織斑イチカの収束   作:monmo

19 / 20
第十八話

 午後2時。蝉のうるさいクソ炎天下の夏の下、俺は織斑 一夏の家の前に立ち尽くしていた。

 白い壁に小豆色の屋根。『織斑』と名前の彫られた表札に鉄柵の門で隔たれた、そこそこ大きな邸宅。顔を動かして見上げると、太陽ギラつく快晴からの日差しに、俺は思わず額に手を当てる。

 全てはここから始まった。俺が一夏として生きる事になった、運命のスタート地点。半ば夢心地の中だったこの場所に戻ってきた今の心境は、なんだか妙な胸騒ぎがして落ち着かない。

 だが目を逸らすつもりも、後に引くつもりもなかった。ここに来た経緯には、それ相応の理由がある。俺は探さなくてはならないのだ。そして、見なくてはならないのだ。この世界で確かに生きていた『織斑 一夏』という人間が何を見て、どんな運命を辿ったのか。

 

 そう……俺は織斑 一夏の事を知る為、ここに来たのだ。

 

 俺は、一歩を踏み出して鉄柵の門に手をかける。黒い門の取っ手は日差しを受けてかなりの熱気を籠っていたが、我慢した。

 門を通り、千冬に借りた鍵で玄関のドアを開けると、中からホコリっぽくて蒸し暑い空気が一気に流れ出てきた。考えてみれば、一夏である俺がここを出てから、この家は数ヶ月間誰にも使われていないのだ。外観はデカい邸宅な分、室内は人気を感じられず、妙に雰囲気が鬱蒼としていて気味が悪い。

 ひとまず、俺は一夏の情報を探るよりも家の中全体の換気を優先した。家中のカーテンと窓を開いて網戸にすると、蒸し暑い空気だけは抜けた。

 携帯灰皿で一服しながら、俺はリビングを物色してみる。冷蔵庫の中はほとんど空っぽだった。生ものは全く入っていない。長く家を空ける事を想定していたのだろう。しっかりしている。

 換気を終わらせて窓とカーテンを閉め、俺はクーラーをつけた。これでずいぶんと快適にはなった。客を呼んでも大丈夫だろう。

 

 ピンポーン♪

 

 その客がやってきた様だ。向こうは家に俺が居るの知ってるだろうし、鍵開いてんだからとっとと入ってくりゃあいいのにと心の中で愚痴りながら、俺は玄関に戻ってドアを開けた。

 

 ガチャ

 

「えっ?」

 

「え、えへへへ……」

 

 インターホンがある鉄柵の門の外、そこにはキャップとタンクトップにショーパンという露出度高めの服装に運動用のスニーカーを履いた鈴が苦笑いで立っていた。

 で……その後ろには箒を始め、いつものヒロイン共全員が集合していたのだ。少し俺を睨んでいるかのような目で。

 

「お前……」

 

「ごめ〜ん、一夏。ごまかそうとは思ったんだけどさ〜、意外としつこくて……」

 

 後から鈴が来る予定……というか俺が家に帰る事を知った彼女が引っ付いてきたのだが、どうやら更に引っ付けてしまったらしい。彼女の後ろの4人も、妙に私服に力が入っているような気がした。

 半袖シャツに適度なスカート丈の箒。半袖のドレスにつばの広い帽子のセシリア。オフショルダーの半袖シャツにミニスカートのシャルロット。いつぞやに買ったノースリーブのワンピースにミュールのラウラ。みんな何かが入ったバッグを肩にかけている。

 

「一夏……どうしてお前はこういう事をみんなに言わないのだ……」

 

「ずるいよ二人とも……抜け駆けするなんて……」

 

「わ、わたくしは偶然みなさんのお話を聞いてご一緒しただけですから……どうかお気になさらず……」

 

「とにかく、この事は教官に報告させてもらうからな」

 

 うるせぇ、好き勝手にしろ。と適当な事を言って俺は彼女達を家に招き入れる。出す茶もなかったが、よく見れば彼女達はジュースやらお菓子やら思い思いの物を持ってきていた。

 

「ふふ、おじゃましますわ♪」

 

「こうしてお前の家に入ったのも、久しぶりだな」

 

「あたしは初めてなんだよね〜、いつもアンタがあたしの家っていうか、お店に来てたから」

 

 リビングで荷物を置いた彼女達はひとまず、ジュースやお茶で休憩をとりながら、家を見回す。数人はもう勝手に中を歩き回っている。

 

「ここが一夏の実家なんだ……わぁ♪」

 

「曲がりながら登る階段があるなんて、新鮮ですわ……」

 

「お前の部屋はどこだ?」

 

 何か妄想に浸っているシャルは放っておき、嫌味の様な事を言っているセシリアも無視して、俺はラウラを連れて家宅捜索を実行する。

 織斑 一夏の過去を知るにあたって最も簡単な方法だと思ったのは、彼のアルバムを探す事。ほかにも持っている物でおおよその性格や趣味などがわかるハズだ。

 

「ここがお前の部屋か」

 

「ふーん、結構キレイじゃない」

 

「ん、ならこっちは千冬さんの部屋か……」

 

「織斑先生の部屋……ちょっとだけ〜……」

 

「デュ、デュノアさん。さすがにそれは……」

 

 彼女達を連れて2階の俺の部屋に集合した俺は、さっそく怪しそうな所を探る。表向きは、あの始まりの朝のせいでほとんど私物を学園に持ち込めなかった俺の物資の移動だ。彼女達にもそう説明してある。

 1番怪しかった、織斑 一夏の部屋の備え付けになっていたロッカーの中の上の部分。荷物を載せておくスペースに分厚い本の様な物を見つけた。

 俺は手を伸ばして取り出したそれは、若干ホコリの被った厚さ1cmぐらいの大きめな本。いや、表紙を見る限りこれは本ではないだろう。

 

「ん、なにそれ?」

 

