福音を止める作戦はこうだ。
まず、
次に、福音のメインブースターである真ん中の主翼を白式の零落白夜で切り落とす。
ここで福音が止まってくれるのなら万々歳なのだが、もしそれでも暴走を続けた場合は戦闘を行い、福音を強制的に停止させる。最初さえなんとかなってしまえば、とても単純な作戦だ。
とはいえ実戦経験などこれっぽっちもないトーシロの俺と箒にそれを全て任せても、勝ち目は薄い。
そこで、残りの専用機持ちの面子4人には、あらかじめそれぞれが福音の進行ルートから少し離れた場所で待機し、戦闘が始まり次第、応援に駆けつける態勢をとってもらった。どこで福音と接触するかはわからないから、位置は個人でバラバラだ。
この作戦の要は白式の操縦者である俺が福音の翼をキチンと切り落とせるがどうか。しくじれば、福音はそのまま日本列島を突っ切っていく。千冬からあんな話を聞いた以上、余計な事件と面倒を引き起こすわけにはいかない。
現在時、午後5時55分。作戦開始5分前。
俺と箒はISを展開して夕焼けの広がる無人島の海岸で待機していた。風は静かにそよいで波も穏やか。最高にロマンチックな景色なのだが、今はそんな感傷に浸っている場合ではない。
「あー……織斑イチカ、準備完了」
「篠ノ之 箒、こっちは万全だ」
俺と箒はオープン・チャンネルを使用して千冬のいる旅館の本部と、他の位置で待機している専用機持ち達と連絡を取った。
『セシリア・オルコット、配置に着きましたわ』
『シャルロット・デュノア、準備できたよ』
『ラウラ・ボーデヴィッヒ、配置完了』
『凰 鈴音、こっちはいつでもOKよ!』
彼女達からも配置が完了した報告が聞こえると、最後に千冬から連絡が回ってきた。
『全員配置についたな。織斑、篠ノ之、今回の作戦の要は一撃必殺だ。短時間で決着をつけろ。他の4人も、何があっても良い様に2人の動向から目を離すなよ。2人とも専用機を持って間もないし、これが初めての実戦になる。充分に気を引き締めていけ』
『『『『『「了解!」』』』』』
士気旺盛な俺達全員の声が重なり、通信が切れる。それで終わりかと思いきや、すぐ千冬はプライベート・チャンネルで俺に連絡をしてきた。
『織斑、篠ノ之はどうも気が浮いている。できる限りサポートしてやってくれ』
「ハァ……了解」
その注意喚起に俺はため息を吐いて答えた。
確かに千冬の言う通り、箒は紅椿を貰ってからえらく機嫌が良い。原作ではこれで調子に乗って福音を倒そうとするも、ここ一番の瞬間で一夏がどっからともなく表れた船を守ってしまい、スキを晒した所を福音に反撃を受けて戦闘不能になり、箒だけを残して作戦は失敗に終わってしまう。そして彼女は新しい力を得て周りが見えなくなっていた事、そして無意識に弱者をないがしろしていた事に気付き、自分自身を責めてしまうのだ。
彼女が成長するためのイベントなのかもしれないが、悪いが俺はそんな悠長な事をするつもりはない。今回は俺からの提案でほかの専用機持ちも作戦地域内に待機してもらうように千冬へ頼み込んだのだ。白式が一次移行もしていない以上、二次移行だってするはずがない。ここは最初の1回の攻撃で終わらせる。
『作戦開始まで10秒前…………5……4……3……2……1……』
通信回線から山田先生の声で秒読みが始まる。俺が紅椿の背中に飛びつくと、展開装甲のブースターが作動し、ふわりと浮かび上がった。
『作戦開始だ!』
千冬の号令が聞こえた瞬間、箒は紅椿を一気に高度数百メートルまで上昇されると、展開装甲である6機の浮遊ユニットを一輪の花の様に合体させ、俺達の後ろに浮かび上がる。更に腕部と脚部を変形させて飛行機の翼の様な装甲を展開すると、瞬く間にブースターの火が強くなる音が紅椿から鳴り響いた。
「行くぞ一夏! しっかり掴まっていろ!」
「あぁ!」
俺の返事を確認した箒は、高速移動形態となった紅椿を発進させた。
凄まじい爆発の様な音と同時に、みるみる内に速度1000キロを超えて紅椿が加速する。
「ぐぅッッ!!?」
凄まじい風圧と加速力。常にイグニッション・ブーストで移動しているかの様な感覚。視界の外側は見る間もなく景色が変わり、まともに見えなくなっている。見えているのは真正面だけだ。
俺を背負ってこの速度なのだ。本来ならもっと速いのだろう。しかも俺は風圧を受けて目を開けるのがやっとなのに、前にいる箒は動揺ひとつしておらず、キョロキョロと周りを確認する様に首を動かしていた。
「見えたッ! 一夏ッ!!」
箒の声を聞いて、俺は彼女が顔を向けている方向に集中する。
見えた。雲を切り裂き、大海原を横一線で突っ切る白い閃光。あれが俺達が福音と呼んでいる『シルバリオ・ゴスペル』だ。
「あと数十秒で急接近する! 一夏っ、準備はいいなッ!!」
「あぁッ!!」
箒の大きな声に俺を返事を大きくする。雪片を展開し、いつでも零落白夜を発動できる状態にする。
紅椿の速度が更に増した。まだ加速できるのかと驚く暇もなく、視界の中では福音との距離を表す数値がみるみる内に減少していく。
「今だッ!!」
高速移動形態の姿のまま発動された、箒のイグニッション・ブースト。そして俺のイグニッション・ブーストが合わさり、福音の姿は一瞬にして目でハッキリと確認できる距離まで接近する事に成功した。
「行け一夏ァッ!!!」
俺は乗っていた紅椿から手を離し、脚を踏み込んで飛び出して再度イグニッション・ブーストを発動させる。手元ではもう零落白夜を発動し、両手で握り締めていた。福音は俺のイグニッション・ブーストで俺達の接近に気が付いたのだろう。こちらを見ようとしないまま、体を捻って回避行動をとろうとしていた。
が、俺はその動作も予測していた。
「らアッッ!!!」
斜め一文字に振り下ろされた斬撃は、俺の狙い通りに福音のメインブースター、背中の中央の翼を切り落とした。
派手な金属音と舞い上がる火花と零落白夜の光、確実な手応えを感じていた俺は福音を通り過ぎて、そのまま福音の主翼と一緒に海へ落下する。
「やった!! いち──
「馬鹿ッッ!!! まだだッッッ!!!!!」
そう、手応えはあった。だが、それで福音が止まるとは俺は思っていなかった。
主翼を切断された福音は急激に速度を落とし、バランスを崩して乱回転しながら海へと落ちていったが、すぐ両足と背中の左右に残ったブースターで体勢立て直し、箒に向かって飛躍した。主翼は海面に当たる直前で爆発を起こし、破片が飛び散っていた。
「むっ!」
彼女はすぐさま高速機動形態を解除して、通常の紅椿の姿に変形するなり二本の刀を抜刀するも、福音は箒のいる高度を飛び超えて上昇すると、反転。2つの砲門をそれぞれ俺と箒に向けた。
「なにっ!?」
「来るぞッ!!」
ブースターと合体している砲門から真っ白なビーム弾……福音の主武装、
アレ、遅い……?
なんて考えた俺が馬鹿だった。
次の瞬間、弾丸は実弾顔負けのスピードで加速して俺に降りかかった。
「ヤベッ!!」
咄嗟にイグニッション・ブーストで回避しようとしたが、数発の弾丸は俺の手足に当たるとそのままエネルギーの塊となって白式の装甲に付着。数秒後、着弾した箇所が激しく発光し、爆ぜた。
「ぐうッ!!!?」
マインスロアーとは良く言ったものだ。シールドエネルギーを大幅に減少された上、白式の装甲自体にもダメージを入れられた。これは雪片で受け止めるのも危険だ。
しかも、この弾丸は連射速度が尋常じゃない。マシンガン並みの連射でマインスロアー弾を雨の様に浴びせてくるのだ。どうかしている。
「こ、これはッ!? うわッ!!」
箒も俺の声を聞いて回避しようとしたらしいが、俺と同じ様に何発かが掠って爆発した様だ。煙を噴きながら俺と箒は福音から旋回して合流する。そしてすぐにオープン・チャンネルを開いて叫んだ。
「俺だッ!! 主翼を切っても全然止まんねェ!!!」
『ッ!! わかった、すぐに向かう!』
『それまで持ち堪えてくださいませ!』
真っ先に反応したラウラの声を聞いて、俺は回線を切る。そして一緒に旋回している箒に向かって叫んだ。
「今、応援を呼んだ。こっからなら3分もしないで来る。それまでアイツを惹きつけるぞ!」
「いやっ、応援など待たなくても勝てる! このまま2人で畳みかけるぞッ!!」
「あっ、オイ待てッ!!」
俺の制止の声も聞かず、箒は二本の刀を抜刀して福音へイグニッション・ブーストで突っ込んだ。どうやら思った以上にあの女は専用機を持って、調子に乗っているようだった。
「はぁぁぁあッッ!!」
腕を交差して放たれたバツの字の斬撃は福音のど真ん中を狙っていたが、奴は残った2基のブースターで宙返りを決めて易々と回避される。同時に福音の銀の鐘が、スキを作った箒を狙う。
「箒ッ!!」
「何っ!?」
咄嗟に俺は福音に向かってイグニッション・ブーストで突撃し、全身全霊のドロップキックを叩き込む。
金属同士が激しくぶつかり、顔のそばまで火花が飛散する。射撃と同時に激突された福音の砲門が大きく逸れながらビーム弾が連射された。が、初弾からの数発は箒に向かって加速する。
「一夏ッ! キャッ!!」
箒は展開装甲を盾に変形させてビーム弾を防ごうとしたが、着弾と爆発の連続に展開装甲の盾もこの攻撃を防ぎきる事は出来なかった。弾丸が炸裂して海面へと吹き飛ばされた箒は寸前のところで海上で停止し、福音に向かって急上昇する。
俺は福音を蹴りつけた勢いで空中で宙返りし、今度は雪片を振り下ろしながら奴に急降下する。
「チィッ!」
福音は頭を下に向けて箒へと突進すると、砲門の副翼は俺に向けてビーム弾を乱射。真正面から受け止めるわけにもいかず斜めに回避するも、その時にはもう福音は箒とすぐぶつかる距離まで接近していた。
「はぁぁあッッ!!」
彼女の張り上げた声と同時に、刀を交差した紅椿と福音が金属音を立てて激突する。
近接武器を持っていない以上、さすがに今のは福音に効いたと思っていた。だが、福音が斬り飛ばされる気配はなく、それどころか紅椿と鍔迫り合いをしている。何が起こっているのかはすぐわかった。
奴は刀を持った箒の腕を防いで、攻撃を受け止めていたのだ。
「なにっ!?」
箒が力を込めても福音の腕は下がらず、福音はそのまま捻るように彼女の斬撃を受け流す。そしてスキができた瞬間を狙って容赦なく彼女を真下へと蹴り飛ばした。
「うあぁッ!! 一夏ァっ!」
