過去に戻った立花響   作:高町廻ル

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神と巫女と賢者

「これ以上は好き勝手させないでありますよ!」

「好き勝手やってるのはそっち…エルフナインや未来さんを利用しようだなんて…」

 

 ここにやってきたノーブルレッドのエルザは口上を述べるが調は怒りを滲ませてその意見を切り捨てる。

 よく見るとミラアルクは響を見て少しだけ怯えている。

 相手は話を聞く気は無いらしくテールアタッチメントを装着して咢を向ける。踏みつぶそうとするが素早く響とエルフナインを抱えて後方に下がる。

 

「調ちゃん!後ろに!」

「分かってる!」

 

 響は事前に調にノーブルレッドが来た際の対処は伝えていた。彼女はその指示に従う。

 小型ノコを後方の壁に射出してそれを破壊、二人を抱えて穴に向かって逃げていく。

 地力ならイグナイトモジュールを使わなくても勝っているが、響がここで一番警戒しているのは三人の協力技であるダイダロスの迷宮に閉じ込められる事だ。

 一度発動して閉じ込められると強力な迷路内で一方的に衝撃波を加えることが出来るのだ。

 

 逃げていくシンフォギアを見て一瞬驚いたようだがすぐさま気を取り直す。

 

「って逃がすわけがないんだぜっ!」

 

 ミラアルクは硬直から立ち直って空いた穴に飛び込もうとするのだが。

 

「ちょっと待ってミラアルクちゃん!」

「ッ!何なんだぜ!?」

 

 ヴァネッサの一声に一瞬止まるが、追走を制止させられたことに気が付いて若干だが苛立ってしまう。

 止めた相手は冷静に分析した内容を伝える。

 

「その穴を通るのは危険よ、逃げたふりをしてイグナイトモジュールを起動してその場で待ち伏せしている可能性があるわ…それに廊下みたいな狭いスペースではダイダロスの迷宮は使えない……」

「なるほどだぜ……」

 

 その可能性を伝えられたことですぐさま頭が冷える。イグナイトのパワーを込めた一撃を真正面から受けたら瞬殺されかねない。

 何の策もなく空いた穴に飛び込めば狩る側と狩られる側が逆転してしまう。

 相手装者は自分のチャフや電波障害を利用してここに来ている。どんな策を弄しているのか先の先まで想像をしなければいけなかった。

 

 

 穴をあけて潜り込んで暫くしてから調はチラチラと背後を見ていた。

 

「追ってこない……?」

「うん、相手は狭い場所じゃ私達とは戦わないだろうからね。基本的にはこっちの方が強いよ」

 

 調は二人を抱えて疾走する中で思った疑問を口にする。彼女には相手の切り札が何なのか知りようがないため不安になってしまう。

 

「あ、調ちゃん、次の曲がり角を右だよ」

「あ、うん、分かった」

 

 響は調をナビゲートして最短ルートを示す。

 エルフナインは道を把握している響に違和感だった。未来なら同じことが出来るかもしれないが響にそんな特殊なスキルを持っているとは思えなかった。

 

「よく分かりますね…前に捕まられていた時にキャロルが自由に内部を歩かせたとは思えませんが……」

「うーん……説明が難しいなぁ……」

 

 響はまだ話すことは出来ない。

 まさか体に宿るシェム・ハの影響で腕輪の聖遺物のおおよその位置が把握出来ているとは。

 

 

 その後、敵が出るたびに一撃で討ち取りながら未来がいる部屋の前にたどり着く。

 到着したが調は不安そうな表情で言う。

 

「ノーブルレッド達よりも先回り出来てると良いんだけど……」

「先回りされていたらとっくに奇襲を受けてるはずだから大丈夫だと思うんだけど…流石に聖遺物や実験場の近くを戦場にしないだろうし……」

 

