過去に戻った立花響   作:高町廻ル

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嫌われ者

 風鳴訃堂は自身が暮らしている風鳴本邸の地下に併設された研究室にいた。

 もし響の拉致が上手くいっていればここにある施設で相手の頭をいじくって自身に逆らえない人間兵器にするつもりだった場所だ。

 しかし現に響はS.O.N.G.と合流をして、拉致そのものを担当させるつもりだった翼の洗脳は失敗に終わっている。

 そして何より利用しバックアップをしてきたノーブルレッド達は既にS.O.N.G.に捕まっているため、異端技術から彼を守る私兵はいないのだ。

 勿論アルカノイズはいるもののシンフォギア装者の前では紙同然でしかない。

 しかし訃堂には不安や苛立ちはない。

 

「…………」

 

 じっと見ているのは調整用の機械と横たわるオートスコアラー。

 かの護国の鬼が響を拘束出来なかった際に次善の策として用意した護国のために振るわれる剣だ。

 人形の調整を見守っていた彼のもとに部下からの通信が入る。内容は国連軍や各国の武力が鎌倉に向かって侵攻する構えである事だ。

 それを聞いて訃堂は一瞬ギリッと抑えきれない憤怒をチラリと見せたがすぐさまいつもの超然とした表情へと戻る。

 視線を向けるのは面前で横たわっているオートスコアラー、異国からの侵攻の際にどのような国難であっても国をそして国境を守護する最強の戦力。

 もっともこの海外軍の侵攻は彼のせいであるのだが。

 そこでピーッと何かしらの終わりを告げるアラームが鳴る。

 

「来たか…目覚めよ国を防る剣よ…」

 

 彼がそう言うとオートスコアラーが目を覚ます。事前に人形だという情報を持っていなければ人間と間違えてしまうほどの出来だった。

 上体を起こしてきょろきょろと辺りを見回す。そこは薄暗い部屋で怪しげな機械だらけで不安そうな表情を若干ではあるのだがする。

 視線を巡らせているとそこで訃堂を見つけると目を輝かせてぱあっと表情を明るくする。

 そして飛びついてギュッと抱きしめると、

 

「訃堂おじーちゃんっ!!」

「……………………」

 

 嬉しそうな声で言う。

 訃堂はかなり苛立っていたが何とか堪える。目の前の人形がどのような行動パターンを持っているのかまるで分らないからだ。

 取りあえず人形が自分の言う事を聞くのか、どの程度動けるのか確認に入る。

 

「貴様は防人であるな?」

「私はおじいちゃんの孫だよ?」

「…………」

 

 風鳴訃堂の人生の中でこのような純真無垢なリアクションと怖いもの知らずな不敬な対応をする相手はこれまで会った事が無かった。そのためどうしたらいいのかまるで分らなくなる。

 

 相手のこの行動は、元の製造データはティキから得たものを流用しているためこのような御しやすい幼子のような精神構造をしている。

 しかしおじいちゃん扱いは自身の部下が秘密裏に集め盗んできた錬金技術であるため、恐らく彼の事が嫌いな人間が普段怖がらされてきた意趣返しだと考えられる。

 もっともアダムのパターンように恋乙女のエッセンスが注入されており、恋人ぶろうとしてきたら苛立つなんてレベルではないだろうが。

 ある程度神の力を見せつけて世界と交渉可能になったら部下に何かしらの厳罰が来るのは想像に難くない。もしくはノーブルレッドのヴァネッサがこのクソジジイが!とやった可能性もあるが。

 

「ねぇおじいちゃん」

「…………」

「ねぇってば」

「…………」

「ねえってばぁっ!!」

「……何事だ」

 

 相手から呼ばれて無視をしていたのだが何度も呼びかけられて訃堂は折れてしまう。

 彼から折れると言う選択をひねり出せるのだからかなりの大物なのかもしれない。

 

