だから俺は救世主じゃねえって   作:ガウチョ

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つかの間の平穏2

「はーい、じゃあ皆さん並んでくださーい」

 

「「「「はーーーい!」」」」

 

 

小さな子供をワチャワチャと連れているのは嘗てシンの部下だったハートである。

 

拳法家殺しと恐れられた彼はブルーとの戦闘時、高圧の電気ショックであっさりやられた後に断片的な記憶処理と再教育を経てこの町の孤児の面倒を見るグループに入っている。

 

奇っ怪な風貌だが物腰は記憶処理前も丁寧で、子供の世話をさせても本人が嫌がらなかったのでこうして保父さんのような立ち位置になっていった。

 

ぶよぶよの大きな体という子供心を擽る体つきは大層受けて、ハートの周りは常に高い声が絶えなかった。

 

そしてその中には北斗の拳での重要キャラといえるリンの姿もあった。

 

 

「ケーーーーーーン!」

 

 

ハートタイフーンという名の人間風車でキャッキャと遊んでいたリンはケンシロウとバットがやって来るのを見て二人の方に駆けていく。

 

 

「リン……元気にしていたか?」

 

「うん!ケンはお兄さんの看病は終わったの?」

 

「……ジャギは元気になったぞ」

 

「一瞬ジャギを兄貴と思ってなかったなケン?」

 

 

一緒にいたバットの鋭い指摘にケンシロウは。

 

 

「すまん……ジャギとお兄さんが結びつかなかった」

 

 

バットもあのバンダナ巻いたチンピラみたいな風貌を思い出して確かに……と思う。

 

 

「もう!折角兄弟が三人揃ったんだからもっと嬉しがらなきゃ!」

 

 

リンはプンプンと怒ってますという顔をしているが、幼い顔立ちのせいか迫力は無く、可愛いだけだ。

 

原作ではリンは色々な死に目を見て、年齢のわりに恐ろしいほど達観した考えと純真さの融合したカリスマ性のある少女だった。

 

しかしこの世界ではケンシロウが居なくなった後にダムの町の支援や移住計画でここにやって来たお陰か、拐われたり殴られたり人間の丸焼きにされかける等恐ろしい目に遭わなかったので年相応の可愛らしい少女として生活している。

 

恐らく原作の様なユリアを彷彿とさせるような雰囲気は生まれず、未来予知じみた力も発揮されないだろう。

 

今は余りにも歳上の漢を仄かに思う美少女というだけだった。

 

 

「ケンもバットもご飯は食べた?」

 

「ああ、バットの所のお婆さんに山程貰ったよ」

 

「あんのババア……育ち盛りだろ?ってアホみたいに飯出しやがって」

 

「そう言いながら全部食べてたじゃないか?」

 

「いいんだよ!あの時は俺は腹ペコだったの!」

 

「そうか?」

 

「バットは素直じゃないね?ケン」

 

「うるせえ!」

 

 

むくれるバットにケンシロウとリンはお互いを見て笑い合う。

 

そんな他愛ない話をしている間に目的地についた三人はその狂騒に圧倒された。

 

 

「うわあああああ!」

 

「駄目だ!ウゾーの旦那がぶっ倒れた!」

 

「マミヤさんつえー!」

 

「ま……まだ…ま…うえっぷ」

 

バタン!

 

「レイもぶっ倒れたぞー!」

 

 

代表が用意したという巨大ビールサーバーの周りは正に死屍累々と化していて、その屍達の上には何故か足を組んですました顔をして座るマミヤと、今にも吐きそうな顔のジャギがいた。

 

 

「てめえ……大した……酒飲みだなぁ……」

 

 

今にも天地がひっくり返りそうなジャギと余裕そうなマミヤ。

 

 

「あれは何だ?」

 

 

ケンシロウが呟くとそこを監督していたシュウがやって来た。

 

 

「ケンシロウか……いや、久しぶりの酒に飲み比べを始めた馬鹿がいてな、あれはそれで倒れた者達だよ」

 

