないデス……」

 

 マリアの叱責に申し訳なさそうに相手は答えた。

 そして彼女は相手が言った一言に疑問を感じていた。武器を隙なく構えながらも質問をする。

 

「あなた…いま『あの時捕まえられなかったくせに』って言ったわね?…なぜそっちが装者を拘束できない事に気をかけるのかしら?こちらが戦力ダウンするのはそちらにとって好都合のはず」

「ッ……」

 

 その疑問に対して相手は一瞬しまったといった顔をして黙り込んだ。

 

(まさか相手をバックアップしている組織って……だとしたら…立花響が逃げる理由って…まさか……)

 

 マリアはすぐさまその思考を振り切った。切歌に注意した後だというのに、今は目の前の敵に集中しなければいけない。

 そこでチラリとマリアは切歌を見る。

 

(イグナイトモジュールはダメ…ここには逃げ遅れている重症患者や医療機器がある…下手に暴走と隣り合わせな力は使えない…ならば……)

 

「切歌…一気に片を付けるわよ、技は上空に…分かるわね?」

「がってんデス」

 

 その言葉を聞いて切歌は鎌の刃をブーメランのように飛ばして相手に攻撃を加えるが簡単にかがんで躱すが、その一瞬の間にマリアが敵の懐にまで肉薄して左手のアッパーで上空高く吹き飛ばす。

 

「あぐっ!?」

 

 ミラアルクは小さく短いうめき声を出す。

 そしてマリアは左腕を殴り飛ばした相手に向けると、短剣をその左腕の籠手に差し込んで形状を槍のような形に変形させる。その腕を覆うように鎌の刃を外側に装着してミサイルのような形になる。

 そして青白い色のエネルギーが噴出されて二人のアームドギアが上空に向かって打ち上げロケットのように射出されていく。

 

「ッくっ…!」

 

 ミラアルクはそれを見てとっさに紙一重でかわして、マリア達に向かってしてやったりといった顔を見せるのだが、ロケットはすぐさま軌道修正して再び相手に向かって飛び込んでいく。そして直撃して上空で大爆発を起こす。

 直撃を受けてボロボロになったミラアルクは力なく重力に囚われて病院の屋上に叩きつけられてしまう。

 

「これでもう戦えないはず……」

「むしろ……やり過ぎてしまった…かもデス…」

 

 叩きつけられた際に発生した土煙の中から相手は痛む体を押してそれでも立ち上がってみせた。

 

「…負けないぜ……」

 

 どうやら辺りへの配慮を考えて威力を絞った結果、完全な行動不能にまでは追い込めなかったようだった。

 

「負けられないぜ…!」

 

 絶望的な戦力差と状況ではあったがそれでもなんとか戦闘は可能だと痛む体を押してよろよろと歩いて見せる。

 

「うちは守る…家族をおおおおっ!!」

 

 絶望的状況でありながら相手は叫んだ。

 いやこのギリギリで絶望的な状況だからこそ自身の中にあるシンプルな願いが自然と口から出たのかもしれない。

 

「家族…デスか……」

 

 切歌は相手が口にしたその言葉につい怯んでしまう。

 今家族が一人いない彼女にとってその言葉は弱かった。

 もし自分が悪い事をしなければ調を守れないとしたら迷いなくそれを行うだろうからだ。

 実際に過去の切歌はフロンティアを使ってそうしようとした。

 

「家族だなんて…ちょっとくすぐったいけれど、悪くは無いわね…ありがと」

 

 そのような言葉が聞こえたと思ったら上空にミサイルの弾頭が射出されるのを二人は見た。

 それは上空で爆発するとチャフと電子パルスを発生させて電波障害と東京一帯を一時的に停電状態にした。チャフは風に乗ってより広範囲に電波と電子機器への乱れを発生させる。

 

「停電!照明がっ!?」

「何にも見えないデスよ!」

 