 覗き込んでくる鈴を無視して開けば、そこにあるのは織斑 一夏の小学生ぐらいの写真と、中学生の制服を来た千冬の写真。アルバムは案外簡単に見つかった。

 

「アルバムじゃない!」

 

「えぇッ!?」

 

「一夏のアルバムだと!?」

 

「見たいっ!」

 

「見せろ!」

 

 たちまち目をキラキラと輝かせて、俺の周りに群がるヒロイン共。ひとまず彼女達にアルバムを渡して俺は捜索を続ける。

 結果として見つかったアルバムは1冊のみ。それ以外に写真は見つからなかったし、趣味に値しそうな物もなかった。ちなみにエロ本の類いは見つからなかった。まぁ、見つけても困ったが。

 

「ねぇ、アルバムってこれだけなのかな?」

 

 ページをめくりながら疑問を口にしたのはシャルだった。後で確認したが、アルバムは織斑 一夏の小学生の年少の写真から始まっていた。このご時世、写真はデジタルカメラや携帯などのデータで保存するのが当たり前の世の中だ。千冬に思い出を写真で撮る思考があるとは思えなかったし、こんなものなんだろうと納得しようと思えば納得できる。

 だが、どうも釈然としない。

 

「赤ちゃんの頃の写真がないね……」

 

「教官に聞いてみたらどうだ?」

 

「もしかしたら、先生の部屋にあるかも……」

 

「どうだろうな……」

 

 俺は彼女達からアルバムを取り返し、順番にめくっていく。織斑 一夏の年少から中学校までの写真がそこにはあった。

 彼は確かに此処に生きていた証拠が、此処にあった。

 

「一夏……?」

 

「いや…………ちょっとトイレ行ってくる」

 

 俺はアルバムを箒に渡して、トイレに逃げ込む。ズボンも下ろさず便座に座り、肩を落とした。

 もはや捨て切った考えだったが、それでも妙な悲しさが込み上がる。涙は出てこなかったが、それでもこの家に来た事に後悔はしていなかった。

 

 こうなるとわかっていたのだから。

 

 

 

 ・・・☆・・・☆・・・

 

 

 

 アルバムを見るのに飽きた俺達はセシリアが持ってきたケーキでお茶をしながら、ラウラが持ってきたボードゲームで遊んでいた。ボードゲームなのに粘土で物を作らなければならないのはこれ如何にと思ったが、中々に楽しい。

 

「みんな夏休みは何してた? と言ってもまだ半分ぐらいしか経ってないけど」

 

 ボード上は現在1位、粘土制作は絶好調のシャルが手を動かしながら、そんな話を始める。この中で1番粘土が上手なのが彼女だ。ISをいじるのも得意な彼女には、粘土なんか造作もないのだろう。

 

「私は〜、ふふっ♪ 新しいリボンを買ってもらったぞ。一夏にな♪」

 

 真っ先に答えたのは、ボードは3位、粘土制作は普通の箒。頬を染めながら自慢げに明るい白色のリボンと、少し伸びた小さなポニーテールを揺らして、ほかのヒロイン共に見せつけるその様子は嬉しそうだ。

 

「あんたそれ、夏休み前の話じゃない!」

 

「なっ、別に良いではないか!」

 

「で、でも、可愛いリボンだよ! 一夏が選んだんでしょ? センス良いよね!」

 

「そうだな、イチカは私の私服も簡単に選んでしまったからな。ほかの女子から見ても、評価は高かったぞ」

 

 そう言って割り込んできたのは、ボードは5位、粘土制作は何を作ってるのか理解不能な作品のラウラだ。黙々と製作しているその姿は、本人は至って真面目なのが腹立つ。

 そんな彼女の話を聞いて、真っ先に箒が驚いた。

 

「なッ、待てッ! それは初耳だぞ! いつの話だ!?」

 

「私とデュノアが転校してすぐだ。学年別トーナメントが終わって、すぐの休日だな」

 

「あぁ、みんなで尾行し──」

 

「あぁっ、うぅんッ! それで、ラウラさん。織斑さんとほかに何をいたしましたの?」

 

 何か余計な事を言おうとしていた鈴を遮ってセシリアが更にラウラから会話を引き出そうとする。ちなみに彼女のボードはぶっちぎりでビリの6位、粘土制作はもはや意味不明のレベルだ。

 

「そうだな……一緒に映画を見て、食事をして……あぁ、ゲームセンターにも行ったな。ほかには雑貨屋と……クレープを食べたぞ」

 

「そ、そうですの……」

 

「私よりも色んな所に行ってるではないか……」

 

「あたしよりエンジョイしてる……」

 

 結構な差をつけられたのか、かなりのショックを受けている箒と鈴。セシリアは少しだけ動揺しながら相槌をぎこちなくうっていた。

 

「そういえば一夏、気になる映画があるのだが……今度──」

 

「はーいここでデートの誘いはナシー! セシリアは夏休み中は?」

 

 大きな声と両手で突き出した手の平を前にして、会話を遮ったシャルはまだ動揺していたセシリアに話を振る。少しだけ膨れっ面を見せるラウラだが、その顔でやっても可愛い以外表現の仕様がない。

 

「えと、わたくしは一度イギリスに戻ってBTの再調整を行ってきましたわ。後は……凰さんとアミューズメントプールに行ったぐらいですわね」

 

「……なんで鈴と行ったんだ?」

 

 昔に比べれば落ち着いた方だが、性格といいISの戦法といい犬猿の仲とも言える組み合わせに、俺は疑問を投げかけざるをえない。

 

「チケットの期限が決まってましたので、本国に戻る前に使いたかったのですわ……でも、お暇な方が凰さんしかいませんでしたので……」(本当は一夏さんを誘うつもりでしたのに……織斑先生と旅行に行ってしまうんですもの!)

