黄昏より昏き以下略を貴様に唱えさせてやろう   作:充椎十四

14 / 27
その14

 悟くんはいつまでも「あなた(頭が)疲れてるのよ」な状態ってわけではない。悟は施設破壊事件から復帰後、改めて親友の夏油氏から頭を下げられ「螺旋丸を現実のものにするために手助けをしてくれ」と頼まれてしまった。

 

 だけども――竜破斬は呪力操作によるものじゃない。この世界における赤眼の魔王の力を借りた、純然たる魔術(・・)だ。それに悟はレイ=マグナスやリナ=インバースみたく魔術の才能に溢れた人間ではなく残念ながらの凡才だから、新しく魔術を組み立てるのなんて無理。そして魔力も足りない。頼られて嬉しいけど自分じゃ親友の役に立てない……なら、どーするか?

 答えは単純だ。できるヤツ(・・・・・)に相談すればいい。悟は先日鹿肉の薫製を送ってきた相手、『山』に暮らす師匠に電話をかけた。

 

「どうにかならねーかな」

「呪力操作とか言われても困るんだけど……あたしってほら、呪力については食べる専門だしさ。魔術を使えるようにするって解決法はダメなわけ?」

「俺たちの問題に傑を巻き込むわけにはいかねえだろ」

 

 ――悟はリタを孫に甘い婆ちゃんのよーに思って慕ってる。なにせ悟の身近な親族はだいたいが蛆の湧いた生ゴミみたいな性格してるし、「呪術界を率いる名家として云々」とか「五条家以外は禪院も加茂もみんなカス」とか頭が高すぎる発言ばかりで漫画の悪役そのものなのだ。

 

 まだ甚爾が実家もとい『山』にいた頃、漫画部屋の漫画を読んだ悟はドンガラピシャーンとゆー衝撃を受けた。

 烈火◯炎のラスボス森光◯の言動が……母親の言動そのものだった。嘘だと言ってよバ◯ニィ。母親と森◯蘭で違う点は、母親も森◯蘭も言動が双子みたくそっくりだけど、森◯蘭は下品に見えて母親は品がよく見えるとゆー点。

 悟はこの世の真理の一つを知った――顔がよければ……顔面偏差値が高ければ、言動が屑の極みでもハイ・ソサエティの一員に見えるのだ。その驕りきった言動を許され、認められ、尊ばれる。それは……なんておぞましい。

 

 悟は学校から帰ってきた甚爾に突進して、そのゴツゴツした腰にしがみついた。そして「母上が森◯蘭に見える」と恐怖を訴えれば、甚爾は悟りを開いたような目をして悟の頭を撫で――教えてくれた。諦めろ悟。御三家とそれに連なる連中には、一家に一人は森◯蘭がいるんだぜ、と。

 一家に一森◯蘭。その事実はあまりに衝撃的すぎた。悟は二週間ほど『山』に引きこもり、リタや甚爾の腰にしがみついて「五条家なんて継がずに一般人になるぅ」と泣いた。

 

 しばらく甚爾はだっこちゃん人形ver悟を抱えて歩いてくれたけど、やっぱり二週間も続くと邪魔だったよーだ。悟を子猫みたくぶらさげて『山』を下りると、結界の外にポイと放り出した。

 

「悟、お前には力がある……世界を革命する力が」

「いやだぁぁぁぁぁおれ『山』から出ないぃとーじのバカァァァァァ!!」

「潔くかっこよく生きていこうぜ」

「うっせー甚爾しねぇぇぇ!!」

 

 結界の外で待ち構えていた五条家の護衛に連れられて家に帰れば、五条家の森◯蘭が悟を抱き締めて「心配しましたのよ」と頬擦りしてきた。煉華扱いされてるよーに感じられて、悟の目は死んだ。

 

 ――比較対象が森◯蘭だからとゆーわけでもないが、男兄弟ってこんなもんなのかなと思わせてくれる甚爾と、かなり真っ当に保護者をやってるリタの株は高い。特にリタは甚爾と悟に甘いし……可愛く甘えればなんとかしてくれると信じてる。

 

「なあ師匠、無理か?」

「……仕方ないわね。あんまり期待しないでよね」

「やった、ありがと師匠!」

 

 そんで数ヵ月後に届いたのは右手用の手甲型呪符(タリスマン)。螺旋丸っぽい魔力弾を口から撃ってくる大トカゲの喉の革を使ったとゆーそれは、革製品だけどシンプルで特徴がない見た目だ。魔力じゃなくて呪力を撃てるよーにするのが大変だったとのこと。もしかしなくても材料は大トカゲじゃなくてドラg……まあ、赤眼の魔王には大トカゲもドラゴンも変わらないのかもしんない。

 ちなみに、この手甲を使うには呪文が要る。夏油にはキーワードって伝えた方が厨ニっぽくなくていいだろーか? とりあえずこの手甲は、呪文だかキーワードだかをスイッチにして持ち主の呪力を吸い上げ、呪力製の螺旋丸を自動生成するとゆーものらしい。

