織斑イチカの収束   作:monmo

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第十六話

 (また箒視点)

 

 

 

 『福音事件』

 

 後にそう呼ばれる事件が終結した翌日。朝早くから私は旅館を抜け出し、朝日を見るついでに海で泳ごうとしていた。

 結局、この臨海学校のために買った水着は一夏に見せなかった。恥ずかしかったというのもあるのだが、千冬さんと山田先生の水着姿と……それに見とれる一夏を見てしまい、私に一夏を誘惑できる勝算がなくなってしまったショックから未だに立ち直れていなかったのだ。

 

「……ふぅ」

 

 この臨海学校の3日間だけでも、色々な事が起こった。千冬さんに一夏に対しての気持ちを聞かれたり、姉さんから自分だけの専用機を貰って浮かれていたら、一夏が姉さんにキスされていたり。そしたら今度はその貰った専用機で福音と戦って、一夏が倒れて……私も死ぬかもしれない目に遭って……それでも全員無事で帰ってこれたのだ。一夏の白式が変身したおかげで……。

 結局、私はまた同じ過ちを繰り返していた。新しい力を手に入れて周りが見えなくなっていたのは、がむしゃらに剣道を極めようとしていた時と全く同じだったのだ。一夏のお陰で完全に我を失う事はなかったが、私にはまだその邪心が残っているのだと思うと、やるせない気持ちになる。

 

「………………」

 

 もう、そんな事を考えるのはやめよう。その邪心を知れただけでも経験とするしかない。そう思って砂浜を訪れた私は、目の前に見えた人影を見て言葉を失った。

 

「…………、フ〜ゥ……」

 

 砂浜の波打ち際に、一夏がいたのだ。体にはあちこちに包帯が巻かれ、顔も半分以上が包帯で見えない。福音と戦い終えたばかりで旅館では重態だったそんな彼が、白式を展開した姿で空中に片肘をついてタバコを吸っている。

 その白式の姿形は、福音との戦いで見たあの神々しい純白の全身装甲の姿ではなく、いつもの灰色の装甲に包まれた初期状態の姿に戻っていた。それも、傷ひとつない新品の姿だった。

 不意に、タバコを吸っている彼と目が合ってしまった。

 

「………………っ」

 

「なんだ、箒か……」

 

 そう言ってまたすぐ目を逸らして、一夏は何事もなかったかの様にタバコを吸い続けた。

 福音事件の間から、ずっと平穏な時間で会話をする事はなかった。今こうして落ち着いた空間で会えたのは、偶然か何かなのだろうか?

 旅館を抜け出している事はお互い様なのだから何も言えないが、それでも素っ気なくされてしまった態度に私は苛立ちを覚える。

 

「わ、悪かったな……私で……」

 

「そんな事言ってねーよ」

 

 そう言いながら一夏はISを収納して砂浜に降りると、そのまま砂の地面にあぐらをかいた。服装は部屋着のジャージにサンダルで、袖や裾から見える手や足にも包帯が隙間なく巻かれていた。

 

「と、隣……座ってもいいか?」

 

「あぁ? ……あぁ」

 

 もしかして、わざわざISを降りてくれたのだろうか。そんな気持ちを巡らせながら、私は曖昧に答えた一夏のすぐ隣に並んで砂浜に体育座りでしゃがみこんだ。

 目の前には穏やかに波打つ海岸線が見えて、静かな音を立てて海風がそよぐ。一夏の咥えているタバコの煙はゆっくりと海に向かって流れていた。

 

「………………」

 

「………………」

 

 ようやく、2人きりになる事ができた……

 口にはとても出せなかったが、私は一抹の安心感を得る。そして、ここから何を話そうかと必死で頭の中を回転させる。言いたい事は山ほどあるハズなのに、安心したせいで考えていた話の内容を忘れてしまった。

 肌が寄り添うほど近くにいるのに一夏は何も言わず、表情ひとつ変えない。彼のジャージが私の素肌に擦れて妙にくすぐったい。それでも、離れたくはなかった。

 

「な……なんだか……こうして2人で落ち着くのは……久しぶりだな……」

 

 頭で考えて口から捻り出したのは、自分の思考がダダ漏れになった台詞だった。

 いったい私は自分で何を言っているのか。隣にいる一夏の顔も見れなくなっていたが、一夏はすぐ反応してくれた。

 

「……初日は探しても会えなかった。どこにいたんだ?」

 

 私の事を探していた……だと?

