過去に戻った立花響   作:高町廻ル

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心臓の位置がハッキリと分かる

「ヘリの発艦準備は完了です、いつでも」

「ああ……だが……」

 

 緒川からの下準備の報告も弦十郎は気分がすぐれない。

 いまだに通信が一方的にしかつながらず、神の力の前ではほぼ無力同然で連絡待ちなのだ。これほど無力を感じることは無いだろう。

 そこで突然通信が繋がるとエルフナインが画面に映る。

 

「無事だったのね、エルフナイン!」

「…………」

 

 マリアのホッとしたという言葉に無言でモニター越しではあるが見つめる相手。

 クリスもそれには不安になる。

 

「おい…どうしたエルフナイン?」

『久しいな……俺の事を忘れたわけではあるまいな?』

 

 ブリッジにいる皆がその声色に口調、そして目つきを見てエルフナインではないと瞬時に確信した。

 弦十郎は皆の意見を代表して問いかける。

 

「まさか……キャロル……マールス・ディーンハイムなのか…?…一体どうやって…」

『脳内ストレージをおかしな機械で観測してた奴がいてだな……そいつが拾い集めた思い出の断片を、コピペの繰り返しで強度ある疑似人格と錬金術的に再構築しただけだ……』

 

 やれやれといった感じで簡単に言ってくれるキャロル。

 実際のPCのように「CTRL」と「C」と「V」の簡易コマンドが行使出来るわけではないため、その作業はワンミスも許されない命がけで繊細な作業だったはずだ。しかしその難易度を話しても相手に理解してもらえないため平然と話す。

 

『だけ…なんだって切ちゃん……』

「コピペ…なんか最先端な錬金術デスね…調…」

 

 調と切歌の二人はよく分かっておらず傍から見たら笑われそうな会話をする。

 弦十郎は硬い表情を崩さずに問いただす。

 

「エルフナイン君はどうなっている?」

『安心しろ……今の主人格はこの俺だが、必要であればあいつに譲ることは不可能ではない。それよりも本題に……』

 

 キャロルはめんどくさそうにエルフナインは無事だと答える。

 だが本題に入ろうとすると突如言葉に詰まる。

 

「どうしたのだ?」

『いや…どうやら奴らに動きがあるな……』

 

 キャロルは翼の質問にそう言うとモニターにある映像を映す。

 先ほどから監視カメラや端末を監視して敵の位置を把握していたのだが大きな動きを確認していた。

 

 

『奴らの侵入を…それも神殺しを許すとは…恥を知れい!』

『申し訳ございません…ですがいまだに神の力の顕現は順調…ここが正念場です…全身全霊を持ってして邪魔者を排除して見せます……』

『無論である、そのためにお前達には稀血を用意してきたのだ』

 

 

 ブリッジの正面モニターに流れているのはそんな会話だった。

 

『…………よかったな、風鳴訃堂自ら口を滑らせたぞ』

(キャロルッ!)

 

 キャロルの空気が若干だが読めていない言い方にエルフナインは咎める。キャロルからすれば気を遣ったつもりなのだが。

 一方でS.O.N.G.本部のブリッジは静まり返っていた。

 先ほどシャトー内から通信が繋がったかと思ったら流れてきたのはノーブルレッドの一人であるヴァネッサと通信をして、支援した事をペラペラと喋る訃堂のライブ映像だった。

 それはこれまでの悪行が全てあの老体主導である事を示すこれ以上ない証拠の一つだった。

 

「友里…先ほど入手した証拠の歯車と映像を国連に報告してくれ……」

「っ…それは…分かりました……」

 

 友里はそれでいいのかと言おうとしたのだが弦十郎の覚悟を決めた顔に了承する。

 弦十郎の表情を見て慌ててクリスは翼の顔を確認する。その顔は苦渋のそれだった。どんなに気に入らない、それに思想を違えていても血のつながった親族である事には変わりない。

 

「先輩……」

「慰めは不要だ雪音……国を脅かす悪党が身内から出たと言うだけの話だ…既に前からこうなる事など想定して覚悟は決めている」

「翼…はっそれで…っ……」

 

 翼の悲痛そうな言い分にマリアは何も言えなくなる。

 家族が家族を討たなければいけないなど間違っていると言いたい。しかしシャトーの一件が終わればS.O.N.G.は鎌倉にある風鳴機関を壊滅させるように指示が出るはずだ。

