黄昏より昏き以下略を貴様に唱えさせてやろう   作:充椎十四

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すまん短め


その13

 私室っぽい室内のベッドで眠る白髪(はくはつ)の青年と二十代後半らしき黒髪の男。

 

「おい悟、そろそろ起きろ」

「う……」

 

 肩を揺すられても「ううーん」とか唸るばかりの青年を、男はしつこく揺すった。

 

「う……ここは……」

 

 ようやっと起きたかと思えば、青年は目を開きはしたもののぼんやりと天井を見上げる。頭が痛んだのか顔をしかめ、右手で額を覆う。

 

「俺は……確か、竜破斬(ドラグ・スレイブ)を使って……そうだ! 傑たちは!?」

 

 青年はがばりとバネ仕掛けみたいに起き上がり男に詰め寄る。

 

「落ち着け、夏油たちは無事だ。だが忌庫への道も高専最下層に繋がる道も何もかもが瓦礫になっちまったよ」

「そっか。傑たちが無事ならいいや……。あのエセ藍染隊長に竜破斬(ドラグ・スレイブ)をぶっぱなしたは良いけど、頭ん中パーンってなってて理子たちの安全を確保すんの忘れてたからさ。みんなが無事だったなら良かったよ」

 

 男に掴みかからんばかりに身を乗り出していた青年は安堵の息をついてベッドに戻る。

 

「ありがとよ、悟」

「何だよ突然礼なんて言ってさ」

「いや……お陰でいい()が撮れたよ」

「絵? なんのことだ?」

 

 ――ピッと一時停止ボタンが押されて、テレビに映る二人の姿が停止する。

 そう、今までのやり取りはビデオ録画。一昨日に青年の部屋で行われたやり取りだ。体力気力を使い果たして二日ほど寝込んだ青年がケータイで伏黒嫁に「そろそろお肉も食べたいです」と電話したら、十分後に男が現れ、DVDプレイヤーにDVDをanfang(セット)、始まったのはもちろん英霊召喚じゃなくて録画観賞会。

 

 室内にいるのはテレビに映る二人と黒い犬のぬいぐるみ。リモコンを操作したのは男の方。

 男はおもむろに口を開いた。唇の端が痙攣してる。

 

「残念なことにお前が竜破斬(ドラグ・スレイブ)をぶっぱなすシーンは撮れなかったからな。せめてそのすぐ後の画はほしいと思ってカメラを回したんだが……まるで漫画かドラマみてーな画が撮れたもんだから、あの場で笑うのをこらえるのは大変だったぜ」

「おい……ちょ……ま……」

 

 唇を戦慄かせる青年――つい先日高専の施設や私有林を破壊し尽くした五条家の悟くんは、テレビ画面を指差して、男――兄弟子兼魔術の師匠の甚爾を見た。

 で。甚爾の隣にお座りしてるぬいぐるみ……もとい、ゼロス犬がきゅるるんと声を跳ねさせる。

 

「上手く撮れているでしょう? 撮影は僕がしたんですよ♡」

「リタにはもうコピーを送ってある。感想が楽しみだな」

 

 動きを止めた悟くんの反応に、性格の悪い兄弟子とゼロス犬は声をあげて笑ってしまう。でも仕方ない、真面目な顔をしようといくら頑張っても、気を抜くと満面の笑みになってしまうのだ。

 人の不幸は蜜の味とゆーよーに、他人が「俺は不幸だぁぁ!」と上条くんみたく泣き叫んでるのを見るのは実に楽しい。もちろん不幸な事故に巻き込まれた人は可哀想にと思うけど、その人の身から出た錆とか欲を掻いた結果とかの不幸なら――最高だ。もっとやれ。

 

「……は?」

 

 ――五条悟の悲劇はこれに留まらなかった。とゆーか留まったらビックリだ。ノリノリで魔法(に見えるなにか)をぶっぱなした悟はまさに時の人。門とかの施設管理部門はあの現場で何が起きたのかとギョロ眼状態だし、事件当時現場にいた夏油ほか二名は魔法が発動したのを目撃したせーで教員職員その他の皆様から質問責めにされてるし、あれだけの爆発なのに五条悟の残穢が全くないことに気付いた方々が「どーなってるのー」とドーナツ島やってる。なお悟はドーナツ島世代で甚爾はブンブンとニコニコ島を跨いでる世代だけど、二人とも子供番組を見て育たなかったからネタを振られても分からない。

 快復したと噂を聞き付けて質問のため襲撃してきた教職員らの波からどーにか逃れ、お昼を過ぎたあたりによーやっと教室に着いた悟を待っていたのは親友・夏油傑のつむじ。

 

