過去に戻った立花響   作:高町廻ル

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覚悟

 現在装者達はヘリを使って鎌倉付近まで移動をしていた。

 向かっているのは鎌倉の風鳴本邸とチフォ―ジュシャトー方面だ、二つはそこまで離れた距離にあるわけではない。

 響はシェム・ハの存在を自覚した日からある程度は神の力の位置を察知できるためどちらに向かえば例のオートスコアラーがいるのか特定することが出来た。

 その情報をもとに索敵した結果、オートスコアラーはチフォ―ジュシャトー方面にいる事がおおよそではあるのだが把握することが出来ていた。

 装者達はチフォ―ジュシャトー。弦十郎たちは風鳴本邸に向かう事になった。

 

(憂慮しているようだな?)

(あ、当たり前だよ……)

 

 シェム・ハが心の中で遠慮や思慮を一切感じない問いかけに響はどう返したらいいのかといった反応を示してしまう。

 

 その場にいる全員の空気は重い。

 敵オートスコアラーの強さの底に持っているギミック、そして全体数のおおよそが把握できていない不安。それらが装者達の口を重くしている。

 戦力だけを見ればフィーネにキャロル、そして装者の中では最強と言っても過言ではない未来がこの世界にはいる。

 それに今回は特に人質を取られているわけでは無いのだがそれでも不安は不安なのだ。

 

「響そんなに身を固くしないで、いざって時は私が何とかするから」

「未来……」

 

 未来は緊張の面持ちの響を見て努めて励まそうとする。

 響は声をかけられて少しだけは眉から険が取れる。

 彼女は前の世界ではここから転げ落ちて行った。二度も世界をやり直せる保証はない。もう残機は一機かもしれないのだ、既に負ける事は許されない。

 切歌も暗い様子の響を励まさんとする。

 

「そうデスよ響さん!未来さん前よりも強くなってるデス!お任せあれデス!!」

「カッコ悪いよ切ちゃん……」

「いやお前じゃねーのかよ……」

 

 調とクリスは他人任せすぎる切歌の発言にジト目でツッコむ。

 そのやり取りに少しだけヘリ内の雰囲気が柔らかくなる。

 ちょっとしたやり取りだが、こうして装者全員で話せる事がいかに幸せであるかは、一度は引き裂かれたからこそよりそのありがたさと重みを皆が感じていた。

 

「…………」

 

 ただし翼を除いては。

 決して空気を読んでいない訳では無い、日常のありがたさが理解出来ないわけでも無い。

 ただ弦十郎が実の親を討ち取る決断をするとはとても思えないのだ。下手に生かしたり手心を加えるであろうことは想像に難くない。

 その事ばかりが脳内を占領してしまいどうしても上を向くことが出来ない。

 いつの間にかどうすれば風鳴機関を止められるかではなく、どのようにして殺すかという事ばかり考えている。

 

「翼ッいい加減にしなさい!」

 

 マリアはここに来てついに怒鳴ってしまった。

 その大声に皆が反射的に彼女の方向を向いた。

 その取り乱しっぷりに対して最初に反応したのは未来だった。何事かと質問をする。

 

「どうしたのマリア?」

 

 質問された相手は未来の言葉が耳に入らなかったわけでは無かったが、声をかけられた方は向かずに翼を睨みつけるように見ている。

 

 マリアはそこで翼の悩みを暴露しようとしたのだがそこでヘリが大きく揺れた。

 

「なにっ!?」

 

 響は短い悲鳴交じりの声で現状確認を走ろうとする。

 外部から攻撃を食らっていてヘリに当たっているのだ。外を見ると何やら光線が放たれているのが見えた。

 

「…………」

 

 未来は険しい顔でそれを見ていた。

 彼女の経験則が正しければその一撃は決してあってはならないものだ。

 

「おい!とにかく降りるぞ!!」

 