 

「作ったヤツによるとキーワードはニ文節以上にするのがいいらしい。単語一個とかにすると誤射の危険があるから、『我は射つ光靂の魔弾』みたく日常会話では絶対に使わない言葉にするようにってさ」

「なるほど……だから悟はあの長い呪文にしたわけだね」

「ん?」

「いや、なんでもない」

 

 手甲を付け訓練場で螺旋丸(偽)を放つ夏油の顔はこれ以上なく満たされていた。ちなみにキーワードは「呪術的装備により撃つ螺旋丸」から「呪装螺旋丸」にしたらしい。

 ――これが、目立った。

 

 在野の呪術師に『山』のことを知られると、『山』が騒がしくなる。リタは『山』に雑魚がいくら湧こうが別に気にしないだろーけど、悟にとっての『山』は実家よりも実家らしい場所だ。だから夏油にすら「俺が昔から世話になってる知り合いの呪具師に作って貰った」とだけ説明して『山』の情報は出さず手甲を渡したんだが――まず、『悟が(リタに頼んで)作らせた』呪具とゆーだけで目立った。

 

 御三家には先祖代々継いできた呪具もあるとはいえ、それらをメンテナンスができる人員は必要だし、術式は相伝のものだけじゃないからオーダーメイド呪具を必要としてるよな術師もいる。そーゆー名家の仕事をしてる呪具師は機密保持のために専属契約や縛りを結んでるから、他の客を取らないってか取れない。

 もちろん、どこにも属さず呪具を作ってるよーな呪具師もいる。ただそーゆー独立独歩系職人には、紹介がなけりゃ店に入れなかったり、気に入らない相手には使い捨て呪具すら売らなかったり、相手によって売価を著しく上下させたり……厄珍堂が善良な道具屋に思えるくらい酷いのが多い。

 その酷いのばっかりな呪具師連中だけど、一定以上の能力があるからそんな態度が許されてるんであって、無能は自然淘汰されるのが世の常。

 有能な職人にはプライドがある。量り売りの量産呪具ならまだしも、お高くつくのとかオーダーメイドとかなら『私が作りました』とゆー印を付けるのが普通だ。なのに、夏油が手に入れた呪具にはそーゆー印がない。

 

 五条家の跡継ぎが友人に渡した、誰が作ったのか分からない呪具。目立つのは当然だった。

 そして――夏油は、他人の生命・財産の心配をしなくていい任務の際、手甲を使った。

 

「呪装――螺旋丸っ!」

 

 ちゅどぉぉぉん!!!!

 

 ――高専の外ならいくらでも「目」を飛ばせる。呪術師も呪詛師も、「目」を飛ばせる者はみんな夏油の持つ手甲の効果を知って物理的に目玉を飛ばした。

 そんで。御三家とそれに連なる皆様方……特に禪院家が大騒ぎした。 その中でも狂ったように騒いだのは禪院家当主・禪院直毘人で、「おれもおれもおれもおれも!! おれも螺旋丸撃ちたい!!」と年甲斐も糞もない暴れ方だったそーな。息子の直哉君は「何言うてんの親父、どうせあと五年もしたら俺が相続するんやし親父が使ても無駄やろ。あの手甲は俺のや」と直毘人を煽って禪院家は半壊。

 直毘人は権力をちらつかせて夏油を京都に呼び出すも悟がそれに付いてきたせーで手甲の徴収もとい強奪は成らず、じゃあ呪具師を紹介してくれと悟の膝にすがり付かんばかりの勢いで頼むも「無理」と一言でばっさり切り捨てられた。

 

「そんな便利な呪具があったら呪術師の致死率が下がると思わんのか!? 五条、貴様には人の心がないのか!」

「人の心がない筆頭に言われても全然心に響かねーわ」

 

 それな、と夏油は隣で頷いた。東京高専の体術担当である伏黒甚爾が禪院家の生まれだってことなんて高専に三年も通ってれば自然と耳に入る。伏黒先生は禪院家では存在しない者扱いを受けていて、家出して「師匠」なる人の元で育ったらしい。

 三年生にもなれば色々なことを耳にする。御三家の横暴も、呪術関係者の中ではまともな方の伏黒先生が実家を嫌悪してることも知る。

 

 人の心がないなんて言われたって、「鏡を見たらどうだ」としか思わない。

 手甲を誰かにくれてやるつもりもない。これは夏油が友達に頭を下げて――友達が夏油のために手配してくれた物だ。

 

 だから、この手甲は真っ当な使い方をしたい。

 猿の駆除にはこの手甲ではなく――呪霊操術を使わないと。




短くて申し訳ない。
一週間前から腰が痛くて執筆どころじゃありませんでして……。

追記:
猿が非術師とは限らんですたい……。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。