黄昏より昏き以下略を貴様に唱えさせてやろう   作:充椎十四

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前話で補足しましたが、猿=非術師とは書いてないんやで。


その15

 手甲を手に入れてから夏油に振られる任務が増えた。睡眠時間を考慮せずみっしりと詰まったスケジュールには、夏油を疲れさせることが目的なのだろう、夏油が行く必要もないような任務から複数人数で当たるべき任務まで様々あった。

 御三家の縁者だという術師と共同任務に当たったとき、背後から斬りつけられた。殺気があからさまだったからひらりと逃げたけれど――あの刃は夏油の首を狙っていた。そういうことが何度もあった。

 

 貴様などが何故悟様に目をかけられているのか、と怒鳴られた。分かりやすい嫉妬だった。

 その手甲を禪院家に持っていけば金になるのだ、と要求された。金銭欲とか名誉欲とかのために殺されてやる謂れはない。

 

 この業界には糞しかいないねと悟に話したら「そういう世界だぜ、うちって」と何の慰めにもならない返答。「森◯蘭タイプとはまだ一緒に仕事したことねえんだろ? ならまだマシだ」なんて言われても全く嬉しくない。いや森◯蘭と関わることがないのは有難いことだけれど。

 「俺ん家はオフクロが我が家の森◯蘭でさ、やべーよ。分家にもあと五人はいる」と笑えない話をする親友や、他者に反転術式を使える術師だからと使い潰されそうな勢いで任務を回されている家入。糞を煮詰めたような実家と縁を切ったという伏黒先生。呪術界隈は、特に上が――腐っている。

 

 ぎゅうぎゅうに詰め込まれた任務のひとつは後輩二人との任務で、堕ちた産土神を相手にしないといけなかった。後輩のどちらも死ぬことはなかったけど――笑顔が爽やかな方の後輩、灰原は左足の膝の少し上までを食われた。もう一人の後輩、七海もぼろぼろで、夏油が灰原の太股を止血帯できつく縛り、背負って帰った。

 背負った灰原が一歩ごとに腐敗していくような、おぞましい感覚は頭を振って放り捨てた。

 

 家入の反転術式を受けて灰原は回復したけれど、病室前の長椅子に座る七海は真っ白な灰になったジョーのようだった。

 

「五条先輩なら無傷で討伐できたんでしょうね。……あの人がいれば自分達なんていらないんじゃないですか。なんで自分達が働くんですか」

「七海、いくら悟でも分身の術は使えないんだよ」

「はあ、まあ……そう……ですね……」

 

 夏油も、ほぼ何でも出来るようになった悟との間に距離を感じることは確かにあった。七海の言うとおり悟なら無傷で産土神を倒せたのではないかと思わないでもなかった。

 任務も受けずふらふらと国内外をふわついている一応特級術師(はたらけニート)の九十九が世界全員術師化計画やらなんやら語るのを聞いて「それもいいな」と心が動かされたりした。

 

 だけど――悟は親族のことで様々な苦労を負っている。七海のように後輩ではなくて、同級生だから。夏油は悟の努力を知っている。強ければなんでも出来るなんて漫画の話だ。むしろ強くなればなるほど色んな組織の(・・・)しがらみ(・・・・)に縛られていって、悟はどんどん身動きが取れなくなっていっている。悟の体はひとつしかないし腕も二本しかないのに。

 ――強ければ発言力や影響力が増すなんてただの幻想なのだ。抱えきれない荷物を押し付けられて進むことも退くこともできなくされるだけ。

 それに。人類をみんな術師にしたところで、呪霊は生まれなくなるかもしれないが……別の問題が生まれないか? みんなが術師になるということは、現在の呪術界の構造が世界規模で当てはめられるようになるということじゃないのか――つまり、御三家やそれに連なる一族の傲りに傲った連中が、全ての日本国民に対して権威を主張できる世界になるということではないのか。

 まともな者が上に立つならまだしも、今の上層部や森◯蘭の一人が上に立ってみろ。日本は終わりだ。

 

 というわけで結論。九十九の全人類術師化案は不採用、屑が増長するだけ。以上!

