過去に戻った立花響   作:高町廻ル

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キャロルは語る

「未来…休んだ方が……」

「大丈夫…もう意識ははっきりとしてるから…それにシャトーが移動した仕組みを説明しないと…」

 

 響の心配にも未来は気丈に返す。その首には弦十郎から渡された神獣鏡のギアペンダントがかけられている。

 

「未来君……無理は承知だが…鎌倉にシャトーが移動した説明の方をお願いできるかな?」

「はい…」

 

 未来は弦十郎の催促に、少しだけ申し訳なさそうに目を潜めたがすぐさま立ち直って説明をする。

 

「現在チフォ―ジュシャトーは自転エネルギーを使って起動しています。それの応用で一時的にシャトーのみを自転から外したんです」

「自転デスか?」

 

 切歌は瞬間移動を自転と言われてピンと来なかったようだった。ちなみに調にべったりと抱き着いている。

 その光景を見て未来は少しだけ呆れていたが特に咎めない。

 

「…そう自転。物体は自転から外れると地面が約千七百キロメートルで遠のいていくんだよ。最速の新幹線で大体時速五百キロメートルくらい。気を抜いていると視認は難しい」

 

 未来は説明したがあまりにも現実離れした事象だった。

 あのキャロルが操っていた時も次元の壁らしきものを破壊して大々的に移動させていたのに、殆どノーモーションで動かすのは現実離れしていた。

 説明を終えたタイミングでモニター越しに見ていた八紘が口を開く。

 

『現在国連や世界各国からさらなる報告の要求が来ているぞ、分かっていると思うが反応兵器こそないが鎌倉への武力行使も厭わない世論はもう止められんな…お前たちS.O.N.G.が提出した証拠は風鳴訃堂がテロリストだと証明するには決定的なものだ…』

「ッ…そうか…分かってはいたが俺達のせいだな…分かっていながらもあの人の悪行と妄執を長年にも渡って見逃してしまった…」

 

 モニターに映った八紘からの報告に弦十郎は悔恨と言った感じて呻いてしまう。

翼もブリッジの端で同じ表情をする。情けなさと悲しさが共存したそれを。

 現在のS.O.N.G.はノーブルレッド達を確保して装者全員を拾い、鎌倉近くの港に向かって移動をしていた。

 

『今現在のS.O.N.G.には風鳴訃堂に加担したのではと嫌疑がかかっている。取りあえずその場で待機しておいていくれ』

「お父様!私たちはそんな事はッ!」

『そんな事は分かっている。お前たちがどんな気持ちで戦ってきたかなどはな。今現在進行形で各国政府に説明して行動制限解除を図っている。少しだけ待っていてくれ』

「…はい…分かりました……」

 

 翼は己自身は確固たる信念で戦ってきただけにテロに加担しているのではという疑いに怒りが隠せなかった。それは自分だけでなく他の装者もまた要らぬ疑いをかけられているというのもある。

 しかし直後に父親が静かに諭してくれたおかげで高ぶる感情を何とか沈めることが出来た。

 仕方のない事なのだ。組織のリーダーとシンフォギア装者が風鳴の直系なら疑いたくもなる。

 

『ともかく風鳴訃堂は今を持って討つべき敵だ。辛いかもしれないが弦…現場は任せる…私は私の戦場でお前たちを支える…』

「ああ…言われなくても分かっている……」

『…………』

 

 弦十郎の覚悟は決まったという瞳に八紘は一瞬不審そうな表情をしたが何も追求せずに黙って通信を切った。

 同時に緒川がブリッジに入ってくる。

 

「司令、潜水艇とブリッジの調査を終えましたが未確認の監視カメラや盗聴器は存在しませんでした」

「すまないな緒川…これでいいのか響君?」

「ありがとうございます」

 

 弦十郎は頼まれた調査を終えて響に確認を取る。

これからキャロルが話してくれるであろう響の体験した真実はおいそれと部外者が聞いていいものではないからだ。

 

