いちご味ェ……
「町を歩いていたとき、新しく出来た新世界の入り口でとんでもない美女を見かけたんだ。そしたらその美女がやけに好意的に話しかけてきてね……そのまま新世界でタダで酒を美女と一緒に飲めるってなったらそれはもうウキウキさ……美女と楽しく酒を飲んで、いい気分になったらそのまま寝室に連れ込まれてさ……彼女は初めてだって言うから燃え上がってしまって……そんで朝になって別れ際に」
ウグウゥゥゥゥ……と泣きに泣くレイと「確かに初めてになりますよねえ」と宥める代表。
そしてこめかみに全力で力を入れて何かを我慢するサウザーとえらい目にあったなあとしみじみ思うシンとシュウがいる。
しかし。
「……ぶほあぁ!……アーハッハッハッハッハッハ!!!貴様それで女になったユダと寝たのか!なんたる馬鹿!なんたるアホなのだ!」
サウザーの我慢が限界に来たのか腹がよじきれんばかりに大笑いし始めた。
流石にそのセリフにシンもシュウも笑ってはいけない空気に我慢しているが、何かの一押しで爆発しそうであった。
「なーにが『君のような女の初めてを奪えるなんて光栄だな』よ……私より先に寝ちゃってケツをひっぱたきたくなったわ」
「やめろー!!」
「……んぐふぉ!」
全員分の酒とグラスを持ってきた
ここはダムの町の役場の二階にある客人を迎えるための場所で、バーカウンターも併設したお洒落な部屋となっている。
今回代表は南斗六聖拳のユリアを除いたメンバーをここに招待して、今後のことを話すことになっていた。
「フッフッフ……しかしユダ…ではなくスカーレットか、お前はここと敵対関係だったと記憶しているが?」
ひとしきり笑ったサウザーはスカーレットを鋭い目線で睨んだ。
だがスカーレットはまるで動じずに
「欲しいものが相手の手の中にあるから私は懐に飛び込んだの、何もかも投げうってね」
スカーレットの自信満々な言葉にサウザーはニヤリと笑う。
「それがレイに抱かれる事なのか?」
「それも目的の一つね、でもやっぱり正真正銘の女になれるなんて聞いて、気が付いたら此処にいたわ……でも満足よ?なにせここには私の欲しかったものがたくさんあるもの」
各々のグラスに酒を注ぐ彼女には疚しいものなど何もないと言わんばかりにふてぶてしかった。
「私は美しいものが好きよ。男も女も美しいものを愛でて愛したい……でも私は自分の心の中が一番美しくないって知ってたわ。だから本当に美しいものを自分の手でどうにかしようとして、美しくない方法を取り続けたの」
その所作は完璧なまでに女性的で、かつては男だったと思えない妖艶さが滲み出ている。
「でも風の噂で男が女になれる手術があると聞いて、頭に電気が流れたの!正に天啓ね」
にこりと笑うスカーレット。
「それに聞いたわよ、貴方達だって代表に少なくない借りがあるんでしょ?あの最終戦争から南斗聖拳は分裂の一途を辿ったけど、こうして一人の男のお陰で拳を交えることなく集まれる事になって……全く不思議な巡り合わせだわ」
代表はスカーレットの言葉に若干照れながら頭を掻いている。
原作では南斗六聖拳は誰一人としてまともな死に方をしていない。
ケンシロウという存在を中心に誰かを殺し、誰かや何かに殺されながら消えていった彼等がこうして集まるというのは数奇な運命と言えただろう。
「まあ南斗最後の将はまだいないけど、あっちは五車星が守ってるから問題はないんでしょ?」
「ええ、近々彼等も此方に合流しますから南斗六聖拳は全員揃うことになりますね……そしてそうなるとここは人も規模も東日本では最大の勢力になるはずです」
スカーレットの言葉に代表も今回集まって貰った本題に入っていく。
「南斗六聖拳、そして北斗神拳の三兄弟がいるここに対抗できる勢力は一つだけ」
ピッと人差し指を上げる代表にシュウが呟いた。
「拳王ラオウか……その剛拳一つで天を掴まんとする男……」
その言葉にサウザーが鼻で笑う。
「しかし奴はこの聖帝との戦いを避けた男だぞ?……何を恐怖することがある」
その言葉にレイは戦った経験則からの答えを述べる。
「サウザー、ラオウはお前の体の秘密を知らずとも、あの剛拳は全てを砕くぞ」
「臆したか、レイ?」
サウザーの挑発にレイは静謐な眼差しで静かに答える。
「ああ、俺は確かにあの時臆したよサウザー……戦いに身を置くものとして情けない限りだがな」
それは弱気なのに強い言葉の響きがあった。
「俺はラオウにジャギと一緒に相対したとき、自然とジャギと共闘して戦おうとした。いま思えば本能で一人では勝てぬと分かっていたのかもしれん」
自分のグラスの酒を飲んだレイは空になったグラスを見て染々と言った。
「あの時のラオウの
その言葉にサウザーが答える
「ふん……リュウケンは秘密主義でな、他流試合を殊更嫌がり南斗と北斗の交流を避けている節があった……そういう事に開明的だったラオウを伝承者にすることはリュウケンの本意ではなかったのかもしれんな」
「なんというかラオウは北斗神拳より強い拳法があるならそれに鞍替えしそうな雰囲気がありますからね」
代表の言葉に周りの面子も確かにそうだな……みたいな空気が出ていた。
「北斗の確執はそれぐらいで、当人であるラオウですが恐らく二ヶ月もしないうちにここに攻めてくるでしょうから各々の準備をお願いしたかったんですよ」
「何故二ヶ月だと?」
シュウの疑問にシンが答えた
「拳王軍はならず者や武芸者、それに離反した南斗聖拳の一派を取り込み巨大化した。そしてその巨大化した組織を食わせられる食料の限界が二ヶ月程度と計算されているのだ」
「恐らくその戦いが東側一帯の支配者を決める一戦となることでしょう。それ故に我々も戦力を統一するために皆さんに集まってもらったという事なんです」
代表のセリフに皆の気配が引き締まる。
「と言っても内容は簡単です。人質を防ぐために人の避難誘導と要所の防衛……今回はダムの町と聖帝十字陵を中心に守ることになります」
「聖帝十字陵か……」
代表の言葉にシュウはやや苦い顔をする。建設の初期に子供を使っていたのであまり良い印象がないのだろう。
「ふん……我が聖帝十字陵はこれから師と南斗門派の墓標となるのだ。あれを壊されるわけにはいかん」
「師と南斗門派の墓?……そうか、あそこはそういう場所にするのだな」
どこか気に食わぬ顔をするサウザーの顔を見ながらシュウの機嫌も戻っていく。
「誰かを偲ぶ大切な場所になりますからねあそこは。そして聖帝十字陵は基本的にサウザーさん主導の南斗聖拳の方達で防衛してもらい、ダムの街は北斗三兄弟と私の手勢で守る事になります」
こうしてダムの町と聖帝十字陵を守る防衛作戦の準備が始まるのだった。