織斑イチカの収束   作:monmo

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第八話

 (いきなりラウラ視点)

 

 

 

 私はラウラ・ボーデヴィッヒ。ドイツ軍IS部隊『シュヴァルツェ・ハーゼ』の隊長にして、国家代表候補生。それ以外に名乗る肩書きはない。

 私がこのIS学園を訪れたのはほかでもない。我らの教官こと織斑 千冬様を御国ドイツへと呼び戻すべく、遥々海を越えてここまでやって来たのだ。

 午前6時ぐらいだろうか、時差ボケはある程度は治った。早朝に学園へと到着し、事務室と校長室で手続きを終えた私は事務員からここの学園の説明を聞く。隣のもう一人の編入する者と一緒に。

 私は隣に立つ者を睨んだ。話を聞く限り、『彼』は2人目の男性IS操縦者らしい。フランスのIS会社の御子息、それも専用機持ちだそうだ。顔は男の様には見えないが、地毛の金髪を首の後ろ辺りで大雑把に縛っている。育ちも良いのか、立ち振る舞いはどこか手馴れていた。

 なぜこのタイミングで2人目の男性IS操縦者が現れたのかはわからないが、私にとっては関係のない事だ。だが、私と同時期にここへ来たという事は、御国と同じくフランスは何か企んでいる可能性が高い。何を考えているのかは知らないが、もしも私の邪魔をすると言うのなら、その時は私の力を見せるまでだ。

 

 説明を聴き終えた私は早く教官に会いたかったのだが、そこまでの自由は許されなかった。仕方なく、私はこれから過ごすこのIS学園の中を見て回ることにした。

 さすが、各国のIS操縦者の卵や代表候補が集まる施設なだけあってアリーナや研究施設、資料等などの物は揃っている。あとはここに暮らすIS乗りがどれほどのものなのか……

 そんな事を考えながら廊下を突き進むと、視界の先に一人の女子がいる。此処、IS学園の制服を着た水色の髪のその女子は、廊下に面している扉の中の一室を覗いていた。プレートを見る限り、どうやらそこはISの整備室のようだ。

 私は歩を緩めずその者と部屋に近づくと、さすがに向こうも私に気づいてこちらを見た。眼鏡越しの赤紫色の瞳が驚いている様だ。まぁ、眼帯を付けた女などそうそう見ないだろうしな。

 

「………………」

 

「………………」

 

 互いに言葉を発さず私はその者の目の前まで来ると、先ほどまで彼女が覗いていた先、無機質な微光の灯った部屋の中に顔を向けた。

 

 そこを見た時、私の瞳が嫌でも見開かれたのだ。

 

 数枚の空間モニターに囲まれた中央に私の見た事のないISが鎮座させられている。そしてその手前にはモニターの映像を食い入るように見ながら、空間端末を叩き続ける『男』がいた。

 そう……男だ。女にしか扱えないISの学園に存在する、1人目の男。顔も見たことなかったが、ひと目で理解した。千冬教官の弟、『織斑 一夏』がそこにいたのだ。

 私は彼の方へと歩み寄った。女が止めようとしてきたが、目も合わせずに手で払う。軍用ブーツの音が金属質の部屋の中に反響するが、彼は気づいていないのか私の方を見向きしていない。

 彼は私服姿だった。パーカーに半袖のズボンをだらしなく着崩して、キャスター付きの椅子の上に立て肘で座り込み、口元には火の付いていないタバコを咥えていた。

 私は彼に手の届く距離まで近づく。彼はまだ、私に気づいていなかった。

 

「おい」

 

「ダメージの振れ幅が大き過ぎる……」

 

「は?」

 

 こちらの呼びかけに突拍子のない言葉を返されて困惑したが、彼の目の前に投影されている空間モニターに、私は注目した。

 モニターでは2機のISが戦闘を繰り広げている。一機はデータで見た事のある赤紫色のIS。中国製第三世代型IS『甲龍』 イメージ・インターフェースによる装備は砲弾と砲身が視覚化できない『龍砲』だが……操縦者が原因か、攻撃は直線的すぎて回避は容易。片腹が痛くなりそうだ。

 もう一機はデータで見た事のないISだった。鉛色をした金属質の装甲は兵器としての印象が強いが、手にしている武装は日本刀の形をした近接ブレードが一本のみ。教官でもなければ、このご時世に真似をする様な装備ではない。

 しかし、モニターに映されるそのISの戦いぶりを見ると、対ISでの戦闘訓練を経験している私からでも眼を見張るものがあった。常用手段の戦術とは言えないが、その戦法は固定概念に縛られていない大胆かつ奇抜であり、操縦技術の良し悪しを抜いたとしても評価に値した。相手の特性をその場で理解してから作戦を構築したのなら大したものである。

 

「今の彼は、何も聞かない……」

 

 私がモニターの戦闘風景に見とれている所へ、さっきの女が私に話してきた。振り返って女の顔を見て、視線を織斑 一夏に戻す。よく見ると彼はヘッドフォンを付けてISの戦闘を爆音で鑑賞しながら、算出されているデータをボードで整理している。それもずいぶんと慣れた動作で。机のそばに置かれた携帯灰皿の中には、吸い殻が入りきらないほど押し込まれていた。

 

「私も同じ……集中してる時は……何にも見えなくなっちゃうから……」

 

 後ろで女が何か言っていたが、今の私には興味なかった。

 ひとつ知り得た事として、教官の顔に泥を塗った愚弟とはもっと情けないイメージを抱いていた私だったが、思っていたよりも腑抜けた男ではないようだ。……これは戦うのが楽しみになってきた。

 最初は引っ叩いてでもやろうかと思ったが、その気もなくなった私は織斑 一夏に背を向けると、目の前にいた女を肩であしらい、部屋を後にした。そして何事もなかったかのように学園の探索を再開したのだった。

 

 

 

 ・・・☆・・・☆・・・

 

 

 

 制服が夏服になった。

 つまり今の季節は夏真っ只中だ。ブレザーがなくなって、半袖のシャツに薄生地のズボンに衣替えした俺の制服はISスーツ並みではないが、風通しがいい。

 ヒロイン共も夏服になった。箒はブレザーを取ってワイシャツ姿になったが、それ以外は変わっていない。セシリアは生地の薄いドレスの様なこれまたオーダメイドの制服。鈴は元々露出気味だったのにもかかわらず、袖がなくなってタンクトップみたいになったワイシャツを着ている。コレ、横から乳見え放題だぞ。お前の場合、見るほどの乳もないからいいけど……。

 そんなこんなで露出度の高くなったクラスメイト達を眺めながら、時間は朝のSHRを迎えた。チャイムと同時にタイミングよく教室に入ってきた山田先生は、ドレスのスカートが短くなったおかげで健康的な生足を披露してくれた。その後ろからやってきた千冬もスーツのブレザーがなくなって半袖のワイシャツ。タイトスカートとストッキングは変わらなかった。残念。

 

「みなさーん、今日は編入生がいます! それも2人です!」

 

「は?」

 

「「「「「えええええっ!!?」」」」」

 

 山田先生が教壇の前で突然告げたセリフに、俺の気の抜けた声から一呼吸遅れてクラスメイト全員の声が教室に響き渡る。そりゃそうだ、こんな時期に転校生が『2人』 しかも鈴が来てからまだひと月ぐらいしか経ってないのだから。

 俺が記憶を整理しようとする前に教室の扉が開かれ、二人の女子が入ってきた。

 

「失礼します」

 

「………」

 

 二人の女子は教卓の横に立っている千冬の隣へと並んだ。

 一人は教室に入って来るのと同時に挨拶をした女子。このクソ暑い中で上下男物の制服でしかもブレザーを着てるのはどうかと思ったが、それが今の彼女の姿なのだろう。金髪のショートヘアを後ろで雑破に結んでいるが、まごう事なき女。うん、絶対に女。

 もう一人は未だに無言を貫いている女子。鈴よりちっちゃい身長に不健康に感じるくらいの白い肌と、光を反射する長い銀髪。なのに着ている制服は軍隊の制服の様な堅苦しいデザインで、履いているのは黒のブーツ。おまけに顔の左目には真っ黒な眼帯が付けられていた。

 あまりにもバラバラすぎる二人の見てくれに、クラスメイトはどこからツッコめばいいのかわからないのだろう、言葉が出せずにいる。俺も統一性が感じられなさすぎる二人を見て、変な笑いが出そうになった。

 

「で、ではデュノアくん……自己紹介をお願いします……」

 

「はい」

 

 クラスメイトの妙な空気を感じ取ったのか山田先生は若干たじろいでいたが、『くん』付けされた女子は勇敢にも教壇の前に歩いて止まった。

 

「シャルル・デュノアと言います。フランスから来ました。この国では不慣れな事が多いかもしれませんが、よろしくお願いします」

 

 丁寧なお辞儀で自己紹介を締めくくった『シャルロット』に対し、クラスメイトの一人が恐る恐る彼女に話しかける。

 

「お、男……?」

 

「はい、こちらに僕と同じ境遇の方がいると聞いて本国より編入を」

 

 シャルロットの言葉はクラスメイトの歓声でかき消された。

 

「「「「「キャーーーっ!!!!」」」」」

 

「男子! 2人目の男子!」

 

「しかもうちのクラス!!」

 

「美形! 守ってあげたくなる系の!」

 

「地球に産まれてよかったー!!」

 

 思い想いの叫び声をあげてはしゃぎ出すクラスメイトを前にしてシャルロットはというと、一体なんでこんなに騒いでいるのかわからないと言っている様なキョトンとした顔でその光景を見ていた。

