だから俺は救世主じゃねえって   作:ガウチョ

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この話では一部キャラの性格改編が起きています。

暖かい目で見てやってください


嵐の前の夜

ここは牢獄の街カサンドラから車で二時間ほどの荒野。

 

カサンドラの嵐に参加する人間は四百人程……彼らは予めダムの街から先に出発した補給部隊と合流しつつ、物資をカサンドラに向かう途中の村や街に貯蔵し、それを消費しながら進むこと三日で目と鼻の先のところまでやって来ていた。

 

 

「明日は激戦になる。全員英気を養って明日に備えてください!」

 

 

補給部隊の隊長と呼ばれるその壮年の男性は、そう叫びながら他の百人ほどの補給部隊の人達と三百人はいる攻略部隊の腹を満たすために炊き出しを指揮していく。

 

 

「凄い光景だな……しかもこの人数を何一つ略奪せずに維持してここまで来るなんて、あの町の代表って奴は噂通りの人物だよ」

 

 

ケンシロウは道中一緒のトラックに乗っていた男達と攻略部隊から少し離れた場所で焚き火を囲み食事をしていた。自分達のグループは潜入ルートが違う為だ。

 

レイと名乗った彼は今回のトキの救出に参加する精鋭の1人で、南斗水鳥拳の使い手だそうだ。

 

他にも何人か耳にした流派の者がおり、カサンドラの嵐の攻略部隊の隊長はかつてケンシロウにとって命を救ってもらった南斗の男だった。

 

 

「それにあの【バンダナのジャギ】や【銃撃のブルー】までその男の救出作戦に参加させるとは……随分とあの代表が入れ込んでいるが何者なんだろうな、助けようとしているトキという男は」

 

 

レイはそう言いながら炊き出しのご飯を食べていく。

 

彼自身はその実力を知った代表が探していた人物の1人らしく、結婚した妹と両親の安住の地を求め、妹夫婦と両親の移住を条件にダムの町からの協力を承諾して参加したとケンシロウは聞いていた。

 

 

「その人は俺とジャギの血の繋がらない兄でな……今でも俺はあの人程の人格者は……1人しか知らん」

 

「全く難儀なもんだぜ。コイツとコイツの恋人を助けるために核シェルターに入らずに自分は死の灰を浴びるほどのお人好しなんだあの兄者は……補給部隊から俺らにってよ」

 

 

ケンシロウ達のグループにやってきたジャギはそう言って炊き出しの人達から酒を貰ってきたらしく、レイに酒を注いだコップを渡していた。ケンシロウには自分で注げと塩対応だったが。

 

 

「酒まであるとは……だが話を聞くにそれではもう長くないのでは?」

 

「だから今回のこの人数よ。代表は入念に戦力の準備をしていたんだぜ?」

 

 

酒を一杯だけ飲んだジャギは飯を食らうとギラついた目でケンシロウを見た。

 

 

「いいかケンシロウ、俺はお前を認めてねえ……が、俺がここで気に食わねえとお前を殺るわけにはいかねえ。曲がりなりにもここではチームだからな……だからお前は俺に背中を見せるなよぉ?弾みでお前をぶっ殺しても知らねえからな!」

 

 

俺はもう寝る!とジャギは言い捨てて寝袋に入っていくのをレイは溜め息と共に見送った。

 

 

「毎度毎度よくもまあ飽きずに悪態がつけるものだ。ケンシロウも何故言い返さない?」

 

 

ケンシロウはジャギが置いていった酒を、自分で注いで飲むとポツポツと話し始めた。

 

 

「町に来る前のジャギと俺の関係は最悪を一歩超えた先にあった。俺の流派は一子相伝ゆえにジャギが俺を殺そうとし、俺が返り討ちにしたが止めは刺さなかった。その時にかけた技でジャギが長く苦しむのを解っていながらジャギを見逃したのだ」

 

 

レイはその話に苦い顔になる。

 

 

「拳法家という者の宿業だな……誰が技を継ぐのか……難しい問題だ」

 

「結局ジャギはあの代表にどういう手を使われたのか俺の技を解いてもらい、こうして殺しかけた俺と一緒に行動している……代表の頼みだから仕方ないと文句を言いながらな」

 