「キャロルちゃん…その……」

 

 響は遠慮がちではあるが相手にお願いをする。

 キャロルは「ふん…」と鼻を鳴らしたがすぐさま口を開く。

 

「いいか、これからオレが話す事はかつてこいつの記憶をコピーして得た、立花響が実際に体験した事実だ。いっぺんに話してやるから終わるまで話に口をはさむな」

 

 そこからキャロルは休むことなく響が前の世界で体験した事象を話す。

 

 

 ツヴァイウィングのライブに行ったらノイズに襲われて天羽奏に庇われたと思ったらガングニールの破片が突き刺さり倒れた。

 翼にあこがれて、そしてあの日の真実を聞きたくてリディアンに入学したらシンフォギア装者に覚醒した。

 戦う中で翼が絶唱で死にかけて戦う覚悟について考えさせられた。

 フィーネと月破壊を巡って争い、結果として勝利した。

 

 ソロモンの杖を護衛する過程で盗まれて翼のライブでノイズが召喚され、F.I.S.と正面衝突になる。

 戦いの中で明らかになったガングニールの破片が使用の度に肉体を侵食して命が危ぶまれ、未来がそれに焦り結果として神獣鏡をまとい利用される事態となってしまう。それを止めるために戦い、そして響と未来の二人は全身に祓う光線を受ける事となる。

 シンフォギアを失ったが調を説得して味方になってもらいフロンティアに乗り込み、マリアのガングニールを奪って正規の適合者へと変貌する。

 月軌道をナスターシャが命をかけて修正をする。そして装者六人が協力してネフィリムを倒してバビロニアの宝物庫とソロモンの杖を破壊して、世界からノイズという災害を完全に絶滅させる。

 

 その一年後の夏休み直前に火災事故が起こったかと思ったらシンフォギアを破壊することが出来る錬金術師が現れる。

 響は災害救助にギアを使った事から戦う事に対して否定的な感情を持ったが、未来の励ましによって立ち上がったがオートスコアラーにあっけなく敗北する。

 エルフナインがダインスレイフを使ったパワーアップ計画を立案しそれに乗っかる事に。

 イグナイトモジュールをまとった装者によって一時的にキャロルを討ち取る事に成功するがオートスコアラーは何故か目的を持って行動を行う。以降はその人形の討伐を優先して行っていく事に。

 人形を倒す中で明らかになったのは、キャロルの目的ダインスレイフの旋律を利用した計画である事。

 最終的にキャロルは想い出の全焼却を行い行方不明の後に瀕死のエルフナインに肉体を譲渡する事で彼女は生き永らえる事に。

 

 魔法少女事変と呼ばれた戦いから一ヶ月後にバルベルデ共和国でアルカノイズが確認されて、対抗戦力であるS.O.N.G.が駆り出されることに。そこで明らかになったのはパヴァリア光明結社という組織が神の力の入手と制御の為に暗躍していたという事実だった。

 敵はシンフォギア破壊を狙って風鳴機関本部のある松代に襲撃を仕掛けて、そこで敵の切り札である賢者の石によってイグナイトモジュールを封じ込まれる。それと同時に問題になったのはリンカーのストックが底を尽きて元F.I.S.組が戦力にならなくなる。そのためエルフナインはマリアの脳領域を探って完成を目指す。

 賢者の石封じの為にかつて融合症例だった響の体内から抽出された通称愚者の石を使った対抗策を打ち出し、そして各装者のユニゾンを完成させてパヴァリアの幹部たちを討ち取っていく。

 アダムとの決戦の中で響が神の力の依り代となってしまい反応兵器が射出されるという事態に陥るが、サンジェルマンたちの必死の行動で日本は守られる。その直後、アダムを倒して錬金術結社を壊滅させる。

 

