だから俺は救世主じゃねえって   作:ガウチョ

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皆さん誤字脱字報告有難うございます。

というか誤字報告と修正機能なんてあったことに驚きました。


ある村人の話

side ダムの村の外側のまとめ役

 

 

 

 

 

カーンカーンと鐘を打ちすえる音が響き渡り、わしらは遂に来たかと緊張に包まれた。

 

 

 

わしは二ヶ月前程にこのダムの村に来た初期メンバーの一人で、こうしてダムの半径三キロの外側で生活を許された者達のまとめ役をすることになった者じゃ。

 

わしらがこのダムに来たときにここは半径三キロの内側は草木が生い茂り、かつての核の炎に焼かれる前の自然というものが残るとてつもなく貴重な土地じゃった。 

 

だがそこには先に住んでいた集団がおり、わしらはその集団によって誰一人とて半径三キロの内側に住まわせて貰うことは叶わんかったのじゃ。 

 

その集団のリーダーに勿論反発した者達もおる……貴重なものじゃし分け合って有効活用すればいいとな。

 

そういう声がメンバーの中で段々と大きくなり、しまいには暴動に発展しそうになったとき、彼らは最もわかりやすい手段で解決したのじゃ。 

 

暴力による鎮圧……ダムの内側にすむ連中には何処か軍人っぽい屈強な男達がおっての、わしらと一緒に来て喚いていた一部の奴を問答無用でボコボコにしてしまったのじゃ。

 

更にはもうこの世界でお目にかかれる事はない筈の自動小銃や拳銃を取り出して銃口をわしらに向けてきた。

 

これにわしらは鼻白んだ。わかりやすい死の恐怖が目の前に突きつけられたからのう。

 

 

「貴方達の話は良くわかりました。此方はダムから三キロ外側ならどう生活しようと構わないと言ったんですが、伝わらなかったようですね」

 

 

その集団のリーダーなんじゃろう20代くらいの青年がため息と共に此方を見ておる。

 

 

「ならば話の分かる人達が来るまで追い出すか……」

 

 

それとも……と青年の言葉に続くように周りの男達の自動小銃のトリガーにかかる指に力が入る……わしはその時前に出て殆ど脊髄反射で土下座をして謝り、そちらの言い分を全て聞くと叫んだんじゃ。

 

 

其からの話はトントン拍子じゃった。

 

 

最初の反発してボロボロになったメンバーが追い出された後、彼等はダムから三キロ外側なら本当に何も干渉はしてくることはなかったんじゃ。

 

それ所かダムから三キロ離れてさえいれば、ダムから生まれた川の使用も黙認されておるし、日が経つと子供もいるわしらのテント住まいを見るに見かねたらしくての、煉瓦や建築資材を融通してくれて、簡易的な煉瓦造りの家まで作ってくれるようになり、更には野菜や穀物の種まで融通してくれるようになったんじゃ。

 

 

「三キロの掟さえ守れば私達は共存共栄できますよ」

 

 

あの時の去り際のリーダーっぽい青年の言葉は本当じゃった。

 

 

あの青年はたまにこの外側の村に来るようになり、怪しい奴等が来たときの警報代わりの鐘や何だかよく分からない箱を煉瓦造りの家の上に置いたり、貰った種の栽培状況なんかを聞いていく。

 

青年自身はあまり根の悪い人間ではないんじゃろうな。

 

返せるものなど何もないわしらを自立できるように細々とした支援を続けてくれているからの。

 

じゃが面倒ごとがひどく嫌いで、あまりわしらの事に首を突っ込みたくはないんじゃろう。

 

しかし治安の維持のための暴力装置として彼等は機能しているのも事実なんじゃ。現にこのモラルの崩壊した世界でこの村の人間は秩序をもった生活をしておる。

 

近いけど遠くて細い繋がり……。

 

こうしたわしらの関係はある日決定的に変わることになったのじゃ。

 

 

「何ということじゃ……」

 

 

鐘の音に続く様に彼方から響く重低音に、今の暴力の支配する世界の主役とも言うべき奴等が迫ってきていた。

 

わしらには奴等に対抗できる力がないためにこうして逃げてきたんじゃが……彼等には関係のない至極簡単な問題だったようじゃ。

 

あれはハリボテで実は弾が入っていないと言われていた銃器での制圧……一人だけ見知った顔のいる死体達にわし達は言葉もなかったが、何故こやつが此処にいるかはわし達が推し量れるものではない……。

 

じゃが

 

 

「生き残っている者はいないようですね」

 

 

あのならず者達より遥かに綺麗で整備の行き届いたトラックやレッカー車に乗ってあの青年と武装集団がやって来たのじゃ。

 

わしと戦える男達が率先して彼等の前に急いで向かい、やって来た彼らを迎える。

 

皆が皆恐怖を感じておる……あの者達は間違いなく何かしらの軍事訓練を受けた者たちなのだ。

 

青年以外の男達は無駄口一つ言わずに青年の指示に従ってやって来たトラックに死体を積み込んでいく。

 

話を聞くと彼等は死体と今回の襲撃に使われた乗り物の回収に来たのだそうじゃ。手伝いを申し出ると丁重に断られたがの。

 

あと死体の中で一人だけ仲間だった者は弔うか聞かれたのじゃ。

 

出ていったこやつの顔を覚えておったとは……含むところは無いわけではないが死んでしまえば怒りも湧かん。こちらで弔うことを告げれば何も衣服が剥ぎ取られることなく返されることになる。

 

わしは彼等に深々と頭を下げて感謝を示した。

 

この弱肉強食の暴力が支配する世界で、彼等はわしらがある程度の規律や掟を守る限りは生かしてくれる事を感謝せねばなるまい。

 

わしに続くように周りの男達も頭を下げていく……皆不安じゃった、ここに新たに流れて来る者の話を聞いてならず者達が弱者に何をしていくのかを。

 

あの青年をリーダーとする集団も何かの弾みでわしらをいたずらに殺していく集団なのではないかと……。

 

だが今回の事で彼等に対する村の人間の態度も変わるじゃろう……

 

わしらは生きていける

 

人が人として尊厳を失うことなく生きていける場所が、ここには確かにあるとわしは感じたのじゃった。


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