それは俺に助けを求める箒の声だった。叫びながら宙を無防備に舞った彼女へ、すぐさま福音は追撃のエネルギー弾を発射する。避ける事も叶わず、白い爆発に巻き込まれて落下する彼女を目で追いながら、俺は雪片の攻撃範囲内に捉えていた福音を通り過ぎて、紅椿に回り込む。そして彼女の紅椿を白式の体で受け止めた。
「いっ、一夏ッ!!?」
「ワリぃ、大丈夫か!?」
箒をしっかりと抱えたまま、俺は白式のメインブースターを一気に噴かして福音から離れる。すぐさま海面に乱射されたビーム弾が着弾し、海中で爆発が起こる。水飛沫が上がってISの装甲に海水が付着するのも構わず、荒波と水柱の隙間を縫って福音の弾丸を回避しながら、スラスターの向きを急激に変えて一気に上空へと飛び上がる。
「うわッ!」
箒が驚くのも無視して俺はイグニッション・ブーストの連続で福音から大きく距離を離した。流れ弾は飛んでくるが、俺達に当たる事はないだろう。そこまで逃げて俺はようやく箒を解放しながら飛行する。
「ほらっ」
「あ、あぁ……」
俺の腕から離れた彼女は戦っていた時と打って変わって、えらくしおらしくなっていた。
「箒?」
「い、一夏……すまない。迷惑をかけてしまった……」
彼女は。さっきの時に零落白夜を発動して斬りかかれば、福音に致命傷は避けられなかっただろう。それを放棄してまで俺は箒を助けたのだ。
「気にすんな。もうすぐ応援が来る。それまで耐えればいい」
「せっかく専用機を貰ったのに、この有り様では情けない……」
彼女の行った事に対し、俺は近づいて白式の左腕のISの部分を収納し、生身の左手でデコピンを箒のおでこに当てた。
「なっ、なにをする!?」
「言わせんな」
普段の一夏じゃまず使わない口調に、箒は言葉を詰まらせた。左腕を再び白式の装甲に包み込ませる。
「箒、お前は何の為に専用機を貰った? 何の為にわざわざ嫌いな束さんに頼み込んだんだ?」
「そ、それは……その……」
彼女は別に強くなりたいために紅椿を望んだのではない。彼女の目的はもっと別の所にある。それに気づけなくなってしまったら、彼女はきっと同じ過ちを繰り返すだけだ。
それには自分で気がつかなくては、自分で思い出さなくては。たとえ、その結果を俺が背負いこむ事になったとしても。
「お前が望んでんのは『紅椿』なんかじゃないだろ?」
「え…………ッ、一夏ッ!!」
「やべッ!」
箒は何かを考えようとしたが、彼女はこちらに接近しながらエネルギー弾を連射する福音に気づいて、思考を止める。
俺は慌てて福音から距離を取りながらエネルギー弾を回避し、箒ともう一度並行飛行しながらプライベート・チャンネルを彼女に繋げる。
「箒、協力してアイツにもう一撃ぶち込むぞ」
「えっ!? で、でも……私とお前の2人がかりでどうにもならないのだぞ!」
「さっきはバラバラに攻めてただけだ。お前が先攻したせいでな」
「うっ……す、すまぬ……」
「だから……今度は2人で力を合わせる。セシリア達が来る前に、一矢報いてやりたい」
「……できるのか……?」
「任せろ!」
この瞬間も俺達二人は福音の銀の鐘で射撃を受けている。当たってはいないが長くはもたないだろう。移動速度は紅椿とほぼ同じで白式よりも上、回避性能も高くて直線的な攻撃はほぼ回避されてしまう。更にデータになかった事で、思った以上に肉弾戦が得意だった事に俺も焦り始めていたが、まだ負けたわけではない。すぐ頭の中でアイツをぶっとばす方法を考える。
エネルギー弾の連射速度こそ驚いたものの、命中精度は高くない。それに、発射した直後の弾速は非常に鈍重で、加速した時の方向の修正は聞かない。
更に福音のもうひとつの攻撃方法であるチャージレーザーは、俺が斬り落とした主翼がないと使えない事を知っていた。
「俺は奴を引きつける。お前は逃げ回りながら刀のエネルギー波を撃て。ありったけな」
「えっ!? だ、だが避けられるだけでは……」
「わかってる。俺が指示したらエネルギー波をホーミング弾に切り替えるんだ。やれッ!」
「わ、わかった……いくぞっ!!」
俺の指示を半信半疑ながら、箒は紅椿の刀を振り回してエネルギー波を福音へ発射する。それと同時に俺は彼女と平行飛行していた所から急に角度を変え、福音に向かって突進する。
エネルギー波を追いかけるように福音に向かって飛ぶ俺だったが、すく奴は射撃を中断して斬撃波を悠々と回避すると、俺の存在に気づいて銀の鐘を向ける。
「よしこいッ!」
砲門から発射される初弾はイグニッション・ブーストで回避し、俺を追い始めた。
「箒ッ、切り替えろッ!!!」
「えっ!? わ、わかったッ!!」
一瞬うろたえるも箒は逃げ回りながら刀を振るう。しかし放たれるのは斬撃波ではない。刀身から膨れ上がるようにエネルギーが蓄積され、放たれる数発のエネルギー弾が福音を狙って迫る。
新たな攻撃に福音は攻撃を中断して回避行動を取り始める。だがホーミングレーザーはエネルギーを散らしながら執拗に福音を狙って奴を追い回す。
その隙に俺は箒のもとへと向かい、着くなり彼女を抱きかかえて飛翔する。
「来いッ箒!!!」
「なっ!」
箒が悲鳴を上げるも、すぐに彼女は動きを把握してくれた。もう紅椿の刀にはエネルギーが帯びている。いつでも攻撃できる。
ホーミング弾のエネルギーは燃え尽きて福音の足元で潰えた。逃げ回る事から解放された福音はすぐに俺と箒を捉えて銀の鐘の砲門を向け、ビーム弾を連射する。
俺は素早く白式を急上昇させ、福音の掃射を回避する。だが奴は片方の砲門で俺を追撃し、もう片方の砲門で俺の動きを先読みし始めた。上昇するだけの動きはすぐ読まれて偏差射撃をしてくる。
それもわかっていた。
俺は上昇する最中で白式で抱えていた箒の紅椿の腕を掴み、スラスターを噴かして螺旋のように回転する。そしてその勢いのまま、彼女の腕を離した。
「行け箒ッ!!!」
「はあああぁぁッッ!!!」
福音に向かってブン投げた紅椿は俺を狙っていた砲門では牽制が間に合わず、箒は弾丸を受ける事なく紅椿の両手に握りしめていた刀を奴に向かって斬り放った。
斬撃は福音のど真ん中に直撃し、奴の体がくの字型にへし曲がる。彼女はそのままイグニッション・ブーストも発動させ、勢いに任せた体当たりで追撃する。激突音と同時に、福音が火花と装甲の破片を撒き散らして宙を舞った。
「やった!!」
ブーストで大きく福音から距離をとった箒が振り返り、思わず喜びの声を上げる。しかし、彼女に撥ね飛ばされた福音は宙を舞いながらも副翼の砲門を真っ直ぐ彼女に向けていた。
しかし、それも想定の範囲内。箒をブン投げた俺はすぐイグニッション・ブーストの準備をしており、福音が彼女を狙った時にはもう俺が白式でライダーキックを決めていた。
再び激突音が響き渡り、福音が海面に向かって突き刺さるかのように飛んでいく。しかし、奴はまたしても海の中へ落ちるまえにスラスターで急上昇をしながら銀の鐘を乱射し始めた。
放たれる白光の弾丸を躱しながら後退する俺と箒。唐突に福音はイグニッション・ブーストで急接近しながら2門の銀の鐘を俺に集中してきた。
「一夏ッ!!」
離れていた箒が叫ぶ。彼女が攻撃して福音を抑制しようとするが、間に合わない。弾丸が装甲を掠り、俺がイグニッション・ブーストを発動しようとした直後、砲門に光が収束していた福音の姿が突如として爆発に飲み込まれた。
「えっ!? これは……!」
「来たか……」
煙を上げて墜落する福音とそれを見て混乱する箒。でも俺は何が起こったのかわかっていた。すぐプライペート・チャンネルに聞き慣れた声が入る。
『待たせたな』
『お待たせしましたわ』
その通信と同時に周囲の雲の中から現れたのは、それぞれの専用機を纏ったヒロイン達だった。
『ったく、あたし達がすぐ来るって言ってんのに、よくあんなムチャしてくれるわよね……』
『アハハ……で、でも凄かったよ! 箒も!』
『そ、そうか……?』
回線で会話をしながら俺の周りにラウラ以外のヒロイン達が集まる。ラウラの姿はISのインターフェースの中のワイプに映っている。彼女は少し離れた場所にある無人島で狙撃の体制を整えているようだ。
彼女達の専用機は午後の実践訓練で取り付けるはずだった
セシリアのブルー・ティアーズは、強襲用高機動パッケージ『ストライク・ガンナー』を装備していた。これは6機のBTの射撃機能を封印し、全て腰部に増設させたパーツに取り付けてスカート状のスラスターとして機能させる物だったが、彼女はそこから普段と同じ要領で攻撃をするためのBTを4機、元ある浮遊ユニットに装着。高速移動と援護射撃のBTを両立させていた。手には普段使っているレーザーライフル『スターライト Mk.III』ではなく、全長3メートル程度の細身なレーザーライフル『スターダスト・シューター』を持っている。更に、頭部のカチューシャはバイザーの形をした、BTの制御能力を高める装置、超高感度ハイパーセンサー『ブリリアント・クリアランス』を被っていた。
鈴の甲龍は、龍砲の機能増幅パッケージ『
シャルのラファールは防御パッケージ『ガーデン・カーテン』を装備していた。これはラファールに補助アームを増設し、実体シールド2枚とエネルギーシールド2枚により防御機能を向上させた代物だ。一見防御一辺倒になりがちに見えるが、シャルの高速切替によって防御の間を縫って攻撃が可能だ。シールドが基本的に展開されているので、重量による速度の低下をカバーするために、左右の肩と背部に1基ずつ増設スラスターを装備している。
ラウラのシュヴァルツェア・レーゲンは一瞬、ラウラがどこにいるのか見てわからなかった。砲戦パッケージ『パンツァー・カノニーア』は馬鹿デカいレールカノン『ブリッツ』を肩に2門も装備。遠距離からの砲撃・狙撃対策として2枚の物理シールドを左右、正面に展開している。ラウラの姿はそのシールドの隙間から確認できた。見た目はさながら小さな要塞、もはやレーゲンがどの部分だったのかもわからん。このパッケージを装備すると飛行する事が困難になるので、近くの無人島で待機しているそうだ。
「で、どうすんの? アイツ、まだまだヤル気みたいだけど?」
鈴がそう言いながら甲龍の爪先で指差すと、彼女の視線の向こうでは海上で停止した福音が再び高度を取ろうと上昇していた。
「当然、迎え撃つ!」
『主翼を切っても止まらない以上、エネルギーの底をつかせるしか方法はないだろう』
「かなりの強敵だと思うけど……僕達なら勝てるよ!」
「織斑さん、援護は任せてくださいまして♪」