 拒否はあり得ない、この流れは止められない。

 

『おい、そろそろ話を戻すぞ。それに歌女どもは早くシャトー外部まで移動をしろ』

 

 その言葉で緒川は残った装者達をヘリのある場所まで誘導していく。

 キャロルはブリッジに安置された器として作られたオートスコアラーを映しながら説明をする。

 残った皆はその青髪の人形に驚いた。どことなくその顔立に風鳴の意匠があったからだ。

 

『場外のブサイクは腕輪から抽出したものでそいつをこの器に宿すのが儀式のあらましのようだな……無理に祭壇から引きはがすとどのような被害になるのか予想も出来んな……』

『そーねー…力を器に一旦移し切って正常に術式を終わらせてシャトーと切り離してから、この人形を破壊するのも手だけど……』

『馬鹿を言うな、この人形がどれほどの戦闘能力があるのか分からないんだぞ。神シェム・ハすら凌駕する戦闘能力やカラクリがあったらどうする』

 

 フィーネの冗談交じりである意見をキャロルは受け取らずに強硬に否定する。

 そこそこ険悪なコンビにブリッジ内もハラハラする。

 

『いや…調べてみたら腕輪そのものは直接シャトーには組み込まれていないな…人形だけだ……あくまでエネルギーを抽出しているだけだな』

『それって、どういう…?』

 

 響はその説明にピンとは来ないようで。

 キャロルはめんどくさそうにしながらも説明をする。

 

『アルコールランプでビーカー内の水を沸騰させているようなものだな。アルコールランプはシャトーでビーカーは腕輪だ。神の力はあくまで独立した存在、上空のデカブツを神殺しで討ち取ればチェックだ。立花響、お前の神殺しの出番だ』

 

 キャロルはこれから行うべき事を伝える。そうシンフォギアで神の力を討てと。

 だがかつての響は神に拳を振り下ろすのを躊躇って全てを無に帰してしまった前科がある。それを瞬時に察したのか珍しく優し気な声色でキャロルは話しかける。

 

『そう不安そうな顔をするな、あの時のようにシェム・ハをそして小日向未来を直接討てというわけではない。あの知性の欠片も無いブサイクを討つのであれば迷いはないだろう、いや迷ってくれるな』

 

 その会話はその場にいた二人、いやあと一柱しか理解の及ばない内容だった。

 響はそう言われて頷いた。この状況を打開するにそう時間はないため迷っていられない。

 

(意外です……)

(なんだ?)

 

 キャロルが目覚めたとすぐにやたら協力的なのを見てエルフナインは意外だと素直な感想を述べる。しかも今やるべき事が何なのかを全て理解出来ているのも謎だった。

 一方の相手はそう言われて何が言いたいのか分からないため、作業を続行しながら問いかけなおす。

 

(キャロルがこんな素直に響さんに協力するなんて……)

(はぁ…?…ああそうか…お前は知らないんだな)

(へ…?)

 

 そう言われて何を言っているのかと思ったが、エルフナインは記憶を共有していないため自身の心変わりを理解できなことに気が付いた。

 

(ここから生きて脱出したら話してやる……立花響の正体をな……)

 

 その後もキャロルとフィーネは器のオートスコアラーの調査とシャトーからの切り離しの作業を続行した。

 

 

「連中もおっとり刀で駆け付けてきたようだな…」

 

 キャロルはモニターの一つにヘリがここに飛んできているのを確認してそう言う。

 

『キャロル君、シャトー外部に装者のとりつきの成功を確認した』

「そうかご苦労」

 

 弦十郎からの報告にさくっと返すキャロル。

 そのようなぶきっちょな性格なのは既に理解できているため特段咎める事は無い。それに噛みつく人間であるなら曲者の多いS.O.N.G.の司令などやってはいられない。

 内心は別として自身の親の悪行を目の前にしても動揺を見せない。

 ブリッジ内にいた装者たちは既にシンフォギアをまとっていつでも臨戦態勢に入れる準備をしていた。

 

『キャロルちゃん、こっちも準備出来てるよ』

『こっちもリンカーは打っていつでも行けるよ』

 

 響と調は現在シャトーの屋上、つまり神の力の真下にいた。

 

『ガングニールとシュルシャガナの反応をシャトー上空に確認!』

 