「そう言えば私の名前は?」

「名前…?…護国の為に防る剣に名など不要だ」

「ぶー…つまんなーいー」

「…………」

「名前を付けてくれないと梃子でも動かーなーいー」

「名前か……」

 

 またも折れたが名前を付けてくれと言われてすぐさま名付けるのは難しい。

 ここで適当に名前を与える事も出来るのだが、意味の籠っていない名前ではまためんどくさいやり取りをしなくてはいけない。そのためある程度真面目なミーニングのある名前は必要だった。

 

「十束」

「何それ?」

「貴様の名だ。儂が欲した防人としての役割を願っておる」

「とつか…うん…十束ね…いい名前だと思う!」

 

 どうやら相手、いや十束は満足したようで再度名前を要求する事はせず何度も与えられたそれを口にしては嬉しそうにしていた。

 そんなやり取りをしていると訃堂の傍にあったモニターに国連連合軍と思われる戦闘機や兵士と思われる人間たちがここ鎌倉に向かって直進してきていた。

 ここで護衛用に生み出したオートスコアラーやアルカノイズをけしかけてもいいのだが、それでは世界に日本の持つ武力、大きな脅威を見せつける事は出来ない。

 訃堂はモニターから視線を外して十束の方を向く。

 

「十束…では貴様の力を誇示してみよ」

「それをすると褒めてくれるの?」

 

 純真無垢な瞳で要求しだす。

 それを聞いて彼の体が一瞬だが固まった。

 

「……解せぬが…仕方あるまい…」

 

 相手の要望に訃堂は分かりやすく不快そうな顔で吞み込んだ。

 否定や拒否をしてへそを曲げたりされたらそれはそれで面倒なのだ。

 特に大きな代償を支払わされるわけではなく、褒めればいいのであれば安いものだった。ただ風鳴訃堂の持つ何かが削れていくが。

 口約束を見て嬉しそうにしたのち。

 

「ほんとッ!じゃあ頑張る!!」

 

 

「司令!風鳴翼ただいま到着しました!」

 

 翼が大きな声でハキハキと告げる。

 その後ろには響達シンフォギア装者達もいる。そしていち早くブリッジに来ていたクリスは彼女たちに視線だけを向けてすぐさま弦十郎の方へと視線を向けなおす。

 弦十郎はうむと首を縦に振って全員の顔を確認できたことを確かめる。

 

「よし全員集まったな。では友里頼む」

「はい司令」

 

 友里が手元のコンソールを操作して前方の巨大モニターに表示したのは航空機や武装車両の映像だった。

 ここにいた装者達は最初何を伝えたかったのか分からなかったが、いち早くそれに気が付いたのは未来だった。いや厳密には皆が気が付いていたが、声を出せたのが彼女だった。

 

「まさか…日本への武力介入が…可決されたんですか……」

 

 そう映像は日本国土に上陸した国連や各国の軍隊や部隊だった。

 鎌倉への介入の為に選りすぐりの職業軍人たちが鎌倉は危険思想を持ったテロリストと断じて武力を使っての殲滅活動を決定したのだ。

 そして思い出されるのは米国の勝手な行動であわや日本国土に対して反応兵器が撒き散らされる寸前になった事だ。あの時はシェム・ハの力で被害を抑えることが出来たが、次も同じように回避できる保証など無い。

 ブリッジにいた皆の考えを察したのか、既に通信が繋がっていた八紘が答えた。

 

『反応兵器については安心してもらっていい。丁度良くこちらにも交渉のカードを持っていてな、もう二度と撃たせるような真似はさせんよ。ただ米国の武装介入自体は止められなかったが……』

「ほんっとに兄貴は恐ろしい……」

 

 弦十郎は八紘が平然と一国を脅した事を苦笑いで受け止めた。超人的な身体能力こそ持っていないが彼もまた普通ではない。

 翼は武力介入と聞いてふと気になった事を質問する。

 

「お父様…鎌倉付近の住人の避難は……」

『そちらは任せてくれ、現在進行形で行っている。もうしばらくすれば完了する』

 

