実験施設の破棄とスポンサーにあたる風鳴訃堂を離脱させることに成功したノーブルレッド達は、都内から離れたゴミ捨て場にあった比較的綺麗だったバンの中で休息とそして寒さを凌いでいた。
その場所は元々は森だったところを開拓し平地にした後で、その一部分を掘って窪ませて大穴を作り、そこに大型ごみ等を投げ入れていた。
廃車の中でヴァネッサ、エルザ、ミラアルクの順に川の字になって毛布をかぶって身を寄せて温めあいながら横になっているノーブルレッド達。
「アジトを失うって…テレポートの帰還ポイントを失うだけでなく…雨風を凌ぐ天井と壁も失うってことなのね。お姉ちゃんまたひとつ賢くなりました……」
左腕を枕にしながら愚痴るヴァネッサ。
それを聞いていたミラアルクは両手を頭の後ろに置くことで枕代わりにしてそれに同意をする。
「おかげで次のねぐらが見繕われるまでまさかの車中泊っ!世間の風はぁやっぱうちらに冷たいぜ……」
「あの時は仕方なかったであります…アルカノイズの反応を追ってS.O.N.G.が急行してくるのはわかっていたでありますっ」
二人がぶちぶちと文句を言うものだからエルザは苛立ちながらあれは最善策だと言い張る。
もしも捕まったパヴァリア光明結社の局長や幹部格たちであればアルカノイズを使わずとも一瞬で施設一帯を消し炭に出来たはずだ。
彼女たちノーブルレッドはそれが出来ない程度の実力しかないのだ。
「それでも…足がつく証拠や起動実験の痕跡をそのまま残しておくわけには…」
「心配ないない、なんとかなるなる。だってエルザちゃんしっかりものだもの」
エルザが落ち込んでいるのを見てヴァネッサは抱きしめながら励ます。
彼女が抱擁を受け取っていると突如耳を逆立てる。そして毛布の中に潜り込んでしまう。
「ちょっ!どうしたのったらどうしたのっ!?エルザちゃん!」
突然の行為にヴァネッサは慌てふためくしか出来ない。
今までのやり取りを見ていたミラアルクも怪訝そうに何をやってるんだという感じだ。
毛布から出てきた彼女が持っていたのは自分たちに身に覚えのない小型の電子機器が、それは予想でしかないがS.O.N.G.が仕掛けた発信機だと思われる。
『なっ!』
それを見た二人は今自分たちが絶体絶命の状況である事に気が付いた。
◎
「全員揃ったな…」
弦十郎のその言葉に少しだけハリが無かったのは装者が本当の意味で全員揃ってはいないからだ。
そしてその抜けている二人が返ってくる保証は一切ない。
エルフナインは重い空気を察して正面の大型モニターに映像を写して本題に入る。
「まずはこれをご覧ください」
そこに出てきたのは装者にとって見覚えのあるデータ。聖遺物が起動した際に不可避に発生するエネルギーの指紋のようなモノ。
「これはっ…アウフヴァッヘン波形」
「それも…あたしらとは別の……ってまさかっ…!」
翼とクリスは驚き素早く目の前のデータがそれだと気が付く。そして脳内でこれまでに起こった出来事から結びつくことが一つだけあった。
「ああ……奪われた腕輪が起動したとみて間違いないだろう」
弦十郎は険しい顔で首肯する。
前にノーブルレッド達が腕輪を奪った事と今回残った痕跡が結びつくのは当然の帰結であった。
「アルカノイズの反応に紛れ、見落としかねないほど微弱なパターンでしたがかろうじて観測できました」
「恐らくは強固な結界の向こうでの儀式だったはず。たとえばバルベルデでのオペラハウスでのような…」
オペレーター二人は前回のアルカノイズの召喚によって得た情報を簡潔まとめたものを報告する。
「そして…観測されたのはもう一つ」
エルフナインはそう言うととある音声データをブリッジ内に流す。それは不協和音またはノイズのような人にとって不快で耳障りと感じる連続性のある音の羅列が流れる。
「曲…というには面妖な……」
「最先端ってのはこうなのか?」
「デタラメすぎデス……」
翼とクリスと切歌は流れた音声データに不快そうな顔で感想を述べる。
しかしマリアだけは俯いて視界から得られる情報をシャットアウトして、耳だけに感覚器官を集中。その音を聞いて必死に記憶の中に潜って何か取っ掛かりを見つけようとしていた。
(聞いたことの無い音の羅列……だけど私はどこかで……?)
