ケンシロウ達よりも先行していた補給部隊がダムの町から20キロ程離れた荒廃した町まで来たとき、その集団は現れた。
「……あれはやべえ!」
すかさずジャギが手信号で周りに伝えると、補給部隊は支給されていた無線機を使い救援を要請。そして補給部隊に配属されていた武装偽装ロボットが周囲を警戒する。
だがそれは目の前まで迫る脅威にはあまりにも足りない戦力であった。
「ぬるいわ!」
その放たれた闘気は前方を走る偽装ロボットのジープを三台ほど纏めて破壊し、更に後方の補給部隊の車やバイクを横転させた。
偽装ロボット達は跳躍して破壊から免れ、攻撃してきた者に対して自動小銃による正確な射撃が行われる。
だが彼にはそれが悪手であった。
「そのような豆鉄砲、我が身を撃ち抜く事など出来ん!」
体には当たるが、一体いかなる力が働いているのか自動小銃の弾はその偉丈夫に当たってひしゃげて落ちていく。
「銃が効かない!?ジャギ、誰だあいつは!」
「兄者だ!長兄ラオウ!……だがあの
レイとジャギはまるで生身で戦車と遭遇した気持ちになった。
補給部隊で生身の人間が乗った物はラオウを出来るだけ迂回しようとするが、補給部隊を包囲するように拳王軍が襲いかかった。
「ヒャッハー!アガッ!」
「落ち着いて攻撃だ!まずはここを急いで切り抜ける!」
しかし更に後方にいたカサンドラ攻略部隊が突貫し、拳王軍に攻撃。統率がとれていない拳王軍は歯抜けの櫛のように隊列に穴が開いてそこを抜けられていく。
そして人馬一体となったラオウの猛追は人の命を守らんと偽装ロボットの特攻染みた攻勢で凌いでいた。
「このままでは一分と持たん……誰かが
部隊長のシュウが拳王軍の乗り物から乗り物へ飛んで移動し、烈脚空舞という技を駆使して乗っている拳王軍を蹴りでなます切りにしていく。
「ならば俺がいく!ここはダムの町に近い……アイリ達の所まで行かせてたまるか!」
「シュウは先に行け!……兄者にレイ一人だけじゃ心許ないからなぁ」
南斗水鳥拳でバイクや車ごと切り裂くレイと、バイクに備え付けられたグレネードランチャーやショットガンで応戦していたジャギがそう叫んでラオウに突っ込んでいく。
「すまぬ!直ぐに町から応援が来るはずだ!」
ラオウによって少数の負傷者が出たが、幸い拳王軍の攻勢はうまく切り抜けて補給部隊も攻略部隊も逃げることに成功しつつあった。
そしてラオウは地に降り立ち偽装ロボットを紙切れの様に破壊していく。理由は自分の負傷より愛馬である黒王号を考慮したのだろう。
「噂の機械人形、確かに恐怖なく挑みかかるそれは便利な玩具よな……だがこの拳王たる
周囲の空気が歪むほどの気を放出しているラオウに周りの拳王軍も迂闊に近づかない。
「あれが拳王か……」
「浸っている場合じゃねえぞ!」
ジャギが先制攻撃とばかりにリボルバーをラオウに撃ちまくり、更に追い打ちとばかりにショットガンを連射する。
しかし口径の大きいリボルバーは流石にラオウの肌を貫くが、表層の筋肉で全て止められ、ショットガンに至っては全て気に阻まれ届いてすらいなかった。
「兄者を倒すには大質量の武器がいるって代表の話はフカシじゃねえって事かよ」
「ジャギ……まさかうぬが我に攻撃するとは思わなんだ」
「俺も思ってなかったぜ兄者……だが生憎とあんたの目指す場所には俺の大切なものがあるんでね」
「まさか愛などと抜かすまいなジャギよ」
「さてね……だが譲れねえものではあるがな!……合わせろレイ!」
「言われずとも!」
地を滑るような歩法でジャギが迫り、空を舞うようにレイが飛び込んでくる。
だがラオウはニヤリと笑い、自らの闘気を圧縮して掌から解き放った。
「北斗剛掌波!」
「ぐわあぁ!」
「ちいっ!」
両手で放たれた北斗剛掌波が二人纏めて襲いかかるとレイは吹き飛ばされ、ジャギは何とか捌ききった。
「ほう……これを捌くかジャギ」
「兄者と俺は何回試合したと思ってる!北斗千手殺!」
ジャギがついにラオウの懐に入ると出し惜しみは無しで技を使う。
「それは我も同じ事……だがその拳、迷いが無くなり鋭くなったな」
ラオウはジャギの拳を軽々と受け止め、小手調べとばかりにその気の乗った剛拳が飛んできた。
「ただの直突きなのになんて無茶苦茶な気だ!岩山両斬波!」
剛拳をジャギは渾身の手刀で受け止めるが、あまりの威力に後方に軽く吹っ飛ぶ。
「ほう……並の拳法家なら今ので四肢が砕けるが無傷とは……強者に揉まれたな、ジャギよ」
「ちっ!だったら見逃してほしいがな、兄者よ」
「それは無理な相談だ……貴様達は見たのだろう?北斗七星の横に輝く蒼星を」
ラオウの話にジャギはピクリと眉を動かした。
「おいジャギ……北斗七星の横に輝く星ってあの蒼い星か?」
戻ってきたレイがジャギに聞いてくる。
「さてな、嫌な与太話だよ……見たら一年以内に死ぬとか言うやつだ」
「……聞かなきゃよかったぜ」
「二人とも心当たりがあるか……ならば貴様らは我と相対する宿命にあったということ」
その言葉を皮切りにラオウは二人の前に猛進する。
「やるならとっておきを使え!兄者に半端な技は効かねえぞ!」
「応!」
膝を曲げ、両手を前に出すジャギ。
そのまま跳躍し、更に空中で手をつき高く弧を描いて飛ぶレイ。
全身の気を己が内に高め、両手に尋常ではない気を集めて日輪の如く掌を回すラオウ。
そして三者の技が炸裂した。
「北斗羅漢撃!」
「南斗水鳥拳奥義!
地から幾つもの虎の牙、空からは流麗な龍の一撃。
だが、それでもなお、世紀末覇王の頂は高かった。
「天将奔烈!」
爆発的に高まった闘気の波動が二人の技を完全に相殺してなお甚大なダメージを与え、ジャギとレイは技の後に無防備になってしまう。
「お前達には敬意を表してこれをくれてやる」
ラオウの突きがジャギとレイの心臓付近に突き刺さると、二人ともクタリと倒れ込んだ。
「これ程滾る戦いは久々であった……そしてこの二人にはしてやられたわ」
ラオウは周りを見てそう呟いた。
既に補給部隊も攻略部隊もダムの町に逃げ延び、ここには疲弊した拳王軍と最後まで拳王軍を妨害し続けた偽装ロボットの残骸しか残っていなかった。
「拳王様、どうしますか?既に追撃は難しい距離ですしあの町には何やら恐ろしい兵器を準備しているという情報もありますが」
ラオウは部下の話に耳を傾け、倒れているジャギとレイを見ると。
「奴等に免じてここは引こう……あの代表という男がこの事態をどう治めるか、見極めようではないか」
そうラオウは部下に告げると黒王号に乗り込んで帰っていくのだった。
レイがあの技を使わなかったのは連携プレイに自爆技は打たないだろうという考察によるものです。