過去に戻った立花響   作:高町廻ル

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小日向未来は歪んでいる

 血だまりの裏路地はすぐさまテープを使ったバリケードが張られて、警察による事件の処理が行われる。

 それにはS.O.N.G.の調査部も参加している。

 

「現場周辺から遺体発見の報告ありません」

「近隣の病院に負傷者が運び込まれた記録もありません。ですがあの出血では…」

「ふむ……」

 

 緒川は部下からの報告に顎に手をやって考え込む。

 現状はこれといった希望を見出せずにどう装者達に報告をしたらいいのか決めあぐねている。

 

「捜査範囲のさらなる拡大をお願いします」

『了解です』

 

 緒川からの指示で部下二人はその場から飛び出していく。

 そしてふと見上げると壊された監視カメラがある。どのような手口で犯行が行われたのかは不明だが、映像が途切れた時間からアルカノイズが出てきてすぐに行われたのは断定できる。

 そして査察によって戦闘管制が混乱した瞬間をピンポイントに狙った事から、今回の一連の事件をに裏で三味線を弾いていたのは誰なのか、おおよその断定が出来る。

 

(手口は周到……入念に……)

 

 緒川は懐にあった携帯電話を取って上司へとかける。

 

『司令……今回の一件、恐らくは偶発的に巻き込まれたのではなく……』

「ああ……敵の仕組んだ罠にかかってしまったと考えるべきだな……」

 

 弦十郎は敵という言葉に心が苦しくなる。

 その敵とは十中八九己の身内だからだ。親を人を信じたいという理想を優先して、現実として守らなくてはいけない対象を失うなどあってはいけないかったのだ。

 

『保護レベル最高位指定の二人が揃って』

「錬金術によるバックアップスタッフとシンフォギア装者を兼任する少女……」

 

 もし未来が神獣鏡を持っていれば敵錬金術師など一瞬で叩きのめしただろう。しかしそれは叶わなかった、それは何故なら例の査察官の横やりがあったからだ。

 つまりそういう事だった。

 そして考えられる目的は二人の知識なのだがそれを手にしてどうしたいのだろうかと弦十郎は考える。

 

「調査部にて警護に努めてきましたが査察による機能不全の隙をつかれてしまいました」

『敵の狙いは言った何なのだろうか……いずれにせよ今必要なのは情報だ。現状打開のためにも引き続き捜査を頼む』

「了解、間もなく鑑識の結果も出ます。調査部の全力をかけて必ず」

 

 

 緒川からの頼もしい返しを受けて通信は途切れる。

 

「未来君とエルフナイン君を狙った理由は何だ…?鎌倉は何を狙っているんだ……?」

 

 弦十郎は考える。既に彼の中で犯人は決まりつつあった。

 響のライブ会場襲撃。

ノーブルレッドが謎の黒服たちと血液パックの取引とそれに介入した響。それ以降一度も姿を見せない響と調。

 ヴァネッサと呼ばれている相手がアメリカの研究所を襲撃して聖遺物である腕輪を強奪した。

 ノーブルレッドが日本の潜伏場所にしていたであろう研究所の一つをアルカノイズを使って大々的に破壊した。

 未来がノーブルレッドを捕まえる直前に査察官の横やりが入った。

 そして今回の一件でバックアップスタッフを狙った事。

 これらはすべて繋がっていると考えるべきで。

 

 彼の正面モニターには裏路地での一件の画像データが表示されている。それをふと見る。

 

「二人とも……無事でいてくれ……」

 

 

「私の責任だ……あの時管制など振り切っておけばっ…!」

 

 翼は装者に宛がわれた部屋の机で俯いていた。

 思い出されるのは血塗られた裏路地の光景。

 唯一の救いは遺体が存在したかったため死亡ではなく失踪という形ではある、しかし生存は絶望的であるのだが。

 苦しむ翼を見て切歌も口を開く。

 

「翼さんだけじゃ無いデス、あたしもうかつだったデス」

「私だって…危ないのは分かっていながら…外出させてしまうだなんて……」

 