 藤尭はレーダーで波形を確認して報告。

 前の世界ではチフォ―ジュシャトーを使って分解を狙ったが、今回は装者がしっかり六人そろっているうえに神殺しが付いている。フォニックゲインをわざわざ集めてシャトー起動させる必要がない。

 結局作戦は響の拳を当てて倒すに絞られる。

 

「伝えるがもうすぐ人形とシャトーの分離作業が終わる。ブラックボックスの解析が終わり次第神の力の解体を……」

 

 キャロルはそこで黙り込む。モニターの一つにすぐそばまでやってきたノーブルレッド達を確認したからだ。

 

「この忙しい時に…不安要素はあるが…歌女どもにそっちは任せる」

 

 彼女は忌々しそうに呟きながら扉から外に出る。

 出た先に待ち構えていたのはノーブルレッド達三人だった。相手はきょろきょろと警戒していた、恐らくシンフォギア装者の場所を把握しようとしている。

 そして非戦闘員であるエルフナインが一人で出てきたことに不信感を。

 

「お前たちが気になるのは立花響か?ならもう神の力を討ち取りに行ったが?」

「何ですって…すぐに私達も……」

「行かせると思うか?」

 

 そこになってエルフナインの様子がおかしい事に三人は気が付いた。その可能性を脳裏には浮かべてはいるのだが嘘であって欲しいと誰も口にはしない。

 

「所詮は逃げるしか能のない草食動物が、格上の肉食動物を前に自ら姿を晒すというのがどう言う事か理解出来ないわけではあるまい?」

 

 キャロルはそう言うと左手を横に突き出して生み出した魔法陣にから紫色のハープ、つまりダウルダブラを召喚した。それを手に取ると静かな動作で弦を鳴らす。

 ハープが広がり変形して、そこから弦が伸びて糸が彼女の体を包んでいきファウストローブを形成する。ハープはキャロルの背中に背負われる形で装着される。

 それは背丈こそ違ったが、佇まいはかつて世界を一人で相手取ろうとした傲慢不遜な錬金術師のそれだった。

 

「この土壇場でデタラメな奇跡をっ…!」

「奇跡だと?」

 

 ヴァネッサは憎々し気に唸る。

 聞いていない、シンフォギア装者六人を単独で相手取れる敵と相対するなんて。

 キャロルは己にとっていまだに不快と感じるその単語を聞いて目つきが一層鋭くなる。

 相手が明らかに敵意を漲らせたのを見てノーブルレッド達は身を固くする。相手の圧倒的な存在感に全身が強烈な危険信号を発する。

 

「冗談じゃない…オレは奇跡の殺戮者だっ!」

 

 吠えるキャロル。

 ノーブルレッド達にとっては奇跡など一欠けらも介在しない絶望的な実力差での戦いが始まる。

 

 

 既に神の力には手足が生えており、何かが開花しようとしていた。

 

『響君聞こえるか?』

「はい」

 

 響は屋上で待機していたがそこでS.O.N.G.のブリッジから連絡が入る。

 

『キャロル君が戦闘に入った、こちらもアヌンナキの討伐に入る。戦闘が始まったらすぐさまクリス君のミサイルを使って装者が突撃して攻撃の一部を引き付ける。その間に神殺しを叩きこんでくれ』

「了解!」

 

 響は打てば響く返事で応える。

 これまでひたすら逃げ回っていたとは感じさせない。

 

『了子くん…いや調君も頼んだぞ……』

 

 そして弦十郎はフィーネに声をかける。しかし彼のその声色は硬い。

 かつて響が勝手に大胆な告白をしてしまったためどう接していいのかいまだに図りかねているのだ。それはフィーネも同じはずだが現状は戸惑っている素振りは見せない。

 

「はいはーい」

「分かった…」

 

 傍から見ると今の調は情緒不安定でしかない。実は表情筋が普段の使用量を逸脱しているため頬が結構痛かったりする。

 

『オッサン!いつでもいいぞ!』

 

 クリスが準備は出来たと返事をする。

 彼女はミサイルを二発生み出していつでも神の力へと射出する準備を完了していた。その上には翼、マリア、切歌が乗っかっていつでも飛び出せるように構えている。

 特に切歌はやっと調と再会できるという事で明らかにやる気十分だった。先ほどからそわそわしていつになったらゴーサインが出るのかと待っている。

 

