いつものようにストックがないです。
その日、このダムの町ではとても大きなイベントが行われた。
南斗乱れるとき北斗あらわる……密かに伝わる伝承は最終戦争にて行われた核攻撃と死の灰の被害を受けながらも生き残っていた南斗聖拳の将と、北斗神拳の伝承者が結婚を機に一応の終結に相成ることになる。
参列するのは南斗六聖拳に南斗の将を守っていた五車星の面々……。
そして驚くべきは北斗神拳の方からは新郎ケンシロウを含めた
超突貫で作られた教会の控え室に集まるジャギとトキと代表に、対面には大きな椅子に座るラオウ……。
「初めまして世紀末覇者で拳王であるラオウさん」
代表はニコニコと笑顔でラオウに話しかけるが、当のラオウは寄らばもろとも殺しそうな殺気を出している。しかし代表が動揺した気配はない。
「今回は貴方の兄弟の祝いの場所ですから、私のほうでラオウさん達のお召し物は用意させていただきましたよ」
そう言うと代表の背後にいた偽装ロボットがラオウの目の前に白い大きな箱を置いていった。
「ありきたりですがスーツです。サイズは調べていますので合っていると思いますが……」
「貴様は……」
その言葉と共にブワリとラオウの気配が強まった。そしてゆっくりと立ち上がるラオウ。
それに反応するジャギとトキだが代表が手で合図して二人を抑えた。
「あのような手段で我を呼びつけるとは大した策士だな」
「貴方にも人の情があって良かったですよ。これが成功しなければ文字通り焼き尽くすしか手はありませんでした」
代表とラオウの言葉に怪訝な顔になる後ろの二人に、ラオウは鉛を食らったかのような苦い顔をして。
「お前達が代表と慕うその男は我がここに来なければ我の子供を殺すといったのだ。随分な手を使う」
「貴方と自分の部下が散々似たような事をやっておいてなにを言ってるんでしょうねこの人は」
トキとジャギはその言葉の意味を理解するのに大分時間を使った。
「あ、兄者に子供がいるのか?」
「そんな馬鹿な!」
「いえいえ、貴殿方の長兄は間違いなく妻子がいますよ?……北斗の隠れ里に隠していたようですが、私がそんな貴方のアキレス腱を見逃すとお思いですか?」
代表はあっけらかんと言ってラオウを見てニコニコしている。
逆にラオウは厳しい顔で
「貴様の事を調べたが、肉親と呼べる人間もいなければ友と呼べるものも確認できなかった……
「貴方は随分とデリケートな問題を野放しにしているようだ。北斗後継者問題、天帝の側近による横暴、そして修羅の国に残されたラオウ伝説……貴方が死んだとき、どれだけの人間が血の海の中で溺れるんでしょうね?」
代表の言葉にラオウは臍を噛んだ。皮肉を言えば自分のやり残した事や秘事を平然と代表は口にしてきた。
「私が何故貴方の喉元に手が届く状態になってさえ殺しにいかないかわかりますか?……貴方を殺した後に起きる凄惨な出来事を起こしたくないからです」
「貴様は…このラオウに手心を加えていたと申すのか!?」
「手心?……貴方は世紀末前、自らを拳王として名乗り出て、天を掴もうと思いましたか?」
「なに?」
胸ぐらを掴むラオウに代表は感情を映さない瞳で問いかける。
「世紀末前の貴方は今のような立場ではなかったし、知る人ぞ知る無敵の暗殺拳の弟子である四兄弟の長兄でしかなかった。拳王と名乗り、世界に暴力で覇を唱えるきっかけは何か……その時に貴方を殺せる存在が極少数しかいないと確信したからだ」
足は宙に浮いたまま、代表は言葉を続けていく。
「世紀末前は貴方を殺しうる手段は膨大にあった。どうあがいても道半ばで倒れる運命にあったのを理解していた貴方は、理性ある行動を取っていた節がある……だが貴方は乱世になってその理性のタガが外れてしまう。更に止めとしてリュウケンを手にかけたことがそれを助長することになった」
ラオウはギラギラと殺気を纏った視線を出しているが代表の態度は揺るがなかった。
「止めることが出来ないとわかれば人は簡単に理性をかなぐり捨てていく。咎めるものや罰するものがいなければ、人は何処までも残酷になれる……だからラオウ、私は貴方を阻む者として、立ちはだかる力を持った今こそ貴方の目の前にいるんです」
ラオウは右の拳を振り上げるが代表の顔に変化はない。
「今ここで貴様を殺せばこの町は終わる!」
「その前に貴方が死にますよラオウ」
その瞬間代表の胸ぐらを掴んでいたラオウの左腕に鋭い衝撃が二つ走り、ラオウの意思とは関係なく左手がガバリと開いて代表を離した。
更に代表とラオウの前に光学迷彩を解いた白いマネキンのようなロボットが現れ、更に部屋の四隅からも同じマネキンロボットが一瞬でラオウに詰め寄り両手の指を向けて停止した。
一秒程でおきた出来事に後ろにいたトキやジャギは反応出来ず、事態は進んでいく。
「隠密戦闘ロボットで名前をノーフェイスと言います。光学迷彩で隠れ、小型オーラコンバーターで増幅した気を指先から経絡秘孔へ打ち込んで敵を無力化します」
「貴様……木偶にすら秘孔を突く術を与えたのか!」
「私とアミバは研究を重ね、人体のあらゆる経絡秘孔の効果を紐解いてきました。ジャギやレイにかかった技を解く前から随分と研究していましたが、ついに実用段階に至ったんです」
「代表……いつの間にそんなものを」
トキのセリフに代表は苦笑する。
「北斗神拳の秘孔による医療効果を知って作っていた秘密兵器なんです。トキ先生だけではこの町の人の医療を賄いきれませんからね」
「ぐ!」
既にラオウから距離をとった代表は一体のノーフェイスに守られ、他四体のノーフェイスがラオウを四方から取り囲んでいる。
「貴方は自分が死ぬなど毛ほども思ってなかったようですが。これで貴方は絶体絶命ですね」
「なめるなぁ!」
ラオウの剛拳が唸りをあげ、二体のノーフェイスを粉砕したが残りの二体のノーフェイスに肩と背中の秘孔を突かれて身動きを取れなくされてしまう。
「北斗神拳に伝わっていない秘孔で、全身の筋肉が暫く痺れ、尚且つ気の循環が出来なくなる場所です。自力での解除は不可能でしょう」
「ぐう……それだけの木偶を貴様は作り出すとは」
「これが半年以上前の邂逅なら私が屍を晒す事になったでしょうがね……さて、私の力を見せたところで本題に入りましょうか」
全身の痺れに膝をつくラオウに代表は近づいたあと、しゃがんで目線を合わせると
「今日から一週間後、貴方にはケンシロウと戦ってもらいます。北斗神拳を巡る問題はここでハッキリしておきたいですからね。勝てば私達ダムの町は貴方に食料支援と武器の供給をし、貴方には干渉しません……しかし負けたら」
ラオウはギリっと歯を食いしばり、次の言葉を待った。
「貴方には西へ行って貰います」