特別な少年の平凡な願いの叶え方   作:フォリア

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短編のつもりだったので続きは考えていませんでしたが、連載して欲しいという感想もいくつかあり、自身もリハビリになればと思ったので、次話、投稿です。

……正直、クオリティに自信がないです。


第二話 

 百瀬湊。世間的には『二人目』という認識で知られている男性IS操縦者である。ついでに言えば自己紹介時にさらっと爆弾発言を噛まし、同クラスの生徒との溝を自ら深くした少年だ。

 怪奇と好奇の視線に苛まれながら自席に座る彼は絶賛――

 

(本音を隠したくなかったとは言え、感情的になるのは良くなかった……。失敗したなぁ)

 

 ――後悔中だった。

 両腕を枕替わりにして机に突っ伏せる彼の表情は他者には見えないが、後悔の色が薄らと浮かんでいた。それもそうだろう、自己紹介でさらっと爆弾発言をかましたのだから。

 ISをガラクタ呼ばわりしたこと、自身の目標が『退学』であること。主にこの二つ。前者は後半の言葉や雰囲気のインパクトにかき消されたお陰で(一応)問い詰められたりすることはなくなったが、その後半の台詞のせいで視線の色が明らかに変化しているのが肌で感じられた。その代わりと言ってはなんだが、刺さる視線の数は減少していた。

 

(……まあでも考えたら、別に他人にどう印象を持たれようが僕には何の関係ないことであって。いやでも……、退学までの間この教室に来る必要はあるんだし、平凡って印象をもたせてた方がよかったのかなぁ……)

 

 目立たないようにする、というのはまず無理だろう。自分の立場上それは絶対に出来ない。自分が女生徒なら可能だったかもしれないが、それならこんなことで悩んだりしない。というかそもそもこんなところに居たりしない。

 平坦な自己紹介をしていれば、きっとあの織斑千冬の弟である織斑一夏の存在も相まって人畜無害な立場で居られた可能性もあった。が、あの時あの場で自分が行ったのはあのあまりにも稚拙な自己紹介だ。どう考えても頭のおかしい奴の印象を持たせただろう。

 他人と溝を作れたと考えれば成功と言えるのかもしれないが、今後後ろ指を差されるとなると、それはそれで精神的にくるものがある。でも気持ち的に仮面は被りたくない。

 仮面を被れば自己嫌悪に陥り、本音を話せば後ろ指を刺される可能性に苛まれる。

 ようは自己紹介に応じた時点で自分はすでに詰んでいたと、そういうことなのだろう。

 

(もう帰りたい。ていうか、なんで僕がこんなことで悩まないといけないんだよ……)

 

 (恐らく)短い間とはいえ、これから過ごすことになる学園生活に早速不安を感じ始め、頭を悩ませる彼に、背後から声がかかった。

 

「少し、よろしいでしょうか?」

 

(……無視したい、あんな自己紹介した自分なんかに話しかけてきてくれる時点で優しいんだろうけど、今だけはその親切心が辛い。でもお断りして怒らせたらさらに面倒なことになりかねないしなぁ……)

 

 態度には表さず、心の中で葛藤しながら湊は背後へと振り返る。

 視線を向けた先に映ったのは――

 

「……クロワッサン?」

 

「殴りますわよ」

 

「ごめんなさい、ホントごめんなさい」

 

 額に青筋をたてる女生徒に、湊は速攻で謝った。どうやら彼、後悔しても反省はしないらしい。早速やらかした。

 彼は謝った後、もう一度その少女を視認する。

 湊が彼女に受けた第一印象は、『高潔な雰囲気を持つクロワッサン』だった。どこかのお嬢様なのか、立っているだけで気品を感じさせる雰囲気に、鬢から生えるクロワッサン型――もとい縦ロールの金髪。見た目でも他にも褒める部分はあるのだろうが、今の彼には『クロワッサンを下げた女生徒』という印象が強かった。別のもので例えるとチョココロネか。