 一気に体が熱くなり、そしてすぐ恥ずかしがって逃げてしまった自分を後悔した。山田先生も千冬さんも恐れずに、前に出てしまうのが正解だったのだ。実行に移すのは困難だったかもしれないが……

 

「す、すまん……ちょっと気分が優れなかったから、旅館の部屋に残っていたのだ……」

 

「そうだったのか……探してもいないワケだ」

 

 さすがに先生達の水着に気圧されたなんて、恥ずかしくて言えなかった。

 私の嘘を信じた一夏は少しだけうなだれながら白式の腕だけを展開すると、空間投影型のキーボードとモニターを浮かび上げて映像を見ていた。白騎士の様な姿になった白式の映像を。

 

「何を見ているのだ?」

 

「お前らのISのカメラから吸ったヤツだ。白式のカメラは、機能してなかったからな……」

 

 映像は私達だれかのISから見たものらしい。確かに、そこに見えるのは白騎士の様な姿になった白式の全体像。あまりにも素早すぎて目で追いかけるのがやっとの映像だ。音は切っているのか、無音のまま映像は流れていった。

 

「もうあの姿にはなれないのか……?」

 

「あぁ……」

 

 白騎士のエネルギーの光が画面の中で焚かれて眩くなっても、一夏はそれを見遣ったまま少し残念そうに声を出す。彼の白式は一次移行もしてはいないのだ。あの圧倒的な強さには惹かれるものがあったに違いない。私だってあの圧倒的な力を前にただただ呆然とするしかなかったのだから。

 

「でも……少しわかった事もあった……」

 

「え?」

 

 戸惑う私に対し、一夏はタバコを口元から離して白式からディスプレイから文章画面を浮かび上がらせると、タバコの持った片手でキーを入力した。

 

 

 

 『白騎士』

 

 

 

 『しろきし』

 

 

 

 『しろしき』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 『白式』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あっ……」

 

「バカにされたもんだ……」

 

 そう言い捨てて一夏は全ての画面とディスプレイを消すと、また何事もなかったかの様にタバコを吸い始めたのであった。

 私は、間違ってはいなかったのだ。あの時、あの光、私を助けたのは間違いなく白騎士であり、それを操っていたのは一夏。これはもう何かの運命の様な思いを受けた。どうして白騎士が白式となって一夏の手に渡ったのかはわからなかったが、その時の私にはそんな事はもうどうでもよくなっていた。

 当然だが、ここであった話は2人だけの内緒となる。ほかの者に言っても混乱を招くだけたろうし、信じるかどうかも怪しい。なにより一夏と2人だけの秘密を共有できた事が、嬉しかったのだ。

 

「夜明けだ……」

 

「え……?」

 

 唐突にタバコを咥えながら一夏が呟くと、ぼんやりと明るかった海岸線上から朝日が顔を出し、空と海と砂浜が一気に明るくなる。白式の正体に納得していた私は彼の言葉に反応して海岸線を見てしまい、直視してしまった眩しさに思わず手をかざす。

 手の平で影を作って私が視線を海から外すと、一夏は私の事を見ていた。

 

「ど……どうした?」

 

「いや……髪の毛、なくなっちまったな……」

 

 そうだ。今、私は普段の様に髪を結っていない。長かった私の長髪は、結ぶのに使っていたリボンごと、福音との戦いの時に焼け果ててしまった。

 一夏は私の焼け焦げた髪を、傷を労るかの様に撫で下ろす。首の後ろまでしか無くなってしまった髪は、毛先がちぢれて一夏の指が引っかかってしまい、彼は指を優しく引き抜いた。

 

「ぁ……仕方あるまい……あの時は、お前を守る事で精一杯だったからな……」

 

「そう……だったのか?」

 

 一夏の言葉で私は福音と戦っていた時の光景を思い返す。あの時の一夏は私を逃そうとして銀の鐘の直撃を受け、気を失っていたのだ。私がそのあと何をしていたのかなど、知る由もない。