 響も不安ではあるが何とか不安を取り除こうと前向きな意見を述べる。

 調がエルフナインを庇いながら、それを確認して響が大扉を開ける。するとそこには機械をいまだにいじくっている未来がいた。

 彼女は背後に誰かがいる気配に気が付いたのか後ろを向く。その相手が響だと気が付くと嬉しそうな顔をする。

 

「あ、響!待っててね今すぐに用意するからね?」

「っ…そうか…催眠を……」

 

 響はミラアルクの瞳の性能を思い出して若干だが顔をしかめる。

 取りあえず荒事は嫌なので穏便に済ませようと説得を図る。

 

「未来それを今すぐやめて」

「どうしたの響?神の力が欲しいって言ってたじゃない?」

「…………事情が変わったんだよ…お願い」

 

 響の心からのお願いにも相手は疑問符を浮かべている。相手は何を言っているのだろうといった感じだ。

 

「仕方ないわね…取りあえず眠らせておきましょうか?」

 

 調がそう言ったかと思うと一瞬で未来の死角に入って手刀を堕として気絶させる。この手際はフィーネのものだった。

 

「ち、ちょっと!?」

「大丈夫よ、眠らせただけ。あれ以上自由にさせてたら何されるか分かったものじゃないわ」

 

 響の狼狽にも未来の体を支えてあっけからんとした感じのフィーネ。殺そうとしなかっただけ気は使っていたのかもしれない。

 

「っ…これはっ……」

 

 いつの間にかエルフナインは神の力を降ろす術式祭壇の傍に寄ってそれを見ていた、その声は酷く狼狽している。

 響も驚いた声に気が付いて隣に行くとそこには、

 

「え……な、にこれ……?」

 

 オートスコアラーがいたのだ。まるで踏み荒らされたことの無い穢れを知らぬ白い肌に青い髪の、響の記憶の中には存在しないそれが。

 そしてその人形の腕には例のアヌンナキの腕輪が装着されている。

 未来は横にしたフィーネはそれを見てかつて敵対した錬金術の組織を思い出していた。

 

「なるほど…これは…パヴァリア光明結社のように、神の力いえアヌンナキの力を直接人形に注入しようというわけね……」

 

 響はそれを聞いてピンと来ていた。神の力の依り代足り得る自分を捕まえられないため次善の策を用意したのだろうと。

 

「じゃあこれを破壊すれば……」

「ダメよ、正しい手順を踏まなければ力が予期せぬ方向に暴走しかねないわ。この人形はどうやらシャトーと連結しているわね、下手に破壊するとこの施設のエネルギーが暴発しかねない。ほらコンピューターだって正しくシャットダウンしないとそのものが壊れたり、データが破損するリスクがあるでしょう?壊すのは最後の手にしましょう?」

 

 フィーネは響でも分かるような身近なもので例える。響は何とか荒事はダメだと言うそれを理解する。

 エルフナインはそんな会話を尻目に近くの端末を操作して作業をしている。

 

(シェム・ハさんが何とか出来たりとかは……)

(無理だ。今の我は神殺しによって大きく力を制約されている)

(ごめんなさい……)

 

 困った時の神頼み。響は伺うがあっさりと却下されてしまう。

 

「なるほど…そう言う事ですか…」

「何かわかったのかしら?」

 

 エルフナインの呟きにフィーネは目ざとく気が付いた。

 彼女はその声に振り向いて頷いたのちに答える。

 

「はい、どこからシャトーを動かすエネルギーを抽出しているのか調べたのですが、答えはこの星の自転です」

「へ…自転?」

 

 相手の答えにポカンとする響。自転と言われてもあまりピンとは来ない。

 それを察してか相手は説明を続ける。

 

「はい、そうです自転です。地球は時速千七百キロメートルで動いています。そのエネルギーの抽出しているわけです。一部であってもそのエネルギーは絶大…人類が生み出せる速度は新幹線で時速約二百八十キロですからね…大きさと速度を考えれば信じられないほどのエネルギーが…これは恐らくは未来さんがやったものだと思われます……シャトーはかつてこの星を飲み込みかけました、その時の地球のデータは残っていますから応用したものかと……」

