泥とカビに塗れたこの惑星では今日も血の気が引くほど恐ろしい戦争が繰り返されていた
多くの者の命が呆気なく失われる
しかし銀河帝国第224機甲師団は仲間が斃れようと進み続ける
皇帝陛下と銀河のために
今誰も知らない銀河のこぼれ話をここに書き記す
これはあるこぼれ話だ。
なんて事ない、史実やこの世界にはなんの影響もないただのこぼれ話。
その話は何にも干渉せず何にも左右される事ない一つの挿話。
ある辺境での惑星の小さく激化した戦いの一端だ。
そんな話を私は書き記したいと思っている。
そんなこぼれ話でもこれは少なからず銀河史の一端であるからだ。
私はかつて私が聞いたこの話を今書き記す。
名も無きトルーパーの勇戦記録を。
地獄の戦場
ーミンバンー
この辺境の地はここ何十年も争いに見舞われた。
それは何故か。
この地に眠るある特殊な鉱石を得る為さまざまな会社や国家が手を伸ばしたからである。
本来辺境の湿地であるこの地は利権と利益を求める者達の魔の手により一挙に先住民との泥沼の戦場となった。
それは“銀河共和国”という味方が“銀河帝国”という強敵に変わっても同じだった。
この地に住む原住民[ミンバニーズ]は絶対に明け渡すはずがない。
彼らは最後まで戦うのだ。
当然帝国はそんなことが許容されるはずもなくこの地に多くの兵士を送りミンバニーズの抵抗に“それ相応の態度”であたった。
だが補給線の低下やこの地の厳しい環境により当の帝国軍も苦戦を強いられていた。
泥沼と化したこの戦いは当分終結の見通しが付かなかった。
そしてこの戦いはまだ続き…
爆発の光と轟音が鼓膜と視覚の全てを奪い去る。
一瞬のうちに眩い光が数名の兵士を巻き込みその命を散らした。
土煙が吹き上がり暗く暗黒に満ちたこの地をさらに黒くする。
塹壕には大勢の兵士が必死に己の持つ銃器で敵を応戦していた。
その背後では負傷し呻き声を上げる兵士達が横たわっている。
必死に走っている彼も塹壕に飛び込んだ。
「腕がぁ!!腕がぁ!!」
「誰か助けてくれ!!」
「誰かこっちに弾を寄越してくれ!!」
「ウォーカーの支援はまだなのかよ!!」
兵士たちが乱暴な言葉遣いでどうにもならない状況を叫ぶ。
塹壕に飛び込んだ彼は必死にブラスター・ライフルで敵の影を狙撃するだけだが叫ぶ仲間達の思いが痛いほど分かった。
すると流れ弾の一発が不幸にも塹壕の中に直撃し近くにいた数名が一気に吹き飛んだ。
今までにない程至近距離で感じた轟音と爆風が彼の心を完全に折った。
このままでは死んでしまうと思った彼は狙撃を止め塹壕の中で縮こまった。
身を小さくし恐怖で震える。
他の兵士は戦うか痛みに悶えるかのどちらかだったが今の彼にはそんな状況は見えてこなかった。
何発も何発も宙を舞うミサイルの光が彼の目に焼き付き何度もあの恐怖を引き起こさせる。
もう彼に戦う勇気とそれを耐える心は残されていなかった。
恐怖の中でもわずかに残った聴覚が足をとを聞き取った。
ぼやける視覚も徐々に足跡の人物を捉え始めた。
とは言っても彼ら[スワンプ・トルーパー]、別名[マッドトルーパー]はこのミンバンの“カビ混じりの空気”から肺を守る為ヘルメットとマスクを着用する必要があった。
その為ぱっと見他人との区別がまるで付かない。
「おい!!おいしっかりしろ!!」
恐怖で固まる彼にそのスワンプ・トルーパーは声を掛ける。
肩を揺さぶりヘルメット越しから頭を叩いた。
「しっかりしろアホ!!んな所で固まってたら死ぬぞ!!」
「………」
「どうしたんだよ!頭でも打ったのか?とにかく前に進むぞ!!」
彼はマスクを取り素顔を見せた。
いくら空気中にカビの胞子が舞っているからと言って多少は吸っても問題はないし肺を後で洗浄すれば健康でいられる。
「俺だよ俺!![ロスク・セルヴァス]だよ!!忘れちまったか!!」