 

「なによ、あたしがヒマ人だったみたいな言い方! ……まぁ、ヒマだったのは事実だけど……まっ、あれもあれで楽しかったわ」

 

 セシリアの言い草にプンスカ怒りつつも、その時の事を思い返しているのか、テーブルに膝をついて喋りながら粘土をこねる鈴。彼女のボードは4位、粘土制作はやや苦手そうだ。手が色つき粘土の汚れで酷い事になってる。

 その様子に少しだけ嬉しそうな機嫌のセシリアは、プールでの出来事を話し始めた。

 

「えぇ、その日はプールのイベントで、南国旅行のペアチケットを賭けた2人1組のレースが行れておりましたの。あともう少しのところだったのですけど、最後の最後で仲間割れを起こしてしまいまして……」

 

「あーれは悪かったわよ! 頭踏んづけたの。あともうちょっとで興奮しすぎたのよ!」

 

「えぇ、つい我を忘れて白熱してしまいました。よくよく考えれば、海外旅行ならわたくしの財力でどうにでもなるものでしたわ……」

 

 そう言ってセシリアはため息をつきながら、完成した粘土細工をテーブルの上に置く。ひしゃげた花みたいな形をしている。ラフレシアかと問い訪ねたら、怒られた。

 俺がセシリアにシバかれてる隣で、箒が何やら想像に耽っている。

 

「それにしても、プールか…………一夏、また私の水着姿……見たいか? もし見たいなら……」

 

「もー、みんなすぐ一夏をデートに誘おうとするだから〜!」

 

 口を尖らせるシャルの発言に、箒はビクリと震わせる。

 

「い、いいではないか! わ、私と一夏は付き合ってるのだからな!」(臨海学校の後に、協定で認められたではないか! ……と言うか、あんな集まりがあった事さえ初耳だったのだぞ!)

 

「いくら付き合っているとは言え、イチカはみんなのモノなのだろう?」(……と、前にクラスメイトや他クラス他学年もほぼ全員を交えて協定を結んだのだが……箒は浮かれていて聞いてなかったな)

 

 彼女の発言にラウラは完成させた粘土細工を置きながら、ジト目で箒を見る。そこにシャルやセシリアが畳みかけてくる。

 

「そーだよ! 一夏の独り占めは、禁止だからね!」(IS学園にいる3年間の間は、一夏の1番の幼馴染みの箒を建前上恋人役にしてあるだけだからね! そこからは早い者勝ちだよ!)

 

「箒さんは織斑さんの幼馴染みでしたから、『正妻』という立場に収めていますのよ?」(他国籍の方と付き合ってしまいますと、その国に贔屓されたと思われますから……同じ日本人の箒さんが1番都合が良かったのですわ)

 

 箒は助けを求めるような視線を俺に向けてくるが、そこを鈴が白けた表情でボードを見ながら、ため息をついていた。

 

「うぅ……一夏ぁ〜」(これでは前とほとんど変わらぬ……いや、むしろ前よりも一夏の周りに女性が集まってきているではないか……!)

 

「箒、ムリよ。この学園で一夏とふたりっきりでイチャつくなんてムリムリ。あたしだって早い段階で諦めたんだから、早く認めなさい!」(あたしだって他のみんなを出し抜いて、一夏の事独り占めしたいけど……この学園の人間全員と戦争なんてする気ないわよ……特に今はね)

 

 俺と箒が付き合っても、彼女達の条約は反故にならなかったようだ。当然ちゃ当然だが。俺も、この半公認ハーレム状態を楽しまないつもりはなかったからだ。

 項垂れる箒の反対側では、鈴が俺を睨んでくる。

 

「あんたも箒ばっか甘やかしちゃダメよ! あたし達とも付き合ってくれなきゃ、怒るわよ!」(まっ、今はこの状況を思いっきり楽しもっと♪)

 

 わかっていると適当な返事をしながら、俺も完成した粘土細工をテーブルの上に置くと、シャルがテーブルの上に頬を付けてべったりと倒れ込んだ。

 

「あーあ〜、僕は2世代に渡って愛人かぁ〜……」

 

 凄まじいブラックジョークを飛ばすシャルだが、少なくともこんな事が言えるぐらいには、心に余裕ができたと喜ぶべきだろうか。

 

「でも、プールは面白そう! 水着は林間学校以来着れてないし、良いと思うよ!」

 

「そうね! イベントはもうやってないけど……アトラクションは動いてるハズよ!」

 

「プールなら海と違って砂や潮で汚れる事もありませんわ。一夏さん、いかがでしょうか?」

 

「学園のプールだと、一夏はすぐほかの女とイチャイチャし始めるからな」

 

「ぐぬぬ、お前ら……ハァ、まぁいい……プールはいつか行くとしよう」

 

 まだ箒は納得してなかった様な気がしたが、このまま勝手に俺が連れて行かれるよりも、一緒にプールに行く事を優先したようだ。

 ひと段落させたシャルは、今度は話を鈴に振った。

 

「じゃあ、次。鈴音は?」

 

「えっ? あ、あたしは…………お父さんの所に行ってきたわ……」

 

「え?」

 

「鈴のお父さん?」

 

「うん……」

 

 ほとんど家族関係が疎遠な一同は、父親に会ってきたという鈴の話に一気に興味を示した。のだが……

 

「ずいぶんと消沈しているようだが……こういうものなのか?」

 

「う〜ん、どうだろう……」

 

 そもそも親という存在も知らないラウラが周りに質問しているが、彼女達からも自信のある答えは出せないようだ。

 

「鈴、何かあったのか?」

 

「うん……最初はね、普通に喜んでくれたわ。でも……」

 

「でも……?」

 

 そこから鈴の声は、更に小さくなる。うつむいて、粘土だらけの指を合わせた。

 

「なんだが、病気っぽいのよ……何か薬飲んでたし、ずっと咳き込んでばっかだったし……」

 

「聞いたのか?」

 

「聞いたけど、大した病気じゃないってはぐらかされちゃった…………ねぇ、これってどうしたらいいと思う?」

 

 鈴が俺の方を向いて、解決策を求める。俺は状況をもう一度整理するため、彼女に質問を返す。

 

「そもそも、何で離婚したか覚えてるか?」

 

