黄昏より昏き以下略を貴様に唱えさせてやろう   作:充椎十四

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短くてごめんよ


その24

 時は2013年――夏油がやばい宗教に取り込まれてからだいたい四年が過ぎた。そこで夏油は何をしてるかってゆーと、教団の子供を指導する塾長なんてゆー地位を与えられ、全身全霊の善意でもって信者を増やしていた。

 呪力を持った子供を教団で捕獲ゴホン間違えた保護しては言葉と拳の両刀使いでヤバい思想に染め……もとい世界平和のために粉骨砕身できる良い子に矯正し、着々とカルト教団の戦力増強……もとい親切の輪を近畿圏に広げている。夏油にはまっすぐな善意しかないけど、やってることは戦争の準備である。京都高専は戦いの準備を始めておいた方がいい――抗戦だけに。

 

 教団の塾に通うタカシくん(十五歳)は大阪府◯方市に住んでいる。将来の「便利な手足」として思考誘導を受けているタカシくんと熱烈なカルト信者の両親の一家はたいへん家族仲が良く、休日にはみんなで石◯水八幡宮にサイクリングに行くなどしている。ありふれた幸せな家族だ。

 京都の田舎に住んでいる東堂葵くん(十三歳)は師匠である特級術師・九十九が「もう入学までの間は自主練でおっけー!」と途中で指導を投げ出してしまったので、あちこちの呪霊スポットを巡り一人で鍛練を重ねていた。休日を利用してチャリを漕ぎ、八幡市は石清水八◯宮まで来ていた。

 

 呪力使いは引かれあう……わけじゃーないけど、一目見りゃ術師かそうでないかは分かる。タカシくんが術師だとゆーことは術師の目から見れば明らかだ。近いうちに術校から勧誘を食らうかもしんない。

 ――葵くんは、自分と師匠以外の術師をこの日初めて見た。でも自分のよーに力を持て余すくらい元気一杯ってわけではなさそうだし、平和ボケした顔だ。つまらねーと興味を失って視線を外しかけた……その時だ。

 タカシくんはさっきまでの笑顔を忘れたような能面で、両親の近くにうっかり寄ってきた中級呪霊を切り裂く。その手に武器はない、手刀だ。つまりチョップで霊を切った。

 葵くんの目が輝く。葵くんは強い奴が好きだ。葵くんの地元には葵くんと殴り合えるような骨のある奴は今や一人もおらず、呪霊いぢめで憂さを晴らしていた――どこかで聞いた覚えがあるよーな思考回路だ。盗賊いぢめでストレス解消してた魔道師とそっくり。

 

 しぶとい奴、強い奴はつまらない人生に彩りをくれる。葵くんにはタカシくんが新たな彩りに見えた――カルティックな土留め色のマーブルを彩り(・・)と呼んで良いのかは分かんないけど。

 

「なあお前、呪術使えるだろ」

 

 葵くんはそーやって、ヤバいところに自ら首を突っ込んだ。

 

 ――「世のため人のため呪術を使うべき」とゆー塾生と、「世なんざ知らん人なんてもっと知らん自分のためだけに呪術を使って何が悪い」って考えてる葵くんとは、相性が悪いよーに思える。でも塾生はそーゆー香ばしい思考回路の相手に慣れていた。塾生が時々お掃除(・・・)している呪術師や呪詛師のみなさんは判で押したよーに「俺が俺が」と我が強くて自制心は弱く、プライドは高いが遵法意識が低くて性格が悪い。

 それに比べて葵くんはどうだ? 自意識は少々ならず過剰だし悪タレだし「力こそ正義、つまり俺が正義だ!」とか考えてるけど、十三歳の子供なのだ。まだ犯罪歴もない中学生だから軌道修正できる。

 

 反面教師にするべき実例なら一杯いるからソレを見て学ぼうとゆーことで、葵くんはあっちの呪詛師こっちの悪人そっちの禪院をメタメタにするツアーに連れてかれた。

 