 クリスの声に皆がシンフォギアをまとってヘリの外に脱出する。

 響が外に出ると敵の攻撃が彼女をピンポイントで狙ってきた。

 

「へ…?」

 

 その攻撃に心当たりがありすぎて呆然としてしまう。

 あり得ないのだ、それを扱えるのは世界でただ一人だけだからだ。

 未来は空中で体勢制御の出来ない響を見て素早く相手の体を掴んで躱して見せる。飛ぶのは神獣鏡の専売特許だ。

 

「あ、ありがとう未来…」

「…………」

 

 響の感謝の言葉にも助けてくれた相手は大きな反応は見せずに険しい表情を続ける。

 皆が着地をして攻撃の放たれていた地点である場所を見ると、全身が紫色になっているマネキンのような人形がいた。その相手がヘリを撃ち落とさんとして攻撃を加えてきた相手だ。

 

『アウフヴァッヘン波形を確認!…これは…神獣鏡です!』

「何ですって!?」

 

 通信越しに藤尭の報告が入る。

 マリアは驚いた声を返す。その報告に彼女は未来の方を見るがそれを伝えたわけでは無いだろう。

 神獣鏡は未来が持つ物一つしかないはずなのに。考えられるなら押収された神獣鏡の素材を使って何かしらの細工を施したのか。

 風鳴訃堂は神殺し対策の一つに神獣鏡を持ち出してきた。それどころかシンフォギアをここで潰すつもりだ。

 

「なるほど……」

 

 未来は得心が行ったという感じで口にする。

 それに目ざとく気が付いた響が相手に質問をする。装者達全員が未来の方へ向く。

 

「未来…あれは……」

「ずっと気になっていたことがあったんだよ…」

 

 未来は極力落ち着いた口調で話し始める。

 

「フロンティア事変が終結した後…F.I.S.のエアキャリアが押収された際に…ステルスの為に用意されていたもう一つの神獣鏡のギアペンダントが紛失したんだよ…確かにエアキャリア自体も載せていた資材の大半も破損や紛失をした…」

 

 彼女は敵から視線を外さず警戒を解かずに話を続ける。

 皆は一語一句聞き逃さないように気を張っている。

 

「あのオートスコアラーにはスペアの神獣鏡のギアペンダントが内蔵されている」

 

 よく観察すると顔の部分に結晶があり、そこには見覚えのある物体が。

 

 かつてF.I.S.がナスターシャという指導者を失い、ウェル博士の逮捕が重なり事実上の壊滅を迎えた。

その際に組織が持っていたデータや道具は全て国連や風鳴機関が押収、管理する事になった。

 未来はそのデータを拘置所内で受け取った際に自身の破損した神獣鏡のギアペンダントとは違う、もう一つのエアキャリアに内蔵されたスペアのギアペンダントは発見されていないと報告を受けた。

 もちろんあの小さなアイテムは海に落ちれば紛失するのはあり得なくない話ではあるためそこで騒ぐような話ではなかった。

 無くなった、だからこそシンフォギアを自作しようとしたのだ。

 

 しかし風鳴機関が秘密裏に聖遺物を流していたり、データを盗みそして使って秘密裏に活動した可能性があると分かった時からこのシチュエーションは想定の範囲内だった。

 つまり相手は神獣鏡のギアペンダントをくすねていたという事だ。

 

「皆…あれは私が受け持つ…だから先に行って」

「何言ってんだ!全員でやればいいだろっ」

 

 未来の一言に異を唱えたのはクリスだった。

 それは皆も同じようでここから離脱する気はなさそうだった。それを見て未来は少しだけ溜息をついた。正直なところ呆れている。

 相手がずっと話すのを待ってくれるはずもなく、目から容赦なく光線を放ってくる。皆は反射的に防御姿勢を取ろうとするのだがそれは悪手。防御の上から貫通されてしまう。

 

 ただしそれは小日向未来を除いてだが。

 