 

 皆の視線が気絶してすやすやと倒れている未来の元へと向かう。まったく厄介なことをしてくれたと。

 響はここで天井を見る。厳密にはその先にあるであろう物を。

 

「やっぱり上にある神の力そのものを……」

 

 フィーネは取りあえず実験を中止すために端末をいじっているのだが。いじっているとどんどん顔色が悪くなる。

 

「これは…しっかりと端末にガードがかかってるわね…破るのは時間がかかりそう…そこの小娘めぇっ……!」

「…………」

 

 未来を憎々しそうに睨む。それを何とも言えない気持ちで見る響。

 エルフナインは手が打てない現状に不安を募らせているようで。

 

「せめてシャトーを設計したキャロルが居れば…これ以上時間をかけていては敵が来ます……」

 

 ここまで切羽詰まっているのにキャロルが出てこないのを不審に思う響。

 ノーブルレッド達を相手にしつつ神の力を打倒するにはどう見ても不安要素が多かった。

 仮に響が上空の神の力を止めるにしてもここを調一人で守るのは鬼門だった。

 今思えばミラアルクの邪眼を受けた事がハッキリと自我が形成されたきっかけだったのかもしれないと思い至る。

 

(狸寝入り……立花響…我に少しの間、体を貸せ)

(へ…?…う、うん分かった……)

 

 取りあえず指示の通りに自身の意識を潜らせて、相手を表面上に出す。

 

「……?…響ちゃん…?」

 

 フィーネは響のまとう雰囲気が変わった事を鋭く感じた。

 響は移動してエルフナインの横に立つ、相手はそれに気が付いた。そして作業を止めて響の方へ首を向ける。

 

「……?…響さん…?」

 

 響は驚いているエルフナインの頬に手を添えると首を僅かに動かしてお互いの目を合わせる。

 

「な、にを…あ、れ…体がっ……?」

 

 エルフナインは途方もない寒気と恐怖を感じて目を逸らそうとするのだが体が震えるばかりで動くことすら出来なくなる。

 その瞳に覗かれていると、引きずり込まれ意識が飛びそうになる。朦朧としてきた瞬間に、ガッと響が添えていた腕を強くつかむエルフナイン。

 いや―

 

「貴様……立花響ではないな…誰だっ…」

 

 先ほどとは明らかに目つきと口調が別物になっていた。

 響はそれを見て薄っすらと笑うと瞼を閉じる。そして開いた時にはいつもの人懐っこさが戻っていた。

 

「キャロルちゃん久しぶり…だね…あの時は……」

「お前は……?では先ほどのは……いや今はそれどころではないか…」

 

 響の豹変ぶりに驚いたのだがこの場での追及は止めるキャロル。現在進行形で神の力の顕現は続いている。

 キャロルはすぐさま端末に向き合って操作し始める。

 するとエルフナインの異変に心当たりがあるのかフィーネが近づいてくる。

 

「あなたは…キャロルちゃんね?…初対面かしら?」

「なんだ年増」

「何ですって?」

 

 フィーネが意識してフレンドリーな感じで声をかけるのだが、先ほどのシェム・ハの一件でだいぶ逆立っている彼女はかなりのギザギザぶりだった。

 年増というかどちらも齢で百年は生きて、そして肉体を何度も変えながら生き延びている同類なのだが。

 キャロルは作業を続行したままフィーネに対して憐れむような視線を向ける。

 

「ふん…まぁいい…そうやって強気でいられるのも今だけだがな」

「何が言いたい?」

「キャロルちゃん!!」

 

 突如、相手の瞳の成分に憐憫が混ざって若干困惑するフィーネだが響は何を口にする気なのか気が付いて大慌てで静止する。

 キャロルはかつて響の記憶をコピーしたからこそ知っている。エンキの真実を、そしてバラルの呪詛が発動した真の理由を。もしそれを知ったら確実にフィーネは立ち上がれなくなる。

 そして今現在、唯一それを口に出来るのがキャロルだ。

 

