黄昏より昏き以下略を貴様に唱えさせてやろう   作:充椎十四

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本誌派が本日瀕死の重傷になることは確定的に明らか。


その21

 うずまきで抽出した魂の欠片を手に「だぁいせぇこ~!(cv栗田◯一)」と地球に戻ってきた夏油は今、正体を隠すスーツに身を包み、この世の悪と戦っていた。

 

 悪を見つけるのは簡単だ。先ず、名字が禪院であること、ふてぶてしそうな顔をした男であること――この二つを満たした者は間違いなく悪の手先なので、夜闇に紛れて襲撃しても許される。悪は討つ、それが正義だ! やり方が良いも悪いもないのだ!

 

 夏油は禪院の男を路地裏に引きずり込んだ。

 

「なんだ貴様ッ俺を躯俱留隊(くくるたい)の者と知っての狼ぜっ」

 

 無言で殴る。倒れたそいつに馬乗りになってウッーウッーウマウマ。バルサミコ酢やっぱいらへんねん。

 

「がっ」

 

 問答無用で殴る。悪の甘言に耳を傾けてはならんのですよ! 屁のつっぱりはいらんですよ!

 

「おっ」

 

 殴って殴って。

 

「ごっ」

 

 殴りまくる。それが私だ!

 

「ぉぐ」

 

 正義の味方(◯ッキーマン)

 

 しばらく殴って呻き声すら上げらなくなったそいつの顔に『正義執行』と書いた半紙を貼り付け、最近(拳で)調伏した呪霊に乗ってその場を離れる。

 一日に一個善行をするんじゃなくて一日に一人ずつ禪院を潰すイチニチイチゼン、今日の自主課題もクリアだ。

 

 ――夏油が弱きを助け強きを挫く世直しを始めたのは、この世には数えきれないほどの悪人が蔓延っているからだ。それと『山』にいたくないからだ。

 ついこないだ……って言っても二ヶ月は前のこと。この世を憂えていた悩める青年・夏油くんは悪を浄化するとゆー崇高(すーこー)な使命に目覚め、身近な巨悪・禪院に対して「土下座しろ、消毒されてぇか」とパンチの利いた喧嘩を売った。なんたらの拳ネタだけにパンチが利いているとかなんとか。

 それからとんとん拍子で高専をドロップアウトし、えっちな人妻と出逢い、『山』に行き、シャブラニグドゥの抽出に成功し、リタにそれをプレゼントし――今は世界から悪をなくすために趣味でヒーローをしてる。夏油は時代を先取りする男なのだ。

 真正面からワンパンする真っ当なハゲマントと違って、夏油がやってることは誰が見ても卑怯千万と叫ぶよーな闇討ちだけども。

 

 で。現在の夏油の保護者である『山』のあの人ことリタは夏油を放置して何をしてるのか? 実をゆーと、リタはこのところ胃痛で寝込んでいた。原因は食いすぎといえばまあ食いすぎなんだけど、食ったのは料理や人の負の感情ではなく――シャブラニグドゥの欠片。いくら消化吸収に強いリタとは言え一息にシャブを吸い込んだのは失敗だった。うずまきのお陰でシャブラニグドゥの魂の欠片とは思えないくらいのサイズに圧縮されてたから「こりゃ一息でいけるわ」と簡単に考え、ヒョイパクゴックンと飲み込んだのがいけなかった。

 酒も薬物も大量摂取すれば急性中毒になるもんで――シャブの大量摂取も体に悪かった。魂はグラム換算できないのだが、例えるなら、リタは自分の体重の九割くらいの量の肉を一度に食べたようなものなのだ。消化が追い付くわけもない。

 テレビから這い出る貞子よろしくあーだのうーだのと唸りながら家の中を這いずり回るリタと同じ空間にいたくなかった夏油はえっちな人妻(みーつきちゅゎ~ん)のところに逃げた。だって怖いんだもん、呪霊と違って倒せないし。

 

 その際の手土産になったのは御三家からリタに捧げられている供物……一般市民には手が出せないよーな高級食材だ。消化不良で半死半生のリタが人間の食事をできるわけもないし、私が有効活用してやろう。有り難く思ってくれ――腐らせるよりマシだ。

 訳あって物納しかできないんですが、タダで泊めていただくのは心苦しくて……、食べていただければ食材も喜びますから、云々。貰い物を右から左に流してるだけの癖にいけしゃあしゃあとそんなことゆーんだから、夏油の面の皮の厚さが分かろうとゆーもんだ。測ったら五センチくらいあるんじゃなかろーか。

 お高いお肉に喜んだのは宗介くんだ。子供とゆー生き物は金額で満腹感を得ない生き物だから、控えめにちまちま食べてる母親と祖父なんて見ちゃいないし気にしてもいない。ひたすらに(あなた)だけ見つめてる、肉でハイテンション。美味しいから仕方ないね。玉ねぎも甘くて美味しいから食べてみない?