ロスクの名前を聞いた瞬間意識を失っていたかのように無反応だった彼は意識を戻した。
よほど衝撃が大きかったのか恐怖心も少しは吹き飛んだようだ。
「こんな所でボサついてたらどのみち死ぬ!!とにかく突撃だ!!」
「でっでもウォーカーがないんじゃ!!」
「転がってるの使えばいいだろ!!」
無茶苦茶を言うロスクは彼の腕を掴むと無理矢理戦場に出した。
もうここまで来ては恐怖心もどうでも良くなる。
ブラスター・ライフルを構え現れるミンバニーズに手当たり次第ぶっ放す。
仮に民間人であってもこんなの所にひょこひょこ出てくるのが悪いのだ。
やけくそながらも彼が放った一撃は正確で一人ずつミンバニーズを撃ち倒す。
ロスクが前に出て他の兵士に扇動する。
「行くぞみんな!!帝国のために前進しろ!!」
2人の勇気に感化されたスワンプ・トルーパー達が一斉に塹壕から飛び出す。
砲撃を掻い潜り2人は近くに倒れている[全地形対応防衛タレット/AT-DT]を見つけた。
足が攻撃で抉れもう立つことはでき無さそうだがまだ辛うじてシステムは生きている。
「あったぞこれだ!!」
ロスクは機体に飛び付きコックピットをまで攀じ登る。
そこには流れ弾を喰らって操縦桿を握りながら死んだパイロットの姿があった。
遅れ遊ばせながらAT-DTに登った彼はその姿を目撃し絶句する。
死後硬直で体は完全にコックピットから離れないが魂は抜け出て血が滴っている。
「すまねぇ、帝国の為だ…悪く思うなよ…!」
険しい表情を作りながら死んだパイロットの手を操縦桿から引き離し彼を墓標から蹴落とす。
その様子を苦々しい表情で彼は見守っていた。
「坊主、俺が見張っとくからお前がぶっ放せ、できるな?」
「えっああ!!」
操縦席を交代し彼は操縦桿を握り締めた。
先程のパイロットの為にも自分が成功させねば。
AT-DTの上でブラスター・ライフルを放つロスクを傍に彼はAT-DTの引き金を引く。
重く硬い引き金だったがその分放たれたタレットのブラスター砲は敵の一軍を吹き飛ばした。
大きく飛んだミンバニーズ達が地面に叩きつけられ動かなくなる。
あれをもろに食らった敵兵がいたら下半身が消し飛びその大地に上半身を曝け出していただろう。
思った以上の轟音で震えたロスクだったが吹き飛んだ敵兵を見て表情が一気に歓喜に変わった。
「いいぞ!!もっとやれ!!ぶっ放せ!!」
彼もヘルメットの先で笑みが浮き上がり再び角度を変えてブラスター砲を放つ。
前進するミンバニーズがまた地面に斃れる。
それを見た他のスワンプ・トルーパーから歓声が上がった。
すると上空から轟音と悲鳴のような声が聞こえる。
2人は灰に染まった空を見上げた。
そこには数十機の[TIE/In制宙スターファイター]と[Y-45装甲トランスポート運搬船/ATホーラー]が現れた。
3機のATホーラーがそれぞれ2機ずつAT-DTを地上に降下させた。
AT-DTが次々とミンバニーズを蹂躙して行く。
空中を駆けるTIEファイターの爆撃も降下抜群で先程よりもミサイルの遠距離攻撃が減った気がする。
安全が確保出来たのかAT-DTの背後に2機の[センチネル級着陸船]が降り立つ。
「おい見ろ!!増援だ!!これで巻き返せる!」
2人は壊れたAT-DTから降り部隊に合流する。
AT-DTや増援のトルーパー達の力もあって流れが変わった。
物量の波に押し潰されたミンバニーズ達が戦線を徐々に後退させていく。
逆に流れに乗った帝国軍[第224機甲師団]は一歩、また一歩と前進を開始する。
2人もその流れに乗り遅れぬよう必死に続いた。
「第三、第五分隊は戦線を確保!!第二小隊は全員でそのまま前進!!」
スワンプ・トルーパーが着ているアーマーを見に纏い軍用コートと帽子に包まれた将校がブラスター・ピストルを放ちながら命令を出す。