 そんなシャルロットの様子を両耳を塞いで観察していたが、唐突に彼女の碧眼と目が合い、俺は咄嗟に手でも振ろうとしたが、その前に彼女が視線を逸らして最初の立ち位置へと戻って行ってしまった。

 

「あー、静かにしろ!」

 

「み、皆さんお静かに! まだ自己紹介は終わってませんから!」

 

 教師二人の喝で教室が静かになり、もう一人の女子の自己紹介へと移る。だが、銀髪で眼帯の女は千冬の隣に立ったまま、話す気配どころか動く気も感じられない。

 

「………………」

 

「……ラウラ、挨拶をしろ」

 

「はい、教官」

 

 千冬の声にも短説に答えたが、直後に千冬の目がラウラと呼んだ眼帯の少女を睨む。

 

「ここではそう呼ぶな。もう私は教官ではないし、ここではお前も一般の生徒だ。私の事は織斑先生と呼べ」

 

「了解しました」

 

 その受け答えにも短説に、若干早口にも聞こえる口調で千冬に返事をした眼帯少女は堅苦しい姿勢を維持したまま歩くと、綺麗な左向け止まれを見せて停止する。その有様に後ろで千冬が片手で頭を押さえていた。

 

「ラウラ・ボーデヴィッヒだ」

 

「「「「「………………」」」」」

 

 ただ、ひと言。目の前の女は自分の名前だけ紹介して口を閉じた。無言の空間が教室を訪れる。

 

「ほ、ほかに何か……」

 

「以上」

 

 山田先生の言葉を遮る様に紹介を終わらせたラウラは、右眼だけを動かしてクラスを見渡す。その時、丁度真ん中まできた真っ赤な瞳に俺の視界が合わさった。

 向こうは教室に入ってきた時からこちらに気がついている。どんな挙動があっても対応できる様に、俺は目の前にいるラウラに全神経を集中していた。ところが……

 

 スッ……

 

 ラウラは口元だけを僅かに動かして笑うと、また堅苦しい姿勢を維持しながらシャルロットの隣へと戻っていった。

 

 

 

 アレ……?

 

 

 

 平手打ちがこない。

 これだけの文だとただのM男みたいだが、絶対に彼女がやると思っていた平手打ちが飛んでこなかった。

 おかしい。俺は今に至るまでラウラと関わっていないのだから、彼女の行動が変わるはずないのだ。それなのに、彼女は叩かなかったのだ。俺を。

 

 ……本当に何故だ?

 

 俺がそんな事を考えている間にもHRは進み、後半は何を話していたのかは頭に入ってこなかった。そしてラウラの謎も、納得する様な原因は出てこなかった。

 

「では、HRを終わる。各人はすぐに着替えて第二グラウンドに集合しろ。今日は2組と合同でISの模擬戦を行う。解散!」

 

 千冬の話に急かされて、クラスメイトは荷物を漁ってISスーツを取り出す。中にはもう着替えようとして、ワイシャツのボタンを外そうとしている者もいる。

 俺としてはここで着替えても良いのだが、千冬はもちろん箒やセシリアが許さないだろう。なので校舎の更衣室を使うべく、俺は荷物からISスーツを引っ張り出して席を立つ。そのタイミングを見計らったかの様に千冬が俺を呼び止めた。

 

「織斑、デュノアを案内してやれ」

 

「うい。よしシャルル、着替え持て」

 

 言われる事はなんとなくわかっていた。すぐ俺はシャルロットを呼び、自分は早足で教室を出る。

 

「えっ? あっ、ちょっと!」

 

「はよ来い、置いてくぞ?」

 

 扉から顔を出して俺はシャルロットを見る。彼女ら教室の後ろに置いてあった荷物からISスーツを取り出し、後ろのドアから廊下へと出てきた。俺は手でついてくる様に指示を出し、早歩きで歩きだす。その後ろに慌てたシャルロットがついてきた。

 

「いつもこんな忙しないの?」

 

「あぁ、早く慣れろよ」

 

 会話こそ長くは続かないが、シャルロットの印象は悪くない。だが、今後は彼女の関係をどうするべきか……。

 『シャルル・デュノア』 本名『シャルロット・デュノア』 パッと見なら美少年にも見えなくはないのだが、彼女は正真正銘の『女』である。俺こと一夏に接触して白式のデータを奪いに来たとかそんな命令を、ラファール作ってる『デュノア社』の社長……実の親父から受けて渋々この学園へとやってきた。そんな感じだった気がする。

 とにかく、彼女にはややこしい事が多いのだ。ひとまず落ち着いて考えられる時間帯になるのを待とう。

 ひとまず更衣室への移動に専念したが、俺はグラウンドの集合に遅れて千冬に折檻をくらった。シャルロットの情報を知った他の学年やクラスの女共が、ワラワラとやってきて鬼ごっことなってしまい、振り切るのにえらい時間をかけてしまったからだ。

 

 

 

 ・・・☆・・・☆・・・

 

 

 

 時間は大きくすっ跳んで、昼休み。俺は校舎の屋上で箒、鈴、セシリア、シャルロットの4人と駄弁っていた。

 最初は箒と二人で彼女の手作り弁当を食べていた。なんでもここ最近の料理の特訓の成果を披露したかったのだろう。中華ではなかったが普通に美味かった。そこへ、割り込んでくるかの様に鈴が弁当を持って現れ、お互いに小競り合いを起こしているのを眺めながら俺は二人分の弁当を完食する事となった。

 その数分後、食堂で食事を終えて屋上へ休憩に訪れたセシリアと、彼女に連れられて現れたシャルロットが合流し、今に至るのである。

 駄弁る話の内容は数時間前の授業の出来事。授業内容は、ISの運動訓練。それも、ISの飛行運動を最大限まで活かしているPICとハイパーセンサー及びメインブースターを完全に切った状態での訓練だった。

 『PIC』とは『パッシブ・イナーシャル・キャンセラー』の略であり、重力慣性システムである。こいつを操作する事であのクソ重たいISは重力と慣性を操り、各種ブースターで飛行する事ができる。PICはISのコアに組み込まれているシステムの一部であり、これも詳細はISコアと同じくほぼブラックボックスとなっている。

 ハイパーセンサーはISの武器のロックオンシステム、ブースター出力の微調整、各種エネルギーの分配、その他様々な機能を備えたコンピューターである。ISの運動性能や機体バランスもここで調整されている。こちらもISコアの一部のため、詳細はブラックボックスである。

 そのため、このふたつの機能を外してしまうとISは地面を歩く事も困難な鉄の塊となる。こうなるとISの中にある手足のレバーとペダル、各種スイッチとマニュアルコントロールによるコンピューターの調整で操縦する事になるものの、まともに動かすのは至難の技。常時飛行して移動するISの操縦者が一日一夕でなんとかなるものではないと言うよりは、そんな方法で移動など想定されていないと言った方が良いのかもしれない。

 では、なぜそんな面倒極まりない訓練を行うのかと言うと、実はISのPICやハイパーセンサーはオートコンピューターに任せっきりにするよりもマニュアルと併用する方が各種ブースターの出力や噴出方向、シールドエネルギーの減衰箇所の再生など、細かな微調整に恵まれる。つまりは、ISをより効率的に操縦する事ができるのだ。戦闘中にそれができるかどうかはともかくとしてだが。

 操縦をミスっても咄嗟にオートコンピューターは使わせない。千冬はそのためにISのPICとハイパーセンサーを断絶された素のISを操縦させたのだ。クラスメイト達がIS諸共ボロボロになったのは言うまでもない。

 

「それにしても、一夏って凄いね! ISの動き、まるで人間みたいだったよ!」

 

 そんな話を人一倍目を輝かせながら話すのはシャルロットだった。

 俺は白式のマニュアルコントロールを人一倍、運動機能に注いでいる。理由はもちろん近接戦闘しか攻撃手段のない白式を効率的に動かすには、必然的に動作はIS自体の動きに力が入るのだ。

 近接攻撃は射撃と違って動作は大きく、相手との距離も近い。したがって近接格闘の動きをオートでパターン化していると、素人でも予測がつくほど攻撃動作が単純になってしまうのだ。

 授業中、周りがありのままのISの操作に慣れずあたふたしている中、俺は白式の運動機能と補助スラスターで軽快に走ってみたり側転をキメて見せたりとかなり注目を集めていた。周りは凄い凄いとはやし立ててくれたが、俺にはこれぐらいの事ができないとヒロインに勝つことはおろか明日を生き延びることすら危ういのだ。一次移行をしていない俺の白式で他のISに勝つには、相手の弱点を見つける洞察力と、それを確実に突くだけの操縦技術が必要だった。

 

「まぁ……一応、訓練はしてるからな……」

 

「山田先生も一夏の事、すっごく褒めてたよ! たった数ヶ月であそこまで動かしちゃうなんて……織斑先生以上のIS操縦の才能がある、って!」

 

「ふんっ、嬉しそうにしちゃって! だいたいあんな操縦、実戦で使えるワケないじゃない!」

 

 嬉しそうに話すシャルロットの口から山田先生の言葉が出てきた時、面白くなさそうに鼻を尖らせて悪態を突いたのは鈴だった。

 彼女とセシリアは訓練を始める前に山田先生と2対1での戦闘を実施して見せたのだ。結果は知っての通り、チームワークのまるでなっていない二人がお互いに足を引っ張り合い、悠々と山田先生が圧勝するという一方的な彼女の勝利で終わった。

 だからだろう。自分達を負かし、一夏を褒める彼女が気にくわないのだ。

 