「頼む、悟。どうやって二次元を三次元に引き上げたのか教えてほしい」

()?」

「螺旋丸を……螺旋丸が無理ならかめはめ波を、打ちたいんだ」

()?」

 

 悟にとって、傑は初めて出来た友達だ。互いの部屋に泊まりに行って「友人の家に遊びに行く」よーな気分を楽しんだし、一般家庭出身の傑が一般の常識を、生まれたときから呪術に触れてきた悟が呪術界隈の常識を教え合ったし、放課後に街で甘いものを食べたりしょっぱいものを食べたりと食べ歩きしたし……俺たち二人いれば呪術業界で敵なしだぜと笑った。

 友達の願いは叶えてやりたい。叶えてやりたいけど――傑をL様との問題に巻き込みたく、ない。

 

「ごめん、傑……それは出来ない」

 

 プライドの高い傑が頭を下げた、それくらい真剣な願いだとは分かってても……異世界から襲来する異界の創造主とのワンサイドゲーム(※蹂躙される方)に巻き込むのは駄目だ。

 悟はそーゆーところが良心的だった。でもそれは当然のことかもしれない――傑は悟にとって初めての友達なのだ。デッド・オア・アライブではなくL様に殲滅(みなごろ)(される)か蹂躙(オモチャに)(される)かの選択肢しかない魔術界隈に、どーして親友を引っ張り込めるとゆーのか。

 

「そうか……」

 

 頭を上げた傑の表情は()()()()()()()()()()()()()けど。その瞳の奥に悔しさが隠れていることに、悟は気付いてしまった。だから要らん一言を足してしまった。

 

「許してくれ……創造主(※L様)との戦いにお前を巻き込むわけにはいかないんだ」

 

 悟は真面目だった。真面目にそー言った。

 

 だけど考えてほしい。創造主との戦いってどこのラノベだ?

 

 夏油傑が求めたのは、螺旋丸とかかめはめ波を打てるようになる呪力の使い方だ。魔力がどーだとかこーだとか全くの認識外だし、この世に呪力以外のふしぎパワーが存在してるなんて信じちゃいない。魔法や魔王なんて存在しませんよ、ファンタジーやメルヘンじゃないんですから……。

 夏油はこの目で見えるものしか信じていないリアリストだから、今まで自分が信じてきたリアルを打ち砕かれるとメンタルがやられやすい。ガラスの青年なので取り扱いには注意されたい。

 

 つまりだ。夏油は漫画もアニメも小説も読むけど――ファンタジーはファンタジーでしかないと考えている。ファンタジーな仕事をしてる割に思考回路が常識的だ……呪霊なんて非常識の極みのはずなんだが。

 

「悟、あと二日くらい療養したらどうだ? まだ疲れてるんだろう……そんな時に困らせて悪かったね」

 

 結果、悟は(頭が)疲れているとゆーことになった。疲れてない元気一杯だといくら悟が主張しても夏油の温かい視線は変わらない。家入も「もう一晩か二晩ぐっすり寝なよ」と心のこもった声掛けをしてくれる。温かい同期の絆……思い合う関係とゆーのはとても素敵なものだ、すれ違ってるけど。

 俺ってば超元気なんだけど、とゆー悟の主張は空に溶けて消えた。

 

 ――さて、天元とフュージョン予定だった天内理子には時間の余裕が生まれた。

 なにしろ鳥居が竜破斬されたことで薨星宮へ繋がる門も崩壊、入る手段がない。これが「今すぐ入らないと世界が滅んじゃうの! だって今年はセカオワの活動開始年だから!」とゆー切羽詰まった状況なら薨星宮に入るほかの手段を探したんだが、どーしてか今のところ天元が安定している。今すぐ合体しなくていいのだ。

 とりあえず鳥居の再建を優先とゆーことになり、天内の薨星宮行きは無期延期。天内の身はしばらく高専預かり。

 

 ぎっちょん高専で過ごしてるとはいえ天内の命が狙われてることに変わりはない。天内の暗殺依頼を出してる盤星教がある限り今の生活が続くのだ。

 なら盤星教を叩いちゃえば解決では、とゆーのは安易な考えだと言える。確かに()()盤星教の指導者は逮捕されるだろーし幹部連中も逮捕されたり監視がついたりする。盤星教本体が解体される可能性も高い。でも、「盤星教の意思を継ぐ」団体を作っちゃいけないとゆー法律はない。新しい組織が自分達を宗教団体として申請するとは限らず、内輪だけの仲良しグループとして活動されたらもう……追いかけるのが大変だ。解体させられた宗教団体の信者をそのまま引き継いだ別名義の宗教組織なんて――実例があるしね。

 別組織立てられたり地下に潜られたりするよりは現状維持で監視を強める方が楽なのだ。そーゆー理由で盤星教は今も元気に活動中だし、天内の暗殺依頼をアイツにしぃのコイツにしぃのと違法行為を繰り返してる。

 

 そのうちこの暗殺依頼で国内の呪詛師が全滅するのではなかろーか? いいぞもっとやれ。ひゃっはー汚物は消毒だー!