周りは全員戦闘準備完了だ。俺は視線の先にいる福音を捉えながら、最低限の伝えるだけの事を伝えて雪片を構え直した。
「俺と箒と鈴で前衛、残りは援護頼む。こっちは人数多いけど、目標は1体しかないから同士討ち気をつけて。攻撃する時は味方の位置確認しろよ? あ、即席の作戦はもう作れないからな」
「なぁによ急にリーダーぶっちゃって……もう♡」
「OK! 任せてよっ」
『了解した。気をつけろよ』
「速攻で終わらせるぞ、一夏」
「あぁ」
俺達全員が武器を構えたその時、福音が俺達に向けて砲門を向けた。
「散開ッ!!」
俺の号令でその場にいた全員が四方に散らばる。福音は移動しながら銀の鐘の砲門をそれぞれ別の標的に向かってエネルギー弾を連射する。最初に狙われたのは、俺と箒だった。
「私が引きつける! 鈴音ッ!!」
「わかってるわよ! くらいなさいッ!!」
拡散して放たれるエネルギー弾を回避しながら箒が鈴に叫び、彼女は接近して甲龍に付いた4つの龍砲を撃ち込む。被弾衝撃の強い散弾は有効なのか、福音は思うように回避ができず、また銀の鐘で狙いをつける事もできず、ほかのISからの攻撃と合わさって爆発する。
「織斑さんはやらせませんわ!」
俺が狙われていると知るや否や、すぐさまセシリアがBTを展開して攻撃を始める。4機のBTが福音を集中砲火し、更にレーザーライフルが精密な狙いで福音に命中する。
四方八方から攻撃を受けた福音はその場で上昇しつつ回転しながら銀の鐘を乱射し、全方向にエネルギー弾をぶち巻いた。
「うおッ!?」
「ヤバっ!」
「離れろッ!!」
箒の言葉に従って、俺達は一斉に福音の銀の鐘の範囲内から逃げ出したが、接近して攻撃していた鈴の甲龍に弾丸が降りかかる。
「あっ……」
「鈴、避け──
俺の声はエネルギー弾が海面のいたるところに降り注いで起こった大きな爆発に掻き消される。辺り一面に爆風が舞い上がり、白式が大きく揺れる。
「鈴! 鈴音ッ!!」
『大丈夫』
叫ぶ俺に冷静な声で返事をしてくれたのはシャルだった。甲龍が飲み込まれた辺りの煙が晴れたそこには、ラファールのシールドで鈴を守る彼女の姿があった。カーテン・ガーデンの物理シールドは福音のエネルギー弾すら完全に防ぎきっていた。
「ケガはない?」
「あ、ありがと……」
たどたどしくお礼を言う鈴だが、彼女はすぐ福音が自分達を狙っている事に気づいた。
「シャルロット、逃げるわよッ!!」
「うん!」
2人はそれぞれ別方向にイグニッション・ブーストをして、飛んでくるエネルギー弾を回避する。鈴は龍砲を乱射して、シャルは適当な武器で福音を引きつけるかのように攻撃していく。
「今度は私だ!」
福音の狙いから外れた箒は、ここ一番と言わんばかりに紅椿でホーミングレーザーを発射する。ミサイルすら捉える軌道で接近するエネルギー弾を福音は回避しようとするも、セシリアのレーザーが当たってよろめいた直後に命中してしまう。
爆発した煙の中から現れた福音は砲門を箒に向けるも、今度はラウラの狙撃が綺麗に命中し、福音が大きく無防備に吹き飛んだ。
『今だッ!』
「もらいましたわッ!!」
すかさずセシリアのBTが福音を取り囲み、レーザーライフルと一緒にレーザーで滅多打ちにする。青白い閃光が福音の周りで弾ける。
「フルチャージよッ!!」
福音の真下に回り込んだ鈴が、甲龍の4基の龍砲の中に限界まで溜め込まれた衝撃波を4つ同時発射させる。爆音と共に放たれた真っ赤な波動が射線上の雲ごと福音を飲み込み、業火を撒き散らせた。
「逃がさないッ!」
隙を狙っていたシャルのラファールから、ありったけのミサイルが展開されて発射される。数十発の放たれたミサイルは福音一点に集中して大爆発が起こった。
「当てるッ!!!」
箒の紅椿も攻撃は止めない。刀からはホーミング弾だけではなく斬撃波も何発と放たれ、それは一直線に全て福音へ命中した。
「撃てッ! 撃ちまくれッ!!」
箒の斬撃が命中し、防御も回避も余裕のなくなった福音に、ほかのヒロイン達の攻撃が雨あられのように集中する。俺もシャルから軽機関銃とマシンガンを受け取り、福音の見えていた爆発の中に向かって全弾を乱射した。
爆発に爆発が重なり、最後には凄まじい爆音と共にオレンジの火花が散って、灰色の煙が空中に蔓延していく。その下側から装甲が剥がれてボロボロになった福音が、黒煙を上げて落ちていくのが見えた。
『やったか?』
ラウラが回線でそう呟いたその瞬間、福音の顔が動いてこちらを見たかと思うと、奴の体が空中で静止して一気に白く輝き始めた。
「なっなんだ!?」
「ちょっと!? なによ! なんなのよッ!!?」
閃光を放ちながら福音は四肢を限界まで広げて上昇していく。黒煙が収まり、ボロボロだった装甲が白い粒子に包まれて修復されていく。それだけではなく、その上から前にはなかった新しい装甲が増設されている。更に、せっかく俺が切り落とした背中の中央の翼が粒子変形と共に再生された。
「も、もしかして……」
「せ、
セシリアが驚愕して叫んだその直後、白式のエネルギーセンサーが福音の再生された主翼の砲門に強大なエネルギーが収縮していくのを感知した。まるで女性が喉を響かせているような高音が、奴から発せられていた。
「ヤベぇ、逃げろッ!!!」
「言われなくたって逃げるわよッ!!」
回線でそう叫んで俺は福音から離れる。ほかのヒロイン達も一目散に逃げ出した。ある程度距離をとって、速やかに反転する。誰が狙われているのかを目で確認する。
福音が狙っていたのは無人島、ラウラだった。
「ラウラ逃げろッ!!!」
『何ッ!!?』
ラウラの焦りの声を聞いたセシリアも反転してレーザーライフルを福音の体に当てたが、それでも奴の照準がズレる事はなかった。
「ラウラさんッ、逃げてくださいッ!!!」
彼女が叫んだ直後、エネルギーの溜め込まれた福音の主砲から図体の倍以上の大きさがある光線が放たれた。空気が張り裂ける音が響き渡り、衝撃波が俺達のいる所にまで一気に伝わった。
そして破壊の意志を持った光線は、ラウラのいた無人島の一角に直撃した。0.何秒にも満たない沈黙の直後、光線の落ちた場所からドーム状の爆発が起こり、凄まじい音を立てながら地盤と海面をひっくり返す。爆風は一気に俺達を上空へと押し出し、煙が晴れた時には島の形が変わっていた。
「ラウラッ!!!」
「ボーデヴィッヒさんッ!!」
「ラウラッ!! ラウラーーーッッ!!!」
『っつ……ッ! 私は大丈夫だ!』
シャルが回線で叫ぶと、ノイズが混ざった向こうからラウラの焦った声が返ってきた。どうやらすぐ移動を初めていたらしい。彼女の声を聞いてひとまず安堵するが、落ち着いてはいられない。
福音は復活した主翼と2機の副翼から一斉にエネルギー弾を発射した。狙われたのは俺と箒と鈴の3人。しかし、それを回避した者はいなかった。
「ッ!」
「なッ!?」
「早いッ!!」
最後に叫んだ箒の声と同時に俺達は銀の鐘の弾丸をモロに浴びて、白光の連鎖爆発を起こしながら海面に墜落した。
「ぐうぅぅぅっッ!!!」
「「キャアアアァァァアッ!!!」」
2人の悲鳴を遠くに聞きながら、俺は爆発の止んだ白式を空中で無理矢理停止させ、福音から後退しながら箒と鈴を探す。エネルギー弾の弾幕が隙間をISで縫えなくなるぐらい分厚くなったのはもちろん、弾丸の加速も段違いに上がっていた。
「引けッ! 下がれッ!!」
俺はシャルロットとセシリアに叫びつつ、雪片を構え直してイグニッション・ブーストを使い、墜落していく箒と鈴の姿を捉えて2人の所へと向かう。その間にシャルロットとセシリアが射撃で援護してくれたが、銀の鐘の弾幕でいとも簡単に蹴散らされてしまった。シャルロットはシールドを破損させながらも退避していたが、油断していたセシリアのBTが弾幕に飲まれ、2基が撃ち落とされて爆散した。
「キャッ!!」
「セシリアっ! うわッ!!」
シールドを張り替えたシャルロットのラファールがセシリアに気を使いながら鈴の救護に向かおとするも、銀の鐘の弾幕が激しすぎて近づけない。ラファールは白式ほど素早く動く事はできないのだ。
「くっ! 仕方ありませんわね……」
BTを破壊された彼女はブースターに使っていた腰のBTを2基取り外し、攻撃用に転換させる。そこから距離を取りながら福音に攻撃を再開した。
俺の視界の向こうでは体勢を立て直した箒がイグニッション・ブーストで逃げるも、鈴はまだ動かない。彼女と海面の距離がみるみる迫っていく。
「鈴ッ!!」
俺は福音の弾幕に狙われていない隙に、墜落する鈴の所へと飛び込む。ダイビングキャッチで彼女と甲龍を受け止め、イグニッション・ブーストで福音から逃げようとしたとこで、千冬から通信が流れ込んできた。
『お前達、全員聞こえているな? 作戦は中止だ。繰り返す、作戦を中止する』
「えぇッ!!?」
「なっ、そんな!? どういう事ですか!?」
思った通りの内容にヒロイン共は一様に驚きながら、納得のいかない声を上げる。俺はそんな彼女達を無視して鈴に呼びかける。彼女の甲龍は4基あった衝撃砲のユニットの内2基が破壊され、右肩の1基は電流と火花を散らせていた。
「鈴ッ! 鈴ッ!!?」
「じょ……冗談じゃないわよ撤退なんて……!!!」
意識はあったのか俺の腕の中で甲龍を動かしながら、回線に向かって声を捻り出した鈴。相手が千冬とわかっているのだろうか、その声色には凄みを感じていた。しかし、千冬はそんな反発を正論で受け流す。
『福音が二次移行するのは予想外だった。相手の性能もわからなくなった今、交戦を続けるのは危険と判断した。すぐに戻れ』
千冬は冷静に状況を読んでいるつもりだ。このまま戦い続ければ俺達にも負傷者が出てくるだろう。だが、俺達の事件に今まで完全勝利など一度もなかった。多少の怪我など気にもしなかったのだ。
「いいえ、日本はもう目の前です! 今戻れば福音は誰にも阻止できなくなりますわ!」
『それにIS学園の立場もある! このまま逃す訳にはいかないッ!』
『ダメですッ!!!』
強気なセシリアとラウラの2人の理由を一蹴したのは山田先生だった。突然通信回線に割り込んで大声を出された俺達は、思わず彼女の声に怯んでしまう。
『学園なんて関係ありません! 皆さんの命が最優先なんです! 命令を聞いてください!!!』
それは俺達の事を一心で考えてくれている山田先生の純粋な願いだったのかもしれない。そして、それを間に受けてしまった彼女達は、迷いを生ませてしまう。