「えと……確かお父さんが離婚しようって言ったのよ。あたしは結構早い時期からIS操縦者になりたいって言ってたし、お母さんがそれを叶えるために中国に戻ろうとしたんだけど……お父さんが反対したの。あんなもの、なるべきじゃないって……」

 

「それで離婚か」

 

 ラウラの言葉に鈴はゆっくりとうなずいた。

 

「母親は、病気の事知ってるのか?」

 

「ううん……あたしも初めて気がついたから……」

 

「なら、伝えた方が良いな……もしかしたらトンでもない勘違い起こしてるかもしれないぞ……」

 

「そう、ね……お母さんに話してみる!」

 

 そう決意した鈴はテーブルの上に完成させた粘土細工を置いた。形はいびつだったが、何となく正体がわかる作品だった。

 

「ゴメン、なんか暗くさせたわね……」

 

「大丈夫だよ。きっと家族も良くなるって!」

 

「ふふっ、ありがと……」

 

 ほんの少しだけ、照れ隠しで笑う鈴。これで問題は解決するかもしれないな。

 シャルは話題を再開させた。

 

「それじゃあ……次! ラウラは?」

 

「わ、私か? 私はシャルロットと買い物に行って……なぜか喫茶店の手伝いをする事になった」

 

「えぇ? どーゆー事よソレ?」

 

「何か壊したのか?」

 

「そーじゃないよ! ラウラがお店の人にスカウトされたんだよね」

 

 スカウトで1日体験入店も変な話だが、おおよそラウラの見た目が気に入られすぎたのだろう。俺とデートした時もよくある事だ。

 

「少しの間だけ代わって欲しいと言われて、メイド服という物を着て接客していた。私としては買い物に戻りたかったのだが、シャルロットがどうしてもと……」

 

「だってメイド服のラウラすっごく可愛かったんだもん♪ 僕は燕尾服渡されたけど……」

 

「まぁ……そちらも似合っただろう……」

 

「フォローになってないからね……! ラウラのメイド服は後で写真見せてあげる!」

 

「なっ!? いつ撮ったのだ!?」

 

「コッソリ!」

 

 サムズアップするシャルを、ラウラは冷や汗を垂らしながら見ていた。写真は後で見せてもらったが、本人はずいぶんと恥ずかしそうにしていた。

 

「……ま、まぁ、その後は買い物を終わらせて、クレープを食べた。あぁ、お前と初めてデートをした時の、あのクレープ屋だ♪」

 

「うぐっ……知ってる一夏? あそこのクレープ屋って幻のミックスベリーってフレーバーのクレープがあって、食べると幸せが訪れるんだって!」

 

「そういえば、静音が何かそんな事を言っていたな……デートに最適だと……」

 

「そうそう、あたしも聞いた事あるわよ!」

 

「でも、いっつも売ってないよね」

 

「メニューにないんじゃないの?」

 

「一夏は何が知ってる?」

 

「あぁ〜、あれってイチゴラズベリーのクレープとブルーベリーポイップのクレープを食べ合わせれば良いんだろ?」

 

「「「「「え」」」」」

 

 俺の回答に5人の声がリビングに重なった。

 

「そ、そうだったのか!?」

 

「だって、メニューにねぇんだから新しいもの作るしかないだろう」

 

 そう言って俺は彼女達と食ったクレープを思い返す。美味かったなー、宇治金抹茶大福キャラメルチョコバナナクレープとトロピカルミックスフルーツアップルシナモンバタークレープ、あとミックスベリークレープ。誰と何を食ったのかは想像に任せる。

 

「へ……へぇ…………そうだったんだ……」

 

「な、なるほどー……」

 

「そうだったのか…………フッ」

 

 俺と一緒にクレープを食った事のある箒、鈴、ラウラの3人はそれぞれな反応を示している。気のせいか顔を火照らせながら、ほかの2人に対して勝ち誇っている様な表情だ。

 

「一夏ッ! 今度は僕とそのクレープ屋に行こうよ!」

 

「い、一夏さん! わたくし、都心に買い物に行きたいので、その……付き合ってくださいませッ」

 

 シャルとセシリアがグイグイ寄り付いてくるので、俺は彼女達を落ち着かせてボードゲームを再開させた。全員、粘土細工は揃っていた。

 ボードゲームの結果はシャルが優勝した。本人は「せっかく勝ったから、何かご褒美が欲しい」と言っていたので、話題にしていたクレープ屋に行く約束を確約しておいた。

 ゲームがひと段落した所で、家の玄関が開く音がした。

 

 ガチャ

 

「ん?」

 

 最初に反応したのはラウラだった。足音はそのままリビングまで近づいて、ドアを開ける。

 

「……やけに靴が多いと思えば、これはいったい何の集いだ?」

 

 入ってきたのは千冬だった。服装はいつものスーツ姿。テーブルに集まってお茶やらお菓子やら、ボードゲームを展開する俺達を、生暖かそうな目で見てきた。

 

「おかえり。お茶出す? ペットボトルのだけど」

 

「いい。ここは私の家だ。茶ぐらい自分で出すさ」

 

 そう言って千冬は俺達から視線を逸らしたが、すぐにその視点はテーブルの隅に置いてあった物に留まった。

 

「これは…………アルバムなんか開いて何やってたんだ?」

 

「えへへ、一夏の思い出が見たいなぁ〜って……」

 

 わざとらしくあざけてみせる鈴の隣で、シャルが質問する。

 

「先生、これより昔のアルバムは無いんですか?」

 

「あ……あぁ、昔……引っ越しの時に業者のトラックが事故を起こしてしまってな……」

 

 妙に言葉に詰まっていたが、俺にはこの理由が嘘か真か証明する手立てはない。

 

「今じゃ、写真を撮る事もほとんどないからな……だからアルバムはこれだけだ」

 

「そうなんですね……」

 

 皆を納得させて千冬は2階へと上がっていく。自分の部屋に用があるのだろう。しばらくして戻ってきた千冬は少し華やかな私服姿に着替えていた。

 

「え、教官?」

 

「どこへ行かれるのですか?」

 

「せっかくの休暇だからな。今日は山田先生と食事のついでに呑みに出かけるんだ。言っておくが、お前らは連れて行かせられないからな」

 

 教師にとっては休み自体が貴重なのか、千冬はやけに嬉しそうだ。山田先生が酒飲む姿がイマイチ想像できない俺は、かなり失礼なヤツなんだと思う。

 

「ちゃんと帰れよ。ベッドが足りないからな」

 

「さっき押し入れで布団見つけたから大丈夫ですー」

 

 ゴンッ!

