マリアはトレーニングルームでサンドバックを殴りながら汗を流していた。響なり未来なりを同行したいが情報がない以上は動きようがないのだ。
先ほどから殴っているが気分はちっとも晴れない。
(まさか立花響が原罪を解かれた人間であり……神の依り代になり得るかもしれないなんて……)
鍛錬中でありながら彼女の脳内を占めるのは先ほど弦十郎にもたらされた情報。
そしてその情報が正しいものであり、ノーブルレッドの一連の行動が神の力を得るものだとしたら、その背後にあるスポンサーもまた。
「マリア」
「ッ!?」
突然背後から名前を呼ばれて拳がサンドバックにスカってしまう。
声をかけたのは翼だった。
彼女は辛そうな顔をしていた。助けを求めるような表情でマリアに話しかける。
「少し情報を整理したくてな…一緒に話してはくれないか…組手をしながらでもいいんだ……正直受け入れ難い事が多すぎて……」
「私も一人では押しつぶされそうだったのよ……お互いに己の不甲斐なさを…嘆きあいましょう?」
翼とマリアは中央に設置されているリングに移動して軽く手合わせをしながら話す。
「神の力の依り代……そう言われて思いつくのはティキのあの姿と…立花が豹変したあれだ…」
「そうね…彼女…?って言ったらいいのかしら…とにかく…敵の手に渡っていいものではないわ」
マリアの敵という単語に相手は顔を陰らせる。
『つまり…風鳴機関は神の力を使って……?』
『ああ信じたくはないが……血を分けた親だからこそ分かる…あの人は平気でやる…やりかねん狂気がある……』
マリアの言葉に弦十郎は険しい顔をするほかない。
信じたくないがあの危険な力を使って抑止力として世界を手取ろうというわけだ。
「信じたくはない…しかし…これまでに起こった全てが…風鳴訃堂は錬金術師に……異形に…魂の奥底まで売ったと判断せざるを得ない……」
翼は悲痛そうな顔をしてしまう。
どんなに強硬な態度でも心の奥底までは誰かのためだと信じたかった。
しかしそれは裏切られつつある。
彼が守っていたのは国でも人でもなく、弱きものを守ってやっているという己の自尊心と承認欲求だった。
『響君が我々のもとに戻らないのも背後に風鳴機関の存在があるからだと思われる』
『ちょっと待てよ!もしあのバカが神の力の器だから逃げてるんだとしたら、その風鳴機関の暗躍を知ってたって事だろ!事前にどうやってそんな事を知るんだよっ!』
『そうだ…それがある意味一番の問題だ……』
クリスの当然の疑問に弦十郎は極力落ち着いた口調で返す。
「立花はこれまで我々では知りえない情報を持っているような素振りは何度もあったが……」
「ついに向き合う時が来ているのかもしれない…というわけね……」
二人には謎が多い後輩の姿が浮かぶ。
スパーリングどころではなくいつの間にリング中央で立って話していた。
「立花は戦闘経験が一切ないはずなのにガングニールを即席で使いこなしていた。フィーネの事を事前に把握していた。あげたらキリがないな……」
翼は深刻そうな顔をする。
そして想起されるのは、
『あの子は何かが普通の人とは違う。絶対に目を離さないであげて……もしかしたら、私すらも超える何か恐ろしい片鱗を秘めているのかもしれないから…………』
かつてフィーネが口にした言葉がよみがえる。これまで二課やS.O.N.G.が向き合う事から逃げてきたそれからもう逸らすことは出来なくなっている。
そしてそれを告げた人物は今何処かに雲隠れしている、それもまた皆の頭を悩ませる問題だった。
いつの間にか二人はスパーリングを止めて室内の椅子に座っていた。
そして翼は俯く。
「立花の事も月読の事も…そして祖父の事も…私はどうしたらいいのか分からないのだ……」
「翼……」
「だがもし、風鳴機関が黒幕と決定づけられたら……私の手で身内の恥は……」
「翼っ!?」
「ッ!」
追い込まれた翼は自問自答の末に鬼に堕ちる選択を取ろうとしてしまった。
それに気がついたマリアは反射的に名前を呼んでしまう。お前は何を言っているのかと。
「相手は曲がりなりにも血を分けた家族…それは最後の手段よ…頭をそれ一色に染めないで……」
「そんな事は…分かっているっ……しかしあの人が折れるとは思えないのだ…これ以外思いつかないのもまた事実だ…」
