フィーネは苛立っていた。今回手を回しに回した作戦が完全に不発に終わったのだ、苛立ちもする。本当にうまくいかない。
ソロモンの杖の研究と起動をフィーネに託したアメリカ組織の催促にも苛立つ。既にソロモンの杖が起動している事にすら気が付かない阿呆どもなど知った事ではないのだが。
それにあの響とかいう小娘、天然なのか自分の邪魔や意図しない行動ばかり行ってくる。本当に殺してやりたい。
ふと響の入院直後の病院での弦十郎とのやり取りを思い出す。
『響ちゃんの体を調べるなら今がチャンスなのよ!』
『ダメだ。もしそれをすれば彼女からの信頼を二度と得られなくなる。それを了承する事は出来ない』
ギリッっと苛立ちが口元に出る。今すぐにでも融合症例のデータが欲しいのに、欲しいものは目と鼻の先にあるのに。弦十郎は了子の態度に不信感を感じたのか常に2課のエージェント複数人を響の病室に付けている。秘密裏にデータを取る事は不可能になった。
ふと彼女は部屋の隅で磔にしているクリスに視線を向ける。あの日、絶唱をゼロ距離で食らったため瀕死の重傷を負ったのだがネフシュタンの鎧の回復の力で命からがら生き残ったのだ。磔はフィーネの趣味だが。
「これで本当にいいんだよな……?私の望みを叶えるには…お前に従っていればいいんだよな……?本当にそうなんだよな…………?」
「そうよ。だからあなたは私の全てを受け入れなさい」
クリスの口ぶりは既に盲目的なものではなく、フィーネの存在そのものに疑問を感じているようだった。響の返り血にまみれた事でそれまで体に浴びていたフィーネの毒が洗い流されたかのようだった。
フィーネは堂々とした態度で問いに応える。
するとくるりと体をひるがえし、傍にあったレバーをおろす。クリスには絶妙な角度で見えなかったが、その時一瞬だけ落胆と激怒が見えた。自分の手駒がまた1つあの小娘に潰されそうになっている、自分が奪われる側に回る事が許せない。
「ウガアアアアアアァァァァァァッ!!!!」
強力な電撃がクリスを痛めつける。これはフィーネのサディスティック的な趣向ではなく、電撃でネフシュタンに侵食された細胞を破壊しているのだ。
唯一今回の作戦に報酬があったのなら、クリスの侵食具合をみてデータが取れた事だ。瀕死の重傷という事はそれだけ力を使ったという事。これに過去の研究データと組み合わせればある程度の鎧の運用が可能になる。
「覚えておいてクリス。痛みだけが人の心を繋いで絆と結ぶ世界の真実という事を」
「……………………」
「……さ、一緒に食事にしましょう」
フィーネの信念ともいえるセリフ。しかしクリスの反応は悪い。
クリスの脳裏に浮かぶのは自分が傷つけた死に体の融合症例、あれが人の心を繋いだ形とはとても思えなかった。彼女は不安そうな表情をする。
―あぁ…あぁぁ…もうコレはダメかもしれない。もう既にコレは都合のいい手駒では。見限る時も近いか………
◎
あの日から2週間が経過する。
翼、弦十郎、友里、藤尭の四人は集まっていた。部屋は暗い沈黙が覆っている。
いまだに彼女の容態は改善の兆しを見せていない。響は車に跳ねられ昏睡状態として学校に連絡している。
「…そういえば了子君の戻りが遅れているようだな……」
了子はいま永田町に政府のお偉いさんに呼ばれている。
最近2課の周りはきな臭いためどうしても気になってしまう。
◎
「ふっははは……電話一本で予定を反故にされてしまったか」
2課の横暴を笑って済まそうとする広木防衛大臣。秘書や護衛はカンカンなのだが何吹く風といった具合だ。
「それでも特異災害に対抗しうる唯一無二の切り札だ。私の役目は連中の勝手気ままを出来うる限り守ってやる事なのだが……」
広木防衛大臣、異能の力を一手に扱い、疎まれがちな2課と時に衝突しながらもつねに矢面に立って援助してくれるよき理解者。
しかしこの後、フィーネの指示でテロリストの手によって彼は殺されることになる。誰も彼の運命は変えられない。
