黄昏より昏き以下略を貴様に唱えさせてやろう   作:充椎十四

1 / 27
黄昏より昏き以下略を貴様に唱えさせてやろう

 リナ=インバースが悪いものいぢめを繰り返した時代よりもっともーっと後のこと。竜神とほぼ相討ちで封印された赤眼の魔王・シャブラニグドゥの欠片の一つを宿して生まれた天才魔道師(自称)リタ・ギニョレスクは、自分の身に宿る魔王のかけらパワーをどーにか自由に使えないか長年思案し続けていた。

 ――とゆーのも、このリタ。平和な二十一世紀日本で平々凡々と過ごしていた記憶を有する女の子だったのだ。強いパワーが自分の体で眠っているだけというのは、リタのもったいない精神が許さない。あと地球でスイーツとかブランド和牛とかを食べたい。

 

 シャブラニグドゥが封印されてからそろそろ七千年が過ぎようとゆー頃なので、もうシャブラニグドゥもだいぶ弱体化してるんじゃないの? 目覚めようとしても逆に私が支配してやんよ! とまあ、自称天才魔道師のリタ様は考えた。立ってるものは親でも使うし、自分にくっついているものは魔王でも利用する。かのリナ=インバースほどではないが、リタもかなりふてぶてしい。

 膾切りか八つ裂きかは知らんが竜神により七分割され、人間の魂にくっついて転生を繰り返すことで自然消滅……なーんてまだるっこしい方法でしか倒せないくらい強かった(過去形)魔王でも、流石にそんな目に遭わされて七千年も過ぎればかなり弱体化してるはず。いけるいける、私ならいける! とまあ、あんまし根拠と言える根拠がない自信でもってシャブラニグドゥとの陣取り相撲をしたわけだ。

 

 ところで、メタいことをゆーけども、ここで魔族とはなんぞやという話をしよう。

 魔王以下たくさんの魔族は「今日も元気だ! さあ世界を滅ぼすぞ☆」とゆー本能的な思考の持ち主だ。なんでそんな思考の持ち主なのかなんてことは深く考えちゃいけない――この世界全てを作りたもうた『混沌の海にたゆたいし王』ことロード・オブ・ナイトメアが「そうあれ」と作ったから、そーゆーものなのだ。疑問を口にしたら首が飛ぶかもよ。

 で、混沌の海に立っている棒の上に乗ってるお皿が「この世界」。混沌の海から生えてる世界は一つだけじゃなくてあと三つはあるから世界ごとに王がいて神がいるけど、全ての創造主は『混沌の海にたゆたいし王』。お名前を呼ぶのは不敬なので上司L様と呼ぼうね。

 

 話は少し戻って、そんな破壊衝動しかなさそうな魔族は二つの姿を持っている。一つ目は、精神世界と呼ばれる、ざっくりゆーと我の強いやつが勝つ「魂がむき出しの世界」での姿。精神世界での姿が魔族の本体で、とある中間管理魔族を例にあげるなら「黒い錐」とか……まあ、人間とは全く異なる姿をしている。

 もう一つは物質界――つまり人間が暮らしている世界での姿。物に触れたりなんだりするのに人の姿を取る方が便利だからか、中位以上の魔族は物質界で人っぽい姿を取っている。下位魔族はヒトっぽい肉体を作れないから怪物になったり、下位より弱いと動物に憑依したりなんだりラジバンダリ。

 

 同じように人の姿を取っているなら魔族にも物理攻撃が効くはず、なんて思ったら大間違い。魔族に対して効果がある魔術は限られていて、精神に影響を及ぼす魔術しか効かないのだ。

 細かいところは違うけど分かりやすく言うなら、物質界での魔族の姿はゲームでゆーところのアバター。斬りつけられようが何をされようが本体は痛くも痒くもないから耳をほじってられる。でも対戦相手からボイチャで「お前のアバターイケメンだけどお前リアルではピザデブのブサメンだろ! 運動しろ!」と言ってきたら、いくら本当の事でも傷つくわな……。これが魔族に対して効果がある「精神魔法」にあたる。

 そんな精神魔法もとい口撃が続けばゲームをしてられなくなり非ログインが続く――これが魔族の「死」。気持ちが持ち直せばまた復活するけど、今は時間をくださいとゆーやつだ。口撃され過ぎて本体のピザがメンタルブレイクし、ゲームのハード等を壊してこの世からも引退――これが魔族の「消滅」。

