リタがシャブを吸ってから三ヶ月とちょっとが経ち――リタ・ギニョレスク、完全復活。他人のシャブをしゃぶったことで魔王としての力はほぼ倍増、できることが増えた。苦しんだ甲斐があったとゆーもんだ。
「正義のヒーロー活動してますって言ってたけどねぇ……」
京◯テレビで流される地元ニュースでは、ヒーローを名乗る不審人物が出没しているとゆーアナウンサーの注意が繰り返し放送されている。やってることはマトモなんだけど見た目がマトモじゃないから警察も困ってるよーだ。
首から下はいいのだ。いかにも
夏油は身バレ防止のために頭に晒しを巻き付けてるんだが、これが何よりも問題だった。『山』を出る時には大人しく晒しの中に顔も髪も収まってても……風の強い上空を移動する間に晒しが乱れ、直し、また乱れ、直しとゆーのを繰り返す。そして最終的にどーなるのか――志々雄◯実と月光◯面を足して二で割ったよーな見た目になってしまうのだ。
指差して笑えるレベルを越えていた。いや、これが他人なら腹を抱えながら指差して笑っただろーけど、じぶんちに下宿してる子がこんな姿で公共の電波に乗ってみろ、全く笑えない。はやくなんとかしてやらないと。
布はダメだ。晒しと変わらない結果が見えてる。じゃあ被り物はどーだろーか、タイガーマスクみたいなやつ……新◯本プロレスの悪役っぽくなりそうだからやめとこう。バイク用のヘルメットは――詳しくないからパス。お祭りで売ってる仮面は視野が狭すぎるし顔を隠しきれてないからダメだ。
うんうん悩んでたリタに、ゼロスが言った。
「彼、禪院家から『世直しマン』と呼ばれているそうですよ?」
「そーなの? そっか……世直しマンリスペクトか……」
リタは悩んだ。あの無駄にトゲトゲの付いた兜は作ろうと思えばまあ作れないことはないんだけど、視界が狭まる。あと重い。お手軽な世直しマンっぽさとゆーと便座かゴキブリ……便座っぽい先端をつけた棍棒とか武器として渡したら喜ぶだろーか?
考えてみよう、ファンタジー装備を身につけて便座ステッキを持った男の姿を。――誰が見たって罰ゲームの被害者でしかない。これは酷い。リタは一般市民レベルのファッションセンスの持ち主なので、そんな
夏油の尊厳は守られた。良かったね。
ゼロスの
リタは悩んだ。悩みに悩んだ。姿勢を変えたら迷案が浮かぶかもしれないのでブリッジしたり、美味しいご飯を食べたら妙(な)案が浮かぶかもしれないので松◯牛のステーキをわさびと塩で美味しく頂いたり、ドキドキハラハラしたら愚案が浮かぶかもしれないのでデトロ◯ト・メタル・シティを観ながら「FA◯K!」と叫んだりした。でも何も思い浮かばなかった。
リタは無力だった。魔王なのに。
そんな間にも志々雄仮面の噂はじわじわとローカルから全国区に広がっていっていた。全国放送の番組は主に京都府と大阪府に出没する怪人ミイラ男に大盛り上りで、雛壇のお笑い芸人が「顔を出せない理由があるんでは?」とか笑いながらコメントした。そんなこたぁ見たら分かる。
リタの焦りや心配なんて知るよしもないんだろうが、怪人ミイラ男こと夏油は「見た目なんて二の次三の次ですよ。悪を討ち正義を執行できればそれで良いんです」とか自信満々に胸を張って言っている。ヒーローはイメージも大事だというのに。今こそ呪術界の森◯蘭な皆様を思い出せ……ツラが良ければ善人に見える。森◯蘭は顔が悪いから読者に嫌われて、天◯地獄はツラが良いからファンが出来た。繰り返しゆーけど、見た目は本当に大事なのだ。
夏油は甚爾の教え子で、悟の親友だ。なんとかしてやらなければならない。リタは焦っていた。
そんな時、とあるアニメの再編集版がテレビ放映されるというニュースが流れた。ニュースって言ってもアレ、番組と番組の間のCMだ。
八十年代後半から九十年代前半の頃にテレビで放映され、原作に追い付いたら大変だからって一話まるごと声優が頑張ったりしたアニメが再編集。
――夏油は大阪のエロいお姉さんちでご相伴に与ってるから、リタの今日の晩御飯はうまか◯ちゃん辛子高菜味にシャウエ◯セン三本と半熟卵を入れて、夏油が東大阪で買ってきた七味唐辛子をこれでもかと振りかけた。最近のインスタント麺はクオリティが高い。一工夫するだけでお店に負けないラーメンを食べれるのだ。
