黄昏より昏き以下略を貴様に唱えさせてやろう   作:充椎十四

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その26(掌編)

 近畿にスーパーサ◯ヤ人現る――報告者の頭と目を疑いたくなるよな情報だけど、映像は嘘を吐かない。

 監視カメラで撮られたんだろう動画の中で、物理的に光って輝いてる金髪の男が(呪術を使える)犯罪者に馬乗りになり「悪人討つべし! 討つべし!」とばかりに拳を叩きつけている。

 

 画像荒いけど、音声入ってないけど、知ってる奴の気がする。だってほら殴るときの癖とかあるから……仮にも体術の指導教員してる甚爾には一目瞭然、まるっとズバッとお見通しよ。

 呪術連から高専に回ってきた不審者情報を無言で手持ちのUSBにコピーし、体育教官室とゆー名の甚爾の私室まで歩いて鍵を閉め、カーテンも閉めてケータイを操作した。

 

「ばばあ! 俺の生徒に何した!? なんで夏油あんなアニメチックにシャイニングしてんの!?」

『本人がスーパ◯サイヤ人になりたいって言ったのよ』

「え、なんて?」

 

 確認のため家に電話したら「本人の希望です」って言われた甚爾の気持ちを十文字以内で答えよ。頭の中に白玉粉詰めてんじゃねーのか、お団子頭だけに。(二十六文字)

 生徒のあんまりな状態に頭を抱えた甚爾に追撃が襲いかかる。――しばらく前にバラエティを騒がせていた志々雄もどきが夏油傑くん御本人。

 

「なんでそうなった」

 

 ばばあ曰く。

 夏油は人目につかないよう空を(呪霊に乗って)飛んで移動している――便利だもんな、逃げやすいし。

 夏油が顔を出していると術師に襲われる――禪院で大暴れしたもんな。

 目出し帽などは犯罪者っぽいので嫌だそうで、もしもの時に包帯にできるから顔に晒しを巻くことにしたらしい――おいバカ止めろ。

 風を遮るものがないから上空では強風が吹く――せやな。

 強風で晒しがほどけるので、夏油は鏡もなしに何度もそれを巻き直していた――あほうか。

 

 理詰めで考える奴が真剣に暴走するとこうなりますとゆー笑えない失敗例をどうにかしてやろうとばばあ(リタ)が気を遣った結果がスーパーサ◯ヤ人だと聞いて、甚爾は両手で顔を覆った。もっと他にやりようはなかったのか。あんまりバカバカしくて笑えばいいのか泣けばいいのか分からない。

 そんなところにニコニコ笑顔の悟が教官室の鍵を破壊して「とーじー、俺ゴッドマーズになったー!」と飛び込んできてみろ。

 

「ノォ――ッ!! もーイヤッ! この学年!」

「あたしきんどーちゃん四十歳!」

「おだまり! さっさと卒業しろ!」

 

 ママーッうーうううー!

 

 

――――――

 

 ――硝子が持つ『傑くんとの秘密の連絡手段』は何なのか。どーやって連絡取り合ってるのか。気になって調べたら腐ってたり夢に溢れてたりするサイトに辿り着いてしまった悟くんは混乱した。

 

 サイトのトップページから跳べるMain Fには星◯がベッドでセイヤッセイヤッしてる小説とか、馬イクに乗った青い甲冑の政宗くんが徒歩移動で赤い甲冑の幸村くんとフュージョン(隠語)してる小説とかが載ってて、Main Dには暗殺一家兄弟の長男とか犯罪集団のリーダーとか見所のある少年に股間を熱くする変態とかとドキドキハラハラで(不健全な意味の)身体的接触を多々含む恋模様のドリーミングな小説が載っていた。このサイトの運営者はどちらもいける口らしい。青少年らには絡み合ってもらいたくて、年上には甘やかされたいんだろう。

 

