半年とちょっとの間も更新できなくてすいませんでした。PCの買い替え、学校の定期テストとか文化祭とかがあって中々投稿できなくて。スマフォからだと文体が変になりそうですし。
待っていてくれた方にはほんとに申し訳ないです。
これが第三話です。話が全然進まなくて苛立つ方もいるかもしれませんが、もう二、三話程度我慢していただければ、一気に進展するかと。
百瀬湊、心ここに在らず。というほど放心状態にはなっていないが、それでも相当参っていた。先ほど担任教師から色々言い渡されていたが、半分以上は覚えていないぐらいには落ち込んでいる。今の精神を色で表すのなら闇色だ。
一応、覚えている範囲で彼女の言葉を頭の中で整理していく。
曰く『荷物はもう寮に届けられている』。
曰く『織斑一夏とは違う部屋』。
曰く『急な編入だったので部屋割りが間に合わず、しばらくは女生徒と同じ部屋に住んでもらうことになる』。
そして、『当分の間は外出届は受理されない』ということだ。
ここまで来るといじめとしか思えない。自分が一体何をしたというのだろうか。
あまりに不運が続く今日の自分に、湊は盛大な溜息を吐いた。
唯一の朗報といえる二つ目の事項も、正直あまり良いとは言えない。織斑一夏と別の部屋であることは当然ありがたいのだが、代わりに女子生徒がルームメイトになるし、織斑一夏とは結局教室で会うことになる。
(少しの間だけでも離れられると考えれば朗報なのかな)
朗報なんだろうと湊は自分に言い聞かす。
どちらにしても、最悪としか言えない状況に変わりはないのだ。小さな幸運でも喜ぶべきだろう。そうしないと精神が持ちそうにない。
「織斑教諭も酷いよ、あんな一撃喰らってたら馬鹿になっちゃうよ。……あぁ、頭痛い。そして疲れた……」
割り当てられた部屋で一人、窓際のベッドに寝そべりながら湊は愚痴のように呟く。
最初は織斑千冬の言葉など無視して自宅に帰ってやろうかと考えた。実際、湊はあの話を聞いた後おぼつかない足取りで、この学園から出る数少ない手段であるモノレールの駅へと向かっていたのだ。
しかし、その行為に意味なんてなかった。至極あっさり、学園の敷地内で、彼は織斑千冬に(物理的に)止められた。あの時の拳ほど痛いものはない。比喩表現でもなく、一瞬本当に失神しかけた。
手に鉛でも仕込んでいるのではないかと思えるぐらい重い一撃だった。
(退学届欲しい……、一枚だけでいいからくれないかな。すぐに提出するんだけどなぁ……)
彼女に殴られた部分を手で軽く触れながら、彼は今日が始まってからずっと考えていた思いに耽っていた。
一番手っ取り早い退学方法は暴力による争いだ。誰でもいい、この学園の生徒を見せしめに傷つけてやれば、それだけで最低でも停学、
――最も、それは普通の高校での、一般生徒が起こしたことであればの話だが。
これは今の自分には適用されない。特殊な高校の生徒で、『特例』である自分には。
罰があっても停学か謹慎程度だろう。というかそもそも、誰かを痛めつけるような暴力的な行為など論外である。彼はそのような行為を好むほど野蛮な人間ではない。。
他にもいくつか案はあるが、どれも穏便なものではない。確実に約束された『自由』を手にするためには、何の問題も起こさずにこの学園を立ち去らなければいけないのだ。
大小様々な壁が聳え立つ現状に改めてうんざりしながら、彼は最も有り得ない可能性を心の中で呟く。
(ISが反応しなくなる、のが一番なんだけど。……無理か。……無理だね)
そんなこと、奇跡でも起きない限り不可能だろう。
ISを扱える男性、などという(望んでもいない)
正直、今でも何故自分と織斑一夏だけが、男性でありながらISを扱えるようなことになったのか、彼自身よく分かっていない。
織斑一夏は『
ISに初めて触れたのは、母親の応援に行った時に不注意で転んだ拍子に。あれは本当に事故だったし、ただの誤作動だと思っていた。