 

 でも……そうだな。屑がいるから選択肢が狭められてしまうというなら、今の上層部や森◯蘭連中を処分すればどうだろう? あいつらなんて生きてても無駄だし、邪魔なだけだ。あいつらが皆いなくなれば全人類術師化計画を進めてもいいかもしれない。

 もちろん処分するのは術師だけじゃない、屑は非術師にもいる。そいつらが生きている必要なんてあるのか? でも人殺しはなぁ……人を殺すのには二の足を踏む。――二の足を踏んでいた。

 

 黒々と隈が刻まれた目元を揉み、ため息を吐く。

 

「あーあ。人でなし(さる)どものせいで、何故私が悩み苦しめられなければならなかったんだろう?」

 

 自分達と違うからといって人を痛め付けるやつら……呪力がないからと伏黒先生をない者扱いした禪院家のやつらや、呪霊が見えるからと幼い女の子二人を牢に閉じ込めたこの村のやつらは、きっと人間じゃない。同じ二足歩行というだけの猿なんだ。人種が違うんだ。自分がホモサピエンスなら、あいつらはピテカントロプスなんだ。

 

 そうとも、世界から猿を取り除いて、善良な人類(・・)ばかりの世界になればこんなに苦しまなくていいんだ。

 たとえば悟、硝子、先輩に後輩、若手の術師のような善良な術師とか。

 たとえば伏黒先生一家、家族、落とした財布を拾って追いかけてくれた人のような善良な非術師とか。

 そういう人ばかりになればいい。そういう善良な人類だけで世界を作れたらいい。そう思ってるだけじゃ何も変わらないことを知っている。変えたいなら、動かなければ。

 

 蝿による腐敗を概念とする呪霊に命じて村人たちに卵を植えさせて、菜々子と美々子という双子の少女だけを連れて高専に戻った。植え付けた卵の成長は速いから――遅くとも二日後には真っ赤な臓物の花(バラ)畑が広がるだろう。

 

 連れ帰った二人は女の子で、幼児だ。彼女らの世話を頼めないかと伏黒家の部屋に行けば、先生は不在だったが奥さんがいた。ご飯の匂いが染み付いた指先に安心したのか、美々子たちが奥さんを怖がる様子はない。よかった。

 恵が脚にしがみついて「寝ろ、すぐる!」と夏油を布団に引っ張ったけど、外せない用事があるからと謝って伏黒家の部屋を出た。伏黒家のテレビには今日もスレイヤーズ。DVDと録画分をその日の気分で適当に選んでいるらしい。

 

 双子のことで大事な報告があるから上と話したいと補助監督に伝えれば、ニ時間後に面会が叶った。残念、全員は集まらなかったようだ――でも八人も駆除すれ(ころせ)ば少しは上もマトモになるはず。……ならないかな、どうだろう。

 

 その足で京都に移動して御三家の屋敷を襲撃して三十七人を駆除(ころ)し、その倍の数を戦闘不能にした。嬉々として夏油に飛びかかってきた禪院直毘人と直哉がいなければもっと掃除ができた(ころせた)だろうに。残念だ。

 

 翌日の昼過ぎ。人がいない駅で、全身汗みずくの悟に見つかった。線路を挟んで大阪市内行きのホームに夏油、京都行きのホームに悟。

 

「セーラーム◯ン! おまえ、なんで呪詛師に……!」

 

 悲痛な声で詰られた。――だが、これは世界平和のためなのだ。善良な人々が傷つかない世界を作るために必要なことなのだ。そう語れば悟は夏油をぎりりと睨む。

 

「なんだよそれ……何が人のためなんだよ」

「マーズ。私はね、腐った組織の上層部を一新させる手っ取り早い方法をとっただけさ。――腐ったところを切除すればいい」

 

 癌は切除しないと転移するし、イボは搾りきってしまわないとまた膿み始める。腐った部分をそのままにすると全体に腐乱が広がる。私は呪術界の外科医となり患部を切除するのだ、と夏油は親友に語った。内側から抗ってもどうにもならない。外部から破壊しなければ、この腐敗を止める方法はない。

 

 五条悟は激怒した。必ず、この暴走した夏油を殴らなければならぬと決意した。悟には普通の友人というものがわからぬ。悟は、高校デビューが学校デビューだったボッチである。『山』で漫画を読みゲームをし、甚爾と遊んで暮して来た。そしてアニメに対しては、人一倍に敏感であった。

 ――夏油がR2を見ていないことはよく分かった。上層部が任務をバンバン回したせいで忙しく、見たくても見られなかったんだろう。それは分かる。けれども……これでは悟がスザクで夏油がルルーシュになってしまう。

 今からではもはや遅いとはいえ――無印からR2まで全話視聴しろ。考察ブログを読め。ギア◯サーチを使えばたくさん見つかるから。

 