2人はその将校に近づき彼の脇を固めた。
「大尉!!」
ロスクの声に気づいた将校が顔を向ける。
「ロスク伍長か!話は塹壕で、そこのひよっこもこい!!」
「はっはい!!」
将校に呼ばれた彼は銃弾を掻い潜りロスクの後に続いて敵が使用していた塹壕に突入する。
他のスワンプ・トルーパーや[多湿気候装備ストームトルーパー]、別名[ミンバン・ストームトルーパー]が塹壕の中でブラスター・ライフルで応戦している。
その将校[クロップ・ヴィルヴァーツ]大尉は塹壕に背を下ろし背後の丘を見つめる。
「あれだけの火力、おいバイノキュラー寄越せ!」
近くのミンバン・ストームトルーパーからエレクトロバイノキュラーを受け取ると丘の上を覗き込む。
ロスクもブラスター・ライフルのスコープで同じように覗いた。
「ミサイルタレットに旧共和国の重砲…厄介だな、丘を登るにも火力が少なさ過ぎる」
バイノキュラーを返すと大尉は頭を捻った。
現在の兵力では到底突破は不可能だ。
ウォーカーはまず6台しかないし爆撃を行うTIEファイターも些か数が少な過ぎる。
「クッソ!!あのクソモフめ!!安全な所でぬくぬくしやがって!!もっと物資を寄越せってんだ!!」
「落ち着けロスク伍長、今更モフエサダの悪口を言っても仕方あるまい、それよりも軍曹はどうした?」
ロスクを宥める大尉は彼に部隊長の事を聞いた。
「ちょっと前の突撃ん時砲弾が飛んできて一瞬で部隊の半数と共におじゃんですよ、今んところ生き残ってるのは俺とこいつだけです」
クロップ大尉はロスク伍長からその話を聞いて心を痛める。
だがすぐ気を取り直し彼に問う。
「さっきのAT-DTを動かしたのはどっちだ?」
「こっちの坊主です、思ったよりもいい射撃ですよ」
「そうか…」
大尉は何かを考え近くにいたトルーパーに合図を出す。
「誘導弾は後何発残ってる?」
「一発だけです」
「多分十分だ」
クロップ大尉はトルーパーから弾丸とバズーカを受け取ると装填し彼に渡す。
「いいかひよっこ、こいつは誘導弾だからある程度狙いを定めればぶち当たる、あそこの高台から一つでもいいから重砲を潰せ」
「でっでも…」
「こいつは上官命令だ!さあ行けひよっこ!!」
大尉は彼を押し出し高台に向かわせる。
彼は2人が心残りだったようだがそれでも高台に向かってロケット弾を抱き抱えながら走った。
2人はそれを見送ると意気揚々とその重火力を披露する重砲群を睨みつける。
「坊主が一つ潰すとして残りはどうするんです?」
「何個かは俺たちが頂く、一個は俺が潰す」
[サーマルデトネーター]をお手玉のように転がす大尉を見てロスクはニヤリと笑う。
『大尉殿!!高台に着きました!!』
「よしぶっぱなて!!」
その命令を聞いた彼は重いロケット弾を構えスコープを除く。
バツ印が重砲に重なりモニタータイプのスコープがロックオンを確認した青色になる。
そのまま彼は引き金を引いた。
なかなかの反動だったが彼も兵士だ。
多少は体を鍛えている。
放たれた弾丸は重砲に直撃し大爆発を起こした。
ちょうど弾丸装填中という理由もあってか[プロトン魚雷]に爆散した破片が突き刺さり連鎖反応を起こす。
プロトン魚雷の束が爆発しその近くの銃砲も巻き込む。
2つの重砲が失われた事により敵の防衛線に大きな穴が空いた。
それを見逃すほど大尉達は甘くない。
「ひよっこの野郎…思ってたよりやるな」
「だから言ったでしょう、腕はいいって」
「ハハハ、よし全員突撃だ!!」
クロップ大尉の合図と共にスワンプ・トルーパーやミンバン・ストームトルーパー達が大きな掛け声と共に突撃する。
重砲を失い大混乱のミンバニーズ達は突撃してくる帝国軍を見て思わず怖気付いた。
その恐怖が彼らの運命を左右した。