 

「あぁ。まぁ、結局は……お前にまた助けられてしまったんだかな。私のやった事は、たぶん無駄だったのだろう……」

 

 あの時、銀の鐘の光を防いだのは紅椿のシールドではなく、白式が白騎士になった時のエネルギーの余波だというのが、後の調べでわかった。私もその時は白騎士が防いだのだと思っていた。

 だから、私は一夏を守ったのではなく、一夏に守られたのだ。そう思った時、まだ私は一夏にお礼を言っていない事を思い出して言おうとしたのだが、それよりも早く、一夏が私を呼んだ。

 

「………………箒」

 

「ん?」

 

 

 

「……ありがとう」

 

 

 

「な、なんだ突然!?」

 

 突然私よりも早くお礼を言われて、急な出来事に慌てる私を一夏は落ち着かせて、一夏は吸っていたタバコを口から離して煙を吐く。

 

「福音の光に飲まれた時、死んだと思ったし、俺自身、結構諦めてた」

 

「え……」

 

「でも、箒の声が聞こえた。お前が泣いて俺を呼ぶ声が聞こえたから、も一度戦う覚悟決めたら、ああなった」

 

「………………」

 

 なんとも呆気ない言い草で説明を終えた一夏は、また短くなったタバコを吸う。

 気を失っていたはずなのに、なんで泣きながら名前を呼んでいる事まで知られていた事に、嬉しい様な恥ずかしい様な気持ちが心の中で混雑する。

 だが、あの時、私の声が届いていたという事実を知って、私は嬉しさや恥じらいを超えた感動を受けていた。

 

「奇跡……なのかもしれないな」

 

「そう、だな……」

 

 そう言って一夏はもう一度タバコを吸って吐くと、短くなったタバコの火を砂で押し消して海に投げようとして……ポケットから取り出した携帯灰皿に入れた。

 

「だが……こんなに髪が焼け焦げるとは思ってもいなかったな。覚えているか? あのリボン…………凄く気に入っていたのだぞ……」

 

 私は髪の毛の焦げた部分を触りながらリボンの事を、プレゼントしてくれた一夏自身に話した。

 

「……いつもおんなじリボンだったもんな。貰いモン、だろ?」

 

「あぁ、他ならぬ、お前からのな」

 

「……そうだったけ?」

 

「なっ、覚えていないと言うのか!!?」

 

 子供の頃の幸せだった思い出を忘れられ、思わず様々な感情の混濁した大声を出してしまった私を、一夏は手の平を出して私を押し留める。

 

「冗談だ、思い出したらちょっと恥ずかしかっただけだ……」

 

「な、なんだ……驚かすな。それに……恥ずかしい事などないだろう……」

 

「……プレゼントなんか余程好きな相手にしか渡さん」

 

 つまり一夏は私が好きだった。それを聞いた瞬間、私の中で何かが始動した。

 

「っ!♡? ……ま、まぁ……ど、どうしてもと言うならな! もう一回私にプレゼントしても良いのだぞ! うんっ!!」

 

 好きな相手にしか渡さないと聞いて、私は一夏は子供の頃から私の事を好きだったという事実を掴む事ができた。同時に私は、その言葉通りの状況を再現して一夏が私を好きだという事を享受し、そしてもう一度一夏からリボンをプレゼントしてもらう機会を作ろうとした。

 だがしかし、私の早口を聞いて一夏は思い出したかの様に声を上げた。

 

「あっ、今日お前誕生日だったけ?」

 

「誕生日は昨日だ!!」

 

 即答で叫んだ。ふと、姉さんは自分の誕生日に合わせて私に紅椿をプレゼントしてくれたのだと思い返す事となった。

 一夏は私の大声に驚きながら、少し小さい声で言った。

 

「悪ぃ……何も用意できてないわ……」

 

 私は気にしない。むしろ……心の中ではある覚悟を決めていて、それどころではなかった。

 今まで、私はずっと聞いた事がなかったのだ。一夏からの気持ちを。彼からの好意を。

 

「……いい」

 

「え……?」

 

 「好きだ」と伝えても友達としての関係だと思われ、「付き合ってくれ」と言えば買い物か何かの手伝いと思われる。必死にアプローチしても、なんでそんなに尽くしてくれるのかわからない。そんな男だった。