そしてその顔はどこか悲しそうで何かもう戻ってこないものに手を伸ばすような。音声データが終わるとマリアも集中状態が終わってハッとする。
エルフナインは先ほどのデータについて説明をする。
「音楽の正体については目下の所調査中……ですがこれらの情報を総合的に判断してノーブルレッドに大きな動きがあったと予測します」
「やはりこちらから打って出る頃合いだな…」
弦十郎は顎に手をやって考え込む。
その一言にマリアを除く装者は驚く。これまでノーブルレッド達の具体的な目的へのロードマップが分からなかったからこそ後手後手に回っていたのだ。
逆に言えば目的や居場所さえわかれば、かつてパヴァリア光明結社の神の力の降臨を一時的とはいえ要石で防いだ時のようなことも可能だ。
「いや、オッサン!相手がどこにいるか分からないから後手後手に回ってんだろ?」
クリスは苛立ちながら反論をする。先手や不意を打てるのならそうしたいのは彼女だって山々だった。
「マリア君」
彼はクリスではなくマリアに視線を向ける。マリアもそれに頷いて横にあるモニターの傍まで歩く。
「さっきの戦いで発信機を取り付けさせてもらったのよ」
マリアは左手に発信機をつまんでそう言った。
するとモニターには地図と赤い点が表示される。推測でノーブルレッド達が現在いる場所うだろうとそれを見た装者達は察した。
「ノーブルレッド…弱い相手とは戦い慣れていないみたいね?」
◎
「迎え撃つとは殊勝な……逃げきれないと観念でもしたのか…?」
「みんな着地しても油断しないように、友好的と見せかけて不意を打つ可能性もあるわ」
翼のその言葉の通りノーブルレッド達は窪みの一か所に集まって、向かってくるヘリコプターを隙なく見ていた。
マリアも相手が卑怯な手を打ってくるのは知っているため注意を促す。前にもクリスと仲良くなろうとか言ってミサイルを撃ってきたのだ。
装者はヘリから飛び降りて素早くシンフォギアをまとうと素直に地面に着地をする。するとドオンッ!と地面が大爆発を起こしたのだ。
それは地雷だった、それを降下するポイントにびっちりと仕掛けており着地の衝撃で信管が起動したのだ。
複数の地雷はいくらシンフォギアの防御力を持ってしても体に優しくない衝撃を与える。
ノーブルレッド達は既に地雷が仕掛けられていないポイントまで移動しており高みの見物をしていた。
「あえてこちらの姿を晒すことで降下地点を限定させるであります。あとはそこを中心に地雷原とするだけで」
「他愛ないぜ!」
エルザとミラアルクの勝ち誇った声が響いた。
『発信機とはやられたぜ…!どうする!?』
ミラアルクは最初はまんまと嵌められていた事に怒ったがすぐさま次の行動を仲間に問う。逃げるにしろ迎撃するにしろすぐさま動かなくてはいけない。
『逃げるにしろ…逃げる先のアジトは無いわ…ここはもう迎え撃つしかないわね……』
『だからどうやって!?』
ヴァネッサの諦めたような声色に彼女は焦りと焦燥のある声で問いかける。
彼女たちは基本的にシンフォギアには勝てない。囲まれてイグナイトモジュールをまとわれたら間違いなく挽肉にされてしまう。
エルザはここでふと思いついた。この状況を乗り越える事の出来る策を。
『方法は…あるであります…迫りくる危機的状況…だけど私めらは三人揃い必要数の全血清材もそろっているであります……』
爆発の衝撃から幾分か回復した装者たちはすぐさま足元に警戒と相手の狙いを計ろうとする。
「一度爆発したところにはもう地雷は埋まってないのデス!」
切歌のその言葉に反応して皆が爆発したクレーター部分に背を合わせて構える。
「それもまた予測の範疇であります!」
エルザの一言にノーブルレッド達はそれぞれ配置について手をかざす。それは三角形で囲うような配置だった。
すると装者達の上空に複数の立方体が発生して地面に彼女たちを囲うように落ちてくる。
「させるかよぉっ!!」