 八紘はその質問に当然といった感じで返す。

 血を分けた父親と違って彼らが守るべきなのは人なのだ。国を守るのはあくまでそのくくりの中にいる人達を守る秩序を作るために過ぎない。

 そのようなやり取りをしていると藤尭がモニターを見て得た情報を報告をする。

 

「司令!」

「どうした藤尭」

「鎌倉から高エネルギー反応を確認!」

 

 彼がそう言うと前方モニターに表示されたのは響達が見たオートスコアラーが。

 あの時の停止状態とは違い、瞳や表情に理知的なものが含まれている。明らかに起動している。国連達が自分たちの保身や複雑な手順を踏もうとしている内に相手側に戦力を整えさせる時間を与えてしまったのだ。

 

「う、動いてる……」

 

 響は呆然と言った感じて呟く。

 それはあまりにも間抜けな発言だったのだが誰もそれを咎めたりバカにしたりしない。

 皆が直感で感じているのだ。あの自動人形がこれから蹂躙劇を起こすと。

 

「おいこれって不味いんじゃないのか!?」

「今すぐ撤退させるのよ!!」

 

 クリスとマリアはいち早く立ち直ったがS.O.N.G.の忠告を真面目に聞く様な連中であるならば最初から行動を制限しようとしたりはしない。

 

 十束の立っていた場所に航空機と装甲車からの容赦ない爆撃が降り注ぐ。

 轟音が炸裂してS.O.N.G.のモニターが一瞬で真っ白な閃光に包まれる。

 

『ッ!?』

 

 その眩しさに装者たち全員がその光の眩しさに目をつぶるか、視線を逸らして耐えるしかなかった。

 攻撃が止んで光が抑えられてきたと思い皆がモニターを慌てて確認をした。しかしそこには先ほどまでの自然は全て剥げて消失して一瞬で地球が長年かけて培ってきた自然達は跡形もなくなっていた。

 皆は呆然としていたがすぐさま気を取り直す。

 

「敵はどこに消えたデスか!?」

「まさか…あの攻撃で…破壊できたとは……」

 

 切歌と調は思った事をストレートに口にする。

 実際に相対したからこそ知っているのだ。神の力や異端技術があの程度の攻撃で倒し切れるはずがないのだと。

 弦十郎もまた同じ思考に行きついて部下に指示を出す。

 

「藤尭、友里!敵オートスコアラーの確認を急ぐんだ!」

 

 二人やそのほかのバックアップスタッフは急いで手元のモニターやコンソールを操作して十束の現状確認を急いでいく。

 必死の操作の後、藤尭が慌てて映像を前方の巨大モニターに映す。

 そこには航空機の上に乗っかている十束の姿が。あの一瞬でマッハを超える速度で飛んで行く戦闘機に取り付いて見せたのだ。

 

『う~ん…おじいちゃんに堕とせって言われたし堕としますか…』

『ひっひ、ひいいっっ…!』

 

 余りにも異常な現象に航空機のパイロットは恐怖で震えて掠れた悲鳴を上げた。

聞いていないのだ、あくまでも自分は地上と違って爆弾だけ落としたらすぐさま戦場空域から逃げられるものだと思っていた。

 十束はにこりと笑うと操縦席とガラスを思いっきり叩き割って、操縦用のハンドルを無理矢理握って思いっきり右方向に旋回させる。そして他の航空機に無理矢理ぶつけて二機をまとめて破壊する。

 

 自身の体を空に縫い付けていた航空機を堕とした事で地球の重力に引っ張られる形で砲弾じみた速度で地面に挨拶しに行く。

 バケモノ染みたスピードで戦闘車両を貫いて着地をする。そして先ほどの一撃でスクラップにした車体を持ち上げると他の車両に投げつけて破壊。

 十束は腕を構えるとそこに白色の力が固着していく。それは巨大な手の形を取る。

 敵車両にそれをグッと向けると、装甲からエネルギーを噴射してまるでロケットパンチのように射出し辺り一帯を蹂躙していく。

 