 いつも一緒にいたのに、気持ちはすれ違うばかりだった。いや、いつも鈍感だった一夏の気持ちが……私にはいつもわからなかった。

 

「もう貰ったたしな……」

 

 だがあの時、白騎士の光に包まれていた時に、死を覚悟していた私は心の底からそう思ってしまった。

 そしてその気持ちは、決して私の一方通行ではないと知ってしまったのだから。

 

「……紅椿か?」

 

「いや、もっと大事な物だ」

 

 もう、止めたくない。

 

「……?」

 

 私は眉をひそめる一夏の肩を掴み、驚く彼の目と視線を合わせた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「好きだ、一夏」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 言えた。想像するだけで動機の止まらなかった言葉が今、私には簡単に伝える事ができてしまった。

 

「……大好きだ。お前がどこへ行こうと、たとえ男と女が戦争を始めようと、私は最期までずっと一夏の味方だ。だから、頼む…………一緒にいさせてくれ……」

 

 彼の肩を強く掴み、震える声を奮わせる。今度こそ、真剣に伝わる筈だ。私の、思いが……

 伝えたい事は、全て伝えられた。一夏がどう思うかは、彼次第だったが……私は信じていた。ここにいるのはもう、あの頃の鈍感な小学生ではないと。

 しばらく、一夏は無言だったが、やがて、やっとの事で声を出した。

 

「……後悔すんぞ」

 

「後悔などするものか、死ぬまで一緒にいてやる……」

 

 一夏は私から顔を逸らしたかと思うと、急に私の肩を掴んでグイッと密着するぐらいまで引き寄せてきた。

 

「……馬鹿野郎」

 

 そんな暴言がとても似合わないぐらいの優しい声色で言われて、私は一夏と触れ合いながらなぜか安心感を得る事ができた。

 伝わったのだ。私の気持ちが、今度こそ。

 

「箒……」

 

 一夏が私を見て、私も一夏と目を合わせた。彼の肩を掴んでいない手が私のもう片方手と重なって、座ったまま互いに向き合う。砂の付いた私の手の平が合わさり、肩を掴んでいた彼の綺麗な手が私の頭を、髪を撫で下ろす。

 

「好きだ」

 

 ……ずっと言われたかった言葉。瞬間的に私は悟り、眼を閉じた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 唇が、そっと触れた。タバコの匂いも、案外悪いものではないと思ってしまった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 顔を離して眼を開く。朝日に照らされた一夏の顔はキスする前と変わらなかったが、非常に穏やかで私の見つめていた。

 リボンは代償となってしまったのかもしれないが、それ以上の思いを得る事ができた。

 思わず私は視線を下にずらして、そのまま体を海の方へと向けた。口元が緩むのを堪えているその表情は、数年間かかった思いがやっと伝わった達成感に包まれていた。

 

「箒……?」

 

「む……なんだ?」

 

 表情を落ち着かせて、私は真面目な顔を見繕って一夏の方に視線だけ向ける。彼も姿勢を動かして海の方を見ていた。

 

「今度の休みさ、どっか行こう………………二人で……」

 

「そうだな……リボンだ、新しいリボンを買ってくれ」

 

「わかった。100mでも200mでも買ってやるよ」

 

 突拍子もない事を言い出した私は、頬の紅色も治まっていないまま顔を一夏の方に向けてしまった。

 

「そ、そんなにいらん! というか、そのリボンじゃない!! 約束だからな! 絶対に買いに行っても──

 

「どこへ行ってもらうんですかねぇ?」

 

 突然聞こえた一夏でも自分でもない声に、私と一夏は一瞬にして現実に戻された。同時に悪寒の様な視線を大量に感じて振り返ると、そこにはラファール・リヴァイブを纏った山田先生を中心として専用機持ちの面々がISを展開して私達を見下ろしていた。

 正直、福音の時よりも恐かったと思う。じりじりと距離が詰められていく中、一夏は問い尋ねる。

 

「どの辺から、居た?」

 

「お前らがキスした時からだ」

 