クロップ大尉のブラスター・ピストルの早撃ちに敗れ1人のミンバニーズが斃れた。
他の仲間が気付く頃にはすでにクロップ大尉はサーマルデトネーターを重砲に投げ付けていた。
近くに落下したデトネーターが時間差で一気に爆発する。
重砲がまた一つ失われた。
逆にロスクが率いる他の兵士達は残った重砲を乗っ取り逆にミンバニーズ達を追い詰めた。
「オラオラどうだ!!一方的にやられる気持ちは!!」
高らかな笑い声と共にスイッチを押し魚雷を発射する。
放たれた魚雷はAT-DTと同じように多くのミンバニーズを吹き飛ばし逃げ惑う彼らを蹂躙する。
すると再びATホーラーが3機地上にAT-DTを降下させた。
丘が制圧され安全が確保されたからだろう。
すかさず大尉は全軍に命令を出す。
「全員撤退する敵を追撃せよ!!」
逃げ惑うミンバニーズに乱暴なスワンプ・トルーパー達がブラスターの弾丸を当てる。
重火器を殆ど失った彼らはもうどうすることも出来ない。
つまり丘の制圧はこの周辺での帝国の勝利を意味していた。
砲撃支援が不可能になりミンバニーズは帝国に対抗する術が大幅に失われたのだ。
ロケット弾を放った彼の戦列に加わり大尉もの元へ戻る。
「小僧か!!よくやった!!だがまだ仕事は終わりじゃない、連中を掃討するぞ!!」
そこには先程まで塹壕で震え恐怖に悶えていた兵士はいなかった。
己の力量を活かして反抗勢力の戦力を仕留める一人前の兵士の姿だった。
ロスクも負けじと重砲で敵を応戦する。
もうこの地の勝利は揺るぎなかった。
掃討戦が終了し辺りは静けさを取り戻した。
まだ耳をすませば銃声や断末魔の叫びが聞こえて来るがもう彼らには慣れっこだった。
ある者は今日の戦いを生き延びた事を喜んで。
またある者は明日の死を恐れて。
ある者は今日の戦果を誇りにし帝国軍の為に命を捧げていた。
AT-DTの歩行音があちこちから聞こえる。
それはこの地の完全的な制圧を意味していた。
愚か者には恐怖と死を。
上官から教わった言葉だ。
この地では特にそれが色濃く出ていた。
若きスワンプ・トルーパーの彼は偵察を終了し仮拠点となっている丘へと戻った。
丘を見上げるとセンチネル級が一隻着陸していた。
何やら大尉が話をしている。
「よくやった大尉、この地の勝利がいずれミンバン全体の勝利へと繋がるだろう」
「はい[ゾデル]中佐、ここからなら砲撃機を使えば狙撃が可能です」
「ああ、連中の戦力は大幅に低下した、本当にいい働きだったぞ大尉」
彼がブラスター・ライフルを下ろしながら丘を登るとクロップ大尉がそれに気付き彼を中佐に報告した。
「ですが今回の勝利は私の手柄ではありません、このひよっこが重砲を2台も潰してくれたおかげです」
大尉は彼を引っ張り彼の手柄を中佐に大々的に報告した。
ゾデル中佐は感心する様に彼を眺め敬意を表し敬礼した。
「私が第224機甲師団の指揮官であるゾデル中佐だ、君の活躍は凄まじいようだな」
「いっいえそんなことは!!」
「遠慮すんなよ、丘を堕とせたのはお前のおかげさ」
ロスクが彼をサポートする。
「いずれ働きに見合った階級が与えられるであろう、若きトルーパーよ、今後も帝国の為によろしく頼むぞ」
ゾデル中佐は彼の肩を叩き励ました。
若い彼は素直に能力が評価された事を嬉しく思い笑みを浮かべた。
「はっはい!!全力を尽くします!!」
その大きな声がゾデル中佐の口角を少しばかり上げていたのだが彼は気づいていなかった。
最後に
この不毛の地ミンバンでの戦いはまだ終わらない。
それにこの後彼がどうなったのかも私は知らない。
この地では昨日活躍した者が明日には死ぬなどよくある話だからだ。
だが一つ言えることはこの地にはこういう若者が毎日帝国の為に命を捧げていたという事だろう。
私が聞き書き記せるのはこれまでだ。
それではまたいつの日か。
おわり