 しかしいつまでも『クロワッサン』なんて(いくら心の中とはいえ)呼ぶわけにもいかないので、怒りを収めている最中の彼女に、湊は改めて声をかける。自分の本音を隠さず、しかし相手を出来るだけ刺激しないよう言葉を選ぶようことを心がけて。

 

「……えっと、それで誰ですか?」

 

「学年主席、セシリア・オルコットですわ。イギリスの代表候補生を務めさせてもらっています」

 

 その自己紹介に湊は少なからず感心した。

 主席にして代表候補生。主席というだけでも優秀だということが窺えるというのに、何百人といる訓練生の中からほんのひと握りだけ選ばれるという代表候補生の肩書まで持っているのだから。

 つまるところエリート中のエリート。将来的に国の威信を背負うことになる代表の、その候補生。

 一応そういうことも知識として持っていた湊は、いざ実物を目の前にして少しばかり緊張の色を見せた。すぐに引っ込んだが。

 

「……あー、先に言っておくけど僕と織斑一夏は友達でもなんでもないからね。僕を通して織斑に接触しようとしても無駄だから」

 

「そうなのですか。しかし杞憂ですわよ。織斑さんには後ほど自ら声をかけるつもりですから」

 

「そうなんだ。じゃあなんで僕なんかに?」

 

「――先ほどの自己紹介、本気で仰っていますの?」

 

 そう言い放った彼女の雰囲気は、すでに代表候補生のソレだった。名を名乗った時に纏っていた英国淑女な雰囲気はすでになく、鋭利で冷たい空気が湊の肌を刺激してくる。

 しかし湊ももう慣れたのか、怯えたり竦んだりする様子はなく、小さな欠伸を一つするだけ。何の意にも介していない様子で、双眸をセシリアに向けている。

 が、その目つきは不意に真剣なものへと変わった。

 

「うん。本気も本気、大マジだよ」

 

「男性IS操縦者なんて言う稀有な存在であるアナタに、そんなことが出来ると?」

 

 セシリアの問いに、湊はすぐには答えなかった。

 確かに、たとえどれだけ問題を起こそうが、百瀬湊は多分退学することなど出来ないだろう。なぜなら彼は『男子IS操縦者』であるからだ。

 世界でたった二人、稀有の中でも稀有な存在。出現条件が分からない希少種。何十億といる男性の中に混じっていた変異種。

 そんな貴重な被検体(サンプル)をそう安々と学園や委員会が手放すはずがない。この学園に半ば拉致される形で連れてこられたのもそれが理由と見て間違いない。

 湊からすれば理不尽にもほどがある対応だ。向こうの勝手な都合で自由を奪われた。

 偶然が巡り巡って作り上げたこの現状。自分の意思が無視されて出来た状況に、はいわかりましたと順応出来るほど彼は物分りがよくない。

 だからこその『反逆(たいがく)』だ。

 湊はセシリアの言葉に軽く落胆したように肩をすくめると、数瞬閉じていた瞳を開いて告げる。

 

「出来るとか出来ないとか、そんなの問題じゃない。――するんだよ」

 

「――ッ」

 

 あまりにも真剣で鋭い眼差しに、セシリアはほんの少しだけたじろいだ。

 しかし彼の言っていることは、ただ退学するための決意である。立派でもなんでもない、それどころか『自分が嫌だから』という子供じみた心情から出来たちっぽけな覚悟を告げただけだ。

 それでも、彼の言葉には『信念』が込められていた。

 だけど、それにセシリアは共感することも同情することもない。心の中に浮かんできたのは、はっきりとした失望だ。

 その目の色は湊にも見て取れた。

 彼女の反応は当然だと心の中で自分を嗤うと、彼は突き放すように冷たい声色で続けた。

 

「分かったんじゃないの、僕と関わっても対して利点はないよ。たぶん君とは多分相容れないんじゃないかな」

 

「……ええ、どうやらそのようですわね。ISを扱えるといっても、あなたは凡人のようですので」

 

 そう告げた時のセシリアの視線に、湊は明確な侮蔑を感じ取った。

 休み時間終了のチャイムが鳴り響く。

 

「それでは」

 