『落ち着きなさい切歌、私達の目標は調と再会する事じゃなくて立花響のサポートなのよ?』

『うー…分かってるデスよ…でもはやる気持ちが止められないデス!』

 

 マリアが咎めても切歌の浮ついた感じは消えない。

 翼とクリスはそれを見て少し呆れたが、そのおかげで緊張を忘れることが出来たのも事実だった。

 

『では神の力の討滅作戦を開始する…よしクリス君!調君!そしてみんな、頼んだぞ!』

『『了解!』』

 

 二人は弦十郎からの合図に頷くとそれぞれ行動に出る。

 

 

『イグナイトモジュール!抜剣!』

 

 装者達は出せる全力を開放する。

 クリスはミサイルを発射して装者を運びながら敵陣に向かって飛び込む。

 調はフィーネが巫女として使うことが出来た防御壁を空中に展開して、それを踏み台にする事で響と自分がエネルギー体に接触するための道を作る。

 

 クリスのミサイルを撃ち落とそうと繭に付いている結晶から光線を放とうとしてくる。それは響に割かれる攻撃を引き付けられるという当初の目的を考えれば僥倖だが、あくまで誰一人として犠牲者を出さないのが前提だ。

 翼は真っ直ぐ飛べば撃ち落とされると察して注意喚起をする。

 

「雪音!今よりも上に修正してかわすんだ!」

「分かった!」

 

 その忠告に反応してミサイルの軌道修正を行いギリギリその光線を掠めるにとどめる。

 

 響は調の作った即席の足場を使って移動する中でこっちに遠慮しているような敵の攻撃に違和感を覚えていた。

 目の前の神殺しに対して攻撃を躊躇する理由は無いはずなのにだ。

 

(やっぱり依り代と腕輪を間違って破壊するのを躊躇っているんだ……)

 

 響は相手の下から迫っている事で下手に一撃を加えれば流れ弾が飛びかねず、結果としてシャトーを人質にとる戦法が決まっているのを実感していた。響からすれば相手がそれを考えずにシャトーごと叩き潰しに来たら何の自衛能力を持たない未来が死んでいたのでホッとしていた。

 相手はそれを察して響の横方向から触手を伸ばして締め上げようとする。かつての響はこの攻撃を食らって一時戦闘不能になった。

 勿論神殺しで抵抗は出来るが、かつてのティキのようにレイラインを使って疑似的に再現した力ではなく、アヌンナキの力を直接抽出したものなので一瞬で簡単には破壊出来ない。

 響が敵に囚われようとするが、当の本人はかわすわけでも防御に周るわけでも無く一切躊躇なく飛び込んでいく。

 攻撃が当たる瞬間に銃弾と刃たちが響への攻撃を跳ね返していった。捕えようとしていた触手たちが吹き飛ばされそして切り裂かれていく。それは埒外物理によって復元されるが、時間稼ぎは十分に出来た。

 

「行け立花!その拳で人の意志を貫け!」

「はい!!」

 

 翼は切り飛ばして、そして響へと声をかける。

 そして響はこの声に呼応して、足場を思いっきり蹴って真っ直ぐ飛び込んでいく。

拳が真っ直ぐに迷いなく一直線に敵を貫こうとする。しかしその瞬間、胎児の姿を取っていた神の力がその場で回転して響の攻撃をそして響を強引に跳ね返してしまった。

 響は吹き飛ばされて平面地図上ではシャトー外に飛ばされてしまう。

彼女はまさかと思いチラリと下を見ると彼女の真下にはシャトーは無く何もない地面だった。それを認識して唖然としてしまう。

 

「あっ……」

「不味いわ!」

 

 マリアは唯一神に抗える人間がリング外に飛ばされて焦る。

 シンフォギアをまとっていれば落下死はしないが、響が戦場を離れている間に儀式が終了してしまう可能性がある。まだキャロルはシャトーと器の人形を切り離す作業を完了していない、ノーブルレッド達に足止めされている。相手も分かって、だからこそのこの動きなのかもしれない。

 

「させるかよっ!」

 

 クリスはミサイルを生み出して何とか響を回収しようとするのだが、敵はそうはさせてくれずに再生した触手がクリスを吹き飛ばしてしまう。

 彼女は「うわあっ!」と叫んで、響とは別方向に吹き飛ばされる。

 