 

 つまり、魔王はじめ魔族のみなさんを倒すには精神魔法を鍛える必要があるわけだ。

 リタは自分の中で眠るシャブラニグドゥを押さえ込むため、精神魔法の習得を頑張った。どれだけ頑張ったかと言えばかなり頑張った。一般的な攻撃魔法などいらぬ、私には精神魔法ただこれひとつあれば良いとばかりに精神魔法ばかり鍛えて――そんで、食欲とゆー心のパワーでもって、シャブラニグドゥを逆に自分の力として取り込んで魔王(仮)になってしまったのだ。

 これには魔族もびっくり目を剥いた。七千年が経っていようが魔王は魔王、魔王の部下である獣王らより千倍は強い存在だ。それを取り込んだやばい人間()などこの世界にい続けられては困る――リタに続けとばかりに魔王のかけらを取り込む奴らが現れてしまっては魔王消滅にチェックメイトがかかってしまう。でもリタは強く、高位魔族では倒せない。

 

 ならどうするか。

 

 「別の世界に行きたい! 地球の日本って国!」とか良く分からないことを言っているリタを魔族の手元で保護して夢を応援し、リタの所業が他の魔道師らにバレる前にこの世界からバイバイしてもらおうとしたのだ。ヘコヘコと頭を下げ揉み手を隠すこと無くリタをもてなしたのは中間管理魔族こと獣神官ゼロス――ドラゴンもまたいで通る破壊神ことリナ=インバースとの付き合いがあった苦労性魔族だ。

 ゼロスから見たリタは「地球に行ったらー、なにわ黒牛食べるの! 伊勢志摩サミットで出たってやつ。そんでみかげ山手ロ◯ルのプリンも食べるんだー」なんて訳の分からないことを話してるところ以外は常識的で話が通じる相手だった。こんな食欲以外はまともな女の子が魔王を取り込むなど信じがたい――でも、実際に彼女はシャブラニグドゥの自我を消滅させてしまった。

 ゼロスが一挙手一投足に気を使い続けた日々はだいたい三年くらい。こんなに早く「全くの」異世界への道が見つかって良かったね。

 

 もうこっちに帰ってこないでねと手を振られてリタが生まれ故郷を旅立ったのは、彼女が二十一歳の時。

 二十一歳なだけに二十一世紀に行けるだろうなんて甘っちょろいことを考えてたリタは、ようやく帰りついた魂の故郷ジャパンで、膝から崩れ落ちた。

 

 星は地球、国は日本、そこまでは合ってた。しかし時代は――なんと平安の始めだったとゆーオチだったのです。ちゃんちゃん。

 

 ――それでお仕舞い、なーんてそうは問屋が卸さない。リタ・ギニョレスク様は仮にも魔王なのだ。人生百年など言うけれど魔族はそう簡単には消滅しないもの。魔王(仮)になったリタの人(?)生は千年や二千年程度で終わるものではなく……鳴かぬなら鳴くまで待てば良いじゃない。

 千年も待つのは大変かもしれないが、果報は寝て待てとゆーから寝て待とうじゃないか。配下の十人や二十人でも作っちゃって寝てる間の世話させれば良いんじゃなかろーか……と考えて、やっぱダメだわと頭を横に振った。

 

 魔族は基本的に冷酷で、破壊衝動を本能として有している。リタの出身世界ではシャブラニグドゥの配下である五人のうち冥王は同僚の魔竜王を謀殺するわ、そのうえリナ=インバースを利用して世界を滅亡させようとするわ、獣王の部下のゼロスは他の魔族が目の前で死のうがどうしようが他人事。同族意識も糞もない、とりあえず世界が崩壊すればそれでオッケーとゆーのが魔族なのだ。

 それを十人や二十人も作ってみろ、魔力の魔の字も知らない地球は明後日あたりに滅亡してしまう。

 

 リタのなにわ黒牛計画はどうなる。ブランド和牛食べ比べが出来ません、なんて許せるわけがない。

 