 未来は光線の真正面に立つと緩慢な姿勢で右の掌をスッと向けると光線を真正面から受け止めて見せる。

 

「未来!?」

 

 光線をアームドギアではなくそのままで受け止めたのを見てマリアが驚愕の悲鳴を上げる。

 しかし一向に未来が祓う光線に貫かれない。光線を受け止めて見せていた。

 

「……?…これは一体どういう事だ…?」

 

 翼はその光景を見て訝しげな声を。

 神獣鏡は異端技術が関わる以上はどんなものでも消滅させる。勿論消滅能力に上限はあるが少なくともシンフォギアが無傷というのはあり得ない。

 

 よく見ると未来の右の掌の先には小さな両面鏡が設置されていた。

 光線はあくまで光。それならば鏡を使って弾いたり、拡散させるのは難しくない。自分や周りに流れ弾が行かないようにする気遣いも入っている。

 未来は光線攻撃を無効化できる。かつて何度も自身の力を解析して来た彼女なら対処するのは難しくはない。

 

「ここで全員で掛かれば倒すのは難しくない…だけど万が一でも攻撃を受ければアウト…私達がここに来たのは例のオートスコアラーを倒す事…だから早く行って」

 

 未来は再度お願いをする。

 ここで感情的になって皆で戦うよりは、理性的にいち早く響を神の力の前まで連れて行って本命を討ち取るのが先決だ。未来はそうしろと言っている。

 

「行きましょう」

 

 皆が逡巡する中でマリアがそう切り出した。

 全員がその一言に驚いた顔こそしたが、切り出された事で立ち直り響以外の全員がそれに頷いた。

 

「み、未来……そ、そうだ私がバーニングエクスドライブを使えば……」

「ダメよ。あれは何度も多様は出来ない無理筋の力、使うなら神の力を相手にした時だけ」

 

 ただ響だけはその場から足を動かせなかった。まるで駄々をこねるかのように口だけを開く。

 フィーネはそれを聞いて即座に否定をする。激しく心臓を動かす特殊なフォニックゲイン発生方法は体に過度な負担を強いるため多用は禁物。

 未来はいまだに動く気配のない響を見て少しだけ考え込んだのち口を開く。

 

「…………じゃあ…敵を倒すのが響の罪滅ぼしって事で」

 

 彼女は視線だけを相手に向けてそう言った。

 そう言われて苦渋の表情の後、目をつむって何かを少しだけ考えてから目を開く。そこにあったのは悩みを振り切った瞳だった。

 

「…………分かった。未来も早く倒して追いついてね……」

 

 装者達はその言葉を切っ掛けにチフォ―ジュシャトーに向かって走っていく。

 敵は離れていく響を見逃す事はしない。そもそも神殺しを抹消するために用意されているのだから。

 顔に内蔵されている結晶から光線を放とうとする。

 

「させないよ」

 

 未来がそれを許すはずもなく光線に光線をぶつけて軌道を逸らしてみせた。

 流れ弾が飛ばないように計算された一撃。

 

(未来ッ!)

 

 背後で紫の光が炸裂しているのを感じて振り返りたくなるが意志力を振り絞って顔を進むべき前方に固定する。

 振り返る事を未来は望んでいない。

 

 

「よし…装者達が戦っているからか…戦力を建物内に集中させているのか…こちらは手薄のようだな……」

 

 弦十郎は己の父の居城である家の正門に着いていた。

 響の記憶通りに来るまでの道すがらに敵は配置されていなかった。しかし建物内にはオートスコアラーなりアルカノイズが今か今かと待ち伏せしているのだ。

 

「まぁ…本番はこれからだがな…」

 

 明らかに目つきが好戦的な釣り目なエルフナイン、いやキャロル。

 いつでもダウルダブラを装着する準備は出来ている。

 そして何よりもその目は弦十郎に「分かっているよな?」と告げていた。そう、実の父親を裁くことを躊躇うなと。

 弦十郎はその視線を受けて少しだけ陰ってしまう。だがその不安を押し殺すかのように瞳が強い光を取り戻す。

 