 

全く付き合いきれん……シュウが堪える様に頭を抱えた。

 

状況から察するにシュウのレジスタンスの連中も参加したんだろう。

 

 

「しかしマミヤさんは凄いな……ずーっと飲んでいるがああも平然とするなど……」

 

 

シュウ自体も酒を嗜むがそこまで強いわけではないのだろう。こうして監督に回っている所に苦労性が感じられる。

 

 

「さあどうぞジャギ……これは私からのプレゼントよ」

 

「おいおい……ありゃテキーラじゃねえか!?」

 

「そんなもん何処に隠してたんだ!?」

 

 

マミヤが二つのワンショットグラスに注いだのはまごうことなき高アルコールのテキーラで、推定度数は約50パーセント程のかなりきつい奴であった。

 

 

「てめえ……この酒どうしたんだ?」

 

 

震えるようにグラスを受け取ったジャギはマミヤを睨み付ける。

 

 

「代表が私の両親に贈ったものよ。両親とも凄い酒豪だって聞いて幾つかくれた内の一本なの」

 

「酒飲みのサラブレッドってわけか……こりゃとんでもない猛者がいたもんだぜ」

 

 

体が拒否反応をしそうなジャギだが、同量の酒を飲んでいる筈のマミヤがそのグラスをイッキ飲みし、プウーと息を吐いて此方を見てくる。その姿の艶やかさを見れたのは目の前のジャギとこの飲み比べに参加しなかった者たちだけだが、ジャギは意を決してグラスの酒を喉に流し込んだ。

 

 

「………あべし」

 

 

だが流し込んだままジャギは後ろにぶっ倒れるのだった。

 

 

「うわー!」

「マミヤさんが勝った!」

「つえー!」

「格好いいぞー!」

 

 

この馬鹿なイベントを見てた連中はやんややんやの大喝采で、マミヤは笑顔で皆に手を振りながら屍たちから降りてくる。

 

 

「凄いなマミヤ」

 

 

ケンシロウの賛辞にマミヤは茶目っ気たっぷりにウインクして

 

 

「ケンも参加すれば良かったのに」

 

「……すまないが俺は酒に強くないんだ」

 

「あら意外ね……私は夜風に当たってくるわ」

 

 

流石にあの量を飲むのは大変だったのか、少し顔を赤くしたマミヤは喧騒から離れていった。

 

 

「……ケンシロウも中々に罪作りだな」

 

 

シュウはニヤリと笑って馬鹿どもを起こしてくると言って屍達に向かい。

 

 

「……ケンの馬鹿」

 

 

リンは一緒にいたバットを引っ張って何処かに行ってしまう。

 

キョトンとするケンシロウ……わかっていないのはこの世紀末救世主だけだった。

 

 

 

 

 

そんなこんなで夜も更け、屍だった人間も一人二人とゾンビの様に寝床に帰る頃、ジャギとレイは野郎二人で夜空を見ながら酒が抜けずにボーッとしていた。

 

 

「おいレイ……あれは見えるか?」

 

「残念ながら曇ってるのかな?全く見えないね」

 

「馬鹿言え……今日は雲一つないだろうが」

 

 

楽しく星座を見てるわけでなく、二人はあの北斗七星の横に並ぶ星を探していたのだ。

 

だがどう目を凝らしてもあの死を予見する星は見付からなかった。

 

 

「死兆星……見れば近いうちに死ぬ運命の人間のみに見える星か……」

 

「さながら俺達は死を乗り越えたって所かな?」

 

「さあなぁ……死ぬまではわかんねえよ」

 

「そうか……」

 

「そうだぜ……」

 

 

少しの無言の後、何がおかしいのか二人とも笑いだした。

 

大きな大きな笑い声、涙が出るほど笑うその声は夜の帳の中に消えていくのだった。




ちょっと変な設定つけちゃったかもしれないっす

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