 マリアもまた苦しそうな顔をする。

未来に切歌やエルフナインを気晴らしの為に外に連れ出すように提案したのは彼女だからだ。

 それはクリスもまた同じ。

 

「やっぱり陽動だったのかよ……あのバカにどう顔を合わせればいいんだ……」

 

 そんな重い雰囲気の中アナウンスが響く。

 

『緊急の対策会議を行います。装者達は至急発令所に集合をお願いします』

 

 

 チフォ―ジュシャトーの内部でヴァネッサは腕輪を使った儀式の準備を行っていた。

 腕輪を囲う儀式用の陣を操作しながら考える。

 

(腕輪から抽出したエネルギーをこの拘束具に移して制御…これで私たちは……)

 

 彼女の視線は聖遺物だけでなく神の力を付与する器を見ていた。

 響が捕まらないため次善の策を行う事になったのだ。しかしファウストローブの研究者でもあった彼女ですら器の調整と舞台装置であるチフォ―ジュシャトーのチューニングには難儀していた。

 最後に施設を使った人物が設定をめちゃくちゃにしたきりだったのだ。

 作業に難儀するヴァネッサのもとにエルザからのテレパシーが入る。

 

『ヴァネッサ。ミラアルクの帰還を確認。お客様も一緒であります』

『ご苦労様、こちらの準備も順調よ。お客様の片割れを連れてきて頂戴、早速取り掛かりましょう』

『ガンス!』

 

 テレパシーにはテレパシーで返す。

 そして少し経つとそこには瞳を虚ろにした未来が連れてこられていた。それは最初の案では翼にかけるはずだったミラアルクの瞳を使った催眠だった。

 

「連れて来たであります」

「ご苦労様……ってミラアルクちゃんに言っておいてくれる?じゃあ始めましょうか…彼女のその叡智と腕を借りて神の力を…そして私達の未来を奪還するためにね…」

 

 ヴァネッサはエルザが目の前まで連れて来た未来の顎をくいっと手であげる。目を合わせてそして。

 

「刻印…掌握」

「うぁ……」

 

 その一言で未来の目の前にいた人物がライダースーツを着たグラマラスなお姉さんではなく立花響に見えてしまう。

 

『ねえ未来、お願いがあるんだけど…私、神の力が欲しいんだけど…いいよね…?』

 

 目の前にいる響が自分を頼っている。

 小日向未来は立花響のお願いであればどんなに悪い事であっても断りはしないのだ。

 未来は先ほどまでの虚ろな表情ではなく満面の笑みになる。

 

「うん!私は何をしたらいいのかな!響っ!」

 

 

 S.O.N.G.のブリッジに集められた今いる装者達の表情は冴えない。

 そんな空気の中弦十郎は口火を切る。

 

「これより未来君とエルフナイン君の失踪について…最新の調査報告を基に緊急対策会議を行う」

「鑑識の結果、現場に残された血痕は未来さん並びにエルフナインさんのものではないと判明しました」

 

 緒川のその報告に装者たちは驚く。あの現場から二人の生存へと結びつけるのは困難だったのだ。

 最初に反応したのはクリスだった。

 

「ほ、本当かよ!?」

「ああ…遺体発見の報告がない以上…殺害ではなく敵による略取ではないのかと俺たちは考えている…」

 

 弦十郎の推測ではあるのだがその言葉に皆の中にあった緊張の糸が緩む。

 マリアは緊張の糸と共に涙腺も少しだけ緩み瞳に涙を溜めそれを拭う。

 

「まだ一概に喜べない…それでも希望を繋ぐことはできたわね」

「叔父様…では…私が見たあの裏路地の血だまりはいったい…?」

 

 翼は二人の無事を聞いたがゆえに生まれた疑問を発する。

 緒川は自信がなさげでこそあったが意見を述べる。

 

「引き続き調査中です。ですが予想では例の査察官の血だと思われます」

「何で分かるデスか?あの血はゲスイ匂いでもするデスか?」

 

 切歌は緒川が血溜まりの主を特定したかのような言い方に違和感を覚える。まさか見ただけで本人識別が出来るわけでもあるまいし。

 