「兄貴…こちらは用意できている」

『ああ、ではその端末をかざしてくれ』

 

 弦十郎からの報告に八紘はそう返す。

 八紘には予め待機してもらうように言っている。

 既に大きく世界は変わってしまったとはいえ何を切っ掛けに銃弾が撃ち込まれるのか分からなかったため、自衛能力が皆無に近い彼には居残ってもらっていた。

 

『分かっているとは思うがこの強行は国連や各国の承認を受けていない。横やりが入る前に速やかに風鳴訃堂の拘束または逮捕を行ってくれ』

「……ああ…分かっている」

 

 八紘からの指示に弦十郎は力なく返答した。

 彼は言われたとおりに端末をかざすと正門が開錠されてドアが開く。

 この瞬間を待ってましたと言わんばかりにアルカノイズ達が白く発光している解剖器官を伸ばしてくる。

 しかしキャロルは素早くファウストローブをまとうと弦を伸ばして瞬時に切り刻んでいく。死者を一人も出させはしない。

 

「早くしろ!オレの力は時限式だ!!」

 

 キャロルのその発言に弦十郎に緒川、そして部下たちは素早く邸宅内に侵入して元凶である老人を探していく。

 玄関、居間、客室を調べていく。そしてたどり着いたのは訃堂の私室である部屋。

 部下たちが拳銃を片手に部屋に押し入るのだが、薄暗い部屋の奥、そこには齢にして百年を超えているとは思えない存在感を放つ老人がいた。

 その強烈な視線に睨まれ銃という圧倒的なアドバンテージを持っているはずなのに威圧感に射すくめられてしまう。

 そんな震えている部下の黒服たちの背後から弦十郎が現れる。肩をポンと叩いて下がって良いと意思を伝える。そしてズカズカと部屋へと入っていき相手の前に立ちふさがる。

 弦十郎のそんな態度を見て訃堂も刀を片手にその場から立ち上がって真正面から向き合う。その立ち姿には薄くだが怒りのオーラとも言える何かをまとっている。常人であれば耐え切れないほどのプレッシャー。

 

「国連の犬となり下がった親不孝者め!何のつもりで転び出た!」

「…………」

 

 訃堂は憤怒に満ちた表情で弦十郎に怒りをぶつける。

 しかし弦十郎は憐れむような視線を向けるのみで言葉をかわそうとはしない。

 すると彼はグッと踏み込んだかと思うと思いっきり相手の胸に向かって手刀を突き付けて対象を絶命させようとする。

 

「ムッ!」

 

 相手は一切躊躇のない一撃に驚きとっさに横に飛んで避けて見せた。

 彼の中では風鳴弦十郎という男はどんなに有利で致し方ない状況でも決して人を傷つける事を良しとしない。無血で事を成そうとする夢想に溺れる愚か者という評価を下していた。

 しかし先ほどの一撃は全身、そして指先から一切合切躊躇を感じない。そして表情には確固たる覚悟があった。

 嘘偽りなく実の父親を確実に殺す気で攻撃を放ったという事だ。

 その殺気に驚き、本能で危険だと察し受けるのではなく避けたのだ。

 

「貴様……」

 

 訃堂は実の親に手を出す親不孝者に対する怒りと事前に知っていたパーソナリティから逸脱する行為をする息子への困惑を感じていた。

 弦十郎はここに来て初めて相手に言葉をぶつける。今までの彼からは信じられないほど冷たい声色で。

 

「もうアンタを親とは思わん。これから先の未来に生きる子供たちの為にも歪んだ防人の思想はここで根絶やしにする」

 

 彼の脳裏には響と翼が苦しむ姿がありありと浮かんでいた。

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