傑くんが富士見ファン◯ジアな世界でほぼ不死身の魔族とファンタジー体験――マジカルパワーでお空を飛んで、せっかくリアル魔道師に「くっ殺せ!」って言われたのに言葉が通じないせいでキョトンとして、魔王シャブラニグドゥの欠片の抽出成功にバッタみたくピョンピョコ跳ね回ってたそんな時。呪術高専東京校の校舎正面出入り口前に黒塗りの外車が止まった。
朝礼とゆーには遅く、昼休みには早い。そんでもって今日は平日じゃない――そんないやーんな曜日のびみょーな時間にわざわざ校庭に集められた休日の在校生はみんな、仲良く顔を見合わせる。一体何が始まるんだ、お前知ってる? うんにゃ私にもさっぱり。せっかくの休みになんなのか。
後部座席のドアが開き、中からにょっきりと袴を穿いた脚が生えた――現れたのは禪院家当主だ。
当主より先に車を降りていた、京都校の在校生であるはすの禪院直哉が朝礼台の隣に走る。
「東京校生、総員傾聴!」
そして拳を背中に当てて胸を張り、整列なんてしてるワケがない東京校生に声を張り上げた。いきなり何言い出すんだコイツとゆー目もなんのその、ゆっくり台の側まで歩いてきた禪院家当主に頷く。
大きく頷きを返した禪院直毘人はカツンカツンと金属板を靴底で叩く音を響かせながら朝礼台に上り、腕組みして東京校生を睥睨した。
「儂は禪院家当主、禪院直毘人である!」
そんだけゆーと、朝礼台を下りてった。それには在校生、そして呼び出された教員全員ずっこける。
「塾長挨拶かよ!」
「あは、にあわねー」
先日二人だけになった三学年は思ったことをすぐ口に出しちゃう脳と口直結型人間なので、もちろん整列してないし態度も悪い。
当主と同じ術式を持って生まれた次期当主候補筆頭、禪院直哉は
「しゃーないやん、京都校はネタが分かる子ぉほとんどおれへんし。どーせならネタが通じるとこでやりたいーゆーてな、ほれ、アニオタ甚爾クンのおる東京校なら通じるやろ?」
そりゃ、「伝統と血統を大事にしてますねん、うち」とすまし顔してる京都校でギャグマンガのネタなんてできるわけもない。直哉は例外だ。
「えへん。ここに集まらせたのは他でもない。貴様らには、先日我が家を襲撃した呪詛師・夏油傑に代わって我々に弁償をしてもらう」
「あいつの連帯保証人になった覚えないんですけど。請求は夏油傑本人にしてください」
「そーそー。俺らに言われてもねー」
「はわわわ……」
態度が悪い三年に対し、これまでほとんど三年生と交流する機会すらなかった一年生の伊地知は可哀想に涙目だ。
「呪詛師夏油傑の襲撃により我が家は半壊した。――儂が集めてきた諸々も、半分以上が破壊された」
禪院直毘人は晴れた空を見上げ、そして視線を伊地知に向けた。可哀想な伊地知はガクガク震えてるんだけど、一年と交流が薄い
「おい、銀の力と言えばなんじゃ。そこのいかにも陰気なオタクっぽい一年、答えろ」
「えっ……せ、制汗剤……ですか……?」
確かに銀イオンの力で臭いの原因を抑制するスプレーはある。数年前から薬局に並ぶよーになった。
「バカもん! 銀の力と言えばシルバ◯仮面じゃろーが!」
七十一年放送の特撮なんて気弱少年伊地知くんが知るわけがない。理不尽に怒鳴られた伊地知くんは顔色がもはや真っ青だ。ちなみに光二がシルバ◯仮面に変身するための力は正確にゆーと『
「シ◯バー仮面をはじめとする特撮の、昭和平成ライダーたちを録画したVHSが、DVDが、補修不可能なほどに壊れた! あの呪詛師のせいでじゃ!」
「傑が襲撃したときオッサンたち嬉々として暴れまわってたって報告受けてんだけど」
禪院直毘人は悟の発言をまるっきり無視した。
「そこで、貴様らには今日まん◯らけ等の古本屋を巡り、今から配る書面の品目を探してもらう。むろん支払いは貴様らの財布からじゃ」
「なにその報復方法、けち臭っ」
「学生の貴重な休日と資産を奪うとか糞か?」
「やっぱ呪術師って糞なんだな……」
上級生が文句をさえずる影に隠れて七海もぼそっと呟いた。
可哀想な伊地知はまだ実力が足りないのとたった一人の一年生とゆーことから、任務に就いた回数が少ない。金満上級生とは事情が違う。ほとんど関わることのなかった上級生のために貴重な休みだけでなく貴重な貯金すら奪われるなんて、どー考えたっておかしい。おかしいけど、伊地知のためにそれを指摘してくれる上級生はいなかった。
