実は原作ではジードから救った後、リンは村に残っているのでシン編ではケンシロウ達と行動を共にしてないんですね。
なので今作品でもリンはジードに襲われた村でまだ生活しています。
side ケンシロウ
「あの時からどれ程経ったか覚えているか?」
「……一年以上は過ぎている」
バットに適当に時間を潰してくれと言ってあの建物から離れ、練兵場と書かれた場所に一緒に来たシンの言葉にそう答えた。
そう、一年以上前だ……ユリアを奪われたあの日……俺の胸に七つの傷をつけ、そしてユリアに残酷な選択を迫ったあの日は。
「あれから俺はユリアの心を得ようとあらゆる手を尽くし、ユリアの為だけの町を作ろうとした。そうすればユリアは俺の愛の大きさを知り、その心を俺に向けてくれるだろうと思ってな」
そうなる前に俺は敗れたんだがな……そう話すシンは何か大切なものを失った目をしていた。
まさか……
「シン……ユリアは一体何処にいる?」
「フッ……ユリアは死んではおらん。ユリアは安全な所に匿われている」
「匿われているだと?」
「ああ…ケンシロウよ、俺は最も早くお前達を見つけ、ユリアを拐ったがな。お前の身内にもユリアに心引かれていた者がいたはずだ」
「それがユリアが匿われている事と何の関係がある!?」
どこか遠回しなシンの言葉に俺の心にさざ波が立つが、それすらシンは見通したかの様な静かな声で告げてきた。
「知らないのか?暴力が支配するこの世でお前の兄達は拳を封印されず生きていることを」
「なっ……あのラオウにトキ、そしてジャギまでもが?」
師は一子相伝の掟に背いたというのか?
「リュウケンが死んだ後、お前は兄達に会っていないだろうが、拳の封印はされていない事は確認しているし、三人とも消息がわかっている。長兄は拳王と名乗り、そして残りの兄達二人はこの街にいるがな」
「そんな……ではここにはトキとジャギがいるのか?」
「ああ、特にジャギを見たらお前も驚くだろうな」
フフフと笑うシンに俺は頭の中が混乱していた。
シンはこんなに穏やかに笑う奴だったか?そして話を聞くにあのジャギまでも昔と大きく変化したと言っている。
「ケンシロウよ、お前がユリアを欲するならばお前はあのラオウを倒さねばならん。あの男はまさしく乱世を統べる暴王の資格あるものだ。既に拳王軍という組織を作り上げ、この世に覇を唱えようとする奴がユリアを求める事を止めねば、ユリアはお前の手の中で屍を晒すことになる」
「……ならばシンよ、お前はユリアを諦めたというのか?」
シンは穏やかな顔で笑った
「俺は殉星の男だ、愛に生きるがゆえに狂ったが、今はここで敗れ、日々をここで過ごす内に気づいたのだ。愛した女が心健やかで過ごす事こそが何よりも素晴らしい事なのではないかと。生きてさえいればいいなど烏滸がましい!俺はユリアの顔に絶望しか産み出せないならば、潔く身を引こう……そう決意しただけだ」
そういうシンの顔は悲しみと、どこか透明で触れがたいものが混ざりあっていた。
「…………そうか、お前はそう決意したんだな」
変わったなシン……。
どこかしんみりとした空気が漂うなか。
「だがなケンシロウ……」
シンは
それは南斗の構えではなかった、ただただ純粋に拳を叩きつけ合う強い意思を俺は感じ取った。
「俺は好いた女が自分より弱い男に連れていかれるのは我慢ならん!」
その言葉と共に俺に対する奴の闘気が膨れ上がっていく。
「同じ女を愛したのだ!このまま俺が身を引くより己が拳で納得させるのも一興だろう?」
この闘気……あの時よりも遥かに!
「俺を追いかけてきたその執念……ここで俺に全て見せ、俺にユリアを諦めさせた事を後悔させぬ証を立ててみろ!」
「……ならば北斗神拳伝承者ではない、ユリアを愛する一人の男として……俺はお前を納得させて見せる!」
俺もただ両の拳を握り込み、友にその意思を表した。
そして俺とシンはどこか顔に笑みを浮かべ
「はあああああああ!」
「おおおおおおおお!」
渾身の力でお互いの顔目掛けて拳を叩きつけたのだった。
この二人をスッキリさせるベストな方法がこれしか思い浮かばなかったんです。