「それにしても……山田先生の射撃技術はかなりのものでしたわ。元代表候補生とおっしゃってましたけど……どうしてお辞めになってしまったのでしょう?」

 

「そりゃあ……日本に千冬姉さんみたいなのがいたら、あたしだって諦めたくなるわよ……」

 

「そ、そうですわね……」

 

 セシリアは自身の敗北を素直に受け止め、山田先生の言葉に疑問を抱いていた。が、鈴にあっさりと論されてしまった。

 セシリアの言った通り、山田先生のISの技術はかなりのものだった。授業開始にしょっぱなから俺に向かって墜落してきたのを除いても、元代表候補の鱗片が窺える。教師になった経緯はわからないが、なぜか俺には彼女が国家代表よりも、教壇の上に立っている事に安心感を覚えていた。詳しい事はいつか本人に聞いてみるか。

 

「あ〜箒、午後の授業ってなんだったけ?」

 

「ん、午後からはまたISの操縦訓練だ。ただし、今度はPICもハイパーセンサーも万全の状態で動かすぞ」

 

「そ、そうだったっけ?」

 

「4時限目の最後に織斑先生、おっしゃってましたわよ?」

 

「ハァ〜、あんたまたどうせ寝てたんでしょ?」

 

 セシリアと鈴が呆れる隣でシャルロットはため息を吐いた。

 

「そっか……また着替えなきゃいけないのか……」

 

「ん、デュノアはISスーツを脱いだのか?」

 

 箒の質問にシャルロットはコクリと頷き、制服の襟を引っ張って風を入れる。

 

「う、うん……汗がベタついてね…………みんなはガマンしてるの?」

 

「私は訓練の後は着替えている。ただ、そうやっているのはかなり少数派らしいが……」

 

「でしょうね、ISスーツって着るのも脱ぐのもメンドくさいから、大抵の子は着たまんまで座学とか受けてるわよ。でも専用機持ちなら……セシリアわかるでしょ? ふふっ」

 

「そうですわね♪」

 

 珍しく意気投合した様に目を合わせて含み笑いを見せる専用機持ちの代表候補生二名にシャルロットは察した様に愛想笑い、理解できない箒は苛立ちを抑えきれずに二人を睨んだ。

 

「あぁ〜、あはは……そうだね……」

 

「なんだ、いったいなんだと言うのだ……?」

 

 俺は箒を宥めつつ、彼女の疑問を取り除いてやった。

 

「ISの展開プログラムにISスーツもインストールしとけば、制服からでも一気にISスーツからのISって着れんだろ?」

 

「そ、そうなのか?」

 

「あぁ、こんな風に」

 

 そう言って俺が待機形態の白式に手を添えると、たちまち身体中が光に包まれて制服の代わりにISスーツを纏った自分の姿が現れる。

 

「「「「え」」!」!?」

 

 とはいえ洗濯を勝手にしてくれるわけではないので、毎日インストールを解除して洗う必要がある。そして再インストールするには自分で一回着る所要があるが。

 

「なんだよ……『え』って……」

 

 美女4人の視線が集中し、服装を元の制服に戻した俺は椅子ごと後ろに下がった。

 

「いやだって……ISスーツはまだしも、普通の服の収縮と展開ってかなり難しいのに……」

 

「わたくしが取得するのに半年かかりましたのよ……部分展開だって手を焼きましたのに……」

 

 彼女達の影で被服の展開のためだけにどれだけの努力があったのかはわからない。でも、少なくとも俺にはコレがそんなに苦労する事とは思えなかった。部分展開も然り。俺は四六時中、スキあらばISを展開していた。本来なら処罰される、訓練以外でのIS展開など何度犯したか忘れるほどに。そうしないと整備したISが身体に馴染まない気がしたからだ。

 それに被服をインストールする空きは、自分自身で白式を整備していた時にたまたま発見したのだ。後付武装の余裕は無いくせによくもこんな機能があったものだ。なら、使わない手はあるまい。

 

「ていうか、シャルルはやってないのか? 専用機だろ? アレ」

 

「う〜ん……どうも僕アレが苦手なんだよね……ここに来るまでには習得しようと思ってたんだけど……」

 

 シャルロットは両手の指をぐりぐりとこじらせ、困った様に俯いていた。まぁ、理由はわかる。女だとバレるリスクは少ない方が良いに決まっているからな。

 

「……ねぇ一夏? もしよかったら放課後、僕とISで訓練してみないかな?」

 

「ん? 俺は別にいいが、えーと……」

 

 唐突にシャルロットから申し込まれた誘いに、俺は箒の方に目を逸らす。案の定、彼女は不機嫌な視線を俺に向けていた。

 

「むぅ……今日は私と剣道ではなかったのか……?」

 

「あっ、そうだったんだ。ゴメンね、また次の機会に……」

 

「いいじゃない! 私、見てみたいし!」

 

「今日はわたくし達のクラスが放課後のアリーナを使える日ですから、準備が整っているならそちらを優先すべきですわ」

 

 結果、鈴とセシリアの二人がシャルロットの背中を押してしまい、今日の放課後は箒の剣道ではなく、シャルロットとIS訓練をする事となった。

 箒には悪かったが、山田先生は今日は放課後も仕事があるから補習はない。アリーナの貸し出しはセシリアの言う通り、日付が決まっている。シャルロットと戦う良い機会だった。

 

「し、仕方ないな……この埋め合わせは必ずしてもらうからな、一夏……」

 

 怒り半分、悲しさ半分の感情が篭った視線で箒は俺の方を見ながら、渋々と受け入れるのであった。今度、彼女の機嫌を取る方法でも考えるか。

 話がひと段落ついて紫煙を欲した俺は、テーブルから立ち上がった。

 

「……ワリぃ、ちょっと煙草吸ってくる」

 

「い、一夏っ」

 

 箒の声に構わず、俺は彼女達に背を向けて歩き出しながら煙草を咥えた。

 

 

 

 ・・・☆・・・☆・・・

 

 

 

 (セシリア視点)

 

 

 

「まったくッ、いくら言ってもやめようとしないのだから……!」

 

 愚痴をこぼす篠ノ之さんに、デュノアさんが苦笑いしました。

 

「アハハ……凄いね、一夏って……」

 

「フンっ……昔はあんな男ではなかったのだが……」

 

「あたしは好きよ? タバコ吸ってる一夏ってカッコイイじゃない♪」

 

 悲しく呟く篠ノ之さんに対し、凰さんはテーブルに両肘をつけ顎を支えながら織斑さんの方を眺めていました。わたくし達に背を向けている彼の頭の横からは、白い煙が流れていました。

 煙草を吸う織斑さんには……もう慣れましたわ。どれほど咎めたとしても、篠ノ之さんの様にあしらわれてしまうのですから…………わたくしは特に止めたりはしませんが、お身体にはお気をつけて……

 

 それよりも、最近はずいぶんと他のクラスメイトや他学年の先輩方と親しく話をしている所を見受けられますわ。話題はISが中心らしいのですが、食べ物や趣味、ゲームや娯楽など色々な話をして親交を深めているらしいですわ。

 べ、別に織斑さんが誰と話そうとわたくしの知る由ではないのは存じていますけど……気付いてますのでしょうか? 彼女達の視線は間違いなく、織斑さん……あなたを狙っておりますのよ? ブリュンヒルデの弟とお近付きになれば、自然と憧れであるその姉と接触の機会が増える事に…………いえ、もしかしたら唯一の男性IS操縦者の女という立場を狙っているかもしれませんのよ?

 

 そこまで考えて、わたくしは目線をもう一人の男性IS操縦者に向けました。

 

 シャルル・デュノア……彼の事は、つい先ほど自国から送られてきた情報に載っていましたわ。

 ありのままに話せば、彼は御国フランスのIS会社『デュノア社』の御令息……なのだそうですが、デュノア社の社長に子供がいた事自体、イギリスの諜報部は初耳だったそうですわ。

 

 おそらく、織斑さんがISを動かせた事を踏まえ、世界中から男性でISを動かせる人を探し回った結果、この様な時期に編入されてきたのだと思うのですが……だとしても怪しいですわ。後から現れた以上、織斑さんよりISの操縦や知識に遅れを取っているはずですのに、彼はISの知識はもちろんの事、PICとハイパーセンサーがなくてもある程度は動かせる操縦技術、何より自身の専用機の特性を十分に理解していましたわ。隣で跳ね回っていた織斑さんの操縦も衝撃的でしたけど……

 

 それにしても、ここ最近の織斑さんの成長には驚くばかりです。ISの部分展開や衣服の装着はもちろんの事、わたくしのBTレーザーを回避する技術、諸刃の剣である零落白夜を確実に当てる判断力、土壇場でのイグニッション・ブーストの発動、まだまだありますわ。悔しいですが、わたくしから見ても織斑さんはISの操縦者としてこの学園の中でも抜きん出ている存在だと思えますわ。

 

 ですが、織斑さんにはまだまだ覚えなくてはならない事、教えたい事が山ほどありますの。ISの知識量はわたくしの方が上ですから、わたくしが指導すれば織斑さんはまだまだ強くなりますわ。そうなってもらわなくては困りますもの。クラス代表としても、いつかわたくしと……

 

 織斑さんを成長させる。それは同時に、わたくし自身がさらなる高みに上がるためでもありました。

 