 ラウラはカノン砲に弾を装填しながら、淡々と答える。つまりは一部始終バッチリと見られてしまったらしい。思わず顔が熱くなって今すぐにでも逃げ出したくなった。

 

「何赤くなってんのよーッ!!」

 

「…………もぅ!」

 

「一夏ッ!! ……後で僕にもしてもらうからね♪」

 

「アンタも何言ってんのーッッ!!!」

 

「2人とも! 不純異性交遊は禁止です! そもそも、旅館を勝手に抜け出す事も禁止でーす!!!」

 

「逃げろ一夏ッ!!」

 

 私と一夏はたまらずISで逃げようとしたが、セシリア、鈴、シャル、ラウラ、山田先生、5台のISに追い回され、呆気なく捕まった。

 

 闘争……いや、逃走時間……私は17秒。

 

 一夏は……3秒だった。

 

 そして、それよりも衝撃的だったのは、飛び立とうとした一夏をダイビングキャッチで捕まえた鈴音が、抱きつきながら彼の口元を生身の手でゴシゴシと擦り、そのまま頭を掴んでキスをしているのを見てしまった事と……そこからシャルロットが割り込んで一夏にキスをする光景を見てしまった事だった。

 

 どうやら、私の戦いはゴールなどではなく、まだまだ始まったばかりの様だ……

 

 

 

 ・・・☆・・・☆・・・

 

 

 

 (何処かの誰かの会話)

 

 

 

「は〜、それにしても白式には驚くなぁ〜! まさか操縦者の生体再生まで可能にするなんて……それにあの全身装甲、銀の福音も紅椿も悠々と超えるこのエネルギー数値……まるで……

 

「まるで『白騎士』の様だな。コアナンバー001にして、初の実戦投入機。おまえが心血を注いだ一番目の機体にな……」

 

 

 

「やぁ、ちーちゃん」

 

 

 

「あぁ」

 

 

 

「ちーちゃんから会いに来るのって、何年ぶりかな?」

 

「さぁな。私がドイツから帰って…………すぐあとだった、かな……」

 

「いろいろあったね〜〜。ちーちゃんのお気に入りだった『暮桜(くれざくら)』は封印するハメになっちゃったし、おかげで今度はいっくんがIS動かせる様になっちゃったしさ」

 

「全くだ。お前と出会ってから、こっちは波乱の連続だ」

 

「でも………………悪くはないでしょ?」

 

「どうだったかな……一夏をISに近づけたのも、お前の仕業じゃないか?」

 

「ヒドーーい! 束さんはいつもちーちゃんといっくんの味方だよ!? あと、ほーちゃんとか……」

 

「自分の妹は二の次か。まったくお前は……」

 

「束さんはこれぐらいが適度なコミュニケーションだと思ってるよ! ちーちゃんのブラコン具合と比べられたら──

 

 ガシッ!

 

「なにか言ったか?」

 

「ぎゃ〜〜〜〜!! ウソです! なんでもありません!!」

 

「……で、どうなんだ結局。白式が一次移行もしない理由は何だ?」

 

「それがね〜〜……やっぱりサッパリわからんですのよ。この束サマにも」

 

「おや? てっきりホラでも吹いていると思ったが、本当にわからないのか?」

 

「う〜ん……あの暴走自体、前例がないからね〜……似た様な事は一個あるけど」

 

「ほう……ISの暴走に前例がないと言うのなら、福音の暴走は意図的だったという事だな?」

 

 

 

「えへっ、バレたぁ〜?」

 

 

 

「当たり前だ。大事な妹の晴れ舞台が目的とはいえ、少しやりすぎだったな」

 

「仕方ないじゃん、それが向こうとの約束だったんだし。それに……束さんがやったのはハッキングだけ。コレ、ほんとだよ?」

 

「だがお前ならそのまま福音を操る事だって造作もないだろう。そうじゃなくても、あいつが直撃を受ける前に、もう一度福音にハッキングをかけて止められた筈だ」

 

「ううん、さすがにそれは束さんでもムリ。あんな音速で動いてる物体捉えながらハッキング起こすなんて、不可能だよ」

 

「ハァ……あくまでお前は、協力をするだけの体制か…………連中はいったい何を考えているんだ?」

 

「さーねー。まっ、束さんはそんな事興味ないからどーでもいーけど」

 

