だから俺は救世主じゃねえって   作:ガウチョ

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ストックはないです。


五車星と企み

その日、ダムの町には最近では見なくなった物々しい一団がやって来た。

 

バイクや大型トラックを率いた一団は町の境界線まで来ると全員停車する。端から見ても統率のとれた集団だとわかる。

 

そしてその集団から赤と青の髪の兄弟、銀髪の老人、見上げんばかりの大柄な男に守られながら顔を隠すように兜を被った女性が出てきた。

 

対してダムの町からはケンシロウとトキ、そしてブルーと銀を護衛にした代表とダムの町の町長が出迎えた。

 

 

「……顔を見せてくれないか?」

 

 

ケンシロウの言葉にその女性は兜を脱いだ。

 

兜から出てきたのは美しい顔だった。母性を感じさせながら何処か超然としたその美貌の女性はケンシロウに熱いぐらいの視線を送っている。

 

 

「ケン……」

 

「ユリア……」

 

 

それはうねるような甘い空気だった。

 

 

「……二人とも皆が見てますよ」

 

 

ハッとする二人とガムシロップを口にねじ込まれたような顔をしている代表。

 

そしてその二人の空気に当てられてムズムズした顔をしている周りの人達。

 

 

「取り敢えず皆さんを迎え入れましょうか」

 

 

代表がテキパキと指示を出して迎え入れていく。

 

原作ブレイクの一つ、五車星が誰一人死なずにケンシロウとユリアが出会ったのであった。

 

そして五車星の一団がダムの町に入ったあと、ダムの町の役場の二階で銀髪の老人と代表が相対していた。

 

 

「わしの名前はリハク……皆からは海のリハクと呼ばれています」

 

「ああどうも、私の事は代表と呼んでいただければいいです。皆もそう言ってますから」

 

 

代表の言葉を聞きながらリハクはじっくりと代表を見ている、まるで心の中を覗くように。

 

しかし

 

(なんということだ……この男の心が全く見えん……いや見えすぎて見えないと言えば良いのか)

 

リハクという人物はネット界隈では節穴として有名だが、彼が其なりに人を見る目があったのは事実である。

 

しかしそのリハクですらこの代表という人物は何処にでもいそうな普通の人物に見えた。

 

とてもこの地域一帯を世紀末覇者のラオウと二分するダムの救世主と呼ばれる人物には見えないし、彼自体にラオウと比肩しうるカリスマというものが感じられない。

 

やはりケンシロウがラオウ討伐の鍵なのかとリハクが考えていると。

 

 

「こいつラオウとは比べられんほど普通だなって顔に出てますよリハクさん」

 

 

代表の言ったセリフにギクリとなった。

 

 

「まああの人と比べられたら誰だって普通でしょうからね」

 

「……そう思われているなら何故あのラオウと敵対出来るのです?」

 

「敵対?……私は一度も彼と敵対なんてしてないですよ。簡単に言うなら生存戦略でしょうか?」

 

 

代表はテーブルに並べたお茶を啜ると。

 

 

「生きるためには自分が死ぬ要因を遠ざけなければならない……飢餓、病気、事故、そして外敵による攻撃などね。だから私は住居と食料と医療を揃え、外敵から守るための武力を求めただけなんです」

 

 

代表の言葉にリハクは納得と共に疑問を抱いた。

 

 

「一個人の願いとしては随分と人を集めてるようだが?」

 

 

その言葉に代表は苦笑する。

 

 

「ええ、最初は十人も居なかった村だったんですけどね。……私はその人達を余裕を持って助けることが出来た。そしたら噂を聞き付けて更に人が増えたんですけど、それも助けることにそこまでの苦労がなかった。……そうやって人が増えていき、結局私が投げ出したくなるほどの苦労がなかったので、こんな規模になっても私は誰かを助けているんです」

 

「投げ出したくなるほどの苦労がなかった……その程度の動機でここまで大それたことをやるのですか?」

 

「まあやりがいはありますから」

 

 

違う……リハクは今、目の前の青年を見誤ったのを直感した。

 

何かの使命感があるわけでもない……人に席を譲るように親切にしていたらこうなっていただけ……彼にとってこの町は親切心の延長でしかないのだ。

 

平和だったなら彼のこの親切はただのいい人で終わっていただろう。

 

満たされていた人間は驚くほどヘソ曲がりになり、ただの親切すら嫌がる人がいることをリハクは知っていたからだ。

 

 

「それに最初っから何かしらの野望を持ってこんなことをやるつもりはなかったんです。最悪私一人でも快適に暮らせたんですけど……なんというか慕われたり頼りにされると頑張っちゃう人なんですよ自分は」

 

 

後頭部を手で掻く彼の顔には照れが見てとれた。

 

 

「まあ二ヶ月もすれば拳王軍が襲ってくることは間違いないですから、私達は手早く準備しないと」

 

「準備とは?」

 

 

リハクは対拳王軍に対する作戦を考えるのかと身構えるが。

 

 

「ケンシロウとユリアさんの結婚式ですよ。ああいうタイプは周りがケツを蹴ってやんないといつまで経っても身を固めませんからね」




周りが勝手に企画して迷惑なやつ

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