配られた用紙は三枚にわたり、フォントサイズも上下左右の余白も小さい。伊地知はそれぞれの想定価格を見て小さく悲鳴を上げた。どれを見ても安くて二万、高いものは百万に届く――いくらなんでも無茶苦茶だ。
「おい、おっさん」
「なんじゃ」
と、これまで無関係のふりしてた伏黒甚爾はよーやっと教員の自覚を取り戻したのか、右肩を前へ押し込むようにずいと進み出た。直毘人と甚爾は叔父と甥の関係、面識はもちろんある。一緒にアニメを見たこともある。
「この参考価格ってのには疑問がある。こりゃー公式が販売したやつの未開封美品の店頭価格だろうが」
「もちろん。未開封レベルの美品以外受け付けん」
「アホ抜かすなこの糞じじい」
一覧には三十年やら四十年前やらの特撮やアニメまで含まれてる――未開封美品なんて存在するのか? マッハGOGOG◯とかはテレビで放送されたのを録画した分のよーだけど……数ヵ月前にタツノコ◯ロ五十周年記念ボックスが発売されたんだからそれでも買って我慢してほしい。お宝の近くで暴れた自分を恨んでくれ。
あと、万が一(公式が販売した)未開封の美品VHSがあったとすれば、それは
でも実際のところ、コレクターが死んでもお宝は市場に出ない。ハゲ鷹のよーな
ちなみに禪院家は『信用ならんコレクター』の最たるものだ。禪院のご先祖さんはみんな、他の術師の家系が滅びそうになるとそこから奥さんを迎え、「(お宅の当主が)死なはったなら、お宅の相伝とか呪具とか全部ウチのもんですわ」とかなんとか言って香典泥棒を繰り返してきた。さすが禪院全員汚い。すごく汚い。
だから禪院一族が多種多様な術式を持つのも、禪院の忌庫が他の二家を大きく引き離して多くの呪具を納めているのも、禪院のご先祖様がクズでコレクターだったお陰。――禪院家はオタク・コレクターの気質を数百年かけて醸成し磨き上げたオタクもといお宅だから信用しちゃいけない。
「市場に流通してないものを寄越せ、それじゃなきゃ受け取らないっつーのは無効だ。こっちはクソ忙しいってのに……京都に帰れや」
「そーだそーだ。休み潰しやがって。そっちこそ俺らの休みを賠償しろよ」
「同感~」
悟や硝子は「休みが潰れた」「休みを返せ」とかなんとか騒ぎだしたけど、実は今日は休日であって休日じゃなかった。学内一真面目な優等生()で知られた夏油が呪詛師に堕ちたことから、急きょカウンセリングが行われることになってたのだ――だから別に禪院に呼び出されたせーで休みが潰れたとゆーわけじゃあない。東京校に所属する生徒は全員校内にいたし、教員もカウンセリングのため休日出勤。
甚爾は虐待受けてた双子を預かってることから休日出勤の予定じゃなかったんだけど、禪院の当主が来るからストッパー係りとして呼び出された。
「……かえりてぇ」
禪院の当主――血の繋がりのある叔父に対し、伏黒甚爾は欠片も関心がなかった。だって数日前に夏油が伏黒家へ押し付けてった双子は今も「夏油様に捨てられたぁ」とか「夏油様どうしていないの……」とか言いながら泣いているのだ。損害賠償云々と騒ぐウザい身内と、痩せ細ってていかにも可哀想な双子ちゃんを天秤に乗せたら、誰が見たってどー考えたって双子の方が重要。双子の乗った皿が下がる。
なお、双子が恋しがってる夏油様もといドロップアウト青年ゲトーは京◯電車の御殿◯駅で悟と口論して近隣の腐女子に話題を提供したり、子連れの元人妻にクラクラしたり、異世界でリアル魔道師から「くっ殺せ!」とか言われたり、地球を救う使命に酔ったり燃えたりと、忙しくも楽しい日々を送ってるんだが、幼女たちはそんなこと知る訳もない。嘆き暮らしてる幼女を放って遊び回ってる夏油、全くひでぇ野郎だ。
「え、甚爾クンおウチに戻るん? ほんならボクついてこっと」
「はぁ? なんでお前なんぞうちに連れて帰らんならんねん。帰れ帰れ、京都帰れ!」
「えー? だって甚爾クンの子供ボクとおんなじ術式ねやろ? もし気に入ったら弟子にとったってもええよ」