 作る部下は一人で良いかな……ゼロスのよーに人間世界に慣れてて、パシリに良いヤツが欲しいな。なーんてことを考えてたせーなのか。

 「作る」つもりが「召喚」していて、なんと驚きゼロス本人が来た。

 

「え、リタさん……? これはどういうことですか!?」

「わざとじゃないのよ。かくかくしかじかとゆーやつで」

 

 ゼロスみたいな(パシれる)部下がほしいと思ったら召喚しちゃってたのとゆー甘い言葉(?)に騙され、哀れ獣神官ゼロスは元の世界と地球とを往復することになった。たとえ本人の自我が失われていよーが、リタの体に宿るのは赤眼の魔王シャブラニグドゥのもの。王の気配の持ち主につい対応が甘くなるのは仕方ないのだ。

 

 とゆーわけで、人を殺して回らない便利な使いパシリを得たリタは平安時代の日本を見て回ることにした。北は北海道から南は沖縄まで、現代日本よりコチョコチョと複雑な海岸線をした日本を歩き回り、つまり美味しい地元の食材をあちこちで楽しんで――平安の都に戻ってきた。全国津々浦々地元の名産物食い倒れツアーをぽってんぽってんまったりゆっくりやっていたからか、リタが初めてこんにちはした時より平安京はだいぶ古めいていた。平安京に遷都してから天皇は五代目くらいだったはずが、なんと驚き、もう十五代目らしい。

 期間にして百年以上。日本一周にそんなにかかるくらい日本って大きかったっけ、と顎に手を当ててよくよく考えて見れば、そーいや肌が白くて髪の色も薄くて目が青とか緑とかの人たちの村とかにも行ったよーな気がする。日本ってほら島国だから、海を渡った向こうの島も日本だと思ってたのよね。今から考えてみれば、渡り鳥と一緒にユーラシア大陸へ上陸していたのだ。なるほど。

 謎は全て解けた!

 

 さて、それじゃーどこに住処を構えましょうかねとゼロスが揉み手した。都の中で良さげなのを見繕いましょうかと聞いてきたゼロスに、リタはダメダメと首を横に振る。

 

「あの都これから何回も戦場になって燃えるし、その度に焼け出されちゃ堪ったもんじゃないわ」

「うちに被害が来る前に全員殺して、火も消してしまえば良いのでは?」

「嫌よ面倒臭い」

 

 とゆーことで、都の様子は見えるけど影響は受けない、とある山のてっぺんに二階建ての家を建てた。一階は部屋の区切りがないカウンター式の酒場のよーな空間で、二階に個室をちょちょいのちょいとな。

 本人の集中力と魔力量が物を言う精霊魔法レイ・ウィングは短時間ながら高速移動が可能……つまり、ある程度の山ならレイ・ウィングで楽々登り下りできる。生活必需品を手に入れる手段を残しつつ、面倒そうな都のあれこれから離れて暮らす。あらヤダ、とっても気楽!

 生活必需品を買うと言っても、家計で一番でかい出費である食費がかからないから生活は気楽なものだ。なにしろ魔族であるゼロスに人間の食事は必要ない。魔族の主食は人の負の感情で、人としての味覚は持っていないのだ。リタはと言えば元々が人間だったため人としての味覚も持っているけど、魔王(仮)でもあるから人の負の感情を美味しく食べられる。どっちも楽しめるなんて最高よねとばかりに山で獲れた肉も都で拾った感情もヒョイパク食べるリタはなるほど、食欲でシャブラニグドゥに勝っただけはある。

 

 そんな平凡で代わり映えのしない生活を送って十数年。主に香辛料の仕入れのため元の世界と地球を往復させられて可哀想なゼロスが不在のリタの家に、何やら人の気配が近づいていた。

 今まで嗅いだことがないほど芳醇な負の感情――気配は一人分のくせに感情の量や濃さは百人分を越える。

 

 一体何が来たのよ、と窓から首だけぬっと出して気配の方向を探れば、なんとびっくり、気配の持ち主は十五、六くらいの少年だった。少年とゆーと「まだ弱いのでは」とか「所詮まだ子供よ」とかバカにする者もいるもんだが、かのドラまたのリナ様は十五、十六の年で既に悪党いぢめの名を世に轟かせていた。若いからとゆーだけで見下してはいけない。