 かつてアダムが警戒した棺が出てきて、南極へと向かいそれを破壊して内部にある聖骸と腕輪の聖遺物を入手する。

 そしてそれを狙う者達、通称ノーブルレッドが姦計を働かせる。その過程で翼のライブ会場では七万人近くの死者行方不明者が現れ、停電事故で多くの危険が生まれた。

 彼女たちと背後でバックアップしていた風鳴機関はエルフナインと神の力の器になってしまった未来を催眠で操った翼を利用し、拉致をしてシェム・ハを復活させてしまう。

 その罪状を持って風鳴弦十郎と八紘、そしてマリアは鎌倉に乗り込むが、完全にシェム・ハの復活を許してしまった上に八紘は殺害される。

 種子島宇宙センターに向かい月遺跡の探索を試みるがノーブルレッドが改造されて利用されて阻止されるが、テレポートジェムが不慮の事故で起動して月へと向かう事に。

 そしてエンキと呼ばれたアヌンナキの人格を持ったプログラムによって語られるのはバラルの呪詛の真実だった。

 月遺跡が爆破されて逃げる中で命からがら地球の大気圏に戻ったが、そこで見たのは神に抗う人間達でそれを見て絶唱を使い、これまで見たことの無い決戦機能をまとって神と戦う。

 しかし最後の最後で未来を傷つける事を躊躇ったがゆえに響以外のシンフォギア装者が全員殺害されて、最後の策としてキャロルが過去に戻すことに。

 

 そして気が付いた時にはガングニールの破片が刺さった直後のあのライブ会場で意識を取り戻した。

 しかし、何故か未来に起きる事を口に出来ずに今日に至る。

 

 

 キャロルの口から語られたそれを聞いて最初に動揺を見せたのは―

 

「う、噓よ……だとしたら…私の数千年の想いは…?…努力は…?…何だったというの……あの方の体だと気が付かずに…アガートラームを……」

 

 調…ではなくフィーネだった。

 彼女はよろめいてへたり込んでしまう。彼女はこれまでエンキを愛して胸の内にある想いを伝えるためにバラルの呪詛の克服と月遺跡の破壊を目論んできたのだ。

 だがそれは全て無駄だった。

 それどころかエンキは既に死んでおり、彼の残した思いを踏みにじっていたのだ。今感じている絶望は誰にも想像できようもない。

 

「ね、ねぇ…響ちゃん…嘘だと……」

「…………」

 

 響はその一言に居たたまれなくなってしまい、視線をそらしてしまう。

 それを見てキャロルが語った物語が嘘ではないと確信し、更に絶望が濃く刻まれていくフィーネ。

 

「櫻井女史!しっかりするんだ!」

「おいフィーネッ!シャキッとしろっ!いつもの余裕ぶった態度はどうしたんだよ!!」

 

 翼とクリスは調の肩を揺すって気を強く持つように声をかけるが殆ど効果が出ず、体の震えは一向に止まらない。

 

「了子くん!しっかりしてくれ!絶望に染まるんじゃない!!」

「う…あ、あぁ…っ……」

 

 弦十郎はその体を抱きしめて背中をさすって落ち着くように説得する。

 その声に錯乱状態だけは脱したがそれでも茫然自失といった感じが強い。これまで長年彼女の魂を衰えさせずに若々しく滾らせてきたモチベーションが全て失せてしまい、一気に精神的に老け込んでしまったかのようだった。

 

「情けない奴だ」

 

 その雰囲気の中で切り裂いたのはキャロルだった。

 皆が慰めたり励ますのではなく叱責したその姿に何故だと視線を向ける。

 

「一つや二つ失敗した程度でこの世が終わったかのように…全く…これまで自身の勝手で引っ掻き回してきて…いい身分だな……」

 

 かつてのキャロルも父の死から周りが見えなくなって暴走してあわや世界を崩壊させかけた事もあった。だが父の残した世界の人々を繋いで欲しいという願いを思い出して今に至るのだ。

 キャロルは言葉を繋いでいく。

 