それが出来る少女はいまだ病院のベットのうえ。
◎
「たーいへん長らくお待たせしましたぁっ!」
「了子君!」
了子のこの場には不釣り合いな挨拶が炸裂する。弦十郎は焦った声を出す。
「なになに?待たせちゃったぁ?」
あえて何も知らないふりをしていつものおちゃらけた雰囲気で話し出す了子。右手には白いケース。当然誰も笑ってないし、張り詰めた緊張感を崩さない。
了子の雰囲気など無視して素早く本題を切り出す。
「広木防衛大臣が……殺害された」
「えぇっ……本当!?」
弦十郎の衝撃的なニュースに対して驚いたふりをする了子。革命グループからの犯行声明など今起きてる問題を懇切丁寧に説明される。目的は不明瞭で捜査中なども説明を受ける。
「心配してくれてありがとう。政府から受領した機密指令も無事よ。任務遂行こそ広木防衛大臣への弔いよ」
彼女は本当はそんなものは受け取ってないが、広木防衛大臣の使うケースを遺体からくすねてきていた。彼女の目的の1つデュランダル確保のため、架空の指令を偽って目的のブツをアビスの外に出してくすねようというわけだ。
もし注意深く観察していればケースの底に返り血が付いている事に気が付いただろうが、皆が支援者の突然の死に動揺してそこまで考えが及ばなかった。
今了子を止められる少女の意識は泥の中。
◎
「そうですか。響はまだ面会謝絶ですか……」
響の友人3人娘はお見舞いにと思って病院のロビーに来たが、いまだに予断を許さない状況で会えないと返された。ロビー内でしょぼくれる3人。
「てか何でお好み焼き持ってきたのよ!重症患者が食べられるわけ無いでしょ!」
「いやビッキーさ、これ好きじゃん?」
「び、病院であまり大きな声は……」
詩織の一言で自分たちがいる場所を思い出して黙る2人。
響が事故前に自慢していたカメラを回収して流れ星の写った部分を現像して持ってきていた。しかし無駄足に終わった。
◎
デュランダルを2課本部から永田町地下『記憶の遺跡』に移送する計画が、広木氏の亡くなったその日に決定した。実際の護送は次の日の早朝。
突然の支援者の死と急すぎる護送計画に2課の人員はてんやわんや。
次の日、五台の車と翼の乗るバイクとヘリが敷地内に用意される。
作戦は前日に説明されていたが、開始前に改めて説明がなされる。
「防衛大臣殺害犯を検挙する名目で検問を配備。記憶の遺跡まで一気に駆け抜ける!」
「名付けて~っ『天下の往来独り占め作戦』!」
橋を渡る途中で突然道路が爆発する。予想はされていたが妨害だ。デュランダルを奪取するために敵がやってきた。一台の車が橋の一部の崩落に巻き込まれるがしたは海のため衝撃に備えれば大丈夫だろう。
橋を抜けて市街地に突入すると、あらかじめ人払いをしていたため平日とはいえ人通りには人っ子一人いない。すると下水管から勢いよく水が噴き出す。マウンホールが車体に当たって2台スリップしたが死人はいない。敵は下水管を巧みに利用している。
翼はさっきから敵のアルゴリズムに違和感を感じていた。ノイズらしくない動き。
「……まさか護送車のみを的確に狙って、死人を出さないようにしてる……?」
するとあらかじめ装着していたインカムから、運転する了子とヘリで空から指示を出す弦十郎の会話が聞こえる。
『弦十郎君?ちょっとヤバいんじゃない?この先の薬品工場でノイズが暴れて爆発でも起きたら……デュランダルはっ』
『分かっている!さっきから護衛車のみを的確に狙い打ちしてくるのは、極力少ない被害者で事をなそうとしている事、そしてデュランダルを損壊させないようノイズを制御していると見える!』
『チッ』
弦十郎は了子の懸念に対して事実に近い自分の推論を話す。
了子の舌打ちはクリスが人を傷つけずに事なそうとしている事に気が付いたからだ。響を殺しかけてから明らかに影響が出ている。フィーネの思想から脱却し始めているのだ。
