ノーブルレッド達はアジトで休息と献血に治療をしながら身を潜めていた。結果として彼女たちは回復し始めていた。
先んじて目を覚ましたミラアルクはベッドで輸血を行いながら泥のように眠り込んでいるエルザの傍で椅子に座っていた。彼女の左腕には先ほどの戦闘で負傷したため包帯が巻かれおりそこをさすっていた。
彼女は今の現状を歯噛みしながら言う。
「力を使えば血中のパナケイア流体が濁り淀む……怪物と恐れられても所詮はこの程度……情けないぜ……」
パヴァリア光明結社の残党だとしてもその実力は上から下まで様々だ。
アダムや幹部レベルのような世界を一人でも相手どれる実力者。
荒事に対してこそ一般人レベルの秘密裏に国家政府や大企業に潜入や調査を行う者や研究員といった非戦闘員。
そして彼女たちのように凡人よりは強いが世界レベルの相手の前では手も足も出ず、かといって普通の人間には到底受け入れられない半端モノな怪物もいる。
「左腕の具合はどう?ミラアルクちゃん……」
「ザババの刃……物質的、霊的に作用するってのは本当らしい……どうにも治りが遅いみたいだぜ……」
背後から現れたヴァネッサの心配そうな問いかけに、ミラアルクは左腕の傷をギュッと抑えて隠すことなくストレートに今体に起きている現象を伝える。
強がることも出来たのだが、それを伝え損ねて仲間、いや家族が同じ目にあってはいけないためちゃんと伝える。
「そう…………」
その言葉に傷口に当てている包帯を心配そうなそして悲しそう視線を向けるヴァネッサ。
そして視線を向けるのはアメリカの研究所から奪ってきたシェム・ハの腕輪。それを手に取って見つめながら遠い目をする。
「利用する者される者…それを蜜月と呼ぶのなら…一体いつまで続けられるのかしら…ね……」
◎
これ以上は欠席日数を増やすわけにはいかないという事でS.O.N.G.所属の学生たちは登校をすることになった。
勿論監視の目や監視カメラのある場所に常にいるという条件付きではあるのだが。
未来、クリス、切歌は三人は食堂で昼食を取っていた。
全員食欲が無いのかサンドウィッチに紅茶やコーヒーといった落ち着いたメニューを選択していた。
『…………』
誰も積極的に話すために口を開かない。
全員がそれとなく気が付いていた。いつも話題を切り出したりバカを言う響がいない事、そして調がいない事が毒となって頑張ると決めたとはいえ中々調子が上がらない切歌のせいでそれとなく雰囲気が暗い。
クリスは周りに聞き耳を立てている生徒がいない事を確認してから口を開く。
「あたしらはさ……どうすればいいんだろうな……」
クリスは先輩としてそんな不安そうな質問をするのはいけないと前なら思ったかもしれないのだが、今はそこまで考える余裕がなくなっていた。
「私は響が破壊行為をしたり、逃げ回っているのと……ノーブルレッド達の行動が全くの無関係だとは思っていない…パヴァリア光明結社の残党を捕まえたら…何かが分かるんじゃないのかと思ってる」
未来はこれまでに考えていた事を口にする。響は稀血の取引場所を潰そうとしていた、何故特定できたのかは分からないがノーブルレッド達の行動を邪魔しようとはしていたのだ。
切歌はその言葉に驚いた顔をする。そしておずおずと質問をする。
「もしそうだとしたら…狼っ子を捕まえたら調も帰ってくる…デスか……?」
『…………』
「教えて欲しいデス……調は助けられるデスか……?」
切歌にとって家族の生死は何よりも大切なことだ。だからこそ否定されるのが怖くて聞きたくなくてもつい聞いてしまう、調を助けられるのかと。
「フィーネの事だよね?」
未来はその質問はいつか彼女の口から来ると予想はしていた。だからこそ用意していた説明を開陳する。
「正直に言うと…垂れた蜘蛛の糸を手繰るよりも難しいけど……前からやっていた事なんだけど…エルフナインちゃんは自分の頭にダイレクトフィードバックシステムを掛けて脳内の残留物をサルベージして…キャロルの意識を復活させようとしてるんだ」