 まさか本当に硝子がこれを書いてるのか? 信じたくなくて空を見上げたけど、自室の天井しか見えない。

 だってまだ硝子も悟も十八になってから一年くらいしか過ぎてないのに、十八禁作品の数が多すぎる。見れば更新日時が二年前とか三年前とかのものもある。十八歳以下が書いてる十八禁とはこれいかに――「これ書いてるの亜美ちゃん?byレイちゃん」とMail Formで送信したらだいたい一分後、上の階にある硝子の部屋から「ふじこー!」とゆー悲痛な叫び声が聞こえた。ルパン◯世を見てるんだろきっと――そのはず。

 

 薄いドアが壁に叩きつけられる音、廊下と階段の床を勢い良く踏み潰す音、そして外開きのドアを内側に蹴り倒して飛び込んできた血走った目の硝子を、悟は悟った表情で迎えた。

 

「硝子……」

 

 反応しなければ否定できたのに。

 

「あの……年末の有明? 付き合おうか?」

 

 繊細な硝子は廊下の窓ガラスを突き破って夜に消えていった。これを自傷と言わずして何を自傷と言うのだろう。

 

 

――――

 

 

 年末、悟の手の中には戦利品があった。開き直った夢見がちふじょしに頼まれた全年齢向けの本と、館内をうろつく中で出会ったコピー本――タイトルは「ヘアインテークに指を抜き差しするだけの本」。パラ読みしたらもう買うしかなかった。もはや芸術と呼ぶべき、性癖でぶん殴る内容だった。タイトルが全てだった。すごいやばい。ほええ、こんなの読んじゃったらさくらちゃんを二度と純粋な目で見れないよぉ!

 

 誰かにこれを布教したい――絶対面白いことになる。後輩の性癖を歪ませるのは本意じゃないから、特殊性癖に染まっても問題なさそうな奴って言ったら……そうだな。

 

「禪院直哉ならいっか!」

 

 かくして、東京の五条悟くんからお手紙ついた。京都の直哉くんは封筒から中身を出すことすらなく燃やそうとした。けど「もし次期当主とか御三家の幹部とかそーゆーので必要な資料やらなんやらが入ってたら困るな」と思い直して封を開けた。――もちろんそんなのはただの言い訳で、中身が気になるから開けたんである。

 

 二時間後、直哉くんは三条のL◯FTでヘアケア用品について店員を質問責めにしていた。

 

 しかし黄色い袋を手に下げて自動ドアを潜った瞬間、気がつく。自分の頭にヘアインテークとか地獄やん、と。自分の髪型をヘアインテークにしても、鏡を使わないと見れない、自分の頭にだと萌えない、自分じゃあかん……ヘアインテークがあっても違和感なくて自分の好きに出来る存在なんて――あるやん。

 

「ええか、これからお前らの頭は俺のもんや。髪の毛一本たりとも損ないなや」

 

 次期当主の呼び声高い男に呼び出された双子は、混乱で頭がショート寸前になりながら頷いた。

 

 投射呪法ってそーゆー使い方するもんやったっけ?

 

 

――――――

 

 

 国数英社理の基本科目を教えるならまだしも、呪術の常識やら知識やらを教えるのに大学進学は必要ない。高専を卒業した悟は「ぼかぁ高専の正式な教師でぇす」って名乗るための資格だけ取得して高専に舞い戻り――ケツの固い七海たちは入れ替わりに卒業して大学生と補助監督になり、お尻が青くて柔らかい一年生は夢と希望に瞳輝かせながら入学した。そんな目をしちゃって……新入生(二名)は入学する先を間違えてるんではなかろーか。

 蟻が十ならミミズは二十歳なよーに、悟はもう二十歳でめぐくんは七つだ。干支一回りに一本足が出てるから実質的に一歳差と言って差し支えない。

 

 悟が資格取得のためにあっちへ走りこっちへ飛びって駆け回ってた間に、めぐくんは小学二年生になっていた。いつの間にこんなに大きくなって。

 大きくなったとは言えまだ低学年だし、授業は五時間目で終わり。でも一人で帰るには遠いし危ないんで菜々子と美々子の授業が終わるまで待つのが常だ。甚爾に『めぐくんたちお迎え係』を任命されたなんちゃって教員の悟は、めぐくん連れてコンビニに入っていちごミルク二つ買って駐車場の車止めに座った。じっと大人しくミミナナを待つなんてナンセンス。買い食いは罪ではない、空腹が罪なのだ。