 しかしその絶望的な状況下で歌が聞こえた。

 

『Gatrandis babel ziggurat edenal―』

 

「絶唱……」

「いったい誰がデス…?」

 

 調と切歌は突如聞こえる身を滅ぼしかねない歌に不安をあらわにする。

 

『Emustolronzen fine el baral zizzl―』

 

「まさか立花かッ!」

「何をする気なの!?」

 

 翼とマリアはその声音が響の物だと分かると驚いた声をあげる。

 基本的に殴る事しか出来ない響では絶唱を使って力を底上げしてもただ闇雲に体力と精神力を消費する事にしかならないからだ。そしてそれが分からないはずがないのだ。

 

『Gatrandis babel ziggurat edenal Emustolronzen fine el zizzl』

 

 彼女は歌い切るとその体が強い光をまとう。それはまるで小さな太陽のようで。そして光が弾けたと思ったらそこにいた響が一瞬で掻き消える。

 次に現れたのはクリスを抱きかかえてシャトーの上に静かに着地をしていた姿だった。

 

「お…まえ…それは何なんだ……?」

「…………」

 

 クリスは響にその場に降ろしてもらうと唖然としながらも口を開いて問いかける。

 響は無言で自分の手のひらを見つめていた。反射的に行った事だが昔に出来た事がとっさにだが再現できた事に驚いていた。

 

(熱い…それに…心臓も張り裂けそうなほど高鳴ってる…心臓の位置がハッキリと分かる…今体にたぎっている力は間違いなくあの時の……)

 

 そう、今の響の姿は全身が浅く発光しており、髪の毛は燃えて揺らめいているように見える。背中には光り輝く大きな翼があった。それはエクスドライブモードに酷似しているが少しだけ意匠が違う。

 それはかつてシェム・ハとの決戦前に月から脱出して大気圏に放り出された際に、絶望の状況の中で諦めない人類の姿を見て奮い立って仲間の装者達と共に絶唱を唱えて至った姿。

 そんな響の姿を見ていた調、いやフィーネはその姿に驚いていたが同時に納得もしていた。

 

「そうか…そうよね…響ちゃんは世界で唯一の……ならこれも一つの姿……」

 

 どうやら響の今の姿に心当たりがあるようでうんうんと頷く。

 敵はそんな響達を悠然と待ってはくれない。すぐさま響を戦闘不能に追い込まんと触手たちを伸ばして拘束を計らんとしてくるが、響が腕を力強く突き出すとそれらが一瞬で粉々にされて吹き飛んでいく。

 

「凄いデス……」

「信じられないわ…ただの一振りで神の力を……」

 

 切歌とマリアは響の今の実力に舌を巻く。

 千切られてもレイラインではなくアヌンナキの腕輪から抽出しただけあってすぐさま触手たちは復活してしまう。響はそれを見てちまちまやっていては先に体力切れになると考えて一撃にて粉砕しようと考える。

 響が拳を構えると装甲が開きそこから火が噴く。そして全身が炎に飲まれてそのまま真っ直ぐに飛び込んでいく。

 再生した触手を吹き飛ばしながら響は一直線に飛び込んでいく。

 

「響さん行って…!」

「よく分かんねーけどそいつで畳んじまえッ!」

 

 調とクリスは討伐せんと直進していく響に出せる限りの声で背中を押す。それは翼もマリアもそして切歌も同じ。

 

 みんなの思いも籠った拳が敵を殲滅せんとしたが、その一撃が当たる直前で神の力の塊が何の予備動作も無く消えたのだ。

 

「え……?」

 

 何もない宙を殴った響が腕を伸ばした間抜けすぎるモーションで硬直してしまう。

 今の響は大量のフォニックゲインによって極限まで能力が底上げされている。その響の目を持ってしても突如として掻き消えた姿を見逃した。

 

 しかし異常はそれだけに留まらなかった。

 

 チフォ―ジュシャトーが丸ごとくり抜かれたかのようにゴッソリと消えていたのだ。

 その場にいたキャロルや未来、そしてノーブルレッド達をそこに残して。

 

 

「よく粘る…その執念は嫌いではないがな……」

 