 元の世界で「かのリナ=インバース以来の天才魔道師」と称えられていたリタ様は知っているのだ――年齢だけで見下すとバカを見るのよ、と。見下してきた相手にバカを見せてきたとゆーか。

 

 今更ながらリタの見た目について説明しよう。燃えるような赤毛は生まれつきで、赤眼の魔王シャブラニグドゥを取り込んだせいで瞳はルビーのように赤い。前は落ち着いた茶色だったのに。胸はないよりゃある方が良いけどデカけりゃ良いってもんでもない……ってことで、ささやかながら前方に突き出している。良く食い良く遊び良く寝る健康優良児のリタちゃんの四肢はしなやかな筋肉で覆われ、腹筋だって六つに割れている。大事な外見年齢はとゆーと、シャブラニグドゥを取り込んでから年を取ってないので十八で止まってるはずなんだけど、元が老け顔だったから二十三くらいに見える。

 さて、赤毛はもちろんのこと赤眼なんて見たことがないとゆー、黒髪と黒目ないし茶色の目で溢れ返ったジャパン生まれジャパン育ちの者にはリタの見た目はどう映るか。

 

「なんと、女の赤鬼か」

「鬼? え、あたしのこと?」

 

 家のすぐ近くに現れた、腕は二組四本、目も上下に二つずつの四つある少年は、その四つの目を見開いて驚きを顕にした。驚いたのはリタもだ――鬼って何さ。

 

「あたしは鬼風情になった覚えはないんだけど……。あんた誰?」

「貴様、俺を知らんのか」

「知らないわよあんたなんか。ゆーめーじんなわけ?」

 

 じとーっと少年を見れば、少年は大きく胸を張る。

 

「俺は呪いの王だ」

「へー。あたしは魔の王ですけど」

 

 そう、互いに王を名乗った。リタからすれば王なんていくらでもいるのが常識だ。セイルーンの王族やらディルスの王族やら、他にも竜王やら獣王やらなんやら。そんだもんで、この地で王を名乗ることの意味合いがまっっったく分かってなかった。

 平安の日本で王を名乗ったらそりゃ、国家転覆を狙う犯罪者だ。百年くらい前に殺された平将門は新皇を名乗ってたし、歴史とかこの時代の文化とかに興味があれば分かったはずのこと……なんだけど、ゼロスならまだしも、飯に興味と関心が集中してるリタがそんなこと知ってたら逆に天変地異を疑わないといけない。

 とゆーわけで、京の都からちょっとばかり離れた山のてっぺんに――王を僭称するヤバいのが二人も揃っちゃったのだ。

 

「魔の王、か。魔とはなんだ?」

「魔ってゆーのは、この世を滅ぼし尽くしたいという意思のことよ。人の負の感情を食べて育つの」

「やはり鬼ではないか。呪いとはどう異なる?」

「呪いがどーゆーものなのか知らないからなんとも言えないわね……あんたが支配してるってゆーその『呪い』ってなんなのよ」

「呪いとは悪意の塊だ。妬み嫉み、怒り苦しみ悲しみ……あらゆる否定的な感情が、人の誰しもが持つ『思い込み』や『念』を核にして形をなしたもの……それが呪いだ」

「ふーん」

 

 つまり――この世界では人は感情羊の牧場を作っていて、そこで育てられたラム肉もとい負の感情を食べて大きくなる客が魔族、食われることなくマトンにまで育ったのが呪いってことね、とリタは納得した。酷い理論だ。

 そのマトン代表がわざわざ消費者代表の元にやって来たとゆーことは……どーゆーことなの?

 

「ま。呪いの王だかマトンの王だか知らないけど、あんた、あたしに何か用があってきたんじゃないの?」

「いいや、何も」

「へ?」

「この山には呪霊が一体もいない。都に近い場所にあるというのに呪霊がいないなどありえんのでな。はぐれの呪術師でもいるのかと、その面を見に来たのだ。まさか鬼の王が住んでおるとは」

 

 とまあ、そんな出会いをした二人……二人(?)はまあまあ仲良くなった。なんてったって赤毛に赤眼で年を取らない女と腕が四本ある男だもの、世間様とはほぼ没交渉。あらゆる意味で対等な会話相手がほしいなんてわけじゃーないけど、気兼ねなく殴り合える相手なんてそうそう見つかるもんじゃない。