ズゾーと麺を啜ればラーメンスープがぴりぴりとテーブルに散る。
啜りきって、口許をぬぐう。
これだ。
主人公たちの身につける鎧は
翌日の夕方『山』に帰って来た夏油はリタから話を聞くや、一も二もなくコクコクと何度も頷いた。
「それでお願いします!」
「うむうむ。私にかかれば変身なんてチョチョイのチョイよ」
さて。巷に溢れる正義のヒーロー像とはいかなるものか? 有名どころのヒーローたちの顔を思い浮かべてほしい――『正義のヒーロー』と言うものは世間一般に正体が明かされないものではなかろうか。洗脳される前に逃亡したバッタ怪人とか、五色のカラーリングが分かりやすい戦隊の方々とか、顔も声も何も変わってないのに周囲に身バレしないセーラー服姿の美少女戦士とか、悪魔になっても人の心を失わなかった少年はちょっと例外かな、正義の味方も敵の方々も仲良く同じコスモス荘に住んでた彼とか。故に、正義のヒーローの正体が明かされないというのは――美学、鉄板、テンプレート、その他様々な言い方があるだろうが――お決まりなのだ。
ヒーローたるもの、誰だ、誰だ、誰だ~と歌われなければならない。もしくは、どこの誰かは知らないけれど~と歌われなければならない。それがヒーローの美学ゆえに。
次に……と言うより実はこっちが本題なんだが、正義のヒーローには進化が必要。危機に遭って新たな力に目覚め、パワーアップして難敵をぶちのめさなければならない。何故かってそれが男のロ・マンならぬ男の浪漫だから。サナギ◯ンだってセーラーム◯ンだって多段階進化するし、敵だって「あと三回の変身を残しています」とゆーのだからヒーローだって五回くらい変身して良いはず。
とはいえ、変身には準備が必要――研究所から逃亡したバッタ怪人は改造手術によって変身能力を手に入れ、宇宙から現れたウルトラな男は事故死からの合体、古代エジプトの王を宿した少年は十年かけてパズルを解いた。だから、そう、
だが夏油は
リタが夏油の秘孔を突いて背中に埋めた赤い石は甚爾や悟に植えられた石の三分の一の大きさにも満たない。シャブ倍ドンでリタの力が濃縮されたから? いいや違う。ではなぜ小さいのか――リタが夏油に求めてることが、彼が魔道師として育つことじゃあないからだ。魔力なんてちょぴっとでいい。日本人の平均寿命の五倍くらい長生きして、リタのためにシャブラニグドゥの魂の欠片を抽出し続けてもらうことが一番重要。そんな早くに夏油に死なれたら困る……次のシャブ憑き人間がいつ見つかるか分からないのに。だから夏油用の赤い石は寿命を弄るのがメインで、魔力を精製する機関はオマケ。変身スイッチもあらよっと神経に繋げてあげた。
心配しないで、変身のオマケにちょっと体を改造するだけなの。ちょっとだけだってば本当本当、インディアン嘘吐かない――けど秘孔は突く。本人も変身したいって言ってたからちょっとの改造くらいなら本人の意思が伴ってるんだよ石だけに。「この赤い石って何ですか?」って質問に「エイジャの赤石(っぽいもの)」って答えたら「Wrrrrry!!」って本人も大喜びしてたし大丈夫大丈夫、オールオッケー
ちなみにエイジャの赤石は人間を進化させるパワーを持っていて、リタの赤石は人間を辞めさせるパワーを持ち、そして路代・赤石は女子高生を天草四郎にするパワーを持っている。
話を戻そう。夏油は進化できる方の赤石を期待してたのに石仮面を被せられたわけだが、その際、本人への意思確認はなかった。刑事事件の容疑者だって手錠をかけられる時には「貴方には黙秘する権利や弁護士を付ける権利があります」って説明してもらえるし、おうちを買う時には宅建士さんが瑕疵担保とか色々説明してくれるのに、人間を辞めるとゆー重要事項の説明義務は全く果たされてなかった。法律で規制されてないからだろう。
半年もすれば夏油は人間を辞め、ニュー夏油になる。魔族と契約した人間の末路なんてこんなもんだ。仕方ない。騙されたお前が悪いのだ。クーリングオフ制度? 魔族の社会にそんなもんあると思ったのか?