 無人IS襲撃事件の時、織斑さんは身を呈して凰さんを助け出しましたわ。

 しかし、凰さんを狙っていた無人ISのレーザー砲は、イグニッション・ブーストを発動して硬直した織斑さんの白式に狙いを定めたのです。

 すぐさまわたくしは自分のレーザーライフルである『スターライトMk.III』を構え直し、無人ISのレーザー砲……ISの頭を狙いました。わたくしとISの距離はスターライトの照準範囲内。手ブレによる修正もハイパーセンサーの補助を受けているのですから、当てるのはそこまで困難ではなかったはずでした。けれども、

 

 ……わたくしの撃った弾は外れておりましたわ。

 

 それを認識した時にはもう、織斑さんは無人ISから放たれる禍々しい光線の中に消えていました。

 閃光と爆風で目を閉じてしまったわたくしの視界に次に映ったのは……アリーナの側壁に打ち付けられ、動かない織斑さんの姿でした。

 

「ぁ……あぁ……」

 

 その光景を前にして、わたくしの頭の中で何かが崩れました…………気が付けばわたくしは背中のBTを全て起動させ、スターライトで無人ISに狙いを定めていました。

 

「ぁぁぁああああぁぁあああぁぁぁあああああぁぁぁああああぁあぁぁああああぁぁああ!!!!!!!!!!!」

 

 全機同時に発射させたBTのレーザーに続いて、わたくしはスターライトのレーザーを無人ISの一番狙い易い腹に撃ち込みました。

 BTのレーザーは照準も何もかも滅茶苦茶でしたが、当たろうと外れようとわたくしは連射を止めませんでした。インターセプター用のエネルギーも、自身を守るシールドエネルギーも全てスターライトに回し、BTがエネルギー切れを起こして地面に転がった後は、ミサイルBTを起動させて全弾を乱射しました。

 連続して爆発が起こり、ISの姿が見えなくなっても、わたくしはその爆炎を、爆風をレーザーでISごと貫きました。

 頭を削り、脚を穿ち、肩を砕き、ISの形が無くなっていく。血飛沫の様な火花が飛び散り、事切れた様に稲妻が走っても、わたくしは構わずトリガーを引く。

 何度も何度も、あの黒い姿が見えなくなるまでわたくしはトリガーを引く。

 

 何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も……

 

 後になってその時の映像を見ましたが、スターライトのエネルギーが切れている事に気付かず、一心不乱に引き金を引き続けている自分自身を見た時は、あまり良い気分ではありませんでしたわ……

 

 ガキンッ! ……ガキンッ! ……ガキンッ!

 

『オ……ッ……ん…! 聞……てい…す………』

 

 ガキンッ! ……ガキンッ!

 

『オルコットさん!! 聞こえていますか!?』

 

「ハッ!!?」

 

 わたくしが正気に戻った時に聞こえてきたのは、山田先生の通信音声、レーザーライフルとBTのエネルギー切れを知らせるアラート。

 そして目の前の画面に映ったのは、見る影もなくなった無人ISの残骸でした。

 

(織斑さん……、……織斑さんは……)

 

 言葉を吐く気力もなく、わたくしは動かない織斑さんのもとに駆け寄ろうとわたくしはISを解除しましたが、一歩足を踏み出したそこで激しい眩暈を受け、わたくしは倒れてしまいました。

 

 事件後、わたくしはすぐに意識が戻りましたが、織斑さんが目を覚ましていない事を知ってすぐ彼の元に駆けつけました。

 

 IS学園の医務室の個室、白いベットに横になっている織斑さんの側で、椅子に座っていた凰さんがつきっきりで彼の看病をしていました。

 彼女はわたくしの顔を見ると、いきなり息を噴き出しましたわ。何かと尋ねれば、凰さんはわたくしの鼻を指しました。いつの間にかわたくしは鼻血用の詰め物をされていたのです。

 

 その後は二人で織斑さんを見守っていましたが、いつの間にか凰さんはベッドにもたれかかって眠ってしまい、仕方なくわたくしは彼の様子を見に来た山田先生に看病を任せ、彼女を寮のベッドまで運ぶ事になりましたわ。

 その後すぐの事なのでしょう。織斑さんが目を覚ましたのは……

 

 結局、無人ISの正体はわかりませんでした。わたくしが激情のままに攻撃を行ったのが原因で、ISを解析もできないほどボロボロにしてしまったからですわ……

 

 ですが、わたくし達はあの日、初めてIS同士の……殺し合いをしていたのです。これは歴史上から見ても、初めての事件だと思いますわ。そして……これが最後になるとも思えません。あのISの目的が不明である以上、また襲撃が起こる可能性も十二分にありえるのですから。

 

 今までは試合や決闘ばかりでしたから、わたくし達は実戦というものはあまり理解していませんでした。わたくし自身もまだまだ、演練が足りないという事を思い知らせてくれましたわ。

 

 ですから、わたくしは更に精進しなければなりませんわ。もう、あの様な失態は二度と起こすつもりはありません。織斑さんも事件後はすぐにイグニッション・ブーストをマスターして、それ以来は積極的にわたくしや凰さんと実戦にかなり近い水準で訓練を行っていました。わたくしも、練習相手には事欠きませんでしたわ。

 

 そんなお陰でしょうか、わたくし達のIS操縦技術は入学してきた頃よりも腕が上がっているのが実感しました。日頃の訓練の動きを見れば、ひと目で成長しているのがわかるぐらいですわ。

 わたくし達はこの力を次の戦いのために備えているのですわ。

 

 ですが、織斑さんの成長には恐れすら覚えます。思えば無人ISと戦っていたあの時も、凰さんが狼狽えていたのに対して酷く冷静だった気がしました。

 今日の実践もそうですわ。PICの制御もブーストも無しにISを動き回す事がどれだけ狂気の沙汰なのか知ってますの……?

 

  織斑さん、あなたはわかっておりますの? ブルー・ティアーズのBT攻撃に数十分間も耐え続ける事が、本来ならどれほど困難である事なのか……

 知っておりますの? ISのブースターやハイパーセンサー、各種プログラムの調整や整備を一人で行える技術を持つ操縦者は、世界でもほんの僅かです事を……

 

 先週の土曜にお話しされたあの言葉。ISが男にも動かせる様になれば、世界は間違いなくクーデターを起こす。そして、軍隊はISを倒すつもりでいる。それが今現在の世界の事実であるなら、それが訪れた時に一体全体どれだけの血が流れるのかは想像に難くありませんわ。

 

 ただ、あなたは、そんな時代が訪れない様にすれば良いとおっしゃりましたが、果たして技術の進歩や人々の意識を個人であるわたくし達に変える事ができるのでしょうか……

 

 織斑さん……あなたは時代を訪れさせない様にしているのではなく、時代が訪れた時のために力を備えているのではありませんか?

 

 織斑さん……あなたは何を考えておりますの?

 

 

 

 ・・・☆・・・☆・・・

 

 

 

 放課後、山田先生の補習を受け終え、俺はアリーナで待ち合わせていたシャルロットとISの特訓を始める事となった。

 特訓と言っても、俺もシャルロットも互いのISの性能・操縦技術は知らない。まずは現時点でのお互いの強さを測る。そして、それはデータで見るよりもわかりやすい方法があった。タイマンだ。

 ここ、第2アリーナのグラウンドに白式を纏って立ち、雪片を展開して軽く振ってみる。昨日今日調整を終わらせたばかりで洗練されたかの様な白式は、動かしていて気持ち良い。

 観客席に視線を移すと、ちらほらとクラスメイトや他学年の先輩達が見える。グラウンド全体を見渡せる管制塔の窓には、手を振る鈴、なんとも言えない表情のセシリア、そして……不機嫌な箒の顔が映っていた。仕方がない、学園の量産機が回ってこなかったのだ。専用機が来れば彼女も関わる機会がもっと増えるだろう。当分は先の話になると思うが。

 

「シャルル、まだか?」

 

『今行くよ!』

 

 通信回線から聞こえてきたシャルロットの言葉と同時に、アリーナのカタパルトからISを纏った彼女が飛び出す。そのままクルリと一回転しながら降下し、鮮やかにアリーナのグラウンドに着地を決めた。

 

「お待たせ! 武器を選ぶのに時間かかっちゃった!」

 

 シャルロットのIS。実習の時にも見たその姿は一見ラファール・リヴァイヴの様に見えるが、ラファールがネイビーグリーンだったのに対しシャルロットが乗っているのはオレンジ色に塗装されている。それによく見ると、元のラファールの装甲が何ヶ所か外されており、代わりと言わんばかりにブースターとウィングが増設されている、カスタム機だ。俺が夢にまで見た事をやってのけた機体だった。

 目の前のラファールもどきを白式が解析していく。名称は『ラファール・リヴァイブ・カスタム Mk.II』総エネルギー量は40000。元々重量級であるラファールだけあって防御性能は押し並べて高い。それが高速戦闘用にカスタムされているのだからたまらない。

 

「うっし、用意はいいよな?」

 

「いつでもどうぞ♪」

 

 そう言っている彼女のISの手には何も持っていない。手ぶらだ。

 馬鹿にしているとは思えないが、自信があるのか慢心なのか、シャルロットの意図は読めない。

 

「じゃあ……いくぜ」

 

 そう言い終えた瞬時に俺は必要最小限の挙動で雪片を展開しつつシャルロットに向かってフルブーストで突撃した。

 不意を突かれたのだろう彼女は一瞬だけ目を見開くも、すぐに両手から拳銃よりもひと回りぐらいは大きいサブマシンガンを展開させ、同時に火を噴かした。

 

「グっ!?」

 