 年に二度か三度くらいの頻度で呪いの王こと両面宿儺が山に登り、酒やら各地の名産品やらでご機嫌に騒ぐ……そんな気ままな暮らしをしてたら、知らぬ間に遷都から十七代目つまり神武天皇から数えて六十六代目天皇の御代になっていた。といっても六十五代目の御代が短すぎたんだけども。

 

 肉食え肉、なんてリタが鶏肉やら猪肉やら勧めたせーか、両面宿儺はすっかり体格よく育った。ひきしまった胸板は厚く、二組の腕はがっちりと太い。年はすでに三十を過ぎたが、この時代の一般的な三十路らしくなく、とっても健康的だ。

 ゼロスもこのマトンの王に「良く食べ良く動き良く寝るのですよ」なーんて言いながらヒトの食事を用意してやっていた。どーしてかって、両面宿儺は山に来る度、負の感情をみっちりと体に溜め込んで来るのだ。濃い負の感情はリタとゼロスにとって何よりの御馳走だ。ようこそおいでました、なーんてヘコヘコ頭を上下させながら林檎を磨いてお出迎えしないと。

 

 両面宿儺の持ってくる話は様々だったけど、ある時――五年くらい前だったか。彼に付き従う部下ができたんだとゆー話があった。この異形の怪物を慕ってくるとはな、なんて、酒で顔を赤くしながら言った両面宿儺は嬉しそうで、正の感情が漏れてきてリタの頬をちくちく刺した。

 まあ、呪いの王と自称したところで、どうしたって両面宿儺は人間だ。なんとその部下は女らしいし、この時代には親分の嫁を用意したり子を生んだりも部下の仕事の一つみたいなところがある。リタは「子供ができたら連れて来なさいよ」と両面宿儺の背中をバンバン叩いてやった。

 

 そんな話から六年と少し後のことだった。両面宿儺が呪術師に討たれたと、両面宿儺の部下を名乗る裏梅という女が、大きな腹を抱えて山にやって来た。

 

「宿儺の子供ならあたしの甥っ子みたいなものよ。生まれた子が男でも女でもあたしが引き取って育てるわ」

「ええっ、リタ様どういうおつもりですか!?」

「簡単な話よ、ゼロス。マトンを『滅っ!』して回ってる呪術師がマトンの王の血を引く子を見逃すわけないでしょ? あたしが育てた方が安全で安心ってやつよ!」

 

 生まれた子供は……残念ながらとゆーべきか良かったことにとゆーべきか、両面宿儺のように腕が四本あるでも目が四つあるでもなかった。そこら辺にありふれた、腕二本に目が二つ。裏梅の希望もあって名前はリタがつけた――長宿(ちりこ)という。

 「両面宿儺様のご遺体を取り戻すんだ!」と都でどったんばったんやってる裏梅が良い塩梅に目眩ましになって、長宿の存在が呪術師にバレることなく十年が過ぎ、十五年が過ぎ……。腕の数と目の数が一般的なことを除けば、長宿は両面宿儺瓜二つに育ってしまった。こりゃー宿儺の子供ってバレるんじゃなかろーか、あわわ……。

 

 だけどその心配はゼロスが晴らした。

 

「この世界の平均年齢、五十年も生きれば長い方でしょう。宿儺と命のやり取りをした面々はあの時にだいたい死んでますし、心配しすぎでは?」

 

 なるほど仰るとーり!

 

 親の心子知らずとゆーか、リタが長宿の顔について悩んでたにも関わらず、悩める養い親を放置して長宿はほいほい都に遊びに行ってたらしい。ある日なんと呪術師の家の娘を「こいつ俺の嫁」などと言って連れ帰ってきた。聞けばこのお嬢さん、呪力がカスで術式とか言う生まれつきの技も持ってない。そのせーで親兄弟から糞味噌な扱いを受けていたんだとか。そんななか、塀を乗り越えて屋敷に侵入してきた長宿に救いを見出だしちゃって「あたしを連れ去って、あたしだけの昔男になって」と情熱的な……リタには良く分からんけど情熱的らしい口説き文句で愛の逃避行なんてことをしたそーな。

 長宿は長宿で、父親の遺髪などを手に入れられないかと仇である呪術師の屋敷に侵入したら、まさかの逆ナンパ。こりゃ面白くて良いやと連れ帰ってきたらしい。

 

 長宿も長宿だが女の子も女の子だ。類は友を呼んだのか?