「……ッ!」
「や、山田先生……っ」
『ッ……だ、だがこのままでは……ッ!』
だがラウラは諦めきれていなかった。そして、それは俺も同じだった。福音は明らかなパワーアップを遂げたが、まだ自分達で倒せないとは決まっていない。それに、俺は福音をここで逃すつもりは毛頭ない。
「千冬姉、ここで終わらせるべきだ……福音を……」
『織斑くん!!!』
真っ先に叫んだ山田先生。その後ろから千冬のため息が聞こえる。
『聞こえなかったのか? 織斑、撤退しろ、命令だ』
「少し戦ったけど、二次移行前と対して変わってない。バカ太い光線出すようになったけどスキだらけだし、むしろチャンスだ。まだ逃げるほどじゃない」
『だが主翼が再生したのだろう? このまま追い詰めても逃げられるだけでは──
「でも、そうすれば日本には被害がなくなる……それに一次移行の状態で紅椿がギリギリ追いつけたんだ。今逃せば誰にも捕まえられなくなるし、奴がまだ俺達を狙ってるなら、逃げるには犠牲が必要だ。そんな選択肢はない」
『……本気か?』
「やってやるさ」
『織斑くん……』
俺が微塵も撤退する意思が無い事を伝えると、千冬の返事よりも早く山田先生が通信の向こうから静かに語りかける。さっきと打って変わってしおらしい震える声だが、それでも俺にははっきりと聞こえた。
『絶対に無理をしないでくださいね……無事に……帰ってきてくださいね!』
「はい」
ただひと言、それでも伝える事は伝えた。後は俺がその約束を守るだけ。
『……ハァ、戻ってきたら覚悟しておくんだな。……生きて帰ってこい』
大きなため息が聞こえてきたが、それでも千冬は俺の意見を飲んでくれた。彼女に感謝して俺は通信を切った。
「一夏……」
「で、どうすんのよ?」
すぐさまそばに近寄ってくる鈴や箒を見ながら、俺は雪片を片手で放り投げてまた掴み直す。
「逆転するには……コレしかないな」
そして彼女達に見せつけるようにして雪片を零落白夜が発動する形態に変形させて見せた。
「ちょ……確かに零落白夜なら一気に逆転できるかもしれないけど!」
『どうやって狙うつもりだ? スピードはさっき以上で、瞬間火力も上がってるぞ』
通信に割り込んでラウラはそう言いながらも、カノン砲の弾丸を装填し直している。シャルも銃のマガジンを交換していた。それは福音をブッ飛ばすやる気に満ち満ちているのと同時に、俺に何か考えが浮かんでいるのを待ちわびている様な態度だった。
「ギリギリまで誘き寄せて、奴がレーザーを溜めた時に突っ込む」
「は?」
「何っ!?」
「本気ですの? アレをまともに受ければ例えISの絶対防御が作動しても、命の保証はありませんのよ?」
『死ぬつもりか?』
「はぁ〜、またムチャクチャな作戦だ……」
俺の作戦が余程突拍子がなかったのか、全員がそれに反応して、シャルはため息まで吐く。だが、反対する者は誰もいなかった。零落白夜を当てるには、それしか考えられなかったのだから。
「ほかに何か思いついたヤツいるか?」
「「「『………………』」」」
「じゃあ、やるしかないな」
俺はそれだけ呟いて、雪片を福音に向けて構え直した。それに釣られて彼女達も武器を構える。
「あぁ〜ッッ、もうッ! やるしかないわね!!!」
「一夏を零落白夜を発動するまで援護すればいいんだよね?」
『零落白夜はあと何回使える?』
「まだ余裕」
ここまで銀の鐘のエネルギー弾は何発かくらってきたが、致命傷はまだ受けていない。零落白夜もまだ1度しか発動していない。白式の残りエネルギーには余裕があった。
「一夏、私達が援護する。お前は零落白夜を当てる事だけを考えるんだ」
「それまで、何があっても私達が守り抜きますわ」
嬉しい事まで言ってくれる箒とセシリアに、俺は白式の腕を振っただけで返事する。視線の先では福音がチャージレーザーを放とうとしていたからだ。
「いくぞッ!」
俺の号令で俺達は四方八方に飛び退いて、福音から放たれたチャージレーザーを回避する。雲を消し飛ばしながら直進する光線は海面に着弾し、大爆発を起こした。だが、俺達は誰もそんな所に目を向けていない。ただ、福音を睨んで攻撃を始めていた。
「当たれェ!!」
紅椿がホーミング弾を放つも、福音は3つのブースターを小刻みに動かし、追尾してくる弾幕をすり抜けるかのように回避する。エネルギーの弾は福音を追っかけ回している内に減衰して、消えていく。
「くっ、コレを避けるか……っ!」
箒が歯噛みする視線の先では弾幕を抜けた福音がエネルギー弾を彼女に向けて乱射し始める。
「危ないっ!!」
咄嗟に動いたシャルがシールドで弾幕を防ぎながら箒と一緒に逃げるも、強化された福音の銀の鐘によるエネルギー弾はさっきまで防いでいたリヴァイブのシールドを数十発の被弾で破壊する。
「うわッ!!? くっ……!」
慌てて彼女はシールドをもう一枚展開し、アームに装備する。その隙をカバーする様にセシリアがレーザーライフルで射撃する。
「当てる……ッ!」
BTの数発とレーザーライフルのレーザーが命中し、エネルギー弾を乱射していた福音の姿が青白い閃光に包まれて爆発する。白光の弾幕が止まり、爆発の中から福音が逃げる様に姿を現わす。
「逃すかッ!!」
再び箒の紅椿が粒子に包まれた刀を振り抜いてホーミングレーザーを発射する。それも今度は何度も刀を振り抜き、何十発という数を放っていた。
光の弾が不規則な弧を描いて福音を追い詰め、同士討ちで爆発の連鎖が起こる。その中を奴は細かなブーストで回避しながら、ホーミングレーザーの網の中をすり抜ける。瞬間、俺は爆発の影から斬りかかった。
「一夏、行けッ!」
箒の声援を背に受け、振り下ろした雪片の一撃は、振り返った福音の左腕を斬りつける。火花が散って装甲に切り傷が入るも、致命傷には至らない。
俺は素早く雪片を切り返してもう一撃横一文字に振り払い、奴の腕にキズをいれると、無防備だった腹を蹴りつけて、逃げられない程度に距離をとる。奴がイグニッション・ブーストを使ったら、こちらもすかさずイグニッション・ブーストで一気に距離を詰める。すると福音は後退しながら銀の鐘を乱射し、俺は小刻みにイグニッション・ブーストをしながら雨の様な弾幕を回避する。少しずつ奴との距離が離されていくが、そこに福音に向かってセシリアとシャルの援護射撃が飛び交う。
「やらせませんわッ!」
「させないッ!」
実弾とエネルギー弾が何重にもなって福音に降り注ぎ、たまらず奴は射撃を注視して回避行動に移さざるを得なくなる。そこへ刀を構える箒の紅椿と、爪を振り回して突撃する鈴の甲龍と、雪片を振りかぶった俺の白式が、逃げる福音に集中する。
しかし、福音は迫り来る俺達を捉えると、主砲の銀の鐘にエネルギーを溜め込み始めた。
「ま、マズいッ!!」
「その前にブっ潰すッ!」
「鈴ッ、待てッッ!!」
箒は身の危険を察して攻撃から後退したが、鈴は出だしを止めるためにそのまま突っ込んだ。俺は彼女を援護するために後を追ったが、甲龍の爪が届くよりも早く充填が完了された銀の鐘から釣鐘の振動の様な音が鳴り響く。
「鈴ッ!!!」
「キャッ!!?」
間一髪、俺の白式の手が甲龍の脚部を掴み、そのまま真下に引き下ろした。直後、主砲から鈴目掛けて放たれようとしていた極太のレーザーが、俺達の頭上を通過する……と思いきや、福音はレーザーを放ちながら俺や、セシリア達のいる方向に主砲を振り回して薙ぎ払った。
「何ッ!!?」
「うわわわわッッ!!!?」
バケツで中身をぶちまいてみせたかの様にレーザーは海面に飛散し、大爆発を起こした。入道雲の様な煙が俺達の飛んでいる高度まで一気に撒き上がり、夕日が遮られて視界に影が差す。
「「「キャアァァァァァァァッッ!!!」」」
『おいッ!? 大丈夫かッッ!!!?』
ラウラが回線越しに叫ぶのを聞こえたが、それどころではなかった。鈴を後ろから捕まえて抱き留めたまま、俺は福音よりも高く急上昇する。
「いぃ、一夏ぁ!?」
「鈴ッ……行ってこォいッッ!!!」
掛け声と同時に俺は彼女を福音に向けて投げつけた。チャージレーザーを撃った直後の無防備な状態に、鈴の甲龍が襲いかかる。
「今度こそッ!!」
ミサイルの様な突撃をかまして福音に急接近した甲龍は、その両手の爪で福音を頭から足先まで引っ掻き下ろし、続けざまにイグニッション・ブーストのタックルで奴を吹き飛ばす。更に彼女は空中で跳躍する様な軌道で福音の飛びかかると、足の爪で福音を踏みつけて蹴っ飛ばした。
「でぇぇぇぇいッ!!」
身体に爪痕を残され空中で真横に吹っ飛ぶ福音を、今度は俺が後ろから襲う。だが副翼だけが動いて俺を狙い、エネルギー弾を発射する。
「クソッ!」
速やかに前と後ろのブースターを入れ替えて弾幕から後退するも、福音からは完全に引き離されてしまった。これでまた最初の状態に戻ってしまったが、わかった事もあった。俺はすぐ頭を回転させてもう一度福音に接近する方法を考える。
そして同時進行で俺はシャルと通信を繋げた。視界の先では福音がエネルギー弾を乱射しながら、再びチャージレーザーを放つためのエネルギーを溜め込み始めていた。
「シャル!! シールドまだあるか!!?」
『えッ!? う、うん!!』
彼女の返答を聞いて俺は文章通信に切り替えて彼女に即興の作戦を送り、認識させる。
『えぇッ!! 本気なの一夏ッ!?』
「やれッ!!!」
俺が叫んだ直後、福音の銀の鐘の主砲から放たれたエネルギーレーザーは真っ直ぐ海に突き刺さると、奴はそのままレーザーを照射しながら海面を縦に薙ぎ払った。海が崖の様に割れ、爆発と同時に俺達のいる高度まで一気に水柱が立ち、一瞬福音の姿も、箒達の姿も見失ってしまう。
『クソッ! 一夏っ! シャルロット! どこにいる!!!』
ラウラがこちらの様子を探ろうと通信回線の中で叫ぶ、他のヒロイン達も巨大な水柱の壁に思わず距離を取って後退する。
だが、俺とシャルロットはその水柱の中を突っ切って福音へと接近していた。
「いけェッ!!」
最初に水柱から飛び出したシャルロットは、リヴァイブのアサルトライフルを格納すると、その手の平に粒子を集めて展開させたスモークグレネードを振りかぶって福音に投げつけた。
豪速球でブン投げられたグレネードは真っ直ぐ福音に向かって直進していったが、奴はすぐにグレネードの存在に気づいて銀の鐘を数発、発射する。エネルギー弾の直撃したグレネードは爆発し、周囲に入道雲の様な煙を撒き散らした。