「おいそれって……」
クリスは思いがけない回答に期待とそして不安を見せてしまう。
前に言った未来が受けた後遺症の事を聞いてしまうとエルフナインに何かあったらと考えてしまうのだ。
未来はそれを察して答える。
「それは絶対に大丈夫…とは言えないけど…私と違って脳の稼働を極限まで上げているわけじゃないからそこまで負担は無いはず…あくまで脳内を観測するだけだからリスクは低いよ、もう一度言うけど絶対ではないけどね……」
いまだに脳の稼働領域は未知の部分が多く。人が気軽に手を広げてはいけない神秘の世界だ。一歩いじくるのを間違えれば一瞬で廃人になってしまう。
未来は切歌を絶対に安心させる物言いをしてやれずに顔をしかめながらも話す。
「フィーネに脳を塗りつぶされても…調の一かけらでも残留物や過去に脳内で行われた神経伝播とも言える部分が残っていれば何とかなる…かもしれない……」
「……ほ、本当デスか…?…希望は捨てなくていいんデスか……?」
切歌は弱々しくはあったが何とか相手に対して姿勢を心なしか前のめり気味になってすがろうとする。
ここでも未来は苦し気な顔しか出来ない。
「ごめんね…首を縦に振ってあげられなくて…あとはエルフナインちゃんの経過次第としか言えない……」
未来はそう言ってこれ以上は何も言えないと、目の前にある紅茶の入ったカップに口をつけてグイッと飲み込んだ。
クリスはそれを見て切歌の肩を叩いて力の入った言葉を投げかける。
「よかったじゃねーか、まだ諦めるにゃ早そうだぞ?」
「そ、そうデスね!ボロボロになるまで調はあきらめないデスよ!」
切歌は藁にも縋る想いで希望を胸に抱くことにした。
◎
「新たな敵……」
その日の夕方、弦十郎は残された装者達を集めてブリッジで現状報告を行った。
「パヴァリア光明結社の残党……ノーブルレッドか……その狙いは一体っ……」
彼は腕を組みながら唸るように言った。
問題は山積みだが頭を悩ませるのはやはり錬金術師だった。
緒川もノーブルレッドから連想されるあれについて言及する。
「一連の事件をきっかけにRhソイル式の全血清剤は一か所に集められて警護されることになったようです」
先日の病院の件から、ノーブルレッド達は例の稀血が無ければそもそも力を使えないのか、もしくは生きるための酸素を供給出来なくなるのか、とにかく活動に必要である事は自明の理となっているためこのような対策を練ることになっている。
ただしそれは相手も分かっている事で、供給源を絶たれた今血液のストック数には限りがあるため、何かしらの大事を起こすなら短期決戦でやるであろうと考えられる。
相手の手には例のアヌンナキの腕輪が渡っているのだから、それを使って何かしらの行動に移るはずと考えられる。
クリスは右の拳を左の手のひらに叩きつける。
「あいつら大した強さじゃないのにのらりくらりと腹が立つな……」
これまでのノーブルレッド達は必ず逃げ道や少しでも力を入れると周りに被害が出かねない場所を選んで戦っている。
強さだけならパヴァリア光明結社の幹部の方が明らかに強かった。幹部たちはイグナイトモジュールの使用とユニゾンの重ね技でやっと倒せる実力者揃いだった。
イグナイトモジュール抜きでも十分に相手どれる実力しかないのだ。なのにいまだに討ち取れるわけでも拘束できるわけでも無い。
「そうね…相手の目的を把握して…逃げようのない状況に追い込まなければ……相手のステージに乗っかってはダメね……」
「目的か…南極でのあの腕輪を使って何をするつもりなのか…力を手にすることそのものが目的ではあるまい……」
マリアと翼はそれぞれ得た情報から考え込んでいる。
敵の目的でなく、その総数や後ろ盾について。
そもそもノーブルレッド達に与する組織もまた無償で助けているわけではない、必ずそのリスクに見合うリターンを求めているはずだと。
◎
ノーブルレッド達が身を潜めている施設に彼女たちを支援している風鳴訃堂が部下を引き連れて現れた。