 マリアと切歌は視界が一瞬にして黒一色になった事で混乱してしまう。

 すると何かが飛んでくる噴射音と風を切る音が耳に届く。その方向を見ようとすると二人はロケットパンチをもろに食らって吹き飛ばされてしまう。

 

「付近一帯のシステムをダウンさせました」

 

 攻撃を加えた相手は上空で月を陰にしてその姿を見せる。

 その姿はアメリカの聖遺物研究所で見たその人。腕を内蔵されたワイヤーを使って巻き戻して言葉を繋げる。

 

「早くしないと病院には命にかかわる人も少なくないでしょうね?」

「入院患者を人質に…」

「あいつは……」

 

 攻撃の衝撃からすぐさま立ち直ったマリアと切歌は立ちあがって不意を突いてきた相手を見やる。

 その姿を見たのは当然装者だけではない。

 

「来てくれたのか、ヴァネッサ!」

 

 ミラアルクもまたそれを見た。何よりも嬉しそうにその姿を見やる。

 

「駆け付けたのはヴァネッサだけではありません…お目当ての物も騒動の隙に獲得済みであります」

 

 病院の屋上には狼っ子のエルザもトランクに腰掛けてここに来ていた。そのそばに上空から着地して来たヴァネッサもいる。全員集合だった。

 それを見て先ほどまでの気落ちした雰囲気とは一転して歓喜の叫び、大声で吠え始めるミラアルク。

 

「うわあああぁぁぁっ!!!!ヴァネッサ!エルザ!ダイダロスエンドだぜ!三人揃った今最大出力でっ…」

 

 しかしその元気は続かずに膝を着いてしまう、そして痛みをこらえる様に手で体を抱きしめるようにして抑える。先ほどの攻撃はちゃんと効いていた。

 すぐさまヴァネッサが隣まで歩いて言う。

 

「それはまた次の機会に。消耗が激しいミラアルクちゃんとエルザちゃんに無理はさせられません。ここは退きましょう、お姉ちゃん判断です」

「あなた達は何者…?」

 

 マリアはストレートに相手について問いかける。

 相手は手にテレポートジェムを構えて言った。

 

「ノーブルレッド…きっとまたお目にかかりましょう?」

 

 ジェムを叩きつけると転移用の魔法陣が発動してノーブルレッド達を包んでいく。

 

「ッ逃がすもんかデス!」

「待ちなさい切歌!今は患者の方が優先よ!!」

 

 切歌はこのまま引き下がれるかと飛び出そうとするが、すぐさまそれはマリアに止められてしまう。

 その隙に相手はその場から転移してしまう。

 切歌は歯噛みした。相手が弱者を盾に取る卑怯なやり方と、そんな相手の言動に自分の身の上と重ね合わせてしまい決定的なチャンスをフイにした事に。

 

「デエスッ…!!」

 

 苛立ちのまま鎌を地面に突き立てる以外できなかった。

 

 

 隠れ家に帰還したノーブルレッド達は入手したRhソイル式の血液を輸血していた。

 ヴァネッサはパソコン越しに自分たちに援助する者とテレビ電話で通信を取っていた。

 

「ところで裏切り者は特定できたのでしょうか?」

『現在いぶりだしているところだ…しかし何故こちらの計画が漏れたのか見当もつかぬ。まさかとは思うが貴様らではあるまいな?』

「まさか」

 

 相手は響が捕まえられなくて相当苛立っていた。それどころかとばっちりを食らいそうなのですぐさま機嫌をとるために例のブツを映像に見せる。

 

「御所望の物はこちらに……シェム・ハの腕輪でございます」

 

 そう言ってアメリカの研究施設から強奪したそれを両手に持って相手に見えるように持ち上げる。

 

『そうだ……七度生まれ変わろうとも…神州日本に報いるために必要な…神の力だ』

 

 相手はそう、風鳴訃堂。

 齢百を超える老体でありながらも、その目は護国という野望をエネルギーに変えて衰えることなく燃え盛っている。




切ちゃん能天気扱いされたけど実はしたたかもいいところだったり
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