それ以外ではISとは無関係の人生を送ってきた。母もあれからすぐに国家代表を引退したため、ここに来る以前にISと直に関わったのはあの日が最後だった気がすると彼は思い返す。
確かに、憧れたことはあった。幼少の頃から『そら』が何よりも好きだった彼は、大空を自由に駆け回れる翼を望んでいたから。『無限の成層圏』などという大層で不釣り合いな意味を持つ『翼』に、幼少期はただ純粋に憧れを抱いた。
だが、とある時期を境に羨望は絶望に変わり、憎悪へと変貌した。
だからといってISコアを残らず全て壊したいとか、篠ノ之束や織斑千冬を殺したいとか、そんな大それたことを考えたことはない。
ただ、『空を飛ぶための翼』ではなく『人を傷つけるための兵器』だと認識しなければならなくなってから、それまでの羨望が一気に反転しただけにすぎない。
幼いころに母が言っていたことを、ようやく理解出来た気がする。確かに今冷静に考えてみれば、よくあんな欠陥兵器に憧れたものだと、彼は自分自身を嘲笑う。
子供らしかったといえば、子供らしかったのだろうか。理屈や理論など関係なしに、ただ純粋な心に従っていたのは。
その時抱いていた夢が、まさか今になって叶うとは思ってもみなかったのだが。
(はあ……なんて不幸なんだろうか)
平和に暮らせればそれで良かった。ごく普通の何の変哲もない日常さえ送れれば、それで良かった。
友人たちと一緒の高校に通って、姉と一緒にのんびり暮らして、青春を謳歌出来れば、それ以上に多くは望まなかった。
現状はこの有り様である。どこまでも付き纏う呪いのように、ISは――インフィニットストラトスは、自分の日常を平気で壊してくる。
(兵器だけに。………………あー、ダメだ。こんなギャグ思いつくなんて……)
ベッドの上でゴロゴロしながら、湊は思考をよぎった洒落を振り払う。思いついてなんだが、ちょっと寒いんじゃないだろうか。
真剣に悩んでいるのにこんなことが思いつくのは、精神が疲労困憊しているサインなのだろうか。入学初日からこの調子じゃ、一週間後には限界を迎えているかもしれない。
(……そーいえば、オルコットさんと織斑と、……不本意だけど僕の試合も一週間後だっけ。やだなぁ、……今からでも辞退出来ないかな)
相手は英国の代表候補生。自他共に認めるエリートだ、しかも今日の紹介を聞くに学年主席でもあるらしい。実力も、恐らく自分とは天と地ほどの差がある。
まず勝てない。
次に織斑一夏。風の噂だが、セシリア・オルコット以外に試験官を倒した数少ない人物らしい。他の情報は持っていない。
多分勝てない。
とりあえず織斑教諭に掛け合おうと考えたが、あの人がそう簡単に辞退を了承してくれるとは思えない。土下座しても軽くあしらわれる様な気もした。誠意を持ってしても意味はないだろう。
彼の中の織斑千冬という人物象は、既に『鬼!悪魔!千冬!』で固められていた。
(……詰んでるね、全体的に。……いやまあ、別にいいけどさ)
――勝てなくても問題ない。
もし仮に勝利出来る確率がごく僅か、コンマ数パーセントあったとしても、彼はあっさり切り捨てるつもりでいる。今回の試合、勝利に意味はないのだ。
寧ろ負けることに意味があると言ってもいい。自分の目的を達成するためには、敗者になる必要がある。
だから好都合といえば好都合だ。巻き込まれたとは言え、既に要素は全て揃っているのだから。
自分は踏み台になればいい。彼らのために
後ろ指を刺されることになろうが、陰口を叩かれるようになろうが、彼のここでの生活はすぐに終わる予定だ。苦しいしつらいだろうが、我慢が解決してくれるだろう。
今はここでの自分の役割を果たす。自分のやりたいように、でも周りに出来るだけ迷惑をかけずに済む方法で。
自分の目的が達成されるそのときまで。
(……とりあえず、頑張ろう。いろんな意味で)
さすがに息苦しくなってきたのか、枕に埋めていた顔を上げ、俯せから仰向けに態勢を変えた彼は小さな欠伸を一つ。