マリアは他の選択を提案しようとするが、翼は気が付いている。相手は最後まで徹底抗戦であり血戦になるはずだと。
そしてこの判断は八紘や弦十郎には出来ない、それなら鬼子である翼本人が全ての罪も泥も被る覚悟だった。
二人の間に重苦しい雰囲気だけが残る。
すると―
「―りんごーがーうーかんだーお空にーりんごーがー落っこちたー地べたにー」
マリアが突然歌い始めたのだ。
翼は当然驚いて聞いてしまう。
「マリア…?その歌は……?」
「セレナと喧嘩をしたり実験で嫌な事や怖い時に口ずさんだ歌よ。この歌を口ずさむと勇気が貰える気がするの」
「……そうか…マリアにとっては血となり肉となる形作った歌なのだな…」
「ええ…?」
「どうした?」
マリアは何かが引っかかったようで顎に手をやって考え込んだ。
「このフレーズ…最近どこかで聞いたような……?」
彼女は何か見逃してはいけない重要な取っ掛かりを感じる。
そしてトレーニングルームの外から内部を伺っていた人影が一つ。
◎
「研究結果はこの中に納めています」
研究員はアタッシュケースの中にある一つの歯車らしき物体を見せる。
それはアンティキティラの歯車、かつてティキと呼ばれたオートスコアラーに使われていた部品だった。
そしてそれはかつて客船に偽装したS.O.N.G.の海上研究所で取り扱っており、爆破事故が起きて以降紛失したはずのものだった。
「確かに受領いたしました」
緒川はそれを確認してアタッシュケースを受け取ってお礼を言って相手をねぎらう。
そして彼の部下であるエージェントを引き連れて施設からの帰還をする
これを持って帰れば決定的な証拠の一つとなり風鳴機関を追求しやすくなる。なんせS.O.N.G.の海上施設の場所とその重要度、それに移動航路を知っているのは彼等しか考えられないからだ。
そしてヴァネッサが破壊した施設から観測された聖遺物の反応とティキの歯車を考えて、星を観測する機能を応用したフォニックゲインとは別アプローチでの起動実験を行った痕跡を誤魔化そうとしたのがあの一件だと推測される。
緒川は車に乗ると本へと通信を繋げる。
「証拠物品と共にこれより帰頭します」
そういって部下たちと共に車を発進させる。
車を複数台使ったのはカモフラージュのためだ。
当然本命のアタッシュケースは緒川が持っている。
しかし緒川たちのいる研究所の上空に一体の監視カメラに竹トンボをくっつけた機械が。
どうやらそれには通信を傍受する機能も備えているようで自分達やスポンサーにとって決定的な証拠を掴まれた時が付いたようだ。
(疑いはまだしも証拠となるものを持ち帰られるのはまずいかもねぇ…二人とも?聞こえて?警戒監視網にてS.O.N.G.の動きを捉えちゃってる……私達と風鳴機関の繋がりもバレたみたいだけど…どうしよぉ…?)
その通信はすぐさまエルザとミラアルクにも伝えられる。今彼女たちはエルフナインと対峙しているところだった。
エルザは頭に指を添えて通信を返す。そこには少しだが焦りがあった。
「位置は把握しているでありますね!?だったら迷うことはありません!」
『やっぱそうよね…ここはお姉ちゃんとして強襲…しかないわね』
ヴァネッサはそう言うと足のブースターを噴かせて証拠物品を運ぶ緒川たちの元へ飛んで行く。繋がりを証明されたら彼女たちはいっかんの終わりだ。
ミラアルクもヴァネッサに声をかける。
「神の力の具現化はうちらで進めとく。そっちは任せたぜ」
◎
『間違いないのだな?』
緒川のつけているインカムから弦十郎の声が聞こえる。
現在の緒川はアタッシュケースの中身を護送中なのだ。運転片手に上司からの通信に応える。
「はい。技研による解析の結果、廃棄物処理場で回収した物品は119.6%の確率でアンティキラの歯車とのことです」
『冤罪ロジック構築可能な数値で…本物と立証されてしまったか……』
弦十郎は部下からの報告にやるせない気持ちになる。これまで目を逸らしてきた事実から逃げるなという事だ。
「先立っての事故で失われたはずの聖遺物が敵のアジトにて発見される…」
『あの件に関して、保管物品強奪の報せは受けていない…遺失を装い横流しされたと考えるならば……』
これらの情報から導かれるシナリオはもう一つしか考えられない。