「なっ!? なんですの!!?」
「煙幕だッ!! シャルロットっ!!」
箒とセシリアは何が起こったのかをいち早く察知したが、肝心のシャルとリヴァイブの姿も一瞬見えた直後に煙幕に隠れて見えなくなってしまう。これでは援護のしようがなかった。
福音もスモークグレネードの煙の中に飲み込まれるも、すぐさまブースト移動で煙幕から抜け出し、その煙の中に向けて銀の鐘を構えた。
「うわあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁッッッ!!!!!」
直後に響き渡る、自らを奮い立たせる様な叫び声。その煙幕の中からシールドを前方に向かって2枚と、両手にも2枚のシールドを構えたシャルのリヴァイブが福音に突進する。
『シャルっ!!?』
「デュノアさんッ!!?」
驚愕するラウラとセシリアの声が聞こえても、リヴァイブは止まらない。叫び散らしながら一直線に突っ込むシャルへ福音は速やかに2基の砲門を彼女に向かって構え、エネルギー弾を乱射した。
「避けてェ!!!」
咄嗟にセシリアが叫びながらレーザーライフルを発射するも、レーザーは福音の脚部に命中した。それでも銀の鐘から乱射されるエネルギー弾は止まらない。
「ああぁぁぁぁぁぁぁぁッっ!! ぁっ、あがッッ!!!」
福音の弾幕を正面から受けたシールドは弾幕を抜けた丁度で連鎖爆発を起こして、粉々に砕け散った。リヴァイブ本体も無事ではなく、爆風を浴びて墜落する。
『シャルゥゥゥゥゥッッ!!!』
ラウラの悲鳴が回線の中で回線の中で突き抜ける。誰もが悲劇を目の当たりにしてしまったと錯覚しているかもしれない。だが、それも俺の作戦の一部だった。シャルとリヴァイブがこの程度でくたばるタマじゃない事も理解していた。
それに、シャルは笑っていた。吹き飛ばされながら笑みを絶やさず、アサルトライフルとスナイパーライフルを展開して福音を狙い撃つ。
奴は頭を実弾で撃たれ、完全に注意がリヴァイブに向いていた。だから空中で倒れ落ちるリヴァイブの後ろから煙幕を突き破り、零落白夜の体勢を構えた俺が福音を捉えた時も、奴は俺に気がついていなかった。そして奴が俺に気づいたその時にはもう、俺はイグニッション・ブーストと零落白夜を発動していた。
「一夏ッ!!?」
「一夏!!!」
「いッッッッッッッけぇ一夏ッ!!!」
箒や鈴が驚き、シャルが叫んだ時にはもう俺は雪片を振り上げて福音の頭上から飛びかかろうとしていた。
しかし、福音は頭を上に向けて俺を見ると、エネルギーの充填を止めて体を捻りながら俺の斬撃を躱した。
「あぁッ!」
「惜しいッ!!」
誰かの悲鳴が聞こえた。だが、これで懐に入れた。俺は空振りの勢いを利用して空中で前回りしながら体を捻り、福音に横切りを打ち込もうとしたが、奴は手で雪片を握る白式の腕を掴んで受け止める。
「ッ!!」
咄嗟に腕を引こうとしたが、福音の手は白式の装甲にヒビをいれるんじゃないかってぐらいに力がこもっていた。そのまま奴は銀の鐘の砲門を俺の顔に向ける。至近距離で覗いた砲門から白銀の粒子が溜まっていく。
「ザケんなッ!!」
無我夢中で叫びつけて白式のスラスターを噴かし、腕を曲げて身体を捻って福音を引き寄せ、脚部で回し蹴りを奴の腰に打ち込む。けたたましい音が鳴って福音の身体がくの字にへし曲がるも、銀の鐘は俺の顔面目掛けて発射される。
だが、俺はそのまま噴かせたスラスターの出力を一気に上昇させ、福音に組み付いたまま空中で回転し、発射されたエネルギー弾を紙一重で回避する。顔のすぐそばでエネルギーシールドが削れたのを感じた。
福音と組み合ったまま闇雲に乱回転し、銀の鐘の射撃から身体を流していく。上下左右が破茶滅茶に流れていき、上下感覚が失われていく。目の横で連射されるエネルギー弾が四方八方に放たれ、空や海に向かって飛んでいく。
「うわわわわッ!! ちょ、ちょっとッ!?」
「キャッ!? 離れてッ!」
「一夏ァッ!!!」
エネルギー弾の連射とスラスター音、そして爆発の中、誰からかもわからない耳をつんざくような叫び声。ラチがあかなくなった俺は無我夢中で零落白夜を発動させた。
目の前で一気に輝く零落白夜の光。福音も、至近距離で浴びた俺も、諸共その光にエネルギーを吸収され、シールドがボロボロと崩れ始めて装甲が焼け焦げだす。それでも俺は福音の首を掴み、破壊の光を撒き散らす雪片を奴に押し付け、福音も銀の鐘を乱射し続けていた。
その時、零落白夜の光が福音のエネルギー弾を自身のエネルギーとして吸収しているのを、俺はこの目で見た。
「ッ!」
目の前で小さな爆発が起こる。零落白夜を浴びた福音の腕、俺の雪片を掴む奴の腕がシールドを削られ、形成された装甲すら剥がされて中から爆発を起こしたのだ。急に腕の抵抗がなくなり、俺は零落白夜を納めて雪片も収納し、奴の腕を掴んでスラスターの勢いに任せて海面へとブン投げた。
「ぁぁああああァああっッッ!!! ぁ殺ッッれェェッ!!!!」
「っ!! うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁあッッッ!!!!」
俺の叫び声に最初に反応していたのは箒。二刀を交差させて落下する福音を突撃しながらバツの字に斬りつけた。
「当たったッ!!」
『箒ッ、離れろッッ!!』
回線からラウラの声が突き通り、福音に一撃浴びせた彼女はすぐ宙返りして飛び退く。そこへ島から放たれたシュヴァルツェア・レーゲンのカノン砲の弾丸が、無防備な福音にブチ当たって大爆発を起こす。
「逃がさない…………わよッッ!!!」
龍砲から放たれる1発の衝撃砲が爆発の中に飲み込まれ、煙を吹き飛ばす。片方の副翼が千切れ、もう片方からは火花を散らして宙を舞う福音が姿を現したと同時に突進した甲龍の爪が真上に振り上がり、福音の体が更に高く打ち上げられる。
「さすがですわ、凰さん」
セシリアはその無防備な福音の壊れかけたもう片方の副翼にレーザーを1発。正確に打ち込んだ。爆発と同時に白銀の粒子が血飛沫の様に舞い上がり、副翼が破壊された。
「お返しッ!!!」
その横からイグニッション・ブーストで急接近したシャルのリヴァイブからグレー・スケールが左腕に展開され、福音の身体を殴りつけるかの様に真っ直ぐ撃ち抜く。ISの腕以上に図太い鋼鉄の杭が福音の腹に突き刺さり、火花を上げて吹き飛ばした。
「一夏ッ、今だァッ!!!」
箒の掛け声と同時に俺は雪片を展開して零落白夜を発動し、全速力で福音に向けて空を駆ける。
「ッ!」
それでもまだ動くのか、再び福音が主翼の砲門にエネルギーを溜め込んだその時、俺はイグニッション・ブーストで奴に向かって一直線に突進する。福音はそれを狙っていたかの様に、真正面に捉えた俺に銀の鐘の狙いを定めた。
「ダメぇッ!! 逃げてッ!!!」
『いやッ、いけるッ!!!』
鈴の声を遮ってラウラが叫ぶ。彼女も気づいたらしい。そうだ、今度はもう逃がさない。
一気に福音のもとまで駆け抜けた俺の目の前には、白式ごと俺を消し飛ばそうとしていた福音の銀の鐘のエネルギーの塊。しかし、俺は恐れずに主砲の光が溜まりきっていた銀の鐘のそこに、零落白夜を発動させた雪片を奴の脳天めがけて振り下ろした。
「ッッッツ!!!!」
発射される主砲からの光線。真正面から爆音で放たれた光を雪片が受け止め、乱反射する。
零落白夜の刃先が福音の主翼に溜め込まれていたエネルギーに接触した瞬間、まるで風船の空気が抜けるかのようにエネルギーがみるみる雪片に吸収されていった。
「あれはッ!!?」
「吸収している……福音のエネルギーを……!!」
しかし、福音も黙っていなかった。吸収されても銀の鐘でエネルギーの充填を続け、今度は雪片の吸収したエネルギーを逆に吸い返し始めたのだ。
「くッ!!!? ……っらァッッ!!!!」
俺は零落白夜の出力を全開に上げる。雪片が俺のエネルギーも、シールドも、装甲の形成すら吸収しているのがわかる。だが、銀の鐘の剥き身のエネルギーはそれ以上の速度で吸い返した。
そして、吸収されたエネルギーは雪片のものと混ざり合い、形成されている刀身が純白の光を纏って更に大きくなり、輝く。
『「「「「いっけぇ一夏ッ!!!!!」」」」』
「らああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁッッッツ!!!!!」
皆の声援を背中に受け、イグニッション・ブーストも相まって振り下ろされた俺の雪片は、減衰した銀の鐘のエネルギーごと福音を斬り割いた。
奴は自身のエネルギーで強化された零落白夜を受け止められず、その両腕を犠牲にして斬撃の軌道を僅かにでも逸らそうとしたが、もはや切っ先の変更もできず、勢いのままに雪片は奴の肩口から刃を叩き下ろして、そのまま無理矢理斜めに斬り伏せた。シールドバリアをぶち破ってISの絶対防御が発動し、一気に福音のエネルギーがなくなっていく。そして零落白夜はバリアと絶対防御だけで防げず、福音の装甲には大きな亀裂が走り、粒子分解された様な凄まじい傷跡をつける。
翼こそ破壊されてはいなかったが、福音はもう飛行するエネルギーすら残っていなかった。斬り伏せた勢いで福音は真下へと勢いよく落下し、大きな水飛沫と水柱を上げて海の中へと落ちていった。
後に残ったのは零落白夜のエネルギーが消えていく感覚と、風の吹きつける音。俺は零落白夜を解除すると、手元の光も収まった。
「やった……のかな?」
シャルが恐る恐る俺の隣に近づいて、福音が落ちた所を覗き込む。落ちていった跡の波紋が消え、もとの波打つ海面に戻っていく。
そして俺は思い出した。あのISは無人のモノではなく、人工で作られた軍用である。つまり、あの中には人が入っているハズだ。エネルギーが切れて溺れては困るので、皆に伝えてすぐに助けに向かおうと俺が海面へと降下しようとした。
爆音、そして衝撃波。俺達はISと一緒に雲もろとも吹き飛ばされた。
誰かの悲鳴が聞こえた気がした。俺自身も叫んでいたが、それは別の音で掻き消えていた。
大気の震えが止まり、音という音が消える。海も雲も風も全て消し飛んだ。
再び風が戻り、中心に巻き込まれていく。音が巻き戻り始めた時、その中心には閃光が散っていた。
「こ、これは……!?」
「…………ッ!」
「ちょっと…………冗談でしょッ!?」
