▼「戦犯マスタングの私生児」(https://syosetu.org/novel/85764/1.html)のその後的な。ロイアイの隠し子がエドウィンの娘と結婚式を挙げたとき、その式に参列する花嫁の父と花婿の事実上の父の話
▼ハガレンの世界ってキリスト教ないらしいですけどファンタジー世界の結婚式っつったら教会式しか思いつかないので教会式で強行しました。ライスシャワー自体はローマ由来らしいですけどね
教会の鐘が鳴る。
宗教に縁のない国柄だが、冠婚葬祭ではそうもいかない。結婚式では牧師が夫婦に誓いを立てさせるし、葬式では哀悼の意を示す。今日は前者だった。
「汝、病める時も、健やかなる時も、この者を愛し、支え、共に歩むことを誓いますか」
お決まりの文句も、結婚式では毎度新鮮に聞こえるものだ。まして、大抵一生に1度しか聴かない台詞だ。それに、若い2人が肯くのを、自身は1番後ろの席から眺めていた。バージンロードで、花婿に娘を託した花嫁の父の背中も。
「20年ぶりだな、大……大総統」
ライスシャワーが若い2人に振りかけられる。それを遠目に眺めていたとき、声がかけられた。礼服に身を包んだ金髪の男性――先程、花嫁と歩いていた。つまり、花嫁の父。自身は思わず懐かしい呼び名で呼んでしまう。
「鋼の」
「もう国家錬金術師じゃないぜオレは。まぁ今更ファーストネームで呼び合う仲でもねーだろうけどな」
その物言いに、自身は呆れる。コートのポケットに突っ込んでいた手を引き抜いた。
「君も3人の子持ちなんだろう。もう少し落ち着いた口調というものはできないのか」
「生憎と、人間そう変わらないもんだ。――オレとウィンリィの式に参列してもらって以来だな。中尉……じゃとっくにないな。副官さんは?」
「……今は席を外している」
私は遠くを見遣った。大丈夫だろうか、と心配していた。
「少々、感極まってしまってな」
「あんたらの息子の結婚だもんな」
それに、私は直接は答えない。
「鋼の。彼は、グラマン前大総統の曾孫だ。だから」
「だから私たちには関係がないって? こうして結婚式に参列してるぐらいなのに」
「今日参列したのは、大総統として、将来有望な若手議員を言祝ぎに来ただけだ。勿論彼女もな」
それに、エドワードは肩を竦めた。記憶にあるよりずっと大人びて成熟しきった、立派な青年となったが、そういう仕種は変わらないな、と思う。所帯を持っても、否、所帯を持ったからこそ得られた強さもあるだろう。……私とリザには無縁のことだ。
エドワードは念を押すように言う。
「しかし、それにしてもあんたの息子とオレの娘が結婚するなんてな」
「だから、彼は」
「はいはい、わかったわかった。ただ運命ってもんを感じてるだけだ。あんたらが、戦犯の息子として扱われて将来に妨げがないようにってわざわざグラマン前大総統の元に預けたっていうのに、オレの娘と結婚した。どうにも因縁があるみたいだな。ウチの娘はセントラルに錬金術の勉強をしに行くって言うから許可を出したのに、久し振りに帰ってきたと思ったら婚約者を連れてきやがった。それでもちゃんと錬金術師って名乗れるぐらいにはなってたからまぁよかったが」
「鋼の……?」
彼は愚痴をこぼしたいのだろうか。まぁ花嫁の父などそんなものだろうか、とも思う。娘を持つ機会はなかったのでわからないが。自身が途惑っていると、彼は笑った。不敵な笑みは、12の頃から変わらない。
「そんな娘でも可愛い娘だ。孫が生まれりゃきっともっと可愛い」
エドワードは言った。
「そのときは、逐一孫自慢の写真をあんたらに送りつけてやるからな。覚悟しとけ」
「――はは。それは怖いな」
そのとき、わっと声が上がった。向こうで、花婿が花嫁を抱き上げている。飽くまで議員だから体を鍛えているわけでもないだろうに、無理をしていないだろうか。そんなことを自身が考えていたが、隣にいるエドワードは考えが違うようだった。
「佳い光景だな」
「――そうだな」
これは、これだけは、心から言った。
「めでたい日だよ、今日は」
その日、エセル・エルリックはエセル・グラマンとなった。その後錬金術師として着実に名を上げつつ、子宝にも恵まれたという。
End.