クリスはいち早く相手が閉じ込めようとしているのを察して腰のアーマーを開いてミサイルを対象に向かって乱れうちする。
間違いなく直撃して黒い煙が発生するのだが晴れた先には傷も凹みも無く鎮座している薄く輝く青色の立方体だった。
「バカなっ…!雪音の火力でも砕けぬとはっ…」
翼は表情に驚嘆を張り付けて呻く。驚くのも無理はなかった、砕ける以前に壊れる予兆すらないのだから。
ヴァネッサは目を細めて呟く。
「そう…あれかし……」
正方形がどんどんと装者達を囲んで、気が付くとそれぞれが迷路ような場所でバラバラにされてしまった。
『なんだとぉ!?』
弦十郎は敵の策にまんま嵌ってしまい閉じ込められてしまった装者達をモニター越しに見て叫んだ。
『装者と通信途絶!』
『戦闘管制出来ません!』
オペレーター二人は現状報告をする。それは考えられる限り最悪な内容だった。
『弦十郎さん』
騒がしいブリッジに静かな声がやけに響いた。
皆がその方へ向くと未来が立っていた。
『未来君!どうしてここに…まだブリッジへの出禁は解除してないが……』
『これを見せに来たんです』
『まさか…それはっ……!』
弦十郎は一応世界の国々には未来の処遇はブリッジへの期間内の出禁と公表していたので、それを破るのは不味いと咎める。
しかし未来が手に持っているこの窮地を乗り越えることが出来るそれを見て驚愕する他なかった。
「ならイグナイトモジュール…デス……今はまずいデスよね……」
切歌は今の調がいない精神的にやや投げやり状態で弱っている状況での単独の抜剣は危険だと判断をした。
「ッ!何て硬さなの…」
マリアは短剣を壁に思いっきり叩きつけて破壊を狙ったが傷を凹みも見られ無かった。
「ミサイル…はまずいよな……」
クリスは大火力で破ろうとしたがすぐさまその考えを改める。
先ほど壊せなかったのもそうだが、この密閉された空間で爆風を起こしたら自分にしっぺ返しが来るのは分かりきっていたからだ。
「どうする……ここはイグナイトモジュールを…いや…この空間が賢者の石以外に浄化する機構を備えていたら危険だな……」
翼は落ち着いて他の仲間たちとの合流を目指す。
一方外部ではノーブルレッド達が生み出す巨大なピラミッドが存在していた。その内部に装者達は閉じ込められている。
「名匠ダイダロスの真髄をここに……怪物がうごめくは迷宮…神話や伝承…果ては数多の創作物による積層認識が…そう荒れかしと引き起こした事象の改変、哲学兵装」
神話の時代、ミノタウロスというバケモノを閉じ込めるために巨大で強固な迷路が存在しそれを疑似的に再現しているのだ。
ミノタウロスを逃さなかった迷宮の外壁は通常状態のシンフォギアで破壊するのはまず不可能。
「怪物と蔑まれた私めら三人が形成する全長三八万kmを超える哲学の迷宮は捉えた獲物を逃がさないであります!」
「それだけじゃないんだぜえっ!」
最後のミラアルクの掛け声にヴァネッサとエルザも力を入れる。
すると迷路内を走る装者達を追い詰めるように青色の衝撃波が迫ってくる。逃げていると閉じ込められた皆が一か所に集まる。どうやら誘導されていたようだ。
「あなた達!?」
「っ!衝撃波が来るぞ!構えろ!」
マリアの驚愕の声、そして翼は慌てて指示を出す。
『ダイダロスエンド!!!!』
ノーブルレッド三人の叫びと共に出せる最大級の一撃が炸裂する。
迷路内の衝撃波が行き場のない閉鎖空間でぶつかり炸裂・大爆発を起こし逃げようのない一撃が皆を襲う。一人一人の力が弱くとも相乗的に強力な一撃を見舞うことが出来る。
「さすがのシンフォギア……簡単には行かないみたいだぜ……」
ミラアルクは苦々しそうに言う。
「みんな……大丈夫か……?」
「あぁ……なんとかな……」
翼はその場にいた仲間たちに声をかける。クリスは痛みを堪えながらも答える。
切歌を除いた装者達はとっさにイグナイトモジュールを起動して防御を固めて受け切ったのだ、それでもダメージは免れなかったのだが。