「……んぅ……、……睡眠はちゃんと取ってたと思うんだけどな」
授業時間全部を睡眠に費やしたはずなのだが、こうして欠伸は出てくるし、薄らと視界も霞む。
女生徒たちの視線から開放されたがゆえの安心感からだろうか。もしそうならば、アレは自分が思っていた以上に疲労を溜めるらしい。
明日は今日よりも減ってくれているだろうが、それでも多いだろう。自己紹介の件もあるし、織斑一夏の方へと向かうかもしれない。
どちらにせよ、早く飽きてくれることを願うばかりである。
「……ちょっとの間、睡眠過多になりそう」
一日の半時間程度も睡眠に費やすのは、毎日を怠惰に過ごす引きこもりの生活と何ら変わりないかもしれない。だが自分の時間を自由に使え、部屋の中だけとはいえ自由に過ごせている引きこもりの方が、今の自分よりもよっぽど楽だ。
立場的や精神的には勝っているはずなのに、何故か湊は敗北した気分に陥った。引きこもりをここまで望ましく思うのは初めてだ。
もしかしたら中学の頃に送っていた人並みの生活も此処では送れないのかもしれない、などという一抹の不安すら浮かんでくる。誰か助けて欲しい。
決意を固めて数秒しか経っていないのに、湊は泣きたくなった。頑張ろう、そう考えた意思が遠い過去のものに思えてくる。
(退学するまで精神持つかな……)
さっさと退学する方法を見つけないと、途中で心が折れるかもしれない。というか既に折れかかっている。
本格的に不味くなる前に全て終わらせたいが、可能だろうか。
(……でも頑張るって決めたし、やるしかない……。やるしかないんだけど、……何も思いつかない)
乾いた笑いがこぼれた。薄々感じてはいたが、今の思考はどうもしっかり働いてくれていないらしい。
異性に囲まれた環境が引き起こす予想以上の疲労を再確認して参っていると、視界の端に大きなケースが入った。
(……あ、そうだ。荷物、整理しないと)
ひとまず退学案は後回しにして、今出来ることをやっておくことにした。
さっきからずっと襲って来ている眠気と戦いながら、湊はベッドから下り、部屋の隅に置かれていた紺色のキャリーケースに手を伸ばす。
「……あれ、これだけ? ……大型とはいえ、キャリーケース一つに纏められるほど少なかったっけ……」
新たに浮かんできた疑問に首を傾げながら、とりあえず開錠してケースの中身を確認する。
生活必需品はちゃんと入っている、これは問題ない。一週間分、毎日着替えられる分の私服や下着も入っている、着回せばいいから、これもとりあえずは問題ない。
だが。
(……最低限のものしか入ってない)
そう。それ以外には何も入っていない。暇つぶしになるようなものが何もないのだ。
大問題だ。これから今のように有り余った放課後の自由時間を、どうやって過せというのか。毎日こういう風な思考に浸れとでも言いたいのか。
無理である。今日は特別考えることがあっただけで、いつもこんなに悩んでいるわけではないのだ。
はぁ、と今日何度目か分からない溜息を吐きながら、彼は中身を広げることなく施錠した。なんだか整理する気も失せてしまった。
ふらふらとベッドの方に戻りながら、ポケットから電子端末を取り出して枕の方へと投げ捨てる。ついでに自分の体もベッドに投げ捨てた。
「……まあ、いいや。かさばったら、持ち帰るの面倒になりそうだし」
見方を変えると、そうとも取れる。そもそも長居するつもりは全くないので、この程度の荷物でも十分といえば十分だ。とはいえ、やはり暇を潰せるものがないのは辛いのだが。
あー、と気怠げな声が彼の口から漏れる。
(……ああ、そうだ。ちゃんと部屋の中身確認してなかったな)
そもそも部屋に入るまでの記憶が曖昧なので、ここが何号室かも覚えていない。部屋に入ってからもベッドに一直線に向かっていたはずなので、ちゃんと周囲を見ていなかった。