 

 200ミリなんてすぐ飲みきるもんで、ストローがずこーって濁音を響かせる。

 

「はー、めぐくんもう二年生。はえーなぁ。よく知らねーけど二年生んなったら掛け算するんだっけ? もしかして三年生から? いんいちがいちーいんにがにーってやつ」

「めぐくんじゃなくって恵ね! あと……何? 変な呪文」

 

 硝子が「あたしゃ足し算も好きだがね、掛け算が一等好きなんだよ……掛け算の極意、教えてやろうか」って悟の脳内で囁いてたけど無視した。

 

「そのうち小学校でやるさ、楽しみにしてな」

 

 そー言ってめぐくんの頭を撫でようと手を伸ばし――悟は途中で手を止めた。学校と言ったとたん顔をしかめられたらそりゃ、学校で何かあったんだなって一目で分かる。

 腰を浮かせて体の向きを変え、悟は改めてめぐくんの頭を撫でる。

 

「がっこで何かあったか?」

「なんも」

 

 何もないって顔じゃあない。

 

「授業面白くないとか」

「んーん」

 

 そんな問答が何度か続いて、めぐくんはため息を吐いた。

 

「はあ……悟しつこい。しかたないから教えたげるよ。しょーがっこーはね、大変なんだ」

「そーなの?」

「うん。クラスの奴らみんな猿みたいに落ち着きがないし、せんせーはヒステリーだし、どーぶつえんの猿山の方が静かだと思う。美々子たちのクラスも似たよーな感じだって言ってた」

「わあ……」

「コーセンはみんな大人だから猿みたいな声出さないし、せんせーもキーキー言わないよね……。僕、しょーがっこーじゃなくてコーセン通いたい」

 

 ひでぇ言い様である。小学校の同級生も担任も猿以下とゆーわけだ。悟は「そっかぁ」とだけ言って後は黙った。ごめんなさい、こんな時どんな返事をすれば良いのか分からないの。

 大人や大人に成らざるを得ない立場の未成年らに囲まれて育っためぐくんや、理不尽に晒されて育ったミミナナにとって、同級生は知能が足りない猿なんだろう。うっきーって鳴いてるとしか思えないんだろう――メロンは野菜ですウキッウキッ!

 

「ま、『小学校なんてもう嫌だ我慢ならん』ってなったら休みゃいーさ」

「休んで良いの?」

「小学校行かなくても立派な大人になれるよ。俺小学校も中学校も通ってねーもん」

「え、悟が立派な大人……」

「なにおう一般からこの界隈に入った奴らからは『常識的な方の五条さん』って評判なんだぞ」

 

 悟は小学校にも中学校にも通ってない。家庭教師が付けられていたが、おおよそ一般的な『児童教育』とゆーものを受けたことがない。普通に考えたら常識知らずに育ってたはずだけど、「普通」を知ってる者たちから五条は評判が良い。

 甚爾に出会わなかったら――甚爾があの時「強く生きろよ」と声をかけてこなかったら、今の悟はいない。きっと周囲を見下して斜に構えた人間になってただろう。

 

「で、学校に行かないんなら習い事行きな。塾でもいい」

「塾? なんで?」

「友達や年齢の違う人たちと関わることが、めぐくんを強くしてくれるからさ」

 

 悟に常識を教えてくれたのは、(一人ぼっち学年だから)セーラープルート(いじち)で、歌姫で、冥冥で、ルナでアルテミスで戸愚呂仮面で、セーラームーン(すぐる)マーキュリー(しょーこ)で、ゼロスで、リタで、甚爾だった。小学校にも中学校にも通えなかったけど、出会った人達が悟の内面を磨いてくれた。

 小学校のチャイムが響いた。あと十分くらいしたら美々子と菜々子が出てくるだろう。

 

「正門前戻るか」

 

 平たく潰した紙パックをゴミ箱に放り込んで、めぐくんの速さで小学校に戻った。




リアルにこういうコピー本があるならほしいが、ジャンルって脳姦?

追記
健全に髪の毛さわさわしてるだけの健全な内容でも髪◯キに含んでいいのか……? 分からない、私には分からない……。
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