ちなみにマリアは自分だけでなく妹分も守る事に力のリソースを割いていた。
「とはいえこれ以上受けていられないわ……」
マリアは相手の一撃の強力さに顔をしかめる。抜剣の力の開放を持ってしてもダメージは免れなかった。
「せいやっ…!…何て硬さデス……」
切歌は思いっきり鎌をぶつけるのだがそれでも表面に切り傷しか出来なかった。
すぐさま動かなければ次の一撃が来てしまう。二度も三度も受けれる威力ではなかった。翼はそれを察した。
「イグナイトモジュールを全開放して一点突破するぞ…」
「それは危険よ!もし仮に出られたとしてもイグナイトモジュールがとけて体力が限界の状況では丸腰も同然!」
マリアはすぐさま案を否定する。それは彼女も考えた事だが、出た瞬間の無防備な状態は相手の望むところだろうと予想している。
クリスはここで密閉されているにもかかわらず空気がうごくのを感じた。
「おい!次が来るぞっ!」
「ど、どうするデスか!?」
切歌も慌てて指示を仰いでしまう。
おここで攻撃を受けてもやられて外に出れたとしても相手に撃たれる可能性が高い、まさに前門の虎後門の狼状態だった。
「とにかく出なくてはここで時間制限を迎える!やるぞっ!!」
翼は覚悟を決めてギアペンダントに手をかける。イグナイトモジュールの三段階目の力の全開放にて突破する事に。
(それこそが狙い……イグナイトモジュールを全開放して力を使い果たせば私達だって相手取れるわ……それに倒せなくてもバテた相手なら逃げるのはそう難しい話じゃないわ……)
ヴァネッサはエルザの計画がこうも上手くいってほくそ笑んでいた。他の二人も勝利を確信した笑みを浮かべる。
彼女たちの勝利はシンフォギアを倒す事ではないのだ。ここを生き残って神の力を得る事なのだから。
力の無いもの持たざるものは勝つ以外での妥協点とも言える勝利条件も設定するのだ。
しかしそこで上空でミサイルが飛んでいた。
「何なんだぜ…?」
ミラアルクは突然と飛行物体に不審そうな顔をする。
それはS.O.N.G.が撃ったものなのは分かるのだが、シンフォギア装者がいまだに脱出できていない状況でミサイル一発をただ撃つのは理解できなかった。そもそもノーブルレッド達にも哲学兵装のピラミッドへの直撃コースですらない。
ミサイルがパージするとそこから人が出てくる。
「あれは何でありますか…?」
疑問を提示ながらもエルザはこの光景にデジャヴを感じていた。
かつてザババの二人がやって来た時もこのようにミサイルから飛び出して襲撃されていた米国空母に降り立ったと。
だがガングニールとシュルシャガナの二人がこの場に駆け付けるとは考えられなかった。
上空が光り輝く。
『Rei shen shou jing rei zizzl』
それはかつて最強と言われた装者が口にする聖詠だった。
上空で紫色の極太の閃光がダイダロスの迷宮を貫いて破壊した。
「ばかな……」
ヴァネッサの呟きには二つの意味があった。
一つ目はたったの一撃によって最終兵器であるダイダロスの迷宮が粉砕されたこと、二つ目はそのシンフォギアはもう作れないないと事前に情報として知っていたからだ。
「げほごほっ……いったい何があったんだ……?」
クリスは突如として哲学兵装によって密閉された場所から、先ほどまでの夜中の戦場に戻った事に驚いていた。
翼とマリアも似た疑問を浮かべていた。辺りを見ると驚愕しているノーブルレッド達が見えた。
「ここは…何故相手は迷宮を解除したのだ…?」
「まさか相手の方が先に限界を……?」
「これはチャンス……なんデスよね…?」
いまだ現場は混乱を極めている。
上空高く鎮座する存在がいまだに現状を把握できていない装者を見て口を開く。
「みんな無事そうでなによりだよ」
皆がその声のする方向を向く。
敵味方関係無く皆がそれに視線を釘付けにされる。
上空高い場所にいたのは神獣鏡のシンフォギアをまとう小日向未来だった。