 その展開の早い事、早い事。驚かせて後退させるつもりだったのだろうが、残念ながら白式にそんな急な注文は無理だ。正面から突っ込んで数十発くらったが、俺は無視して零落白夜を発動。攻撃範囲にシャルロットのリヴァイヴを捉え、白銀の光剣を横薙ぎに振り払った。

 

「うわッ!?」

 

 両手のサブマシンガンは真っ二つに切断され、シャルロットの身を守るリヴァイヴ本体にもダメージが及ぶ。いきなり10000近いエネルギーを削る事に成功した。

 斬撃に吹き飛ばされたシャルロットは驚きつつも、すぐさまリヴァイヴのブースターユニットにミサイルを展開すると、一斉に発射した。その数、8発。

 近距離からのミサイルは白式の認識が遅れたものの、俺はやみくもに雪片を振り回して3発のミサイルを切り裂いて前進する。数発のミサイルが真横を擦るが、爆発はしなかった。

 冷や汗を流す間にシャルロットは吹き飛んだ勢いとミサイル発射の衝撃を利用して後退しつつ断面丸見えのサブマシンガン2丁を投げ捨てると、先程よりもサイズも口径も大きなマシンガン2丁を素早く両手に展開し、脇目も振らず轟音と共に弾の雨を降らせた。

 

「チッ!」

 

 さすがに今度の弾幕は無視できない。当たった弾丸の衝撃に推進力を僅かに減殺されたのを見計らって俺は弾幕の外に逸れる。1000〜2000ぐらいは貰ったか。

 近距離戦は絶対に敵わないと悟ったのか、シャルロットはマシンガン2丁を収納すると今度はショットガンとアサルトライフルを展開し、同時にぶっ放しながら旋回しつつ、俺との距離を離していく。

 アサルトライフルの弾がグラウンドを滑るかの様に着弾し、ショットガンの弾が壁となって砂煙を巻き起こす。その間を縫う様に俺は白式で砂煙の中を滑空する。

 急に視界が爆発した。

 

「おぉう!!?」

 

 爆風に吹き飛ばされるも受け身でグラウンドを転がりすぐにまた白式のブースターで空に上がった俺が捉えたのは、片手はアサルトライフル。もう片方の手にはどこぞの反政府ゲリラが持っていそうなロケットランチャーをISサイズにデカくした代物を握ったシャルロットのリヴァイヴの姿だった。

 一瞬怖気付いたが、弾頭部の無くなったロケットランチャーを確認するなり俺はイグニッション・ブーストを発動させてシャルロットに突撃する。その視界の先ではリヴァイブの持つロケットランチャーに武器の展開と同じ要領で弾頭部が再び装填され、こちらに向けられていた。

 爆音と同時に発射されたロケットランチャーの弾丸は一直線に俺目掛けて急接近し、瞬く間もなくその距離はなくなる。

 イグニッションブーストを吹かした急な方向転換はできない。もう少しブースターの推進力を繊細カさせ、出力を一定にさせれば体を捻る事ぐらいできそうなのだったが、今は無理だった。

 だから、直撃を覚悟した俺は着弾と同時にイグニッション・ブーストを再度吹かした。

 

「ぐうぅゥッ!!!」

 

 前と後ろから凄まじい衝撃を受け、内臓がスクラップになりそうな感覚に吐き気を覚えるが、雪片は手放さない。その直後には白式に近接戦専用のターゲッティングをされたシャルロットの姿が目と鼻の先にあった。

 

「……ッッ!!!?」

 

 驚愕するシャルロットの脳天目掛け、俺は零落白夜を発動した雪片を縦一文字に振り下ろしたが、手応えは若干弱かった。俺が振りかぶったのと同時に彼女は両手のアサルトライフルとロケットランチャーを斬撃の軌道上に合わせ、雪片を防ごうとしていた。当然零落白夜発動下の雪片では鉄の銃器など乳製品みたいに切り裂いていったが、その切り裂かれていくほんの僅かな時間を利用してシャルロットはリヴァイヴでイグニッション・ブーストを発動した。

 爆発が重なり、爆風が舞い、地響きが起こり、グラウンドに斬撃の跡が刻まれる。俺はイグニッション・ブーストからの着地で地面にめり込んでいたが、難なく岩盤を蹴っ飛ばして脱出する。

 エネルギーは半分を切ったが、戦況は俺の方が有利だった。手応えは浅いとはいえ、零落白夜を二回も喰らったラファールは目でもわかるほどダメージが進行していた。残りエネルギーは約3分の1。片方のウィングが半分から無くなっており、ブースターは数ヶ所が切断されて断面が見えていた。そしてシャルロット本人も額には泥と汗を被り、息を切らしながらこちらを見ていた。

 

「どうする、まだやるか?」

 

 俺はシャルロットに気を使いつつ、雪片に視線を落とす。前々から思っていたが、コイツは威力といい切れ味といい尋常ではない。最初の頃はブーストで移動する事すら大変で、これでこれから戦っていけだなんで無理だと思っていたが、慣れてきてから改めて気付かされる。自身のエネルギーを削って放たれる凶悪な一撃。千冬ですら一度は自滅したのも頷ける。まさに妖刀、諸刃の剣だ。

 そんな一撃を二度も受けたシャルロットは大丈夫だろうか。そんな事を考えていると、彼女から返事が来た。それも、結構嬉しそうな声で。

 

「もちろん、このままやられっぱなしで終わる僕じゃないからね!」

 

 どうやらまだまだやるつもりらしい。それどころか勝とうとしているのだから面白くなってきた。

 シャルロットは笑顔で右手にスナイパーライフルを、左手には銃のグリップの下側に銃身が構成されたライフルを展開した。何だありゃあ…………ただのロマン砲か?

 俺は雪片を数回振るって構え直してイグニッション・ブーストを溜め込むと、真っ直ぐに彼女に向かって突っ込んだ。

 すぐさまシャルロットはスナイパーライフルを発射して俺を撃ち墜とそうとするが、俺は難なく雪片で弾く。そのまま斬りかかろうとしたその時、彼女は再びイグニッション・ブーストを発動させて俺の視界の横へ消えて行った。

 俺が消えた方向に顔を向けた直後、白式の脚に重い銃撃を受けてバランスを崩し、俺は地面を転がった。追い討ちをかけるかの様に狙いすまされた銃撃を受け、俺は白式のパーツをばら撒きながら吹き飛んだ。

 

「クっ!!」

 

 吹き飛ばされる最中で俺はブースターを吹かして地面から舞い上がる。弾幕から逃れた俺がシャルロットの姿を捉えると、彼女のロマン砲が銃身に稲妻を帯び、唸りを上げて火花が発せられたと思った時にはもう肩を撃たれていた。甲龍の龍砲と違って目には見えるハズだが、目視ではもちろん、白式の解析でも捉えられない。直撃した後になって白式が、ロマン砲の尋常ではない弾速を算出してくれた。あれはレールガンの様だ。

 

「づあぁッ!!」

 

 変な声が漏れた。顔面にレールガンを喰らい、頭が大きくぶれた所にスナイパーライフルの追撃を受ける。先程よりも狙いが正確になり、白式の残りエネルギーが刻々と削られるが、焦ってはいけない。俺はハイブーストでシャルロットに突進した。

 

「っ!!」

 

 一瞬シャルロットは焦りを見せるも、すぐにレールガンを狙い定めて発射するが、その弾丸はあらかじめ俺が弾道を予測して前に突き出していた雪片に弾かれた。

 瞬間シャルロットはレールガンとスナイパーライフルを目にも止まらぬ早さで収納しつつ、銃身が6つのガトリングガンと戦車の主砲の様な口径のバズーカを展開した。まるで、銃自身が高速で変形したかの様だった。

 直後、マシンガンの比ではない弾幕と威力を被り、減速した所にバズーカを貰った。

 

「ぐウッっ!!」

 

 バズーカはギリギリ雪片で防ごうとしたが、さすがにバズーカの弾丸を刀で防ぐのは無理があった。余波で大きくグラウンドへ吹き飛ばされた俺に、今度はスナイパーライフルとレールガンの弾丸が直撃する。

 イグニッション・ブーストを発動する隙も与えられず、避けられない銃弾の追撃を受ける。残りエネルギーは1割を切っていた。信じられない命中精度に、俺は銃撃の中で疑問すら抱いていた。

 その時、吹き飛ばされた俺の顔を掠めてバズーカの弾丸が地面に着弾した。その砂塵が舞い上がる中、頭を切り替えた俺は雪片をシャルロット向かって思いっきりブン投げた。

 

『えぇッッ!!!?』

 

 回線から聞こえた彼女の動揺を突き、俺は最後になるだろうイグニッション・ブーストを発動した。

 砂塵から飛び出した俺は投げた雪片を悠々と追い越し、瞬く間にシャルロットのリヴァイヴの懐に潜り込んだ。取り回しの悪いスナイパーライフルとレールガンではどうしようもない。あの高速の展開も、この距離では間に合わないだろう。

 

「あ……」

 

 IS越しとはいえ女を殴るのは気が引けるが、シャルロットに掌底を2発撃ち込み、すぐさま距離を取る。シャルロットは殴られた時に目を瞑ってしまい、俺の追撃が止んだ事にそろりと目を開けたそこへ、遅れて飛んできた雪片がリヴァイヴに激突した。

 

「あぃッ!!?」

 

 シャルロットの上半身が大きくぶれた。当たった衝撃で彼女のレールガンとスナイパーライフルがリヴァイヴの手元から離れ、グラウンドに落ちていく。その最中で俺は宙を舞う雪片を掴み、残り少ないエネルギーも気にせず零落白夜を発動した。

 