海が半球体状に削れていた。中心には眩い光の塊が徐々に浮かび上がり、荒波を巻き起こした海面からゆっくりと浮かび上がる。
その光の中から現れたのは、傷だらけの装甲が元どおりとなり、背中からは大きな主翼の代わりに、6枚の翼を生やした福音の姿だった。
「おいおい……さっき二次移行しただろう……」
「何なんですの……これ……」
「あ……あぁ…………」
あまりの事態に愕然とする俺達を捉えた福音は、新たに増やした6枚の翼に備わった砲門で狙いを定め、銀の鐘を発射しようとした。
「ッ!!」
嫌な予感がした俺達は速やかにイグニッション・ブーストで射線から退避すると、次の瞬間にはもう先程よりも光の強いエネルギー弾が俺達の元に到達している。弾速が更に速くなっていたエネルギー弾は、周りを飛んでいた俺以外の4人に襲いかかった。
「あァッ!?」
「くそッ! これは……ッ!」
「ぐぁッッ!!」
「キャァッ!!!」
「うわッ!!」
回線から悲鳴と爆発が混ざり合い、音が混線する。助ける余裕もなく俺は雪片で福音に飛び掛かろうとするも、奴は砲門6つを俺に向けて暴風雨の様なエネルギー弾を浴びせてきた。
「ぐぉおぁあああああああああッッッ!!!!」
「一夏ッ!!」
「一夏さんッッ!!」
数人の悲鳴が爆発の中から聞こえた。煙が晴れたそこには、墜落する俺を更に追撃しようとしてきた福音の姿が、砲撃音と同時に爆発で飲み込まれる。撃ったのはラウラだろう。
しかし煙の中から現れた福音は何食わぬ顔といった動きで弾が飛んで来た方向に体を向けると、6機の銀の鐘をラウラのいる箇所に向かって発射した。
飛び掛かっていく弾幕を見て、シャルは喉が掠れるぐらいの大声で叫ぶ。
「ラウラぁッ!!」
『チィィッっ!!』
彼女は射撃の体勢からすぐに逃げようとしたが、ほかの専用機よりも遅いレーゲンでは間に合わない。しかし、ラウラは冷静だった。機体がビーム弾の中に飲み込まれても、すぐさまパッケージを
パッケージの装甲を全て外して身動きが取りやすくなったラウラは、そのままカノン砲で福音を狙撃するも、距離が遠すぎて精度が足りていない。そして福音はそんな彼女を無視して、俺達の方を見てきた。
2度の連戦、連続イグニッション・ブースト、零落白夜を2回、白式の残りエネルギーは10000を切っていた。ほかのヒロイン達も、福音に心を折られかけている。勝算はもうなかった。
そこへ千冬の声が回線に怒鳴り込む。
『聞こえるか!!? 作戦中止だッ、速やかに離脱しろッッ!!!』
この言葉を聞いて、この時の千冬に従わない者はこの場にはいなかっただろう。だが、その言葉を聞いている者は、誰もいなかった。
福音は空中で無防備に静止すると、6枚の翼を大きく広げて砲門を一点に集中させる。シャルやセシリアが銃を構えたが、彼女達は目の前で起こった光景に戦慄して身動きが取れなくなっていた。
6基の砲門の中心に形成されていくのは白く発光するエネルギーの球体だった。それはみるみる内に強力なエネルギーの塊となって肥大化し始めた。二次移行形態だったエネルギーよりも何倍も大きい。零落白夜よりも強大なエネルギーが白式の装甲よりも真っ白に輝いている。
どこからともなく低音の鐘の音が反響している。神々しくも恐ろしい。福音なんてモンじゃない。空間が震える程の轟音だ。IS越しからでも伝わってくる恐怖を体現しているかのようだった。そして、その福音が見ているのは俺の方だった。
「てめェら逃げろォ!!!」
「ッ!!?」
「離れてぇッ!!!」
俺は連続イグニッション・ブーストで空に舞い上がった。俺のありったけの叫び声でヒロイン達は一目散にそれぞれ別方向に逃げ始める。俺も残り少ないエネルギーで遠くへと離れようとしていたところへ箒が高速起動形態の姿で合流してくる。
「掴まれ一夏!」
「あぁッ!」
俺はひと言叫んで彼女の背中に飛び乗り、真っ赤な主翼の部分に掴まった。次の瞬間には紅椿はとてつもない加速力で発進していた。
この事を千冬にどう伝えるかどうか、それとあの軍用ISはいったいどこのバカが何のために作ったのか問い詰めてやろうと考えていた、その時だった。
白式のレーダーが敵の接近を探知した。
「は?」
紅椿にしがみついたまま白式の背中のカメラで後ろを確認すると、今まで光線を溜め込んでいる間は一切動かなかった福音がイグニッション・ブーストでこちらに接近してきていたのだ。
いや、イグニッション・ブーストではない。紅椿と同じ高速起動形態のように6枚の翼を折り畳んだ状態で俺達に突進してきていた。背中には巨大なエネルギーの塊を背負って。
箒は気づいていなかった。ほかの専用機持ちは気づいたかもしれないが、もう遅かっただろう。もう何百mも離れてしまったしな。それに、福音は飛行しながら翼を広げてチャージビームを発射する体制を整えている。完全に俺と箒を狙っていた。
俺は咄嗟に紅椿の高速起動形態のブースターを手で押し曲げ、無理矢理別の方向へ推力が向くように切り替えた。
「あぁッ!!!? 一夏何を!?」
急激な角度がついたものの、綺麗すぎる軌道で吹き飛ばされた箒。彼女は驚いて振り返り、そして気がついた。後ろにエネルギーを抱えたまま移動してきた福音の存在を。そして両手を使ってブースターを変更させたせいで、方向変換した挙動で振り落とされた白式を纏う俺を。彼女の位置は福音の動きから計算したチャージビームの攻撃から確実に回避できる空間まで逃がす事に成功していた。間違いなく、彼女は助かった。
だが、先程から脳漿の中へまで叫び続けるアラート音。振り向けば、俺の眼前に迫る勢いで輝き続ける白光。イグニッション・ブーストは、もう間に合わない。あのエネルギーの塊を零落白夜で吸収できるだろうか? 一瞬、そんな考えが頭をよぎったが、白式にはもうそんな余裕もなくなっていた。
直後、世界が爆発した様な爆音と同時に、俺の体は真っ白い激流の中へ呑まれた。全身の装甲が一気に熱くなって、体の感覚がどこかへと消えてゆく。鳴りっぱなしだったアラート音が、いつの間にか止んだ。
「一夏ぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁあぁあぁぁあぁぁああぁあぁぁぁぁあああぁあああああああああ!!!!!」
箒の叫び声が、遠くに聞こえた。
・・・☆・・・☆・・・
(箒視点)
「一夏っ!!! 一夏っっ!!! ぃ一夏ッッ!!!! 一夏ぁあッッっ!!!!! …………ッ!!!」
一夏を飲み込んだ福音の光は、地鳴りの様な音と共に海面へと落ちていった。
白光の大爆発。そして荒波が一帯に広がり、爆風が私達を押し飛ばそうとしてくる。けれども、その中で私は一夏の名を叫び続ける。光が収まり、煙の晴れたそこは地盤が隆起したのか、海面は真っ黒な岩盤と海藻の広がる浅瀬へと様変わりしていた。
そして、その海底だった黒い大地の窪みに一夏はいた。装甲は全て破壊され、骨組みだけの白式を纏ったまま、全身から流血している一夏が倒れていた。
「一夏ぁぁあああぁッっっ!!!! 一夏ぁぁああぁぁあぁあっッッっ!!!!!」
私は何度も一夏の名前を叫んでいた。彼の元に近寄った瞬間、白式が命の灯火を散らしていくかの様に粒子となって分解を始め、消えていく。ISから解放され、生身の姿となった一夏はゆっくりと岩肌の地面に倒れそうになるが、全速力で近付いていた私がその肩を受け止めた。骨組みと装甲の消え、更に痛々しい一夏の姿が露わになった。
ISスーツもボロボロになった一夏は火傷とも擦り傷とも思えない怪我を全身に負っていた。紅椿のセンサーが一夏から生体反応を示してくれた一瞬だけ。
逃げていたセシリア達が戻ってきた。
「一夏さん…………一夏さんッッ!!!!」
セシリアは今まで聞いた事のない声で甲高く叫ぶと、スラスターに使っていたBTを全て解放し、11機のBTで福音の周囲を囲むと滅多撃ちを始めた。
しかし福音はそのレーザーの射撃も飄々と回避すると、回転しながら銀の鐘を乱射し、イグニッション・ブーストの連続発動でBTの包囲網から脱出する。豪雨の様に降り注いだ弾丸は、一瞬にして彼女のBTを全て撃ち落とし、爆砕した。更にその光の雨は留まる事を知らず、セシリア自身にも降りかかった。
『キャァアあああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっっッッ!!!!!』
『『『セシリアぁッッっ!!!!』』』
鈴とシャルロットとラウラの悲鳴、そして福音のエネルギー弾の爆裂音が回線の中で同時に重なる。連続した爆発と巻き上がった爆煙から、翼をもがれた鳥の様に海面へと墜落していく彼女の姿を、横から鈴が抱きとめた。
『セシリアッっ!! セシリアっッッ!!! しっかりしなさいよッっ!!!!!』
「……わ、わかってますわ……」
一瞬にして装甲をボロボロにされたセシリアは、それでも震える手足を動かして自分で飛び立とうとする。7機のレーザーBTと4機のミサイルBTも全て、レーザーライフルごと破壊されたらしい。今の彼女に残る装備は近接戦闘用のレーザーブレードのみ。それも彼女は展開すら苦手にしている武器だ。
『僕達だけじゃ勝てっこないよっ!! 逃げよう!!』
『無理だッ!!! スピードはむこうが完全に勝っている上、こっちにはあの光線を避ける手段も、防ぐ手段もないんだぞッ!!!!』
完全に対処のしようがない。死亡宣告にも近い言葉だった。
『クソッ! クッソクッソ、クソッ!! クッソぉッ!!!』
ラウラが何度もカノン砲を連射して福音に弾丸を浴びせるも、ヤツは微動だにもしない。再び翼の中央に強大なエネルギー反応が表れていた。
『マズい、離れろッ!!』
狙われたのは……動かない一夏を抱きかかえた私だった。
『箒ィイッ!!! 逃げてぇ!!!!!』
回線越しに鈴の叫び声が、微かに聞こえた。
だが、もう遅かった。彼女の声は福音の極大なチャージビームの豪放にかき消され、私と一夏を覆い尽くそうとしていた。今、素早く紅椿を展開してイグニッション・ブーストを発動すれば、爆風と爆炎は喰らっても紙一重の差で直撃は避けられたかもしれない。
けれども、私の腕の中には本当に生きているのかどうかもわからない一夏が眠っている。今の彼を抱えたまま音速域に飛び込む事などとてもできなかったし、これ以上爆炎と爆風を喰らって今の一夏が生きていられる保証など、どこにもなかった。
だが、私はまだ諦めてはいない!