「フッ、狂犬も命を助けた主人には懐くということか……ならばお前はいいのか?あの男はお前が背中を見せた時、本当に殺しにかかるかもしれんぞ?」

 

「その時が本当に来たなら、俺はジャギと雌雄を決することになるだろうが……」

 

 

そんな事にはならないだろうとケンシロウは思った。

 

ここに来るときに見た、ジャギとお揃いのバンダナを巻く彼女がジャギを見捨てない限り。

 

 

「人は変われる……それがいかなる理由でも、人は変わっていけると俺は思っている」

 

 

そう言ってケンシロウは焚き火を見つめて静かになった。

 

 

「随分と此方は静かなんですね、やっぱり皆さん手練れそうだから落ち着いてるのかしら?」

 

 

暫くすると補給部隊の炊き出しの所から一目で美しいとわかる美女がやって来た。

 

 

「陰気な面子ばかりでね、貴方が来ると場が華やかになって俺も随分と呼吸が楽になるよ」

 

「あら、お上手」

 

 

補給部隊隊長の娘だという彼女は道中もこうして周りの人に声をかけながら皆の体調を気にしていたし、ケンシロウもどこかユリアと似てる彼女に心を開いていると自覚していた。

 

 

「でもアイリさんからくれぐれも兄には気をつけてと言われてますから……」

 

 

だから一杯だけ注いであげますと酒を勧められたレイは上機嫌で酒を貰うと

 

 

「アイリめ……しかしマミヤ、この酒は大分上物のようだが大丈夫なのか?」

 

「ええ、あの時ジャギさん達が来てくれなければ私達家族は最悪の結末を迎えていたでしょうから」

 

 

補給部隊長の娘であるマミヤ。

 

原作ではユダに両親を殺された彼女だが、この世界では両親がマミヤの二十歳の誕生日の時に合わせてご馳走としてダムの町が村だった頃に飼育していた鶏と卵を交易品として運んでもらっていたのだ。

 

そして娘の誕生日に奮発したなと代表が美人で評判の娘の名前を聞いたとき、マミヤってあのマミヤじゃねえかと気が付いて、代表はちょっと過剰な戦力を誕生日の当日に送った結果。

 

 

「あのユダ達が私を拐いに攻めてきたとき、両親がダムの町が村だった頃に私の為に交易品を求めなかったらどうなっていたか…だからこれぐらいは感謝させて下さい」

 

「風の噂で聞いたよ、あのユダが女を拐いに行って返り討ちにあったって。その時の傷が癒えるまで随分とあいつは人目に出ずに荒れていたと聞いたが……君の所で起きたことだったのか?」

 

「ええ、私は本当に幸運だったんです。ジャギさん達が来なければ私の体は汚れに汚れていたでしょうから」

 

「同じ流派の流れを組む技を受け継いだ者としては耳の痛い話だがな。マミヤほどのいい女を汚されなかったことを俺も感謝しないとな」

 

「ふふふ……本当に口がお上手ですこと」

 

 

マミヤはそう笑って補給部隊の所に戻っていった。

 

 

「何か言いたいことでもあるのかケンシロウ」

 

「……すまんな陰気な面子で」

 

 

焚き火を見ていたケンシロウと目があったレイにケンシロウは少し笑いながら毒づいた。

 

 

「あれは言葉のあやさケンシロウ。こんな世界になる前ですらあんないい女お目にかかった事がなくてね……お前は随分と余裕そうだが相手でもいるのか?」

 

「……ああ、あまりに美しくて安全な場所に匿うくらいのがな」

 

「何だよそうだったのか!というとそこで寝てる奴はどうなんだ?」

 

 

レイは向こうで寝てるジャギを指差す。

 

 

「ジャギにはアンナという女性がいる……揃いのバンダナを巻いているから町に戻ればすぐ見つかるさ」

 

「……まさかここで独り身が俺だけとはね……何だか急に酒が飲みたくなったよ」

 

 

レイはもう一杯酒を飲むと寝床に向かっていき、ケンシロウも焚き火の処理をすると寝るために寝床に向かうのであった。




北斗の拳で恋バナする奴等を書きたかったんです
(´・ω・`)


ケンシロウは酒を飲むことに変更しました。

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