 

 二人が納得しているなら反対する理由もないし、リタはそれで良いんじゃないのと頷いた。ゼロスはさして悲しくも感動してもいないくせにハンカチで目元を拭いながら「子の成長とははやいものですね、ヨヨヨ」なーんて言った。

 

 んでまたリタとゼロス二人だけの生活が始まり――十年が過ぎて、五十年が過ぎて、百年が過ぎ……平安時代が終わって鎌倉、室町と過ぎていく。長宿の子孫が訪ねてきたり、山に入ってきて偶然知り合った者もいたけれど、ヒトの寿命は短く、最近来ないなーと思ったら死んでいたなんてよくある話。

 両面宿儺の仇の一族だと言っても子孫にはそんなの関係ないし、呪術師と交流したりもした。いつまでも姿が変わらないリタを鬼と呼ぶ失礼なやつもいたし、神だ仏だと呼んで崇めてくるやつもいた。

 いつの間にかリタの住む山に呪術師が結界を張っていて、神域扱いされていた。宿儺の子孫は今やどこに住んでどう名乗っているかも分からない。

 時代はどんどん過ぎ去っていく。矢のよーに、光のよーに過ぎて……あくびをしたら、時代は江戸が終わり明治大正も経て、昭和も後半に入っていた。

 

「なあ、あんたがこの神域のカミサマってやつ?」

 

 呪術師らが金を出して建てた無駄に立派な屋敷にやって来たのは、長宿の嫁より呪力を持たない――ううん、呪力を欠片も持たない生意気そうな子供。

 そいつは、年々過保護になるゼロスのせーで精神世界に引っ込められたリタを……呪術師が誰も気づけないはずの彼女を真っ直ぐに見て、かつての両面宿儺のよーににやりと笑ったのだ。

 

 精神世界を知覚できるのは、精神世界で生まれる魔族の他はエルフとかの魔力が特に高い種族のみ……人間は逆立ちしたって精神世界を知覚できない。なのにこの子供……八つかそこらだろー呪力なしの子供は、なんの力や術を使うことなくリタを見つけたのだ。

 

「実は前から試してみたいなーって思ってたことがあるんだけどぉ~……協力、してくれるわよね?」

 

 ゼロスに子供を捕獲させ、リタは物質界に現れて満面の笑みを浮かべた。

 

「ねえボク~……魔道師、なってみない?」




 ここまでダラダラ長いこと書いたのは! 厨二な呪文を唱えて魔法を使う禪院甚爾を見たかったから!
 そこまでたどり着かなかったけど!


★★すれいやーずの精神魔法こーなー★★

・崩霊裂(ラ・ティルト)
 下級魔族なら一発でサヨナラバイバイさせられる魔法。人間相手にやったら廃人(※生命維持装置などないので死ぬ)にする。名前は可愛いのに効果はえぐい。

・冥壊屍(ゴズ・ヴ・ロー)
 相手の精神と肉体の両方を滅ぼす影(※光に弱い)を生み出す魔法。明るい場所では使えない。

・烈閃槍(エルメキア・ランス)
 精神を直接攻撃する光の矢。人間が相手だったら数日衰弱させる程度で済む。

・呪霊四王陣(アストラル・ブレイク)
 言うなれば、精神世界にある本体に攻撃して物質界にいるコイツを倒す! という魔法。軽く顎をかすっただけなのに脳を揺らされたので倒れるみたいなアレ。

・霊王結魔弾(ヴィスファランク)
 拳に魔力を宿すことで、魔族相手でも殴って怪我をさせることが可能になるとゆー魔法。君が泣くまで殴るのをやめない!



★★すれいやーずのシャブラニグドゥの力を借りた魔法、つまり甚爾が唱えさせられる予定の魔法こーなー★★

・竜破斬(ドラグ・スレイブ)
 シャブラニグドゥの力を借りる魔法。赤いビームが着弾した相手の精神を破壊し、そのうえ余剰エネルギーが爆発して小さな町なら崩壊する。市街地で使えるものではない。どこで使うんだ。

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。