「ッッっ!!!」

 

 シャルロットの視界には零落白夜を発動した雪片を振り下ろす俺の姿が映っただろう。彼女は左腕へ無骨な金属板を繋ぎ合わせた様な物理シールドを展開して前に突き出すも、雪片が紙の様に斬り裂く。そしてその刄はシャルロットのリヴァイヴも袈裟斬りにしていた。

 だが、シャルロットの視線は真っ直ぐに俺を見遣っていた。唐突に切り裂かれたシールドの片割れがゴム風船の様にぐにゃりと膨らみ、爆ぜたと思ったそこにはリヴァイヴの右手に握られた馬鹿デカい突起が俺に向かって迫っていた。

 斬り裂かれたシールドを突き破り、俺の死角から飛び出してきたのは、丸太の様な太さはある巨大な金属の杭。パイルバンカーだった。

 直撃を避けようと咄嗟に雪片を手放して伸ばした俺の白式の左腕に、炸薬の勢いから放たれた杭が直撃した。凄まじい火花が飛び散り、俺とシャルロットのISを、体を、頬を、顔を、流れていった。肩が外れる様な衝撃と同時に、大きく空へぶれた左腕の装甲に亀裂が走り、派手な音を立てて砕けた所から俺の生の腕が現れた。

 

「ぉラァ!!!」

 

 だが俺も黙ってやられてはいなかった。振り下ろした雪片を今度は右手の力とスラスターの馬力に任せて一気にシャルロットへ突き込んだ。

 我ながら無茶苦茶な攻撃だったが、手応えはあった。リヴァイヴ本体には当たらなかったが、雪片はリヴァイヴの左側のメインブースターを貫いていた。

 

「……ッ!」

 

「……っ!」

 

 この時、シャルロットはリヴァイヴのメインブースターを咄嗟に切り離していたが、その直後にブースターは爆発して背中から衝撃を受けた彼女は、真っ直ぐ真正面にいた俺と盛大に頭突きを起こす。その衝撃とブースターの爆風で、雪片は俺の手元から吹き飛んでしまった。

 

「グッ!!」

 

「ぅ……っ!!?」

 

 パチキを決められても俺は目を開いていたから、彼女の様子が見れた。デコに衝撃をくらってから恐る恐る目を開けたシャルロットの眼前には、キスまであと数ミリの俺の顔面。

 少々姑息だったかもしれないが、動揺していたシャルロットの隙を突いて俺は白式の右手でリヴァイヴの腕を絡ませ、力任せにぶん投げた。

 メインブースターがない以上、もう飛ぶ事はできない。せいぜい滑空からの受け身で被害を抑えるぐらいだろう。俺ならできるかもしれないが、シャルロットにそんな技術はなかった。スラスターで立て直そうとしたが、着地もできないまま地面に転がった。

 目の前に雪片が舞い落ちて、地面に突き刺さる前に俺はそれを掴む。

 お互い、残りエネルギーはレッドアラートに突入した。本来、試合だったらこれより前に勝敗を決められているかもしれないが、今やっているのは試合じゃない。だから止めるヤツなどいない。

 白式にはもう零落白夜はおろかイグニッション・ブーストを発動させるエネルギーも残ってなかった。だが、シャルロットのリヴァイヴの残りエネルギーは素の雪片を叩きつければ終わる数値だった。

 とは言え、俺も弾丸一発でも喰らったら終わる。ここから銃撃を回避してシャルロットに接近し、確実に雪片を当てる方法を俺は必死に探る。

 対して、取っ手だけとなった盾を捨て、パイルバンカーを収納したシャルロットが次に展開したのは、片手にオートマチック式の拳銃、それひとつだけだった。

 武器がネタ切れとは思えない。間違いなく何かを考えている行動だ。けれども、白式のエネルギーは悩む時間も与えない。

 

 俺は、ただのブーストで真っ直ぐ彼女に向かって突っ込んだ。

 

 その瞬間、彼女は銃を構えずに空いた左手から小さな光で展開した物を地面に放り投げた。

 目の前が白煙に包まれた。スモークグレネードの煙だった。

 

「っ!?」

 

 舌打ちひとつ。小賢しい真似と思ったが、このまま逃げられれば燃費の悪い白式の俺が負ける。

 たが、彼女が知らないハズが無い。ISには暗闇でも暗視装置があるし、煙で撒いてもハイパーセンサーによって常に更新された続ける、高性能のレーダーがある。こんなスモークでは逃げられない。

 現に、白式はシャルとリヴァイヴの居場所を正確に示してくれている。向こうも俺の場所はわかっているから、煙の外から大雑把に狙って攻撃すれば、当たる。

 だから俺がすぐさま煙の中から飛び出した時、真正面に捉えたシャルロットは銃口を真っ直ぐ俺に向けて構えていた。

 それもわかっていた。雪片を正面に構え、俺は銃弾を防ぐつもりでいた。連射されれば防げずに掠るかもしれないが、直撃しなければ俺の勝ちだった。

 雪片越しに俺を見据えたシャルロットと、俺の瞳が合わさった。

 閃光と共に放たれた弾丸は……気の抜けたような音を立て、俺の雪片に激突した。その瞬間、シャルロットの表情が緩んだ。

 

「……ん?」

 

 俺が少し目線を下に移せば、いつの間にかシャルロットの持っていた拳銃が、リボルバー式のグレネードガンに変わっていた。

 雪片が防いだのは、グレネードの弾丸だった。

 

「あ、ヤベ……」

 

「残念♪」

 

 シャルロットの笑顔に思わすこちらも笑ってしまった。ただし、眉間に青筋を立てながら。

 弾丸は雪片がしっかりと防いだが、爆発までは防げない。爆風に煽られて豪快に地面へダウン。そこで白式は停止した。残りエネルギーは0を示し、その画面も消えて白式が解除され、俺は地面に直接倒れ落ちた。

 

「大丈夫!? 一夏!」

 

 地面に降り立ったリヴァイヴが解除され、ISスーツ姿のシャルロットが駆け寄る。そして大の字に倒れた俺を見下ろすかの様に腰を曲げ、手を伸ばした。

 

「あー、勝ったと思ったんだけどな……」 

 

 そうぼやきながらシャルロットの手を掴んで立ち上がった俺は、背中や頭に付いた土埃を払い落とした。

 

「ふふっ、僕もここまで追い詰められたのは初めてだったよ。やっぱり一夏はすごいや!」

 

 シャルロットは俺の肩に付いた土を払ってくれた。俺も彼女の肩の土を払ったら、一瞬ビクついたがすぐお礼を言ってくれた。触るのは大丈夫なのに触られるのは苦手なんだな。

 

 

 

「ねぇ、一夏の白式って……雪片しか武装がないの?」

 

「あぁ? ……そういやぁ言ってなかったな。そーだよ、白式にはこいつしか武器がない。布仏さん、……整備の人に聞いても、後付武装(イコライザ)用の拡張領域(バススロット)もないから量子変換(インストール)もできないんだとさ」

 

「ず、ずいぶん偏った機体だね…………初期状態のISなら重火器3つ分ぐらいの拡張領域があるはずなんだけど……もしかしたら、雪片が使うエネルギーのために容量を全て使っているんじゃないかな?」

 

「……あり得るから困るな。千冬姉が手を焼いたってのも、今なら頷けるぜ……コレ」

 

「やっぱり……その雪片から出るレーザーブレードって、織斑先生がモンド・クロッゾで使ってた機体と同じ単一仕様能力(ワン・オフ・アビリティ)なんだね。後付武装がひとつも無いのも、織斑先生が使っていた機体『暮桜』と同じだし、これって凄い偶然だよ!」

 

「偶然、偶然か。そうだな……」

 

「でも、その白式って二次以降(セカンド・シフト)してないんだよね? 一夏の実力を考えれば二次移行してもおかしくないと思うんだけど…………元はテスト機体か何かだったのかな?」

 

「テスト機体? 俺はてっきり、やっつけ作業の未完成品を押し付けられたと思ったんだが……」

 

「まさか。いくらなんでも未完成のISを世界初の男性IS操縦者にそのまま渡すなんてありえないよ…………たぶん、どこかで実験用に作られた機体だと……思うんだ」

 

「そうか、でも。テスト機体ってなら、コイツはいったい何を……いや、何をテストしてたってんだ?」

 

「それはわからないよ…………でも、そのISは日本製なんだよね? どこから受け取ったのかがわかれば、そこで何をしていたのかわかるかもしれないよ?」

 

「……知ってそうなヤツにあたってみるか…………いや、面倒臭いからいいか……」

 

「えっ? 調べてみようよ! そうすれば一夏もその白式の事、もっと知る事ができると思うし……」

 

「いいよ、俺はコイツに嫌われてんだ。初めはブーストなんか全く言う事聞いてくれなかったし、未だに二次移行どころか一次移行(ファースト・シフト)すら起こしてくれないからな」

 

「えぇッ!!? そ、そんな!? じゃっ、今の試合も……ずっと初期状態のままで戦ってたの!!?」

 

「あ、あぁ。別に、全部初期状態ってわけじゃないぞ? ブースターとスラスターの出力や運動機能と索敵機能、その他調整できそうなメーターは全部ミリ単位で設定してあるからな」

 

「す、凄い……僕でもメインブースターの出力しか調整できないのに…………って、ちょっと待って! 白式の単一仕様能力も最初からあったの!?」

 

「うーん? セシリアと戦った時にはもうあったから…………あれ? でも、貰った時には無かった……な?」

 

「はぁ……ビックリした。日本はもう単一仕様能力の複製に成功してたのかと思ったよ……」

 