とりあえずいい暇つぶしにはなるだろうと思い、ゴロゴロとベッドの端から端を二往復ぐらい転がった後、湊はゆっくりと立ち上がった。
「……一流のホテル並みなんだよね、ぱっと見ただけでも」
改めて見回すと分かる、違和感の塊。見慣れない天井や壁の色が、自分の疎外感を刺激する。どうしても自宅の部屋と無意識のうちに比べてしまう。
それに初めてだからか、部屋の雰囲気や空気も心なしか澄んでいるように感じた。備え付けられている設備も、やはりというか新鮮味を帯びている。
まず目に入るのが、二つ備え付けられたシングルベッド。そのシーツの質感は、先ほどからずっと経験していたからよくわかる。癖になりそうなふわふわ感だ。ベッドの間には仕切りもちゃんと用意されていた。
次に、そのベッドの前にある高機能な勉強机。表面を見ると、ディスプレイを投射することも可能なようだ。至れり尽せりである。椅子にも座ってみたが、この感覚はまだ慣れそうにない。
勉強机のある側の壁の中央は大きく凹んでおり、そこには薄型テレビが置かれていた。適当にチャンネルを付けてみたが、特に面白そうな番組はない。
少し入り口扉の方へと進むと、簡易キッチンがある。キッチン下の空きスペースには、二人分のコップや食器。横には冷蔵庫も備わっていた。これならば自炊も可能だ。ありがたい事である。
振り返って扉を開くとシャワールーム。洗面台も一緒だ。毎日使うことになるだろうから、ボディーソープなどの残量には気を使わないといけない。
冷暖房も、やはりというか完備されていた。まだ春の上旬も上旬、部屋を包む空気は、ほんの少し暖かくて心地よい。
とりあえず一通り確認して、もう一度部屋全体をぐるっと見渡す。細かな装飾や部屋全体の配色すら、今の彼の目には一級品に見えた。
思わず感嘆の言葉が漏れる。
「……やっぱり凄いなぁ」
さすがは天下のIS学園というべきか。金の掛け方は並みの国立以上である。世界で唯一のIS操縦者育成機関なので、当然といえば当然な設備なのだが。
一体日本の税金のいくらが費やされたのか。見当もつかない。きっと途方もない額の金が消えたと思う。この寮はその資金のほんの一部でしかないだろう。
ベッドの方へ戻り、クローゼットの状態やカーテンの質感も確かめた後、湊はベッドに腰を下ろす。
「…………にしても眠い」
やるべきことを終えてしまって気が緩んだせいか、先ほどから溜まりに溜まっていた睡魔が、より勢力を増して襲ってきた。
冬から春にかけて変化する気候は眠気を促進させるとは聞いたことがあるが、今日の自分はどうやらその傾向にあるらしい。
自律神経のバランスが乱れ、副交感神経が優位に働いたか。部屋の暖房のせいもある。
春眠暁を覚えずとはよく言ったものだ。心身共に、完全にリラックスモードに入ってしまった。
今日一番の眠気に耐え切れず、湊はそのままベッドの方へと体を倒してしまった。相変わらず柔らかい感触が、彼を包む。
(……一時間、一時間だけ。そのあとに、部屋番号を確かめたって別に遅くない……)
視界が霞み始め、意識が揺らぐ。だが反抗する必要はない、寝たいのなら寝ればいい。
全て後回しにして、彼は思考を放棄すると、ゆっくりと瞳を閉じた。
微睡みに落ちる感覚が心地よかったのか、湊はあっさりと意識を手放した。
(……ルームメイト、誰なんだろ……?)
新しく生まれた小さな疑問も、すぐに消えた。
基本的に5000字から7000字で一話を書いて投稿しています。自分が読みやすい文字数がそれぐらいなので。
CHOCO絵のセッシーかっこかわいいよね。あの目つき好きです。原作の中身は変わんないのに、自分の中でのセッシーの株が急上昇中。
原作より表面だけおとなしいセシリアを書くつもりでしたが、もうちょっと凛とした彼女にしてみたいです。こう、英国淑女みたいな。
原作でもほかの方の二次創作でも「かませ犬」のイメージが強い彼女ですが、少しでもそのイメージを払拭できたらいいなぁと思ってます。