『狙いがデュランダルの確保なら敢えて危険な地域に滑り込み攻め手を封じるって寸法だ!』
『勝算は!?』
『思いつきを数字で語れるものかよ!?』
そのやり取りの後、了子の乗る車と残った護送車とバイクの計3台は海沿いの薬品工場に突撃する。
するとノイズが下水管から現れて護送車の行く手を阻む。驚いて右にハンドルを切るがスリップして建物に突撃する。
(やはり極力死人を出さないようにしている……)
その光景を見ながら翼は自身の予測を確定したと結論づける。
すると目の前で突然了子の乗っている車がスリップして反転し、上下逆になる。彼女はすぐにデュランダルのケースを持って車から出てきた。バイクを車の傍に停車させて、
「大丈夫ですか!?」
「え、えぇ……死ぬかと思ったけど……」
翼の心配に大丈夫だと返す了子。
周りには大量のノイズたち、翼はここが決戦の地だと認識、
「Imyuteus amenohabakiri tron」
アメノハバキリをまとう。
(ここには可燃性の薬品がある分ノイズをむやみには出せないだろう、ネフシュタンの鎧とやりあうならこれ以上の場所は無い)
明らかにノイズの動きが緩慢になっている。デュランダルの確保だけでなく、ネフシュタンの少女はどこか傍にいるため下手に施設を破壊できないのだ。
手加減したノイズ達で風鳴翼を倒せるわけも無かった。手を使いスピンをしながら足に仕込まれているブレードノイズ達を一掃する。
「おいおい今日は一人だけかぁ?」
敵が現れた。右手に例のノイズの杖を携えた、ネフシュタンの鎧をまとう少女が。
「貴様……」
「怖いじゃねぇかデュランダルは渡してもらおうか」
睨みつける相手に余裕ぶるネフシュタンの鎧の少女。翼は響と目の前の少女の会話を思い出す。
『お前もちったあやるって聞いたぞ?少なくともあそこにいるのぼせあがったアイドル崩れよりはなぁ?』
『へぇ……誰に聞いたんだろうねぇ?』
『ッチ!余計な詮索してんじゃねぇ!!』
瞬時にこのやり取りを思い出して問いかける。
「一人だけかだと?立花と話した時の口ぶりからして、貴様の後ろには情報を流し指示を出している存在か組織があるはずだ」
「…………」
「ならば今の立花が死の淵にいる事も知っているはずだ」
「……………………」
翼は相手の沈黙は肯定として言葉を紡ぐ。ネフシュタンの少女はわずかにだが手足が震えている。
翼の中で何かが変化しつつあった。前までの翼なら口上を述べて切りかかっていたはずだ。しかし、
『翼さん!相手は人ですよ!それに鎧を着てるあなたも落ち着いてください!話し合えば分かり合えます!』
目の前の少女と分かり合えるのか自信は無かった。響の理屈には正直賛同は出来ないし、正しいとは思えない。少なくとも敵を前にして出す理屈ではない。ただ今は響が残した言葉を切り捨てたくはなかった。
翼は剣の切りっ先を突き付けて言う。
「最終通告だ。ネフシュタンの鎧を解除して投降しろ」
沈黙が流れる。そして、
「わ、たしには……叶えなきゃならねぇもんがあるんだぁぁぁ!!」
吠える、そして左手で鞭を掴む。翼も相手の出方をみて意識を臨戦態勢に切り替える。
クリスは先行すべく左手の鞭を叩きつけようとするが、それを察して素早く翼が小刀を投擲する。前回は影縫い、それで痛い目を見たため影に接触しないように慌ててそれを力いっぱいに吹き飛ばす。
「シッ!!」
鋭い気合を入れる声。
防がれるがそれは想定内、十分に隙は出来た。剣を腰だめに構えて一直線に突撃する。防ぐために左手を振り切った隙だらけの左の脇腹に突き技が直撃した。体の回転とインパクトの瞬間に関節を固定して威力すべて無駄なく乗せた剛の一撃で相手を吹き飛ばす。柔らかいものより硬いもので殴った方がダメージは大きい。よく見ると鎧に僅かにだがひびが入る。
前と違い翼は冷静さを失わずに立ち回る。
「く、そ……」
(こいつ……前に戦った時とは別人だ!)