「誰が『お前と同じ術式』や、めぐの術式はお前のとはちゃうわ。お前なんぞとうちのめぐが一緒なわけがなかろうが。それにたとえおんなじ術式やったところでお前には絶対に任せんわ、そのクソにクソを二乗倍したよな性格がめぐに移ったらどないすんねん」
「んー……甚爾クン、あんたバカぁ?」
地元の言葉にうっかり釣られて関西弁で噛みついた甚爾に、『家族愛って何ですのソレ』とゆー御三家の子息は呆れ顔でネタに走った。――自分にとって利用価値があるかないかで人を判断する。そーゆー環境で育ち成人した直哉には、甚爾が直哉を拒絶する理由が分からない。直哉と恵が同じ術式を持ってるなら恵は直哉に師事するのが一番の近道……せっかく直哉がやる気を見せているのに、個人の好き嫌いでそれを断るなんて馬鹿じゃーなかろーか。
「バカで結構コケコッコー。うちの子に手出したらただじゃ済まさんからな、これはフリとちゃうぞ」
「おー、こわ」
――直哉は甚爾と関わったことなんてほとんどない。理由は年が離れてること、甚爾がもう二十年近く前に家出した身であること、そして甚爾が呪力を全く持たないこと。千年続く名家である禪院家の中で、呪力無しのゴミと交流しようなんて者は全くいない。幼いうちから当主と同じ術式を発現していた直哉と呪力無しの甚爾が向かいあって話したことなんて片手の指ほどの回数しかないのだ。
『山』に目をかけられていることで甚爾の重要度は上がったとはいえ――呪力がないやつに価値はない。禪院家において甚爾はアンタッチャブルだ。
甚爾は可哀想な伊地知を置いてきぼりにしてグラウンドを離れ、死ね◯ね団のテーマを歌いながら寮に戻る。禪院直毘人と五条悟の喧嘩は学長が止めるだろう、きっと。もしかしたら。
甚爾を家で待つのは料理が上手い奥さんと可愛いちび二人、そして美々子と菜々子。
優しくドアを開けて、高めの声で「ただーまー」と言いながら我が家に首を突っ込む。コタツむりになってる幼女たちがぎょろりと大きな目で甚爾を見やった。その横で小学校の宿題をしてためぐくんがぱっと表情を明るくする。
奥さんと咲良ちゃんはソファーで昼寝してるよーだ。
「おとーさんお帰りー」
「ただいまぁ」
顔が怖いけど優しい
双子はまだ
「パパさん……おかえり……」
「……おかえり」
菜々子と美々子がぼそぼそと挨拶したことに、甚爾は優しそーに見える笑顔を浮かべる努力をして「うん、ただいま」と返事した。歩み寄ろうとする二人が嬉しかったけど、テンション上げたらまた心の距離が開きそうだ。
「お仕事終わったぞー。ママと咲良ちゃんは寝てるみたいだし、どうする? めぐの宿題終わったら轟◯号乗るか?」
甚爾は靴を脱ぎ捨てて玄関すぐ横の洗面で顔と手を洗い、三人に屋外での遊びを提案した。双子を家の中にいさせたらキノコが生えちゃいそーだもんで。
即座に「乗る」と手を上げためぐくんは「すぐ宿題終わらせるから!」と小声で叫んで真剣にわら半紙と向き合い、双子は顔を少しのあいだ顔を見合わせてから頷いた。轟天◯は名前こそゴツゴツしてるけど何の変哲もない自転車だ。ちょっと手を加えてるせーで公道を走れないけど。
道路交通法や都道府県の規則では「荷台や籠の左右十五センチを超えて荷物がはみ出したらいけません(※東京都)」って決まってるんだが、轟天◯はその規則に違反している――なんせ後ろの荷台に長い板をくくりつけてあるのだ。
離れたグラウンドから爆音が届くなか、寮の周囲には自転車の後輪の上にくくりつけた板の左右に座る双子と甚爾の背中に貼り付いた恵の笑い声が響く。
「「よー、ごれー、ちまーあたー、かーなーしーみにー」」
甚爾と一緒に歌うめぐくんの持ちネタは、九九だ。
九九八十八ィ!
ネタらっきょ、もとい列挙
・塾長が世界最強のギャグ漫画
・洗面所にあった制汗剤
・銀(※英語)仮面はさすらい仮面~♪
・マッハ行け行け行け(※英語)。製作陣が誰一人として運転免許を持ってなかったレースアニメ
・未確認少年
・新世紀の方のアスカ。
・虹男。「死ね」って歌詞が百回くらいある
・わたしの救世◯さま。タイトルまんま
・究極超人。一台に十人乗っちゃう自転車だぜ!
・田沢の九九。学校で訂正されるまで九九は八十八。