 

「あでッ!」

 

「この節操無しめ……教師の前で淫行を企むなッ。お前らもしっかり帰るんだぞ」

 

 千冬の拳骨を脳天に受け、悶絶する俺を無視して彼女はもう一度周りのヒロイン共に認識させると、玄関へと歩いていく。

 

「〜ッ……いってらっしゃい、千冬姉ぇ」

 

「あぁ、出る時は片付けていけよ」

 

 そう言って千冬は手だけ振ると、少し軽やかな足取りで出て行ってしまった。

 千冬が出て行って静かになった部屋で、鈴は両膝をつく。家の前から車の音が聞こえた。

 

「いいなぁ〜、先生は車で外食かぁ〜」

 

「一夏、あんた免許取んないの?」

 

「ハァ……取ってるヒマないだろ? まぁ、いつかは取り直…………取るつもりだけど」

 

「フフッ♪」

 

「っ? ラウラ笑った?」

 

「いや、何にも♪」

 

 素で答えてしまった瞬間をラウラに見られた。またあの教習を一から受け直しになるのかと思うと吐き気がするが、仕方がないだろう。

 

「もし車買ったら、僕達乗せてよ!」

 

「ずいぶん遠い夢な気がするが……大丈夫か?」

 

「心配いりませんわ。いざとなったら、車はわたくしが用意しますから!」

 

 セシリアから何の車を注文しようか妄想していたら、俺の腹の虫が鳴った。時計を確認したら、時間は夕方の5時を示していた。思えば、昼飯はここに来る途中で買ったハンバーガー1個しか食ってなかった。あとはセシリアのくれた菓子を少し摘んだだけだ。

 

「なんだ、腹減ったのか?」

 

「どうする。少し早いが、私達も食べに出かけるか?」

 

「えー、せっかく一夏の家に来れたのに、もう帰るの?」

 

「そろそろ飽きるだろ。ピザでも取るか?」

 

「飽きないわよ! う〜ん、ピザって気分でもないのよねぇ……」

 

「そうだ、このまま夕食作っちゃおうよ!」

 

「え?」

 

「そうだな。お前もしばらくここに残るなら、作り置きが欲しいだろ?」

 

 確かにここに数日は残るつもりだったから、作り置きがあるのは嬉しいと思ったが、今冷蔵庫には作るための材料すらない。

 

「おいおい、冷蔵庫空だぞ?」

 

「なら買いに行こうよ! みんなで!」

 

「まぁ……皆で作る物を合わせれば、費用も安く済むだろう」

 

「イチカ、何が食いたい?」

 

 なんだか家で作る事に決まってしまったようだが、リクエストの選択権は貰えたので、俺は正直に今1番食べたい物を注文した。

 

「んー……キムチ鍋」

 

「このクソ暑いってのに!?」

 

「わ、私は別に構わないが……材料はそこそこ必要だな」

 

「どんな料理かわからないけど……まかせてよ!」

 

「えぇ! わたくしも腕にヨリを入れ──

 

「おい、日が暮れない内に買いに行くぞ。で、何だその『キムチ鍋』という料理は?」

 

 そんなこんなで始まった夕食の準備だが、何事もなく買い物を終えて家に戻った俺達は、俺と箒と鈴の監督の下でキムチ鍋作りが始まった。

 鍋に6人前一気に詰め込められないので、具材の投入は数回に分ける。仕込みの担当は俺とラウラとシャル。スープの味付けと火加減は箒と鈴。その他の準備はセシリアにやらせた。

 段々と出来上がる辛味がかった真っ赤な鍋に、シャルとラウラとセシリアは冷や汗を流すも、実食では辛さに悶えながらも気に入ってくれた。辛さは控えめにしていたので、真夏日でも美味しく頂く事ができた。

 あぁ、あのイギリス人は台所には入れなかった。本人は最後まで「納得いきませんわー」と非難していたが、こちらもせっかくのキムチ鍋を闇鍋にされるのは箒達もたまらないのでな。

 

 

 

 ・・・☆・・・☆・・・

 

 

 

 食事を終えて、後片付けも終わらせ、いよいよやる事もなくなってきた所でシャルが話しかけてきた。テーブルの上にはお茶の入ったグラスが置いてあり、氷が揺れている。

 

「一夏……聞いてもいいかな? 束博士の事と……旅行の事……」

 

「そうでしたわ。元はといえばわたくし、そのためにあなたのもとへ伺うつもりでしたのよ」

 

 皆にポットでお茶を注いで回ってたセシリアが椅子に座ると、腕を組んで俺を見る。ちなみにポットは彼女の私物。昼にお茶した時も使用していた物だ。

 俺と千冬が旅行に行く事を、彼女達には前日ぐらいまで隠していた。何人かは茶封筒を渡された事も覚えており、中身を言及してきたが俺は答えなかった。束さんが俺のために用意してくれた招待券に誰かを巻き込むのは彼女の意思に反する気がしたし、危険な可能性もないわけではないのでついてこられても困るからだ。実際、あの大事件が起こった事を考えれば、誰もついてこさせなくて正解だった。

 

「一夏?」

 

 俺が迷っている中で、箒が不安そうに俺の顔を覗き込んでくる。いや、彼女だけじゃなく、ほかの全員が俺の方を見ていた。どうやら、ここに来た目的は最初から決まっていたようだ。