どうやら現状報告を資料ではなく実際に見て確かめようという事らしい。
ヴァネッサは特段緊張など感じさせない口調で言った。
「お早い到着……せっかちですのね?」
「腕輪の起動…間もなくだな?」
訃堂は相手の軽い口調にも特段眉を動かすわけでも無く報告の催促をする。
ヴァネッサはそれを聞くと体を背後にある、一際大きな球体を七つの球体が囲っている装置がある。
それを起動できるであろうパネルの操作を始める。
「聖遺物の起動手段はフォニックゲインだけではありません。七つの音階に照応するのは七つの惑星…その瞬き」
そう言うと装置が起動して七つの球体から光が溢れて中央にある巨大な球体にエネルギーが注入されていく。
「音楽と錬金術は成り立ちこそ違えど共にハーモニクスの中に真理を見出す技術体系」
すると生まれたエネルギーがケーブルを伝ってシェム・ハの腕輪へと流れ込んでいく。
「この日この時の星図にて覚醒の鼓動はここにあり」
すると聖遺物を覆っていたカバーが腕輪から発せられる強力な光力に耐え切れずに破壊されてはじけ飛んでしまう。
装置からはぷすぷす…と煙が発生しており、腕輪は特に変化が見られ無かった。
「起動…完了……なのよね……?」
起動はもっとド派手なものになると結論付けていたのか思った以上に地味な終わり方に困惑気味な反応をしめすヴァネッサ。
「……?」
ミラアルクは聖遺物の状態を確認するために腕輪に近づいてそれに触れようとする。すると後ろから訃堂が腕を掴んでひねり上げる。
「なぁ…!」
(何だ!?ジジイの力とは思えないぜ!!)
己の腕が万力によって固定されている事実に驚愕を示す。自分たちがただの人間からすればどれほどまでに恐ろしい存在なのか痛いほど理解している彼女にとって、齢百を超える老体に力負けしている事実に冷や汗を流すほかない。
「お前の役目は他にある」
捻り上げた相手は顔色一つ変えることなく言う。
すると奥から腕を頭の後ろに回して連れて来れられて黒服の男が二人現れた。それは前に港でエルザとミラアルクに血液パックを渡すという任務を任された男たちだった。そしてその任務は響によって失敗に終わっている。
「あの時の人達で…ありますか?」
エルザは身構えながらも相手が何者なのかを把握する。ヴァネッサも初見の相手なので最低限の警戒はしている。
「片付けよ、使いも果たせぬ木端だ!」
訃堂はあの黒服二人が血液パックをキチンと渡せなかったがゆえにノーブルレッド達が病院を襲撃したり、大規模な電波障害を起こして大きな足跡を残してしまったと考えている。
それに響に取引を邪魔されただけでなく、あの場にはほかに目撃者がおり、ここに連れてこられた黒服にたどり着かれるのも時間の問題だった。たどり着かれれば風鳴機関はおしまい。
これは彼等の迂闊としか言いようがない事案。
訃堂はミラアルクの手首を放す。彼女は腕をさすって痛そうにしていた、それほどまでに人智を超えたバケモノなのだ。
そして片付けよの意味を悟って黒服の男を睨みつける。
「ひっ…ひいいぃっ!」
「許せとは言わないぜ…」
そう言った瞬間、彼女の爪が男の一人の首を切り裂いて血を噴出して体が緑色の炎に包まれて一瞬で絶命させられる。
「怪物どもめぇっ!?」
もう片方の男は目の前で起きた蹂躙劇に錯乱してシェム・ハの腕輪を掴み取ってしまう。
とっさの事でノーブルレッド達は驚愕を顔に貼り付けて何も出来なかったが、訃堂は敢えて放置していた。どうやらただの人間にも使えるのか気になるようだった。
「このまま殺されてなるものかっ!殺されるくらいならこいつでええぇぇっー!!!!」
彼は右腕に例の腕輪を装着して掲げた。
すると眩い光柱と謎の光を発する。
「ッ!この音は…!」
ヴァネッサが目の前の現象を分析しようとするなか。相手の内側からエネルギーが溢れて、爆発してしまう。
大規模な爆発が、施設の道具に引火して大爆発を起こして一帯を火の海にする。
「神の力、簡単には扱わせぬか?だがいくらでも手は打っておる!」