 それにセーラ◯ムーンで悪堕ちするポジションはちびうさだ。うさぎちゃんが悪堕ちしてどーする? ちなみに悟はまもうさ派で家入はデマうさ派。夏油は以前、ピュアな恋心がどーのこーのと主張してエリちびこそ至高とか言っていた。自分のあだ名がうさぎちゃんだからか「うさぎのCPは地雷です止めてください」と言っていた。

 

 そんな下らない会話を思い出して、悟の目から涙が溢れる。

 

「おまえさ……なんでそんなに極端すぎんの? 主人公なのに悪堕ちすんなよ。お前の主演作品セーラーム◯ンじゃなくて灼眼のシ◯ナだった?」

「君の例えはいつも漫画かアニメだな……」

「シ◯ナはラノベだよ!」

「知ってるよ」

 

 まるでどーしよーもないオタクが、まるでどーしよーもない悪堕ちオタクになった。魔王になってもかっこいいオタクは田◯和夫だけだし、物語だから楽しめるのであってリアルに悪堕ちはキツい。

 でも……悪堕ちするくらい追い詰められ、大変な思いをしていたのか。親友を自称してるのにそれに気づけなかったのか。

 様々な感情が悟の胸を渦巻く。

 

 大阪市内行きのホームに、電車が到着しますとアナウンスが響いた。悟は左手を上げて――大阪方面を指差す。

 

「……行けよ。俺はお前を見つけられなかった、そういうことにするから……死の外科医(笑)でもなんでもなっちまえよ、セーラ◯ムーン」

「マーz悟(ずァとる)

 

 三年近く、うさぎちゃんだのセーラーマ◯ズだのと呼びあった仲だ。お互いの名前をちゃんと呼んだ回数の方が少ないから――なんとも酷い別れ方だ。全く締まらないことこの上ない。

 でもまあ、二人らしいと言えば、そうなんだろうか。

 

「悟、私は世界を浄化してみせるよ」

「うっせ、キャラが痛々しいんだよ。アニメキャラか?」

「厨ニの君に言われたくないな」

「どこが厨ニだよ俺ただのオタクだし。黒歴史(ブラ◯クヒストリー)クッキーはネタでしかねーもん。……もういい、さっさとどっか行っちまえ。あと最後にアドバイスしとくけどコード◯アスレンタルして全話見ろよ、傑」

 

 電車の到着を知らせる軽快な音楽が流れ始め、止まったのは準急。

 

「傑! 京都で……特別な帳に隠された『山』を探せ! きっと手甲がありゃ入れる!」

 

 怒鳴るような大声が、車体を回り込んで傑の耳に届いた。

 ――京橋駅を出て右手にある階段を登り、一番近いネカフェでアニメを見た。久しぶりのアニメはなんだか懐かしくて、始めはくすくすと笑いながら見て……だんだん引き込まれていった。

 

 ルル◯シュ、見本にしてみようか。

 もちろん夏油はルル◯シュのように死ぬつもりはない。だけど、プライドと信念を突き通す姿は見本にしたい。形から真似をして仮面でも被ってみるか? いや仮面とか逆に恥ずかしいよな……素顔で活動する方がいい気がする。

 

 家入のよろず夢サイトを開いてコメント付き拍手に「ルルーシュ目指して頑張るよ。元気でね。あとすまないんだが家族の保護を頼めないか?byうさぎ」と書いて送り、黒背景に蝶が飛んでいるページを眺める。

 

「貴方は……一、十、百、千、万……96,467人目の夢見人です、か……」

 

 ――そうとも、夢を追おう。善人が悲しまない世界を作るという夢を。

 先ずはそうだな、悟の言っていた『山』を探してみるか。この手甲を作った呪具師がいるんだろう『山』を。

 

 そのしばらくあと。大阪から約五百キロ離れた東京の山奥で、目の下に隈を作った女子高生が悲鳴を上げた。世界的なビッグウェーブに乗って数ヵ月前に購入したばかりのア◯フォンを放り投げ、背の高い後輩の首を掴んで振り回しながら「夏油(あいつ)を殺せ! 今すぐニダ! 奴だけは生かしておけぬ!」と半狂乱になった姿が目撃されたとか、目撃されなかったとか。




拙作ってすごいよな。当時既に活動していたオタなら通じるネタたっぷりだもん。すごく自画自賛!

腰痛いわ転職先決まったから手続きとか色々あるわで、執筆優先で感想やメッセージに返信できてません。すまんせん。

追記
家族に引きずってもらい受診。MRI撮りました。腰の骨のすぐそばに炎症があり水が溜まっているそうで、それが原因だろうとのこと。R2という名前の腰サポーターとロキソニンテープ等々貰いました。これがなければ私は死ぬ。
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