「何を言っている?」
一瞬言われた言葉に呆然とするラオウだが、すぐに自分の体の異常に気がついた。
闘気が使えない……
正確には体から生み出す気に大きなムラが出るようになり、戦闘に使用することが難しくなっていた。
闘気が使えなければ攻撃や防御に大きな減衰が起き、現状でラオウはケンシロウに対する勝率が限りなく低くなっていたのである。
「経絡秘孔ではなく秘孔と秘孔の間に流れる気脈に闘気を打ち込み、体に流れる闘気の循環を一時的に絶つ……名付けるなら北斗活人拳」
構えを解かないケンシロウを前にラオウはたらりと一筋の汗をかいた。
「秘孔を突かずに気脈を封じる……だと?」
「そうだ、北斗活人拳は暗殺拳ではない……故に技を決めても相手は死なず、しかし勝敗を決する結果を引き込む拳法だ……」
気脈を封じられ、闘気の運用が出来なければ北斗神拳も使えず、純粋な腕力と武術だけで戦うことになれば現状のラオウがケンシロウに勝つ可能性は限りなく低い。
「他者を殺すことだけが武術の全てではない……弱き者が強き者に勝つための技術、他者の戦闘力を奪い無力化する力もまた武術だ……それに」
ケンシロウは代表達の集まっている所を見ると。
「北斗神拳を使う者は彼に技を見せすぎた……既に北斗神拳は丸裸になったと言っていい」
そう言ってケンシロウはラオウに説明を始めた。
「兄者が基礎を手解きしたアミバ、そしてこの町の代表は体の全ての経絡秘孔と秘孔を突いた時の効果を調べ上げたのは知っているな? 彼等はそれをリストにまとめて技術の体系化を進めている……北斗神拳は一子相伝の暗殺拳ではなく、活人拳と暗殺拳を内包した体系化された武術として技術の拡散がされるだろう……だから」
ケンシロウはラオウに近づき、ラオウの両手を自分の手で包み込み。
「もう掟云々は意味がなくなり、兄弟で殺しあいをする必要がなくなる世が来るのだ兄さん」
その言葉にラオウは憤怒の表情をした。
だが暫くすると。
「そうか……もう兄弟で血で血を洗う日々は永久に来なくなるのか」
プツリと……何かが切れたように穏やかな顔をしたラオウが其処にいるのだった。
「ラオウという男の本質は責任感が悪い方に転がった人なんでしょうね」
ラオウとケンシロウ……決着がついた二人を見ながら代表はそう呟いた。
「恋慕すれど踏みとどまれる彼がユリアを欲したのもいずれケンシロウの脇の甘さを危惧したから、天を目指したのも誰か力あるものが統率しなければ心ないもの達が地獄を生み出すから……拳王軍が治めた際の焼き印もそれが魔除けがわりに使えると思ったから……全て私の想像ですけどね」
アミバは代表の考察に一理あるなと考えた。
明らかに足りない食料と水、過酷な気候と理性失う人々、本能に忠実に生きる者達に道理を教えるなら圧倒的な強者による統制が必要だとラオウは思ったのだろう。
現に拳王軍は少なくとも末端以外は人を面白半分に殺すことはせず、見せしめに数人殺しながら人々を従えていた節があった。
彼等は確かに悪人ではあったが理性なき獣ではなかったのだ。
「それも限界が来ていたのは間違いなかった……立場が人を変えるように拳王軍も腐敗が始まっていたんでしょう」
代表の言葉に
「立場が人を変えるか……」
アミバは代表と決着を迎えた二人を見ながらポツリと答えた。
そして今ここに北斗の拳のターニングポイントと戦いが終幕し、拳王は死ぬことなく北斗の因縁は終わることになったのだった。