「お前の中にあるのがエンキとかいう男なら…守ってみせろ、そいつが残した世界を…それくらいはやってみせろ」

「…………」

 

 その言葉に絶好調とはいかなくても最低限瞳に理知的な輝きが戻る。どうやら一定の落ち着きを取り戻したようだ。

 すると彼女の体ががくりと力を失ったかと思うと、

 

「あの…弦十郎さん……」

「む…あっすまん!」

 

 フィーネが体を調に明け渡したことに気が付いて慌てて抱きしめていた体を離す。そのまま抱き着いていたらバッチリ犯罪である。

 抱き着かれたのが恥ずかしかったに違いない。

 クリスはフィーネが何とか落ち着いたのを見てポツリと呟く。

 

「そうか…ステファンの事を知っていたのはそう言う事か……」

「ごめんね…その…色々と……」

 

 クリスはかつて待って欲しいと言われて待ち続けた回答を聞けてなるほどといった感じだった。

 響は申し訳ないといった感じで返す。彼女が悪いわけではないのだが、それに対してクリスは首を振って謝るなと無言で返事をする。黙っていたかったわけでも、偽ったわけでも無いと分かって彼女は安心していた。

 マリアは暗い雰囲気を脱したいのか軽い質問を敢行する。

 

「ちなみにあなたは何歳なの…?」

「へ…?」

 

 響はその質問に一瞬ポカンとしてしまう。

そして相手の知りたい事が今の年齢でなく、前の世界を含めて何年生きたのかという意図に気が付いた。

 

「…あ、そうですね…二十一歳くらいですかね……」

「私よりも年上なのか……なるほど…………」

「てかあたしよりも年上かよ!」

 

 響はもっと重い質問が来ると思っていたため、何とも言えない内容に気の抜けた感じながらも答える。

 翼は後輩が先輩だったことに気が付いて驚いていた。

 クリスは驚きと響が稀に大人びた言動を見せるのに得心がいった。

 すると部屋の端でじっと俯いていた未来を響は視界に入れた。響は世界のため、そして彼女のためとはいえ未来に酷い事を言って突き放したためどう声をかけたらいいのかと声に詰まる。

 

「み、未来…えっ…と…ね…」

「よかった……」

「…え……?」

 

 彼女から飛び出す予想外な一言に響は何を言っているのか理解出来なかった。

 未来が顔をあげると泣いていた。涙を止めようとするが止まらずに手を使って拭う。

 

「わ…たし…響に本気で……嫌われてるわけじゃ…なくてっ…本当に良かったよぉっ……」

「あ」

 

 響は未来を嫌いだと恨んでいると突き放したが、キャロルが口にした事が正しいのであれば何よりも未来を守りたくての行動なのだ。

 

「今まで…罪悪感でっ…仕方なく一緒に、いてくれてるって……思ってっ……」

「そんなわけ無いよ…いつだって…未来は私の親友だよ……だから……ごめんなさい……」

 

 響はそう言って未来を抱きしめる。相手は肩を震わせながら嗚咽を漏らしていた。

 するとエルフナインが申し訳なさそうに手を挙げる。

 

「あのー…キャロルの話を聞く限りでは…えっと響さんが適合者になれた理由も…神の力を取り込んで別人になった理由も分からないんですよね?」

「…………っ」

「おいなんだよその心当たりがある感じは……もう隠し事はなしだろ……いやそれとも例の喋れないってやつか?」

 

 エルフナインの発言に響は言葉に詰まってしまう。

 それに目ざとく気が付いてクリスは咎める。しかしすぐさま予期しない理由で話せないのかと申し訳なさそうにする。

 しかし答えたのは響ではなくフィーネだった。

 

「響ちゃんが…別人みたいになったのは分からないけど……適合者になれた理由の方は分かるわ……」

「そ、そうなのか…了子くん?」

 