咄嗟に一夏を抱きかかえたまま紅椿を展開装甲を起動し、福音の光に背を向けた。展開装甲を背中に集結させ、傘の様な盾を形成する。絶対防御以外の出力を全てその盾に注ぎ込み、蛍光色だった展開装甲のエネルギー体が私の紅椿よりも真紅に染まった。
防げるかどうかはわからない。けれども、これが私の最後の悪足掻きだ。何としてでも、この身を犠牲にしてでも、一夏…………お前だけは…………!!!
私は一夏の頭を胸に抱き寄せ、強く眼を閉じた。
直後、今までに聞いた事のない爆音を最後に、視界の中から光が広がっていく。
ぶちりと音が響いて、私の髪を結っていた緑色のリボンが外れ、ボロボロと光に消えていく。
解けた髪の毛が舞い上がって、光に飲み込まれる。
あぁ…………あれは昔、一夏がプレゼントしてくれた物だ……
せっかくの、思い出だったのに……
・・・☆・・・☆・・・
空が青い。
時間帯は夕暮れだったはずだ。という事は、ここは福音と戦っていた世界ではない。おそらくはあの世か、それともまた別の世界か、あるいは元の世界か。
体が冷たい。また半分以上が水に浸かっていた。姿はISスーツのまま、水の冷たい感覚が肌で直に感じる。
空に景色が浮かび上がる。箒の顔が見えた。でっかいでっかい箒の顔が、青空の上一面に写っていた。俺を呼んでいる。声は聞こえない。でも俺を呼んでいるのが、わかる。
おい、箒、何泣いてんだ、顔グチャグチャじゃねぇか。ツバまで飛んでるよ、汚ねえな。髪結んでたリボンが焼け爛れて、あんなに綺麗だったポニーテールが半分以上も焦げてやがる……。
ほかのヒロイン共は福音で、俺の様子どころじゃないらしい。福音の弾幕に飲み込まれて、瞬く間にボロ雑巾にされるセシリア。落下している所を鈴が空中で受け止める。
ラウラとシャルは隙を狙って福音に向かって射撃してるが、今の奴には豆鉄砲もいいところだろう。まるで効果がない。
場面が切り替わって、旅館の作戦室で必死に俺達に向かって連絡を続けようとする山田先生と、歯を噛みしめながら脂汗を出してモニターに映る福音を睨みつける千冬が見えた。
鈴とシャルとラウラが力を合わせても、セシリアと箒を逃す事は困難だろう。このままだと全滅だな。
……戻んなきゃ
「どうして戻るの? あなたは、彼女達と全く関係のない存在じゃない」
聞こえたのは女の子供の声。水の中から立ち上がって振り返ると、そこには白い帽子に白いワンピースを着た、真っ白な少女が立っている。周りは黒い山脈に囲まれただだっ広い水たまりのような池、いつか見た光景だった。
「俺はまだ織斑イチカなんだろ? だったら、まだやる事がある」
「あなたはあなたよ。今まで散々彼女達に掻き回されてきたじゃない。それなのに、わざわざ辛い方に戻るの?」
その言い方は、まるで元の世界に戻る選択肢も持っているかのような話し方で彼女は俺に問い尋ねる。そよ風がなびいて、水面が細かに波打つ。
「これじゃバッドエンドっぽいからな。このまんま戻ったら、悔やんでも悔やみきれん」
福音は彼女達を容赦なく殺すだろう。俺が白式と戻ってもヤツに敵うかはわからんが、彼女達を逃がす時間くらいは稼げるつもりだ。
「今の福音は圧倒的よ。死ぬつもりなの?」
「……女見捨てて逃げるほど、割り切れた性格じゃないんでね」
そう言うと、少女は嬉しそうに鼻を鳴らして、笑っていた。彼女の方から追い風が吹いて、真っ白な髪の毛が浮かび上がり、白い帽子が吹き飛ばされた。
「ふふっ……♪」
帽子は風にあおられて、ひっくり返った状態で池に着水する。視線を隠せる物のなくなった少女の顔で、真っ赤な瞳が瞬く。
「……あなたの心は、白と黒」
「は?」
その意味がわからず、俺が顔をしかめると、彼女はまた言葉を呟いた。
「優しさと親愛の情を兼ね備えた、暖かい白に、厳しさと修羅の魂を兼ね備えた、恐ろしい黒」
何、その中二チックな言い回し。ハッキリ言えやって伝えたいけども、今の俺はお前に聞きたい事があったから、ここは我慢する。
「俺は助けに行くぞ、付き合ってくれんだろうな?」
「もちろん。もう手遅れかもしれないけど……あの子を止めるなら、私は全てをあなたに捧げるわ」
まるで愛の告白のような台詞を答えて、少女は笑った。あの子とは、福音の事だろうか。憂えるような表情の彼女だったが、その口元は俺に向けての笑顔を浮かべていた。
「いい? あなたはイチカよ……織斑イチカ。此所に居る限りね……」
さも当然の様に、俺を一夏と決めつけた少女。なんだか不思議と体が軽くなった気がしたが、まだ俺は納得できていなかった。
「……それでよかったのか? 俺みたいな女ったらしで」
彼女は面白そうに微笑むと、左右に小さく首を振った。
「うふふっ、あなたが朴念仁じゃないのは知ってるわ。でも、わたしにはそんな事どうでもいいのよ」
「え……?」
重要な存在だと思っていた『織斑 一夏』を、彼女はどうでもいいと斬り捨てた。まるで重要なのは一夏の体だけで、中身は必要ないとでも言いたそうな口ぶりだった。
目を見開いた顔を上げて視線を少女に戻すと、彼女は更に言葉を続けた。
「あなたがこれからどんな運命を歩むのか。私が気になるのはそれだけ……」
それがいったいどういう意味なのか、純粋な彼女の気持ちなのか、彼女の真意はわからなかった。少し前に言われた彼女の言葉が頭の中で再生され、俺は彼女に悟られている事を知って、ゾッとした。俺の頭の中にある『IS』の世界を見て、彼女が何を思ったのかは聞く気にはなれないが、それでも彼女は俺を拒否していない事実に、疑問が残る。
「そうか……」
だが、それでもう十分だった。自分と言う存在を認めてくれた事に、俺は安堵して溜め息を漏らした。
「ねぇ……彼女達を守って、あなたはどうするつもり?」
「あいつらは十分強いさ。自分の身ぐらい守れるほど」
俺は当然のように答える。
「じゃあ……あなたが守るものは何?」
腕についた待機形態の白式を、そっと撫でる。
「俺が守るのは……彼女達の未来」
「それを守るには、この世界を最後まで見届ける覚悟が必要よ。それでもいいの?」
元の世界に未練がないワケではなかったが、こんな数奇な人生は100やっても巡り会う事などないだろう。俺が選ぶ道は決まっていた。
「一度乗りかかった船だ。最後まで乗ってやるさ」
「なら、私が止める事はなにもないわ」
そう言って彼女は優しく微笑んだ。
「頑張ってね、織斑イチカ……」
「そっちもな、白式……」
彼女の声援が響くと、俺の体はふんわりとした安心感と共にまばゆい光に包まれていく。同時に重力の感覚が途切れ、湖の水と俺の体が浮かび上がった。少女の姿はもう見えなくなっていた。
「……?」
ふと、目を向けたその先、西洋の甲冑の様なISスーツを着けた女性が立っていた。バイザーで顔が隠れているのに、なぜか感覚的に女性だってわかった。
「………………」
なんか……悲しそうだった。
・・・☆・・・☆・・・
(箒視点)
目を閉じているはずなのに、真っ白な視界。果てもなく耳鳴りだけが響きわたり、自分の呼吸の音すら拾わなくなった聴覚。肌の感覚は無いと言うよりは、ほのかに暖かい。やはり私は死んでしまった様だ。
当然の結果だった。もう二度と力には溺れないと自身に誓っていたのに、私は同じ過ちを二度も犯してしまったのだ。結局、私は一夏を危険に負わせ、そして……
「うぅ……ッ! …………ッッ!」
自身の愚かさに打ちひしがれ、私は泣き叫んだ。あれだけ肝に銘じていたはずなのに、こうも簡単に破ってしまったはのは何故だ!?
何故……何で……なんで……
……嘘だ。本当はわかっていた……何もかもわかっている……つもりだったんだ……
「一夏……」
今だからこそ、こんなにも深く実感する。
一夏、私はお前が好きだ……例えIS学園の中でだろうと、私はお前の隣りに並びたかった。お前にとって一番の存在になりたかったんだ……
でも……お前のそばにはいつも専用機を持ったほかの女子達がいた。私はずっと彼女達に一夏との居場所を取られるのを恐れていたんだ……
(お前が望んでんのは『紅椿』なんかじゃないだろ?)