「そうかい。まぁ……大事になる前にはこちらに知らせてくれよ?」

 

「わかってるよ、ちーちゃん」

 

「あぁ」

 

「うふふ……♪」

 

「フッ……話がずれたな。結局、白式についてはわからずじまいなのか……」

 

「うん。コア自体は白騎士だった時にキチンと初期化したはずなのに、なんでだろーねー」

 

 

 

「只の偶然か……」

 

「故の必然か……」

 

 

 

「これが運命だと言うなら……残酷なものだな。世界に啖呵まで切っても、変えたかったものは変わらず終い。お前は国に追われて生活もままならず、私は弟にまで自分の業を背負わせようとしている。なぁ、束…………お前はそこまでして今更何を望む?」

 

「……変わんないよ。……変わんないさ。向こうが変わってくれないなら、束さんが変わるもん。世界の見解がどれだけひん曲がろうと、顔も知らない人間がどうなろうと、私は自分の夢を目指すだけ。子供の頃ちーちゃんに約束したし、なにより私自信が願ったんだから」

 

「だが、お前の願った結果が今の世界だ。嬉しいだろう?」

 

「まさか」

 

「………………」

 

「………………」

 

「……ッフフ♪」

 

「ふフフ……♪」

 

「ハハハ……♪」

 

「ねぇ、ちーちゃん?」

 

「フフッ、ん?」

 

「ちーちゃんは、今の世界が楽しい?」

 

「ふむ、そこそこにな。昔よりは全然マシさ」

 

「…………そっかー」

 

 

 

「……さて、聞きたい事も聞けた事だし、私は戻るぞ」

 

「あらら。もう行っちゃうの?」

 

「お前と違って忙しい身なんだ。またどこかでな」

 

「そう、じゃっバイバーイ♪」

 

「………………」

 

 

 

「ねぇ……ちーちゃん?」

 

「ん、なんだ?」

 

「私達…………また会えるかな?」

 

「何言ってる。お前ならいつだって会いに来れるだろう」

 

「えへへ、そうだよね〜。近い内、遊びにいっちゃおうっかなぁ〜?」

 

「フッ、歓迎してやるさ。専用機持ち全員でな」

 

「あれれれれ〜? な〜んか物騒に聞こえる……」

 

「………………」

 

「………………」

 

「束……」

 

「なぁに、ちーちゃん」

 

 

 

「…………気をつけろよ……」

 

 

 

「……ふふっ、わかってるよ。束さんはまだまだ死ねないんだから」

 

「そうか……ならいい」

 

「またね〜♪」

 

「またな……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………………………………」

 

「ふぅ、それにしてもいっくんがあんなにカッコいい男の子に成長してるなんて……♡ ちーちゃんには悪いけど、束さん、いっくんの事奪っちゃおうかなぁ〜♪」

 

 

 

『止ーまぁらなーいスピードでぇー♪ おーもーいが溢れーてゆく〜♪』

 

 

 

 ピッ☆

 

 

 

「はーい、もすもすひねもす?」

 

『…………、………………………。…………………………、…………………………』

 

「いいっていいって! 束さん、約束は守る人間なんだから〜」

 

『………………、…………………………………、…………………………………』

 

「オッケー! 紅椿に結構使っちゃったから、ちょこっと多めに頼むよ〜ん」

 

『……………………………………。…………………………………………………、…………………………………………』

 

「うぅ〜〜ケチだなぁ〜……ほんとは気になってるクセに」

 

『………………?』

 

「欲しいんでしょ? 第四世代型IS、あぁかつゥぶぁきィ〜〜」

 

『………………』

 

「ん〜〜〜〜〜〜ウフフフフフフ?」

 

『…………。…………………………………………………………………、…………………、……………………………』

 

「あれれ〜〜? 現行ISの全てを凌ぐ第四世代型だよ? 絶対欲しがるとおもったんだけどなぁ〜」

 

『……………………………………………。……………………………………………………………………………………』

 

「うげええぇぇぇ……こんな可愛らしい女の子をこき使うつもりなの?」

 

『…………。…………………………、………………………………………………………………。………………………、………………………………………………』

 