「よし…設定の変更が出来たぞ…これで誰でも端末を弄れる筈だ……それに通信も繋がるはずだ」

 

 キャロルは喋りながらもキッチリと作業は終えており、本部への通信を繋いだ。

 

 

 先ほどまでエルフナインが使っていた端末を今度はノーブルレッドが使って外と交信をしている。

 

『儚きかな…』

 

 ヴァネッサをモニター越しに迎え入れたのはそんな一言だった。

 彼女が現状シャトー内にシンフォギア装者を迎え入れてしまった事。そしてその原因が恐らく自分が行った電波障害によって出来た隙を狙われて入り込まれた事を報告した。

 当然、風鳴訃堂はお冠だった。しかし分かりやすく顔をしかめるなり赤くするのではなく、冷静に目力だけで心の奥まで掴まんとしている。

 

「ッ!平らかにお願いいたしますわ……」

 

 その視線に彼女は怯んだのか目を合わせずにそのような粛々とした態度をとる。

 弱者として逃げ回ってきた事で磨いてきた生存本能やその嗅覚で分かっている。この男を敵にして生き残る事など出来ないと。

 そのヴァネッサの態度を目の前で見れば美人の虜になるとまではいかなくても、少しは怒りが衰えてもおかしくは無いが生憎目の前の相手はそんな感情は持っていない。

 

『奴らの侵入を…それも神殺しを許すとは…恥を知れい!』

「申し訳ございません…ですがいまだに神の力の顕現は順調…ここが正念場です…全身全霊を持ってして邪魔者を排除して見せます……」

 

 彼女がそう言うと背後の仲間に視線を送る。そこには献血用のチューブに注射器と稀血を用意していた。すぐさま回復して追撃の用意をするつもりなのだ。

 

『無論である、そのためにお前達には稀血を用意してきたのだ』

「心得てきております……ですから何卒、神の力の入手の暁には私達の望みである人間のっ」

 

 そこで通信は途切れた。自分の用件だけ一方的に伝えて相手の意見など求めてはいない。

 ヴァネッサはその態度に舌打ちをする。

 

「チッ…!…クソジジイめっ…!」

 

 もう既に相手が自分たちを使うだけ使って切り捨てるのは予想出来ている。

 しかしここでシンフォギアを打倒しなくてはかつてのように拘束されて寒い豚箱行きだった。

 ここが一番の勝負所だ。

 

「こうなったらやってやるであります」

「ああっ…うちらだって正面突破出来る事…見せつけてやるぜっ!」

 

 エルザもミラアルクも覚悟は十分。メンタル的なコンディションであれば一番のピークだった。三人は頷きあって意思統一した。

 エルザはヴァネッサの方を向くと先ほどまで通信していたモニターが視界に映る。そこには身に覚えのない不穏なアイコンが。

 

「ところでヴァネッサ…さっきから気になっていたのでありますが…モニターの端が点滅しているのは…何かの警告でありますか…?」

「へっ?」

 

 先ほどまで訃堂の威圧感に恐れおののいてまともに画面に目を合わせられなかったため気が付かなかったが、確かに端に赤いマークが点滅していた。それは「REC」と記されている。

 

「ま、さか…ハッキング…されている……?」

 

 ヴァネッサは自分の失態に気が付いた。

 だとすれば今自分たちがどこいるのかも、そして先ほどの会話も既にS.O.N.G.や国連に筒抜けという事だ。

 

 

 鎌倉の一室には国のために戦う防人はいなかった。あったのはただ人を力によってねじ伏せる鬼のみ。

 

「遠からず、神の力は我が物となり…危惧すべき神殺しの対抗策のみ……フッフフフ……フハハハハハハ!」

 

 先ほどまで怒りの態度でノーブルレッドを威圧し締め付けたが、既に訃堂は計画の成功を確信している。

 近く己のもとに神殺しの手をすり抜けて神の力の器はここ鎌倉にやってくることを確信している。だからこそ悦に浸っている、いられるのだ。

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