「ええ匂いは兎も角…実はこれが現場に落ちていたんです……」

 

 緒川がポケットからあるものを取りだす。

 皆がそれを見て驚愕する。

 

「んな!それはっ…!」

 

 クリスはそれを見て驚いた。何故なら血でべったりと濡れてこそいるが神獣鏡のシンフォギアペンダントだからだ。

 それはかつてあのゲスい査察官が未来から取り上げたものなのだ。

 マリアはなるほどといった感じで頷く。

 

「それが落ちているという事はあの場に逃げた例の査察官が訪れた可能性が高いというわけね…そして何かしらの理由でそれを手放した…つまりあの血の主の可能性があるという事ね……」

「しかし…何故あの二人を狙ったのだ…?」

 

 翼は思った事を口にする。本当は自ら言わなければいけない事が他にあったのだがそれはつい口をつぐんでしまった。

 それは誰もが疑問にこそ思ったが解を見出せないものだった。

 マリアはすっと手を挙げて確認を取ってから口を開く。

 

「ここで確認をしてもいいかしら?」

「どうしたマリア君?」

 

 弦十郎はマリアが話したいことがあると聞いて発言を促す。

 

「もうハッキリとさせましょう?風鳴機関が今回の一連の事件の黒幕だと」

『ッ!』

 

 その爆弾発言に皆が驚いた。風鳴機関をハッキリと黒だと言い切ったその姿に。

 

「だが…まだ……」

「明確な証拠がない?信じたい?そんな事は許されないわ、現にこうして被害が出てしまっている。限りなく黒に近いグレーである以上は令状が出せない事は分かっているわ…でも染み一つない潔白だとはもうここの誰も思ってないわ」

 

 弦十郎が怯みながらも言い返そうとしたがマリアはキッ!と睨み一顧だにもしない。

 未来もエルフナインももう既にマリアにとっては守るべき大切な仲間であり家族の一人になっているのだ。

 翼はマリアのその言い分に苦しそうにしながらも何も言い返せなかった。

 本当は気が付いているのだ、あの老体なら平然と略取をやりかねないと。

 

「今思ったが……親友がこんな窮地だってのにあのバカはどこで何してやがんだよ……」

 

 クリスは二人の生存に希望を持てたのか少しだけ元気を取り戻して、いつものテンションで響に対して愚痴り始める。

 

「っ…………」

「叔父様?まだ何か?」

 

 弦十郎はその言葉を聞いて不自然に黙り込んだ。

 翼はその一瞬を見逃さずに問いかける。

 

「これはまだ確定した事ではないのだが…響君がいまだに姿を現さない理由…仮説の域を出ないが……意見をすり合わせておこうか……」

「響さんが帰ってこない理由に心当たりがあるんデスか!?」

 

 その言葉に対して一番最初に食いついたのは切歌だった。

 当然響と共に調は行動しているはずだからだ。

 

「まず最初にこれは年末の棺の一件…いや研究船の爆破から、今日これまでに起こった数多の事件に関連性はあるものとして受け止めてくれ……」

 

 

 エルフナインは人形の躯体が放置されている場所で目を覚ました。

 

「っ…?…まさか…ここはっ…!」

 

 彼女は辺りを見回してその見覚えのある光景に気が付いたようだ。そう今自分がいる場所に。

 するとその場に二つの足音とローラーの音が聞こえる。

 音の発信源である相手がスカートの端を掴んでポーズを決める。

 

「お帰りなさいませぇ~ご主人様ぁ?」

「あなた達!」

 

 エルフナインの視界に入ってきたのはミラアルクとエルザだった。

 先ほどのふざけたセリフはミラアルクのものだ。

 

「んぐっ!」

「へへはっ!日本に来たのならぁ一度は言ってみたかったんだぜぇ?」

 

 ミラアルクはエルフナインの頬を両手でわし掴んで引っ張りながらふざけた事をぬかす。

 

「ほほあ…ちふぉーしゅしゃとー…?」

 