そうだ…………そうだった…………私が求めていたのは紅椿でも、力でも、ISの技能でもなかった。
私はただ……一夏に振り向いてほしかったのだ。
自分の思いを伝えるだけだった。彼が拒否しようとなんだろうと、ひとりで遠くにいってしまうのなら最期まで付いていく気合いを見せればよかった。
紅椿もISも、必要なかったんだ。
ん? 待て……一夏は私が求めている物が紅椿ではないと言ってくれた。
一夏……お前ひょっとして、確信犯だったのか? ハハ……参ったな……
せっかくそこまで信じてくれたのに、私にはわからなかったのだ。今まさに地獄に落ちたとしても私は文句など言えない。だが、最後ぐらいは自分の目的を果たせただろうか。
私は……一夏を守る事ができただろうか。ここに一緒にいないという事は、少なくとも助けられたのだろうと思いたい。もし、死んでしまったとしても一夏は天国に行く側の人間だろう。私に縁などない。
どちらにせよ、やるべき事はやった。やれるだけの事はやれたのだ。後はもう祈るばかりだった。このまま地獄の果てまで堕ちるとしよう。福音の光と共に……
私は全てを光の中に委ねた。意識が薄れ、消えていく。
違う……
この光は福音の放った凶悪な破壊の光ではなかった。私自身を優しく守ってくれている様な優しく、それでいて強者の意志を感じる融和の光。
そう……これは一夏の……白式の……零落白夜の光だ!!!
その白光に感覚の全てを再生された私は、瞬時に意識を取り戻した。
私はまだ、生きている。磯臭い潮の匂いと、戦場の焼け焦げた臭いがする。無音だった空間からは音が戻ってきた。波風が聞こえ、仲間達の叫ぶ通信回線が交錯する中、ゆっくりと目を開いたそこは、浅瀬だった筈の地面が抉れて隕石が墜落した様な大きなクレーターとなっていた。外海の荒波が押し寄せ、見渡す限りの外縁から一斉に海水が流れ込む。当然、そこにへたれ込んでいた私は紅椿ごと水浸し。
そう、私はクレーターのほぼ真ん中に居たのだ。福音が放つあの極太い光線の威力を考えれば、間違いなく生きていられるはずのない場所に、無傷でへたれ混んでいだのだ。
一体全体何が起きたのか思い起こそうとしたその時、紅椿のレーダーに福音よりも桁違いのエネルギー反応を放つ『何か』がすぐ近くに点在している事に気が付いた私は、福音を背にしていた所から素早く振り返った。
目の前には、一体の白いISが浮遊していた。
最初に彷彿したのは、姉さんの話していた『白騎士』の姿だった。ISスーツも素肌の部分も全て純白の金属を纏い、その身を一切晒さずに閉ざしきった完全な全身装甲。普通のISならヘッドギアしか付ける必要のない筈の頭は西洋の兜の様なヘッドギアで覆われ、顔まで隠されたバイザーの隙間からは翠緑の閃光が光る。そして、装甲の間からはISの余剰エネルギーが漏れ出しているのか、白銀の微粒子が輝きながらIS全体を光で包み込むオーラ。今のISの設計としては大きくかけ離れたその風貌。私……いや、この時私と回線を繋げていた者達全員は一瞬、本物の白騎士が現れたのだと思っていただろう。
ひとつだけ大きく違ったのは、その頭部には幻獣の
融和の光は目の前のISが放っていた。だが、そのISの放つ悍ましくも神々しい印象に、今の福音とよく似た雰囲気を感じ取った私は、不意に一夏を抱きしめようとした…………だが、抱きかかえていた筈の一夏の姿はなかった。影も形も消えていた。そしてその白騎士紛いのISは白式に酷似していた。
私は動悸と鳥肌でどうかしてしまいそうな精神をなんとかして落ち着かせながら、震える唇を動かした。
「……い…………いち……か……?」
「…………」
果たして本当に目の前にいるのが一夏なのか、それを確かめる為に呼んだそれは…………体の向きを変えないままゆっくりと私の横まで来ると、僅かに首を傾けて私を見下ろす。その緑色の光の中に、私は人の眼が瞬いた様な気がした。
「一夏……ッ!」
彼は一言も答える事はなかった。でも、私は確信した。目の前にいるのは一夏だ。
一夏が……私を守ってくれたのだ。
喜びも束の間、福音は爆心地の中心にいる私と一夏を認識すると、6枚の翼を前に迫り出し、一斉にその全ての砲門からエネルギー弾を放った。
それと同時に白式は少しだけ私から離れる様に上昇すると、次の瞬間にはとてつもない速度で福音に向かって発進していた。
「一夏ッッ!!!!!」
私が叫んだ声は、白式のブースターの音でかき消される。留めなく福音から発射される高速の弾丸を、一夏は避けようともしない。その時、白式から溢れる余剰エネルギーが濃くなったかと思うと、その光は粒子となりISの両腕を伝って手の平へと収束し、まるでエネルギーそのものが形となった、太刀の様に緩やかな湾曲のある近接ブレードへと変貌した。左手にも同じく、右の太刀よりもやや小振りの脇差しの様な光の刀を握っていた。
その白式と一夏はブレードを持った両腕を大きく交差した次の瞬間、眼前に降り注ぐ福音の弾丸をとてつもない速度で薙ぎ払いながら、弾き飛ばしていったのだ。
時間にして数秒の間。ISは自分に接触する弾丸と、私の方へと放たれていた弾丸全てを2本のブレードで叩き落とし、何事もなかったかの様に弾幕を抜けて福音へと高速度で接近していく。私が自分の目を疑いながらもその光景に見とれていた直後、誰にも当たる事のない福音の流れ弾が海面に落ち、一斉に爆ぜた。
弾幕を破られた福音はすぐさま6枚の翼を広げると、その頭上に巨大な光の球を形成する。そして大気が震えるほどの轟音を響かせながら、白式に向けて私を巻き込むほどの巨大な光線を発射した。
それを見た白式は2本のブレードを粒子へと戻した。しかし、その手の平には余剰エネルギーがまた残っており、大きな手の形となって白式の手を包み込む。そして、その両手を前に突き出して放たれた福音の光線を受け止めた。
大きな花火のようにエネルギーが拡散するも、白式は光線を受け止めたまま動かない。まるで爪を立てて引き裂くかのように光線を分散させると、そのまま光線の中を突き破って福音の目の前へと到達した。直後、あれほど強大だった福音のエネルギーの塊が一瞬にして、消えた。
次の瞬間、腰を低くした白式の握り拳が、福音の顎へ打ち込まれた。
ISから数百メートル離れたこの場所にへたれ込んでいる私の距離からでも、金属と金属が激突した重い音が響き渡る。白式の拳を喰らった福音は、私が近接攻撃を与えた時よりも激しい火花を散らして真上に吹き飛んだ。呆気に取られている間に、一夏は吹き飛ぶ福音をブースターで悠々と追い越し、機械の両手を組み合わせる。そして、全身を反らして振り上げられた白式の両手での握り拳が、福音の腹に深々と突き刺さったのだ。
打ち上げた時よりも凄まじい音が轟き、今度は真下に叩き落された福音だったが、海面へ叩き付けられる間際に自らの翼と荒波の波紋を広げながら停止した。そして再び6枚の翼を白式へと向ける。またエネルギー弾を撃つつもりだった。
その瞬間、目にも留まらぬ速さのイグニッション・ブーストで白式は福音の眼前へ到達。完璧な一零停止を見せると、いつの間にか形成していた二本のエネルギーブレードが、また粒子へと戻っていく。
状況が追いつけなくなっていた直後、白式へと差し向けていた福音の六枚の翼が甲高い金属音と火花を散らして、切れ落ちた。
攻撃と移動の要である羽根を一瞬にして奪われ、斬撃の衝撃で吹き飛ぶ福音の首筋を白式が掴む。そのままメインブースターと浮遊ユニットから爆音を響かせて福音を押しながら海面を切り裂き、更にイグニッション・ブーストを連発する。そして衝撃波を放ちながら瞬く間にすぐそばの無人島の一角、荒波の打ち寄せる断崖絶壁へと自ら諸共、叩き付けた。
爆発の様な音が響き渡り、断崖は岩の破片を撒き散らし、砂埃と水飛沫が巻き上がった。
飛び散った岩が海面に落ちる音がする。水柱を立てる岩が傾斜を転がる音がする。
波風がそよぎ、土埃の晴れた崖は一部が崩落し、大きな窪みができていた。
そして、そこからもう、福音は出てこなかった。
激闘は終わった。辺りは何事もなかったかの様に、海風の音がざあざあと広がっていく。
「「「「「………………」」」」」
けれども、私達は時間が止まってしまったかの様に誰も動く事ができなかった。二次移行を超えた福音、覚醒した白式と一夏。もうみんな考える事で、頭が追いつかなくなっていたのだ。
「お……終わった、のか?」
一部始終を見て、恐る恐るラウラが呟く。しかし、それに答える者はいない。
だが、福音がめり込んだ煙を突き破って、生身の一夏の姿が吹き飛ばされた様に現れた時、それは私達全員の視線を集めてそのまま海に落ちた。細く高い水柱が立ち、波となって消える。
「一夏ぁッ!!!!!」
私の叫び声が、再び時間を再生した。セシリアも鈴もデュノアもラウラも、そして私も、一夏が落ちた海面の中へと飛び込んでいた。
・・・☆・・・☆・・・
「一夏! 一夏ぁ!!」
「箒……うっさい……」
最初に聞こえたのは箒の声だった。天井に見える木の板から察するに、ここは旅館の一室だろう。箒を筆頭に、視界の周りからヒロイン共の顔がヒョコヒョコと現れて覆い囲む。
「ッ、一夏!? 一夏っ!!」
「一夏さん!」
「一夏ぁ!!」
「一夏!」
「イチカ……!」
「織斑くん!!」
「ええい、うるさい馬鹿共!!」
次々と視界に入る彼女達を怒鳴り散らして取っ払い、ゼエゼエと息を切らした千冬が俺を覗き込む。その額には汗が流れており、眉間にシワが寄っていつも以上にキツく細められた目元からはウルウルと涙が潤んでいて、怒っているのか泣いてるのかわからなかった。
瞬間、俺の体は彼女に力任せに引っ張っり起こされる。
「全く……心配ばかりかけおって……っ!」
そう言いながら千冬は俺を優しく抱きしめ、その肉付きの良い腕と豊かな胸で俺の頭を抱き込む。柔らかさと良い匂いに包まれて、目の前が真っ暗になった。突然の行為に箒も山田先生も、誰も彼女を止める事ができなかった。
「あ、あの……織斑先生……?」
「せ……先生ズルい! 僕だって心配してたんだよ!」
「なによッ! あたしの方が心配してたんだから!」
「何を言っている!! 1番心配していたのは私だッ!!」
「わ、わたくしは絶対に目を覚ますと信じていましたから……そ、その……」
「イチカ……本当に大丈夫なのか?」
「なに抜け駆けしているんだラウラーッ!!」
その後、冷静になった千冬はあらかさまに顔を真っ赤にさせ、しどろもどろでこの後の予定や俺の処置を説明しているサマを、ほかの教員にジト目で睨まれていたり、大慌てで俺のバイタルや意識の確認を始める山田先生がいたり、布団に横になっている俺を抱きしめようと箒達がヤケになって俺の上に覆い被さって苦しかったりと、とてつもないカオスを披露していた。
そんな中で俺は涙ぐむ彼女達に抱きしめられながら、人数の収まりきらない両手で彼女達を受け止めながら、少女との約束を思い出す。
やってみるさ……