「……やっぱりおかしいんだな。初期状態のISに単一仕様能力があるのは」

 

「うん。はっきり言って異常事態だよ。前例が全くないからね。それに、単一仕様能力はISが二次移行しても現れるかどうかは明確になっていない。現に二次移行しても現れない事がほとんどだからね。初期状態のIS、ましてや『ブリュンヒルデ』でもある織斑先生の弟だからって同じ単一仕様能力が出る事なんてありえないんだけど……」

 

「そうか……」

 

「ふふっ、でも自分のお姉さんと同じ単一仕様能力を覚えるなんて、僕だったら羨ましいよ!」

 

「俺にとっちゃ、いろんな武器が使えて且つ性能も安定しているお前のISの方が羨ましいよ。それにしても……ラファールの武装が多いのはわかってたが、いったい何個持ってんだ?」

 

「僕のは普通のリヴァイブからかなり拡張したからね。20個分はあるかな」

 

「ぶっとんだ量だな。そんなに使い回せるモンなのか?」

 

「もちろん! 状況に応じて適切な武器を使いこなす、それが僕とMk.IIの戦いの基本だからね! それに、このMk.IIはウィングやスラスター、補助アームも換装する事ができるし、量産型のリヴァイブのパッケージを取り付ける事ができるんだよ!」

 

「凄いな、セシリアや鈴と戦うと……あいつらいっつも装備が同じだからな…………おかげで新鮮な気持ちで戦えた」

 

「ふふっ、どういたしまして。だけど、僕のMk.IIの魅力はそれだけじゃないからね♪」

 

「あの武器の入れ替えだろ? 早いなんてモンじゃなかった。瞬きした時にはもう変わってるからな。ありゃ何だ?」

 

「あれは高速切替(ラピッド・スイッチ)って言って、武器の使う機会と展開時間を予測して、タイミングを合わせて一気に展開と収納を同時に行う技術さ。相手を狙い続けたまま武器を変更できるのが長所かな」

 

「へぇ……俺にもできるか?」

 

「白式には武器が一個しかないからあまり役に立たないと思うけど、ほかのISでならできるよ! もちろん、練習が必要だけどね」

 

「切り替える武器に……限界はないみたいだな。ロケットランチャーからパイルバンカーまで出したからな」

 

グレースケール(灰色の鱗)の事だね? デュノア社を象徴する武器だよ。元々は岩盤を砕く用の杭打ち機だったらしいけど、そのままIS用の装備に転換させたみたい。あっ、掘削機もあるんだよっ!」

 

「そ、そうなのか……」

 

「へへっ、ほかに印象に残った事はある?」

 

「……スナイパーライフルとレールガンだな。まるで動きが読まれてるみたいだった。ありゃいったいなんだ? ロック性能が良いのか?」

 

「う〜ん、リヴァイブがほぼ射撃用にハイパーセンサーを調整してるからロックオンの精度も速度も高いのもあるけど、一番の原因は一夏の白式……それもブースト移動にあるかも……」

 

「やっぱりか。イグニッション・ブーストも読まれてたしな……どうすれば躱せる?」

 

「そうだね…………一夏は射撃武器の特性を把握してる?」

 

「射撃なんざ、射線に入らなければ当たらない」

 

「う……それは近距離における射撃戦闘の戦法だね…………一夏の場合はもう少し射撃武器についての特性を知った方が良いかもしれないね。武器が雪片しかない以上、距離を離されると接近する必要があるし、そこでどうしても被弾率が上がるから、確実にブースト移動で回避する技術が必要だと思うんだ」

 

「確かに、セシリアも近付くと袋叩きにできるんだが、接近するまでひと苦労なんだよなぁ……あいつ最近、BTの精度も上がってきてるし……」

 

「多少のダメージなら瞬時加速(イグニッション・ブースト)で接近するのが正解かもしれないけど、そういうわけにもいかない時ってあるよね。その時に、回避する方法とか考えてる?」

 

「……瞬時加速中に体を捻って無理やり軌道を曲げるのは」

 

「絶対にやめた方がいいね…………シールドエネルギーや絶対防御があるとはいえ、空気抵抗や圧力で負荷のかかる場所が急激に変則するから、一歩間違えれば骨折どころじゃなくなっちゃうよ……」

 

「いや、でも、前にやろうとしたら、できそうな気がした──

 

「待って待って……! そ、そうだ! 一夏も射撃武器を使ってみようよ! そうすれば、何かわかるかもよ!」

 

「……そうだな。そういやぁ、ISで銃を撃った事はなかったな」

 

「じゃあ今度、僕が教えてあげるよ。色々と準備が必要だからね。楽しみにしててよっ!」

 

「あ、あぁ……?」

 

 

 

 最後は、えらい焦った様なシャルロットの提案を受け入れて会話は終了された。

 グラウンドからカタパルトへ戻ろうとすると、スカスカだったアリーナの観客席はいつの間にか大所帯になっていて、俺はピッドに飛んで戻るまでの間、会場から歓声を浴びた。

 たった二人だけの男、しかも専用機同士のデスマッチだったのだ。そら興奮するわ。

 

 

 

 ・・・☆・・・☆・・・

 

 

 

 訓練を終えた俺とシャルロットはひとまず整備室にISを預け、更衣室で仲良く着替え……るハズもなく、俺は更衣室で着替え、彼女は汗だくのISスーツの上から制服を躊躇もせずに着て急ぎ早く寮へと先へ戻ってしまった。

 数十分後、寮で着替え終えたシャルロットと合流して食堂へと向かった俺は改めて彼女と自己紹介を交わした。

 

「改めてだけど、これからよろしくね、一夏」

 

「あぁ、長い付き合いになる。よろしくな」

 

 料理は特に筆頭する様な豪華さはない。お互いに飲み物のコップを当て、慎ましく挨拶をした俺とシャルロット。その周りではクラスメイトやらほかの学年の生徒やらが遠目からよくわからん表情で観察している。何か探りを入れているのか、男だけの(女だけど)雰囲気に近寄り難いのか、それとも羨ましいのか、シャルロットを胡散臭く感じている者も数名。この光景を脳内保存したいのか、いらん妄想でもしているのが数十名。

 そんな人混みの中から俺達二人の席へと臆する事なく近づいてくる者達がいた。

 

「い、一夏!」

 

「いーちか!」

 

「ごきげんよう、織斑さん。アリーナの決闘は残念でしたわね」

 

 箒、鈴、セシリアの三人だった。言わずもがな『IS』という物語を彩るヒロイン達は織斑一夏と最も親しい間柄である。これで4人揃った。あとあの眼帯ちみっこが来れば役満である。

 三人はそれぞれお膳に自分の食事を運んできた。箒は生姜焼きの定食、セシリアはグラタンとパン、鈴は坦々麺、シャルロットは鮭のムニエルとライス、俺はハンバーグ定食。妙に広いテーブルの上が一気に賑やかになった。

 

「来ていきなりダメ出しかよ。お前はシャルルに勝てんのか?」

 

「当然ですわ。ラファールはエネルギー防御が低い上、元々は鈍重な機体ですから、わたくしが圧倒的に有利ですもの」

 

 そう言って自信満々に胸を張るセシリア。隣でシャルロットが不服そうな顔をしている。

 確かにラファールは実弾防御に対してレーザー攻撃などのエネルギー防御が反比例するかの如く、低い。それに、ラファールを使ったクラスメイトの試合でセシリアが負けたところを俺は見た事がなかった。

 とはいえシャルロットのIS操縦はかなりの腕前だ。ラファールも高速戦闘用にカスタムされているわけだし、どちらが勝つのかは予想できないが、いい勝負をすると思う。

 当の本人のシャルロットは愛想笑いをしながら話を受け流していた。

 

「アハハ……お手柔らかにお願いするね……」

 

「気をつけた方がいいわよー? セシリアの戦い方ってすっごくエグいから♪」

 

「ちょっと凰さん! どうゆう意味ですのッ!?」

 

「だってズルいじゃない! BTに任せて自分はず~っと空から狙撃しちゃってさ! 卑怯よ! 卑怯っ!」

 

「卑怯ではありません! あれは戦法ですわ! だいたい、凰さんは龍砲の射程が短いからって接敵しすぎです! 猪突猛進も甚だしいですわ!」

 

「なぁんですってぇ~!!」

 

 すぐそばでギャーギャーと言い争いを始めた2人を尻目に、今度は箒がデュノアに話しかけた。

 

「そういえば……デュ、デュノア……さんの部屋はどこなんだ?」

 

「シャルルでいいよ。部屋は……ふふっ、一夏と同じ所さ。僕も男だしね」

 

「そ、そうだな。男同士なのだから仕方ないな……」

 

 なぜか自慢げなシャルロットの言葉を聞いて、箒は彼女から視線を外すとそのままうつむいてしまった。

 そんな箒の様子を見たシャルロットが俺に顔を寄せる。

 

「ねぇ、篠ノ之さんって前は一夏と同室だったって本当?」

 

「……それは、どこから聞いた?」

 

「お昼の時、鷹月さんからね。そうそう、幼馴染みなんだっけ? それとも…………日本で言う、コレ?」

 

 シャルロットは右手を俺に見せると、小指をピンと立てた。あまりにも古い、これこそ前時代的な仕草に俺は言葉を詰まらせる。いったい誰だ、こんな事を教えたのは。

 そして、なぜかその仕草を理解する箒。

 

「なっ、ち、ちち、違うっ! わ、私と一夏は剣道で古い付き合いなだけだ! そ、そ、そんなやましい関係ではないっ!」

 