 キャロルは呆れながらも粘っているノーブルレッド達に賞賛をする。勝ち目のない戦いの中でもいまだに諦めまいとしているのだから。

 彼女たちは明らかに強者の上から目線の一言に憎々し気に睨むが、もう体が地面から浮かなかった。

 敵の攻撃は見事な連携だった。ヴァネッサが指から発射する銃弾で牽制しつつミラアルクとエルザが双方から挟んで攻撃。防がれたら瞬時に三角形の形に陣取ってダイダロスの迷宮を発動して追い詰める。

 しかしその作戦を知っているキャロルには通用するはずもなく、一瞬のうちに沈められてしまう。

 

「その不屈さは誇ってもいいだろう。だがオレが上だ」

 

 キャロルは間違っていると思いながらもそれでも弱さを理由に投げ出さないその姿勢は嫌いではなかった。かつての自分も力が無く父親を救うことが出来ずに苦しんだことがあったからだ。

 しかし直後に冷徹にもお前たちはそれでもなお勝てないと決定的な言葉を紡ぐ。

 

「さっさとこいつらの意識を奪って人形を切り離さなくてはな……」

 

 キャロルは腕を構え、背中のダウルダブラを起動させて糸を生み出す。その一撃で拘束し意識を奪う気なのだ。

 しかしその瞬間、地面が消え去って景色がいきなり夜空に包まれた。

 

「なにッ!?」

 

 キャロルはいきなり宙に放り出されて驚愕の叫びをあげる。

 すぐさま辺りを見回すと上空には装者達が自分と同じように驚愕の表情をしているのを確認していた。

 そして下を見ると気絶している未来と倒れていたノーブルレッド達が落ちていくのを確認する。素早く彼女は糸を飛ばして未来とノーブルレッド達の四人をグルグル巻きにして地面に叩きつけられるのを防ぐ。そしてそのまま真下に着地する。

 キャロルが着地した傍にシンフォギア装者も降りた。

 マリアはきょろきょろと周りを見回したが、表情は起きた事が信じられないといった感じだ。

 

「どういう事なの…?」

 

 その疑問が皆に共通する不安の全てだった。先ほどまで確かになった神の力とチフォ―ジュシャトーがきれいさっぱりここから消えたのだ。

 

「未来っ!」

 

 響は地面に倒れている相手に駆け寄ってその体を抱き上げる。呼吸は安定しておりホッとする。

 クリスはそんな姿を見て安心したが、すぐそばにいるノーブルレッド達を見て驚く。

 

「ッ!こいつらも無事か……」

「ああ…彼女たちにはじっくりと話を聞かなくてはな…これ以上ない生き証人だ……」

 

 翼はクリスに呼応するように口を開く。そこには痛みもあった、己の血を分けた家族の罪状を補強しようとしているのだから。

 マリアはそんな姿を見て痛ましそうな顔をする。翼の発言に間違いは無いが、それでも家族にする事ではないのだろう。しかしそれを否定する事も出来ない。

 

「調~っ!!」

「ちょっ!切ちゃん!?」

 

 そんな重苦しさがある空気の中で切歌は調の薄い胸に思いっきりダイブした。相手はそれに困惑と脂肪装甲が薄いため若干痛みが来てしまう。

 いまだに不審な点ばかりだが今ここでの戦闘は終わったのを感じて一番の親友に再会できた嬉しさが爆発してしまったのだ。いまだにチフォ―ジュシャトーと神の力がこの場から消失した理由が分かっておらず、緊迫した状況が解除されていないため空気の読めない行動ではあるのだが誰もそれを咎めなかった。

 響は未来を抱えながらもあたりを見まわした。突如巨大建造物が消えたこの異常な光景を。

 

「キャロルちゃん…どうしてチフォ―ジュシャトーが……」

「ああ…まだ分からないが…シャトーを解析した中で不明瞭なブラックボックスが残っていた…それが原因だろう…小日向未来が起きれば何かが分かるかもな……」

 

 キャロルは抱えられている未来を憎々し気に見ながらも言った。

 かつての彼女にチフォ―ジュシャトーをハッキングされて計画を台無しにされたからだ。今回の一件も操られたとはいえ神の力を生み出させてしまった。

 

『司令!チフォ―ジュシャトーの現在位置特定しました!』

『なんだと!?どこだ!』

 

 装者達のインカムにブリッジでの会話が流れてくる。

 

『チフォ―ジュシャトーの現在地は鎌倉です!!』

 

 それはまさに予想通りの報告だった。

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