クリスは悪態をつき立ち上がるが内心動揺していた。前とは比べ物にならないほど翼の動きがキレてるからだ。
翼は距離を詰める。走りながら両手で握った長剣で斬撃波を放つ。あっさり防がれるが倒すのが目的ではなく、突撃して接触するまでに鞭での遠距離攻撃をされるのを嫌っただけだ。
ギイン!と剣と鞭が接触する。単純な腕力では相手に分がある。しかし、剣の方が押している。
翼は力を入れやすい上段の振り下ろす一撃。さらに詰め寄るためのダッシュと力強い踏み込みで威力を上げる。一方クリスは先ほどの攻撃を防いだ分、防御の構えが遅れ中途半端に剣を受けてしまう。
翼が押しているが決して優勢ではない。ここまで技と力をフルに使い切らなければ、食らいつくことが出来ないのだ。
優勢だった鍔迫り合いも徐々にだが地力で勝るネフシュタンの鎧が有利になる。ギリギリと押し返していく。そして鞭が剣を払う。前と同じ剣を払われた隙だらけの状態。クリスは蹴りを入れようとするが咄嗟に腹に剣を大量に作り出して盾にして蹴りの威力を減らす。
「くっ……ぅ」
生み出した剣ごと吹き飛ばされる。喉からこみ上げるものがあるがギリギリ怯むのは防ぐ。威力を減衰していなければ意識を持っていかれた可能性がある。
次の手に入る。翼は剣を思い切り地面に叩きつける。大きな土煙が辺り一帯に発生する。
「どこだっ!?」
クリスが視界の悪い中で悪態をつきながらも翼を探す。後ろを振り向くと人くらいの大きさの影を見つけて、咄嗟に攻撃を加える。しかし、
「なにー……?」
人体の柔らかい感覚ではなく、硬い金属の感触。土煙が晴れるとそこには風鳴翼ではなく、複数の剣を重ねて作ったハリボテだ。
「これは……」
クリスが絶句する。デコイという事は本物は別の場所にいるということ。ふとクリスの体が突然影の中に入る。上を見ると今までで一番巨大な剣を振り下ろす翼の姿が。正確には振り下ろすではなく重力任せに落下をしている。地面に接触、彼女の体が剣に潰され消えた。
ドオンッ!!っと爆音と振動が炸裂する。絶唱を除けば現状の翼が出せる最大級の一撃。あまりにも巨大で技の出だしがバレバレで、何より遅いので通常は出せない技。
周りも陥没して建物が一部崩れ火の手が上がっている。
「はぁ…はぁっ……」
翼は既に限界だった。だがまだ任務は終わっていない。相手の確認よりも先に優先すべきは人命とデュランダルだ。
「櫻井女史早くここから避難をしましょう」
了子の方を振り向き声をかける。
えぇ…といつもと違い気の抜けた答えを返す、しかし内心では、
(バカな……どうなっている?たかだか欠片でしかないシンフォギアが完全聖遺物を押し切るなど、風鳴翼……こいつ、いつの間にここまで力を……)
了子の内心とは別に空間に張り詰めていたものが弛緩していく、戦いは終わったという雰囲気が生まれる。しかし、油断したのがいけなかった強敵を退けた事が彼女の心の中に慢心として残ってしまった。
「勝負は…終わって、ねえって…のに…ず、いぶん…余裕じゃ…ねえか……」
「な―」
翼の体が横薙ぎの鞭で吹き飛ばされる。とっさの判断で体と鞭の間に剣を挟んでクッションにしたとは言え大ダメージ。
「ゲホゴホッ!」
今度はこみ上げるものが抑えきれずに喀血する。
クリスは立ち上がる。決して浅くはないダメージだが、よく見ると傷口がミシミシと音を立ててネフシュタンの細胞が埋めていく。彼女の顔に苦悶の色が刻まれる。
しかし、耐え切った。翼の出せる攻撃をすべて受け切ったのだ。
ソロモンの杖を掲げてノイズを生み出し翼に向かわせる。絶体絶命であるもう彼女に耐えきる体力は残っていない。
突如現れた黄色い旋風。ノイズたちがなぎ倒される。翼の目の前には、
「つ、ばさ…さん、ぶ、じですか…?」
土壇場で援軍が現れた。
◎
―全く惨めである…かの時と変わらず情を選るその腑抜けた思想
(情……そんな事…私が一番知ってる。未来を救えなくて…みんなを救えなくて……)
―貴様の愛など、破滅へと終結する。所詮人など限られし命と時の中に制約された囚人でしかないのだから
(私には何も出来ないっていうの……?)
―貴様はある意味で史上最高で最低の利己主義者であろうよ?我以上にな?過去に戻り自分の望むまま世界を改変するのであるから
(や…めて言わないで……)
―歴史を変え己が望むがまま幸を占有する。つまり他者の得るはずだったそれを奪うという事だ、貴様は世界一の簒奪者である
(私を暴かないでええええぇぇぇぇっ!!)