 

「……わかった。その代わり、約束してくれないか?」

 

 俺は大きく息を吐いて彼女達の視線を1人ずつ合わせていった。

 

「今から見た事、話した事は……絶対に口外するな。それだけだ……」

 

「……ッ」

 

「う、うん……!」

 

 セシリアとシャルの返事だけ聞いて俺は白式の片腕だけを展開すると、空間投影型のディスプレイから1番大きなモニターを起動させた。全員に見える様に、彼女達の方へ画面を向ける。俺には鏡になった画面が見える状態だ。

 

「本当はな……千冬姉に『持っていいけど、誰にも見せるな』って言われたけど……」

 

「教官が直々に……? それだけ深刻な事なのか?」

 

 ラウラがお茶のグラスを持ったまま、俺に問いかける。目の前のモニターには、記録された映像のファイルが並んでる。

 

「わからん。……でも、いいさ。もしかしたら……この先、お前らにも関わってくる事なんじゃないかって……思うからな……」

 

「あたし達にも……?」

 

「あぁ、たぶんな……」

 

 口元だけの笑みを鈴に向け、俺は映像を再生させた。

 ISを展開させている間は、目で見たものを記録する事ができる。俺はロケット基地に着いてから、ISを半展開させて見て回った物を全て録画していた。

 なぜ映像を没収されなかったのか。それは奴等との戦いで完膚なきまでに敗れた俺が、データの採取のために無理を言って千冬に許可を貰ったからだ。遅かれ早かれまた会う事にあるだろう、奴等に打ち勝つために。

 モニターには白式の映像の記録を始めた、南米のロケット基地に到着して、ユージンの案内で空母のドックへと向かう所から再生された。

 

「ここは……?」

 

「アメリカのロケット工場……と言う名の、軍事基地だ」

 

「何? ……場所は?」

 

「南米の太平洋側」

 

 箒とラウラの質問に俺は簡潔に答える。その間にも映像は進んでいく。

 

「ここに束博士は訪れていましたの?」

 

「あぁ」

 

 俺の答えにセシリアは更に顔をしかめてモニターを睨み続ける。束さんが此処に来ていた理由は、すぐわかる。

 

「うわぁ……」

 

「大きい……」

 

「これは原子力空母だな」

 

 映像はドックの中に案内されてステルス空母を見上げている所だった。

 そこから先はユージンの話が延々と続いていく。空母の話、ISの話、レールガンの話、そして束さんがなんでこのロケット工場に来ていたのか。

 

「宇宙か……姉さん……」

 

「箒。お前なら、何かわかるか?」

 

「……昔から宇宙の話が好きだったが……なんでそんなに好きなのか、聞いた事はなかったな……」

 

 箒は腕を組んで考えてみるが、束さんの目的を解明する事はできなかった。

 ユージンがどこかに行ってしまって、ようやく映像に登場したナターシャが映った瞬間、真っ先にシャルが驚いた。

 

「あっ、この人って……っ!」

 

「知ってるのか?」

 

「え? あ……うぅ、うん! 福音事件の後、旅館に来てたよ!」

 

「だからか……」

 

 ナターシャは、会うのは初めてではないと言っていたのは、この時俺の気がつかないどこかで面識があったからだろう。今更、細かい事を聞いても仕方ないので、この話はこのままにして映像を進ませる。

 

「とにかく、これで束博士の思惑が少し明らかになりましたわ」

 

「いや、問題はここからだ……」

 

「え?」

 

 セシリアの気の抜けた声が聞こえた途端、画面では大爆発が起こる。

 

「え!?」

 

「な、なに!? 何が起こったの!?」

 

 5人全員が突然の出来事についていけず、パニックになっている中で映像は千冬とナターシャを助け、ドックの外へと飛び出す。そこにいるのは2体のIS。

 俺の視界の映像が金のISと青い蝶のISを捉えた瞬間、セシリアから声にならない呼吸が漏れた。

 

「……ッ!!!?」

 

「え?」

 

「っ、セシリア?」

 

 皆がすぐ彼女の様子がおかしい事に気づいて、俺はすぐに映像を止めた。正体不明の青いISがハッキリと映し出された所で。

 

「セシリア…………何か知ってるんだな?」

 

「………………」

 

「俺もこのISを見た時、真っ先にお前のブルー・ティアーズを思い出した。頼むセシリア、何か知っているなら教えてくれ。コイツは、いったい何だ……!?」

 

 暫しの無言。彼女は画面を眺めながらゆっくりと呟き始める。

 

「……あれは『サイレント・ゼフィルス』…………わたくしのブルー・ティアーズと同じ、BT兵器を備えた第三世代型ISの2号機ですわ……」

 

「え!?」

 

「何ッ!?」

 

「お前のが1号機?」

 

 周りが驚き、冷静に問いかける俺に、セシリアは静かにうなずく。俺は更に質問を続ける。

 

「コイツらは何者なんだ? 何でお前の国のISを持ってる?」

 

「……奴等の名は《亡国機業(ファントム・タスク)》 わたくしの国からゼフィルスを奪った、国際テロ組織のひとつですわ……!」

 

「「「亡国機業……?」」」

 

「亡国機業……!」

 

「聞いた事があるぞ。第二次世界大戦以後、冷戦時代の西側と東側の軍部によって結成された、影の犯罪組織だ」

 

 全く聞いた事のない組織名に俺、箒、鈴は言葉をそのままオウム返しにし、シャルは聞いた事があるのか組織名を口にして驚き、ラウラは冷静に説明をする。

 映像を再生させた画面では、サイレント・ゼフィルスのBTモドキ……いや、正真正銘のBTによるオールレンジ攻撃が始まる。

 

「ハァ!? ちょッ、ちょっと、ちょっと、ちょっとッ!!?」

 

「凄いBTの動きだよコレ……」

 

「セシリアの比にならんな……!」

 

 ラウラにハッキリと断言されてショックを受けたセシリアだったが、その映像を見ては納得せざるをえない様子だった。

 