火の海の中訃堂は歓喜の声をあげる。聖遺物が起動さえすれば彼の計画は殆ど成功したようなものだからだ。
「ディー・シュピネの結界がっ!?」
「連中が駆けつけてくるぜ!!」
ヴァネッサとミラアルクは今自分たちを襲っている脅威に気が付いていた。
結界が無い今すぐさま実験や自分たちの痕跡をすべて消してここから逃げなくてはいけない。もし仮に風鳴機関が黒とバレたらもう終わりだった。
「提案があるであります」
エルザはアルカノイズの召喚結晶をつまんでそう言った。
◎
『アルカノイズの反応を検知!』
『先行して装者二名を現場に向かわせています!』
S.O.N.G.は深夜に突如としてアルカノイズ反応を検知したため、その現場に装者を向かわせることに。
アルカノイズの反応が認められた場所には大小それぞれのそれが分解を使って研究所らしき建物を破壊しつくしていた。
それを起こしたであろうヴァネッサは溜息をつきながらその光景を見ている。すると彼女の上空に駆動音が聞こえて、顔をあげるとそこには装者を乗せたヘリコプターが。
ディー・シュピネーの結界が破壊されてから殆ど時間が経ってないのにすぐさま装者を派遣するその手際に彼女は呆れたような表情をする。
「こちらもお早い到着だ事……」
二人の装者、マリアとクリスは現場の真上に着くとドアを開けて宙に身を躍らせる。
『Seilien coffin airget-lamh tron』
マリアは自由落下に身を任せて勢いそのままに剣でノイズ一体を真っ二つに両断する。逆手に持った短剣で華麗なステップで敵たちを切り捨てていく。
そして背面ジャンプで敵たちの包囲網から脱して距離を取ると、左腕の籠手を巨大な砲台に換装して敵たちに向けて撃ち放つ。発された光線は超巨大なアルカノイズ二体を真っ二つに切断して赤い霧へと変えてしまう。
クリスはアルカノイズを召喚したと目されるヴァネッサに攻撃を仕掛けていた。
相手は指先から銃弾をばら撒いてくるが、かつてのレイアのように明確なフェイントや誘導をかけているわけでも無くただ面を覆うように漫然とばら撒くだけなので、いくら銃弾が連射できて早くても簡単にかわして見せる。
クリスは相手の足元に銃弾を牽制がてらに撃つと相手は焦って回避に意識を持って行ってしまう。その一瞬だけ面を覆うようにばら撒いていた銃弾に空白地帯が生まれ、そこを経由して敵の面前まで迫ると思いっきり蹴りを叩きこむ。
「うぐっ…!」
ヴァネッサは蹴られると少しだけ息が吐き出されてたのか苦しそうな声を出して後退する。苛烈な攻め手に苦慮しているのか息が上がっている。
機械の体でなければ痛みで立てないのではないのか。
(こいつ…大した強さじゃねぇ……)
クリスは相手の実力を先ほどのぶつかり合いでおおよその実力を図った。
面前にいる錬金術師は予想した通りイグナイトモジュールを使わなくても勝てるレベルだった。
攻撃一つ一つの威力も練られ方も、そして攻撃が次につながっておらずただの単発の一撃でしかないところといい、相手と正面切っての戦い方が甘かった。
「一応聞いといてやる、お前たちの目的はなんだ?どーせろくでもない事だろ?」
クリスは無駄だとは思っているが一応平和目的の組織に属するものとして最低限の選択の自由を与える。つまり降参するのかどうかと。
「……降参するわぁ……」
「は……?」
しかしヴァネッサは両手を広げてやれやれといったポーズをとる。クリスは一瞬相手が何を言ったのか分からなくなる。
「まともにやっても勝てそうにないしね…わかりあいましょう…?」
相手はその大きなバストを腕で寄せてより大きく見せつけて煽情的なポーズでクリスに迫っていく。
結構初心なクリスちゃんはその行動にあたふたしてしまう。
「お、おいっ!ちょーっと待てぇっ!!あ、あたしゃそんな趣味は―」
そんな事をしている間も相手はライダースーツのファスナーを下げて胸にある何やらを見せつけようとする。
それを見てクリスは顔を真っ赤っかにして硬直してしまう。