 直接調べたわけでも無いのに答えを知っている彼女に驚く弦十郎。響ちゃんと呼ぶのは彼女と友里くらいだ。

 フィーネは本調子ではないものの、何とか会話が出来るレベルには回復していた。

 

「フォニックゲインを生み出す方法は当然知っているわね?」

「歌う事…デスよね…?」

「半分正解ね」

 

 切歌はこれまで自分たちがしてきたことをストレートに伝える。しかしそれでは五十点だと伝えられる。

 同然それを聞いて皆は納得しない。歌う以外にフォニックゲインを生成する方法に心当たりなど無いのだから。

 

「あり得ないわ、シンフォギアを動かす源は歌だわ。歌によって世界との調和を図るための技術の最先端なのだから」

 

 マリアは切歌の回答を不十分だと断じられて反論をする。

 これまで歌う事でフォニックゲインを生み出したし、それ以外の方法があるなど考えた事すらないのだ。あのキャロルでもやはり歌っていた。

 フィーネは当然歌そのものを否定はしない。

 

「歌う事でフォニックゲインを生み出すのはそうだけど…厳密には喉を震わせる際の振動によって歌声と共にフォニックゲインを生成出来るのよ」

「振動…か…」

 

 その説明に歌う事を長年生業としてきた翼が首に手を当ててなるほどと頷く。

 確かに歌ったり、声を発すると喉は振動する。

 

「でも響ちゃんだけは違う方法でフォニックゲインを生成しているのよ」

 

 クリスはフィーネの一言にまさかといった感じでチラッと響の方を見て言い返す。

 

「はぁ?…じゃあ歌わなくてもこいつはシンフォギアを動かせるってのかよ?」

「あ…そう言えばあの棺と戦っていた時に歌わなくても響はフォニックゲインを生み出して埒外物理を帯びた氷塊を破壊していたっけ……」

 

 未来はクリスの言った歌わなくてもエネルギーを抽出したあの一幕を思い出していた。それはエルフナインが注目した一幕。

 

「ええそうよ、極端なことを言えば響ちゃんは歌わなくてもフォニックゲインを生み出せるわ」

「ど、どうやってですかっ?」

 

 エルフナインは前から思っていた疑問への答えが吊るされて居ても立っても居られないといった感じを出す。

 

「それはここよ」

 

 フィーネはそう言って指先で調の胸の真ん中トントンと叩く。それはちょうど心臓のある位置。

 

「響ちゃんは心臓の鼓動を使ってフォニックゲインを生み出しているのよ。この方法なら歌わなくてもいいでしょう?」

 

 簡潔に答えを述べる。

 皆がその意外過ぎる回答に唖然としてしまう。

 

「し、心臓…ですか……」

「確かに心臓の鼓動も振動ではあるけど……」

 

 翼とマリアも半信半疑といった感じだ。

 そして響はかつて貰ったあの言葉を思い出していた。

 

『胸の歌を信じなさい……』

 

 あれはどんな困難があっても自分の信じる道を疑うなというだけでなく、人と繋がる事を求めるのであればいつかは辿り着ける境地を示してもいたのだ。

 弦十郎はその理論にまだ懐疑的なようで。

 

「しかしだな…そんなことが出来るのであれば…もっと多くの人間が適合者にだな……」

「ええそうね…でも響ちゃんは神獣鏡によってバラルの呪詛から解放されているのよ?つまり魂の枷を外されている。伝える力が解放されている。フォニックゲインは振動、伝えようとする力だから。人はよく心臓の鼓動が早まる事を恋慕や愛の象徴、哲学として扱っている。つまり振動によってフォニックゲインを生み出せるのよ」

 

 フィーネは弦十郎に説明をする。

歌による喉の振動ではなく、心臓の鼓動によって生み出せるフォニックゲイン発生方法を。

 

「じゃあ響さんのあの形態はその心臓のフォニックゲインを高めた姿デスか?」

 

