だから俺は救世主じゃねえって   作:ガウチョ

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細かい原作改編があります。ご了承下さい。


嵐の目の闇の中で

「バレてはねえようだな……」

 

 

シュウ達が派手に暴れている頃、ケンシロウ、ジャギ、レイは協力者によってカサンドラの城壁の端に作られた穴から侵入していた。

 

 

「しかしカサンドラ内部に協力者をどうやって入れたんだろうな?」

 

 

レイの言葉にジャギはチッチッチと指を振る。

 

 

「協力者を入れたんじゃねえ、寝返らせたんだよ。むこう一年の食料と水にガソリン、ピカピカの乗り物とダムの町に作られる集合住宅の永住権と仕事の斡旋……こんな掃き溜めに暮らす奴等にはどれ一つとっても黄金よりも貴重な品々だ……捨てるには勿体ない誘いさ」

 

 

粗野な態度とは裏腹に警戒する猫の様に音をたてずに通路を進むジャギの話に同じく慎重に進むレイはニヤリと笑う。

 

 

「あの街ならではの方法と言えるな」

 

「一昔前なら金で解決したんだろうが……あの代表はそいつが今一番欲しがっている物を容易く用意できるって強みがあるからな」

 

「シュウの事か?俺はあの人の目を見たときビックリしたぞ……どうやって治したんだ?」

 

 

一緒に進んでいたケンシロウもそれは気になっていた。

 

幼い頃の朧気な記憶でもシュウは自身の目を到底治せないレベルで自傷した筈だからだ。

 

 

「詳しくは知らねえが、あの代表がわざわざダムの内側に招いて治療したらしいからな……眼球だけ機械にされても俺は不思議じゃねえと思ってる」

 

 

ジャギは怖い怖いと言いつつ先頭を歩いていく……ケンシロウもあの代表ならやりそうだと思っていると。

 

 

「おい……どうやら俺達みたいな奴が来ることは読んでたみたいだな」

 

 

通路を進んでいた三人は薄暗い開けた部屋に出ると、ジャギの言葉の通りに部屋の至るところから無数の殺気を感じた。

 

 

「よくぞ我々の気配に気が付いたな……」

 

 

ゆらりと闇の中から出てきたのは狼の毛皮を被った男達……。

 

 

「我らは牙一族……貴様らの様な別動隊が来ることを拳王様が予見しないと思うてか?」

 

 

牙一族と名乗った彼らの気配は部屋の中を蠢き始める。

 

 

「数はひいふうみい……まあ三十くらいか?」

 

「正確には三十六だ」

 

「てめえに聞いてねえよケンシロウ!……どうせ全員殺るんだから大体わかってりゃいいんだ」

 

 

ツンケンするジャギにケンシロウとレイは目で語り合い、溜め息をついた。

 

 

「まあいい……ここは俺がやろう、兄貴を助けるんだからこういうのは無関係な奴が前座をやるものさ」

 

 

そしてレイがそう言いながら前に出てくると。

 

 

「一人だけ出てくるとは……そのままボロ雑巾みたいにしてやるわ!」

 

 

牙一族のリーダー格っぽい男がそういうと蠢く気配が一斉にレイに襲いかかった。

 

だがその瞬間レイは重力を感じさせない程の軽やかさで空中を舞い、手でしなる様に蠢く気配達を撫で斬った。

 

 

「俺の南斗水鳥拳の鋭い手刀は大気の中に真空波を生む!」

 

 

レイがそう言って着地すると、気配を発していた男達が胴と首が別れた状態でボトボトと落ちてきた。

 

 

「な!俺の兄弟達が!」

 

「……まさかこいつら全員親族なのか?父親はとんでもない奴だな」

 

 

レイは驚きながらも動きは止まらず、一人また一人と男達の首を落としていく。

 

 

「こいつらは大したことなさそうだ……二人とも先にいけ!」

 

「ケッ!カッコつけやがって……死ぬんじゃねえぞ!」

 

「俺達は先で待っているぞレイ」

 

 

ケンシロウとジャギの二人が死体転がる部屋を駆け抜けていくのを見たレイは、出ていった場所を守るように立ち塞がった。

 

 

「さて……大人しく逃げるかこのまま転がってる奴等の仲間入りをするか……選びな?」

 

「ぐぬぅ……お前は親父殿に子細を伝えろ!残りは必殺闘法で迎え撃つぞ!」

 

 

リーダー格の男は一人の小男を逃がすと残りの生きている面子に指示を出した。

 

 

「くらえ!中国拳法象形拳は集団殺人拳の一つ!華山群狼拳(かざんぐんろうけん)!」

 

 

そう叫んだとき、蠢く気配はより三次元な動きとなってレイに襲いかかる。

 

 

「ふ…踊る水鳥の危険を知って逃げれば良かったものを……代償は貴様らの首になるぞ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして先に進むケンシロウとジャギはやや広くなった通路に差し掛かった時。

 

 

ヒュンヒュンヒュンヒュンヒュンヒュン……

 

 

「馬鹿が!見えてるぜ!」

 

 

ダダダダダダン!

 

 

ジャギは腰に着けた二丁のリボルバー(・・・・・・・・)で此方に飛んできた六つの金属製のブーメランを正確に撃ち抜き、更に弾倉に残った玉もブーメランの飛んできた方に撃ち込んだ。

 

 

「……随分と銃の腕がいいなジャギ」

 

「ヘッ……ブルーの奴に基本的な銃や重火器の使い方を教わったんだよ……俺は拘らねえ男だからな」

 

 

それにな……そう言ったジャギの目はケンシロウに向けられていなかった。

 

 

「てめえは兄者達と一緒で北斗神拳一本でいけるだろうさ……だが俺はそういう男じゃねえからよ」

 

 

ジャギの目は薄暗い通路の奥にいる者を見極めようとしていた。

 

さっきの牙一族と比較にならないレベルでこの先にいる人間の気配が薄いからだ。

 

そしてケンシロウも驚いている……目の前の男は粗暴が服を着て歩いているような存在で、これ程までに静かな殺気を放っている所など見たことがなかったからだ。

 

 

「ケンシロウ、お前は先に行け……どうやらここにいる奴等は俺様に用があるらしい」

 

「……死ぬなよジャギ」

 

「誰にもの言ってんだボケが……てめえこそ合流したときに死体になってたら腹抱えて笑ってやるぜ!」

 

 

だから死ぬなら俺に殺されて死ね……ケンシロウ……

 

 

後ろから聞かす気がない小さな声でそう聞こえたケンシロウは

 

 

「フッ……お前もな……ジャギ」

 

 

そう呟いて更に奥へと走っていくのだった。


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