 人に恥をかかせることに人生を捧げている呪詛師の術式は対象の筋肉を一部のみ脱力させるとゆーもので、括約筋を脱力させて放屁させたり脱◯(だっぷん)させたりと悪質なこと甚だしかった。――ので、塾生の術式でおしゃぶりをしゃぶらせ、よだれ掛けを首に巻き、オムツに靴下とゆー格好で街を歩かせた。塾生の誰にもスカトロ趣味はないし、無関係な人に汚いものを見せるわけにもいかない。街の人に迷惑がかからないギリギリのラインを見極めたつもりだ。

 呪詛師はすぐに警察が来て連れられていったが、何故か嬉しそうだった。

 女子中学生を体育倉庫に呼び出し淫行を働いていた非術師の教師は、塾の女子連中が「きしょい」「教師やめろ」「きっも」「てめーにはブタ箱がお似合いだ」と罵りながら殴る蹴るの暴行を加えた。放課後の体育倉庫に突然呼び出して良いのは気持ちの通じあった相手だけなのよね。お兄ちゃんたらもうエッチ!

 もちろん私刑の後に通報した。

 奥さんと娘さんたちをサンドバッグにしていた禪院なんとかは塾長が天誅を加えた。スーパ◯サイヤ人っぽい姿に変身した塾長を、ポテチとコーラを手に応援するのは最高に楽しかった。

 

 塾にはドレミの歌を改変した塾歌がある。ドは道徳を守れのド、レは礼儀を保てのレ、ミは身を引き締めろのミ。ドーナッツやらレモンやらとゆー原型を留めない塾歌を歌いながらのツアーは楽しかった。救いようがないクズどもを「ドーレーミーファーソーラーシードー!」と歌いながらサンドバッグにし、そいつの財布から金品身分証とを巻き上げ、人の来ない山奥の滝に縛り付けて放置するなんて最高にエキサイティングだ。でも三日くらいしたら塾長がソレを迎えにいってるらしい――死なせたら前科持ちになっちゃうから。

 

 葵くんはこのドレミツアーを通じ、悪人を倒すことがいかに良いことかを学んだ。なんせ悪人ならボコボコに殴っても良いのだ。ちょっとやり過ぎても怒られないどころか感謝されるし、悪人いぢめの後は高い焼き肉屋に連れてってもらえる。正義は素晴らしい――つまり人の金で食べる焼き肉は美味しい。

 周囲の塾生たちが真っ当な性格に養殖された人間ばかりなのも葵くんにとって良い方向に作用した。天然ものの真っ当な人間は「悪いことは人に迷惑をかけるからしちゃいけないんだよ」とか毒にも薬にもならないことしか言わないけど、真っ当に育つように養殖された人間は「悪いことをしたら平穏に生きていられなくなるよ」なんてことを真顔で言い放つ。まさにその「悪いことをした奴を地の果てまで追いかけてボコボコにする」ツアーの参加者である葵くんはなるほどと頷いた。

 悪いことをしたら罰を受けたり、復讐されたりする。数とパワーの正義によって悪は打倒される……それこそがこの世のルールなのだ。だってニチアサの特撮も数とパワーで正義を押し通してるもん。

 

 塾生との交流によってクソガキ葵くんのコミュニケーション能力は著しく上昇し――東堂夫妻は泣いて喜んだ。葵くんを悪い方向に進化させた自称特級術師とかいう怪しい女と違い、塾の指導は母体が宗教団体ってことを忘れるくらいまとも(・・・)だ。葵くんが京都呪術高専に入学するまでのおよそ二年、葵くんに対しても東堂夫妻に対しても勧誘行為は全くなかったし、怪しげな勉強会の案内チラシとかが渡されることもなかった。

 ぶっちゃけたことをゆーと呪術高専の職員のが教団員や塾生より怪しい。

 

 両親は「呪術高専なんて怪しいし止めといた方が良いんじゃないか」「今からでも普通の高校を目指してみないか」と尻込みしたが、葵くんはそれを突っぱねて京都呪術高専に入学した。師匠の推薦があるし面白そうだし、呪術高専なら他にはない経験を積めるはず。そう押し通して、両親と塾生と塾長に見送られて高専に入学し――驚いた。担任の話によればなんと、葵くんの同級生はたった二人だけだというのだ。