 いつにも増して言葉の詰まりが激しい箒に、今度は鈴が食い付いた。

 

「ちょっとちょっと! 箒っ!! あんたいつ一夏と部屋変えしたのよ!?」

 

「さ、さあな…………数週間前だった、だろうか?」

 

 わざとらしくシラを切った箒に対し、逆撫でされた様に頭へ血を登らせる鈴。彼女にはわかっていたのだろう。鈴に部屋を変えた事を伝えたら、間違いなく俺の部屋に転がり込んでくる事を。本心ではないだろうが、俺の中で箒の評価がひとつ上がった。

 言い争ってる二人を放置し、俺はふと気が付いた事をシャルロットに話す。

 

「そういえばシャルル。自分の荷物とかはどうしたんだ?」

 

「さっき、寮から部屋に運んだよ。荷解きはまだだけどね」

 

「ふーん…………手伝おうか?」

 

「えっ!? い、いいよ! 一夏には悪いし、じ、自分の荷物は自分で管理したいし!! ははっ、あはは!」

 

「「「?」」」

 

 急に必死になって手伝いを拒否し、動揺を誤魔化そうとするシャルロットの様子に、三人のヒロイン共は不可解な表情で首をかしげる。もしかしなくても彼女は男物の下着など身につけていないのだろう。俺もそんなシャルロットは見たくない。それに、見られたら困りそうな物など下着以外にもポイポイ浮かんでくる。女の子には月に一回、多い日が存在するからな。

 

「ご、ごちそうさま!」

 

「んっ、もう食い終わったのか?」

 

「ぼ、僕って食べるの早いから……あっ、一夏はゆっくり食べてていいよ! 篠ノ之さんの時間、奪っちゃったんだしね。僕は先に部屋へ戻ってるから。じゃあね!」

 

「シゃ、シャルルっ!」

 

 思わず声を荒げてしまった箒の呼び掛けにウインクだけで返事をしたシャルロットは、いつの間にか空にしたムニエルの食器を返納すると、手を振りながらそそくさと食堂から出て行ってしまった。俺が呼び止めようとする隙もなく。

 そうしてシャルロットの姿が見えなくなると、気を緩めたかの様にセシリアがテーブルに肘を付けて呟いた。視線は彼女が消えていった食堂の出入り口を見ていた。

 

「織斑さんに負けず劣らず、凄い男性ですわね」

 

「む、そうか……?」

 

「えー? 一夏の方が全然凄いじゃない! 今日の試合だって、雪片一本しかないのにシャルル追い詰めてたしさ!」

 

 自分の言葉を理解していない女二人に、セシリアはわざとらしく溜め息を吐く。それにカチンときたのか突っかかる鈴を無視して、彼女は続ける。

 

「シャルルさんは織斑さんよりも後になってから、男性IS操縦者として発見されたのですよ? 知識も経験も遅れをとっているはずですのに、彼は織斑さんと互角に戦えるまでISを動かしているのは、おかしいと思いませんの?」

 

「うっ……た、確かに……言われてみれば……」

 

「…………」

 

 セシリアのごもっともな発言に鈴はたじろぎつつも受け止めた。箒にいたっては言葉も出ない様だった。

 

「どう考えても、彼はISに詳しすぎますわ。IS会社の社長の御子息とはいえ、男がISに関わる事など滅多にありませんのよ?」

 

「なぁ……それって、男にはISを整備する事も出来ないって事?」

 

「……不可能ではありませんが、なにせ自分では起動もできませんですし、センサーやスラスターの調整もコンピューターとの干渉もできませんから……結局、女性の方がISを整備するには色々と都合が良いのですわ」

 

  平然と手をヒラヒラと振りながら、当たり前の様にセシリアは告げた。男にはISを動かすどころか、調べる権利すらなさそうだ。俺を除いては。

 

「不可能ではないとはいえ、時間がかかりすぎるな……」

 

「もしかしてさぁ……結構早い段階で見つかったのに隠してたんじゃない? それで裏でISの教育をさせたんでしょ、きっと」

 

「ありえますが……ISとしての機関なら学園の方が優れてますから、ただ教育しただけではメリットに欠けていますわ」

 

「メリット……利点か…………シャルルのIS操縦は一夏よりも一枚上手だった。ひょっとして自分自身のアピールのためだったのではないか?」

 

「わかったわ!! あえて後からやってくる事で初心者感を出して、操縦にも慣れているはずの一夏のお株を奪うつもりなんだわ!」

 

「なるほど! 納得がいくな!」

 

「お、オッホン! 確かに箒さんの『自分自身のアピール』の可能性はありえますわね。でも、男性である以上は織斑さんと接触する機会が多いはずですから、フランス代表候補生の勧誘ではありませんの?」

 

「だ、代表候補生の勧誘!? 一夏は日本人だぞッ!」

 

「このご時世、国籍の変更なんて簡単ですわ。優れたIS操縦者なら、別の国から好待遇で勧誘される事も少なくはありませんのよ」

 

「フランスで男のIS操縦者を独占するつもりなのか……?」

 

「そこまではわかりませんわね……わたくし、一度イギリスにかけあってみますわ……」

 

「一夏、気を付けなさいよ。あんたって昔からヌけてるし、お人好しなところがあるんだから」

 

「あ〜ハイハイ……」

 

 盛大な勘違いから始まった考察が広がっていく。憐れと思いたいが、今はネタばらしの時ではない。

 俺は唐突に話の腰を折った。

 

「箒、日曜日どっか行かないか?」

 

「えっ!? そ、そ、そうだなっ! えっと、その……っ!」

 

 突然過ぎる誘いに箒は頭が回っていないのか、慌てながらしどろもどろに答えようとしている。

 だが、俺の言葉に反応したのは彼女だけではない。

 

「えっ! 何それ! あたしも行っていい!?」

 

「なっ、一夏は私と行きたいと言ったのだ! なんで凰までついて来ようとするのだ!」

 

 怒る箒の向こうにはシャルロットの話をすぐに放棄した凰が、さっきまでシャル本人が座っていた席に移動して、目を輝かせながら俺の太腿に手を乗せてきた。

 

「いーじゃないっ! どこ行くの? ラウ◯ドワン? S◯G◯? ル◯ネ? ベ◯クォーター?」

 

「……織斑さん。日曜日はわたくしと訓練ではありませんでしたの?」

 

「それが終わったら、だ。たまには外の飯が食いたい」

 

「あら! でしたら、この前都心にパスタの美味しいお店を見つけましたの! 一人では入り辛いお店ですので、ご一緒しません?」

 

「なんでセシリアまでついて来ようとしているのだ!!」

 

「パスタか……なら、マナーの悪い鈴は連れていけないな」

 

「なんでよー!」

 

「スパゲッティ豪快にすするヤツなんか連れて行けるか! ラーメンじゃねぇんだよ!」

 

「わーん! 一夏がいじめるー!」

 

 嘘泣きで泣きじゃくる鈴を無視し、俺は頭の中で日曜の予定を組んでいった。

 ちなみに、日曜日は早朝から箒と剣道の朝練がある。午前中は山田先生がいるから補習を受けて、昼飯の後にセシリアと訓練。夕方から箒の剣道をやって、それから外出になるだろう。せいぜい買い物して飯食うだけで終わってしまうな。これからシャルロットやラウラと関わる事になると、自分のスケジュールがカツカツになる事間違いなしだ。

 

「とにかく、どこ行きたいか決めとけよ。じゃ〜な」

 

「む、もう行くのか?」

 

「シャルルと闘って疲れたからねみーんだよ」

 

「そ、そうか……行き先は明日までには決めておく」

 

「急がなくていーよ。おやすみ箒」

 

「あ、あぁ……おやすみ。一夏♪」

 

「あっ、一夏! 後で部屋遊びに行っていい?」

 

「シャルルの荷解き手伝うか?」

 

「おやすみ一夏〜♪」

 

「あら、逃げましたわ」

 

 箒達や仲の良いクラスメイト達に手を振り、俺も食堂を後にした。

 部屋へ帰ると、土間にはシャルロットの靴がある。その奥からはシャワーの音がしていた。

 俺は開けたドアをゆっくりと閉じて物音を立てずに靴を脱ぎ、忍び足でシャワー室に繋がる脱衣所に迫ると、そのドアをこれまたゆっくりと開けた。

 明るい脱衣所のすぐ目の前、湯気でぼかしの入ったガラス戸の向こうでシャルロットがシャワーを浴びている。見えているのは背中側だろう、俺の姿には気づいていない。

 俺はそんなシャルロットを確認すると、すぐそばに置かれていた洗濯物入れに使うカゴの中からついさっきまで彼女が履いていただろう、女物の下着をつまみ上げた。

 レースの編み込まれた淡黄色のパンティ。シミが目立たなそうな色合いだ。とりあえず適当に引っ張り、指先でクルクル回してみる。数秒で飽きてカゴに戻し、俺はそろりと脱衣所を出た。

 悪ふざけは終わりにして、俺は考える。フランスは簡単にバレるに決まっているシャルロットをどうしてわざわざ男装してIS学園へ送りつけてきたのだろうか。彼女ぐらいの美貌があるならハニートラップの方が手っ取り早いハズだ。一夏にハニトラが効くかどうかはまた別の疑問だが。

 フランスの考えた事は理解に苦しむが、確かシャルロット自身はこんな運命を望んではいなかったはずだ。探るにはデュノア社の内部事情とシャルロットの家系を調べるしかないが、俺自身には手段がない。

 

 さて、どうしたものか……

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