 頬が引っ張られて口が上手く動かせないため舌足らずな感じで話してしまう。

 その張本人はそんな相手を放り投げてしまう。

エルザはそれを咎める。

 

「いけないであります!客人は丁重に扱わないと…」

「次からはそうさせてもらうぜ」

「むーっ…であります」

 

 仲間の悪びれるわけでもなく一かけらの反省も感じない返事に、ふくれっ面をするエルザ。どちらもふざけているとしか思えない態度だった。

 痛みに耐えてエルフナインは体を起こすと冷静に分析と己の身に起こった事想起する。

 

(考えなきゃ…今何が起きてるかを…ここに連れて来られるまでに何が起きたかを…)

 

 

 ミラアルクの振り下ろされた爪は未来ではなく査察官を名乗っていた男の頸動脈を切り裂いた。

 もう滑稽としか思えない量の血のシャワーが飛び出す。

 何が起こったのか理解できないといった感じでポカンとした徐々に我が身に起こった現象に理解が追いついたようだ。

 

『思いがけない……空模様……?』

 

 先ほどまでの恍惚とした表情から一転、自身の返り血を顔面に浴びて呆然としてその場で絶命した。

 

『ッ!なるほど…もうS.O.N.G.に足を掴まれてその男は邪魔になったってわけだね……』

『おーおー鋭いぜ。もうこいつは用無しで証拠にしかならないんだぜ?』

 

 未来の考察にも相手は余裕で返してくる。

 そしてその瞬間、ミラアルクは未来の首を掴んで吊り上げる。

 にやにやしながら未来の瞳を覗く。

 

『お前には一仕事やってもらいたいんだぜ』

『う…がぁっ…!』

 

 必死にもがくが素の腕力では敵わない。

 そしてミラアルクの瞳が光ったかと思うと未来は気絶して体から力が抜ける。

 エルフナインもまた血まみれの現場を見て気絶してしまう。

 

 

「そうだっ…!…未来さんは何処に…!?」

 

 エルフナインはあの路地裏で起こった事を思い出して問い詰める。

 それに答えたのはエルザだった。錬金術の一種なのか宙に映像を投射する。そこには何やら作業をする未来の姿が。

 

「用済みと判断された彼とは異なり…彼女はまだ生きている…生かしているであります」

 

 その説明にエルフナインはここで何をさせているのか不審に思ったが未来を求める理由に気が付いた。

 

「そうか…未来さんはチフォ―ジュシャトーを最後にハッキングした人物…つまり施設の利用法と構造を理解している……未来さんを利用して何をしようとっ…!」

 

 彼女は精一杯睨むが相手が怯むことは無い。それどころか弱い奴が何をしているのかといった感じだ。

 

「そうだぜ。あいつはチフォ―ジュシャトーをハッキングした、つまり自力で作動させたその知識を借りているってわけだぜ。そしてお前にもやってもらいたいことがあるんだぜ」

「彼女はあの時のハッキングの際にめちゃくちゃにしたシャトーの設定を戻してもらっているであります。そしてあなたにはそのキャロルの体を使って起動して欲しいものがあります」

 

 ミラアルクとエルザはエルフナインに求めるおおよその要求を話す。

 ペラペラと話すのは自分たちが絶対的な優位に立っているという余裕から来るものだ。

 

「き、起動して欲しいもの…?まさかチフォ―ジュシャトーを制御しろと…?無理ですよ……」

 

 エルフナインはそう言われても慌てて何も出来ませんよアピールをする。

 

「落ち着けって。そうじゃないんだぜ」

「あなたに起動してもらいたいのはこちらであります」

 

 エルザが指を鳴らすとエルフナインの背後がライトアップされる。

 彼女が驚いて背後を振り向くとそこには棺の形をしたジェネレーターが現れる。そしてその施設の元へ歩いていく。

 

「まるで何かのジェネレーター…?こ、これはっ!」

 

 彼女の視線の先には廃棄されたであろうオートスコアラーの残骸が入っていた。たくさんある棺には同じようなものが多数収納されている。

 

「あなた達は…一体何を企んで……」

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