 切歌が言ったのは神の力を前にした際に至ったあの炎が揺らめく様な決戦機能。

 これまで装者達が見た事も至った事もない響だけが見せた姿。厳密には前の世界で装者全員が至った姿。

 フィーネはその質問に首を縦に振る。

 

「ええ…恐らくそうでしょうね…いうなら…そうねぇ…『バーニング・エクスドライブ』とでも言ったらいいのかしら?」

 

 フィーネは話をそう言ってまとめた。

 響が神獣鏡の光を浴びて融合症例から適合者に変貌した理由は説明が付いた。しかし、もう一つのまるで別人になったあの現象には説明がついていない。

 

「おい立花響。もう片方のあいつは何だ?何を宿している?それはオレの記憶にはないぞ」

 

 エルフナインから切り替わって出てきたキャロルが質問をする。

 これまで意識がはっきりとしていなかった彼女を響の中にいる人物が無理矢理引っ張り出して覚醒させた一件を聞いてくる。

 その言葉に皆が響に視線を向ける。

 

「それは……」

 

 響は答えに窮してしまう。

 喋れないのではなく先ほどの話をしてシェム・ハの危険性を聞いて穏便に済ませられるとは思えなかったのだ。特にフィーネに関してはエンキを殺した憎き人物なのだから。

 今は色々あって人の営みを見てみたいと心変わりをしているとはいえ、ここにいる全員が神の力や神そのものにいい印象を持ってはいない。

 そしてそれは響も例外ではない。

 いまだに未来を奪われた事と仲間を殺されたあのトラウマを乗り越えることが出来ないのだ、たとえ今のシェム・ハにその意思が無くても。

 

(ここで欺いても仕方があるまい?)

(でも……)

(身体を貸せ、我が説示しよう)

(うん…穏便にお願いします……)

 

 響は悩みを勘付かれて観念する。これ以上黙っていても無用に不安にさせるだけだと腹をくくる。

 彼女は肩から力が抜けて、腕がだらりと垂れる。瞼を閉じたかと思ったら次に開いた時には目つきが攻撃的になり、口元が軽薄そうに歪む。

 

「…………ふ」

『……………………』

 

 響のまとう雰囲気がいきなり変わった事に、ブリッジにいた皆が聡く感じ取った。彼女はそんな人を値踏みするような目も嘲笑うような口もしない。

 

「あなたは…あの時の…」

 

 翼は反射的に丁寧な言い回しをしてしまう。

 あの日、神の力を取り込んだ響と同一人物だと気が付いたのだ。

 何故か反射的に自分が相手よりも下だと錯覚してしまうような存在感。

 

「お前だな…あの時エルフナインの意識を引きずり込んで廃人にしようとしたのは…」

「なに、狸寝入りする貴様を起こしたまでだ…」

 

 人一人殺しかねない事をしたというのにあっけからんとした対応。

 最初から脅すだけで傷つける気が無かったのか、傷つけたからと言って何なのかといった考えなのか。

 

「そうだな…こうして肉体を持ち話すというのは気分がやはりいい…空気の味というのは体があってこそ…そう思うだろう錬金術師?…こういう時、人は歌の一つでも口ずさむのであったな…」

 

 シェム・ハは両手を横にぐっと伸ばして肩甲骨のストレッチをして、少し深めの呼吸をし鼻歌を歌いだしそうなテンションで楽しそうに言った。

 弦十郎や装者達は響の雰囲気や態度で既に体を誰かが乗っ取っているのを察した。

実際にキャロルの体を使うエルフナインや調の体を間借りするフィーネの例があるためそこに至るのはさほど難しい事ではなかった。

 

「君はいったい……」

 

 彼女はその質問にその主へと首を向けて答える。

 

「我の名はシェム・ハ。この星の人類が神と仰ぎ見る者だ」

 

 その言葉を聞いた瞬間部屋の隅で待機していた緒川が拳銃の銃口を向ける。

 

