だから俺は救世主じゃねえって   作:ガウチョ

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この作品でのトキの一人称は私で統一します。

一部原作の技の改編があります。ご了承下さい。


出会いと変わる運命、変わらない運命。

「蒙古覇極道!」

 

 

カサンドラの外でウイグルの必殺技が放たれている。

 

しかし角の鞭はシュウの足技でバラバラにされ、その後に今日で六回放たれた技もいずれも狙いが外れ、鋼鉄のトゲや自分が倒した奴の墓を空しく粉砕するだけだった。

 

 

「ハア……ハア……さっきから避けてばかりで戦う気はないのか貴様」

 

 

六度も必殺技を使えば流石に疲れが出るのかウイグルの息は荒い。

 

逆にシュウはそれを軽やかに避けてウイグルに適度に攻撃するだけ……端から見たらなぶり殺しに見えた。

 

 

「私は時間を稼いでいるだけだ。それに……そろそろ終いのようだ」

 

 

シュウはカサンドラの奥の方から打ち上げられた照明弾を確認すると、さっきまでとは明らかに闘気の気配が変わった。

 

 

「では参ろう……南斗白鷺拳奥義、誘幻掌」

 

 

シュウはウイグルに掌を向けながら、ユラユラと手を回してウイグルを中心に円を描くように回っていく……のではなく、小刻みにステップを刻みながら手を回している。

 

 

「誘幻掌とは間合いを惑わし、攻撃の機先を隠し、一撃の虚実を隠し、そして思考を縛る奥義……わたしの目が見えないときは機先を制す程度しか使えなかったが……」

 

 

シュウの動きにウイグルは混乱していく。

 

(何だこれは?……どう攻めてくる、どんな技なのだ……突きか?蹴りか?それとも……)

 

 

早くなったり遅くなったり、止まったかと思えば見失いそうになるシュウの掌……。

 

 

「お前は幻を追い、その首を私の前に晒すだろう……だが恐れることはない……」

 

 

視線誘導と掌の動きによる思考の撹乱……ウイグルは考えるあまり棒立ちになってしまう。

 

 

「その時はもう思考が麻痺し、自分が死んだことすらわからなくなるのだから……」

 

 

シュッ……ゴロリ。

 

 

ウイグルの目が見えない掌を追いかけその喉元を晒した時、シュウの足刀がウイグルの首を通過してそのまま首が呆気なく落ちた。

 

 

「数多の罪なき人を葬った男の最後としては呆気ないが……私達はやることがあるのでな」

 

 

シュウはそう言って早速カサンドラ側でも協力的なフウガやライガを部下に迎え、自身も攻略に乗り出すのだった。

 

攻略部隊は広大に広がる迷路じみた内部のせいでカサンドラの掌握に二日ほどかかったが、ケンシロウは何故か特に妨害もなく無事にトキを見つけ、このカサンドラの奥に秘められた赤き部屋で行われた長兄の所業を目の辺りにした。

 

そして……。

 

 

「今回は世話になったな、レイ」

 

「いや、俺も中々に刺激的な道中だった、ケン」

 

 

三日後の朝にカサンドラの前で固く握手するケンシロウとレイの姿があった。

 

 

「俺は先にバイクで帰るよ。これでアイリ達の安住の地も手に入るからな」

 

「だがあそこはラオウが目を付けているかもしれんぞ?」

 

「その時は俺がいるしお前もいる、だろ?……じゃあなケン!」

 

 

レイはそう言ってカサンドラから先行して帰る部隊と共にバイクで随伴していったのだった。

 

 

「そんでトキの兄者とお前は一緒に帰るわけか……兄者の容態はどうなんだケンシロウ?」

 

「ああ、半病人だと聞いていたがな……拳の冴えは些かも衰えていなかった」

 

「へえ……流石は兄者といった所か。だが養生するにはここは血生臭くていけねえや。俺は先に帰る」

 

「ああ、ジャギよ」

 

「あん?何だよ」

 

「……これからもよろしくな」

 

「かっ!……やめろやめろ!鳥肌が立ってしょうがねえ!」

 

 

そしてジャギもバイクで戻っていく。

 

 

「……ジャギと仲直りしたのか?」

 

「そういうつもりはない、ただお互いに気持ちの落とし所を知っただけだ」

 

「そうか……兄弟で争うのは辛いからな……」

 

 

ケンシロウに話しかけた白髪の男はそう言ってゆっくりと立ち上がった。

 

北斗四兄弟の次兄トキ……死の灰に体を侵され、余命もあと一年あるかわからない程弱っている彼は死期を悟った仙人のような男であった。

 

 

「私の為にこれ程の作戦を実行するとは……代表という方には感謝してもしきれないな」

 

「それだけ貴方を必要としているのだトキ」

 

「ふっ……今の私にそれほどの価値があるかどうか……」

 

 

トキの言葉にケンシロウは無言だった。

 

今のトキには自分の言葉が届かない……何かトキは生きることに意義を見出だせていないようだった。

 

 

「……兎に角一日休んであの街に向かう事にしよう」

 

 

今ここにはケンシロウとトキ、そして車を運転してくれるマミヤが残っている。

 

その夜

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「そんな……馬鹿な!」

 

 

トキは久しぶりに見た夜空に輝く北斗七星を見て驚愕した。

 

 

「何故だ……何故私にあの星が見えなくなって(・・・・・・・)いるんだ!」

 

「どうしたんです、トキさん?」

 

 

トキが驚いていた所にご飯の支度をしていたマミヤがやって来た。

 

 

「あ、ああ……久しぶりの夜空で…ついでに北斗七星を見ていたんです」

 

「そうなんですか?……確かに今日は北斗七星がよく見えるわね。でも残念だわ……北斗七星に寄り添うように星が瞬いてたんですけど、最近見えなくなっちゃって」

 

 

きれいな星だったんだけど……そう言ったマミヤにトキは更に驚いた。

 

(彼女も死兆星が見えなくなった?……彼はもしや運命を変える力があるとでも?)

 

会わなければいけない……トキの目に生気が宿る。

 

だが運命を変えられた者もいれば変えられなかった者も……。

 

ケンシロウ達はダムの町の帰り道、その残酷な宿命を知ることになる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「レイ!…ジャギ!」


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