「なんてね」
すると胸からミサイルが二丁クリスに向かって飛び出していく。何かと昭和な匂いのする男のロマンの詰まった攻撃だった。
「なっ!」
クリスはとっさに飛んでくるミサイルに銃弾をぶち込んで当たる前に破壊する。爆風が辺り周辺に撒き散らされて土煙を起こすがシンフォギアをまとうクリスにはさしたるダメージは入らない。
この不意打ちでクリスの方は完全に血液の温度が上がって、戦闘に対してのテンションが上がっていた。
ヴァネッサは悪びれるわけでも無く平然としている。
「私達の目的は…そうね……普通の女の子に戻ってみんなと仲良くしたいじゃダメかしら?」
「…………」
そう言って手首を開くとそこから小型のミサイルを放つ。
クリスが爆発に巻き込まれ、土煙が晴れるとそこにはマリアがいて三角形のバリアで防いでいた。アルカノイズを殲滅して援護に来たのだ。
「あっちゃー…」
無傷で受け切った相手に困ったようであり、また余裕そうな表情だが一対一の実力では天地がひっくり返っても勝てない。
マリアはそんな相手に向かって地面を破壊するほど踏みしめて突撃していく。一瞬で目前まで迫ると短剣で斬りつけようとする。その剣戟をギリギリの間合いでかわしていき、相手が大きく振りかぶるとジャンプして反転しながら躱していく。
「ヤバイかなぁ……ヤバイかもね……」
そう言いながらヴァネッサは後退しながら左手のロケットパンチを放とうとするのだが、その攻撃は事前に把握済のためクリスが相手の手に向かって銃弾を放って破壊してしまう。
「撃たせるかよ、その手は知ってんだ」
「なっ…!」
爆破してしまう手を見て驚いているとマリアが剣で十字架を切るとその軌跡が空中に残り、左での籠手にエネルギーを溜めて思いっきり空中の軌跡にそれを注入する。すると十字架型のエネルギー波が敵に向かって突撃して当たる。
直撃だけは避けたようでヴァネッサは何とかふらつきながらも立ち上がってみせる。
『ヴァネッサ!』
「ッ!」
『腕輪と保護対象を連れて…戦域から離脱できたあります!』
これ以上は戦う必要はないというエルザからのメッセージが入る。
「了解…こちらも撤退するわ……例の場所で落ち合いましょう?」
「お前…こんな事してて…皆って奴と仲良く出来るって本気で思ってんのか?とてもじゃないが仲良くしたいって願っているとは思えねーんだよ」
クリスは逃走を図ろうとする相手に思った事を素直に伝える。
そう言われても相手はにやにや笑いで真面目に受け取ろうとはしない、こいつは何をバカなことを言っているのかといった感じだ。
「ふふ…今は無理かもね…だって人は異質な存在を拒み隔てるものだもの」
そう言うと目を光らせてフラッシュで一瞬ひるませて隙を作る。その隙に逃走を許してしまう。
クリスは真正面から向き合おうとする相手に真面目に取り合う事もせず、飛んで逃げる相手にかつての自分を、そして今の自分にかつての響を重ね合わせてしまった。
「拒み隔てる……そうか…あのバカはこんなどうしようもない無理解を相手に立ち向かってたのか……」
◎
緒川を含めた調査部は今回の一件で錬金術師と召喚したアルカノイズが破壊していた施設を血眼になって捜索をしていた。
錬金術師が何の意味もなく面白半分で破壊行動をしたとは考えにくかったのだ。S.O.N.G.はサイボーグのヴァネッサのあの余裕そうな態度や身振り手振りは全て主だった目的を隠すためのアクションにすぎないと予想している。
あの場には誰かしら見られたくない人物がいたのか、見られたくない設備があるのか、予期せぬトラブルや目撃者がいたのか。大がかりな行動で彼女たちの足元を揺るがす小さな何かを覆い隠そうとしている。
隈なく探せば何かしらの手がかりが出てくると確信している。それくらい先走った行動だと感じたのだ。
「これはっ…!」
緒川がふと建物だった瓦礫に目をやるとそこにはかつて資料で見た歯車が。
傍にいた解析班の一人に彼は指示を出す。
「急ぎ解析をお願いします!」