「緒川さん!それはっ…!」

 

 拳銃を構える側近に翼は焦った声をあげる。

 その動揺は皆も同じで、あわあわとしているが自分たちがどう行動を取ればいいのか分からないといった感じだ。

 ただ未来だけは緒川の行動を見てキツイ目つきになっていたが。

 

「ふ…」

 

 しかし拳銃を向けられてもシェム・ハは怯えるどころか薄く笑い、むしろ銃口に向かって歩みを進める。そして銃身を手で掴んで銃口を胸に押しつける。撃てるものならば撃ってみろと、そう言外に告げていた。

 既に響の願いである穏便は叶えられそうになかった。

 

「どうする?我を殺すのであれば今おいて他にないぞ?当然この体の主も死ぬがな」

「ッ…くっ」

 

 緒川は牽制で武力を向けたはいいものの、その引き金を引けば当然響は死んでしまう。それはかつて響が未来を人質にされ突きつけられた苦しみ。

 弦十郎はそんな光景を見て指示を出す。

 

「緒川…拳銃を下げろ。現状彼女はこちらに危害を加える気はなさそうだしな」

 

 緒川はそう言われて素直に拳銃を下げて仕舞った。

 その光景を見て彼女は薄く笑う。

 

「賢明であるな、賞賛してやろう」

 

 しかしその瞬間、調が飛び出して響に掴みかかって強引に押し倒してしまう。その強引な行動に切歌は咎める。

 

「調ッ!?何しているデスか!!」

「お前がっ!あの方を!?許さないッ!!!!」

 

 調ではなくフィーネだった。目を血走らせて今にも絞め殺しかねない剣幕だった。

 事前に響が予想していた展開だった。シェム・ハと言われても具体的に被害を受けたわけではないS.O.N.G.の面々と違って、フィーネにとっては愛するエンキを殺された憎き敵なのだ。

 しかしシェム・ハは―

 

「り、了子さん……」

 

 まるで響みたいな表情で苦しげに名前を呼ぶ。

 それを見て頭に上っていた血の熱が冷めてしまう。意識こそ仇の物だがその体は間違いなく響の物なのだ。

 

「なっ…」

「ふん…」

 

 それを見てフィーネは体が震えて首を絞めていた手を緩めてしまう。それはかつて弦十郎に行ったそれ。

 その一瞬を見逃さずにシェム・ハは調の体を突き飛ばす。そして服に着いた汚れを手で落としながら立ち上がり呆然とへたり込む相手を見下ろす。

 

「どうしろというのだ。今更エンキの奴を生き返らせろとでも?出来るはずがないだろう。お前もこれまで理不尽にも愛される者達の命を勝手な一存で奪ったであろう?」

 

 その突き放す一言に誰も何も言えなくなる。相手の開き直りとしか思えない発言だが、それを言うなら目の前にいるフィーネもまた失敗したら体を乗り換えてを繰り返している。

 

「貴様は我を嫌悪しているようだが、いったい我と貴様何が違うと言うのだ、申してみよ」

 

 二人とも人間の体に遺伝子を仕込み他者の体を乗っ取り生き返る。そして人間の体に憑依する中で人の営みに興味を持って今に至る。どちらも似た者同士だった。

 そう言われてフィーネは何も言い返せなくなる。歯噛みして悔しそうにしていたが何を言い返したらいいのか分からない。

 シェム・ハはそれを見て「はぁ…」と溜息を吐く。少しきつく言いすぎたと後悔している。

 

「聞かせてはもらえないだろうか…どうやって響君の中に蘇ったのか…何故神殺しでも消えないのか…あなたは何を目的にしているのかを…」

 

 弦十郎はフィーネの姿を痛々しく思いながらもシェム・ハに質問をする。

 回答次第ではここで戦わなくてはいけない。

 

 相手はそう言われて今日に至るまでに自身が経験した事を話し始めた。




響が適合者になれた理由は諸説あります
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