「さっすがぁ〜! ホワイト企業、『亡国機業(ファントム・タスク)』!! いつも助かるよ〜!」

 

『……、…………………………………………………』

 

「デスヨネー。でも、それで箒ちゃんに誕生日プレゼント作って送れる時間があったんだから、悪い気はしないよ」

 

『………………、……………………………………………』

 

「うんうん! 本部には明日の昼ぐらいに着くと思うから」

 

『…………、…………』

 

「バイバーイ♪」

 

 

 

 ピッ☆

 

 

 

「ふー、ユルユルスケジュールとは言え、お仕事は大変だな〜。それに、油断のならないヤツらだよ。束さんの知らない事まだまだ隠してるみたいだし、仲介人は無愛想だし、最近はISや兵器作りじゃなくてデータばっか取ってるみたいだし。まっ、匿ってもらってるんだから、あんまり文句は言えないんだけどね〜」

 

 

 

「………………ふぅ」

 

 

 

「さぁ〜てと、次の依頼はなんだっけかなぁ〜……」

 

 

 

 ・・・☆・・・☆・・・

 

 

 

 (まだ箒視点)

 

 

 

 臨海学校も終わり、IS学園へと帰る時間がきた。

 旅館の清掃も終わり、女将さん達への挨拶を終えて、私達は乗ってきたバスへと乗車して、出発の時間を待っていた。

 

「それでさぁ〜、いったい何してたのー?」

 

「海で遊んでたらいきなり先生が『旅館の自室で待機』ってなって大変だったんだけど……」

 

「だーめ、秘密事項なんだから、言えないよー。そうだよねセシリア?」

 

「そうですのよ……まったく……命がいくつあっても足りませんでしたわ!」

 

「えー!?」

 

「アハハ……セシリア、それも言っちゃダメ……」

 

 ほかのクラスメイト達は何があったのか、比較的質問のしやすいデュノアの所に集まっているが、上手いことかわしている。鈴は2組なのでこのバスにはいない。

 皆がガヤガヤと騒いでいる中、私の隣の一夏は……

 

「……zzz」

 

 眠っていた。結局、あのあと私と一夏は山田先生と千冬さんにしこたま説教を受け、朝の大掃除で千冬さんの指導の下、ヘロヘロになるまで清掃にこき使われたのだ。

 私と一夏は旅館の廊下を全て雑巾掛けさせられた。最初は山田先生の監視下で行われたのだが、突然何かが吹っ切れた一夏が先生の見ている目の前で私にキスをせがんできたのだ。当然山田先生は一夏を指導しようとし、私も困惑しながら彼を叱ろうとしたのだが……早朝の良い雰囲気だった所を先生達に邪魔され、朝食後からずっと清掃続きで鬱憤が溜まっていた私はつい一夏のキスに応えてしまった。

 感情の混ざり合った悲鳴を上げる山田先生を無視して、一夏と私は早朝の出来事を思い出させる様なキスをした。しかもキスは一回だけではなく、一夏によって何度も何度も続け様に行われ、やがて舌を合わせるキスまでに発展し、最後には山田先生は泣きながらどっかに逃げてしまった。

 そのあとにやってきた千冬さんにしこたま怒られて(主に一夏が)清掃から解放された私達はいつのまにか座席が決められていた帰りのバスの、余った最前列の2席に押し込められて今に至るわけだ。

 とんでもない事をしてしまい、今更になって山田先生に申し訳なくなってきたが

 

 寝ている一夏を眺めていると、窓の向こうに見えた千冬先生と何やら会話をしている女性が見えた。最初は別のクラスの教師か誰かと思っていたのだが、その女性は千冬に手を振りながら私達の乗っているバスへと近寄ってくる。その顔はIS学園の教師ではない、全く私の見知らぬ女性であった。顔立ちは日本人ではなく、欧米人。年齢は二十代ぐらいでセシリアと同じぐらい長い金髪を後ろで結んでいる。服装は白い半袖のワイシャツに、鮮やかな青いスーツのズボンを履いていた。ひとつ気になったのは、その頭には包帯の様なものを巻いている事だった。

 その女性は迷いなく私達のバスに乗り込んでくると、すぐ気がついたラウラが座席から立ち上がる。

 