 

 そんな風に餌付けしたことで、宗介くんの夏油に対する好感度は爆上がりした。夏油が週に二三度の頻度で武田家に行く度にダッシュで飛び付いてくるし、目をキラキラさせながら「ぼく傑にーちゃん好きだよ!」とアピールしてくる。

 (ママ)を射んとすれば先ず(むすこ)を射よ、とゆーことか?

 

 ――高専を飛び出してから、親切で温かい武田家や、武田家に通ううちに仲良くなった武田家の向い――野良猫のパラダイスと化してるお宅の老婦人・黒山さん、二軒隣にある築五年くらいの真新しいお宅に住む佐東夫妻とその息子の剛士くん、その他、彼ら以外にもいっぱいの出会いがあった。世間にはまともな人間(・・・・・・)がたくさんいた。

 だけどその逆の、クソみたいな人間もたくさん見た。酒に溺れて家族に暴力を振るう者、女子高の近辺に出没しトレンチコートをガバッとやる変態、生徒を指導する立場を利用しハラスメントを繰り返す教師、その他いろいろ。

 そこには「非術師だから」「呪術師だから」とゆー違いなんてなくて、どの業界にいようがどんな職業適性があろーが、クズはクズだからクズなのだ。夏油は悟りを開いた。なんせ夏油の親友は五条()、夏油が悟りを開くのは二重の意味で簡単だった。

 

 ダーウィンの進化論は語る。生物は自らが生き延び種を残すために、他の生物――特に同種の生物と競争をする。つまり生物は種を残すために生きている。だが……人類に害しかもたらさない奴ら(クズ)は、その存在自体が生物の目的である種の保存に反する。つまり奴らは人類の存亡を左右する敵だ。

 人類の敵を倒し人類の生存と安寧を守る。なるほど大義名分はバッチリだ。汚物は消毒しないといけないし、正義の名の下に嫌いな奴ら(クズ)を成敗できるし、夏油は(ゼロスにもらった)異世界の装備に身を包み、身バレ防止のため顔も包み、夜の街を彷徨った。

 

 そんな夜勤を始めて、何週間が過ぎただろうか。夏油は暇だった。

 ――雨にも負けず、風にも負けず、近畿のこの近辺は雪が降らないから負けるも何もなく、夏の暑さはまだあと数ヶ月後にならないと分からない。

 人より丈夫な体を持ち、性欲も人並み以上。「決して傲らない」とは口が裂けても言えないし、静かに笑うことより鼻で嘲笑うことの方が多い。

 一日に四合以上の白米と味噌汁と少しの野菜、そして多量の肉を食べる。あらゆることを自分本意に判断をくだし、恩と借りは忘れても恨みと貸しは決して忘れない。

 住宅街にあるプレハブ工法の住宅に入り浸り、東に頭が病気の変態がいればそこへ行ってぶちのめし、西にパワハラで疲れきった社会人がいればその職場に行って主犯をぶちのめし、南に虐待で死にそうな子供がいればそこへ行って保護者をぶちのめし、北に喧嘩っ早い禪院がいればそこへ行って天誅をくだす。

 一人の時は友人の夢サイトをひやかし、『山』の中をあちこち走り回って体力を維持する。禪院から危険人物と睨まれ、当然だけどその行為を禪院に喜ばれることもなく、むしろ殺意をもって迎え撃たれるようになり……そういうヒーローに、夏油(わたし)はなりたい。

 

 雨ニモマケズっぽい詩を捻り出すくらいの暇人らしい。真面目なことについても不真面目なことについても、あれこれ考える時間はたっぷりあったということだ。

 夏油のヒーロー像と一般的なヒーロー像との間には著しい解離があるようだがツッコミは不在だった。

 

 お気楽極楽で詩作活動ができるよーなニートでストレスフリーな毎日を過ごしていた、ある夜のことだ。禪院の当主の弟、たしか名前は葬儀だか抗議だかって名前の中年(おうぎ)が夏油の知り合いを――以前東京高専に来た幼女二人を足蹴にしてるのを夏油は見てしまった。場所は禪院家敷地内ながら人の耳目がない裏庭の外れ。

 夏油は調伏した呪霊から滑り落ちるようにして禪院家の敷地内に着地。ここから夏油の罪を数えていこう。一つ目の罪は住居不法侵入。でも被虐待幼女を助けるためなので許されるはずだ。逮捕されても不起訴相当。

 突如現れた気配に扇は振り向き様に刀を振り抜いたものの、なにせ夏油の装備は異世界製。どかーんだのちゅどーんだのとゆー「爆発落ちなんてサイテー!」な世界(ドキドキワールド)で作られた防具が地球産の武器を防げないわけがない。引き斬ることに特化した薄くて脆い刃は悲鳴みたいな音を立てて折れ、空を飛んで飛んで飛んで飛んで回って回って回って回る。二つ目の罪は器物損壊だけど正当防衛で許されるかもしれない。斬りつけてきたのは相手さんだし。

 

「貴様、何奴!」

「通りかかりのヒーローだ。正義を執行するため参上した」

「正義を執行……貴様、このところうちを狙っt」

「問答無用天地無用!」

 