石が小さかったお陰で夏油の準備期間は半年足らず……背中の秘孔に埋め込まれた石はあっさり溶けて消えた。
そのころ季節は既に梅雨。イギリスでジューンブライドが人気なのは花がたくさん咲いてて気候が良いからなんだが、日本の六月は雨が多い。憂鬱な気分になる人が多いからか略奪婚された男女の恨みゆえか呪霊もあちこちに発生している。
正義のヒーロー夏油があっちに飛びーのこっちに飛びーのと忙しく除霊していた、六月のある日のことだ。
――志々雄みたいな状態の晒しの下、夏油は激怒していた。必ず、かの邪智暴虐の者共を除かなければならぬと決意した。夏油には子育ての苦労がわからぬ。夏油は、まだ大人の仲間入りしたばかりの半人前である。リタのもとに居候し、禪院を殴って暮して来た。けれども邪悪に対しては、人一倍に敏感であった。
きょう未明、夏油は『山』を出発し、市街地を越え山を越え、数十キロは離れたこの町にやって来た。夏油には恋人はもとより女房など無いがデートしたい女ならいる。
夏油はそれゆえ、デートスポットの下見兼ヒーロー活動のためあちらへこちらへ行き――窓ガラスが割れ、蔦が這う廃墟化したマンションに一人潜り込む少年の姿を見つけたのだ。
人の目を避けて地上に降りる。マンションの表面は豊かに繁る蔦で青々としている。細い水路と川に挟まれるようにして建ったマンションは三階建て。向かって左手の部屋の窓ガラスは割れ、網戸もない。
廃屋だ。だけど、人が出入りしてる跡がある。
蜘蛛の巣を払いながら中に入って階段を上った。二階――じゃないな。三階――ドアが空きっぱなしの部屋に靴のまま上がる。
夏油はまず、部屋の角で丸くなっている少年が小さいことに気がついた。小学校中学年かそこらかって体格だ。そして少年の髪がザンバラなことと、夏に合わない厚手の長袖を着てることに目が止まった。
袖から覗く手は骨張っている。服の上からでも分かるくらい肩は細く頼りない。砂を踏みしめる音にびくりと体を震わせて腕の間から夏油の姿を窺う様子は、怪我を負った野生の獣を思わせる。
夏油の見た目がアレだったからか、少年はびっくり眼で顔を上げて、まじまじと夏油を見た。――少年には、顔の右半分を覆うような酷い傷跡。
これは……少年の家が貧しくて痩せているとか、貧しくて着たきり雀なのだとか、そういうのじゃあない。
夏油はこれまでずっと恵まれてきた。呪霊は見えないが優しい両親と、顔も性格も生意気な妹……家族仲は良い方だ。高専に入ってからは気の置けない親友もできた。尊敬できる教師にも出会った。今は親友の親みたいな人()が面倒を見てくれてて、気になる女性がいる。夏油は恵まれて育った。
志々雄みたいな状態の晒しの下、夏油は激怒した。必ず、この子を傷付けた邪智暴虐の者共を除かなければならぬと決意した。夏油には子育ての苦労がわからぬ。夏油は、まだ大人の仲間入りしたばかりの半人前である。リタのもとに居候し、禪院を殴って暮して来た。けれども邪悪に対しては、人一倍に敏感であった。
正義のヒーローは義憤――怒りで強化される。サ◯ギマンの怒りが頂点に達したときサ◯ギマンはイオ◯ズン間違えたイ◯ズマンに変身するし、悟空だって「クリ◯ンのことかー!」と怒って強化された。
だから夏油も感情が高ぶると変身する。
「す、スーパーサイヤ◯……?」
逆立った髪は金色に染まる。なんかそれっぽいエフェクトが夏油の周囲に小さな嵐を巻き起こし、志々雄な晒しがほどけて宙を飛ぶ。サングラスも割れたかなんかして消えた。顔もどことなく鳥山絵、もしくはあーみん絵っぽい。
夏油は気が高ぶると変身するよーになった。まさしくヒーロー、これぞヒーローの鑑。スゴイぞーカッコいいぞー!!
大事なことなのでもう一度。気が高ぶると、興奮すると変身する。
それは、つまり。
夏油は――夏油はToラブると変身する。怒りで興奮しても性的に興奮してもスーパーサイヤ◯になる。怒りも性欲も感情が昂ってることに違いはないもんで、エキサイトしたらエレクトと同時にエボリューションするのだ。とんだ初期不良、リタが変身スイッチの設定をミスったと言う他ない。
夏油の精神修行は始まったばかりだ。
もとネタが思い出せない人のために
・疾風のように現れるおじさん
・1号
・月の代理人を名乗るお仕置き少女
・わかるマン
・はぁードッコイドッコイ
・疾風のように去っていくおじさん
・上司にほしい悪役
・某カードゲーム初代
・岡本主演映画
・広範囲攻撃魔法
・ドラゴン萌え社長の嫁賛美
二日前くらいに割烹を更新してますが、中身は転職報告とかそんなんです。