 セシリアの言葉に湊は何も返さない。自席に戻る彼女の後ろ姿を一瞥すると、彼は頬杖を付いて視線を前に移した。

 

(……もう誰とも話さないようにしよう。口開けば開くほど、敵を作る気しかしない)

 

 セシリアとの対話から、湊も何かを学んだらしい。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 IS学園は入学初日から授業がある。が、百瀬湊にとってはただの睡眠時間でしかない。

 寝る度に織斑千冬が出席簿の一撃を振り下ろしてたたき起こしているのだが、学習しないのかそれとも単に眠いのか、彼は一行に睡眠をやめる気配がない。

 寝ては叩かれ、起きてはまた寝て、そんなことを繰り返しているうちに、彼の授業時間は終わりを迎えた。

 その後の休み時間も継続して熟睡していたため、織斑一夏が話しかけてきても起きる様子はなかった。

 そして今現在、三時限目。彼の意識がほんの少し目を覚まし始めた頃。

 

「授業を始める前に、このクラスの代表を決めなければいけないな。クラス代表、名前のとおりだ。これから一年間、クラスを引っ張っていく役割を担ってもらうことになる。生徒会の開く会議や委員会への出席などが主な活動だ」

 

(……さて、もう一回寝よう)

 

 物珍しいという理由で選出されるならばすでに織斑一夏がいる。実力で決めるというのならばセシリア・オルコットがいる。

 二人目で一般市民な自分には一切関係ないことだ。

 湊にとって今一番重要なのは今日をどうにかして乗り越えること。口を開くこと自体がダメだと先ほど経験したため、彼は誰かと口を聞かないように今日一日、睡眠で乗り切ることに決めていた。

 

(関係ない関係ない。僕には一切関係ない)

 

「――だったら俺は、百瀬を推薦する!!」

 

(死ね。とっととくたばれ、解剖されて死んでしまえ。君なら言うだろうなってなんとなーく思ってたけど、実際に言われるとムカつくもんだね、巻き込むなよ。……やーいやーい、バーカバーカ、(ひっと)でっなしー)

 

 どうやら自分と織斑一夏は分かり合えない存在らしい。今回のことで湊は余計にそれを悟った。

 悪態を付きたい衝動を心の中に止めつつ、彼は面を上げる。織斑一夏がこちらにただ人差し指を向けているだけなのに、その姿があまりにも憎々しく映った。

 憎悪の感情が膨れ上がると些細なことでも苛立つものなのかと、湊は少し感情というものについて関心を示す。が、今はそれよりも優先すべきことがあるとすぐに思考を切り替える。

 さすがに黙って無視出来る状況ではない。余計なことも口走るかもしれないが、こればかりは抗議しておかなければならない。

 面倒なことに巻き込まれないうちに、さっさと辞退するために織斑教諭へ声をかけようとして――

 

「織斑先生、わたくしも立候補しますわ」

 

 タイミングを英国代表候補生(セシリア・オルコット)に奪われた。

 その後も、湊が口を挟む間もなく事は進む。

 

「ふむ、三人か……、もう他にはいないか? いないのならばこの三人の中から決めることにするぞ」

 

「いや、僕は――」

 

「先生、わたくしから一つ提案があるのですがよろしいでしょうか?」

 

「あの――」

 

「なんだ」

 

「決闘という形で決めるのはいかがでしょう? クラス代表には実力が必要不可欠、しかし織斑さんのような男子生徒という特別な生徒(アドバンテージ)を有効活用しない手はありません。ですので、総当たりで勝利した回数が多い方が代表になるというのは」

 

「いやだから、僕は――」

 

「確かに、それならば実力も測れていいだろうな。しかしお前は代表候補生だ、経験値の差が、……そもそものスタート地点が違いすぎるのではないか?」

 

「たしかにそうです。しかし立候補しておいて失礼なのですが、わたくしは代表になるつもりはありませんわ。ただ、お二人のうちどちらかが代表になるのならば、是非とも今後行われるトーナメントでは勝っていただきたいのです。ですので、IS戦闘の経験になればと思い……」

 

「なるほどな。立候補はするし決闘にも参加するが、代表の座は織斑か百瀬のどちらかに譲ると」

 