「金色のISも只者ではないみたいだけど……」

 

「立場はこいつの方が上なのか?」

 

 話は纏まらず、ヤツ等が逃げる所まで映像は流れて、そしてそこで映像は終わった。

 俺は、とにかく今判明した亡国機業という組織について知っている事を、誰彼構わず全てこの場で話してもらう事にした。

 

 

 

「ヤツらは……『亡国機業(ファントム・タスク)』って言ったな。ほかにわかっている事はないのか?」

 

「昔……彼等の犯行声明を調べた事がありますわ。確か……争いによる新たな秩序を創り上げるとか……」

 

「要は、戦争によって世界経済をブン回そうとしている、イカれた連中だ」

 

「だから『機業』ってか? いいセンスだな……」

 

「うん。まだハッキリした目的はわからないけど……各国からISを盗んで、世界中の先進国でテロ行為を繰り返してる……」

 

「なっ、なんでそんな組織が一夏を狙うのだ!?」

 

「奴らは間違いなくISに目を付けたのだろう……新しい兵器としてな」

 

「それか、俺の存在が邪魔なのか」

 

「とんでもない組織に目付けられちゃったわね……」

 

「たぶん、僕達も危ないのかもしれないよ……」

 

「あぁ。操縦者の腕が素人な割に、ISの数だけは揃ってる学園は格好の的だ」

 

「すでに世界の何機かのISのコアが彼等の手に渡っていると聞きます。事実、わたくし達の『サイレント・ゼフィルス』は奴等に奪われましたわ……」

 

「ほかの国は……? 中国、フランス、ドイツ?」

 

「私は聞いた事がないな……知らされていないだけかもしれないが……」

 

「あたしも……それに、盗まれてもそうそう誰かにバラすもんじゃないわ。もし戦争でも起こったら、戦力の要なのよコイツは」

 

「あ〜、僕の会社は何度か襲撃されてるよ……」

 

「「「え!?」」」

 

「「何!?」」

 

「コアを盗まれる事はなかったけど、会社自体の被害がちょっと酷くってね……」

 

「まさか……」

 

「う、ううん! 僕がこの学園に来たのとは無関係だよ!」

 

「そ、そうか……」

 

「だが、奴等のやってる事はテロだろう? 国連が協力してなんとかできないのか?」

 

「箒、奴らは実体の無い組織だ。どこに本部があるのかも、構成員がどこにいるのかも、わかっていない」

 

「それに、組織が経済界に根付いていて、捕まえたら各国の世界経済が破城しかねないから、捕まえる事もできない……なんて噂もあるぐらいなんだ」

 

「そんな……」

 

「じゃあどうすればいいのよ!?」

 

「世界経済なんて知ったこっちゃない……それに奴等の目的はなんとなくわかる……」

 

「大方、ISを兵器に転換する事で世界のパワーバランスを壊すつもりだ。そのために奴等は世界中のISを奪いに回ってるのだろう?」

 

「なら……絶対にこの学園も標的にされてるかもしれません…………ですが、ただでやられるつもりはありませんわね?」

 

「もちろんだよ!」

 

「上等よ! 返り討ちにしてやるわ!」

 

「IS学園を襲ってきた者を捕まえて、裏を探るしかないか……一夏。守ってくれるよな?」

 

「あぁ……」

 

 

 

 今更な事を言うが、『インフィニット・ストラトス』という物語は最終回を迎える場所だった臨海学校の日が過ぎても終わる事はなかった。何事も世界の変異が起こる事なく、いつもの日常が当たり前の様に過ぎていくだけだった。これで俺は元の世界へ戻れるかもしれない可能性がひとつ減ったワケになる。

 しかも、今度はこんな奴等まで現れたって事は、この『インフィニット・ストラトス』って物語はまだ収束する気がないらしい。もしかしたら元の世界では本かアニメかで続きが見れたのかもしれないが、この状況ではどうにもならない。

 この先、俺にどんな運命が待ち受けているのかは想像もつかない。だが、IS学園前期よりも更なる波乱が待っている事は、あの亡国機業の奴等を見れば想像に難くない。

 

 

 

 一度乗りかかった船だ。この『インフィニット・ストラトス』という物語の最後を見届けてやる。

 

 

 

「……ところでさぁ、僕達これからどうしよっか?」

 

「あら? も、もうこんな時間ですのっ!?」

 

「なんだ、すっかり遅くなってしまったな……」

 

 セシリアが自分の腕時計を見て驚いている。シャルや箒の言う通り、時計の針は8時を過ぎていた。交通機関はまだ動いているだろうが、今から彼女達が学園に向けて出発したら、到着するのは早くても10時過ぎになってしまうだろう。そこからシャワーや何やらしていたらもう寝る時間だ。最悪、消灯に間に合わないかもしれない。

 だからなんだと言って別に今から帰してもいいのだが、俺はなんとなく理解していた。俺を見るシャルとラウラの眼が、とびきり熱のこもった欲望の瞳になって輝いている事に。鈴と箒の視線が何かを期待しているかのような眼でソワソワしている事に。セシリアの台詞がなんとなくわざとらしい事に。

 

「どうするって、そりゃそろそろ帰るわよ……帰るけど……」

 

「イチカ。お前は女性だけを夜道へ帰らせる程、野暮な男ではないだろう」

 

 他のヒロイン共もまるで同感だと言いたいかのように頷いている。想像では俺に最寄りまで送ってほしいらしいが、そんな面倒な事をするつもりはなかった。俺の台詞はもう決まっていた。

 

「泊まってく?」

 

 そのひと言に、彼女達の言葉が一斉に止まり、視線が集中する。

 

「い、一夏!? おおおお前ッ、何を言っているッ!?」

 

「ど、どういう……意味ですの……?」

 

「あんた、バレたら怒られるじゃ済まないわよ?」

 

「僕……、私は……いいかな……」

 

「シャ、シャルロット!?」

 

 ピロリーン♪

 