「護災法施行後国内の聖遺物管理は風鳴機関に一括…指令の懸念通りやはり鎌倉とノーブルレッドには何らかの繋がりがあると見て…っ!」
『どうした!?』
緒川の声が詰まったのを見て弦十郎はとっさに何かしらのトラブルに見舞われたのだと思い至った。
そう、緒川の運転する車の先にはヴァネッサが待ち構えていたのだ。
「敵襲です!恐らくは証拠物品を狙ってと思われます!」
相手は道路の真ん中で妖艶なポーズをしながらライダースーツのファスナーを下すと、晒した胸部から二発のミサイルを発射する。
三台の車の内、緒川が乗るものともう一台は避けるのだが最後尾の一台だけは避ける事が叶わずに直撃して爆散してしまう。
攻撃を回避した二台は襲撃者の傍を通り抜ける。
後方へと走っていく車を見て、
「せっかく誘ったのにつれないわねぇ…」
そう言うと脚をホバー用に換装して道路を滑るように高速移動をして追走する。
『応援は既に手配している。到着まで振り切ってみせろっ!』
「そのつもりです!」
緒川はその無茶ぶりにも力強く答えて見せる。
相手は指先から銃口を露出させて車を攻め立てる。緒川は避けて見せるが、もう一方のカモフラージュ用の車は銃弾をまともに受けてしまい、タイヤに銃弾が当たりパンクしてしまいスリップと共にハンドルの自由が利かなくなり車体がひっくり返り地面に叩きつけられて爆発する。
最後の一台である緒川の車を堕とそうと肘からミサイルを発射するがその一撃は簡単にドライブテクで避けられる。
次に膝からもミサイルを発射するのだが、車体をガードレールに叩きつけて乗り上げて空中で回転させてよけきってみせる。
遠距離攻撃ではらちが明かないと思ったのか直接攻撃で仕留めようと跳躍して、車に対して後方上に陣取る。
「行かせない…スイッチオン、コレダー!」
彼女の左足がまたしても変形して、そこから電撃をまとう三本のスパイクが飛び出し、もう片方の右足のブースターで勢いをつけて踏みつぶそうとする。
しかし当たる瞬間に車の輪郭がブレて攻撃が外れてしまう。よく見ると車が三台に分裂していたのだ。分身の術の応用なのだろうが鉄の塊にも適応できるのはいささか埒外過ぎた。
「どういうこと…?現代忍法……」
ヴァネッサはその光景に唖然とするほかない、車が分身するなど誰が予想できるだろうか…
三台の車はそれぞれの方向に逃げていく。どう対処したらいいのか分からずにその場で立ち尽くしてしまう。
そうして硬直していると彼女の背後から強いフラッシュが生まれる。とっさに背後から何かが来ているのを察してそちらにに向かってワイヤー付きのロケットパンチを放つ。それは大型のトラックでそれに拳が叩きこまれるが、乗っていたマリアとクリスは素早く脱出して宙に飛び出しシンフォギアをまとう。
ギアをまとったクリスは拳銃をヴァネッサに向けて放つのだが、それを背後にホバー移動する事でかわす。しかし銃弾がエネルギーをまとったかと思うととっさに三十度動きを変えて避けた先に追尾していく。
「何ですってっ…!」
驚きこそするがすぐさま脚装のスパイクから電撃を生み出してそれでバリアを張って銃弾を受け止める。
「隙だらけぇっ!!」
しかし移動のエネルギーを防御に回したためスピードが落ちた一瞬にマリアは短剣を逆手に持って敵に向かって詰め寄っていく。
先ほど攻撃のために飛ばした腕がぐるりと宙で反転してマリアの背後に向けて指先を向けると、そこから機関銃を放つ。マリアは背中にそれをもろに受けてしまい怯んでしまう。
そして逃げるざまにアルカノイズの召喚結晶をばら撒いてしまう、どうやら一般人を人質にするつもりだった。クリスは苦々しい顔をしながら辺り一帯へと逃げ回ろうとするそれらを銃弾で撃ち落として倒していく。
その隙を突いて近くを走行するトラックにしがみついて逃走を図るヴァネッサ。
「卑怯なっ!!」
マリアはその真っ直ぐな正義心なのか相手の戦法に不快感をあらわにする。
ここで装者二人にブリッジから通信が入る。
『緒川さんの戦線離脱を確認しました!』
『敵ノーブルレッド、一般車両に取り付き移動を開始』
友里と藤尭が現状報告をしていると当然アラームが鳴り響く。
マリアは敵を追いかけながらも本部に警報音が何なのかを聞く。
「どうしたの!?まさか新手が!?」
『いえ…ち、違います…これは…!』