◎
「う……」
響の意識が覚醒する。汗がダラダラと流れている。何か酷い悪夢を見ていた気がするのだがよく思い出すことが出来ない。
「先生立花さんが!」
巡回していた看護師の女性が響の覚醒に気が付くや慌てて応援を呼ぶ。
響は酸素カプセルのような薄い容器の中に安置されていた。ぽかぽかしていて気持ちいい。手には大量の点滴、バイタルチェックのための電極が大量に張られ、酸素マスクで何とか呼吸していた。
覚醒直後の薄ぼんやりとした感覚器から読み取れるのは自分が死んでもおかしくない、いや死んでるのが普通な状況下であった事。まさに奇跡の生還である事が理解できた。
その後、奇跡の生還の熱狂が落ち着いてから部屋にいる女性看護師に質問をする。
「わた、しが倒れて…るあい、だに大きなっ、ニュース、あ…りま、す?」
「へ……?えっとそうねぇ…昨日広木防衛大臣がテログループに殺されてそれでニュースやワイドショーは持ちきりかな」
「ッ!?」
(遅かった!つまり今現在進行形でデュランダルの護送作戦が行われてるんだ!)
響の掠れた聞き取りずらい問いかけにも親切に答える女性看護師。
寝ている場合ではない。今すぐ行かなくては、今の響は動けないが体に埋まっているガングニールを使えば体を動かせるはずだ。
看護師が部屋を出る時、出入口を見ると黒服の男性がチラリと見えた。出入り口から素直に出るのは難しい。
響は点滴とバイタル測定用の電極を一気に外してカプセルを素早く開ける。黒服たちが中でサイレンが流れたため慌てて扉を開けるときには、響は窓を開けてふちに手をかけて外に飛び出していた。
◎
「た、ちばな……どうしてここに……?そもそも動けるような負傷では……」
「…………」
翼の問いに無視をしているわけではなく今の響には喋る余裕はない。クリスを見つめる響。クリスのダメージは既に癒えている。顔色は悪いが。
「お、前どうして…」
信じられないものを見たような顔をする。
響に倒されていないノイズたちが一斉に襲い掛かるが、召喚主の動揺に引きずられているのか動きは緩慢だ。響の体術コンボの前に手も足も出ない。
するとピッっとデュランダルの入っているケースから音がする。全員がそれに注目すると、突如ケースを突き破って剣が飛び出してくる。出てきたのは黄金のオーラをまとう長剣。
「あれがデュランダル……」
どうやらここに来てクリスは目的を思い出したのか、宙に浮いているターゲットの確保に向かう。だが黙って響が見ているわけがない。響も飛ぶとクリスの頭を踏んづける。
「なぁ!?」
クリスは驚いた声を出しそして地に落ち、足場を得た分だけ距離を稼いだ響は剣を手にする。
触れた瞬間世界が反転する。今までに見たことのない高エネルギー反応が一帯を埋め尽くす。剣を持つものがこの場を支配する。
「あ、ぐぅ……くぅ……ッ!」
(相変わらずとんでもないエネルギーだっ!!)
響は過去(未来)にイグナイトのような暴走状態をコントロールする方法を体で覚えた経験があるが、やはり完全聖遺物を自力で支配下に置くのは困難を極めた。だがこのエネルギーは指向性を持たせてどこかに素早く放出しないと一帯に暴発してしまう。
響はクリスをギロッと睨む。すると彼女はびくっとする、そのエネルギーをぶつけられたらネフシュタンの鎧と言えども生きて帰れる保証はない。
響は剣を振りかぶった、目標はクリスではなく隣接する海に向かって。まるでレーザー砲のように鋭い光の奔流が海に飲み込まれた。その光には熱があり水蒸気爆発が起こる。
津波と蒸気が発生しクリスの視界が奪われる。翼はその一瞬を見逃さず、響と了子とデュランダルを回収してその場から離脱した。
◎
あらかじめ作戦前に決めておいた集合場所の1つに逃げこむ翼。響は既にギアが解除されており気絶している。その場にいたスタッフに響の治療を任せる。
響の体は見るも無残な状況だった。翼もボロボロなのだが響はそれ以上だ。血まみれの病院服に裸足、しかもつながりっぱなしの点滴のチューブに、そのまま乱暴に引きちぎってきたのが分かる電極。相当無茶をしたのが素人目でもわかる。
了子はデュランダルに興味津々のようだ。
インカムから声が聞こえる。
『翼!!大丈夫か!?工場の火災の黒煙で近づけなくて済まなかった』
「叔父様、全員無事ですが早く立花を病院に…」
一つの戦いが終わった。
youtubeに公式アカウントで「じょしらく」の1話がアップロードがされているのに気が付いてうわーなつかしー!とか考えながら見たというだけの話。