 それ以降は一方的な蹂躙劇をまざまざと見せつけられた。

 軍隊はただただ倒されるか必死に逃げる以外なかった。

 

 

「これ以上は国連や各国の指示など聞いていられない」

 

 弦十郎はこれ以上は手をこまねいていられないとハッキリと言い切った。

 その発言に皆が首を縦に振る。もう既に人間が作った兵器では対抗しきれないと。

 

 弦十郎は少しだけ硬さのある立ち振る舞いで発言する。

 

「……翼…お前はあのオートスコアラーを破壊するんだ…いいな?」

「……はい…」

 

 弦十郎からの指示に翼は違和感と不満が隠しきれないといった感じで返した。

 指示自体におかしなものは存在しない。オートスコアラーやアルカノイズ達は基本的にシンフォギアや錬金術でないと対抗できないため自分が正面に立って戦う事に違和感はない。

 しかし戦っている内に自身が何が何でも討たなければならない風鳴訃堂が逃げるなり、拘束が決まって手を出せなくなってしまってはいけないのだ。

 これから先、第二第三の響のような人物を生み出さないためにも確実に風鳴訃堂のような人間を抹殺しなければいけない。

 それだけが見て見ぬふりをしてのうのうと生きてきた自分の償いだった。

 

 響は復讐や敵討ちを口に出来る性格ではない。

 しかし黙っている事が必ずしも納得している事とイコールの関係では無い。この程度の事はその手に疎い翼でも分かっていた。

 

 マリアはその翼の葛藤を俊敏に察した。前にトレーニングルームでその手の悩みや苦しみを漏らして苦しそうにしていた翼を見たからだ。

 

「翼……」

「いや指示におかしなところはない。分かりました」

 

 マリアが自身の内情を察したのを感じて振り切るような口調で突き放した。

 お前が心配する事ではないと。

 マリアはそう突き放されて何も言えなくなってしまう。

 

「えっと…弦十郎さんが……」

 

 響は不安そうな表情で相手に問いかける。

 当時は謹慎処分を下されていたため聞いた話でしかないのだが。

 未成年云々と綺麗事を語って装者達全員を連れて行かなかった事と、そして彼が実の父親である訃堂を討ち取る直前で手心を加えてしまった。

 その為にノーブルレッド達が風鳴本邸に入る隙を与えてシェム・ハの完全復活の隙を与えた事実を。

 響は完全に未来を失ってしまったそれを。

 思ってしまうのだ、また同じような失敗を繰り返してしまうのではないのかと。

 

「…響君が…俺の言う事を信じられないのは分かる…ただ今回だけは間違えないつもりだ…間違えた身分、言葉で信じてくれとは言わない……行動で証明する…だから風鳴訃堂の件は託してくれないか……」

「…………はい」

 

 響は弦十郎の発言にそれはかとない不安を感じたが託すことにした。

 弦十郎は辺りを見回す。

 

「それでだが……」

 

 あくまで人間である彼ではアルカノイズを倒す事は不可能。誰かが護衛または援護に入らないといけない。

 前の世界ではマリア一人だけを連れていたため明らかに戦力不足だった。先ほどの発言を証明するにはある程度十分な戦力を引き連れる非情な決断をしなければいけないのだが。

 敵は訃堂だけでなく謎の多きオートスコアラーやアルカノイズ達が控えている。余り戦力を分散させられないのも事実だった。

 響は確実に神の力に当たらないといけない。神の力の討伐が最優先事項。

 そこでエルフナインが手を挙げた。

 

「あの…ボク…じゃなくてキャロルが……」

「ああ、オレが行けばいいだろう」

 

 瞬時に主人格を切り替えて会話を繋ぐ二人。

 鎌倉にある風鳴本邸のアルカノイズや警護用のオートスコアラーの討滅は彼女が受け持てば十分だった。

間違っても敗北するビジョンが浮かばない。

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