友里の驚きと動揺が音声越しでも伝わる。
動揺ばかりで重要な情報が入ってこない事に戦闘中なのもあるがクリスはカリカリと苛立ってしまう。
「なんだ!サプライズじゃねーんだから勿体ぶんなよっ」
『ガングニールとシュルシャガナのアウフヴァッヘン波形を確認しました!』
「何ですって!?」
クリスの問いかけに答えたのは友里ではなく藤尭だった。
マリアはもたらされたその情報に叫ぶほかない。
これまで沈黙を保ってきた二人がここに来てシンフォギアをまとったという、信じられない情報だった。
『マリア君!クリス君!今は目の前の敵に集中してくれ!響君たちはこちらで情報をまとめる!』
「わ、わかったオッサン!おいマリア!さっさとあいつを畳んであのバカに殴りこみに行くぞ!!」
「分かってるわ!」
弦十郎のその一言にクリスは同意していったんは頭から情報を切り離すことにする。マリアもそれに頷く。
「証拠隠滅は失敗…こうなったら装者の足止めくらいしておかないとね……」
乗っていたトラックが高速道路に入り彼女の長髪が風でたなびく。
風鳴機関との癒着がバレた以上はここでマリアとクリスを足止めして神の力の降臨までの時間稼ぎをしようというわけだ。
『ヴァネッサ聞こえるでありますか!?』
「どうしたのエルザちゃん?そんなに焦って?」
彼女は仲間からの通信に、前方で自家用車の屋根を飛び移りながら移動する装者二人を観察しながらも答える。
「まさか既にチフォ―ジュシャトーの中にシンフォギアに乗り込まれちゃったとか?」
ヴァネッサは軽口を叩く。
あの場所は仮に分かっていてもおいそれと強襲できる場所ではない。
付近一帯には監視カメラが存在して、更に幾重もの警護用の簡易オートスコアラーが配備されている。
襲撃はあっても内部に忍び込まれて不意を打たれる事だけはあり得ないのだ。
しかしだ―
『さすがヴァネッサ!耳が早いんだぜ!敵に忍び込まれてキャロルの体を奪われたぜ!』
「は……?」
ミラアルクの尊敬と切羽詰まった報告にこれ以上ない間抜けな顔を彼女はする。
今この状況で仲間が自分を脅かすために嘘をつく理由が無いし、いくらなんでもたちの悪い内容だった。
恐らくこの焦った声色とトーンは本当に襲撃者が来たのだ。
だとしたらここで時間稼ぎなどしている余裕はもうなかった。すぐさま帰還しなくては念願も仲間もすべてが手遅れになってしまう。
ヴァネッサは自分の目の前まで現れたマリアとクリスを確認するや、素早く指先の機関銃を噴かせて銃弾を乱射する。
「させない!」
マリアは短剣を蛇腹に伸ばすと背中に乗せてもらっていた車両から銃弾を守る盾にする。
「悪いがこっちも予定が立て込んでんだ!さっさとケリつけさせてもらうぜ!」
クリスは人質を取る相手の戦法に反吐が出る思いをしながらも言い放つ。仲良くなりたいという事を口していたのに…と同時に悲しい気持ちも味わいながら。
ヴァネッサは内心で焦る思いを抑えながらも、何とか隙を作るために軽口を叩く風な演技をする。
「それがアガートラーム……妹ともども…よくその輝きを疑いもせずに身に纏えるわね…」
「どういう意味っ!」
マリアはそれが罠だと分かっていてもつい反射的に聞き返してしまう。
アガートラームの事を知らないのもあるが、自分だけでなく妹もバカにされたと思い頭に血が上ってしまったのだ。
「イラク戦争の折…米軍が接収した聖遺物の一つ。シュルシャガナやイガリマと異なり出自不明故に便宜上の呼称を与えられた得体のしれない謎のギア……」
「……………………」
「なーんてっ」
「なっ……」
マリアが与えられたその情報を処理しようとしている隙を狙って肘をパージしてミサイルを発射する。
マリアにその爆撃が直撃して吹き飛ばされるが、クリスがとっさにその手を握って引き寄せる。
「相手の口車に惑わされんな!アガートラームの事はここを乗り切ってからでもいいだろ!?」
「ええ…そうね…これ以上は好きにさせない…!」
クリスの叱責にマリアは迷いが吹っ切れた顔をする。
「世界の果てを見せてくれ!」
クリスとマリアを乗せた車の運転手はこの異常な状況に何やらテンションが上がっておかしなことを口走っていた…
「それじゃあ…こんなのはどうかしら?」