「はい、クラスメイトの思いを無下にするのは私としても本意ではありませんので」

 

(あの……少しだけでいいから話を聞いてください)

 

 嘆く湊を横に勝手に話は進んでいく。自分の意見を述べようとしても二人の言葉が尽く邪魔をする。おそらく自分など視界に入っていないのだろう。

 「辞退したいんです」とも言いにくい雰囲気になってきた状況に彼は泣きそうになっていた。もう逃げ場はない現実から逃げたいと心が叫ぶ。

 

「よし、では一週間後の第三アリーナでの決闘をもって、クラス代表を選出する。三人とも、異論はないな」

 

「ありませんわ」

 

「……いいぜ、乗った。やるからには全力だ」

 

「……いや全てにおいて異論しかないんですが」

 

 セシリアが当然のように頷き、一夏が渋々賛同し、湊が呆れの意を含めた異を唱えた。

 湊としてはそれなりに大きな言葉で言ったつもりだったのだが、どうやら千冬の耳には届いていないようだ。こちらに視線を向ける素振りすら見せない。

 

「それでは授業を始める」

 

(くたばれブリュンヒルデ)

 

 不貞腐れた湊は今日一日、出席簿アタックを食らっても一度として起きようとしなかったという。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 全ての授業を寝て過ごし、放課後。

 クラスメイト全員が帰るのを待ってから、湊はゆっくりと目を覚ました。教室には誰もいない、織斑一夏でさえいない。

 

(さて、帰ろ)

 

 湊は今日から一週間、自宅からの通学となっている。唯一の安らぎであり、至福である放課後を過ごすために仕度を始める。

 荷物を纏め終え、教室から出た彼だったが、前方の廊下を少し小走りできた山田副担任の姿を見て、歩く速度を緩めた。

 

「お、起きてましたか百瀬くん」

 

「……えーっと、どうしたんですか? まだ何か用事でも」

 

「ああ、その通りだ」

 

 山田副担任に聞いたはずなのに、返ってきたのは別の女性の凛とした冷たい声だった。

 聞き間違えようがない、織斑千冬の声だ。教室の扉にもたれ掛かっていたらしく、ちょうど湊の死角に居たらしい。全く見えなかった。

 山田副担任の横に並び立った織斑教諭は、いつもと変わらない調子で告げる。

 

「百瀬、お前も織斑と同じようにこの一週間は自宅から通学という形になっていたな」

 

「はい、そうですよ。片道二時間、モノレールで」

 

「そのことだが、変更になった」

 

「……ハイ?」

 

「お前には今日からさっそく、一年生寮に移ってもらう」

 

 織斑千冬が言った言葉の意味が、湊には全く理解できなかった。

 いや、より正確に言えば理解したくなかっただろうか。

 

「……………………………………………………すいません、もう一度だけ、お願いします」

 

 聞き間違いかと思った彼は、長く無駄な思考を広げた末に、閉じていた口をゆっくりと開いた。

 それに、織斑教諭が一切変化のない凛とした表情のまま再度告げる。

 

「百瀬湊、お前は今日から寮生活だ」

 

 言い方は変わっていたが、内容は一切変わっていない。湊にとって死刑宣告とも言える言葉が叩きつけられた。

 この世界に神様がいるのなら、きっと自分のことが嫌いなのだろう。いや嫌っているどころではない、憎んでいるとすら思えてくる。

 天に見放された彼は、今日一番の懇願の思いを込めて呟く。

 

「家に帰らせてください……」




セシリアさん、性格改変。あ、でも根っこは変わってません。あくまで『表面上』、男性であろうと女性と同じように接するだけです。心の中じゃ蔑みまくりです。……あれ、原作の序盤セシリアよりタチ悪いような気がする。
ま、まあでもちゃんと心変わりしてくれるはずですよ。……多分。

次回の更新は未定です(4月16日追記)。パソコンぶっ壊れちゃって……
ホントすみません
それにしても、主人公結構ぶれちゃって気がするなぁ……。話を進めていくうちに固めていきたいと思います。

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