 「数とパワーで悪をタコ殴りにする正義の使者を育てる学校」として、西日本から生徒が集まってくるとゆー話じゃなかったっけ? 葵くんが参加していた北河内地区の塾には同い年はいなかったけど、全国の塾生が集まったときには同学年の塾生が二十人はいた。

 

「一年がたった三人だけ……?」

 

 少な過ぎやーしないかと疑問を口にした葵くんに担任の歌姫先生は肩を竦めた。今年は新入生が多い方だとかで、なんと二年と四年は二人で三年は一人しかいないそーな。呪術界隈はいつでも人材不足なのよってホントか? 塾生には同年代たくさんいるけど?

 

 教室で初めて顔を合わせた同級生二人は男と女が一人ずつ。

 塾長から特徴的な要素を取り出して少し改変したらコイツ、みたいな男は加茂憲紀。印象的なキャラ付け感溢れる髪型と細目、細身に見えてガタイがいい。真面目の道を歩いてきましたと言わんばかりのお堅そーな雰囲気も塾長に似てる。

 もう一人は若かりし頃のドーラ――天空の城に出てくる空賊のママ――みたいな髪型の見習い魔女で、西宮桃。西宮とゆーからには兵庫県出身かもしれない。知らんけど。

 

 葵くんは糞真面目な顔面の加茂に向かって口を開いた。

 

「俺の好みはケツとタッパがデカい女、結婚するなら高田ちゃんと決めている。加茂、西宮、お前らのタイプはどんなだ?」

「は?」

「うわ……初対面でそれ聞くとかきっしょ……」

 

 哀れ、この年の京都高専新入生の初対面は悲惨に開幕した。

 

 言い訳をしよう。この世には異常性癖が多い。いや、性癖に限らず異常な精神の持ち主が多いと言うべきか? 小学校に上がるか上がらないかという年齢の子供を蔵に閉じ込める村の大人、信仰対象に異物が混ざるのは許せないからと女子中学生の死を望む信者ら、呪力を持たない子を人扱いしない術師の一族、ある女性に対し呪霊の子供を妊娠させては堕胎させるという実験を繰り返した男、人間を調理することに長けた女、その他色々。屑がたくさんいすぎて困っちゃう。

 葵くんの師匠である九十九由基は初対面の当時小学三年生だった葵くんに女の好みのタイプを聞いてきた変態だ。間違いなくショタコンだろう。そして呪術界隈には異常性癖の奴が多い。この二点から葵くんが導きだした答えは――異性の好みや性癖は、そいつが呪術師として成長するか呪詛師に堕ちるかを判断する基準の一つである、ということ。だから呪術界隈は初対面でセクハラ発言をぶちかましても許容される世界なのだきっと間違いない。

 

 ――葵くんの周りにはその誤認を正せる人がいなかった。塾生はみんな性癖も好みもバラバラだけど数とパワーの正義に燃えた好青年ばかりなのに対し、ドレミツアーでぼこぼこにした呪詛師はどいつもこいつも異常性癖だった。

 葵くんの仮説に「その可能性もあるかもしれん」と頷く奴はいても「ハハハそんなワケあんめ」と否定する奴はいなかった。良くも悪くも塾生たちは純粋培養で、彼らの中には他者を◯糞(だっぷん)させることに喜びを感じるよーな異常性癖の持ち主はいなかったから。

 呪術師たちってヤバいね、変態のすくつ(何故か変換できない)なんだわ。こわーい。

 

 葵くんの呪術高専生活は好感度マイナスでスタートを切った――ここからのリカバリーが可能なのかどうかは、葵くんのコミュ力にかかっている。




分かりづらい元ネタ
・いもうと◯ルマ
ps
すまぬ、すくつ(何故か変換できない)はネットスラングなんだ……
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