ヴァネッサはそれを見て宙に飛ぶと肘と膝からミサイルを高速道路に向かって放つ。その一撃で道路が分断されてしまう。
地面が無くなったのを見てクリスは素早く指示を出す。
「あいつの相手は任せた!」
「了解!」
マリアは車から飛び降りてヴァネッサに向かって飛び出していく。
一方でクリスは乗っかっていた車と一緒に相手によって壊された道路の割れ目に向かって落ちていく。
マリアは銃弾とミサイルの雨嵐をかいくぐりながら敵に向かって一直線に向かって行く。短剣を一閃するが相手はそれを足のブースターを噴かせて上空に逃げて見せる。
「あなた達が不甲斐ないから、余計な被害者出ちゃったかも?」
腕を組んでバカにするような表情をするのだがその顔色はすぐさま豹変する。
道路の割れ目からクリスが車をそのままわし掴んで体に二つの大型ミサイルを体に固定して引き上げていたのだ。
「てめえ…いい加減にしろよ……」
「何ですって!?」
怒りに震えるクリスとその無理矢理な力技にヴァネッサは冷や汗を流す。
「けれど弱点を抱えているも同じっ!」
そう言って機関銃を放つのだがそれをマリアは短剣を伸ばして防いで見せる。
銃弾が途切れた一瞬を狙ってクリスは腰のアーマーを展開して小型ミサイルを放つ。相手はそれを撃ち落とそうとするのだが、それをしている隙に自分と車を釣り上げていた大型ミサイルを放つ。ヴァネッサはギリギリのタイミングと間合いでかわして見せる。
「狙いが大雑把すぎるわっ」
相手が勝ち誇った瞬間、ミサイルが軌道を180°変えて彼女を襲った。よく見るとマリアの伸ばした短剣がミサイルに寄り添って軌道を変えたのだ。
「なっ!」
それに気が付いて合わって撃ち落とそうとするがその時には遅く。落としたミサイルの爆発に巻き込まれて高速道路の壁に叩きつけられてしまう。
ヴァネッサは硬直は不味いと思い立ち上がろうとするがクリスが銃口を突きつける。
「プチョヘンザだっ!」
「未来とエルフナイン、連れ去った二人の居場所を教えてもらうわ!」
クリスとマリアの完全勝利なのだがそこで謎のノイズ音がしたかと思うと遠くから光り輝く柱が生まれる。
「チフォ―ジュシャトー…?」
マリアは光によって生まれたシルエットでかつてキャロルと戦ったあの場所である事に気が付いた。
「マテリアライズ…?…でもどうやって…そもそも早すぎる…」
ヴァネッサは目の前起きている事に疑問を感じた。先ほど仲間から受け取った情報ならキャロルの体を奪取されたためエネルギーの確保に失敗しているはずなのにだ。
「やっぱりこの歌…私にはアップルのようにも聞こえて……」
マリアはこのめちゃくちゃな雑音を歌だと無意識に断定した。
するとチフォ―ジュシャトーの上に白い繭のような、それでいて胎児にも見えるようなものが出現した。
ここに来て相手がこれまで見つけられなかった理由に気が付いた。
マリアとクリスはその可能性をこれまで失念しており唸る。風鳴機関がグルなら彼女たちの逃亡に一助している可能性に至らなければいけなかった。
「まさか…チフォージュシャトーが稼働しているのっ!?」
「そうかこいつら…廃棄施設をアジト代わりに使ってやがったのか!」
二人がヴァネッサから視線を外してシャトーに注意を払っているとクリスを蹴り飛ばそうとする。
クリスはとっさに腕で防御するが相手を自由にしてしまう。
それを見てマリアは歯噛みした後すぐさま一直線に斬りかかりに行く。短剣は躱すが避けた先にマリアの蹴りが直撃する。食らった相手は苦しそうに下がる。
「逃がすかっ」
クリスが硬直から立ち直り拳銃で撃とうとすると、ヴァネッサは自身を狙う相手の拳銃の銃口に指を突っ込んでしまう。
『うわあっ!!』
発射される銃弾が詰まって指と拳銃両方が爆発して二人は吹き飛ばされる。
その爆発の煙に紛れてヴァネッサは転移用のジェムで逃げてしまう。
「くそっ…逃げられちまったか……」
爆発の衝撃から立ち直ったクリスだが人的被害は無しで終えたがその表情は敗者のそれだった。
弱者の自覚がある分だけ逃げ足や引くタイミングは間違えない。
そして再びあの白い胎児のようなものから不協和音が流れる。
「やっぱりあの音は……」
マリアは再びシャトーの方へと振り向いて眉を顰める。くしゃみが出そうなのに何故かでないようなそんな不安で不快な感じを実感する。