「誰だお前は。このバスはIS学園の関係者専用の物だぞ」

 

 突然のラウラの覇気を帯びた声に、談笑していたバスの車内が静まり返り、クラスメイト達の視線が見知らぬ女性に集中する。

 

「大丈夫よ。外のブリュンヒルデには伝えてあるから」

 

「何?」

 

 それでも彼女はラウラに臆する事なかった。千冬さんを平然と『ブリュンヒルデ』と呼んだ女性はラウラにそう告げ、今度は私達の方を見渡してくる。

 

「それより、織斑 一夏君はいるかしら?」

 

 探しているのは一夏だった。クラスメイト達の視線はバスの前の方の座席にいる一夏に集中したのだろう、女性はすぐに寝ている一夏と私を見た。咄嗟に一夏の服を揺さぶって起こそうとしたが、その様子を見た金髪の女性はすぐに私を止めた。

 

「あら、いいわ起こさなくても。私はお礼を言いにきただけだもの」

 

「お、お礼……って?」

 

 そう説明する女性だったが、私はこの人と今初めて出会った。一夏を起こして問いかけたとしても、全く同じ答えを出してくると確信している。間違いなく初対面であるはずの相手にいったい何の借りがあったのか問い尋ねようとしたその前に、女性は私に答えてくれた。

 

「あの子を止めてくれた事……」

 

 そう言って女性は私と一夏の座席の前まで来ると、身を乗り出して一夏の所にまで顔を近づけて、私の目の前で彼の額にそっと唇を落とした。

 

「っ!?」

 

 予想外の行為に私は名前を聞くのも忘れて狼狽している間に、女性は告げる。

 

「私はナターシャ・ファイルズ。銀の福音(シルバリオ・ゴスペル)の操縦者よ」

 

「え……?」

 

 私は言葉を詰まらせる。これには側から見ていたデュノア達も驚きを隠せなかった。あの時、私達が戦っていた福音のパイロットだと言うのだから。

 確かにISは無人ではないはずなのだから、人が乗っているのは当然なのだが、まさかあの白騎士となった白式にボロボロにされて最後は岩に叩きつけられたのだ。生きている方が不思議だった。

 

「また何処かで会いましょう、それじゃあ」

 

 予想外の言動に私が混乱している間に、ナターシャと名乗った女性はウインクをして身を翻すと、ひらひらと手を振りながらバスを降りていった。

 

「あ、ちょっと!」

 

「……っふあぁ〜〜あ」

 

 呼び止めようとしても、女性は止まらなかった。直後に隣の一夏が大きくあくびをして目覚めると、座ったまま今度は大きく背伸びをした所で彼と目が合った。

 

「あ? どうしたぁ箒? なぁんかあったか?」

 

「あ、えーとね……」

 

「な、なんでもない! なんでもないぞ……」

 

 声の聞こえていたデュノアが何かを言おうとしたが、私はそれを遮った。

 なんか……一夏には知って欲しくなかったからだ。

 

「?」

 

 一夏は焦っている私や周りを訝しんだが、誰も彼が寝ていた時に起こった事を話そうとはしなかった。その内、彼は飽きた様に席に座りなおし、出発の時間を待ち始めた。

 

 それから数分後、ようやく山田先生と千冬さんがバスへ乗車して、私達を乗せたバスはIS学園へと動き出した。

 山田先生は私の方を見ると顔を真っ赤にして眼を背けてしまいながらも、指揮を執りながら帰りの予定を話し始める。だが私はついさっき目の前で一夏にキスをしていった女性の事を思い出し、悶々としていた。

 後ろを覗くとクラスメイト達が山田先生に気づかず談笑をして盛り上がっている中、横を見ればまだ眠たそうな顔で先生の話を聞いている一夏。いや、本当に話なんて聞いているのかも怪しい表情をしている。

 こんな男に私は惚れてしまったのだ。強くて、逞しくて、格好良いのに、不真面目で不躾で女誑しで、今も周りには次々と新しい女性が集まってくる。キスまでした仲だと言うのに、向こうは動揺もしていない。

 ええい、もう癪だった。私は呆けていた一夏の頰に、そっと唇を落とした。

 

 千冬さんに見られて、頭を叩かれた。一夏が。

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