 急に気の抜けた音がリビングに響き渡る。初めて聞く音だったが、これがどこから鳴って、何の音かも俺はわかっていた。

 

「誰だ風呂沸かしたのは?」

 

「私だ」

 

 俺の問いかけに、臆面もなく答えたのはラウラだった。泊まるかどうかももはや最初から決まっていたかの様に、彼女は不敵に笑ってみせる。

 

「明日は一夏も私達も一日中暇だったからな。安心しろ、着替えも持ってきたぞ」

 

 そう言って彼女はドヤ顔で自分のバッグの中から洗面用具と下着を取り出す。やけに下着のデザインがアダルトだが、シャルが選んだのだろうか。それとも部下の入れ知恵か。

 

「いや、どこが安心なのよ! まぁ……あたしも持ってきたけど……」

 

「僕も持ってるよ。こうなると思ったしね♪」

 

「みなさん用意周到でため息が出ますわ……あぁ、わたくしも持ってきてましてよ」

 

 4人がもう泊まる用意を嬉しそうに見せつけている中、ただひとり取り残された箒が激しく狼狽する。

 

「おぉおい! あの狭い風呂に全員で入るつもりか!?」

 

 どうやら彼女も泊まるのは前提どころか、風呂も入るつもりらしい。素直になれないのが彼女の可愛らしい所だが、ほかに4人も爆走する相手がいては、その受け身の体勢は意味をなさない。

 シャルは意地悪っぽく、箒に手を振る。

 

「じゃあ箒は待っててね♪」

 

「私達はジックリと楽しむとしよう♪」

 

 まるで勝ち誇っているかの様な余裕の表情で、過激な発言をして彼女を見るラウラ。ほんの数週間前まで自慰も絶頂も知らなかった女が何を言っているのかと言いたくなった。

 

「ふざけるなぁ! わ、私は……!」

 

「ふーん、箒は一夏とお風呂入りたくないの?

 

「そっ、それっ、それはッ! はわっ、わ、だな……ッ!」

 

 騒ぐ箒を尻目に、セシリアは疑問を覚えた顔でこちらを見る。

 

「そんなに狭いバスルームですの?」

 

「そーよ、日本のお風呂って狭いんだから。6人で入ったらギュウギュウ詰めよ」

 

 彼女の質問に答えた鈴は、まるで「先に入れ」と言わんばかりの目力で俺の方を睨みつけてくる。仕方なく従おうと椅子から立とうとしたところを、横からシャルが寄り添って俺の腕を引いてくる。ボリュームのある肉感的な胸が腕や背中に当たり、心臓の鼓動が強くなるのを感じる。

 更に彼女は耳元で先程の言葉を囁いた。

 

「ふふっ、ぎゅうぎゅう詰めだって♪」

 

「シャ、シャルロットっ!」

 

「一夏、私達の事、綺麗に洗ってくれる?」

 

「洗いっこ、というモノか。仲睦まじい者同士で行う愛情表現だと、部下から聞いた事がある。私も一度、やってみたかったのだ」

 

「あ、あらッ、洗いっ……!」

 

「いっ、一夏と……!?」

 

「っ! お互いに洗うのはどういったものかはわかりませんが……狭いバスルームには興味ありますわ」

 

 ラウラがまた部下からの変な情報を話し、周りの彼女達が様々な反応を見せている隙に、シャルロットは絡めた腕で手を繋いだ。

 

「じゃ、一緒に入ろっか♡」

 

「待てッ、私が先に入る……!」

 

 その反対側からは箒が俺に寄り添い、シャルと同じように腕を絡ませて手を繋ぐ。シャルよりも大きな胸が無防備に俺に押し当てられるが、その手は緊張しているのか震えている。

 少しだけ俺がしっかり手を握り返すと、彼女は少しだけ表情を緩めたが、その幸せそうな空間はラウラの言葉に妨害される。

 

「こうゆうのは後から入った方が官能的だと、私の部下が言っていたぞ?」

 

「そ、そうなのか? な、なら……」

 

「そっか。じゃあ一夏っ……後からみんなで行くね♪」

 

 シャルと箒はほぼ同時に腕を離し、自由にされた俺は情欲的な視線を向けてくる5人を見渡して、風呂に入る覚悟を決めた。

 

「さ、さ先入ってなさいよ!」

 

「仕方ありませんわね……髪の毛ぐらいは洗ってあげますわ……っ!」

 

 ギャーギャーワーワー、先ほどまで亡国機業の事を真面目に考えていた静かな空間が、一瞬にして騒がしくも暖かみのある空気になり、これから風呂場で巻き起こる情事を想像しながら、ヒロイン達の緊張や期待の入り混じった声で背中を押され、俺は自らの足で風呂場へと向かった。

 その日、彼女達は俺の家に泊まった。1時間以上に及んだお風呂を終え、俺の寝室で眠ろうとしたのだが、俺のベッドには6人も乗り切らないので、押し入れから見つけた布団とベッドの毛布を床に敷き詰めて、そこで全員で転がって寝た。それでも狭かったが、皆それに不満を漏らす事はなかった。

 

 願わくば、彼女達の最期も幸福である事を願って、俺は自分に尽くしてくれる彼女達と交わりながら、この夏1番の思い出の日を眠った。




 『織斑イチカの収束』をご覧になっていただきまことにありごとうございます。
 これにてアニメの第一期編は終了です。
 次回の第二期編はまだ完成されておりませんので、しばらくは未完とさせていただきます。
 第二期編が完成次第、連載開始となりますのでそれまで、年単位で首を長くして待っていただけると光栄です。

 また、活動報告の方にアイデアの募集も行っておりますので、そちらも是非ご利用頂き協力して頂けると幸いです。

 前作『受難』をご覧になってない方は、そちらの方も読んで頂けたら、そちらの感想も募集しています。

 ここまで読んでいただき、本当にありがとうございました。

物語の裏側である R-18 な話を読みたいですか?

  • はい
  • いいえ
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。