 

 そんなこんなで、天内は笑顔と襲撃が絶えない毎日を送っている。分かりやすくゆーとブラック・ラグーン号みたいな毎日だ。頭上を飛び交うのが鉛弾か術式かって違いしかないから似たよーなもんだろう。

 

 では、汚ぇ貯水池(ブラック・ラグーン)号ならぬジュジュツ・コーセン号の乗組員を紹介しよう。

 あるときは戸愚呂仮面、またあるときは組長先生、その名を夜蛾正道。可愛いものが好き。

 魔術・呪術の二丁拳銃、白い短髪だけどレイちゃんを自称する五条悟。甘いものが好き。

 螺旋丸への夢を諦めきれない真面目な男――いつかはっちゃけて変な方向に暴走しそうなうさぎちゃん夏油傑。口直しになるなら何でも食べる。

 ウィザード級のハッカーじゃないけどウィザード級の治療能力を持つ反転術式の天才、亜美ちゃんを名乗るなら禁煙しよう家入硝子。未成年の癖にヘビースモーカー。

 

 この他にホテル・バラライカのタイ支部ではなくフシグロファミリー本部があったりする。ファミリーのビッグ・マムに胃袋を捕まれているためコーセン号の乗組員のほとんどはマムに逆らわないが、サーの方とは唾を吐き掛け合う仲だ。そしてジュニアはマスコットキャラで最近プリンセスが増えた。

 

 しかし暇なのは暇なわけで。一ヶ月も経てば頭の上を呪霊(たま)が飛んでいくのにも慣れるし、その度に襲撃犯の(たま)が消し飛ばされるのにも慣れる。始めはひたすらに怖いばかりだった暴力のやり取りにも慣れてきて、だんだん気持ちが変わってきた。

 悟が甚爾にやられて地面をバウンドしたり夏油が甚爾にやられて空に射出されたりしてる校庭のはしっこで、天内はフシグロファミリーの二代目(まだ継いでない)・恵くんの相手をしながら、ぽつりと独り言を溢した。

 

「私も強くなりたいなぁ……」

「りこ姉ちゃんも戦いたいの?」

 

 妹誕生で兄に目覚めたらしい恵はメキメキと心も体も成長し、海老ぞりだだっ子めぐくんから「ぼくはお兄ちゃんだから」なエッヘンめぐくんに進化した。ちっちゃいお兄ちゃんがあんまりぷりちーなものだから、しょうこおねえさん(※高専にいる方)はめぐくんの写真を撮りまくっているとかなんとか。

 

「りこ姉ちゃん弱いもんね……じゃあぼく、何でもできるよーになる、すごい呪文おしえたげる!」

「おお! どんな呪文?」

 

 子供の知ってる呪文なら、ニチアサの実写ヒーローの変身の口上あたりだろうか?……でも嬉しそうに「教えたげる!」と話す幼児の言葉には金額に出来ない価値があるのだ。なにしろ可愛い。

 

「テゴネイルマ」

 

 天内はすごくほっこりした。歌詞を間違えてることに特にほっこりした。手捏ね入間かな?

 ちなみに入間市は先に紹介した種無(たな)しもとい田無……西東京市よりも西にあり、埼玉県の市の一つだ。その入間市――の隣には同じく埼玉県所沢市がある。日本人なら誰もが知っている「となりのトロール」もとい「となりのト◯ロ」……この◯トロとゆーのは魚のトロでも豚トロでもなく、スタジオ関係者のお嬢さんが所沢を「ととろざわー」と言ったことからだ、とゆー噂がある。幼女は正義だ。

 幼児も正義だ。――つまり、めぐくんは正義だ。

 

 二人で一緒に何でもできるようになる呪文を歌った。




二人が歌っている間ゼロス犬はどこにいたんだ――!?()


追記
手捏ね入間って何、という質問がありました。分かりづらすぎたと反省しております。
200パーセントの呪文の一部です。
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