 夏油は岡山に宇宙船が落ちるインパクトの一声を放ち、地球には存在しない凄く硬い物質で包まれた拳(チートパンチ)を真っ直ぐ前に突き出した。自分の殻に閉じ籠って他人との会話を大切にしないタイプの夏油だ、話している最中の他人を殴ることにためらいはない――ヒーローアニメでは忌避される行為ベストスリーに入る行為だが。とゆーわけで夏油の三つ目の罪は暴行。これでうっかり扇を殺したら暴行致死で殺人罪になるかな、でも扇は銃刀法違反の得物を持ってるから正当防衛になるかもしれない。

 

 せい少年・夏油は一発(ワンパン)程度で満足できない体なので、そのまま六発とかやっちゃうんだ。拳を引いては突き刺し引いては突き刺し、打つべし! 打つべし! えっちな意味じゃないよ!

 

 ――正義とは何か、正しい行いとは何か? 少なくとも一方的に他者をタコ殴りにすることではない。しかし、学校で教えてくれる道徳も、日本の刑法も、正当防衛や緊急避難を認めている。

 つまり夏油の行為は道徳的にも法律的にも許される。繰り返し同じようなことを言ってしつこいと思うかもしれないが、大事なことなので何度でも繰り返す。夏油の行為は罪にならない。正当防衛なのだ。だから正義だ。

 正義の力によって顔の形が変わってしまった扇の上から下り、怯え震える双子の前に夏油は膝を突いた。

 

「――君たち、私が去ったら大人の人を呼びなさい。突然現れたヒーローにこの男がぶちのめされたと伝えれば君たちに害は及ばない」

「ひ、ヒーロー? って、何?」

「緋色ぉ……とか? じゃない? 違う?」

 

 仮面の下で夏油は泣いた。エシディシほどの強い男でも泣いて感情を制御するんだから夏油が泣いたらいけない道理はない。大声を出すと人が来ちゃうから小声で「あぁんまりだぁぁ」と泣いた。

 

「私は世界に笑顔をもたらすため……皆を笑顔にするために世直しをしている。ヒーローとは、世直しをする人のことを言うんだよ」

「世直し……」

「まき知ってるよ! ウルト◯マンってゆー人がいるんでしょ? お兄さんもそうなの?」

「そんなものさ」

 

 殴ってくる親より殴らない不審者の方が好感度が高いのか、二人は夏油への恐怖を一瞬で放り捨てた。キラキラ見上げる二人の頭を優しく撫で、夏油は立ち上がる。はやく離脱しないと禪院の者に見つかる可能性が高くなるし、そーなると一日一禪じゃなくて一度で全禪になってしまう。生活の張りがなくなったら困る、間違えた、夏油は堅実なのでじっくりやっていくつもりだ。

 

「じゃあね」

「またね」

「またきてね」

 

 笑顔で別れたその三日後。夏油が襲いかかった禪院の男は、夏油を指差してこう叫んだ。

 

「貴様、世直しマンか!」

「なんて?」

 

 夏油は知らない。扇が襲われた件について、呪力を全く持たない真希に聴取はなかった。呪力を持たない者は人間ではないから聴取する価値もない、とゆークソみたいな判断だ。聴取を受けたのは多少なりとも呪力を持ち、術式も持つ妹の方――真依。

 真依は体格の良い躯俱留隊の隊員たちや(へい)に所属する術師たちによる威圧的な詰問にてんぱり、こう言った。

 

「ち、父上を、な殴ったのは、よ……よ、世直しマン?」

 

 世直しとウ◯トラマンがごっちゃになった結果だった。そして禪院家当主がアニメや特撮好きだったせーで、報告を受けた当主は「よwなwおwしwまwんw」と腹を抱えて転がり回り「ドゥヒーwwその名前で通達を回せwwww」と名前を定着させてしまった――それが夏油の運の尽き。一度定着した名前とゆーものは後々まで引きずるもんなのだ。たとえ別の名前を名乗っても「自称✕✕だが通称は◯◯」とかって呼ばれ方をするのだ。

 かくして夏油は太陽系で最初のリアルヒーロー・世直しマンとして、その名を呪術業界に轟かせることとなる。




ネタらっきょ
・とある三代目怪盗の声優
・Pを殴る真
・牛丼一筋
・ラッキーで勝つヒーロー
・世紀末伝説
・ワンパンで倒すヒーロー
・伝説のバスケ漫画
・貴様の罪を数えろ
・勇者ラムネス
・テレビ版天地
・ありゃーただの下ネタだ。すまん。読者に元気になってほしかっただけなんだ。でもえっちな意味じゃないよ!
・Heeeeeeeeeeyあぁんまりだぁぁぁぁ
・世直しマンは世界にヒーローの概念を作った男じゃけぇのぅ

追記1
✕ワムウ◯エシディシ、報告有難うございますミスってた恥ずかしい
追記2
加筆修正しました。
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